インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.35 水色少女の狂気

side隼

 

 

 

学園に襲撃があってから三日が経った。襲撃によってアリーナと校舎の一部が破壊された為学校は暫くの間休校、生徒達はそれぞれ思い思いに早めの長期の休みを満喫していた。そして教師はそれとは対照的に破壊されたアリーナや校舎の修復や保護者への対応などに追われ、眠る暇さえ無い生活を送っている。

 

そして此処、IS学園生徒会室にも、睡眠時間も取る事が出来ない程仕事に追われる者が居た。

 

楯無「あぁぁぁぁ……」

 

ゾンビの様な声を出しながら、楯無は書類に目を通していく。その顔は普段とは比べ物にならない程にやつれ、目の下には大きなくまができていた。

 

隼「……楯無、少し寝たらどうだ?」

 

楯無「……駄目よ、今寝たら二、三日は起きないわ。そしたら仕事が片付かなくなるわ……」

 

隼「そもそも、何故お前が今回の件の事後処理をしているんだ?こういうのは教師達の仕事だろう」

 

楯無「……織斑先生を含む一部の教師達が仕事を押し付けて来たのよ。『本校舎の襲撃者を撃退したのは貴様と天上院先生だ。実際に現場に居た当事者が報告するのが筋というものだろう?』だって」

 

隼「……半分事実で半分嫌がらせだな」

 

あの駄目教師達の行動には心底呆れる。自分の思い通りにならなかったから八つ当たりするなんて子供のやる事だ。

 

楯無「う〜!黒咲君も手伝ってよ〜!」

 

隼「誰がそんな面倒臭い事やるか。それは生徒会に持ち込まれた仕事だろう。一般生徒の俺を巻き込むな」

 

楯無「黒咲君も一緒に戦ったじゃない〜!……そうだ!黒咲君、貴方今から生徒会副会長ね!」

 

隼「はあ!?何を言っているんだお前は!?」

 

楯無「この学園の生徒会ってね、生徒会長が自由にメンバーを決められるの。だから黒咲君を生徒会副会長にして、仕事を手伝って貰うの!」

 

隼「冗談じゃない!第一俺が副会長になどなれるものか!俺の学園内での評判を考えてみろ!反対者が続出して大変な事になるぞ!」

 

楯無「大丈夫大丈夫、ウチの生徒会は実力で人を選ぶから人望は関係無いわ。私と一緒に校舎の襲撃者を撃退して多くの生徒を救った貴方は副会長になる資格が十分にあるわ!」

 

隼「だから!俺はそんな面倒臭い事やりたくないって言っているんだ!資格云々はどうでもいい!」

 

楯無「あら、別にマイナスな事ばかりじゃないわよ?生徒会は教師と同レベルの権限を持っているから生徒会役員になれば色々な恩恵を得られるし、副会長クラスにもなれば生徒会の活動を理由に授業をさぼれるわ!更に生徒会長の私の権限で成績だって思うがまま!どれだけ授業をさぼろうが留年する事は無いわ!」

 

隼「む、それは……!」

 

それは俺にとってかなり魅力的な恩恵だ。正直な話、俺は 喧しい女共と授業を受ける事自体はまだ耐えられる。それでも俺が授業をさぼり続けるのは、俺が授業についていけないからだ。俺がレジスタンスを結成したのが小学校後半でそれ以降学校に通って居ないので、俺は中学の勉強すら分からない。本社で赤馬零児に嫌という程仕込まれたのでISについての授業は何とかついていけるが、数学や英語などの一般科目は全くと言っていい程出来ない。故に成績の心配をしなくていいというのは少し迷う。

 

楯無「うふふ、迷っているわね?じゃあ最後にとっておきの豪華特典!黒咲君が副会長になったら私が何でも一つお願いを聞いてあげる!」

 

隼「いや、それは別に……そうだな。分かった、お前の提案に乗ってやる」

 

楯無「ホント!良かったぁ!それじゃあ黒咲君、お姉さんに一つお願いして良いわよ!何をお願いするのかしら?あ、勿論エッチな事でも良いわよ?」

 

隼「誰がそんな事頼むか!……お前とお前の妹の事だ。まだ仲直り出来ていないんだろう?」

 

俺がそう言うと楯無から先程までの余裕が消え、苦々しい表情を浮かべる。

 

楯無「……え〜と、つまりはアレよね?私と簪ちゃんについての話を聞きたいって事かしら?」

 

隼「ああ、何故お前とお前の妹との間に確執が生まれた?かつてらお前とお前の妹の間に何があった?」

 

俺の問い掛けに楯無は苦々しい表情のまま沈黙し、しばらくして何かを決意した表情で口を開いた。

 

楯無「……分かったわ。話しましょう、私と簪ちゃんの話を。私が犯した罪の話を」

 

 

 

side真月

 

 

 

真月「……ぐっ!此処は……?」

 

足の痛みで目を覚ます。意識を失う直前の出来事から考えて、今自分が居るのは医務室か。痛むという事はまだ右足は付いているのか。義足にならなかったのは良かったが最近の医学凄過ぎだろ。

 

天音「お、起きたね」

 

不意に横から聞こえてきた声に反応して首を声の方に向けると、椅子に座ってリンゴの皮を向いて居る天音が居た。

 

真月「……天音か、俺はどれ位眠ってた?」

 

天音「今日で三日だね。あ、リンゴ食べる?」

 

真月「貰っとく。……三日か、随分長く眠っちまったみたいだな。あの後どうなった?」

 

天音「今回の件で学校は暫く休校、再開はゴールデンウィーク明けになるかな。今は先生達が必死になって壊れた箇所の修復をしているよ」

 

真月「そうか……あ、美味いなこのリンゴ」

 

天音「でしょ?結構良いやつなんだ。……鈴から色々聞いたよ。簪を守ってくれたんだってね。ありがとう」

 

真月「当たり前の事をしただけだ。礼なんて要らねえよ」

 

天音「そうはいかない。私の大切な友達を守ってくれたんだ、お礼はしっかりしないと。あ、そうだ。お礼ついでに一つ昔話を聞いて貰えないかな?」

 

真月「話だぁ?」

 

天音「ああ、とある少女の話さ。優秀な姉に憧れて努力を重ね続ける一人の少女のね」

 

誰の話かは直ぐに分かった。あいつの頑張る姿を毎日見てきたんだ、分からない筈が無い。

 

真月「……簪の話、だな」

 

天音「うん。君になら話しても良いんじゃないかと思ってね。ううん、君は知らなくちゃいけないんだ。多くの悪意によって傷つけられ、それでも前に進もうと努力をする簪の心を支えている君はね」

 

真月「俺が簪の心の支えだと?」

 

あり得ない。俺はあいつに大した事をしていない。あいつを支えるという面なら昔からの親友である天音とねねの方が簪だって良いだろう。

 

天音「そんな事は無い、って思っているね。確かに私やねねは簪の昔からの親友さ。でもね、私達じゃ簪を真に救ってあげる事は出来ないんだ。一度簪を裏切ってしまった私達じゃ、駄目なんだよ」

 

悲しそうな顔で、天音はそう言った。その瞳は深い後悔と罪悪感、そして自分への激しい怒りに揺れていた。

 

真月「裏切った?」

 

天音「……その話をする為にも、簪の過去についての話をしよう。簪が暗部の家の出身っていうのは、もう知っているんだよね?」

 

真月「ああ。というか、お前も知ってたのか?」

 

天音「……そうだね。話を戻そうか、簪には一つ上の優秀なお姉さんが居た。君も知っている生徒会長だね」

 

真月「……あいつが優秀ってのは疑わしいがな」

 

天音「簪が絡むと途端にポンコツ化するからね、あの人。でもあの人はとても優秀で、何でも出来た。簪はそんなあの人に憧れて、いつか追いつきたいと思って努力していたんだ」

 

真月「そこだけ聞いてると姉妹仲は良好に感じるな。それが何で今みたいになったんだ?」

 

天音「それはこれから話すよ。姉に追いつく為に簪は努力し続けた。それでも姉との差は一向に縮まらず、むしろどんどんと離れていった。……やがて周囲は簪を姉の劣化品として見るようになっていったんだ」

 

真月「……それは、イラっとくる話だな」

 

一夏の時もそうだが、何で上が優秀だと下も優秀でないといけないと思うんだ。一夏や簪だって凄い人間だ。目標の為に必死に努力する事が出来るのは立派な才能だ。何で誰もその才能を評価しないんだ。

 

天音「努力は凡人がやる事、天才は努力無しでその上を行くもの。そう簪の周りは考えてたんだろうね。外にも、内にも簪の味方は居なかった。全く、反吐がでるような話だろう?」

 

真月「……そうだな」

 

天音「まあ、味方が誰も居なかった訳じゃない。本当に誰一人居なかったなら簪の心はとうに壊れていただろうからね。私やねね、布仏さんだって居たし。何より、お姉さんは簪の味方だったしね」

 

真月「……それでも、たった数人じゃねえか。両親はどうなんだ?」

 

天音「さあね。母親は簪が生まれて直ぐに死んじゃって、父親も滅多に話をしないって聞いたから。簪にとって家族と言えるのはお姉さんくらいだったんじゃないかな」

 

真月「それは……」

 

それはあまりにも辛すぎるだろう。周囲には蔑まれ、実の父親は相手にもしない。それはまだ幼かった簪にとって耐え難い孤独だった筈だ。

 

天音「それでも簪は幸せだった。自分を心配してくれる友人達、そして自分を愛してくれる姉が居たんだから。そんな人達との生活が、簪を支えていたんだ。……あの事件さえ無ければ、そんな生活が今も続いていたんだろうね」

 

真月「あの事件?」

 

一気に物騒な単語が出てきたな。まあ簪の実家は暗部だからその手の話が有りそうな気はしていたが。

 

天音「中学三年生の夏、私とねねと簪は誘拐されたんだ。更識の家に恨みを持つ人間にね」

 

真月「誘拐、か……ん?ちょっと待て、何でお前とねねまで攫われてんだ?」

 

天音「偶々誘拐された時に簪と一緒に居たからだね。口封じのつもりだったんだろうね。僕とねねはどの道殺される予定だったみたいだし」

 

真月「自分が殺されそうだったのに、随分余裕そうだな」

 

天音「そう思う?まあ実際死ぬ事に恐怖は感じなかったからね。ただ、簪には辛い事だったんだろうね。酷く謝られたよ。私もねねも特に気にして無かったんだけどなぁ」

 

そりゃそうだ。自分の所為で友人が死の危険に晒されたのだ。優しい簪にはとても辛い事の筈だ。

 

天音「……そしてこれが私達の罪でもある。この日以降、私とねねは簪から一歩距離を置くようになった。友人である事は変わりないけれど、少しだけ態度を変えてしまったんだ。私達としてはこれ以上私達が巻き込まれて簪が傷つくのを避ける為だったんだけど、結果的に簪の心に追い打ちをかける形になってしまった。簪の目には、私達が簪を友人としてではなく『暗部の娘』として見ているように見えていたんだろうね」

 

成る程、裏切りとはそういう事か。友達である天音達にそういった目で見られていると思ったら、簪は確かに傷つくだろう。

 

天音「……そして事件から三ヶ月が経過したある日、お姉さんが更識を継いだ日にお姉さんは簪にこう言ったんだ」

 

ーー貴女は何も心配する事は無いわ。これからは私が更識を仕切っていくから。

 

ーーだから貴女はそのままの貴女で、『無能』の貴女のままでいなさいな。

 

真月「……」

 

口下手な奴だな、あの駄目姉は。言いたい事は分かる、だがもう少し何か良い言葉があっただろう。これじゃあ関係が拗れるのも当然だ。

 

天音「……そして、姉妹の関係は拗れ、今に至るという訳だね。どう?話の感想とかは?」

 

真月「全員言葉が足りな過ぎ。もう少し素直に言えよ」

 

天音「あはは……仰る通りです。けどこれでさっきの言葉の意味も理解したんじゃかいな?」

 

真月「俺にしか簪を救えないって話か?」

 

天音「うん。君は簪を簪として見ている。『暗部の娘』である簪ではない、『更識楯無の妹』である簪でもない、ただの『更識簪』を見ている君にしか、簪を救う事は出来ない。そう私は思っているんだ」

 

真月「……随分と大袈裟な話だな。俺はそんな事を考えながらあいつと話をした事は無いんだが」

 

天音「だからさ。何も考えずに簪と接している君だから、簪は君に懐いたんだ。だからこそ君に頼みがある」

 

いつにも増して真剣な目で俺を見つめて、天音は俺に話しかけた。

 

天音「恐らくそう遠くない未来に、簪は誰かの救いが必要になる時が来る。その時、君に簪を救って欲しい。僕とねねの大切な友達を、助けて欲しいんだ」

 

答えは、決まっていた。

 

真月「当たり前だ。簪は俺にとっても大切な仲間だ。言われなくても助けるさ。俺の命に代えてもな」

 

その答えに満足したのか、天音はいつものへらへらとした笑みで俺に笑いかけた。

 

天音「……ありがとう、でも命に代えちゃ駄目だよ?君が死んだら簪が悲しむからね」

 

 

 

その遠くない未来が今日である事を、この時の俺と天音は知らなかった。

 

 

 

side隼

 

 

 

隼「……成る程な。それがお前と妹の関係が拗れた原因という訳か」

 

楯無「軽蔑するかしら?傷ついた妹の気持ちを考えずに酷い事を言った私を」

 

隼「する訳無いだろう。確かに厳しい言葉ではあったが、それは妹を暗部という危険な部分から遠ざける為だ。俺がお前と同じ立場でも同じ様に瑠璃に言うだろう。例え修復不可能なくらい関係が悪化する事になったとしてもな」

 

楯無「……じゃあ黒咲君はそれで妹が一生口きいてくれなくなっても自分のやった事を後悔しないの?」

 

隼「問題無い、後悔するより先にショック死してると思うからな」

 

楯無「メンタルよっわ!?」

 

仕方ないだろう。瑠璃が口きいてくれなくなるだと?そんな事になったらもう生きていける訳が無い。あ、駄目だ想像しただけで死にたくなってきた。

 

隼「ああ、瑠璃に嫌われるとか鬱だ。よし、死のう」

 

楯無「待ってぇ!?自分が言った事でダメージ受けて自殺とかかっこ悪いにも程があるから待ってぇ!?」

 

隼「……冗談だ、本気にするな」

 

楯無「真顔で冗談言うのやめてよ嘘か本当か分かりづらいでしょ!?」

 

隼「ははは、悪い悪い。だが楯無、冗談抜きに良い加減に仲直りした方が良いと思うぞ」

 

楯無「……分かってるわよ。私だって仲直りしなきゃいけないって事は分かってるの!でも気まずいじゃない!?あんな事言った私がどの面下げて仲直りしようなんて言えるのよ!?」

 

目に涙を浮かべながら開き直る様にそう言った楯無に、俺の怒りは爆発した。

 

隼「気まずいから何だ!それくらいで躊躇する程お前はヘタれた人間なのか!」

 

楯無「……っ!」

 

隼「大切な妹なんだろう!また仲良くしたいんだろう!ならば躊躇する必要など無い筈だろう!手の届く所にいるんだ、例え拒絶されても何度でも会って話せるだろう!お前は俺と違って……いつだって妹と会えるんだから!」

 

そう、楯無と簪はこの学園にいる限り会おうと思えばいくらでも会える。瑠璃が攫われ、その安否すら分からない俺よりも遥かにマシなんだ。

 

隼「……すまん、少し感情的になってしまった。だがこれだけはハッキリと言える。早く仲直りしろ、手遅れになってから後悔しても遅いんだからな」

 

楯無「……そうね。ありがとう、黒咲君。おかげで勇気が出てきた」

 

隼「……礼は要らん。早く仲直りしろ」

 

楯無「ええ、この仕事が片付いたら簪ちゃんとちゃんと話をするわ。だから黒咲君も仕事、手伝ってね?」

 

いつもの調子に戻った楯無がそう言ってくる。さっきまではやる気がしなかったが、楯無が妹と仲直りする為ならば仕方ない。楯無の分までやってやる気で仕事をしよう。

 

隼「ああ、任せろ。その程度の書類の束、二時間もあれば片がつく」

 

 

 

楯無「終わったあぁぁぁぁ!!」

 

隼「はあ、やっと終わったか……」

 

書類との格闘から早二時間、何とか俺達は全ての書類を片付ける事に成功した。時刻は午後八時、夕飯を食べていないのでかなり腹が減っている。

 

楯無「まさか本当に二時間で片付くなんてね。黒咲君こういう仕事得意なの?」

 

隼「別に得意という訳では無い。ただ必要最低限の部分しか読んでいないだけだ。この手の書類は本題となる部分以外に読む必要の無い無駄に長い部分が有るからな。馬鹿正直に全文に目を通す事は無い」

 

楯無「そこだけ聞いてると賢そうに聞こえるんだけど、何で黒咲君国語駄目なの?いや国語と言わず一般科目全部駄目なんだけどさ」

 

隼「……レジスタンスの活動をしていて学校に通う暇が無かったからな。学力が低いのは当たり前だ」

 

レジスタンスに学力は必要無かったからな。デュエルさえ強ければ問題無かったし、頭を使う事は赤馬零児に丸投げすれば良かったし。

 

楯無「何開き直ってんのよ……。同じ学校に行ってない組でも真月君は頭が良いみたいだけど?」

 

隼「あれは別格だ!それにあいつに比べたら大体の奴らが頭悪いという結果になるぞ!」

 

真月、あいつの頭脳は並外れている。戦況を常に見極め瞬時に的確な判断をする事が出来、赤馬零児以上に作戦を立てるのが上手い。一体どの様な経験を積んだらあそこまでの能力を手に入れる事が出来るのだろうか。

 

楯無「……まあ確かにそうね。……あら?」

 

そうやって楯無と談笑をしていると、不意にドアをノックする音が聞こえた。この時間帯に来客とは珍しいな。

 

虚「お嬢様、私です」

 

楯無「虚ちゃん?別にノックしなくても良いのにわざわざ如何したの?」

 

虚「いえ、お嬢様にお客様です。心の準備をする為にも、ノックは必要かと」

 

楯無「お客?まあ良いわ、通して」

 

虚「かしこまりました」

 

虚の声と共にドアが開き、虚と客人……更識簪が入ってきた。

 

隼「……む」

 

楯無「ブフォォ!?か、簪ちゃんんんん!?」

 

話の中心人物がやってきた事に驚いて楯無がおよそ女子が出して良いような声ではない声を出す。

 

虚「どうやらお嬢様に用があったようなので、連れて来ました。迷惑でしたか?」

 

楯無「い、いえいえ!?良くやってくれたわ虚ちゃん!?グッジョブ虚ちゃん!?」

 

虚「そうですか。では眠いので私はこれで」

 

それだけ言って、虚はさっさと帰ってしまった。前から感じていたが、感情の薄い、機械の様な女だな。

 

楯無「虚ちゃん!?待って!?行かないで!?虚ちゃああぁぁぁぁん!?」

 

楯無の悲痛な叫びは虚には届かず、生徒会室には俺と楯無と簪だけが残された。

 

隼「……本題に入ったらどうだ?」

 

楯無「そ、そうね。そ、そ、それで、ななな何の用なのかしらなかか簪ちゃん?」

 

簪「うん……お姉ちゃんにちょっと話が有って……。駄目、だったかな……?」

 

気弱そうな表情で上目遣いをする簪。これは破壊力ヤバイな、瑠璃にやられたら俺の理性が保たない所だった。

 

楯無「ぜぜぜぜ全然!?全く問題無いわ!!それで、話って何なの簪ちゃん?」

 

簪「此処じゃ話しにくいから……何処か静かな所で話したいな。お姉ちゃん、何処か良い所、無い?」

 

楯無「有るわよピッタリな所!島の外れにもう使われてない廃寮が有るの!立ち入り禁止区域だから人も来ないし安心出来るわよ!」

 

隼「いや、何当たり前のように立ち入り禁止区域に行こうとしてるんだお前は……」

 

楯無「生徒会長だから問題無いんですぅ!さ、行くわよ簪ちゃん!」

 

簪「うん、ありがとうお姉ちゃん……」

 

ノリノリの楯無に引き摺られるように、簪は笑顔で生徒会室から出て行く。あの感じなら仲直りも容易だろう。さて、後は姉妹に任せて俺は寝るか。そう思って生徒会室を出ようとした時、デュエルディスクに通知が来ている事に気がついた。

 

隼「む?通知か、本社の方で何か有ったのか?」

 

そう思って通知を見た俺はそこに書かれた内容に凍りついた。

 

『警告:所属不明のナンバーズの反応があります』

 

隼「な……!?」

 

瞬時にデュエルディスクを構えて戦闘態勢に移る。此処まで気配を悟らせなかったのだ、相当な実力を持っている筈だ。

 

隼「何処にいる!隠れてないで出てこい!」

 

返答は無い。素直に正体を晒す気は無いようだ。位置を特定する為にデュエルディスクを使おうとした時、俺は自分が大きな勘違いをしていた事に気がついた。

 

隼「通知が来たのは五分前。丁度楯無達がいた時……!?そういう事か!?」

 

勢い良くドアを蹴破り、廊下を走り出す。生徒会室を開けっ放しにしてしまうが今はそんな事を気にしている場合では無い。俺の予想が正しければ、最悪楯無が……!

 

隼「待っていろ、楯無……!」

 

 

 

side秋介

 

 

 

自販機に小銭を入れ、ジュースを買う。買ったジュースがつっかえて少し取るのに苦戦する。毎度思うのだが、あの取り出し口はもう少し大きくしても良いんじゃないか?

 

秋介「はあ……」

 

ベンチに座り、ただ何をする訳でもなくぼんやりとする。買ったジュースがひんやりしていて気持ちが良い。

 

「隣、良いか?」

 

秋介「んあ?別に構わ……何だ、お前か」

 

一夏「何だとは何だ、失礼な奴だな」

 

隣から話しかけられたので振り向くと、ジュースを持ったブラコンが立っていた。

 

秋介「何の用だよ、このジュースはやらないぞ」

 

一夏「別に要らねえよ。少し話しが有ってな」

 

秋介「話?何だよ?」

 

一夏「ミザエルさん達から聞いた。零の手助けをしてくれたんだってな。ありがとうな」

 

秋介「……別に大した事はしてないよ。そんな事言う為にわざわざ来たのかい?」

 

一夏「まあな。しかし意外だな、お前が簪を庇うなんて」

 

秋介「女性に優しくが僕のモットーだからな。それにへっぽこにはあの時助けられたからな。その借りを返しただけさ」

 

一夏「くくく、昔俺を虐めてた奴とは思えないな。一体どういう風の吹きまわしだ?」

 

秋介「弱い者虐めは別に構わないんだよ、弱い奴が悪いんだからな。でも弱い奴が群れて強い気になって本当に強い奴を虐めるのは気に食わない。弱い奴が生意気だからな」

 

一夏「それが俺を虐めていた理由で、お前が簪を助けた理由なのか?」

 

秋介「まあそうだね。更識さんは本当は強い側の人間なのに、ただ群れて強い気になっただけの生徒達に心無い罵声を浴びせられた。これ以上彼女が辛い目に遭う必要は無いだろう?」

 

一夏「成る程な。所で、この学園に来てから一度もお前に虐められてないんだが、昔みたいに虐めて来ないのか?」

 

秋介「言っただろ、強い者虐めは嫌いなんだよ。悔しいけど現時点では僕はお前より弱いからね。弱い奴に強い奴をどうこうする資格は無いよ。全く、何でお前みたいな奴が強いんだか……」

 

一夏「成る程。清々しいまでのクズだなお前!」

 

秋介「それ本人の前で言うか……ん?」

 

ふと前を向くと、全速力で廊下を走っていく生徒会長と、それに引き摺られる更識さんがいた。

 

楯無「いざ、廃寮にレッツゴー!」

 

一夏「廃寮……?肝試しでもするのか?」

 

秋介「まだそんな時期じゃ無いだろ……。というか、もう門限近いんだけど……」

 

一夏「門限ねぇ……破ったらどうなるんだ?」

 

秋介「ウチの寮長は千冬姉さんだぞ?何かしようものなら碌な目に合わないぞ」

 

千冬姉さんは自分はだらしない癖に他人に厳しい。その上気に食わない事があるとすぐに手を出すから困る。

 

一夏「へえ。元姉様は相変わらずだらしないのか?」

 

秋介「ああ、お前が消えてから更に部屋が汚くなったから掃除が大変だよ全く……」

 

一夏「ははは、ざまぁ」

 

秋介「うっわ超殴りたい!」

 

奇妙な感覚だ。昔と百八十度性格が違うが、昔虐めていた奴と決して和やかとは言えないが話をしているというのは中々に不思議な光景だと思う。

 

一夏「はっはっは、簪達の事は気になるが今は無視だ。よし、今からお前にハルトの魅力を一から百までしっかりと伝えてやる」

 

秋介「またかテメェ!?」

 

一夏「前回は最後まで伝えきれなかったからな、今日は朝まで語り尽くしてやるぜ」

 

秋介「巫山戯んなあぁぁぁぁ!?」

 

訂正、気分はやっぱり最悪だ。

 

 

 

side楯無

 

 

 

楯無「さあ、着いたわよ簪ちゃん!」

 

猛ダッシュで島を走って十分、目的の廃寮に辿り着く。昔此処で行われたオカルト的な実験によって行方不明者が出た事で廃寮になったと学園長は言っていたが、私としてはそんな非現実的な事を信じろというのは無理が有る。

 

楯無「そ、それで簪ちゃん?話って何なの?」

 

簪「……お姉ちゃんはさ、凄いよね」

 

楯無「……?」

 

いきなり褒められた。いや褒められた事自体は嬉しいのだけれど、それは此処まで来て言う程の事なのかしら?

 

簪「強くて、何でも出来て、優しくて、カッコよくて、私が持ってない物を全部持っていたよね」

 

楯無「いやいや、それ程でも……」

 

そろそろ恥ずかしくなってきた。簪ちゃんが私の事をこんなにも思ってくれていた事に感動だ。

 

簪「ううん、本当に凄いんだよ。私はそんな凄いお姉ちゃんに憧れていたんだから。だからねお姉ちゃん、私はお姉ちゃんの事……!」

 

楯無(これは!このシチュエーションは!いける、いけるわよ楯無!)

 

流れ的に簪ちゃんの次の言葉は『お姉ちゃんの事が大好きだよ♡』の筈、このタイミングで謝れば仲直りが出来る !そう、こんな感じに……!

 

簪『お姉ちゃんの事が大好きだよ♡』

 

楯無『今までごめんね簪ちゃん!私も簪ちゃんが大好きよ!』

 

簪『お姉ちゃん!』

 

楯無『簪ちゃん!』

 

そして二人は抱き合ってハッピーエンド!最高の展開じゃない!

 

簪「お姉ちゃんの事……!」

 

少し恥ずかしそうにもじもじする簪ちゃん。可愛い、やはりウチの妹は世界一!

 

楯無(勇気を出して簪ちゃん!)

 

暫くもじもじとしていた簪ちゃんだが、やがて決意したような表情で私の顔を見て、昔のように笑いかけながら言葉を続けた。

 

 

 

簪「私はずっとお姉ちゃんの事…………殺したくて仕方なかったんだあ♪」

 

 

 

楯無「…………え?」

 

あまりの衝撃に一瞬思考が停止する。紡がれた言葉を脳が受け入れようとしない。

 

ーー殺す?私を?

 

ーー何で?如何して?

 

思考が加速して、迷走していく。現状を正しく認識しようと目を見開いた私の目に映ったのはーー

 

笑顔で拳銃を私に向ける簪ちゃんの姿だった。

 

 

 

簪「バイバイ、お姉ちゃん♪」

 

 

廃寮に、乾いた破裂音が響き渡った。

 

 

 




次回予告

天音「さて、今回の次回予告は私と」
アマネ「俺様が担当だぜ!」
天音「君まだ本編未登場なんだから勝手に出てきちゃ駄目でしょ……」
アマネ「ククク、どうせ次の話じゃ出る予定なんだからそう堅い事言うなよ宿主様ぁ?」
天音「はあ、まあ良いよ。それじゃあ、次回予告初めていこうか!」
「あははは!その程度なのお姉ちゃん?もっと私を楽しませてよ!」
「やめて簪ちゃん!私は貴女と戦いたくないの!?」
天音「……最悪の事態が発生しちゃったね。このままじゃ簪が……!」
アマネ「ククク、こう深く闇に飲まれちまってたら助けるのは中々骨が折れるぜ?助けられるといいなぁ宿主様?」
「俺の仲間はやらせはしない!行け、ライズ・ファルコン!」
天音「黒咲君が援軍か、でも彼じゃ簪を救う事は……!」
アマネ「殺しだって立派な救いだぜ?無理に生かす必要あるのかい宿主様ぁ?」
天音「五月蝿い!私の友達は絶対助けるんだ!だから、君に賭ける!間に合ってくれ、真月君!」

次回、インフィニットバリアンズ

ep.36 水色少女の暴走

天音「次回も見てね!」
アマネ「俺様の登場に震えて眠りな!」

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