インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.38 激戦の後

side真月

 

 

 

簪を背負って森を歩いていると、天音達と合流した。どうやら一足早く決着がついていたらしい。

 

一夏「おう、そっちも片が付いたみたいだな」

 

真月「はい、なんとか……」

 

ふと側の木の方に目をやると、秋介の奴が荒い息をしながら木に寄りかかっていた。

 

秋介「はあ、はあ……!へっぽこか、見た感じ、更識さんを助ける事が、出来たみたいだね……!ふっ、やるじゃないか……!へっぽこにしては、上出来だ……!」

 

真月「はい、ありがとうございました秋介君。君が居てくれて、助かりました」

 

秋介「はっ!気にする事は無いさ。そこのブラコンに連れてこられて、成り行きで助けただけだからね。それで、更識さんは無事なのかい?」

 

真月「はい!ちょっと記憶に混乱が有りますが、命に別状は有りません。医務室に運べば、すぐに良くなると思います」

 

俺がそう言うと、秋介は少しだけ安心したように笑った。

 

秋介「……そうかい、それは……良かったよ。少し疲れてるから、暫く此処で休んでく。先に学園に戻っててくれて構わないよ」

 

一夏「俺も残る。零達は先に戻っててくれ」

 

真月「分かりました。もう夜も遅いので、ちゃんと寮に戻って下さいね!行きましょう天音さん、楯無さん!」

 

楯無「ええ、分かったわ」

 

天音「あはは、もうヘトヘトだよ……」

 

そうして俺達は疲れきった身体を引きずって、学園へと足を進めた。

 

 

 

side一夏

 

 

 

零達の姿が見えなくなった後、肩で息をする秋介に俺は話しかけた。

 

一夏「なあ、何で俺達に協力したんだ?」

 

秋介「……さっきも言っただろ、成り行きだよ成り行き。いきなり何を聞いてくるんだ、僕が戦う理由なんてお前には関係無いだろ」

 

一夏「確かに関係無いな。でも本当に成り行きなら、あそこまで本気を出さないだろ」

 

秋介「神童に加減なんて許されない。いつだって全力を出すのが神童ってものだ」

 

一夏「そうか?俺には簪の名前が挙がってからお前がマジになったように見えたんだが?」

 

秋介「…………」

 

俺の言葉に秋介は不機嫌そうな顔をして黙り込む。そう、連れてこられてすぐの時には文句しか言っていなかったコイツは、簪が事件に関わっていると知った途端に文句も言わず戦闘に参加する意思を見せたのだ。此処から導き出される結論は即ちーー

 

一夏「さては秋介、お前簪に惚れてるな?」

 

秋介「何でそんな結論に至るんだこの馬鹿野郎!?」

 

ありゃ、違ったか。我ながら冴えた推理だと思ったんだけどなぁ。

 

一夏「じゃあ何でだ?」

 

秋介「だから何でお前に言わなきゃ……はぁ、分かった分かった。話してやるよ」

 

そう観念した表情をしてため息を吐くと、秋介は真剣な目でこう答えた。

 

秋介「……更識さんの専用機の開発が凍結されていた事はもう知ってるよな?」

 

一夏「ああ、確か原因は……」

 

秋介「そう、僕の専用機開発を姉さんが推し進めたからだ。僕と姉さんが、更識さんから専用機を奪ったんだ。だから僕は、その償いをしなきゃいけないと思っただけさ」

 

一夏「成る程な。だがそれに関してはお前も後から知った事なんだから、気にする事は無いだろ?」

 

秋介「そんな訳あるか。姉さんがかけた迷惑だ、姉さんに謝る気が無いなら、身内の僕がその責任を取らなきゃ人として終わっちゃうからね」

 

一夏「虐めをしてる時点で人として終わってると俺は思うんですがそれは」

 

秋介「この学園に来てからはしてないだろうが!?」

 

一夏「前科持ちってだけでアウトですー!バーカバーカ!お前の姉ちゃん駄目人間ー!」

 

秋介「ガキかお前は!?つーか姉さんはテメェの姉でもあるだろうが!?」

 

一夏「ちーがーいますー!血が繋がってるだけの赤の他人ですー!俺の兄弟はカイト兄さんとハルトだけですー!」

 

秋介「言ってる事色々と矛盾してるぞ……。なら一応警告しといてやる。一夏、姉さんがお前を連れ戻そうとしてる。多分近い内に何かやらかすぞ」

 

元姉が俺を?一体何の為に?俺がそう考えているのを読んだように、秋介はため息をつきながら言葉を続けた。

 

秋介「大方、お前の専用機を奪い取る為だろうさ。もしくはお前達の会社がお前を攫っただの何だのと言って、無理矢理強い機体を奪う為だね」

 

一夏「成る程な。なら何でお前はそんな事教えてくれるんだ?それなら隠しておいた方がお前にとっても得だろ」

 

俺がそう言うと、秋介は不機嫌そうな顔をさらに不機嫌そうに歪めながら俺を睨み付けた。

 

秋介「馬鹿かお前。機体奪われて弱くなった奴を倒したところで僕の強さは証明されないだろうが。僕は神童だ。機体性能に差が有ろうと正面からお前らを叩き潰して、僕が最強のIS操縦席だって事を学校全体に知らしめてやるさ。だから一夏、お前に一つ言っておいてやる!」

 

そこまで言って一旦言葉を切ると、秋介は俺に指を指してこう続けた。

 

秋介「次の学年別トーナメントで、僕はお前を倒す!これは僕からお前への戦線布告だ!クラス代表決定戦のリベンジを果たしてやる!」

 

一夏「……良いぜ、受けて立ってやる。まあ、絶対にリベンジなんてさせないがな」

 

秋介「ハッ!今の内に吠えておくんだね、最後に笑うのは神童であるこの僕さ!」

 

一夏「ククク……」

 

秋介「ハハハ……」

 

一・秋『ハッハッハッハッ!!」

 

そうして暫くの間、俺達は静かな森の中で笑い続けた。

 

 

 

side真月

 

 

 

真月「何で電気が消えてんだ?」

 

傷だらけの身体を引きずって、何とか俺達は学園まで帰って来ることが出来たのだ。しかし、学園では俺達が行く前とは違って何かしらの異常が起きたらしく、一切の光が存在しなかった。

 

楯無「停電、かしら?変ね、落雷なんかは無かった筈だけど。発電所で何か有ったのかしら?」

 

天音「え、それやばくない?学園全体がこんな状態なら、医務室の機械も使えないよね?」

 

真月「別に簪の怪我はそこまで深く無いんだから大丈夫だろ。楯無もお前もそれ程酷い怪我じゃねぇみたいだし」

 

天音は擦り傷程度だし、楯無の方も打撲くらいだ。すぐに治療をしなきゃ不味いって程では無いだろう。

 

天音「いや治療が必要なのは君だよ零!?君起きたばかりでどれだけ無理したか分かってるのかい!?」

 

ああ、そういえば俺は今日起きたばっかりだったな。あまりにも自然に動き回ってたから忘れていた。

 

真月「まあ確かに身体中痛えが、耐えられない程じゃねぇよ。ほら、とっとと簪を医務室に連れて……お?」

 

学園に入ろうとした時、門の前で誰かが手を振っているのが見えた。眼鏡を掛けたその少女は、確かクラス代表就任パーティーでインタビューに来たーー

 

薫子「どーもー!皆お疲れさま!そろそろ帰って来る頃だろうと思ってたわよ?」

 

楯無「薫子ちゃん?何で此処に?」

 

薫子「やーねぇたっちゃん、そんな事は今気にする事じゃ無いでしょ?ほら、早く医務室に行きましょ?簪ちゃんがこうなった理由も、聞きたいでしょう?」

 

楯無「えっ!?ちょっとそれどういうーー」

 

楯無の問いかけを無視して、黛は心底面白そうに笑った。まるで焦る楯無を見て楽しんでいるかねようなその表情に背筋が冷えていく感覚がする。

 

薫子「兎に角、医務室に行きましょう。先生達に見つからないように、静かに動いてね?」

 

何処か寒気を覚える笑顔に逆らう事が出来ず、俺達は黛に続いて学園内へと歩いて行った。

 

 

 

薫子「……さて、何から聞きたい?」

 

医務室で簪を寝かせた後、椅子に座った黛は俺達ゆそう尋ねてきた。

 

真月「じゃあ一つ目だ。テメェ、今回の事件どこまで知ってやがる?」

 

薫子「簪ちゃんが精神的に追い詰められてナンバーズに手を出して、暴走したのをたっちゃん達が止めた所まで。流石にたっちゃん達がどんな戦いをしたかまでは分からないけど、まあ楽な戦いじゃあ無かったのは確かね」

 

楯無「全部知ってるって事じゃない……それで薫子ちゃん、貴女一体何者なの?ついさっき起きた出来事に此処まで詳しいなんて、只者じゃ無いわよね?」

 

薫子「私は『情報屋』だよ?少し裏にも精通してるだけの只の情報屋。それとたっちゃん、確かに簪ちゃんが暴走したのはついさっきだけど、この事件自体は三日前から始まってたよ?」

 

天音「三日前って……アリーナ襲撃事件のすぐ後って事かい!?」

 

薫子「ええ。三日前、アリーナ襲撃事件が終わったすぐ後に簪ちゃんはナンバーズを手にして、それに取り憑かれてしまった。そこから今日まで三日空いたのは、ナンバーズを簪ちゃんに馴染ませる為ね」

 

真月「成る程な……」

 

簪があそこまで深くナンバーズに侵食されていた事から、ナンバーズに取り憑かれたのは何日か前だろうと推測していたが、まさかあの日のすぐ後だったとは。だがそこまで分かってるという事は、黛はーー

 

真月「黛、テメェ簪にナンバーズを渡した人間が誰か、知ってるのか?」

 

薫子「勿論知ってるわよ?教えないけど」

 

楯無「なっ!?何でよ!?」

 

薫子「何でって……何で私がそこまで教えないといけないのよ?」

 

楯無「……え?」

 

薫子「私は情報屋よ?情報屋が商売道具なの。タダでホイホイ貴重な商品を売る商人なんていないでしょ?そういう事よ」

 

真月「金を払えって事か……!」

 

薫子「勿論。言っておくけど、私は現金でその場で払ってもらう以外は認めないわよ。後で口座に振り込むとかは無しだからね」

 

楯無「巫山戯ないでよ!簪ちゃんの命が危険に晒されたのよ!?お金がどうこうなんて言ってる場合じゃ無いでしょ!?」

 

激昂した楯無が黛に掴みかかる。胸ぐらを掴まれて無理矢理立たされても、黛のその表情から笑顔が消える事は無かった。

 

薫子「痛いなあ、たっちゃん。そんなに乱暴にしたら服が伸びちゃうじゃん。それとたっちゃん、それが何?私にとって情報は重要性に差があれど基本的に全て平等に売り物なの。誰の情報だからって値段を下げたり上げたりは絶対にしないわ。教えて欲しければ金を払いなさい」

 

楯無「っ!この……!」

 

真月「待て楯無!?」

 

天音「暴力は無しだよ!?」

 

その言葉に怒りを更に爆発させて黛に拳を振り上げた楯無を天音と一緒に必死に押さえつける」

 

楯無「離しなさい!薫子ちゃんに一発ぶち込んでやらなきゃ、私の怒りが収まらないの!」

 

真月「だから落ち着けって!金を払えば教えてくれるっつってんだから、穏便に行こうぜ!」

 

薫子「ふふふ、やっぱり君は話が分かる良い子みたいね真月君。流石、あのレジスタンスや亡国企業を配下に加えただけの事はあるわ」

 

真月「……テメェ、マジで何者だ?」

 

此処まで詳しいと、流石に恐ろしく思えてくる。本当に目の前の黛は以前クラス代表就任パーティーで俺達にインタビューした黛なのか?黛の皮を被っただけの赤の他人では無いのか?

 

薫子「ふふふ、そうね、それくらいは教えても良いかも知れないわね。真月君、『ニュース』ってコードネームに聞き覚えは無いかしら?」

 

ニュース……確か亡国のハッカー部隊の名前だったな。あらゆる国家の重要施設に難なく浸入し、どんな情報だって盗む事が可能な超凄い集団だったとスコールから聞いた事がある。しかしその正体は末端のハッカーに至るまで徹底的に隠されており、亡国企業の総帥ですらその諜報員達を統べるリーダーの『ナギサ』と呼ばれる存在と顔を合わせた事が無いと聞いた。ナギサをスカウトしたスコールだけはナギサの正体を知っているが、スコールは何も話さなかった。

 

真月「っ!?まさかテメェ!?」

 

薫子「ええ、私がニュースのリーダー、コードネーム『ナギサ』よ」

 

楯無「嘘ォ!?」

 

驚いた。確かにニュースのナギサの存在については以前から聞いていた、しかし俺が亡国を壊滅させた時に捕まえたメンバーの中に居なかったので、てっきり死んでいるものと思っていた。

 

薫子「こうして会うのは初めてね、ニューリーダー?スコールやオータム、あとMは元気かしら?」

 

真月「いや、確かに元気だが……本当にお前があのナギサなのか?」

 

薫子「ええ。付け加えれば、ニュースそのものであるとも言えるわね」

 

天音「えっと……どういう事?」

 

あまりの衝撃に固まってしまっている楯無の代わりに天音が尋ねる。無関係の一般人である天音の前でこういう話をするのはアレだが、聞いてしまった以上は仕方ない。

 

薫子「ニュースは腕利きのハッカー達が揃った部隊だと裏の世界では知られているけど、実際は私以外に諜報員は居ないわ。ニュースは私が使った偽名を集めた、名前だけの部隊。つまり私は個にして群、たった一人のハッカー部隊なの」

 

成る程な。メンバーが一人だったなら全員の正体がバレないのも当たり前だ。

 

真月「そうか、お前の立場は分かった。で?幾ら払えば簪にナンバーズを渡した奴を教えてくれるんだ?」

 

薫子「大体十万位、といいたい所だけど、やっぱり言いたく無いから言わないわ」

 

楯無「薫子ちゃん!!」

 

真月「落ち着け楯無。……なら、それ以外に現状俺達が聞く事が出来る情報は有るか?」

 

情報で商売する情報屋が情報を売る気が無いという事は、何か売る事の出来ない理由があるんだろう。それならば無理に聞こうとせず、聞く事が出来る情報を聞くのが最善だろう。

 

薫子「ふふふ、ニューリーダーはたっちゃんと違って物分かりが良くて助かるよ。そうだね、簪ちゃんの心を追い詰めたのは何か、とかは如何かな?」

 

真月「……幾らだ?」

 

薫子「少し調べれば分かる事だし、二万位で良いよ」

 

真月「……それでも少し高いな」

 

ポケットの財布を取り出し、万札を二枚取り出して渡す。数秒程それをじっと見つめた後、黛は笑顔で財布にそれを入れた。

 

薫子「毎度あり、それじゃあ話そうか。そうだね、事は大体二週間前、一組のクラス代表就任パーティーがあった日まで遡るよ」

 

真月「あの時から何か起きてたのか……」

 

思えばあの日から簪の様子はおかしかった。あのパーティーの裏で何かが起きていたのか。

 

薫子「あの日、自分が所属する倉持技研から電話を受けた簪ちゃんは、一人パーティーを抜けた。そして倉持技研の所長から、とても悲しい事を聞かされるの……!」

 

舞台でも演じてるかのように大袈裟に話す黛に若干腹が立ったが、この程度で腹を立ててたらこの先こいつと付き合っていける気がしないで何とか堪えて無言で続きを促す。

 

薫子「何と!次のクラス対抗戦で優勝出来なければ、日本代表候補生を辞めさせられると言うのです!嗚呼、何て悲劇!姉を越える事さえ叶わず、皆に認められないまま辞める事になるなんて!」

 

楯無「なっ!?」

 

真月「何だと!?」

 

天音「………!」

 

聞き捨てならない単語に俺達三人は驚愕する。そんな事一言も聞いてないぞ。……いや、だから言わなかったのか。

 

楯無「ど、如何してそんな事になったのよ!?簪ちゃんが何かした訳じゃ無いんでしょ!?」

 

薫子「……そう、簪ちゃんは何もしてない。『何もしてない』のよたっちゃん。辞めさせられる程の事はしていない、でも続けられる程の功績も上げてない。それが、簪ちゃんが辞めさせられる原因なのよ」

 

真月「にしたって急過ぎだろ。そういうのは事前に何度か警告するものだ。事前に警告してりゃあ簪だって何か功績を出す筈だしな」

 

薫子「そう、確かにその通りよ。でもね、ハナっから簪ちゃんを辞めさせる気なら、話は違うわ」

 

真月「……つまり、簪を辞めさせようとした誰かがいるって訳か。一体誰だ?」

 

薫子「それは今から話すのよ。一方その頃、世界最強の称号を持つ我等がブリュンヒルデ、織斑千冬は考えた。どうにか自分の自慢の弟、秋介を代表候補生にしたいと。でも代表候補生は現在定員マックスで、秋介が入る余地など有りはしない。どうしたら良いのか……そうだ!定員がいっぱいだというならば、減らせば良いじゃないか!」

 

楯無「っ!」

 

真月「おいまさか……!」

 

薫子「そうと決まれば善は急げ!織斑千冬はその日の内に日本政府に掛け合い、こう言ったのです!『自慢の弟を代表候補生にしたいから、適当な奴を一人辞めさせろ』と!そうして不幸にも選ばれてしまったのが今眠っている更識簪ちゃんなのです!」

 

楯無「そんな……そんなのって無いわよ!?幾らブリュンヒルデだって言っても、今は現役を退いた、只の教師なのよ!?そんな勝手な事が通る訳が無いわ!?」

 

真月「……ちょっと待て、何で簪なんだ?他にも腐る程いる代表候補生だ、簪よりも弱い奴なんてザラにいる。なのに何で簪がピンポイントで選ばれた?」

 

天音「……成る程、確かにそうだ」

 

薫子「良い着眼点ね、でもそれについてはまた今度よ。絶望を突きつけられた簪ちゃん。この事で皆に心配をかけたくない。心根の優しい彼女は誰にもこの事を言えなかった。そしてこの時から彼女の心に暗いものが宿ったのです。何者にも負けない強い力を渇望する、黒い炎が……!」

 

真月「簪……!」

 

何で、何で相談してくれなかったんだ。そこまで一人で苦しんで、思いつめてしまう前に、一言だけでも助けを求めて欲しかった。そうすれば、何か助ける事が出来たかもしれない。

 

薫子「さあ、そんなこんなでやって来ましたクラス対抗戦!結果は知っての通りの敗北、代表候補生の座を失ってしまった訳ですが、敗因は覚えてる?」

 

天音「確か、機体のトラブルだったよね」

 

薫子「イエス!不運だったよね〜!……でも、それが人為的なものだったら、どうかな?」

 

天音「……大体読めて来たけど、一応聞いておくよ。犯人は誰?」

 

薫子「そりゃ勿論、織斑千冬の指示を受けた四組の担任に決まってるでしょ?」

 

真月「あのアマ……!」

 

どこまでも碌な事をしない女だ。というか簪のクラスの担任もグルなのかよ。自分のクラス代表が負けてもいいとかどんだけあの女を狂信してるんだ。

 

楯無「そこまで分かってるなら、それを学園長に報告すれば簪ちゃんの処遇も何とかなるんじゃ……!」

 

薫子「言ったところで証拠が無いんじゃ突っぱねられるだけだよたっちゃん。さて、そこからの簪ちゃんについてはたっちゃん達が良く知ってると思うんだけど、後は何か聞きたい事有る?」

 

真月「そんじゃ今一番気になってる事を聞こう。今回、俺達はかなり派手にやっちまったが、それに関してはどうなってるんだ?」

 

楯無「あっ……ヤバい完全に忘れてた!?」

 

薫子「言おうと思ってた事だし、タダで良いよ。今回の戦闘で発生した爆発音は発電所のトラブルとして学園長が処理してくれたみたいよ。虚さんが発電所を爆破して証拠も作ってるから、この件でたっちゃん達が織斑派の教師達に何か言われる事は無いと思う」

 

楯無「ああ、学園で起きてる停電ってそういう……」

 

どうやら、あの爺さんに助けられたみたいだな。今度礼を言わなければ。

 

簪「……っ、うぅん……」

 

楯無「簪ちゃん!?」

 

簪「うぅ……お姉ちゃん?」

 

薫子からの回答を聞いたあたりで、簪が目を覚ました。まだ若干眠そうだが、完全にナンバーズの呪縛からは解き放たれたみたいでホッとした。

 

天音「簪!大丈夫!?私の事分かる!?」

 

簪「天音……少し五月蝿い……」

 

天音「ああ、良かった……!」

 

真月「……簪!」

 

簪「あ、零……っ!?ごめん零、ちょっと外出てて」

 

真月「あ?何でそんな事ーー」

 

簪「良いから出てって!?」

 

俺を見るなりいきなり顔を赤くした簪が出て行けと言って枕を俺の顔に叩きつけた。

 

真月「ぶわっ!?何すんだテメェ!?」

 

楯無「真月君、お姉さんからもお願いしていい?ちょっと姉妹でお話ししたいから」

 

天音「そういう事なら仕方ないね。黛先輩、零、邪魔者は退散するとしようか!」

 

薫子「私も新聞の締め切りが近いからそろそろ行こうと思ってたし、行こうか。姉妹水入らずでお話しさせてあげようよ」

 

真月「……チッ!分かったよ、出れば良いんだろ出れば!それじゃあ簪、俺はもう寝るぞ」

 

簪「う、うん……」

 

何で枕を投げつけられたのか分からずもイラっとするが、大人しく出て行く事にした。疲れが溜まっているのか、一歩一歩が重く感じる。重たい足を引きずりながら、俺は部屋へと戻って行った。

 

 

 

side楯無

 

 

 

楯無「……それじゃあ、お話しましょっか」

 

簪「……うん」

 

二人きりになった医務室の中で、私達は向かいあっていた。気まずい、凄く気まずい。今までお互いに避けていた事もあって何話していいか分からない。

 

楯無「そ、そうだ!簪ちゃんにナンバーズを渡したのって誰なの?」

 

簪「……ごめん、あんまり覚えてない」

 

楯無「そ、そうなの……」

 

簪「うん……」

 

楯無「……」

 

簪「……」

 

楯無(どうしよう、会話が続かない……!?)

 

おかしい、いつか仲直りする為に色々と台詞を考えていた筈なのに、頭が真っ白になって何も思いつかない。

 

楯無(誰か、誰か来て!?最悪黒咲君でも良いから!?あ、そういえば黒咲君どこまで飛んでったんだろう?)

 

ヘタレた心が撤退を提案してくるが、此処で逃げたら今までと同じだと自分を奮い立たせて何とか踏み止まる。

 

楯無「か、かかか簪ちゃん!!」

 

簪「……!」

 

楯無「今まで……ごめん!簪ちゃんを守る為だって自分に言い聞かせて、目を逸らし続けてきた。簪ちゃんの気持ちを考えないでずっと簪ちゃんを遠ざけてきた。簪ちゃんが辛い目にあってる事だって、知ってた筈なのに……!」

 

一度言葉を発したら、そこから滝のように言葉が溢れてくる。同時に深い後悔と、自分への強い怒りも。

 

楯無「真月君や黒咲君に出会って、それがただ逃げてるだけなんだって事に、漸く気づいた。拒絶されるのが怖くて、傷つくのが怖くて、ずっと簪ちゃんに向き合う事が出来なかっただけなんだって」

 

簪「……お姉ちゃん」

 

楯無「許して貰えるなんて思ってない、でもこれだけは分かって欲しいの!私は貴女の事が大好きで、それは今も昔も変わってないって事を!」

 

簪「……お姉ちゃん、私もごめん。お姉ちゃんが私を嫌ってなんかないって知ってたのに、ムキになって、ずっとお姉ちゃんを避けてた。悪いのは私も同じ。だからこの話はお終い、それで良いよね、お姉ちゃん?」

 

楯無「簪ちゃん……!簪ちゃああぁぁぁぁん!!」

 

簪「ぐえっ……」

 

感極まって簪ちゃんを抱き締める。うん、やっぱりウチの妹は天使だ間違いない。

 

簪「お、お姉ちゃん、締まる、締まってる……!?」

 

楯無「あ、ごめん!?」

 

簪ちゃんの顔が真っ青になってたので慌てて解放する。少し力が入り過ぎていたらしい。

 

簪「ごほっごほっ!死ぬかと思った……」

 

楯無「ごめんなさい……」

 

簪「気にしないで良いよ。……ねえ、お姉ちゃん。一つ相談しても良いかな?」

 

楯無「相談?良いわよ良いわよ!ドンと来なさい!」

 

顔を赤くしてもじもじする簪ちゃんに内心悶絶しながら胸を張ってそう答え頼りになるお姉ちゃんアピールをする。もっとも、何の相談かは薄々分かっているのだが。

 

簪「ありがとうお姉ちゃん。……あのさ、零の事なんだけど……」

 

楯無(ですよね〜!)

 

やっぱりそうか、というかそれしか無いだろうなとは思っていたが顔には出さず、簪ちゃんの話を聞く。

 

簪「なんか、ね、さっきから頭の中でずっと零の事を考えてて、胸が苦しくなって、さっきも零の顔を見た途端急に恥ずかしくなって、身体がすっごく熱くなって……お姉ちゃんには、これが何か、分かる?」

 

楯無(もう決まりじゃないですかヤダー!?)

 

内心妹に起きた心の変化に悲鳴を上げつつ、姉として簪ちゃんにちゃんとその答えを返す。

 

楯無「それはね簪ちゃん、恋よ!」

 

簪「恋……」

 

楯無「そう!簪ちゃんは今!真月君に恋をしているの!」

 

自分は経験した事が無いので恋というものが何なのかよく分からないが、此処まで言われたらどんな鈍感な人でも流石に分かるだろう。寧ろ分からない人間の正気を疑う。

 

簪「恋……私が、零に……。そうなんだ、私、零の事が好きだったんだ……」

 

楯無「そうよ簪ちゃん!くうぅ〜!これぞ青春って感じよね!学校生活と言えばこうでなきゃ!私は全力で貴女を応援するわよ簪ちゃん!目指すはゴール!さあ、一緒に頑張りましょう!」

 

簪「ちょ、ちょっと待ってよ!?ゴールって何!?というかお姉ちゃん何でそんなにノリノリなの!?」

 

楯無「そりゃ勿論結婚よ!あ〜簪ちゃんのドレス姿楽しみだな〜!可愛いんだろうな〜!」

 

確かに簪ちゃんに彼氏が出来るのは少々複雑だが、簪ちゃんが幸せならそれで良い。簪ちゃんを惚れさせた以上、真月君には絶対に簪ちゃんを幸せにして貰わねば。

 

簪「けっ!?けけけけけ結婚!?な、なな何言い出すのお姉ちゃん!?そんな、いきなりけ、結婚だなんて!?」

 

楯無「あら、嫌なの?まあ、結婚は流石にアレだと思うけど、それでもお付き合いはしたいでしょ?ほら、手を繋いでデートしたり、お互いにゴハンを食べさせあいっこしたり。そういうの、やってみたくない?」

 

簪「そりゃあ、やってみたいけど……」

 

顔から煙が出そうなくらい顔を真っ赤にした簪ちゃんの姿を脳内に焼き付けながら、私はニヤニヤしていた。

 

楯無「なら頑張るしか無いわよ!グズグズしてたら鈴ちゃんあたりに取られちゃうわよ!」

 

簪「そ、それは嫌!だけど……」

 

楯無「ふっふっふ!お姉ちゃんに任せなさい!絶対に、簪ちゃんにハッピーエンドを掴み取らせてあげるわ!」

 

簪ちゃんの手を握り、私はそう言った。大丈夫よ、恋愛経験はゼロだけど少女漫画によって知識だけは無駄にある私に任せておけば完璧よ!……なんか、自分で言ってて駄目な気がしてきた。

 

簪「ど、どうすれば良いの……?」

 

楯無「ふっふっふ、先ず……」

 

恥ずかしがりながらもこちらに耳を寄せてくる簪ちゃんに近づいて、私は作戦を囁いていく。

 

 

 

こうして、私達姉妹の関係を変えた激動の一日は、最後は普通の高校生らしいイベントの恋愛相談で幕を閉じたのであった。

 

 

 

side天音

 

 

 

夢の中で、私はただ沈んでいた。

 

深く、更に深く、自分の心の奥底へと沈んで行く。光も音も無い、純粋な闇に身体を委ね、ただ沈んで行く。そうして何時間も続いたと錯覚するくらい沈み続け、私は自分の心の底に辿り着いた。

 

天音「……やっぱり、何度来ても慣れないや」

 

前を見ると、この闇に似つかわしく無いテーブルが一つ置かれており、そこに二人、誰かが向かい合って座っていた。どうやら、二人はチェスをしているらしい。私はあまり詳しく無いが、どうやらそろそろ決着がつくようだ。

 

バクラ「チェックメイト、俺様の勝ちだ」

 

ドン『ふむ、どうやらそのようだな。やれやれ、中々難しいものだな、このチェスとかいうゲームは』

 

天音「……相変わらず暇そうだねバクラ、ドン・サウザンド。そんなに暇なら、少し私の手伝いをしてくれない?」

 

私の心に潜む二人の住人に、私はそう言った。

 

バクラ「内容によるぜ宿主様。つまらねえ事だったら力は貸さねえぜ?」

 

ドン『ふむ、我はこの世界には基本不干渉でいるつもりなのだが、聞くだけ聞いてやろう』

 

天音「推理ゲームしない?誰が簪にナンバーズを渡したのか、それを当てよう。一応聞いておくけど、二人じゃ無いんだよね?」

 

バクラ「身体の主導権は宿主様に有るんだ、宿主様にバレないようにやるのは俺様には不可能だぜ」

 

ドン『先も言ったが、この世界での我は基本傍観者だ。直接何かをしたりはしない』

 

天音「分かってる。これは只の確認だから。それじゃあ、私がいくつか仮説を言っていくから、合ってると思う物を言ってよ」

 

バクラ「了解したぜ」

 

ドン『分かった』

 

天音「良し、じゃあ一つ目。犯人は零で、簪を助ける事によって簪の好感度と楯無さんからの信頼を上げようとした。これは?」

 

バクラ「無いな」

 

ドン『うむ、かつての奴ならばやってもおかしく無いが、今の奴にそれは無理だろう』

 

天音「知ってた。じゃあ犯人は織斑千冬で、陥れた簪を徹底的に潰し、尚且つ邪魔な楯無さんを消す為、なんてのはどうかな?此処の生徒会って下手な教師達より強い権力があるから、自分の思い通りに動かせない楯無さんを邪魔に思って、とか有りそうじゃない?」

 

バクラ「多分それも無いと思うぜ?宿主様越しに見ただけだが、あれは只の脳筋だ。ナンバーズなんて強い力が有るんなら、他人に渡さないで自分か最愛の弟にでも使わせるだろうさ」

 

成る程、それもそうか。やはりこの二人は頭が切れる。こういう謎解きにはもってこいの人材だ。

 

ドン『同じ理由で五組クラス代表の新橋も無しだな。作戦とはいえ、更識簪にナンバーズを渡す理由が無いし、そもそも更識楯無を殺す理由が無い』

 

天音「うーん、じゃあ誰だろう?バクラは誰か心あたり無いの?」

 

バクラ「バーカ、それをお前が考えるゲームなんだろうが。俺様が答え教えちまったら意味がないだろ?」

 

天音「それはそうだけど……」

 

ドン『だが、ヒントくらいなら与えてやろう。天音、お前は一つ勘違いをしている」

 

天音「勘違い?」

 

ドン『犯人の目的は更識楯無の殺害、それに更識簪が利用された。お前はそう考えているみたいだが、恐らく違う。犯人の目的は更識簪であり、更識楯無は別に狙う必要は無かった、そう我は考えている』

 

天音「簪が、目的……それってつまり、簪に楯無さんを殺させるのが目的、って事?」

 

バクラ「多分そうだろうな。簪に楯無を殺させる事で簪の心のブレーキを壊し、完全に闇に堕とそうとしたんだろう。楯無は、単にその役に適してたから狙われただけだろうな」

 

天音「成る程。それじゃあ、犯人は簪を闇に堕とそうとしてたって事?それに何の得が有るの?」

 

バクラ「大方、自分達の使い勝手のいい駒にでもしようとしたんだろうさ。それで、犯人については分かったか?」

 

天音「いや一応見当はついてるよ。さっきまでいまいち確信が持てなかったけど、目的が簪だったならまあ筋は通るかな」

 

三日前、心の弱った簪にナンバーズを渡せる人間なんて数少ない。間違いなく私達の知っている人物。そして三日前簪の試合が終わった後に姿を消した人が一人だけいた。簪にナンバーズを渡せるとしたら、この人しかいない。

 

天音「ティナ・マッケンジー……彼女が犯人。そうだね、二人共?」

 

バクラ「ああ、俺はそう思うぜ」

 

ドン『我も同じ意見だ。それで、どうする?ティナ・マッケンジーが犯人だと、ベクター達にバラすのか?』

 

天音「いや、多分ティナの裏にはまだ誰かいるからね、すぐにどうこうするつもりは無いよ。演技だろうけど、ティナは良い子だしね、僕も出来るなら仲良くしたい」

 

バクラ「いやぁ流石は宿主様、お優しいねえ。で、実際のところは?」

 

天音「要監視、何かしたら一度警告して、次何かやった時に殺す」

 

ドン『ふふふ、躊躇いもなく殺すと言ったな。全く、我もとんでもない奴に力を与えたものだ』

 

ドン・サウザンドが私を見てそう笑うが、関係無い。私は私の世界を守るだけ。私の世界を、そこにいる私の大切な友達を守るだけだ。だから敵には容赦はしない。何があっても、簪達だけは守りたい。

 

それがこの歪んだ世界への復讐の為に悪魔と契約した私が出来る、たった一つの良い行いだから。

 

 

おまけ その頃の黒咲

 

隼「ハックション!?クソッ!まさか海に落ちるとはな。楯無の奴、飛ばし過ぎだ馬鹿が!?あーくそ、寒い!!」

黒咲は、海を漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

弾「今回の次回予告担当は久しぶりに登場するこの俺、五反田弾と!」
虚「今回裏方で活躍していた布仏虚です」
弾「いやぁ、次回予告の中とはいえ、こんな美人と同じ仕事が出来るなんて!俺、今メッチャ嬉しいです!」
虚「まあ、弾君が本編で私と会うのが結構先ですからね」
弾「この調子でレギュラーキャラにも昇格してやるぜ!という訳で、次回予告スタート!」
「別に、昔住んでたトコに帰るだけだっつの」
「なら、私も付いて行く」
弾「つー訳で、次回は里帰り!零がウチに泊まりに来るのさ!にしても可愛い女の子連れて来るとかモテない俺への嫌がらせだろこれ!?」
虚「鈴さんはどうなんですか?彼女も中々に可愛い方だと思いますが」
弾「いやぁ、鈴はその、付き合い長過ぎて異性っていう認識が無いというか……」
虚「そういうものなんですか」
一夏「あ、俺も弾の家に遊びに行くぞ」
「箒、僕に稽古をつけてくれ!」
弾「一方の秋介は修行パートか、昔と大分印象が変わった気がするな」
虚「まあ、今のままじゃツッコミが出来るだけのただの咬ませ犬ですからね。そのポジションから脱却するためにも修行は必要でしょう。あれ、確か篠ノ之さんってかなりの脳筋だった気が……」
弾「……死んだなアイツ」
一夏「まあ、嫌な奴だったよ」

次回、インフィニットバリアンズ

ep.39 GWとそれぞれの日常

虚「次回も見てくださいね」
弾「妹の蘭も出るから、楽しみにしていてくれよ!」
一夏「見てくれよー」
弾「だからさっきからなんでチラチラ乱入してくるんだよ一夏ぁ!?」

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