インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.44 学年別タッグトーナメントのお知らせ

sideシャルル

 

 

 

シャルル「……えっと、繋がってますか?」

 

シャル父『ああ、問題無く繋がっている』

 

僕がIS学園に編入したその日の深夜、僕は本社と連絡を取っていた。

 

シャルル「えーと、第一回目の定期報告をします。まず、無事IS学園に編入する事が出来ました。生徒も教師も、僕が女子だとは思っていないみたいです。……ホント、何でバレてないんだろう?」

 

シャル父『それだけお前の顔が中性的だという事だ。とはいえ先ずは第一関門突破だな。私は十中八九バレると思っていたが、案外分からないものだな』

 

シャルル「そう思ってたなら普通に女子として編入させて下さいよ!?あと中性的とか言われると色々と複雑な気分になるんですが!?」

 

本当に何で女子として編入させてくれなかった。女子達には毎時間質問責めをされ、男子達には女子だとバレないように常に気を付けながら接しなければいけない。殆ど心の休まる時が無いのだ。さらに男子はお風呂を利用出来ないときた。こんなのおかしい、あんまりだ。女尊男卑の社会の闇を見た気がする。いやまあ元から闇だらけなのだが。

 

シャル父『事実中性的なのだから仕方ないだろう。だが、ふむ、男物の寝間着が中々に様になっているな。流石私が用意した物だ』

 

シャル義母『貴方、選んだのは私ですよ。貴方は代金を払っただけでしょう?』

 

シャル父『……そ、そうだな』

 

このパジャマアンタらのチョイスかよ。結構似合ってるのが腹立つ。

 

シャル父『……ごほん!兎に角、バレずに上手い事編入出来たのだ、任務はきちんと遂行するように。後以降の定期報告はもう少し早い時間帯にする。あまり遅くまで起きていると次の日の行動に支障が出るからな』

 

シャルル「はい、それでは」

 

それならテレビ電話じゃ無くて普通にメールでやり取りすれば良いのでは?という質問は話を無駄に長くしそうなので思うだけに留め、通話を切る。何というか、あの人との会話は疲れる。主にツッコミが。

 

シャルル「それにしても……」

 

本当にあの二人は何を考えているのだろう。僕を道具として扱っているにも関わらず、変な所で気遣ってくる。僕には時々あの二人が分からなくなる。

 

シャルル「……考えても、仕方ないか」

 

そんな事は僕が気にする事じゃない。僕は僕に与えられた命令を忠実に守るだけだ。それが、『シャルロット』である事を捨てた、『シャルル』に出来る唯一の事だから。そんな事を考えながら、僕は布団を被って眠りについた。

 

 

 

ーーその日は久しぶりに、母さんの夢を見た。

 

 

 

side真月

 

 

 

簪「……零、起きて。朝だよ?」

 

真月「……んあ?」

 

簪の声で目を覚ます。時刻は朝の六時、学校に行くにはまだ早い時間帯だ。

 

真月「おはよ、簪。ちょい早くないか?まだ朝の六時、食堂が開くまでまだ一時間も有るぜ?」

 

簪「食堂には行かないよ零。だって今日も私が朝ごはんを作るんだもん」

 

真月「そ、そうなのか?」

 

簪「ううん、今日だけじゃない。明日も、明後日も明々後日も、これから先ずっと、ずーっと、私が朝ごはんを作ってあげるの。勿論朝だけじゃないよ?お昼は私が零の為にお弁当を作ってあげるし、夕飯だって私が腕によりをかけてうんと美味しい料理を作ってあげる。毎日毎日毎日、零は私の作った料理だけを食べるの。料理するのが大変だろうって?私は大丈夫だよ?零が私のごはんを食べて、美味しいって言ってくれるだけで、私は幸せだもん。だから毎日料理するのなんか大変じゃないよ?零だってそれで良いよね?だって零は私の料理が好きなんだもんね?ずっと私の料理を食べられるんだもん、幸せに決まってるよね?」

 

何故か朝から簪のスイッチが点いていた。本当に何でだ、まだ今日何も起きてないだろ。

 

真月「いや、流石に毎日はちょっと……俺だってたまには食堂で食べたり外食したりしたいし」

 

簪「……何で?零が言ってくれたら、私何だって作ってあげるよ?ちょっと難しい料理でも、一生懸命練習して絶対作れるようになるよ?なのに何で?何でそんな事言うの?私零の為に頑張るよ?なのに何でそんな事言うの?私の料理より他の人の料理が良いの?誰の料理?鈴?鈴の料理が良いの?それとも蘭?二人共料理上手いもんね。でも私頑張るよ?頑張ってその二人よりも上手に料理を作れるようになるよ?だから零も喜んで食べてくれるよね?よね?」

 

うっわ面倒だなオイ。何が原因で簪のスイッチが入ったのか分からないので、どうすれば正気に戻せるのか皆目見当がつかない。

 

真月「……ん?」

 

どうにかこの状況を打破しようと周囲を見渡していると、ある考えが頭に浮かんだ。うん、多分これならイケる気がする。

 

真月「……簪、今日の朝は食堂に行くぞ」

 

簪「何で?ねえ何で?そんなに私の作った料理が食べたくないの?そんなに他の人の料理が良いの?」

 

真月「いや単純な話、お前今日は料理出来ないぞ?」

 

簪「……へ?」

 

目を丸くした簪に、俺は先程思い出したある事を伝える。

 

真月「だって……食材切らしただろ、昨日で」

 

簪「……あ」

 

……今日の朝食が食堂の料理に決まった瞬間であった。

 

 

 

真月「クク、昨日いきなり三食自分で料理を作るなんてやったんだ、食材が切れて当たり前だろ」

 

簪「……恥ずかしい」

 

顔を赤くしながら焼き魚を食べる簪をからかいながら、生姜焼きに手を伸ばす。ホント、ここの食堂は料理のレベルが高い。外国の生徒が多くいる為、大体の国の料理がメニューにあるのも素晴らしい点だ。

 

真月「にしてもアレだな。簪がそこまで料理したがるなんて思わなかったぜ。料理にハマったのか?」

 

簪「まあ、そんなところ」

 

そんなところらしい。成る程、料理の上達の為に食べてくれる相手を探していたのか。それなら確かにいつも一緒にいる俺なんかは予定が予定が合いやすいから適任だな。そんなことを考えながら朝食を食べていると、少し疲れた表情をしたラウラが俺達の所にやってきた。

 

ラウラ「済まない、一緒に食べても構わないだろうか?」

 

真月「ええ、別に構いませんよ?」

 

簪「………うん」

 

特に断る理由も無かったので、一緒に食べる事にする。簪が喋るまでの若干の間が少し気になったが、本人も良いと言っているので気にしない事にする。

 

ラウラ「感謝する。……ああ、それと真月零、先程までの話し方で良いぞ?」

 

真月「……んだよ、聞いてたのかよ」

 

ラウラ「私は少し生まれが特殊でな。人より身体の機能が多少優れているんだ。それと私は職業柄色々な人間の相手をするからな、人の本質を見抜く事は得意なんだ」

 

そう言ってラウラは俺達の正面に座り、パスタを食べ始めた。ああ、あれも結構美味そうだな。昼はあれにするか。

 

ラウラ(まあ、実際はクロから聞いただけだが。しかしなんで真月零の本来の性格が分かったんだ?知り合いなのか?)

 

96『ああ、昔ちょっと関わる事が有ってな』

 

ラウラ(そうか。あ、これ結構美味しいな)

 

ラウラ「しかし、この食堂の料理は美味しいな。軍の食事とは大違いだ」

 

簪「軍の食事は美味しくないの?」

 

ラウラ「軍の食事は味よりも栄養を重視しているからな。あまり美味しくない。支給される携帯食料なんか酷いものだ、一度食べたがもう二度と食べたくない」

 

簪「そ、そんなに不味いの?」

 

ラウラ「不味いなんて物じゃない、あれを食うくらいなら私は餓死を選ぶな」

 

真月「まあ、そういうのって不味いって聞くしな。そういやお前、昨日ティナの奴と戦ったって聞いたが、どうだったんだ?」

 

ラウラ「決着はついていないな。だが、あいつは強い。今まで名前を聞かなかったのが不思議なくらいだ」

 

へえ、そんなに強いのがあいつ。まあ有名にならない理由は想像がつく。大方本人が怠惰な性格だから、あまり試合をしないからだろうな。そんな事を考えながら一緒に食事をしていると、不意に食堂のスピーカーから音楽が流れてきた。

 

ラウラ「む?この学園では食事の時間に音楽を流すのか?随分と洒落ているな」

 

真月「いや、そんなのは無かった筈だが……」

 

簪「多分、校内放送。……お姉ちゃんかな?」

 

楯無『ピーンポーンパーンポーン!あーマイクテステスマイクテステス。え〜、全校生徒の皆さん、今日は生徒会から大事なお知らせが有るので、朝のホームルームはありません。朝食を食べ終わったら、至急体育館に集まって下さい。繰り返します。今日はーー』

 

簪の予想が当たり、スピーカーからあの駄目生徒会長の声が聞こえてくる。何だろう、話を聞く前から嫌な予感がしてきたぞ。

 

ラウラ「ふむ、つまりこれはアレか、『全校朝会』のお知らせというやつか」

 

真月「どちらかと言えば臨時集会だな。事前告知無しの召集だから」

 

簪「……嫌な予感が、する」

 

真月「だよなぁ……」

 

ラウラ「……?」

 

こうして、不安だけを感じながら、俺達は体育館へと向かった。

 

 

 

楯無「皆おはよー!いつもニコニコあなたの隣に這い寄る学園最強!楯無お姉さんだよー!」

 

全校生徒が集合し終わった時、そんな巫山戯た事をぬかしながら駄目生徒会長はステージに立った。前から分かっていた事だが、こいつのハイテンションはただただイラっとくる。多分あいつには人をイラつかせる才能も有るんだろう。流石才能の塊、無駄な才能も持ってやがる。

 

楯無「今回皆を集めたのは、今度の学年別トーナメント戦のルールついての重要なお知らせがあるからなの!」

 

学年別トーナメント戦……ああ、そういや有ったなそんな名前の行事。確か学年ごとに分かれて全生徒が試合するトーナメント戦だったか。各国の要人も来るらしいから、三年生にとっては自分にスカウトがかかるようにする為のアピールの場でもあると聞く。ここだけでもかなり大事な行事だと分かるので、そのルールについてのお知らせはかなり注目されており、ほぼ全ての生徒達が真剣な表情で続きの言葉を待っていた。

 

楯無「何と!今回のトーナメント戦はペアで出てもらう事に決まりましたー!」

 

『…………はあ!?』

 

体育館に居た生徒全員がそう叫んだ。無理も無い、これはちょっとしたルールの変更どころじゃない。テニスに例えるならシングルスの大会に向けて練習してたら当日いきなり試合がダブルスに変わるようなものなのだ。そりゃ驚くに決まってる。

 

「ちょ、ちょ、それは流石に駄目でしょ!?」

 

「やるにしても告知が遅過ぎよ!?」

 

「私ペアでの練習なんてやってないわよ!?」

 

シャルル(ああぁぁぁぁ!?不味いよ不味いよ不味いよ!?ただでさえいつバレるか分からないくらい危うい状況なのに、この上タッグなんて組んだら余計バレやすくなるじゃないか!?)

 

ラウラ(ふむ、ペアか。参ったな、ペアを組んでくれる相手が思いつかない)

 

96『ボッチ乙www』

 

ラウラ(死ね。控えめに言っても死ね)

 

楯無「はーい静粛に静粛にー!これはもう決定事項なので覆しようがありませーん!学園長にも許可をとって有るので、文句があるなら学園長に言いなさーい!」

 

楯無のその一言によって非難の声を上げていた生徒達は全員黙る。そりゃ文句有るなら学園長に直接抗議しに行けなんて言われても無理だ。というかホントやりたい放題だな生徒会長。これもうただの暴君だぞ。いや前世でリアル暴君やってた俺が言える事では無いが。

 

フォルテ「たっちゃ〜ん!質問、良いっスか?」

 

静まり返った生徒達の中で一人の女生徒が手を挙げた。あれは確かギリシャの代表候補生のフォルテ・サファイアだったか。この前の襲撃事件の時に黒咲達と共闘した生徒だと黒咲から聞いた。

 

楯無「問題無いわ。何かしら、フォルテちゃん?」

 

フォルテ「ウチとしてはダリル先輩と組みたいんスけど、学年違うからやっぱ駄目っスか?」

 

楯無「例外は無いわ。いくらダリル先輩のコンビだからって貴女一人だけ特別扱いは出来ないしね」

 

フォルテ「まあ、そうっスよね。そんじゃあ次の質問、専用機持ちは組めるペアに制限とか有ったりするんスか?例えば専用機持ちは専用機持ちとは組めないとか」

 

楯無「特にそういう縛りは無いわよ?ただ、ワンサイドゲームにならないように、専用機持ち同士のペアの場合は専用機持ちがいるペアに当たりやすくなるよう、対戦カードを調整するわ」

 

フォルテ「ほう、理解したっス」

 

成る程、そういう調整をするのか。確かにそれならば専用機持ちと組んだペアが強いという訳では無くなる。いくら専用機持ちと組んで勝率を上げようが、相手も専用機持ちだったら負ける可能性も高くなるから、訓練機同士のタッグの方が良い場合も出てくるしな。

 

楯無「他に質問は有る?」

 

フォルテ「禁止行為を知りたいっス」

 

楯無「基本的には公式戦と同じよ。シールドエネルギーが切れたら負け。周りの観客に被害を及ぼす危険性のある武装を使わない。故意にシールドエネルギーが切れた人を攻撃しない。競技用のリミッターは外さない。これさえ守ってくれれば、後は特に禁止する事は無いわ」

 

楯無の解説に、三年生の列に居たレインが手を挙げる。ああ、今はダリルだったか。

 

ダリル「危険な武装って、例えばどんな奴だ?」

 

楯無「うーん、学園の訓練機なんかには絶対に積んでない武装だけど、対IS用武装ね。アレ簡単にISの装甲を貫いて中の人を大怪我させちゃうから」

 

ダリル「ほーん、成る程なぁ」

 

黒咲(対IS用ライフルは使えないのか……というかこれもしかして俺の所持する武装全部使えないのか?)

 

ティナ「不参加とかは無理なの?」

 

黒咲が難しそうな顔をしている横で、ティナが気だるそうにそう質問する。こいつ本当に面倒臭がりだな。

 

楯無「だ〜め!納得の出来る理由が無きゃ不参加は認められませ〜ん!」

 

ティナ「はあ、めんどい……」

 

楯無「まあまあ、優勝したペアには生徒会から豪華な景品を用意するからそんな嫌そうな顔をしないで頂戴?」

 

ティナ「豪華景品?」

 

楯無「ええ!まだ何にするかは決まってないけど、生徒会の権限を使って絶対に用意するわ!」

 

ティナ「へえ、それならまあ多少はやる気出るわね」

 

楯無「あくまで多少なのね……それじゃあ大体説明したからこの話は終わり!ペア申請の締め切りは四日後だからなるべく早く出してね!はい解散!」

 

楯無のその一言で臨時の全校朝会は終わり、生徒達は各々の教室へと向かった。タッグ申請ねえ、全く面倒な事になったな。

 

 

 

ラウラ「真月零、ちょっと良いか?」

 

放課後、する事もないので寮に帰る支度をしていた俺にラウラが話しかけて来た。

 

真月「ええ、構いませんよ。場所変えます?」

 

ラウラ「ああ、助かる」

 

人気の少ない場所にラウラを連れて行き、話を聞く事にする。ラウラはしばらくの間頭を抱えてながらうんうん唸っていたが、考えが決まったのか俺に話を切り出した。

 

ラウラ「会って間も無い私がこんな事を頼むのは図々しい事だと思うが……単刀直入に言う。真月零、私とペアを組んではくれないだろうか?」

 

真月「俺と?そりゃまたどうして?」

 

ラウラ「恥ずかしい事に、どうやら私は話しかけ難い人間と思われているみたいでな。ペアを組んでくれる人間が居ないのだ。そこで、多少ではあるが会話をしたお前にペアになって貰おうとしたんだが、駄目だったか?」

 

そう言って若干どんよりとした表情になるラウラ。どうやら結構本気で落ち込んでいるらしい。まあ確かに、いくら気にするなと言われたからって軍人に気安く話しかけられる奴はそうそういないだろう。

 

真月「いや、別に構わねえよ?断る理由も別に無いしな。ただ俺別に勝ちに行く気は無いから、勝ちたいならミザエルとかと組んだ方が良いぞ?なんなら俺がミザエルに話をつけてやるし」

 

ラウラ「いや、恐らく私は彼とは相性が悪い。私も彼も生粋のパワーファイターだからな。その点お前は味方に目を配りサポートするのが得意と聞く。そんなお前ならば私とも相性が良いと思ってな」

 

ラウラ(……と、ここまで全てお前に言われた事をそのまま言っている訳だが、本当に彼はそこまで言われる程の実力者なのか?)

 

96『ああ、コイツ程勝つ為の戦いが出来る奴はそうそういねえよ。ミザエルや神代璃緒と違って、コイツの戦い方には誇りとか信念なんかは存在しない。コイツはただ勝つ為だけに作戦を立て、勝つ為だけに戦える人間だ』

 

ラウラ(成る程な。リアリストという事か。それならば、確かに私と相性が良さそうだ)

 

目を瞑り何やら考え事をしているらしいラウラから視線を外し、この誘いについて考える。勘ではあるが、この誘いは純粋に俺と組みたいが為の行動だろう。ラウラが代表候補生であり、軍人でもある事を考えれば俺に接触したのは機体のデータを何とかして手に入れる為だとも考える事が出来る。しかしそれなら圧倒的な機体性能を誇るタキオンドラゴンを所持するミザエルに接触するように国からは命令される筈だ。態々性能が高いとは言えないシャイニングラビットを持っている俺に接触したりはしないだろう。ラウラ自身で考えた行動なら、俺も断る理由は無い。どうせ適当な誰かと組む予定だったんだ、コイツと組む事にするか。

 

真月「分かった、ペアを組んでやる。さっきも言ったが、別に断る理由も無いしな」

 

ラウラ「おお!そうかそうか、組んでくれるか!ならば早速申請しに行こう!善は急げ、日本のコトワザにもそう残されている!」

 

俺の返事に顔を輝かせてそう話すと、ラウラは俺に申請書を手渡してきた。ラウラの名前は既に書かれている。どんだけ用意が良いんだこいつ。

 

真月「随分と嬉しそうだなおい。そんなに俺と組みたかったのか?」

 

ラウラ「当たり前だ。お前の前に何人の生徒に誘いをかけてその度に断られてきたと思っている。断られる度にどれだけ私が落ち込んだか、お前に分かるか?」

 

真月「……悪い」

 

予想以上に悲しい話を聞いた。ああ、成る程。ぱっと見鋭くて近寄り難い印象を受けるけどこいつあれだ、外見で誤解されて友達が出来なくて内心すっごい落ち込んでるタイプだ。少し悲しい気分になりながら渡された申請書に名前を記入して手渡す。

 

真月「ほらよ、んで確かこれを担任か副担任に提出するんだよな?」

 

ラウラ「ああ、感謝する。これから宜しく頼む、真月零。いや、ペアになったのにこれでは少々他人行儀だな。……こほん!改めて、私とペアになってくれてありがとう。これから宜しく頼むぞ、零」

 

顔を赤らめて少し照れ臭そうな表情をしながら、ラウラは俺に笑顔でそう言った。

 

真月「……ああ。宜しくな、ラウラ」

 

笑顔でそう返し、ラウラに向かって右手を差し出す。何の言葉も無く差し出されたその手にラウラは一瞬目を丸くするが、すぐにその意味を理解して俺の手に自分の手を重ねて、しっかりと握手をした。

 

ラウラ「……むぅ、少し恥ずかしいな」

 

真月「ハッ、握手くらいで恥ずかしがってんじゃねえよ。そんなんじゃ彼氏が出来た時にお手手繋いでデートも出来ねえぜ?」

 

ラウラ「……彼氏、か。そうだな、それは……困るな」

 

真月「まあ、お前に彼氏が出来るかなんざ俺の知った事じゃ無いがな。おら、とっとと職員室に行って申請するぞ」

 

ラウラ「ああ、分かった。終わったら一緒に食堂で食事でもしないか?折角ペアを組んだんだ、ペア同士、親睦を深めるのは良い事だと思うぞ」

 

真月「おう、別に良いぜ」

 

この後特に予定も無いし、ラウラの言う通り一緒に食事をしても別に良いだろう。申請が終わったら何を食べるかを考えながら、俺とラウラは職員室へと向かった。

 

 

 

side簪

 

 

 

簪「今、何て言ったの……?」

 

放課後、話しかけてきた天音の言葉に、思わず私は固まってしまった。

 

天音「分かった、もう一回言うよ。今度の学年別タッグトーナメント、優勝したら好きな男子生徒と付き合えるんだってさ」

 

付き合う?それはつまり、付き合うと言う事なの?あまりに予想外の言葉に混乱する私に、天音は苦笑いしながらこう続けた。

 

天音「まあ、あくまで噂さ。楯無さんが言っていた豪華な景品っていうのが何かを皆がいくつか予想を立ててて、たまたまその内の一つがそれだったってだけ。楯無さん本人がそう言った訳じゃ無いよ」

 

簪「そ、そうなんだ。良かったぁ……」

 

本当に良かった。もしそんな事をお姉ちゃんが言っていたら、私はお姉ちゃんにお仕置きをしなきゃいけなかったからね。

 

天音「おいおい簪、これは君にとってもチャンスだぜ?」

 

簪「チャンス?」

 

天音の表情がヘラヘラとした笑みからニヤニヤとした笑みに切り替わる。長年親友をやって来た私には分かる、これは天音が何か悪巧みをしている時の顔だ。

 

天音「うんうん。簪、これはチャンスなんだ。このトーナメントで君が零と組んで優勝して、そこで零に告白するんだよ!」

 

簪「ふぇ!?こ、こここ告白ぅ!?」

 

天音の爆弾発言に顔が爆発したかのように熱くなる。い、いきなりなんて事を言うんだこの親友は!?

 

天音「そう、告白さ!この噂を利用して、君が零を手に入れるんだ!」

 

簪「ま、ま、待ってよ天音!?私と零はまだ出会ってから一、ニヶ月しか経ってなくて、こ、告白だなんてまだ早いというかなんというか……!?」

 

天音「愛に出会ってからの歳月なんて関係無いだろう?君は君がしたいようにすればいいのさ。零の事、好きなんだろう?付き合いたいんだろう?」

 

簪「そ、それはそうだけど!?いきなり告白しろだなんて言われてもは、恥ずかしいし……」

 

天音(……誰が見ても重いって感じるくらいの愛情を零に向けてる癖に今更何を言ってんだか)

 

簪「と、兎に角!?告白だなんて絶対無理!そういうのはもっと段階を踏んでからやるものなの!」

 

天音「……そっか、じゃあ仕方ないか。あーあ、それじゃあ零は私が貰おうかなぁ〜」

 

簪「うえぇ!?何で!?」

 

天音「簪は知らなかったかもしれないけど、零って結構ウチの生徒達の中で人気なんだよ?明るいし、優しいし、顔も良い方だしで」

 

知らなかった。確かに零は好きになった私の視点から見なくても十分カッコいいし、優しいけど、そんなに零が人気だなんて知らなかった。

 

天音「あ〜そっか〜仕方ないな〜?簪がぁ嫌ならぁ、私が零に告白ーー」

 

簪「駄目」

 

天音「……ああうん、冗談冗談。簪を焚きつける為に言った冗談だから安心して?」

 

簪「なぁんだ♪良かったよ、まだ天音と親友でいられるんだね。私嬉しいよ♪」

 

天音「何をする気だった!?私が冗談だと言わなかったら何をする気だったんだい簪!?」

 

簪「冗談、別に何もしない。天音は私の親友だから、天音がこういう時に冗談を言ってくるのは分かってたよ。分かった、今夜零にペアを組んで貰うように頼んでみる」

 

天音「お?遂に告白する気になったかい?」

 

簪「だから違うって。ただペアになってくれるように頼むだけ。告白は……まだ無理」

 

天音「ちぇ、つまんないの」

 

そんな事を言われても困る。さっきも言ったが、こういうのは段階を踏んでからやるものだ。そんな簡単にやっていい事じゃない。アニメやラノベの主人公達だって、メインのヒロインに告白するのは大体終盤だったりする事が多いんだ。ヒロインでも主人公でもない私にそんな簡単に出来る事じゃない。

 

簪(ヒロイン、か……)

 

私は、物語の主人公でもヒロインでもない。彼ら彼女らが持っているような特別な力なんて無いし、彼女達みたいに特別可愛い訳じゃない。私みたいな子は、精々名前付きのモブキャラが良い所だろう。

 

簪(……でも、誰かのヒロインにはなれるよね?)

 

皆に愛されるようなヒロインになんてなれなくて良い。私はただ彼、零にだけ愛されるような、そんな零だけのヒロインになりたい。この望みだけは鈴にも蘭にも、他の誰にも負けない、負けたくない。零は私だけのヒーローだ。零の隣は私のものだ。私だけが、零に愛されるヒロインになるんだ。

 

簪(その為にも……)

 

このタッグトーナメントで優勝しなければならない。零を狙う奴等を皆叩き潰して、誰にも零が奪われないようにしなきないけない。零は誰にも渡さない、もし私から零を奪おうとする奴が居るなら、私は其奴をーー

 

天音「……簪、そんな怖い顔をしちゃ駄目だよ。笑ってる顔の方が、簪には似合ってるよ」

 

簪「……ごめん」

 

少し顔に出てしまっていたみたいだ。いけないいけない、こんな怖い顔じゃ、零とお話し出来ないよ。零は私の笑った顔が好きって言ってくれた。だから私は零には出来るだけ笑顔でお話ししたい。だからこんな怖い顔じゃ駄目、早くいつもみたいな笑顔に戻さないと。

 

簪「それじゃあ、私はもうもどるね。零が来る前にシャワーも浴びときたいし」

 

天音「分かった、またね簪」

 

簪「うん、またね」

 

手を振って天音と別れる。そういえば、天音は誰と組むつもりなんだろう。やっぱりねねと組むんだろうか、それとも誰か別の人なんだろうか。人見知りなねねと違って、天音の交友関係については私も未だによく分かっていない。たまにエジプトに居るという知り合いが国際電話を掛けてきたりするらしいが、それがどんな人なのかは天音は教えてくれない。

 

簪「それよりも……」

 

今は零だ。告白とかは置いておくにしても、先ずは零と組まなければ始まらない。鈴が零を誘う前に零を誘わなければいけない。幸い鈴は今セシリアと一緒にアリーナに居るらしいと天音から聞いたので、先を越される事は無い。私は部屋で零を待っていよう。今日は特に零も用事が無かった筈なので、そんなに帰りが遅くなる事はないだろう。私は真っ直ぐに部屋に戻り、零が帰るまで待っている事にした。

 

 

 

真月「戻ったぞ」

 

簪「うん、おかえり零」

 

零が帰ってきたのは大体七時を過ぎた頃だった。思ったよりも遅い、何か用事があったのかな?

 

簪「遅かったね、何かあったの?」

 

真月「ああ、食堂で夕飯を食べてたからな。連絡してなくて悪かったな」

 

簪「ううん、別に良いよ。今日は食材が無かったから、私も食堂でお弁当を買って食べたし。それより零、その、もし零が良かったらなんだけど、私とペアを組んでくれないかな?」

 

恥ずかしくて少し言葉が詰まったけど、なんとか零に言うことが出来た。こんな事ですら恥ずかしく感じてしまうなんて、こんなんじゃ告白なんて夢のまた夢だ。

 

真月「……あー、悪い簪、さっき他の奴にペアに誘われて、そいつと組んじまった」

 

簪「……え?」

 

さっきまでの熱が急激に冷めていく。どういう事?何で零が他の人と組んでいるの?

 

簪「……誰と?もしかして鈴?」

 

真月「いや、ラウラだ。放課後に誘われてな。特に誰と組むとか考えてなかったからその場で受けちまったけど、ああそうか、お前に誘われる可能性もあったか」

 

簪「……ラウラ?ラウラって、あの銀髪の人?」

 

真月「おう、ラウラ・ボーデヴィッヒ。あの銀髪のちびっ子が俺のペアだ」

 

朝、食堂で出会った銀髪の子の姿を頭に思い浮かべる。そうか、あの子が零を誘ったのか。でも、そんな事よりも私の心を騒つかせたのはーー

 

簪(……会ってまだ三日も経ってないのに、もう名前で呼ぶくらい仲良くなったんだ)

 

少しずつ、心に暗いナニカが生まれているのを感じる。ラウラは零の本当の顔を知っている。零に名前で呼ばれるくらい仲良くなっている。それは出会ってからの時間以外では、私や鈴と全く同じだ。

 

簪(……ずるい)

 

私の方が長く零と一緒に居るのに。私の方が零の事一杯知ってるのに。私の方が零と仲が良いのに。零の隣は私だけの物なのに。それなのに、いきなり現れて、私から零を奪おうとするなんて、そんなのずるい。ずるい、ずるい、ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいーー

 

真月「……簪?どうかしたのか?」

 

簪「……ううん、何でもないよ。ラウラさんと組むって事は、私と零は敵同士って事になるね。お互い、頑張って優勝目指そうね」

 

真月「おう、当たり前だ。負けるつもりはないからな?」

 

簪「うん、私もだよ♪」

 

真月「クク、楽しみだな。そんじゃ、俺はシャワー浴びてくるわ」

 

そう言って零はシャワールームに行き、部屋には私一人が残された。私は携帯電話を取り出し、恐らく部屋にいるであろう天音に電話を掛けた。

 

天音『もしもし簪?一体どうしたんだい?』

 

簪「……天音、ペアってまだ組んでない?」

 

天音『ああ、まだ組んでないけど。何、零とペア組めなかったのかい?』

 

簪「私と組んで」

 

天音『……その様子じゃ図星みたいだね。悪いけど、私はねねと組もうと思ってーー』

 

簪「組んで」

 

天音『……アッハイ』

 

天音から了承を得たので電話を切る。これでペアは確保出来た。元々このタッグトーナメントにはあまり興味が無かったけれど、たった今勝たなきゃいけない理由が出来た。

 

簪「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

朝見かけた、あの銀髪の女の子。少し鋭い目付きをしていて、近寄りがたい威圧感を放っている女の子。だけど本当は話し易い温和な態度をしていて、少し天然が入っている可愛い女の子。そして、私から零を奪おうとする女の子。

 

簪「……あは、あはは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

許さない、そんなの絶対に許さない。零は私の物、鈴でも蘭でも他の誰かの物でもない、私だけの物なんだ。いきなりやって来て横から掻っ攫って行くなんて絶対に許される事じゃない。

 

簪「分かったよ。そっちがそう来るなら、それに乗ってあげる!貴女を倒して、零を奪い返す!絶対、絶対、絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対!!零の隣をもう一度私だけの物にする!零を誑かす貴女を潰して、潰して、叩き潰して!私だけの零を取り戻す!」

 

零は今あの女に誑かされている。私が零を助けなきゃいけない。私はずっと零に助けられて来た、だから今度は私が零を助けるんだ。あの女を倒して、零をあの女から解放しなきゃいけないんだ。

 

 

 

簪「だから……待っててね、零♪」

 

 

 

ラウラ(ーーっ!?な、何だこの今まさに刺客が私の命を狙っているかのような悍ましい感覚は!?)

 

96『おいおい何だよこのドス黒い闇は……テメェ一体何処の邪神を怒らせたんだよ?』

 

ラウラ(何一つ身に覚えがないわ!?)

 

 

 

 

 

 




次回予告

シャルル「シャルル・デュノアです。この学園での生活はとても刺激的で、飽きる事が無くて楽しいね。……まあ、色々と大変な事も有るけど。さて、次回は僕のそんな日常についての話がメインになるかな。これを見て、僕の苦労を少しでも理解してくれたら嬉しいかな」

次回、インフィニットバリアンズ

ep.45 苦労人シャルル・デュノアの日常

シャルル「次回も見てね!……あと全国にいる名前がシャルルの若いフランス人男の人、是非とも僕と交代してくれないかな!?本当にお願いだからぁ!?」

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