インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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EXep.2 『消された街』の『消された少年』

side???

 

 

 

運命というものは残酷だ。

 

俺達が用意をする暇も与えずに、唐突に俺達に試練を与えてくる。

 

俺達が泣き叫び、助けを求めても、それを嘲笑うかのように次の試練を与えてくる。

 

もしもこの世界に神がいるのなら・・・。

 

 

 

 

 

そいつは神の皮を被った悪魔なのだろう。

 

 

 

 

 

その日もいつもと変わらない、良く晴れた日だった。

 

俺はいつものように起き、いつものように朝食を食べ、いつものように学校に行っていた。その時の俺は、ただひたすら同じような日々が続く事に退屈していた。退屈を吹き飛ばす非日常を求めていたのだ。

 

 

 

・・・その時の俺は知らなかった。ただひたすらに同じような事が続く日常が、何よりも大切であるという事を。

 

 

 

???「切り込み隊長でダイレクトアタック!」

 

???「トラップ発動!魔法の筒(マジック・シリンダー)!攻撃を無効にし、その分のダメージをお前に与える!」

 

???「何!?」

 

???「また俺の勝ちだな、ユート」

 

ユート「また俺の負けか。やっぱり強いな、隼は」

 

隼「俺が強いんじゃない、お前が弱いんだユート」

 

ユート「五月蝿い。大体隼はトラップを多用し過ぎだ。もう少しモンスターやマジックを使え」

 

隼「確かに俺のデッキはトラップが主体ではあるが、別にモンスターやマジックを使わないわけではない。それにこれは立派な戦略だ。お前にとやかく言われる筋合いは無い。そもそも俺のRR(レイド・ラプターズ)はトラップありきのテーマだ」

 

ユート「大体、なんでそんなテーマを使ってるんだ?融合モンスターも無い、高い攻撃力も無い、トラップ頼りになるっていう、サイコショッカーとか出されたら負けの弱テーマだろ?」

 

隼「弱テーマとか言うな!?」

 

その日も俺は親友のユートとデュエルをしていた。ユートが言う通り、俺が使う『RR(レイド・ラプターズ)』は融合モンスターも、上級モンスターも居ない、弱いテーマに入る。それでも俺はこのテーマを気に入っていた。この機械的な姿もそうだが、何より・・・

 

隼「これは瑠璃が描いたテーマだ!弱テーマなどとまた言ってみろ!いくら親友のお前でも容赦はしない!」

 

これは俺の妹、瑠璃が描いたイラストがカード化したものなのだ。

 

昔から絵を描くのが好きだった瑠璃は、色々なコンテストに応募していた。このテーマもその一つで、コンテスト一位のイラストをそのままカードにするというもので見事一位を獲得したのだ。それ以来俺はこのテーマの新規カードが出る度にカードを集め、デッキを作っている。

 

ユート「悪かった、済まない隼。そういえばそれ瑠璃のイラストだったな」

 

隼「ああ、そうだ。だがそろそろ融合モンスターや上級モンスターが欲しい所だな。よしユート、今からカードショップに行くぞ」

 

ユート「ちょっと待て!?今から授業が始まるんだぞ!?サボる気か!?」

 

隼「デュエリストが最優先にするのはデュエルだ!授業なんて二の次だ!」

 

ユート「おい待て!?・・・クソッ!何で俺の親友はこうも話を聞かないんだ!?」

 

そうして俺達はいつものように授業を抜け出した。

 

 

 

 

 

今思えば、この行動が俺達の生死を分けたのだろう。

 

 

 

 

 

隼「何だ、結局ユートも来たんじゃないか」

 

ユート「誰のせいだと思っている!」

 

俺達は並んで歩きながらカードショップへと向かっていた。ユートは最初こそ俺を連れ戻そうとしていたが、もう諦めたらしく、授業をサボる事にしたらしい。

 

ユート「そういえば、この前ニュースでやっていた宇宙開発の為のマルチフォームスーツとかいうのは、結局どうなったんだろうな?」

 

隼「ああ、インフィニット・ストラトスの事か。確か子供の戯言だとかで、突っぱねられたと聞いたが」

 

少し前、まだ高校生である『篠ノ之束』が、宇宙開発の為に開発したというものについてニュースで報道された。ただの一学生が一人で作りあげたとされるその機体は、とても精巧に出来ていて、柄にもなく興奮してしまったのを覚えている。

 

ユート「そうなのか。だが凄いな、アニメにしか無かったものが現実で作られるなんて」

 

隼「それについては同感だ。全ての人が自由に宇宙にいけるようになるのも、時間の問題なのかもしれないな」

 

ユート「そうなれば、宇宙でデュエルする事も出来るかもな」

 

隼「フッ、そうだな」

 

確かに、そんな未来もあるかもしれない。現に、デュエル用のバイクが開発されつつあると言う。デュエルは日々進化している。だからこそデュエルは俺達デュエリストにとって最高のショーだった。

 

 

 

この時までは。

 

 

 

ユート「ん?隼、あれは何だ?」

 

遥か上空から何かが、俺達の上から落ちてきた。それは少しづつ大きくなって、着実に俺達に向かってきた。

 

隼「っ!?伏せろユート!?」

 

俺がユートにそう言った直後、途轍もない衝撃が俺達に襲いかかり、俺達は意識を失った。

 

 

 

隼「ぐっ・・・!何が起きた・・・!」

 

それから暫くして、意識を取り戻した俺が見たのは信じ難い光景だった。

 

隼「何だ・・・、何なんだこれは!?」

 

街が燃えていた。至る所で火の手が上がり、そこかしこから悲鳴が聞こえて来る。

 

隼「一体何が・・・!?ユートは!?」

 

先程まで一緒に居た親友の姿を探す。幸いな事に、意識こそ失っているが大した怪我は負っていない。

 

隼「ユート!起きろユート!」

 

ユート「うっ・・・!隼か、一体何が?」

 

隼「そんな事俺にもわからん!急いで瑠璃達と合流する必要がある、行くぞ!」

 

ユート「隼、お前何言って・・・!?これは!?」

 

朦朧としていた意識がはっきりしてきたらしく、辺りの惨劇を理解したユートは驚愕の表情を浮かべた。

 

隼「驚いている暇は無い!俺は一旦家へ戻る。後で合流するぞ!」

 

ユート「ああ!俺も家に戻る、公園で合流しよう!」

 

そうして俺達は家族の安否を確かめる為に別れた。

 

俺は瑠璃達の安否を確かめる為に全速力で駆け抜けた。俺がいつも見てきた見慣れた街並みは、血と炎と悲鳴で溢れかえった地獄へと変化を遂げていた。

 

隼「父さん、母さん、瑠璃、無事でいてくれ!」

 

俺はただひたすらに走り抜け、瑠璃達がいる筈の家に辿り着いた。

 

隼「父さん!母さん!瑠璃!居たら返事をしてくれ!」

 

瑠璃「兄さん!」

 

隼「っ!?瑠璃!瑠璃か!?」

 

炎に包まれた家から、瑠璃が出てきた。良かった、大した怪我も無い。

 

隼「瑠璃!大丈夫か!?父さんと母さんは!?」

 

瑠璃「私は大丈夫!でも父さんと母さんが!?」

 

隼「っ!?どうした瑠璃!父さんと母さんに何か有ったのか!?」

 

涙を流す瑠璃を見て、俺はどうしようも無く嫌な予感を感じていた。

 

瑠璃「父さんと母さんが、爆風から私を庇って・・・!」

 

隼「なっ!?」

 

そこから先は聞かなくても分かった。父さんと母さんは、瑠璃を庇って命を落としたのだ。

 

隼「っ・・・!そうか、分かった。行くぞ瑠璃。ユートと合流しようという話になっている」

 

溢れそうになった涙を必死に堪え、泣きじゃくる瑠璃の手を引いて走り出した。

 

 

 

隼「ユート!!」

 

ユート「隼!瑠璃も!無事ったのか!」

 

公園にはユートが先に着いていた。俺達の他にも多くの人が公園にいて、怪我人の手当てや救助活動をしていた。

 

ユート「隼、お前の両親は?」

 

隼「・・・死んだ。お前の方は?」

 

ユート「・・・俺の方も同じだ。生き残っていたのは俺だけだった」

 

隼「・・・そうか」

 

瑠璃が生きているだけ俺はマシだった。親友は、ユートは一人になってしまったのだから。

 

隼「一体何が起きたんだ?」

 

ユート「微かにラジオで聞き取れた事だが、何者かが各国にハッキングをして、日本に向けて数百発のミサイルが発射されたらしい。あの時落ちてきたのは恐らくそれだろう」

 

隼「そうか・・・!一体誰がそんな事を・・・!」

 

ユート「分からない。だが今俺達がやるべき事は犯人探しではない!行くぞ隼、生存者を探すぞ!」

 

隼「あ、ああ。分かった!」

 

こうして俺達は生存者の捜索を続けたが一向に見つからず、一夜にしておよそ千人もの人間が命を失った。

 

 

 

その後、両親を亡くした俺達はマーサと言う女性が経営する孤児院に引き取られた。そしてそこでニュースを見た時、俺は自分の目が信じられなかった。

 

隼「これは・・・!?」

 

世界各国から発射されたミサイルを撃ち払い、捕獲しにやってきた各国の軍隊を壊滅させた『白騎士』と呼ばれるISにちなんでつけられたという『白騎士事件』。その記事には白騎士が『全て』のミサイルを撃ち落としたと書いてあり、俺達の街の惨劇についてを一切話さなかった。更には

 

俺達の街は元より『存在しない』とされ、其処に住んでいた俺達の戸籍は何処にも無かった。

 

ユート「隼、これは・・・!?」

 

俺には分かった、いや分かってしまった。

 

俺達も、俺達の街も、『消された』のだ。白騎士がミサイルを全て撃ち落とし、一人の死人も出さなかったと報道すれば、白騎士は英雄視される。そうすれば、誰も反対せずにISを受け入れるだろう。だからこそ、ISを兵器として利用したい政府は白騎士の『汚点』に成り得る俺達の街の事件揉み消し、その存在を俺達ごと抹消したのだ。

 

隼「巫山戯るな・・・!こんな事が、許されていい筈が無い!」

 

こうして俺達は、この世界での『居場所』を失った。

 

 

 

その後、ISは世界に分配され、ISを操縦出来る女性が男性を蔑ろにする『女尊男卑』が世界中に蔓延った。

 

 

 

そしてそれは、存在を消された俺達にさらなる地獄を与えた。

 

 

 

それから暫くしたある日、俺達の居た孤児院が「女性権利団体」に襲撃された。俺達は必死に逃げ、助けを求めた。しかし奴等は、それを踏み躙り、笑いながら俺達の友を、俺達を育ててくれたマーサを殺していった。俺とユートは何とか逃げ切ったが、犠牲は大きかった。

 

仲間達が、瑠璃が奴等に攫われてしまったのだ。

 

 

 

隼「クソッ、クソオォォォ!!お前達は、お前達はぁ!?どうして俺達から全てを奪っていく!?俺達から居場所を奪ってただけでは足りなかったのか!!俺達が何をしたと言うんだ!?」

 

ユート「隼・・・・・・」

 

隼「殺してやる!絶対に殺してやる!!お前達が俺達に与えた苦しみを、倍以上にして返してやる!!」

 

ユート「待て隼!憎しみに囚われるな!瑠璃や皆は復讐なんて望んではいない!」

 

隼「ならこの怒りを何処にぶつけたらいい!?俺達の仲間を笑いながら殺して、今ものうのうと生きている彼奴らを、お前は許すというのか!?」

 

ユート「俺だって彼奴らの事は憎い!それでも殺してしまったら彼奴らと同じだ!どんなに辛くても、俺達は耐えなければいけないんだ!そうすれば、いつか必ず彼奴らには裁きが下る!」

 

隼「誰が裁く!?今の時代、女の彼奴らが何をしても罪に問われない!正義が悪を倒すのはテレビの中だけなんだ!だから俺は、悪に堕ちてでも彼奴らに復讐する!!」

 

ユート「隼・・・!」

 

隼「待っていろ!必ず・・・必ず貴様らを殲滅して、仲間を、瑠璃を奪い返す!!」

 

この日、俺は復讐者となった。




次回予告

ドン『箒達と引き離され、路地裏に逆戻りしたベクターは、その後ある一家に引き取られ、新たな生活を始める』
「何で俺が店の手伝いなんて・・・」
ドン『ぶつくさ言いながらも仕事をこなし、新しい生活に慣れ始めたベクター。そんな時また新たな悲劇がベクターに襲い掛かる』
次回、インフィニットバリアンズ
ep.8 第二回モンド・グロッソ
ドン『次回予告の順番は、我が書き換えたのだ』
ナッシュ「あの世に帰れ!」

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