インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.46 シャルロット・デュノア

sideシャルル

 

 

 

シャルル(お、終わったあぁぁぁぁぁぁぁ!?)

 

終わった、完全に終わった。目の前の一夏は僕の胸を凝視して固まっている。これはどうやっても誤魔化せない。

 

シャルル(いや、落ち着くんだ僕!まだ手はある、何とかして誤魔化してこの場を乗り切るんだ!)

 

シャルル「ち、違うよ一夏!?これはそう、胸筋!胸筋だよ一夏!いやぁ最近筋トレに励んでたからね、その結果が出たのかなあ!」

 

一夏「いや無理があるだろそれ。誤魔化すにしたってもうちょっとマシな言い訳を考えろよ」

 

シャルル「ご、誤魔化すだなんて人聞きの悪い!?これはあれだよ、女装だよ!言ってなかったけど、僕は女装が趣味でね、女装してこうやって野山を走り回ってるのが日課なんだ。ほら見てよこの胸、中々よく出来てるでしょ?」

 

一夏「それなら胸筋より先に女装で誤魔化せよ。後女装が趣味でもそのまま野山を駆け回るのはいくらルームメイトと言えど流石に通報しなきゃいけないんだが」

 

駄目だ全然誤魔化せてない。もう駄目だ、僕はこのまま捕まって教師部隊の所に連行されるんだ。終わった、僕の人生完全に終わった。

 

シャルル「……殺さないで下さい!?」

 

一夏「いや何でそんな結論に至った!?」

 

飛び上がって命乞いをする僕に一夏がそうツッコミを入れる。これこそ僕の最終奥義、「ジャンピング土下座」。僕の知っている数少ない日本の伝統文化の一つだ。

 

シャルル「ホント殺さないで下さいお願いします!?僕知ってるんだからね!?正体がバレた女スパイは捕まってアレされてコレされた挙句殺されるんでしょ!?僕その辺詳しいんだからね!?」

 

一夏「んな恥ずかしい話を大声で喋るな!?お前仮にも女だろ!?もう少し恥じらいを持てよ!?つーかそんな知識何処で学んだ!?何処の18禁サイトで調べた!?」

 

シャルル「なっ!?そ、そんなサイト調べる訳無いじゃないか!?一夏のえっち!?」

 

一夏「男がエロくて何が悪い!男はちょっとエロいくらいが種の繁栄とかの面で役に立つんだよ!」

 

シャルル「言い切ったよこの人!?」

 

そこで開き直るとは思わなかった。いや、ここまではっきりと言われると最早何も言えない。

 

一夏「……お前の事情は知らんが、大人しく着いて来て貰うぞ」

 

シャルル「やめて!?僕に乱暴する気でしょ!?エロ同人みたいに!?エロ同人みたいに!?」

 

一夏「一々巫山戯なきゃ気が済まないのかお前は!?別に教師達に引き渡す気はねえよ!俺一人じゃお前の件をどうするか決められないから他の奴に頼るだけだ!」

 

シャルル「……え、僕を引き渡さないの?」

 

一夏「現状、お前に何かされた訳でもないからな。それに教師達に引き渡したら絶対面倒な事になる」

 

そう言って一夏は僕の手を取って歩き始めた。正直な話今すぐ逃げ出したい所だけど、逃げても行く場所が無いので大人しく一夏に着いて行く事にした。

 

シャルル「それで、僕達は誰に会いに行くの?」

 

一夏「零だ。こういう頭を使う事に関してあいつ以上の適役は居ないからな」

 

 

 

side真月

 

 

 

簪「……♪」

 

真月「……簪、一体いつまで俺に引っ付いてる気だ?」

 

簪「私の気が済むまで♪」

 

真月「……あっそ」

 

夕飯を食べてシャワーを浴びた後、簪はずっと俺に引っ付いていた。何のつもりかは分からないが、まあ簪がこういう事をするのは今に始まった事では無いので気にしない。

 

簪「零、頭も撫でて」

 

真月「へいへい」

 

簪「あっ……えへへぇ♪」

 

だらしない表情を浮かべる簪。全く、ただ頭を撫でてるだけだというのに、一体何が楽しいのやら。

 

簪(えへ、えへへへへ♪零が私の頭を撫でてくれてる。他の女にしない事を、私だけにやってくれてる……♪えへへへへ、最っ高……♪)

 

真月「おら、もう良いか?」

 

簪「だーめ、もっと撫でて♪」

 

真月「……はいはい、分かりましたよ」

 

延長を要求されたので、継続して簪の頭を撫でる。表情は普段の簪からは考えられない程に緩んでいる。ったく、ガキかよお前は。

 

簪「ふふふ、ねえ零」

 

真月「何だよ簪」

 

簪「私、零に頭を撫でて貰うの結構好きかも」

 

真月「へいへい、そりゃどうも」

 

簪「むう、真面目に聞いてないでしょう?」

 

真月「真面目に聞くような話題でもないだろ」

 

撫でて貰うのが好きとか言われても返事に困る。その言葉に一体何て返せば良いんだよ。

 

簪「じゃあさ、零は私のどんな所が良いと思う?」

 

真月「はあ?いきなり何だよ?」

 

簪「言えないの?ラウラの事は昼間あれだけ褒めてたのに私の事は褒めてくれないの?」

 

真月「何を言ってんだお前は……」

 

頰を膨らませてそう言ってくる簪に、思わず溜息を吐く。本当に何を言ってるんだ簪は。ラウラを褒める事と簪を褒める事に何の関係が有るんだよ。

 

真月「……あー、何だ、褒めりゃ良いのか?」

 

簪「うん、沢山褒めても構わない」

 

真月「そんじゃあ……料理が美味い」

 

簪「……それ、鈴や蘭にも言うんでしょ」

 

真月「……駄目か?」

 

簪「駄目。私個人を褒めて」

 

駄目らしい。どうやら、簪はただ褒めるだけではお気に召さないみたいだ。

 

真月「……えっと、水色の髪が綺麗」

 

簪「それはお姉ちゃんも当てはまるから駄目」

 

これも駄目らしい。結構判定が厳しいなオイ。

 

真月「これならどうだ!眼鏡かけてる!」

 

簪「……ねえ、真面目にやって?」

 

真月「やっとるわ!」

 

そうは言ったものの中々良い褒め言葉が思い浮かばない。どうやら俺は人を褒めるのが得意なタイプでは無いらしい。

 

真月「つったってなぁ、俺がさっきまで言った全部がテメェのいい所なのは本当だしな。料理は美味しいし、髪は綺麗でさらさらだし、眼鏡が似合っていて可愛いし。ああ、機械弄りが得意とか?」

 

簪「……本当?零、私の事可愛いって思ってる?」

 

真月「そりゃ、当たり前だろ。テメェは世間一般の女達と比べて美少女の部類に入るからな。誰だってテメェを見たら可愛いって言うと思うぜ」

 

というか簪に限らずこの学園は女子のレベルが高い。入試の判断基準に「容姿」が含まれているのかと言いたい位に可愛い子が集まってる。普通あそこまで顔面偏差値の高いクラスにはならないぞ。

 

簪「……うん、それなら良いよ。満足した」

 

真月「……さいですか」

 

どうやら満足して貰えたらしい。OKだったりNOだったりするなんて、やっぱり女はよく分からん。

 

簪「……ねえ零、一つお願いしても良い?」

 

真月「あ?何だよ急に」

 

簪「タッグトーナメントが終わったら、わ、私と一緒にどこかに『ピンポンピンポーン!!』……あうぅ」

 

インターフォンによって言葉を遮られた簪。ここまでタイミングの悪いインターフォンは初めてだ。

 

真月「……凄いタイミングだなオイ。それで、続きは?」

 

簪「……後で良いよ。ほら、出てあげて」

 

すっかりいじけてしまっている。そんなにいじけるくらいなら先に話せば良いと思うんだが。

 

真月「そうかい。……はい!今出ます!」

 

声の調子を間抜けな方の真月零に変えて、ドアに向かう。覗き穴から見た感じ、訪ねて来たのは一夏とシャルルの二人のようだ。

 

真月「あ、一夏君にシャルル君!どうかしたんですか?」

 

一夏「……零、真面目な話が有る。テンション戻せ」

 

真月「え?一体何を言っ、て……!?」

 

ドアを完全に開けきった時、少し予想外な物が目に入って固まってしまった。

 

真月「デュノア……テメェ、女だったのか!?」

 

シャルル「わあぁぁぁぁ!?そんな大声で言わないでよおぉぉぉぉ!?」

 

 

 

真月「……詳しい説明を頼む」

 

一夏「シャルルが女だった、以上」

 

真月「んなもん見りゃ分かるわ!」

 

一夏の奴が連れて来たシャルルには、胸があった。それも結構立派な胸が。そう、シャルル・デュノアは女子だったのだ。

 

一夏「俺も詳しい事は知らん。これからシャルルに聞こうと思って、お前のトコに連れて来た」

 

成る程、正しい判断だな。これがミザエルだったら周囲に隠し切れず情報が拡散、黒咲だったら問答無用でカード化だ。ウチのメンバーの男子から俺を選ぶのは、まあ当然と言える。

 

シャルル「ね、ねえ一夏?真月君、何か普段とキャラ違くないかな?」

 

一夏「むしろこっちが零の素だ。俺からしたら普段のあいつの方が違和感たっぷりだよ」

 

シャルル「そ、そうなんだ……」

 

真月「まあ、事情は分かった。そんでシャルル、何で男装なんてしてたんだ?デュノア社の指示ってのは大体予想出来るけれど、何で態々危ない橋を渡るような真似を?」

 

シャルル「僕が聞きたいよ全く……まあ、話題作りとかじゃないの?ウチの会社結構経営厳しいし」

 

自分がデュノア社の企業スパイであるという事を自白しているかのように話し始めるシャルル。どうやら誤魔化す気は無いらしい。

 

簪「待った。デュノア社のIS企業としての規模は世界でトップ3に入る程だった筈。それが何故経営の危機に?」

 

シャルルの発言に部屋でいじけていた簪が突っ込みを入れた。

 

シャルル「第二世代までの話ならね。まだフランスは第三世代の開発に成功してない。だからどんどん他の企業に追い抜かされようとしてる。このままじゃフランスはイグニッション・プランから外されて、デュノア社もIS開発の権利を失って倒産する。だから僕がスパイとして送られたんだ、君達の機体のデータを盗んで、第三世代機の開発を成功させる為に」

 

一夏「何でお前が来たんだ?名字から考えて、お前社長の娘だろ?そんなお前が何でスパイに選ばれた?そんで何で断らなかった?」

 

一夏がそう問いかけると、シャルルは暗い表情になり、自虐的な笑みを浮かべた。

 

シャルル「ははっ!断らなかった、かぁ……。それは違うよ一夏。断らなかったんじゃない、僕は『断れなかった』んだ」

 

一夏「……?」

 

シャルル「僕はね一夏、現社長とその愛人との間に生まれた娘。所謂妾の子なんだ」

 

一夏「なっ……!?」

 

簪「……!?」

 

真月「……?それがどうかしたのか?」

 

シャルルの言葉に一夏と簪が絶句したが、俺にはその理由がイマイチ理解出来なかった。なんだ、妾の子ってそんなに珍しいのか?

 

シャルル「いやいや、どうかしたのかじゃないよ!?僕は妾の子!社長の浮気相手の子供なんだよ!?」

 

真月「いやだからそれに何の問題があんだよ?偉い役職についてる奴が正妻以外の女侍らせてんのはよくある事だと思うが」

 

シャルル「いや普通無いよ!?」

 

真月「そうなのか?正妻との間に男が生まれなかったら側室の女共を沢山侍らせてそいつらとガキ作って男の世継ぎとして確保する。権力者なら誰でもやる事だろ」

 

そう考えると、前世の俺の親父はお袋以外の女侍らせる事は無かったな。お袋一筋だったって事なのかねぇ?

 

一夏「いつの時代の話だよそれ……」

 

呆れたような表情で一夏が溜息を吐く。どうやら俺は現代の人間と価値観が違うらしい。

 

簪「……そう、零は沢山子供が欲しいんだ。分かった、私頑張るね!」

 

真月「いや何を?」

 

一夏(いや今の会話の流れで大体予想がつくだろうに。何でこいつは人の恋愛沙汰には聡いのに自分の事に関してはてんで駄目なのかねぇ?)

 

シャルル「……話を戻して良いかな?」

 

真月「おう、続けてくれ」

 

シャルル「分かった。元々僕はフランスの田舎の方の小さな村に母さんと二人で住んでいたんだ。都会と違って不便な事もあったけど、それでも楽しかった。お母さんが居て、学校にも通えて、友達も居て……あの時の僕は確かに満たされていたんだ。……二年前、母さんが病気で死ぬまでは」

 

簪「病気……」

 

簪が少し悲しそうな表情で俯く。ああそうか、確か簪は生まれてすぐに病気で母親を亡くしていたんだったな。母親との思い出はさほど無いにしても、色々と感じる事があるんだろうか。

 

シャルル「母さんが死んじゃった時は、そりゃもう取り乱したよ。何度も泣き喚いて、周りに当たり散らしたりもしたね。それでも村の皆は僕を助けてくれて、僕は何とか立ち直る事が出来たんだ。……丁度そのあたりかな、デュノア社が僕に接触してきたのは」

 

シャルルの顔が一気に暗くなる。ここまででも十分に暗い内容だったが、どうやらこれからが本番らしい。

 

シャルル「母さんが死んで大体1ヶ月ぐらい経った頃、僕の所に僕の親戚を名乗る人間がやって来たんだ。それがデュノア社の副社長、僕のお父さんの弟だよ」

 

デュノア社副社長、アンドリュー・デュノアか。色々と黒い噂が絶えない人物だった気がする。

 

シャルル「その時に僕は自分の生まれについて知った。驚いたよ、まさか自分がそんな特殊な生まれだとは思わなかったからさ。副社長は僕に生活の支援をする代わりにデュノア社に入るよう言って来た。……後ろにゴツい黒服の男の人が控えていたから、殆ど強制だったけどね」

 

真月「お前を呼んだ理由は、ISの適性か?」

 

シャルル「うん、僕もそう思ってる。デュノア社に呼ばれてすぐにISの適性テストを受けさせられて、そのまま代表候補生にされたし」

 

真月「テメェ代表候補生だったのかよ……」

 

シャルル「あれ、言ってなかったっけ?」

 

真月「フランスから来たとしか言ってねえよ……チッ!」

 

シャルル「舌打ち!?」

 

苛立って舌打ちをする俺にデュノアが声を上げるが、俺としては仕方のない事なのだ。デュノア社に所属しているだけなら問題無かったが、代表候補生になっているとなると話は違う。さっき思いついた作戦が一つ使えなくなってしまったのだ。

 

シャルル「……それからの生活は最悪だったね。僕を連れて来た副社長と副社長夫人にはいじめられるし、父さんと義母さんは僕を完全に道具としか思っていないのかと言うくらい酷使するし。……全く、何でさっさと死ななかったのかな僕」

 

溜息を吐きながら乾いた笑みを浮かべるデュノア。その笑顔は全てを諦めた、絶望した人間が浮かべる物と同じものだった。

 

シャルル「でもこれで終わりだね。正体がバレた以上、僕は此処には居られない。すぐさま本国に送り返されて牢屋行きさ。下手したら終身刑になるかもね。あーあ、あっけない終わりだなあ」

 

自分に起こるであろう悲劇を他人事のように淡々と話していくデュノア。その姿を見て、簪が俺に目を向ける。

 

真月「……言っておくが、俺に出来る事は無いぞ」

 

簪「……本当に?」

 

真月「ああ、一切無い。それにデュノア自身が自分の運命を受け入れている。本人が受け入れているなら、俺が何かしてやる必要は無い」

 

簪「……零はあの時言ってた。自分の命が燃え尽きるまで皆を救い続けるって。あれは嘘だったの?」

 

真月「うぐっ……!?」

 

恐らくアシッドゴーレムの時の事を言っているのだろう。簪の咎めるような視線に、言葉が詰まる。

 

一夏「……助かりたいか?」

 

シャルル「……へ?」

 

一夏「助かりたいかと聞いているんだ」

 

暫くの間黙っていた一夏がデュノアにそう問いかける。その目は先程までとは違い、鋭い光を宿していた。

 

シャルル「あはは、無理だよ一夏。真月君の言う通りさ、僕はもう詰んでるんだよ。助かりたいとかそういう話じゃ無いんだ」

 

デュノアが乾いた笑いを浮かべながら一夏の言葉に答える。それでも一夏の目は変わらなかった。

 

一夏「知るか、現状の事は頭から放り出せ。三度目だシャルル。お前は、助けて欲しいか?」

 

シャルル「…………当たり前だろ!?」

 

それまで笑顔だったデュノアの表情が崩れ、涙を流しながら一夏に怒鳴る。それはデュノアが編入してから一度も見せた事の無い、デュノアが本気で怒っている姿だった。

 

シャルル「助かりたいかだって?そんなの助かりたいに決まってるだろ!?好き好んで牢屋に行きたがる奴が居ると思ってるのかい!?僕はこのまま捕まるのなんて嫌だ、まだこの学園に居たい!此処で皆と一緒に勉強したり、ごはんを食べたりしたい!」

 

一夏の胸ぐらを掴みながら、デュノアは言葉を吐き出していく。涙を流して胸の内を明かすデュノアの姿を、一夏はただ真っ直ぐ見つめて居た。

 

シャルル「楽しかったんだ……!自分を偽りながらの生活だけれけど、それでも楽しかったんだ!この学園での生活は、村での生活を思い出してとても懐かしく感じた!学園で皆と一緒に居る時だけ、自分の立場を忘れる事が出来たんだ……!不可能だって事は自分でも分かってる。それでも僕は捕まりたくない、ずっと……ずっとここに居たいよ!」

 

デュノアの心からの訴えを聞いて、一夏は黙って目を閉じた。そしてデュノアの頭に手を置いて、デュノアに優しい笑顔を向けた。

 

一夏「分かった。それがお前の望みならば、俺はお前を助けよう。シャルル、お前は、絶対俺が助けてやる」

 

シャルル「……え?」

 

一夏の言葉を理解する事が出来なかったのか、デュノアが驚いた表情で固まる。

 

真月「……おい一夏、テメェ自分が何を言っているのか分かってんのか?」

 

一夏「ああ。無謀な行いだという事は分かっているさ。それでも俺はシャルルを助ける。助かりたい、そうシャルルは望んでいたからな」

 

真月「デュノアを助けるって事はデュノア社と、最悪フランスを敵に回すって事だ。ウチの会社に所属しているテメェがそれをするという意味、テメェは分かってるのか?」

 

そう、一夏がデュノアを助けるという事は、ウチの会社がデュノア社と真正面から敵対するという事。そして、デュノア社と繋がっているであろうフランス政府とも敵対するという事だ。一社員である一夏が軽々しくやっていい事ではない。

 

一夏「分かっている。そしてその上でお前に頼みたい事がある。零、俺に力を貸してくれ」

 

真月「アホかテメェ!?自分がやろうとしてる事のとんでもなさ自覚しながら何人を巻き込もうとしてんだ!?」

 

一夏「俺の頭じゃシャルルを助ける策を考えるのは難しいからな。誰でも良いから頭脳派が欲しい、そんで今目の前に適任者が居る。なら誘うしかないだろ?」

 

真月「分かってんのか!企業と国を敵に回すんだぞ!テメェ一人の勝手な行動で、他の皆にどんだけ迷惑かけると思ってるんだ!?」

 

一夏「ああ、分かっている。だからお前にこれを渡す」

 

そう言って一夏は待機状態のギャラクシーアイズを俺に手渡した。

 

真月「……何の真似だ」

 

一夏「見ての通りだ。ギャラクシーアイズを返す。これで俺はアークライトカンパニーのテストパイロットの天城一夏からただの天城一夏になった。これでお前らには迷惑はかからない。万一お前らに迷惑がかかるような事があったら、その時は俺を殺してくれて構わない。実行犯の俺を殺せば、少しはお前らへの風当たりも弱くなるだろうしな」

 

一切の動揺も葛藤も無いいつも通りの表情で、一夏は俺にそう言った。

 

一夏「だから俺に力を貸してくれ。作戦を考えてくれるだけで良い、後の事は俺一人でやる。この命使い尽くしてでも、シャルルを救ってみせる」

 

真月「……本気みたいだな」

 

無言で一夏が頷く。こうなってしまったら、一夏はもう何を言っても考えを変えようとしないだろう。

 

真月「……はぁ、わぁったよ全く!力貸してやるよ馬鹿野郎が!」

 

一夏が考えを改める気が無い以上、放って置いて勝手に動かれるのもアレなので力を貸す事にする。全く、Vに何て言えばいいんだよ。

 

一夏「はは、ありがとな零」

 

真月「ありがとなじゃねえよ阿保が。テメェ、俺が引き受けるのを狙って自分の命を懸けただろ」

 

一夏「はっはっは、何の事やら」

 

真月「テメェ……!」

 

はなっから俺を巻き込む気満々だった一夏を睨みつけていると、漸く事態が飲み込めたらしいデュノアが慌てて俺達に話しかけて来た。

 

シャルル「ちょ、ちょっとまってよ!?二人とも自分が何を言ってるか分かってるの!?そんな事したら二人ともタダじゃ済まないよ!?」

 

一夏「理解してるさ。だが俺は、その上でお前を助ける事にしたんだ」

 

真月「ま、国を敵に回す事なんざ今に始まった事じゃあ無いしな。放って置いて一夏が暴走するのも嫌だし、助けてやるさ」

 

シャルル「いや国を敵に回すのが初めてじゃないってどういう事さ!?じゃなくて!何で、何でここまでしてくれるのさ!?僕は君達を騙してたんだよ?隙を見て君達の専用機のデータを盗み取ろうとしてたんだよ?そんな僕を、何で助けようとするのさ!?」

 

真月「何も盗まれてないんだから別に良いだろ。それに、どうやらこいつにとって俺は皆を助ける『ヒーロー』らしいんでな」

 

そう言っていつの間にか側にいた簪の方を見る。簪は俺の言葉に満足したらしく、にっこりと笑っていた。

 

簪「……ん。それでこそ、私のヒーロー」

 

一夏「誰かを助けるのに理由が居るのか?それに、お前は助かりたいと願った。なら助けるのは当然だろ?」

 

シャルル「……は、はは、クレイジーだ、頭おかしいよ二人とも。普通自分達騙した奴助けようとはしないよ。まともじゃないよ、ははは……」

 

デュノアが俯きながら涙を流す。それでもその口元に浮かんでいた笑みは、さっきまでの笑みとは違って見えた。

 

シャルル「……ありがとう。二人とも、本当に、本当にありがとう……!」

 

真月「ケッ!礼なんざ要らねえよ。そんなもん口にするくらいなら、自分が助かった後の人生でも考えときな」

 

一夏「そうそう。シャルルが助かるなら、俺達はそれで十分だからさ。……それで零、どうすりゃ良いと思う?」

 

真月「……作戦立案をマジで俺に丸投げするつもりだったのな、お前」

 

一夏「一応自分でも作戦を考えてたんだぜ?速攻でダメ出しされるだろうと思ったから捨てたけど」

 

真月「……聞かせてみろ」

 

一夏「何条かは忘れたけど、IS学園には『学園に所属する者はあらゆる団体、組織、国家の干渉を受けない』って奴有ったろ?それを使って卒業まで時間稼ぎをして、その間に何とかしようかと」

 

一夏の言う通り、この学園の人間は外の世界のあらゆる干渉を受けない。ISという兵器を扱う以上、特定の組織や団体、国家の干渉を受ける事の無いようにするのは当然だ。このルールが有るからこそ、IS学園はIS学園として存在する事が出来る。

 

真月「……まず始めに訂正しておく。一夏、それは作戦じゃなくて問題の先延ばしだ。具体的な解決策を用意してない時点で、それに作戦なんて名前は付けられねえ」

 

一夏「ですよねー」

 

真月「まあ着眼点は悪く無い。デュノアがこの学園の生徒である以上、デュノアにもそのルールが問題無く当てはまる。デュノアが普通の生徒なら、それで問題は無かった。……普通の生徒だったら、な」

 

一夏「……あー、そういう事か」

 

俺の言いたい事が分かったらしく、一夏が納得したように頷く。そう、このルールを利用する事は俺も考えていたのだ。だがそれは先程のデュノアの話で無駄になった。デュノアには、このルールが当てはまらない状況が存在するのだ。

 

そう、デュノアはーー

 

一夏「『フランスの代表候補生』、だもんなぁ」

 

真月「ああ。デュノアがフランスという国家の代表候補生である以上、フランスからの指示には従わざるを得ない。仮にこの学園に引きこもって時間を稼ごうとしても、フランスから帰還命令が来たらお終いだ」

 

一夏「そうなるか。ああくそ、いい線行ってると思ったんだけどなぁ」

 

真月「デュノアが単に企業のテストパイロットってだけならデュノア社を脅迫するなりなんなりして余裕で解決出来たんだが、代表候補生でもあるとすりゃ流石に話は別だ。フランスと対立せずにデュノアを助けるのは至難の技だろうな」

 

簪「……難しい?」

 

真月「いや、楽勝だね。俺の悪知恵をフルに活用すりゃこんなの朝飯前だ」

 

シャルル「……その自信は一体何処から来るのさ?」

 

真月「……喉から?」

 

シャルル「いやそれ何処の風邪薬!?何でいきなり大○製薬のCM!?」

 

重苦しい空気を払拭するべくボケてみたが、うまい具合にデュノアが乗ってくれて良かった。つーかデュノア、お前べン○ブロック知ってるのかよ。

 

真月「……まあ、流石に朝飯前とはいかないがな。色々と情報が少な過ぎる。直ぐには動けねえな」

 

一夏「まあ、そりゃそうだわな。どれくらいでいける?」

 

真月「タッグトーナメント開催日まで待ってくれ。それまでに色々と調べて作戦を考えておく。テメェはそれまでデュノアを守ってろ」

 

一夏「了解。さっきも言ったが、命懸けで守ってみせる」

 

簪「私に何か出来る事はある?」

 

真月「無い。お前はタッグトーナメントの事だけ考えとけば良い」

 

簪「……むぅ、私だって零の役に立ちたいのに」

 

真月「お前を危ない事に巻き込みたくないからこう言ってるんだよ。理解してくれ簪」

 

頰を膨らます簪を諭すようにそう言う。余計な事をしないで欲しいというのもあるが、危険な目に遭わせたくないというのは嘘偽りの無い本心だ。

 

簪「……零がそう言うなら」

 

簪(零が私を心配してくれてる……!私の目を見て、私だけに言ってくれてる……!嬉しい、嬉しい、嬉しい……!)

 

不満そうな声で、しかし何処か嬉しそうな表情で、簪は俺にそう返した。顔で笑って声で拗ねる、中々器用な真似をするな簪。

 

シャルル(アレ、本当に無自覚でやってるの?)

 

一夏(おう、タチ悪いだろ?)

 

シャルル(いや、確かにタチ悪いけどさ……その内背中から刺されるんじゃないの?)

 

一夏(大丈夫大丈夫、刺されたくらいじゃ零は死なないから問題無い)

 

シャルル(いや刺されちゃ駄目でしょ!?)

 

真月「何二人でこそこそ喋ってんだ。兎に角、今俺に出来る事は無いから今日はもう帰れ。帰り道で誰にも見つかるんじゃねえぞ。今のデュノアの姿見られたら一瞬で性別がバレちまう」

 

一夏「分かった。ありがとな零」

 

シャルル「あ、ありがとうございました……」

 

それだけ言って二人は部屋を出て行き、部屋には俺と簪だけが残された。

 

真月「……悪いな簪、面倒な事に巻き込んじまって」

 

簪「大丈夫、むしろ変に隠し事された方が辛かったから。私に出来る事は少ないかもしれないけど、困った事があったら相談してね?出来る限り力になれるようにするから」

 

真月「……そうかい、ありがとな簪。俺は良いルームメイトを持ったよ」

 

簪「……えへへ」

 

簪の頭を撫でながら、これからの事を考える。実際の所、俺に出来る事はほぼ無い。学園で生活していて調べられる事なんて限られものだけだし、下手に動いて教師達に勘付かれるのは不味い。俺に出来る事と言えば、束達に調査を依頼する事だけだ。

 

真月(……あれだけ偉そうな事を言っておいて結局人頼みとはな。俺も一夏の事を言えないな)

 

簪「……?零、どうかした?」

 

真月「ちょっと外に出てくる。色々と頭の中を整理したいからな)

 

簪「ん、分かった。消灯時間までには帰ってきてね」

 

真月「分かってるっつーの。そんじゃ行ってくるわ」

 

簪「ん、行ってらっしゃい」

 

笑顔で手を振る簪に見送られながら、俺は部屋を出た。

 

 

 

真月(しっかし本当に分からねえな。デュノア社の社長は何であいつをスパイに選んだ?実の娘、それも愛人との間に生まれた子供なんて、会社にとっちゃ歩く核爆弾みたいなモノだろうに。宣伝として、俺達男子と接点を作り易くする為、それは理解出来る。それでも何故男装させた?男子として編入させる以上、男子と同じ部屋になる可能性が高いってのは分かっている筈。下手したら直ぐに男装がバレちまう危険性があるってのに、何で危険を冒してまで男子として編入させたんだ?)

 

学園の敷地を適当に歩き回りながら、デュノア社の目的を考える。あれだけハイリスクな賭けに臨んだんだ、単なる企業スパイ以上の目的が必ずある筈。何とかしてそれを突き止めなくては。

 

真月(まさかあいつにはスパイ以外の役割が有るのか?だがあいつは自分の事を企業スパイだと言っていた。その言葉に偽りは無いだろう。ならデュノア社の目的は何だ?何をたくらんでる?)

 

「ーーー」

 

「ーーー!!」

 

真月「……んあ?」

 

ふと誰かの言い争う声が聞こえた。それだけならまあ無視すればいい話だが、その声に聞き覚えがあったので見に行ってみる事にした。

 

真月「確かこっちから……お、いたいた。あれは脳筋女と……ラウラか?」

 

どうやら言い争っていたのは脳筋女とラウラのようだ。まあ、声を荒げているのはラウラだけだが。内容が気になるので、二人に視認されないくらいの距離まで近寄って盗み聞きする事にした。

 

ラウラ「ですから、ドイツ軍に戻って来て下さいと言っているのです教官!」

 

千冬「お前もしつこいなボーデヴィッヒ。戻る気は無いと言っているだろう。大方上の奴らに頼まれて連れ戻そうとしているんだろうが、私はそれに従う気は無いぞ」

 

ラウラ「上官の命令だけでは無いです。私は貴女が教師として相応しくないと判断し、自分の意思で言っているのです。貴女の教え方は厳し過ぎる。ついて行けなくなった者を切り捨てていくそのやり方は軍隊のそれだ!貴女はこの学園の生徒達を軍人にでもするつもりですか!?」

 

千冬「弱い奴を捨てて何が悪い?私はこの学園の生徒達を一人前の操縦者に育て上げる為に指導をしている。ついて行けなかった奴は所詮その程度だったというだけだ」

 

ラウラ「だから!そのやり方が間違っていると私は言っているのです!学校とは生徒達が共に学び合い、助け合ってお互いに研鑽し合う場です!他者を切り捨て、蹴落とし合う場などでは決してありません!」

 

千冬「相変わらず甘いなお前は。弱者がいくら集まって馴れ合いをしようと、強者になる事は無い。弱者は居るだけで周りを不快にさせる、存在価値の無いゴミだ」

 

ラウラ「その弱者を強くするのが教師である貴女の仕事でしょう!?弱者を切り捨てていく貴女のやり方は間違ってる!」

 

千冬「チッ、五月蝿い奴だ……な!」

 

ラウラ「……!?ぐっ、ああ……!?」

 

真月「おいおい……マジかよ」

 

脳筋女がラウラの首を絞めつけ持ち上げる。さっきまでのやり取りで苛立っていたのは分かるが、ここまでやるか。仮にも教師だろあんた。

 

千冬「試験管生まれの人モドキが、随分とまあ偉くなったものだなボーデヴィッヒ、えぇ?」

 

ラウラ「ぐっ……!?」

 

千冬「マトモな生まれをしていないヒト以下のナマモノのお前が、人間様に偉そうに意見するか。それがどれだけ身の程を弁えない愚かな行為か分かるか?」

 

ラウラ「……たし、は……です…!」

 

千冬「……何?」

 

ラウラ「私は、人間です……!貴女と同じように今を生きている……人間です!」

 

千冬「そんな訳有るか馬鹿が。お前が私と同じ人間だと?気持ち悪い事を言うな、吐き気がする。自分を産んだ親も居ない、名前もただ個体を識別する為だけに用意された記号、眼帯に隠した瞳は人体実験によってマトモなモノでは無くなった。そんなお前が、人間などと呼べる筈無いだろう?」

 

ラウラ「……っ」

 

嘲るように笑う脳筋女に、悔しそうな顔をするラウラ。悔しさを堪える為強く握りしめられたその手からは、ぽたぽたと血が滴っていた。

 

真月「……」

 

自分の身体の奥底で、何か激しいものが渦巻いているのを感じる。それを奥底に留めておきながら、話の続きを聞いていく。

 

千冬「全く、クラリッサ達に同情するよ。お前の様な奴の部下になった所為で、いつまでたっても弱いままなのだからな」

 

ラウラ「……!クラリッサ達は……弱くなどない!彼女達を……馬鹿にするな!!」

 

千冬「教師に対する口の利き方がなっていないな」

 

ラウラ「がぁっ……ああぁ!?」

 

ラウラを締め付ける力が更に強くなる。締め付けられて苦しむラウラの姿を見て、脳筋女は更に笑みを深くした。

 

真月「……っ!」

 

咄嗟に飛び出そうとした身体を、理性で抑えつける。恐らく、これはラウラの人に知られたくない話の筈。ここで俺が出て行けば、ラウラの心に追い打ちをかけるだけ。今は動かない方が良い。この判断は正しい。正しい……筈だ。

 

千冬「事実を言っただけだろう?その『瞳』に完全に適応する事の出来なかった出来損ないのお前に率いられているから、クラリッサ達はいつまでも弱いままなんだよ。これが完全に『瞳』に適応した奴に率いられていたなら、現状も変わっていただろうに。全く、可哀想で仕方ないな」

 

ラウラ「……っ!?私、は」

 

千冬「良い加減認めろよボーデヴィッヒ、今のお前は存在する価値の無いゴミだ。誰の助けにもならず、誰からも必要とされない、ただのゴミなんだよ」

 

ラウラ「ちがう……私は、ゴミなんかじゃ……」

 

千冬「ゴミだよ。少なくとも、私もドイツ軍も、お前を必要としていない。クラリッサ達も、内心じゃお前の事を疎ましく思っているだろうな」

 

ラウラ「ちがう……ちがう……私は、私は……!?」

 

ラウラの顔が歪んで行く。握り締めていた手から力が抜けていき、脳筋女を真っ直ぐ見据えていた瞳からは光が消えていく。

 

真月「……ッ!!」

 

光の消えた瞳から零れ落ちた涙を見た瞬間、俺の我慢は限界に達した。

 

 

 

真月「何を、何をしているんですか貴女は!!」

 

ラウラ「……!?れ、い……?」

 

千冬「……チッ!……貴様か、真月」

 

飛び出して来た俺にラウラは目を見開いて驚き、脳筋女は鬱陶しげな表情で舌打ちをしてラウラを離した。

 

ラウラ「げほっ、ごほっ!?」

 

苦しそうに呻くラウラを視界の端に映しながら、脳筋女を睨み付ける。試験管生まれ、出来損ない、色々と気になる単語は出て来たがそれはもう関係ない。今の俺の内を占めていたのは、目の前の屑に対する激しい怒りだった。

 

千冬「何をしている。もう寮の消灯時間間近の筈だが」

 

真月「それはこっちの台詞です!生徒に対して暴力を振るうなんて、教師としてあってはいけない筈です!」

 

千冬「暴力?ハッ、何か勘違いをしていないか?これはただの教育的指導だ。聞き分けの悪い馬鹿に、少し躾をしていただけだ」

 

真月「そんな理屈が通る訳無いじゃないですか!?ラウラさんは凄い苦しんでいますよ!?これは紛れも無い暴力です!」

 

千冬「……五月蝿い奴だな。どうやらお前にも指導が必要らしい、な!」

 

真月「ーー!?がはぁっ!?」

 

溜息を吐きながら脳筋女は俺の腹に蹴りを浴びせる。常人を遥かに上回る力で振るわれた蹴りに身体が悲鳴を上げ、危うく胃の中身を吐き出しそうになった。

 

ラウラ「零!?」

 

真月「げほっ……!うおぇ……!」

 

千冬「私も暇では無いのでな。指導はこれくらいにしておいてやる。これからは教師に楯突くような行動は慎むんだな」

 

呻き声を上げる俺を見て満足気に笑うと、脳筋女は立ち去って行った。後には、地面に倒れている俺とラウラが残された。

 

真月「ごほっ!?……ああクソ、結構痛え。あのクソ女後で覚えてやがれよ……!」

 

悪態を吐きながら起き上がる俺を見て、ラウラが申し訳無さそうに声をかけてきた。

 

ラウラ「……すまない零。私の所為で、お前を面倒事に巻き込んでしまった」

 

真月「気にすんな。俺が自分で突っ込んだだけだ。それより、身体は大丈夫か?」

 

ラウラ「ああ、問題無い。私の身体は、人より頑丈に出来ているからな」

 

真月「そうか。そりゃ良かった」

 

ラウラ「悪いな、心配させてしまったようで」

 

真月「いや、大丈夫なら別に良いさ」

 

ラウラ「……聞かないのか?」

 

問われているのは、恐らく脳筋女とラウラの間で何があったのかだろう。不安な表情を浮かべながら俺に問いかけるラウラに、俺は答えを返す。

 

真月「聞かれたいのか?」

 

ラウラ「……その返しは予想していなかったな。いや確かに、あまり聞かれたくはないな。済まない、変な事を言ってしまって」

 

真月「言いたくないなら言わなきゃ良い。したくないならしなきゃ良い。単純な事だろ?お前が言いたくないなら、俺は深く聞くつもりはねえよ」

 

ラウラ「そうか…………なあ零、もう一つ変な事を聞いても良いか?」

 

真月「一々許可取らなくても良いっつの。何だ?」

 

ラウラ「私は……人間だと思うか?」

 

不安で仕方が無いと言った表情で、それでも目だけは俺を真っ直ぐに見つめた状態で、ラウラは俺に問いを投げた。

 

真月「ハァ?ちゃんと鏡見てんのかお前?お前が人以外の何に見えるんだよ?」

 

ラウラ「……!」

 

真月「あのクソ女がどういう意味でお前を化け物呼ばわりしたか知らねえがな、俺からすりゃお前なんざ全然人間の範囲内だっつーの」

 

他の奴なら此処で気を利かせた発言をする事が出来るんだろうが、俺にそんな器用な真似は出来ないので、ありのままの感想を伝える。というか前世でバリアンとかいう正真正銘の化け物をやっていたので、これくらい可愛いもんだと思う。

 

真月「あとその質問は無意味だぞ。今俺が話しているのは『ラウラ・ボーデヴィッヒ』っつー俺のパートナーだ。お前が人間だろうとそうでなかろうと、俺はお前に対する態度を変えるつもりはねえよ」

 

ラウラ「……そうか、礼を言う。その言葉を聞いて、私は少し救われた気がする」

 

真月「そうかい。んじゃ、俺は寮に戻って寝るから。お前も早く寝ろよ?明日もタッグトーナメントに向けての練習をするんだからな」

 

ラウラ「ああ、分かった。おやすみ、相棒」

 

ラウラが笑いながら俺に拳を突き出す。ラウラの顔に笑顔が戻った事に安堵しながら、俺もラウラの拳に自分の拳を突き合わせた。

 

真月「おう、ゆっくり休めよ相棒!」

 

突き合わされた拳を見ながらお互いに笑い合い、俺たちはそれぞれの部屋へと戻って行った。

 

時計の針は回る。人々の思いを乗せて、ただ黙々と時を刻み続ける。

 

 

ミザエル「後少しでタッグトーナメント、か。ああ、駄目だな、抑えるべきだというのに、心が滾ってしまう」

 

本音「お〜!ミザやんやる気満々だね〜!やっぱり目指すは優勝なの〜?」

 

ミザエル「勿論だ。私とタキオンドラゴンに負けは無い」

 

本音「む〜、何だか私仲間外れにされてな〜い?私一応ミザやんのパートナーなんだけどな〜!」

 

ミザエル「馬鹿を言うな。お前を忘れる訳が無いだろう。私と、タキオンドラゴンと、お前。三人で勝ちに行くぞ、本音」

 

本音「……ッ!うんっ!!」

 

 

待ち受ける闘いに心躍らせる者。

 

 

簪「……零、遅いなぁ。どこまで行ってるんだろ」

 

簪「……もうすぐ。もうすぐで、あいつを叩き潰せる。そうすれば、零は私の下に帰ってくる」

 

簪「あは、あはは」

 

簪「待っててね零。きっと、きっと貴方を取り返すから」

 

簪「邪魔なあいつを消して、絶対貴方の一番になってみせるから」

 

簪「あはは、あはははは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 

己の願いの為に動く者

 

 

「本当に……本当にこれを私にくれるの?」

 

ティナ「ええ。本国は貴女の実力を高く評価しているわ。その専用機がその証。今度のタッグトーナメントの結果次第では、貴女を国家代表にする事も検討しているわ」

 

「そんな……!うふふふ、あははははは!ようやく私の実力を評価してくれたのね!そうよ!私は強いの!あの陰気な更識の落ちこぼれよりも!あの生意気な中国のチビ女よりも!男なんかの下についたイギリスの馬鹿女なんかよりも!ずっとずっと強いのよ!やっと……やっと手に入れたのよ!この力さえあれば!ISを汚す下賎な男共なんて簡単に叩き潰せる!あはははは!」

 

ティナ(プライドばっか肥大した馬鹿はやっぱり単純ね。こんなのとタッグ組むのは正直嫌だけど、これも仕事と割り切って頑張りますか。こんなのでも少しは楽しませてくれるでしょうし。精々楽しませなさいよ、お馬鹿さん?)

 

「あははははは!まずはアイツからやりましょう!男の癖に私達に反抗的な、あの忌々しい黒咲隼を!!あっはははははははは!!」

 

 

密かに闇に蠢く者

 

 

それぞれの思惑が絡まり合いながら、時は黙々と進み続ける。

 

そしてついに、運命の朝が訪れた。

 

 

薫子『さあさあ皆様お待ちかね!待ちに待った、学年別タッグトーナメントの開催です!!』




次回予告

優香「……何で私の記念すべき初の次回予告の相方がアンタなのよ」
簪「それはこっちの台詞。私は零と一緒に予告をするのを期待していたのに。それが一話しか出てない名前付きのモブだなんて、期待外れにも程がある」
優香「言ってくれるじゃない……!一応私アンタに勝ってるんだけど?」
簪「あれを勝ちに入れる時点で、貴女は相当な小物だと思うけど?」
優香「ハッ!好きな男と同じ部屋で生活していながら、ロクに関係を発展させる事も出来ないヘタレには言われたくないわね!」
簪「……黙れよ噛ませ犬」
優香「アンタが黙りなさいよヤンデレオタク」
簪「は?」
優香「あ?」
優香「……どうやらアンタとは一度白黒付ける必要があるみたいね」
簪「そこは同意する。貴女は一度叩き潰しておいた方が良さそう」
優香「ハッ!叩き潰されるのはアンタの方よ!格の違いをもう一度思い知らせてやるわ、次の話でね!」

次回、インフィニットバリアンズ

ep.47 学年別タッグトーナメント1回戦! 弐式と零式

簪「……!?ごく自然な流れで次回予告に……!?」
優香「ふふふ、次回予告の段階で私は貴女の一歩先へ行った!試合が楽しみね!!」

真月「……人選ミスったかな」

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