インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

4 / 53
ep.4 篠ノ之家

side真月

 

 

 

あの後、騒ぎを聞いて駆けつけた束の父親らしき人物が現れ、箒と呼ばれていた少女と同じように俺を発見、すぐさま逃げようとした束の首を掴み俺を解放させた。

 

そして俺は今その男に連れられて束の家に居る。周囲には額に青筋を浮かべた束の父親と、真っ青な顔でガタガタ震えている束、そしてそんな束を冷たい目で見つめている箒がいる。

 

束の父親「さあ、訳を聞こうか束?どうして人攫いなんかやった?返答次第ではお前への罰を少しは軽くしてやる」

 

束「わわわわ私は悪くねぇ!私は悪くねぇ!ヴァン先生が言ったんだ!コイツを調べれば私の研究が進む「説教中に巫山戯る馬鹿がいるか!」ごふぇ!?」

 

パニックを起こして訳の分からない事を言い出した束に容赦無く拳骨を食らわせる束の父。というか、家族の前だとキャラ変わり過ぎだろアイツ。てっきり家族にもあんな態度とってるのかと思っていたのだが、雰囲気から察するに、アレが束の素なのだろう。

 

束「でもでも父さん!?真面目な話、あのまま道端で倒れたままだったら確実に死んでいたよコイツ!?私はコイツを助けようとしただけなんだって!」

 

束の父親「何処の世界に助けが必要な人間の足に手錠を掛けて拘束する助け方があるんだ!」

 

束「あいたぁ!?」

 

また拳骨を食らい涙目になる束。若干可哀想な気がしないでもないが、そこについてはお前の親父さんに賛成だ。

 

束の父親「それで、この子は何処から攫って来た!何処の家の子だ!」

 

束「知らないよ!?コイツ自分の事全く話さないんだもん!文句はコイツに言っ「お前が連れて来たんだろうが!」ぐはぁ!?」

 

またしても拳骨を食らい床に倒れ伏した束。家の中でのコイツの立ち位置が何となく分かった気がする。

 

そして、束の父親は束が倒れ伏したのを確認すると俺の方へ向き直り、土下座した。

 

束の父親「済まなかった、私は篠ノ之柳韻。この馬鹿の父親だ。今回の件、幾ら詫びても詫び足りない。コイツには私が後でキッチリと謝罪させる」

 

箒「姉が迷惑をかけてすみません」

 

柳韻が謝ってきたのに続いて姉に冷ややかな視線を浴びせていた箒もこちらを向いて謝罪した。何というか、姉が酷いせいか俺と同じくらいの筈のコイツが凄いキッチリとしているように感じる。兄弟姉妹の片割れが駄目駄目だともう片方がしっかりするとは良く言われているが、この姉妹はそれを見事に再現している。

 

真月「自己紹介どうも。俺は真月零。束のやった事については気にしないでくれよ。あのまま道端で行き倒れてたら死んでたってのは本当だしな。一応応急処置もしてくれてるし、お互いさまってヤツだ」

 

正直な所、先程までの束フルボッコで気分はスッキリしてるので、これ以上は逆に可哀想になってくる。

 

柳韻「しかし、束がやらかした事は冗談では済まされない事で、君の両親にもきちんと説明した上で謝罪しなければ流石に・・・」

 

真月「そんなの必要ねぇよ。俺の親はとっくの昔に死んでるからな」

 

俺の言葉を聞いて悲しそうな顔をする柳韻と箒。文字通りとっくの昔に死んだ親の事でそんな顔されると正直罪悪感が凄い。

 

柳韻「・・・済まない。知らなかったとはいえ、悲しい事を思い出すような事を言ってしまって」

 

真月「いやいや、マジで気にしないでくれ。俺の親は物心つく前に死んでるから、正直思い出とか全く無いからな。むしろそういう態度取られると逆に悲しくなる」

 

柳韻「そうか。ならば、君の保護者に会わせては貰えないだろうか」

 

ああ、そうか。親無しなら俺を育てる誰かが別にいると当然思うわな。

 

真月「居ねぇよ」

 

柳韻「何?」

 

真月「俺に保護者は居ねぇ。物心ついた時には街の路地裏に居た。所謂捨て子ってヤツだ」

 

俺の言葉を聞いて驚いた顔をする柳韻と箒。とっさに出た嘘だったが、案外通じるものだ。

 

柳韻「捨て子という事は、君は今までずっと一人で生きてきたのか!?」

 

真月「当たり前だ。捨て子面倒見るお人好しなんてそう居ないぜ?物心ついた時から今までの大体二年くらいの間、俺は一人で生きてきた」

 

かつて真月零として生きてきた時に使っていた口から出まかせをフルに使って俺の過去を捏造していく。俺が話すに連れて二人の表情が暗くなっていき、今では葬式のような雰囲気となっている。

 

・・・やり過ぎたか?

 

真月「つまり、俺を攫って拉致監禁した事についてはもういいって訳だ。謝罪も貰ったしな。俺みたいなのが居たらお前らに迷惑がかかるし、俺としてはそろそろ出ようと思ってんだが」

 

俺の言葉を聞いて、今まで凄い暗い顔をして俯いていた箒が顔を上げた。

 

箒「・・・なら、うちに住むといい」

 

真月「はあ!?おい待て何でそうなる!?」

 

箒「うちは道場なんかもやってるから、合宿とかで使う部屋が沢山ある。そこに住めは良いだろう。父さんも、それで構いませんね?」

 

柳韻「ああ。お前が言わなかったら私が言っていた。束もそれで良いな?」

 

束「オーケーオーケー!ノー問題だよ!どうせ部屋なんて腐る程あるからね!」

 

箒の提案に柳韻が、拳骨で床に突っ伏していた束までもが賛同する。

 

真月「だから何でそうなる!?俺を住ませるメリット何て一つも無いだろうが!?」

 

箒「お前の話を聞いてそのまま帰せるか!帰る場所がないやつに帰れと言う程薄情な人間ではない!」

 

柳韻「私も箒と同じ意見だ。君の話を聞いて、放って置く事など出来ない」

 

ヤバい。流れがどんどんと俺を住ませる方向へと向かっている。束から救ってくれただけでも有難いのに、そこまでして貰う訳にはいかない。

 

束「実は私もそう思ってたんだよねー!それにぃ、最近弟が欲しいなぁーと思ってもいたんだよねー!つまり、君がウチに住んでくれれば両方叶う、一石二鳥だね!」

 

何が一石二鳥だこのキチガイ兎、といった抗議の視線を束に送っていると、束がこちらに寄ってきて

 

束「君だって、この世界を調べる為の拠点が必要でしょ?ならここは大人しく従っときなよ」

 

と囁いてきた。此処まで言われると流石に従うしかない。

 

真月「・・・分かった。そちらの申し出に従う」

 

根負けした俺を見てニヤニヤと笑いながら、束は言った。

 

束「篠ノ之家にようこそ!歓迎するよれーくん!」

 

真月「何だその呼び方。さっきまでお前、とかコイツ、とかだったのがどういう風の吹きまわしだ?」

 

箒「姉さんは基本的に親しい人以外に冷たいからな。さっきまでの態度が気分を害したなら私が謝ろう。私も歓迎しよう、ようこそ零。今日からここがお前の家だ」

 

柳韻「娘達に全部言われてしまったが私も同じ気持ちだ。後で妻にも紹介しよう。歓迎するぞ零」

 

異世界生活初日、俺に家族ができた。




次回予告

ドルベ「成り行きで篠ノ之家に住む事となったベクター。異世界での新しい生活は、彼の心を少しづつ変えていく」
「零、剣道をやってみないか?」
ドルベ「そう言った箒によって道場につれてこられたベクター。嫌々ながらついてきた彼に待ち受けていたのは新たな出会いだった」
次回、インフィニットバリアンズ
ep.5 織斑家との出会い
ドルベ「ところでナッシュ、私達の出番は一体いつなのだろうか?」
ナッシュ「知るか!」



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。