インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.7 白騎士事件

side真月

 

 

 

あれ以降、俺は束に言った通り束がアレを作るのを止めてない。束を泣かせてしまったのが後ろめたかったというのも有るが、仮にあいつがアレを完成させた所で世界にどんな影響が出るかなど誰も分からないからだ。

 

あの時は兵器になると俺は言っていたが、結局の所モノの価値を決めるのは創造者ではなく、それを見た人間達なのだから。もしかしたら兵器になるかもしれないし、束の願い通り宇宙開発に使われるかもしれない。ひょっとしたらどちらでもない全く別の使われ方をするかもしれない。

 

だから俺は結果を待つ事にした。束がアレを完成させて、世界がそれに利用価値を見出す、それまで俺は何もしない。ただ、世界が束の望みを聞き入れてくれるならば、それが一番良い。そうなって欲しいと、俺も望んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その願いは、無惨にも踏み躪られてしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

俺が篠ノ之家に居候になって数年が経ち、箒が小学三年生になった時、遂に束がコアの開発に成功し、アレが完成に至った。俺と箒、そして一夏は、涙を流しながら喜ぶ束を、心から祝福した。

 

そして束は早速アレを発表した。結果は残念な事にガキの戯言だと受け取られ突っぱねられてしまったが。束は諦めなかった。寧ろ心に火が点いたらしく、次は認めさせてみせると意気込んでいた。その姿に、俺はいつも前向きで、どんな時でも決して諦めなかったアイツの姿を見た。

 

 

 

そんな暖かい日常は、ある日唐突に終わりを告げた。

 

 

 

その日、突如世界各国のセキュリティに同時にハッキングが施され、数百発ものミサイルが日本に発射された。

 

当然日本は大パニックに陥り、日本全土が阿鼻叫喚に包まれた。束もなんとかミサイルを止めようとしたが、既に発射されたミサイルは当然止まる事は無く、もはや束でもどうしようもなくなった時、あの女、織斑千冬がやって来た。どうやら束は親友だったこの女にもアレについて話していたらしく、自分がアレを使ってミサイルを全て撃ち落とすと言って来た。当然束は反対した。アレはあくまで、宇宙開発の為のものであり、兵器ではないと。

 

だが現状がそれを許さなかった。現段階でミサイルを何とかできるのは、束が開発したアレしか無かったからだ。

 

結果的に束が折れ、千冬は束が開発した機体『白騎士』に乗り、空へ飛び立った。

 

束が開発した白騎士が凄かったのか乗り手の千冬が凄いのかは分からないが、結果的にミサイルは全て撃墜した。日本は守られたのだ。

 

 

 

・・・ここで終わっていれば、まだ良かったのかもしれない。

 

 

 

突如として現れ、ミサイルを全て撃墜した白騎士を世界各国が見逃がす筈が無く、戦闘機や戦艦が白騎士を捕獲する為に日本へと近づいてきた。束はこれ以上の活動はアレの在り方を歪めてしまうと考え、撤退を促した。

 

だが千冬はそれを拒否した。あの女は近づいてきた戦艦と戦闘機を全て破壊して、各国の連合艦隊を壊滅させた。

 

これによってアレが既存の兵器を軽く上回る力を持つという点が強く注目され、その瞬間からインフィニット・ストラトス、いや《IS》は『兵器』となった。

 

 

 

それからの日々は束にとって正に『地獄』だった。

 

ISの兵器としての利用価値を知った日本政府は、掌を返したように束を賞賛し、束にコアを作るよう要求した。

 

ISの生みの親と言えども国家には逆らえず、束はコアの量産を余儀なくされたのだが、この時初めてISの最大の欠陥が判明した。

 

『ISは女性にしか動かせない』のだ。

 

これが判明した途端、政府はISを動かすことの出来る女性を支援する、『女性優遇法』を作った。

 

これによって女性が優遇され、次第にISを動かせる女性は『偉く』、男性は『劣っている』のだという風潮が生まれ、女性が男性を虐げる『女尊男卑』の思想が瞬く間に根付いていった。

 

そして束の発明したISの影響は、世界に及び、世界中が女尊男卑社会へと変貌した。

 

そして女尊男卑は、マジックアンドウィザーズにも影響した。元々男性のデュエリストが多かったこのゲームは男の文化とみなされ迫害を受け、一年も経たずに廃止に追い込まれた。その影響もあって、未来のデュエリストを育てる為のデュエルアカデミアも廃校になり、その上から新たに『IS学園』というIS操縦者の為の育成機関が作られた。

 

そしてその頃から『女性権利団体』と呼ばれる団体が各地に発生し、男性を奴隷のように扱った。その中でも特に過激な団体は多くの男性を理由も無く殺していった。

 

だが彼女達が裁かれる事は無かった。彼女達は正しい事をしたと世の女性が判断したのだ。

 

曰く、「男性は女性に劣るゴミだ」、「ゴミは掃除するものであり、自分達は正しい」、そんな頭のおかしい理屈が正しいと判断される世界になってしまったのだ。

 

 

 

ISの影響は、篠ノ之家にも来た。ISの生みの親である束の家族を政府が保護すると言いだしたのだ。これにより、箒や柳韻は離れ離れになり、篠ノ之姓でない俺は初めのように路上に捨てられた。

 

それでも俺や箒達は束を恨まなかった。こんな世界を彼女が望んだ訳では無い事を知っていたし、それよりも彼女が心配だったからだ。

 

箒達が『要人保護プログラム』によって各地へ移動する前日、ISが発表されてから姿を消していた束が帰って来た。

 

束は俺達に泣きながら謝罪をした。自分のせいでこんな事になってしまった、こんなもの私は望んでなかったと。そうして何度も何度も謝罪をした後、束は俺達の下を去っていった。その時の束のこの世の全てに絶望したような顔は、その場にいた全員の記憶に残っている。

 

 

 

そして四百六十七個目のコアを作った後、束は世界から姿を消した。

 

 

 

ISは、文字通り世界を変えてしまったのだ。




次回予告

炎に包まれる街、人々の悲鳴、それらは唐突に訪れた。
少年は仲間を、家族を失い、怒りに震える。
「絶対に、赦さない・・・!」
これは白騎士事件の裏で起きた、『消された少年』の物語。

次回、インフィニットバリアンズ
EXep.2 『消された街』の『消された少年』
「待っていろ、必ず貴様らを殲滅して、仲間を、大切な家族を奪い返す!」

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