side真月
あの後箒や織斑兄弟と一緒に剣道を練習したのだが、千冬の言う通り、確かに秋介には才能が有る。剣道をやったのはこれが初めての筈なのに、軽々と竹刀を振り、二時間後には、千冬以外の門下生全員を打ち負かしてしまった。
これには流石の俺も面食らった。柳韻さんの方も顔にこそ出していないがとても驚いている。
一方の一夏の方も結構筋が良い。始めこそ竹刀を振るのに四苦八苦してたが、段々と良い動きになっている。しかし、姉の千冬はそうは思っていないらしく、私の弟ならばこれくらい出来て当然、秋介を見習えと一夏を叱責していた。そして秋介が叱られた一夏を励ましている時に、俺は秋介と千冬が一夏を見る目に侮蔑の感情が含まれているのを感じた。
・・・大体分かった。コイツらは一夏を嫌っている。
自分達と同じように出来ない一夏を落ちこぼれと見なし、蔑んでいるのだ。
正直言って気分が悪い。人にはそれぞれ向き不向きがあり、いくら姉弟だからといって何でも同じように出来るとは限らないのだ。それに一夏は今日が初めてで、上手く出来ないのは当然だ。寧ろ初めての筈の秋介が出来過ぎているのだ。
箒も同じように思っているらしく、元々不機嫌そうだった顔が更に不機嫌になっている。
ちなみに俺は『間抜けな門下生真月零』を演じていたため、割と酷い出来だった。竹刀をすっぽ抜かして秋介の顔面に当てたり、転んだ拍子に秋介の足を掴んで転ばしてしまったりと、色々とやらかした。
稽古が終わって、集まった門下生が帰っていった後、道場の裏の方が騒がしかったので、少し様子を見に行ってみると、秋介が一夏を殴っていた。
秋介「全く、何であんな事も出来ないんだよ?僕や千冬姉さんが出来るんだから、お前に出来ない筈が無いだろ?」
一夏「やっ、やめ」
秋介「やめる訳無いだろこの出来損ないが!」
一夏が何か言おうとする側から秋介は一夏を殴っていく。傷が見えにくい腹を中心に、何度も何度も。
秋介「お前みたいなのがいるから父さんも母さんも僕や千冬姉さんを置いていったんだよ!僕や千冬姉さんの顔に泥を塗るだけの屑が!」
どうやら千冬達には両親がいないらしい。あいつらの両親があいつらを置いてどっか行ったのは千冬や秋介の性格の歪みのせいだと考える方が納得がいくのは俺だけか?
秋介「全く、お前みたいなやつが居ると僕や千冬姉さんの評価まで下がる。どうして生まれてきたんだい?この出来損ない」
『如何してわしから平和の象徴などという出来損ないが生まれてきたのだ!』
真月「っ!?」
あいつの言葉を聞いた途端、昔親父に言われた言葉を不意に思い出した。頭の中にあの時の光景がフラッシュバックする。俺に向かってそう言った後、アイツは俺に向かって斬りかかってきて、そして・・・
『愛してますよ、ベクター』
真月「っっ!?」
最悪だ。秋介の奴のせいで思い出したくもない記憶をまた思い出しちまった。どうやら俺が昔の事を思い出している間に秋介は何処かへ行ったらしく、その場には傷だらけの一夏が残されていた。取り敢えず俺は一夏の所に近寄り、手当てをする事にした。
真月「おい、大丈夫か?」
一夏「ん?ああ真月君、大丈夫、いつもの事だから」
傷だらけの体で俺に笑いかける一夏。その表情からは諦めている様子が伺える。
真月「大丈夫な訳ねぇだろボケが。ちょっと待ってろ。手当てしてやる」
そう言って俺は一夏を担ぎ上げた。
真月「辛抱しろよ、束の所にでも連れてってやる」
一夏「あ、ありがとう・・・。何か、練習してた時と雰囲気が違うね」
真月「こっちが素だよ。アレは敵作んないためにやってるだけだ」
一夏「そうなんだ。俺は今の真月君の方が、生き生きしてて好きだけどなぁ」
真月「気持ち悪い事言うな。ほれ、もうすぐ着くぞ」
そうして束の所まで一夏を運び、事情を話した。
束「成る程ね。アイツ、見かけだけのクズだったんだ」
箒「クソッ!私がもっとしっかりしていれば・・・!」
丁度箒もその場に居たので二人に秋介について話した所、二人共似たような反応をした。
束「こうなったらちーちゃんに説明して・・・!」
真月「無駄だと思うぜ。柳韻さんが気づくくらい露骨にやってるんだ、間違いなく千冬もグルだ」
束「そんな・・・!?」
箒「ならば父さんに話してみるというのはどうだ!」
真月「してどうする?下手に注意したら今以上に一夏が危険だ」
箒「ならどうすればいいんだ!?」
真月「なるべく一夏を一人で行動させないようにしたら良いんじゃないか?」
束「今はそうするしか無いね・・・」
一夏の怪我はある程度は治療出来た。しかしそれは体の話で、度重なる暴力によってコイツが負った心の傷はすぐには直せない。それを直すにはコイツを取り囲む環境をどうにかして変えなければならない。
一夏「その、みんなは何で俺なんかの為にそこまでしてくれるんですか?」
『俺なんか』、こんな言葉を言うくらいコイツは傷ついている。それに対して何も出来ない自分の無力さが、俺は途轍もなく憎かった。
束「それはね、私達が君の味方になってあげたいって思っているからだよ」
そう束が言った途端、一夏は泣き出した。
一夏「うっ、くっ、あああぁぁ!」
今まで溜め込んでいたものが束の一言で出てきたんだろう。一目を憚らずに泣く一夏を、束は目に涙を浮かべながら抱きしめた。
束「そうだ!今から三人に私の開発してるマシンを見せてあげるよ!」
一夏がひとしきり泣いて大人しくなった後、束は俺達にそう言った。
真月「マシン?そんなモン作ってたのか」
箒「どうせまたロクでも無いものでしょう?」
束「箒ちゃん辛辣過ぎィ!?」
箒「事実でしょう。毎度毎度夜更かししてロクでも無いもの作って、それで色々やらかして父さんに叱られているじゃないですか」
束「ふっふっふ、そう言ってられるのも今のうちだよ箒ちゃん!さあ、そうと決まれば早速私の研究室へゴー!」
そう言って束は俺達を、半ば強引に研究室まで連れて来た。
真月「で?お前の言うマシンって何だよ?」
束「今持って来るから待ってて!」
そう言って束は奥の方へ引っ込んでしまった。
一夏「あの、本当に俺も来て大丈夫なの?」
箒「気にするな。姉さんは基本的に人の話を聞かない。どうせお前が断ったって無理矢理連れてこられたさ」
一夏と箒が会話してると、束が何かでかい箱を持って戻ってきた。
束「おっまたせ〜!さあさあ、これこそが天才科学者束さんの世紀の大発明!インフィニット・ストラトスさ!」
そう言って束は箱を開けた。
そこに有ったのは奇妙なロボットだった。大体二メートルくらいの大きさで、コックピットが剥き出し。しかも頭が無いのだ。
真月「・・・随分と変わった形のロボットだな」
束「ノンノン!ロボットじゃあ無いよ!これは宇宙開発を目的とした次世代型マルチフォームスーツさ!」
箒「宇宙に行くならコックピットは剥き出しでない方が良いのでは?」
束「大丈夫!インフィニット・ストラトスにはシールドバリアと言う物があってね、それが宇宙服の代わりをしてくれるんだ。さらにこのシールドバリア、耐久力も中々のもので、宇宙にある小型の隕石なんかに当たっても機体にダメージが入らない!従来のロケット以上に頑丈なんだ!」
一夏「すごい・・・!」
箒「確かにコレは凄いですね。今までのガラクタは何だったんだと言いたいくらい凄いです」
束「でしょでしょ〜!・・・アレ?今さらっと馬鹿にされなかった!?」
真月「大型の隕石とかはどうすんだ?」
束「そういうのは機体につけた装備でドカーンだよ!さらにさらに〜!この機体には持ちきれない装備を粒子に変換してしまっておける機能もあるのだ〜!」
一夏「すごいすごい!アニメのロボットみたい!」
束「でしょ〜!・・・まあまだ未完成だけどね!」
束の言葉に一夏と箒は二人してずっこけた。
箒「こんだけ説明しといて完成してないんですか!」
束「あはは・・・、まだ動力源となるコアが完成してなくてね。シールドバリアに至ってはコアが出来て無いのでバリア張るエネルギーを生成できてない始末・・・」
真月「ダメダメじゃねぇか!」
束「いーじゃんドヤ顔で説明したって!一応コア以外は完成してるんだから!」
箒「まず動力源から作るべきでしょう!」
束「仕方無いじゃん!未知のエネルギーを作る動力源を他人の支援無しに一から作るんだから!」
束と箒の言い合いが面白かったのか、一夏が笑い出した。
一夏「あはは、でもすごいよ。一人でこんなもの作るなんて」
束「えっへん!まだ未完成だけど、何年掛かったって完成させるんだ!」
そう言った束の顔はキラキラと輝いていた。
一夏を送り届ける為に箒が織斑家に行った後、束と二人きりになったので、俺は二人が居て言い出せなかった事を言う事にした。
真月「おい束」
束「何だいれーくん?」
真月「悪い事は言わねぇ、コイツの開発を止めろ」
そう言った途端束は目に見えて不機嫌になった。
束「・・・何で?」
真月「確かにコイツは凄い。完成すりゃあ宇宙開発が大幅に進むだろう」
束「そうでしょ?ならなんでそんな事言うの?」
真月「コイツは宇宙開発よりも別の、兵器としての有用性が強過ぎる。例え発表したって、兵器として使われるのがオチだ」
束「そんな事無い!この子は、インフィニット・ストラトスはそんな事をする為のものじゃ無い!」
真月「宇宙空間で自由に活動できる程の機動力、小隕石の衝突をものともしない耐久力、大型の隕石を破壊できる圧倒的な攻撃力、こんなものを持ったものが兵器として使われない訳が無いだろ」
束「如何してそんな事がわかるのさ!」
真月「沢山の国に戦争仕掛けて、多くの人を殺した戦争好きの国の王子やってたんだぞ?コイツがどれくらい優れた兵器になるか、分からない訳が無い。今の国のトップ達だって、同じ事考えるだろうさ」
束「・・・それでも!止められる訳無いじゃん!宇宙に行くのは私の夢なんだもん!」
いつの間にか束は泣いていた。束を泣かせてしまった事が、俺の心を痛めつけるが、それでも言わなければならない。後悔してからでは遅いのだから。
真月「お前がそれでも止めないなら俺ももうとやかく言わない。だが、それが使い方次第で簡単に人を殺せる兵器に変わる事を、どうか忘れないで欲しい」
そう言って、俺は束の研究室を出ていった。
この時、このインフィニット・ストラトスが俺が考えていたよりも酷い変化を世界にもたらすのを、俺はまだ知らなかった。
次回予告
ナッシュ「束にインフィニット・ストラトスの危険性を忠告したベクター。しかし事態はベクターが危惧する事態を大きく上回っていた」
次回、インフィニットバリアンズ
ep.7 白騎士事件
バリアン一同『出番はよ!』
ナッシュ「うるせえぇぇぇぇ!?」