インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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〜遠く離れた世界にて〜

遊馬「なあアストラル、真月達は大丈夫かなあ?」
アストラル『さあな。だがあちらにはカイトやVが居る。心配する事は無いだろう』
遊馬「でもやっぱ心配なんだよ!なあアストラル、俺達もちょっとだけあっちの世界に行こうぜ!」
アストラル『君は今どういう状況か分かっているのか?アストラル世界に迫り来る未知の存在との戦いの時は刻一刻と迫っている。私達が此処を離れるのは自殺行為だ』
遊馬「分かってるけどさあ〜!」
アストラル『それに、あの世界は何故か私達を拒んでいる。Vが作った次元転送装置が私達に反応しなかったのを君はもう忘れたのか?』
遊馬「それなんだよな〜。アストラル、お前は何でか分かるか?」
アストラル『分からない。カイトやVには作動していた事から機械の故障ではない。それなのに私と遊馬には作動しなかった。まるで世界自体が私と遊馬の介入を拒むかのようにな』
遊馬「むむむ……あ!アストラル!一ついい案を思いついた!これならいけるんじゃないか?」
アストラル『……ロクな案では無いのだろうが、一応聞いておこう』
遊馬「おう!ーーーー」
アストラル『……正気か?』
遊馬「当たり前だ!コレとヌメロン・コードさえあれば、なんとかなるかもしれねぇ!」
アストラル『……正直反対だが、まあ良いだろう』
遊馬「おう!それじゃあ行くぞアストラル!」
アストラル『分かった。君を信じるぞ遊馬!』
遊馬「俺と!」
アストラル『私で!』
遊馬・アストラル『オーバーレイ!!』


ep.32 絶対絶命 遠く離れた友との絆

side真月

 

 

 

全身の骨が砕け散り、視界が赤く染まる。あまりの衝撃に意識が朦朧とする。俺はすぐさま拡張領域に収納してあったナイフを展開し、自分の脇腹に思い切り突き刺した。

 

真月「ぐっ!?がはっ……!」

 

刺された脇腹が熱を帯びたように熱くなり、鋭い痛みが襲ってくるが、おかげでなんとか意識を保つ事が出来た。

 

簪『零!?大丈夫なの!?』

 

真月「ごふっ……!なんとかな。簪、お前の方は、無事なのか……?」

 

血を吐き出しながらそう問いかけると、簪は涙を流しながら頷いた。

 

簪『ごめん、零……!私の、私の所為で……!』

 

ーー私が、弱かった所為で。

 

言葉にして言いはしなかったが、簪がそう思っているのはすぐ分かった。

 

真月「ばーか、テメェの所為なんかじゃ……ねぇよ。敵を前に油断した……俺が悪い」

 

簪『違う、違う違う違う!?私が悪いの!?私が、私が!?』

 

真月「ははは……簪、お前ちょっとネガテイブ過ぎるぜ?もうちょい気楽にいこうぜ?……ゴホッ!?」

 

また血を吐き出す。どうやら内臓が本格的にヤバそうだ。

 

簪『零!?大丈夫なの!?』

 

真月「大丈夫だっての。簪、お前は下がってろ。アイツは俺が倒すからよ」

 

簪『無理だよ、そんなボロボロの状態じゃ危険だよ!?』

 

真月「危険だろうとなんだろうとアレとマトモに闘えるのは俺だけなんだから仕方ないだろ。いいからとっとと下がってろ!」

 

そう簪に強めに言った。簪の辛そうな表情に心が痛むが、そんな事を考えてる暇は無い。

 

真月(……シャイニングラビット、現在の俺達の状態を教えろ)

 

『了解。装甲の八割が大破、シールドエネルギー残量残り一割。更にマスターの身体状況も最悪です。内臓の九割に甚大な被害、更に全身の骨の八割が砕け散っています。現在の状態での戦闘は推奨出来ません』

 

真月(機動力重視の紙装甲が災いしたか……。……シャイニングラビット、リミッターを解除しろ)

 

現状での戦闘は難しいらしいので、機体のリミッターを外して強制的に機体の出力を上げる事で戦闘を可能にする。

 

『警告:このコマンドを実行した場合、マスターの身体に大きな影響を及ぼします』

 

真月(知るか、とっととやれ)

 

現状で既に身体がボロボロなんだ、これ以上悪化したところで今と大差無い。

 

『……本当に実行しても構いませんか?』

 

真月(くどい!早く実行しろ!)

 

『……了解しました』

 

現状、簪を守る事が出来るのは俺だけだ。そしてそれを達成する為にリミッターを解除する必要が有るなら喜んで解除してやる。元々、ヌメロンコードが無ければそのまま死んでいた命だ。失う事に大した問題は無い。

 

仲間を守る為ならこんな(ゴミ)、幾らだって使ってやる。

 

真月「おらぁ!!」

 

『グオオォォッ!?』

 

勢い良く跳躍し、アシッドゴーレムの顔面に思い切り蹴りを浴びせる。機体に掛けられたリミッターを解除した事により威力が跳ね上がったその一撃によって、アシッドゴーレムの身体は大きく吹き飛ぶ。

 

真月「……チッ!」

 

激しい痛みが全身を襲う。骨が砕け散った身体を無理矢理動かしているので痛むのは当然だが、今はそれにリミッターを解除した事による無理な動きをした分のダメージも来ているのだろう。

 

真月(この分じゃそう長くは持たないな……。一気に決めさせて貰うぜ!)

 

アシッドゴーレムが立ち上がる前に接近し、思い切り顔面を踏み付ける。足を掴まれる前に大きく跳躍して距離を置き、もう一度追撃する。

 

真月「もう一発喰らっとけ!」

 

『ガアアアァァァ!!』

 

真月「なっ!?うおぉ!?」

 

一撃加えて離脱しようとした瞬間、勢い良く腕を伸ばしたアシッドゴーレムに右足を掴まれてしまった。

 

『ゴアアアァァァァ!!』

 

真月「おいこら離せやテメェ!?」

 

幾ら競技用のリミッターを解除して性能を底上げしたといっても所詮は機動力重視の機体。パワー型のアシッドゴーレムの腕から逃れる事は出来ない。

 

『グオォォォォ……』

 

真月「っ……!離せって言ってんだろうが!」

 

掴まれていない左足で腕をひたすら蹴りつけるがアシッドゴーレムは掴む力を緩めず、どんどんと力を増していく。

 

そしてーー

 

『グオオォォォォ!!』

 

 

 

ぐしゃり、という音と共に右足が握り潰された。

 

 

 

真月「……!?ぐっ、がああああぁぁぁぁ!?」

 

激しい痛みに絶叫を上げる。骨が砕け散った痛みを遥かに上回る、骨を含む肉が握り潰される痛みを耐える事が出来ない。

 

簪『零!?』

 

真月「来るんじゃねぇ!!」

 

駆けよろうとする簪を制止し、目の前のアシッドゴーレムを睨みつける。

 

『グゴゴゴゴ……』

 

真月「何笑ってやがる……!」

 

俺の足を握り潰した事がそんなに嬉しいのか、或いは勝利を確信したからなのかは分からないが、その気持ち悪い笑顔は俺を苛つかせるには十分だった。

 

『ゴアアアァァァ!!』

 

真月「がっは……!?」

 

俺を何度も地面に叩きつけた後腕を大きく振りかぶり、アシッドゴーレムは勢い良く俺を投げ飛ばした。不味い、また何処かに勢い良く激突したら今度こそ死ぬ……!

 

『どおりゃあああぁぁぁぁ!!げふえ!?』

 

吹き飛ばされた俺の身体は壁や地面に激突する事無く、飛び出して来た何かにぶつかって停止した。

 

秋介『いっててて……おいへっぽこ!お前がぶつかって来た所為で折角補給したシールドエネルギーが減っちゃっただろうが!……ってぎゃあああぁぁぁぁ!?へっぽこお前足が、足があぁぁぁぁ!?』

 

俺に文句を言おうとした時初めて俺の身体に起きた惨状を見たのか、秋介は物凄い悲鳴を上げながら俺の足を指差した。

 

鈴音『五月蝿いヘタレナルシスト!アンタ少しは静かに闘えないの!?』

 

秋介『り、鈴!?へっぽこの足がヤバイ!?メッチャグロい事になってる!?というか全身血塗れになってる!?』

 

鈴音『……!……やってくれたわね。ヘタレ!零とそこの簪をピッチまで運びなさい!』

 

秋介『はあ!?何で僕が!?というか簪さんはまだ闘えそうじゃないか!戦力は多い方が良いんじゃないのかい?ていうか最早ただのヘタレ呼びなのか僕は!?』

 

鈴音『現状簪はただの足手まといよ!未完成の機体なんて危なっかしくて使えるか!』

 

鈴の言うことは正論だ。だが簪を無理矢理にでもこの戦闘から離脱させる為なのか少し言い方がキツイ気がする。

 

簪『……!私だって闘える!私の所為で零は大怪我を負った!なら私がその分闘わないといけないの!』

 

鈴音『……はあ、こういうのは余り言いたくないんだけどなぁ。……良い加減にしなさいよ役立たず!』

 

簪『ひっ……!』

 

鈴音『勝手に突っ込んで来て大暴れして零にこんな怪我負わせるような事になって、それでもまだ迷惑をかける気なのアンタ!冗談も大概にしなさいよ!』

 

簪『う、あぁ……』

 

鈴音『今のアンタに何が出来るの!専用機も未完成、精神状態も不安定、そんなアンタに何が出来る!ただ場を引っ掻き回して足を引っ張るだけじゃない!ある意味このヘタレナルシストよりタチが悪いわよ!』

 

秋介『さらっと僕をdisるんじゃない!?』

 

簪『わ、私は、零達を助けたくて……』

 

鈴音『本当に助ける気なら大人しく下がりなさい!今のアタシ達には役立たず抱えて闘う余裕なんてないのよ!』

 

簪『……!?あ、ああ……』

 

その言葉がトドメとなったらしく、簪は俯いて何も話さなくなった。

 

秋介『おい鈴!流石にちょっと言い過ぎだろ!更識さんだって僕達を助けようとしてくれたんだからさ……』

 

鈴音『でも結果的には助けなんかにならず、寧ろ邪魔をしたじゃない。それに、簪はアタシ達を助ける為に乱入した訳じゃないわよ』

 

簪『……!?』

 

鈴の言葉に簪はびくっと震え真っ青になる。そんな簪に侮蔑の感情が籠った視線を向けながら、鈴はこう続けた。

 

鈴音『最初はどうか知らないけど、遮断フィールドを破壊して入って来た時のアンタにアタシ達を助ける気なんて無かった。違うかしら?』

 

簪『ち、違っ!?』

 

鈴音『違わないわよ。アタシはアンタの暴走を一部始終見て、アンタがその時何を話していたかも知ってる。だから言うわ。アンタはアタシ達を助ける気なんて無かった。アンタはあのデカブツを倒す事で自分の力を証明しようとしただけ、要は全部アンタの為よ』

 

簪『違う違う違う!私は零達を助けたかった、助けたかったのよ!?』

 

鈴音『……アンタには見込みが有るって言ったけど、それは撤回した方が良さそうね。断言するわ。簪、今のアンタに強くなる見込みなんて無い。アンタは誰よりも弱い、ただの『無能』よ』

 

簪『……!?う、ああぁぁぁぁ……』

 

その言葉が簪の心に本当の意味でトドメを刺したようで、簪は絶望の表情を浮かべながら泣き崩れた。

 

秋介『鈴!幾らなんでもこれは……!』

 

鈴音『……アンタには指示を出してた筈よ。さっさと零とそこの無能を担いで逃げなさい』

 

秋介『待てよ!まだ話は終わって……!』

 

鈴音『とっとと行け!あのデカブツより先にアンタをぶっ飛ばすわよ!』

 

秋介『ひいぃ!?了解しましたー!?』

 

鈴の一喝によって鈴に詰め寄ろうとした秋介はビクリと震え、俺と簪を担いで駆け出した。

 

真月(……糞が)

 

血を流し過ぎたのか意識がぼやけてきた。本格的に不味い状況だ。

 

真月(やっぱ、慣れない真似はするもんじゃないな……)

 

簪を庇った結果、死ぬレベルの大怪我を負って、簪の心にも大きな傷を負わせてしまった。

 

真月(アイツの真似は、俺なんかには出来なかったのか)

 

やはり俺に誰かを守るなんて事は無理だったのだろうか。沢山の人間を騙し、裏切ってきた俺には、誰かを守る資格は無かったのだろうか。

 

真月(いや、もういいか)

 

どうせこの怪我じゃもうじき死ぬ。そんな事を考える事もなくなるのだ。あれこれ考える必要は無いだろう。

 

意識が、遠くなってきた。死が近いのだろうか、身体の感覚もぼんやりとしている。抗う気力も失せ、俺は意識を手放した。

 

 

 

ーー諦め…んじゃ…え!かっ…ビ……だ!

 

 

 

懐かしい誰かの声が、聞こえた気がした。

 

 

 

side鈴音

 

 

 

鈴音「……流石にキツ過ぎたかしら」

 

秋介が二人を担いで逃走したのを確認してから、アタシはそう言った。簪の戦意を折って逃がす為とはいえ酷い事を言ってしまった。零が大怪我を負った事に気が立っていたのだろうか?簪には後で土下座して謝っといた方が良いかもしれない。

 

鈴音「……まあそれもこれも全部、コイツを倒さなきゃ始まんないわよね」

 

目の前のデカブツを睨みながらアタシはそう言った。シールドエネルギーが半分を切っても、このデカブツは余裕がある様だ。まだ隠し玉があるのか、それとも単に負ける筈が無いと思っているのか。

 

鈴音「そんな事は後で考える事よね。さあ、かかってきなさい!クイーンであるアタシを簡単に堕とせると思わないでね!」

 

構えを取り、注意をアタシに向ける為に挑発する。満タンまでエネルギーを補給出来た訳では無いのでどれくらい保つか分からないが、零達を逃がす時間くらいは稼げるだろう。

 

『……グオオオォォォォ!!』

 

挑発にまんまと乗ったデカブツは勢い良く駆け出し、アタシに襲いかかってーー来なかった。

 

鈴音「……はいぃ!?」

 

『ゴアアアアアアァァァァァ!!』

 

先程までとは比べ物にならないくらいのスピードで走り出したデカブツはアタシを無視し、ピッチへ逃げようとする秋介達の下へ一直線に駆け出した。

 

秋介『ちょ!?何でこっちに来るんだよ!?挑発したのはそっちの貧乳ツインテールだぞ!?』

 

鈴音「さらっと人を馬鹿にしてんじゃないわよ!というか不味い!コイツ結構速い!?」

 

不意をつかれてスタートダッシュが遅れたとはいえ、アタシのレッドデーモンズは現在存在するISの中ではトップクラスのスピードを持っている。そのレッドデーモンズが追いつけないなんて、このデカブツどんだけ速いのよ。

 

秋介『……このまま逃げても直ぐに追いつかれてゲームオーバー。ああクソ、やるしかないのか!?』

 

そう言って秋介は両手に担いでいた二人を放り投げ、二人を庇う形でデカブツと向かい合った。どうやら、このまま追いつかれてがら空きの背中を攻撃されるくらいなら立ち向かった方がマシだと考えたらしい。

 

秋介『……このまま闘ってもいずれ僕の体力の限界が来てやられる。逆にここで逃げたら後ろの二人がやられて僕が鈴に殺される。鈴にやられるよりはあのデカブツにやられる方が百倍マシだ。ああチクショウ!何で僕はこういう損な役回りばっかなんだ!』

 

足がガクガクと震え、涙目になりながら秋介はそう大声で叫んだ。立ちはだかる秋介に気を取られてデカブツが動きを止めたその隙を利用しアタシはなんとか追い付く事に成功した。

 

鈴音「やっと追いついた!アタシを無視するなんて良い度胸じゃないのこのデカブツ!」

 

秋介『鈴!お前結局足止め出来てないじゃないか!?』

 

鈴音「仕方がないでしょコイツ意外と速かったんだから!アタシだってコイツがこんなに速いって知ってたらアンタに足止め任せてアタシが零達を運んでるわよ!」

 

秋介『確かにそうすれば僕より早くへっぽこ達を運べるけどその分僕の仕事の危険度が増すだろうが!?』

 

勿論これは冗談だ。仮にそれをやったら秋介がデカブツに瞬殺されて碌に時間を稼げない。

 

鈴音「アタシがアイツの注意を引く、アンタはアイツが隙を見せた瞬間に全力の一撃を喰らわせなさい!」

 

秋介『了解!』

 

その言葉と共に秋介はアタシ達から距離を置き、刀を構えていつでも攻撃できる体勢を取った。

 

鈴音「どりゃああぁぁぁぁ!!」

 

『グオオオォォォ!!』

 

振り下ろされる拳にこちらの拳をぶつける。拳を繰り出すスピードが上がっているようだが、どうやら単純な力比べならアタシの方に分があるらしく、徐々にだが押し返していっている。

 

鈴音「パワー勝負でアタシに……勝てると思うなあぁぁぁぁ!!」

 

拳を押し返し、転倒させる。少し腕が痺れるが、骨が折れたりはしていない。

 

鈴音「隙は作ってやったわ!さっさと決めなさい!」

 

秋介『分かってるよ!零落白夜ぁぁぁぁぁ!!』

 

デカブツの体勢は崩れたまま、零落白夜を打つためのシールドエネルギーも満タン。デカブツのシールドエネルギーの残量もそこまで残っていないので、これが決まれば、アタシ達の勝利だ

 

エネルギーを纏ったブレードがデカブツの胴体に直撃し、その身体を切り裂くーーかに思われた。

 

秋介『決まった!僕達の勝ちだ!……あれ?』

 

鈴音「……あ」

 

秋介の持っていたブレードが無くなっていた。正確に言うとブレードの先端から大体半分くらいの部分が無くなっていたのだ。そしてデカブツと秋介の間には光を放つ金属片が宙を舞っていた。これらの状況から察するにこれは恐らくーー

 

秋介『雪片がまた折れたぁぁぁぁぁ!?』

 

鈴音「はあ!?よりによって今、このタイミングで!?」

 

最悪だ。恐らくデカブツの体に直撃した衝撃で折れてしまったのだろうが、流石にタイミングが悪過ぎるとしか言うことが出来ない。

 

秋介『嘘だろ!?さっきまでは使っても折れる気配無かっただろ!?何でいきなり……なぁ!?』

 

鈴音「これは……!」

 

雪片が、溶けていたのだ。原因はあのデカブツが流し続けている酸だろう。だが仮にもISの武装として作られた刀がそう簡単に溶けるものだろうか。

 

秋介『雪片の耐久性は高い。少なくとも現在存在する酸じゃあ溶かせない筈だ。まず間違いなく新種……!気を付けろ鈴!あの酸に触れたら絶対にヤバイ!』

 

鈴音「んなもん見りゃ分かるわよ!それよりとっとと下がりなさい!アイツが起き上がるわよ!」

 

『グオオォォ……オアアアァァァァァ!!』

 

決定的な攻撃チャンスを逃した事で、デカブツが起き上がる時間を与えてしまった。雪片が折れた事を気にせずアタシが攻撃していれば良かったのだが、ついそっちに意識が向いてしまった。アタシもまだまだ修行が足りないな。

 

鈴音「いい加減にくたばれデカブツ!」

 

火力要員だった秋介が使い物にならなくなった為戦力にあまり余裕が無いのでイグニッションブーストを使って即座に接近、相手に反撃させずに一気に削り切る作戦に切り替える。デカブツの攻撃は確かに強力だが、アタシのレッドデーモンズなら一撃は耐えられる。だが、それは悪手だった。

 

秋介『……!?鈴、避けろ!?』

 

『グオオォォォォォォ!!』

 

鈴音「……!?しまっーー」

 

デカブツがアタシ目掛けて口からあの酸を噴き出してきたのだ。迂闊だった、腕にばかり気を取られていて他の攻撃がある可能性を失念していた。

 

鈴音「……!?ぐっ、あああ……!」

 

咄嗟に腕を使ってなんとか顔を守る事は出来たが、酸をマトモに浴びた両腕が焼けるように熱い。どうやら酸が腕の装甲を溶かして皮膚に到達したらしい。

 

『グオオォォォォォォ!!』

 

鈴音「がはっ……!?」

 

酸による痛みに思わず怯んでしまったアタシをデカブツが思いっ切り殴り飛ばす。腕以外にも付着した酸が全身の装甲を脆くしたらしく、想像以上のダメージが全身に駆け巡った。

 

秋介『鈴!?この野郎!』

 

『グオオォォォォォォ!!』

 

秋介『へぶしっ!?』

 

アタシが吹き飛ばされてヤケになった秋介がデカブツに突撃したが、武器が無いこの状況では何か出来る訳も無く、腕の一振りで吹き飛ばされてしまう。

 

鈴音「がはっ!ごふっ!クソっ……!」

 

先の攻撃のダメージでアタシの身体はマトモに動かない、秋介はデカブツのパンチを喰らって伸びている。簪はアタシが心を折ってしまった所為で放心状態。誰一人として零達を守るやつが居ない。

 

『グオオォォォォォォ……』

 

デカブツは痛みで身動きが取れないアタシ達を無視し、真っ直ぐ零達の方へと向かっていく。デカブツを止める為に身体を動かそうとするが、蓄積されたダメージがそれを許さず、全く動かない。

 

鈴音「零……!」

 

情けない話だ。大好きな人が危険に晒されているのに、身体が全く動かないのだから。

 

『グオオオアアァァァァァ!!』

 

デカブツが倒れている零の所までたどり着き、拳を振り上げた。その拳を止められる奴は誰も居なかった。振り下ろされた拳は寸分違わず零を捉え、物言わぬ屍に変えるだろう。

 

鈴音「……!」

 

凄惨な光景から目を逸らす為に、身体が勝手に目を閉じる。本当は逸らしてはいけないのに、アタシの未熟な心は楽な方へと逃げてしまった。

 

ーードオォォォォン!!

 

凄まじい音が振動と共に目を閉じていたアタシに伝わってくる。目の前に広がる光景を見るのが恐い。

 

『グオオォォォォ………オォ?』

 

雄叫びを上げていたデカブツの声に、不意に困惑の感情が混じった。デカブツの困惑の正体を確かめる為に、アタシは閉じていた目を力づくでこじ開ける。

 

鈴音「……え?」

 

デカブツの拳は振り下ろされていた。だが、その拳は零に当たる直前で光の柱に止められていた。

 

鈴音「何よ…アレ……!?」

 

光の柱は零を守るようにデカブツの前に立ち塞がり、デカブツの拳を止めていた。その柱の中に、薄っすらとだが何かが見えた気がした。

 

鈴音「人……なの……?」

 

 

 

事態は、終わりへと向かおうとしていた。

 

 

 

side真月

 

 

 

暖かい光を浴びて、目を覚ました。顔を照らす光以外何も無い真っ暗な空間、そこに俺はいた。

 

此処が何処なのかを確かめる為に起き上がろうとしたが、激しい激痛に襲われてむりだった。どうやら身体の怪我は相変わらず存在するらしい。握りつぶされた足もそのままだ。ならばまだ俺は死んでいないのだろう。

 

真月「……なんだよ、死ねなかったのかよ」

 

今の怪我で生きている事自体不思議だが、この怪我じゃあ動けても意味が無い。

 

真月「いっその事、あのまま死んでた方が楽で良かったんだがなあ……」

 

「馬鹿な事言ってんじゃねぇぞ真月!!」

 

真月「……!?今の声は……!?」

 

聞こえる筈の無い声に心臓が止まると錯覚する程の衝撃を受ける。ありえない。アイツが此処にいるなんて、有るはずがない。

 

遊馬「お前にはまだやる事が一杯あんだろうが!それを放り出して、勝手に諦めてんじゃねえ!!」

 

真月「遊馬!?テメェ何で此処に!?アストラル世界に行ってたんじゃないのか!?」

 

間違い無い、正真正銘俺の知る遊馬だ。だが何で此処に?カイト達から聞いた話じゃコイツはアストラル世界に迫る新たな脅威に対抗する為にアストラル世界に向かっていた筈だ。

 

遊馬「俺の事は今はどうでもいい!今大切なのはお前の事だ!真月、お前仲間を守りたいんだろ!何諦めてんだ!」

 

真月「……見りゃ分かんだろ。この怪我じゃマトモに闘えねえ、仲間を守るなんざ夢のまた夢だ」

 

遊馬「やる前から諦めてどうすんだ!まだお前は生きてる!お前の命の炎はまだ燃え尽きちゃいねぇ!命ある限り、人は何度だってかっとビング出来るんだよ!」

 

この怪我を見てそんな事を言うとは、相変わらず無茶苦茶な奴だ。だが不思議と嫌な感じはしない、コイツの言葉に勇気を貰っている俺が確かに存在する。

 

真月「……チッ!相変わらずウザい奴だなお前は。しゃあねえな、これ以上テメェにギャーギャー騒がれるのも嫌だしもう少し頑張ってやるよ」

 

そう言うと、遊馬はかつて俺と一緒にいた時に見せたような笑顔で、俺の肩を叩いた。

 

遊馬「おう!頑張ってこい、真月!」

 

アストラル『おい遊馬!まだ話が終わらないのか!アシッドゴーレムの攻撃を防いでいるのもそろそろ限界だ!ゼアルが強制解除される前に戻るぞ!』

 

遊馬「ああ、悪いアストラル!……もう少し話していたかったけど、そろそろ時間だ。元々ゼアルを使って無理矢理この世界に来てたからな。長くはこの世界にいられないんだ。……真月、最後にこれを受け取ってくれ」

 

そう言って遊馬は俺に一枚のカードを手渡した。

 

真月「これは……希望皇ホープ!?テメェが持ってたのか!?」

 

遊馬「違う。そのホープはヌメロン・コードを使って俺自身のナンバーズである未来皇ホープから複製した、お前だけのホープだ」

 

真月「俺だけの…ホープ……」

 

遊馬「ああ。真月、この先お前は沢山の困難に立ち向かう事になる。今みたいに挫けそうになる事も沢山ある。それでも、絶対に諦めんじゃねえぞ!そのホープと一緒にそれを乗り越えて、一緒に強くなれ!」

 

真月「遊馬……」

 

遊馬「負けんじゃねえぞ真月!かっとビングだ!」

 

そう言って遊馬は消えていき、周りの空間もそれに伴って消滅していく。

 

真月「かっとビング、か。忘れてたな、その言葉」

 

全く、本当に大したお人好しだ。一度は裏切ったろくでなしを心配して、わざわざ異世界までやって来るんだから。

 

真月「……さあて、わざわざ助けに来たあの馬鹿に恥じないように俺も闘うか!」

 

 

かっとビングだ、俺!

 

 

受け取ったカードを握り締めながらそう呟いて、俺は現実へと帰還した。

 

 

 

 




次回予告

遊馬「という訳で、今回の次回予告は俺とアストラルが担当するぜ!」
アストラル『遊馬、君に任せて大丈夫か?』
遊馬「うるせえ!これくらい俺にだって出来るっての!」
「来い!希望皇、ホープ!!」
遊馬「いきなりホープ登場!やっぱカッコイイぜ!」
アストラル『彼に託したホープは彼オリジナルのホープ。どのように進化していくか楽しみだな』
「アタシも、負けてられないわねぇ!!」
「神童の底力、舐めんじゃねぇぞ!!」
遊馬「うおおお!真月以外の奴らも負けてないぜ!皆、かっとビングだ!」
アストラル『ベクターが私達との絆で繋がっているように、ベクターと鳳鈴音もまた絆で繋がっている。繋がる心が、彼らの力なのだろうな』

次回、インフィニットバリアンズ
ep.33 決着! 闇を切り裂く希望の光

遊馬「次回も見てくれよな!」

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