インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.43 放課後大乱闘

side黒咲

 

 

 

楯無「はあ、無人IS襲撃事件の次はバイオハザード……。全く、嫌になっちゃうわ」

 

大量の書類に目を通しながら、廊下を歩く楯無は溜息を吐いた。その表情には疲労が見え、誰が見ても眠そうだと分かる程だった。

 

隼「まあ、原因はセシリアのサンドイッチらしいがな。全く、何をどう間違ったらサンドイッチを劇物に変化させる事が出来るのやら」

 

楯無「ホントそれよ!サンドイッチなんてただパンに野菜とかハムとか挟むだけでしょ!?それがどうしてバイオハザード引き起こすのよ!?」

 

隼「俺はピーナッツのサンドイッチも好きだがな」

 

楯無「いや黒咲君の好みなんて聞いてないわよ!?」

 

「生徒会長、覚悟ッ!」

 

「生徒会長に私はなる!」

 

「トライアングルアターック!!」

 

楯無「五月蝿い!!」

 

『ぐふあぁぁぁぁ!!』

 

武装した生徒達を片手間で片付けながら、楯無は愚痴を続ける。生徒会に入ってから聞いた話だが、こういう事は日常茶飯事らしい。以前楯無から、この学園の生徒会長とは生徒最強の証でもあり、教師と同等かそれ以上の権力を持っていると聞いた。その為上級生の殆どがその座を狙い、毎日のように奇襲をかけているのだとか。それにしたって武装までして襲いかかってくるのは些か物騒過ぎると俺は思うのだが、そう感じるのは俺だけなのだろうか?

 

「と、油断させておいて……馬鹿め、死ねぇ!」

 

隼「ふんっ!」

 

「げふぇ!?」

 

倒れた振りをして奇襲をかけてきた生徒を叩きのめし、楯無の後に続く。それにしてもさっきの生徒の喋った台詞、何処かで聞いた事が有るような……?

 

楯無「おー、すごいすごい。やっぱり黒咲君を生徒会に引き入れて正解だったわ」

 

隼「お前俺を便利な護衛役か何かだと思ってないか?まあ別に良いが」

 

楯無「ふふ、やっぱり黒咲君は優しいわね。君のそういう所、お姉さん好きよ?」

 

隼「気持ちの悪い事を言うな、吐き気がする」

 

楯無「酷い!お姉さん結構本気で言ってるのに!?」

 

隼「冗談だ。お前の事は信頼しているし、俺を気遣ってくれるお前の優しさは好ましく思っている」

 

楯無「っ!?……そういう事真面目な顔して言うの、本当にズルいよ」

 

隼「……?どうした、顔が赤いぞ?」

 

楯無「何でもないっ!ほら生徒会室に行くわよ!まだまだ纏めなくちゃいけない書類が沢山有るんだから!」

 

隼「ああ、分かった」

 

何故か急に怒りだした楯無の様子が若干気になったが、大人しく楯無について行く事にした。

 

しかし、この後さらなる面倒事が起こり書類が追加される事を、この時の俺と楯無は知らなかった。

 

 

 

sideラウラ

 

 

 

アリーナでシュバルツェア・レーゲンを展開して待機していると、向かい側から白いラファールを纏ったティナが出てきた。

 

ラウラ「……来たか」

 

ティナ「はいはい、お待たせ〜」

 

ラウラ「別にそれ程待ってはいない。……それがお前の専用機か?」

 

ティナ「あ〜、まあそうだね。ラファール・リヴァイブ・エンジェル、私用にカスタムされた機体ね」

 

カスタマイズされているとはいえ、フランスの開発した機体をアメリカの代表候補生の専用機にしているのに違和感を覚える。基本的に代表候補生に与えられる専用機はその候補生が所属する国家で開発される機体の筈だが……何かを隠しているのか?

 

ティナ「んじゃ、遊ぼうか。準備は良い?」

 

ラウラ「ああ、問題無い」

 

ティナ「あ、そう?そんじゃあ、テキトーに遊びましょうか!」

 

ラウラ「その余裕、打ち砕く!」

 

お互いに距離を置き、戦闘態勢に入る。相手の手の内が分からないので、まずは動かずに出方を伺う。そう考えたのはどうやらあちらも同じようで、お互いに睨み合いの形になった。

 

96『地味な絵面だなオイ。さっさと動けよラウラ』

 

ラウラ(黙っていろ。こういうのは根気強く粘った方が勝つんだ)

 

96『そういうもんなのかねぇ……お、先に痺れを切らしたのはあっちみたいだぜ?』

 

クロの話を聞きながら前を向くと、ティナがこちらに突撃してくる姿が見えた。

 

ティナ「様子見は飽きたし、先手は私から行きますかね!先ずはコレ!」

 

ブレードを展開して切りかかってくる。何の捻りも無い単純な攻撃だが、代表候補生という称号を持っているだけあってその動きは無駄が極限まで削られた見事なものだ。

 

ラウラ「っ!はあっ!」

 

ティナ「あいたぁ!?」

 

最小限の動きで振り下ろされるブレードを躱し、プラズマ手刀によって腕に持っていたブレードをはたき落とす。そしてそれを蹴り飛ばし、ティナがすぐには回収出来ない距離まで弾き飛ばした。

 

ティナ「ってて、今の少し狙いがズレてたら手首から先が真っ二つだったわよ!?」

 

ラウラ「安心しろ、絶対防御があるからそこまで酷い事にはならん。それでも多少は痛い目に遭って貰うがな!」

 

ティナ「……げーーきゃあ!?」

 

腕を抑えてこちらを睨むティナに追撃でレールカノンによる一撃を加える。直撃だが、出力を抑えていたので見かけ程のダメージでは無いだろう。

 

ティナ「ちょ、ちょっとマジになり過ぎじゃない?これは遊びなんだからさ、もうちょい緩く行きましょ、ね?」

 

ラウラ「貴様はそう思ってるのだろうが、私にとってはそうではない。部下を侮辱されたんだ、その報いくらいは受けて貰わないとなぁ?」

 

ティナ「アンタ絶対Sの素質あるわね!?ってうおおぉぉう危ねぇぇぇぇ!?」

 

体勢を立て直す前にワイヤーブレードを飛ばして機体を縛り付けて投げ飛ばそうとしたが、その場でゴロゴロと転がって上手く避けられてしまった。残念、今のが決まっていればコンボを繋げる事が出来たのに。

 

ティナ「良い加減に、しなさいよ!!」

 

流石に頭に来たのか、ティナが私に向けて突進してくる。先程よりも速く無駄の無い動き、これが真面目にやった彼女の本来の実力なのだろう。流石に私も瞬時加速している相手の動きにはついていけないので、大人しく奥の手を使う事にする。

 

ラウラ「……AIC、起動」

 

ティナ「ーーっぐ!?」

 

目前まで迫っていたティナが空中で急停止し、苦しげに顔を歪める。どうやら急停止の反動で身体に少しダメージが来たらしい。

 

ティナ「……な、る程。これが、ドイツの……!」

 

ラウラ「ああ。我がドイツが誇る最新技術、AICだ」

 

『AIC』ーー正式名称『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』は、ドイツが第三世代のISに搭載した技術、自分の視界に映る場所に強力なエネルギーフィールドを発生させ、対象の動きを止める『慣性停止結界』だ。自分の視界の外には使えず、結界の維持にかなりの集中力が必要になる為基本的に一つの物体にしか使えないという欠点があるが、それが全く気にならないくらいの便利さだ。

 

ティナ「……っ!噂には聞いてたけど、ここまで強力な物だったなんてね……身体がちっとも動かないわ。つーかアンタドイツじゃ無能隊長だなんて言われてるらしいけどさあ、一体アンタの何処が無能なのよ……!?」

 

ラウラ「私は任務の遂行よりも部下の安全を優先するからな。無能だという評価は軍人としては当然だろう」

 

試合の戦績の悪さについては何も言えない。試合をする相手が悉く相性が悪い相手であるという悪意のあり過ぎる偶然が続いた結果としか言えない。運良く相性が悪い相手じゃなかったので今回はいけそうだなと思ったら相性関係無く強過ぎる中国の野生児だ。もう幸運の女神に遊ばれてるとしか思えない。おのれ女神、そんなに私のリアクションが面白いのか。

 

ティナ「……あ〜成る程、生粋のお人好しって訳だ。うんうん、そういう感じの人は評価高いよ〜?まあ、私じゃなければの話だけど」

 

ラウラ「貴様からの評価などどうでもいい。大人しく降参しろ、そうすればこれ以上攻撃はしない。どうせ貴様はもう動けないだろう」

 

というかこれ以上結界を維持するのは疲れるし、これ以上戦うのは正直面倒だからとっとと降参して欲しいんだが。という本音をうっかり口にしそうになるが、部下を侮辱した事を後悔させるという理由で戦うのを決めた手前そんな事絶対に言えないので必死に堪える。

 

ティナ「うっわ超舐められてるよ私。……正直舐められっぱなしはムカつくわね。よし!出血大サービスよ、有り難くボコられなさい」

 

96『……!?やべぇ!?今すぐ離れろラウラ!?コイツ何かおかしいぞ!?』

 

ラウラ(何……?)

 

珍しく慌てた声を出すクロに若干の違和感を感じたが、目の前のティナに動きは無い。というか、私のAICが作動している限りティナは指先一つ動かす事が出来ないのだから、クロがここまで慌てる事は無い筈なのだがーー

 

ティナ「アイツには後で何か言われそうだけど、こうしなきゃ追い詰める事が出来ないなら仕方ないわよね。ゲームを変えるわよラウラ・ボーデヴィッヒ。ルールは簡単、これからの遊びでアンタが生き残れば勝ちよ。もしも負けたら……下手したら死んじゃうかもね?」

 

ラウラ「……!?」

 

ティナの纏う空気が変わる。先程までの軽薄そうな笑みと緩い気配は何処かに消え、口元には冷たい笑みが浮かび、黒い瘴気と共に身体に纏わりつくようなどんよりとした気配が辺りを包んでいた。

 

ラウラ「貴様、一体……!?」

 

ティナ「さあ、久しぶりにやるとしますか!来なさい、私の専用機!」

 

今まで身に纏っていた機体を解除すると、ティナはそう叫んだ。ISスーツを着ただけになったティナのその手には先程まで存在しなかった筈のカードが握られており、その背中にはーー

 

ーー天使の羽が、生えていた。

 

ラウラ「何だ、これは……!?」

 

綺麗な筈なのに悍ましい。暖かい筈なのに冷たい。明るい筈なのに暗い。優しい筈なのに恐ろしい。それを素晴らしい物だと思っても、精神がそれを全力で否定し、理解するのを拒もうとする。そんな相反する二つの感情を無意識に抱かせるその姿は、私には天使では無く人の命を奪う悪魔にしか見えなかった。やがてティナを眩い光が包み込んだが、それに反比例するように私達の周囲を覆う黒い瘴気は濃くなっていく。

 

ラウラ「……ぁ」

 

声が出ない。身体が動かない。心が凍てつくように寒い。頭の中が自分の死のイメージに埋め尽くされていく。目の前に居た筈のティナが、違う別のナニカに見える。光が収まった時、そこには美しい天使(恐ろしい死)が私を見て微笑んでいる姿があった。

 

ティナ「……ザ・スプレンディッド・ヴィーナス、私の本当の専用機よ。さあ、楽しい楽しい闇のゲームを始めましょうか!」

 

そう言ってティナはカードを持っていた手に杖を出現させ、私に向かって振った。次の瞬間、無数の光の柱が上空から飛来し、私目掛けて降り注いだ。

 

ラウラ「……か、は……!?」

 

次々と降り注ぐ光の柱が私の身体を焼いていく。絶え間なく続く攻撃に身動きを取る事すら許されず、ただただ身体を焼かれ続ける。

 

ティナ「ほらほら!もうちょい頑張りなさいよ!」

 

ラウラ「ーーぐっ!?がはぁ!?」

 

光の柱によってロクに身動きが取れない私に、ティナは思い切り蹴りを入れた。

 

ラウラ「がっ、ああぁぁ……!?」

 

ティナ「ありゃりゃもうダウン?まあ仕方ないか、あんだけキツイの食らったんだもん。むしろ凄いって褒めてあげるよ、常人なら痛過ぎてもう気が狂ってる筈だし」

 

ティナが何を言っているのか良く分からない。其れ程までに私を襲う痛みは凄まじかった。絶対防御で守られている筈の身体が、実際に焼かれたと錯覚するくらい熱い。ただ装甲越しに一発蹴られただけなのに、生身の身体に鉄の塊を思い切り叩きつけられ、全身の骨が砕け散ってしまったかのような痛みを身体が訴えている。それでも、まだ私の意識は途切れない、途切れる事を許さない。

 

ラウラ「はぁっ、はあっ……!……まだまだ、私は負けて、無いぞ!」

 

ティナ「満身創痍なのに良く言うわね。何事も我慢は身体に悪いものよ?意地張らないで負けを認めたら?」

 

ラウラ「断る!私は、貴様に部下を侮辱した事を後悔させるまでは負ける気は無い!」

 

ティナ「……チッ!あーあー部下思いの優しい人ですねー凄いなー反吐が出るなー。テキトーに痛めつけるだけにしようと思ったけど、アンタムカついたからもう要らないわ。……とっとと死ね」

 

先程までの愉快そうな笑顔を消し、殺意の込められた冷たい表情でティナは杖を振り下ろしーー

 

直後、降り注いだ光の柱によって私の右腕は切り落とされた。

 

ラウラ「ーー!?がああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ティナ「あら?首を切り落とす筈だったんだけど、狙いがちょいズレちゃったみたいね。運が良かったわね」

 

ラウラ「あああぁぁ……ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?切り落とされた断面が激しい熱を発している。頭が現実から逃げようとして意識をシャットアウトしようとするが、想像を絶する痛みがそれを許さない。駄目だ、こんなもの耐えられる訳が無い。早く、早く誰か私を殺してくれ。こんなのをまだ味わうなんて嫌だ、だから誰かーー

 

96『ラウラ!落ち着けラウラ!これは幻覚だ!ダメージこそ受けちゃいるが、テメェの右腕は切り落とされてなんかいねぇ!』

 

ラウラ「な……に……?」

 

これが幻覚?そんな馬鹿な事がある筈がない。現に私の右腕は私の身体から離れている。痛みだって感じている、血だって、大量にーー

 

ラウラ「……血?」

 

そこまで考えて、自分の右腕がついていた所を見る。右腕を切り落とされた筈のそこからは、ただ一滴の血すら流れていなかった。

 

ラウラ「これ、は……!?」

 

96『だから幻覚だって言ってんだろ!テメェにゃ腕が無くなったように見えんだろうが、俺からはちゃんとテメェの腕が見えてんだよ!ほら、もう大分痛みが引いてる筈だ。テメェが感じた痛みも、あの幻覚による錯覚だ!』

 

そう言われてみると、確かに痛みは引いている。そして感覚こそ鈍いが、右腕があった筈の部分が動いている気配を感じた。私には見えないが、どうやら右腕はちゃんと動かせるらしい。

 

ティナ「あら、気が付いたの?驚いた、このまま壊れるんじゃないかと思ってたわ」

 

ラウラ「はあ……はあ……!対象に幻覚を見せ、脳への錯覚によって激痛を与える……それがその機体の単一能力か?」

 

ティナ「当たらずとも遠からずってトコね。これは単一能力じゃないけど、ウチの一部の機体にしか搭載されてない機能だから。まあでも安心して?これは一応私にも影響するから、逆に私を苦しめる事も出来るわよ?」

 

ラウラ「私が……反撃出来ればの話だろうが……!」

 

ティナ「いえ〜す。もう諦めたら?心身共にズタボロになったアンタに勝ち目なんて無いわよ?」

 

ラウラ「っく……!」

 

ティナの言う通りだ。何とかティナの隙を突き、反撃に転じる事が出来ればまだ勝機が有るかも知れないが、それをするには圧倒的に精神と肉体の限界だ。何か、何か状況を変える何かが有ればーー

 

『ーー力が欲しいか?』

 

ラウラ「……!?」

 

突如脳内に響いた無機質な声に思わず辺りを見回す。このアリーナには私とティナの二人しか居ない。クロの声でもない。ならばこの声は一体何だ?

 

『ーー繰り返す。力が欲しいか、ラウラ・ボーデヴィッヒよ?』

 

ラウラ(誰だ……貴様は……?)

 

『私はお前の内に潜む者。お前に力を与える者。この戦況を覆す、絶対的な力を与える者なり』

 

ラウラ(力、だと?)

 

『そう、あの小娘を叩き潰す力。かのブリュンヒルデの力をお前に与えよう。さあ、私を受け入れるのだ』

 

ブリュンヒルデ、教官の力か?つまり私に語りかけるこの声の正体はあのシステムなのか。ははは、あんな物を積むなんて本国は私をモルモットとして徹底的に使い潰す気マンマンらしい。清々しいまでに真っ黒で笑えてくるな。

 

ラウラ(本当に、貴様を受け入れれば勝てるのか?)

 

『ああ、ブリュンヒルデと同じ力を持つ私が保証しよう。私を受け入れれば絶対に勝てる』

 

ラウラ(そうか……分かった)

 

今のは確認だ。私の心は、とっくの昔に決まっていた。

 

ラウラ(私はお前を、受け入れるーー訳無いだろうがこの馬鹿がああぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

『え、えええぇぇぇぇぇぇ!?』

 

拒否一択である。当たり前だろう、こんな怪しい奴の力なんて借りてたまるか。

 

『えっ、嘘っ、冗談だよね!?ネタだよね!?今の完全に私受け入れる流れだったじゃん!?暴走フラグだったじゃん!?なに当たり前のように断ってんの!?』

 

ラウラ(だ〜れがお前みたいな危ないシステム受け入れるんだ!?第一教官の力なんぞ今受け取っても何の役にも立たんわ!今ブレード一本でアレに突っ込んでもハチの巣にされるだけだわ!?)

 

96『うひゃひゃひゃひゃ!あーっひゃひゃひゃ!!やっぱお前最っ高だわラウラ!あの流れで断るとか普通誰もやらねえって!やっぱお前のパートナーになったの正解だわ!そこらの馬鹿女共の百倍面白え!』

 

ラウラ(黙れ呪いのアイテム第一号!貴様が住み着いてから寝不足だ私は!?いい加減私の身体から出てけ!)

 

『お願いだから私そっちのけで話しないでよ〜!?お願いだから私使ってよ〜!?ブリュンヒルデのデータ入ってるからブレード一本でも凄い強いよ!?十分戦えるよ!?』

 

ラウラ(その変態じみた動きに中にいる私が耐えられないんだよ!?お前使って一体何人死んだと思ってる!?あとキャラブレてるぞ!?さっきまでの偉そうな態度は何処に行った!?)

 

『あんな堅苦しい話し方長く続けられる訳無いじゃん!?頼むから私を使ってよ〜!?一生のお願い!お願いしますラウラ様〜!?』

 

96『あーっひゃっひゃっひゃ!?ラウラ様!ラウラ様だって!システムに様付けされる搭乗者って!』

 

ラウラ(黙れええぇぇぇぇぇぇ!?頭の中がぐわんぐわんするからもう黙れ貴様らああぁぁぁぁぁぁぁ!?)

 

頭が痛い。何で私の中の同居人は曲者しかいないんだ。いやそもそも同居人がいる事自体がおかしいんだが。

 

ティナ「……何を頭抱えてブンブン振ってるのよ。気でも狂ったの?」

 

ラウラ「……そういえば居たんだったなお前」

 

ティナ「忘れられてた!?」

 

いや、本当に忘れていた。同居人が五月蝿過ぎて頭から離れていた。しかし困ったな、コイツの対処法が全く思い浮かばない。クロやポンコツシステムを受け入れる気は毛頭無いが、それくらいしないと勝てそうに無いのが辛い。

 

96『クヒッ、クヒヒヒヒ……!良いぜぇ、出血大サービスだ。面白いモン見せてもらった礼に、俺がコイツを倒してやるよ』

 

ラウラ(は?貴様一体何を考えてる?)

 

96『少し身体借りるぜ、ラウラ?』

 

ラウラ(……はあ!?おい貴様何を勝手にーー)

 

その続きを言おうとした所で視界が真っ暗になり、私の意識は暗転した。

 

 

 

sideティナ

 

 

 

ティナ「……およ?」

 

先程まで私を睨んでいたラウラががくりと項垂れ、そのまま動かなくなった。気絶しちゃった?

 

ティナ「やり過ぎたかしら……?」

 

不味いな、これはアイツの寄越した仕事を失敗してしまったかもしれない。ラウラをテキトーに痛めつけてラウラの機体に積まれていたとあるシステムを起動させるというプランだったのに、少々やり過ぎたみたいだ。正直ここまでやる気は無かったんだけど、余りにもムカついたからつい殺す気でやってしまった。

 

ティナ「はあ、まーた怒られるわコレ。……ん?」

 

この後自分に待ち受ける説教に溜息を吐いていると、ついさっきまでピクリとも動かなかったラウラが起き上がっているのが目に入った。

 

ティナ「あ、起きた?アンタ気絶してたわよ?悪い事言わないから降参したら?私もちょっとやり過ぎたと思ってるから、今回はこれで終わりって感じで……」

 

ラウラ?「……クハッ、終わりだぁ?俺様をここまで痛めつけといてそりゃねえだろ、あぁ?」

 

ティナ「あれ、何か急にヤンキーっぽくーー」

 

ラウラ?「第2ラウンドだ!テメェが泣いて土下座するまでボコり続けてやるよ!ヒャーハハハハハハ!!」

 

ティナ(あ、あっれえええぇぇぇ!?)

 

なんかキャラが180度変わってる。それに合わせて赤かった瞳が真っ黒に染まっていて、トチ狂ったような笑い声を上げている。あれ、何か違う気がする。どう見てもあのシステムが作動した感じには見えない。それとはまた別の何かなのか?

 

ラウラ?「オラァ!!」

 

ティナ「うわっ結構速っーーきゃあ!?」

 

予想以上のスピードで繰り出された蹴りに対応出来ず、勢い良く吹き飛ばされる。先程までとは段違いのスピードが出ている。明らかにあの機体のスペックで出せるスピードではない。

 

ラウラ?「ヒヒッ!先ずは蹴りを一発お返しだ、つーぎーはー、腕に一発!」

 

ティナ「っ!ぐうぅぅ!?」

 

体勢を立て直した瞬間にプラズマ手刀による右腕への強烈な斬撃。一応腕を両断される事は無かったが、闇のゲームによる精神へのダメージによって腕が千切れたような痛みを感じる。はあ、久しぶりにこのレベルのダメージを受けたけど、やっぱ痛いなあ。

 

ラウラ?「アッヒャヒャヒャ!そういやテメェにゃ散々ハチの巣にされたっけなあ?今度は俺様がハチの巣にしてやるよぉ!」

 

そう言ってこちらにレールカノンを向けてくるラウラ。やばいやばいやばい、あれをマトモに食らったら流石に精神がやばい!?

 

ティナ「んなもんに当たってたまるか!?ーー身体が動かない!?まさかAIC!?」

 

いつ、どうやってかけた!?最初に使われて以来あれを使わせないよう細心の注意を払っていたし、今距離を取ろうとした時だって使わせないようにレーザーを使って牽制をしていた。使う為の強い集中をさせる時間を与えないように立ち回っていた。それなのに、何故私は動けない!?

 

ラウラ?「AICなんざ使ってねえよ。自分の身体をよーく見てみるんだな!」

 

ティナ「身体……これは!?」

 

確かに彼女はAICなど使ってはいなかった。その代わり、彼女の腕から伸びる影が私を縛り付け、動きを封じていた。

 

ティナ「何よ、コレ!?」

 

ラウラ?「ハーハッハッハ!動けねえだろぉ?ギッタギタにしてやるよぉ!!」

 

ティナ「っ!?ああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

私をレールカノンの集中砲火が包み、機体を容赦なく焼き尽くしていく。闇のゲームによる反動も合わさって凄まじい痛みが私を襲ってくる。ああ、やばいこれ死ぬ。

 

ラウラ?「ヒャハハハハ!これでテメェにやられた分は全部返してやったぜ!おらどうした!散々人に降参提案しといてそのザマか!」

 

ティナ「……チッ!たかが数発やり返したくらいでいい気になってんじゃないわよ……!そんなに相手して欲しいんなら、お望み通り叩き潰してやるわ……!」

 

もう怒った。こんな早くに手の内を晒すのは不味いのだけれど、ここまで馬鹿にされたらもう限界だ。奥の手を使って思い切り叩き潰してやる。

 

ティナ「……【ヴァルハラ】、起動」

 

ラウラ?「……あん?」

 

私の言葉と共にヴィーナスが発光し、周囲に光の神殿を投影する。そして神殿から無数の光の球体が現れ、小型の天使を想起させるような姿のISへと変わる。これがヴィーナスの単一能力、自分の思い通りに動かせる天使の兵隊を無数に召喚する私の奥の手だ。

 

ティナ「世の中には色々な形の強さが有るわよね?圧倒的なパワー、類稀な頭脳、底無しのカリスマ、エトセトラエトセトラ。でも私は、その中でも『数』こそが最強だと考えているわ。どんなに個の力や頭脳、カリスマが優れている天才でも、その人物の対処出来る量の限界を超えた数の凡人の集団には、なす術も無く敗れるの。それは、過去の歴史に名を残す偉大な先人達が証明してくれているわ。だから私は数に頼る。数の力で、アンタを完膚なきまでに叩き潰してあげる」

 

ラウラ?「ハッ!ようは自分一人の力じゃ勝てないから数に頼るっつー小物の考えじゃねえか!自分で言ってて情けなくねぇのか?」

 

ティナ「生憎、そんな事で情けなく感じるようなやわな精神持ってないんでね。使える物は何だって使うのが私のモットーなのよ」

 

ラウラ?「ハハッ、上等じゃねえか!そのちっせえ天使供を全部ブチのめして、テメェをブン殴ってやる!」

 

ティナ「残念ながらそれは無理ね、こいつらは半永久的に増え続けるから。袋叩きにあって泣くのはアンタよ!」

 

そう言って私は天使達に指示を出し、いつでも突撃できる体勢を作る。対するラウラも好戦的な笑みを浮かべて拳を握り、自分の周囲に影を放出する。

 

ティナ「これで、ゲームセットよ!」

 

ラウラ?「ヒャハハハハハ!終わりだあぁぁぁぁ!!」

 

私の天使とラウラの拳、二つがぶつかろうとしたまさにその瞬間、激しい衝突音と共にラウラに攻撃しようとした天使が爆散した。

 

ティナ「……へ?」

 

ラウラ?「……お?」

 

麻耶「……ただでさえ昼間のバイオハザードの所為で片付けなきゃいけない書類が山積みなのに、さらに書類を増やす気ですか、二人共?」

 

そんな声と共に、土煙の中からIS用のハンマーを展開した山田先生がとても良い笑顔で現れた。まあ、その目は一切笑っていないのだが。

 

ティナ「なーんで邪魔するんですかねぇ山田先生?この試合、一応天上院先生から許可を貰ってるんですが?」

 

麻耶「確かに許可は出されてます。ですがティナさん、天上院先生は怪我をしない範囲での試合を許可すると言っていた筈ですよ?絶対防御のおかげで大した事にはなっていませんが、二人共ボロボロじゃないですか。教師としてはこれ以上の試合の続行は認められません」

 

そう答える山田先生からは恐ろしい程の殺気が発せられている。仮に山田先生を無視して試合を続行した場合、山田先生は容赦無く私にハンマーを振り下ろすだろう。大人しく従った方がいいと考え、機体を解除する。それによって先程までアリーナを覆っていた瘴気が消え、重苦しかった空気が元に戻った。

 

ラウラ?「……チッ!つまんねーなあオイ。白けた、俺は帰らせて貰うぞ」

 

心底つまらなそうな顔をして、ラウラは機体を解除する。

 

ティナ「あら、逃げるの?」

 

ラウラ?「これ以上の試合は駄目なんだろ?なら帰るしかねぇじゃねえか」

 

ティナ「まあ、そうね。山田先生、指示通り試合は中止しますが、何か私達に処罰とかは有るのでしょうか?」

 

麻耶「一応私達教師が許可を出した上での試合なので、処罰なんかはありません。ただし、ティナさんのその機体は学園側に報告されてないので、それに関するレポートは後で提出して貰う事になります」

 

うへえ、面倒臭い事になった。レポートとか書くの本当に嫌いなんだよなぁ。

 

ラウラ?「……で、もう帰って良いのか?」

 

麻耶「ああ、はい。あ、でもボーデヴィッヒさんは怪我をしてるので、医務室に行った方がいいと思うんですが」

 

ラウラ?「見た目程酷え怪我じゃねえから問題無えよ。んじゃあ先生、また明日」

 

麻耶「はい!また明日会いましょう!」

 

私に背を向け、ラウラはアリーナから去っていく。あのシステムを起動させる事は出来なかったが、また別の何かが彼女の中に潜んでいる事が分かったので、アイツも文句は

言ってこないだろう。

 

ティナ「はあ、ダルい……」

 

レポートの内容を考えながら、私はため息を吐いた。

 

 

 

side一夏

 

 

 

部屋に戻ると、箒が荷物をカバンに詰めていた。

 

一夏「何やってんだ箒?」

 

箒「む、帰ってきたか一夏。いやなに、今日から部屋割りが変わるらしくてな、私は別の部屋に行く事になったらしい。そこで今は引っ越しの準備をしているところだ」

 

一夏「へえ、引っ越しねえ……」

 

随分と急な話だ。まあ、一応男子として転校してきたシャルルが居るので有る程度の引っ越しが必要だったのだろうという事は分かるが。

 

箒「という訳で、今日から私はルームメイトでは無くなるが、それを理由に朝の鍛錬をサボったりするなよ?」

 

一夏「分かってるって」

 

箒「ふふ、良い返事だ。それでは一夏、さらばだ。また明日学校でな」

 

一夏「おう、また明日な」

 

それだけ言って、箒は部屋を去って行く。アイツ、あまり沢山物を買わない性格だからか荷物が結構少なかったな。

 

一夏「それにしても、箒が引っ越したって事は、俺の新しいルームメイトは……」

 

そこまで考えた所でドアがノックされる。最初は箒が忘れ物を取りに来たのかと思ったが、鍵を山田先生にまだ返却していない箒がノックをする筈が無いので、恐らくは別人だろう。そう考え、俺はドアを開けた。

 

シャルル「あ、一夏?」

 

一夏「やっぱ新しいルームメイトってお前か、シャルル」

 

シャルル「えーと、つまり、一夏が僕のルームメイトって事で良いんだよね?」

 

一夏「おう。宜しくなシャルル」

 

シャルル「う、うん。宜しく……」

 

シャルル(う〜ん、一夏かあ……。僕としては上手く取り入り易そうな真月君か織斑君が良かったかなぁ……)

 

一夏「どうしたんだ?何が考え事でもしてるのか?」

 

シャルル「ああうん、見た感じシャワールームは有るけれど、お風呂は無いのかなあって」

 

一夏「ああ、風呂なら無いぞ」

 

俺がそう答えると、シャルルは露骨に残念そうな顔をした。風呂は俺も好きだから気持ちは分かるが、顔に出す程なのか。

 

シャルル「そうなんだ……あ、でも確か島の端の辺りに大きな浴場有ったよね?あれは勿論使えるんだよね?」

 

一夏「残念ながらまだ男子には解放されてなくてな。シャワーで我慢するしかないぞ」

 

シャルル「そんな!?そんなのあんまりだよ!?」

 

シャルル(お風呂にも入れないなんて!?スパイ行動の為とはいえ、やっぱり男子で入るのは間違いだった!?恨むよ父さん!?いや元から恨んでるけど!?)

 

どうやっても風呂に入れないと聞いて激しく取り乱すシャルル。女だというのは既に分かっているので風呂に入りたがるのも分かるが、ここまで露骨だと疑ってくれと言ってるようなもんだぞ?

 

一夏「……はあ、分かった。浴場とは逆方向にあるレッド寮っていう用務員と警備員が住んでるトコに露天風呂が有るから、今度利用出来るか聞いてやるよ」

 

シャルル「露天風呂!?そんな物があるの!?」

 

一夏「ああ、島をランニングしてる時に偶然見つけてな。結構良い感じだったから俺も興味があったんだ。OKして貰えるかは分からないが、一応交渉はしてみるよ」

 

シャルル「本当に!?ありがとう一夏!」

 

顔を輝かせてそう言ったシャルルに、思わず苦笑する。本当にこいつは自分が男装をしているという自覚が有るのだろうか。

 

一夏「気にするな。これから一緒に生活するルームメイトなんだ、助け合って行かなきゃな」

 

シャルル「うん、そうだね。改めて宜しく、一夏!」

 

にこやかに笑うシャルルに笑顔を向けながら、俺は目の前の男装の少女の目的が何かを、ずっと考えていた。




次回予告

蘭「どうも!今回の次回予告担当最近マドカの訓練が厳し過ぎて死にそうな五反田蘭と!」
マドカ「中々に伸び代が有る弟子にワクワクが止まらないマドカ・ミューゼルだ」
蘭「あうぅ……身体中バキバキだよ。もう少し手加減してくれても良いんじゃ無い?」
マドカ「駄目だ。この一年でISを乗りこなしたいならば、これくらいは軽くやらなきゃいけない。弱音を吐いてる暇など無いぞ?」
蘭「うう、マドカのスパルタ……」
マドカ「文句を言うな。ほら、次回予告を始めるぞ」
「突然ですが、ルール変更のお知らせです!今年の学年別トーナメントは、タッグ戦になりました!」
蘭「うわぁ……凄いルール変更だね。こんなの突然決めちゃって良いの?」
マドカ「まあ駄目だろうな。だがそれを可能にしてしまうのが、この学園の生徒会長の権力の強さを表しているな」
「私と組まないか、真月零?」
マドカ「ふむ、ラウラが零を誘うのか。これはまた面白いタッグになりそうだ」
蘭「私としては、これを受けた零さんが後でどうなるかが心配ですね」

次回、インフィニットバリアンズ

ep.44 学年別タッグトーナメントのお知らせ

蘭「次回も是非見てくださいね!」
マドカ「ジャン、ケン、ポン!」
蘭「何故今ここでサ●エさん!?」

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