インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.31 アシッドゴーレムの強襲 水色少女の焦燥

side真月

 

 

 

『オオオオオオォォ!!』

 

アシッドゴーレムが咆哮しても、観客席に居た人間も、一番アシッドゴーレムの近くに居た鈴達も、凍り付いた様にその場を動かなかった。

 

いや、動けなかったのだ。眼前に広がる光景、その中心にいる怪物を、現実の物と認める事を脳が拒絶したのだ。

 

『ウウウウウゥゥゥゥ……!』

 

アシッドゴーレムが低く唸り声を上げ、俺達の居る観客席に真っ直ぐに向かってきた時、やっと認めた。

 

 

 

『これは夢ではない、現実なのだ』と。

 

 

 

「ひっ…………!」

 

誰かが声を上げた。とても小さい、か細い声だった。されどその声はアシッドゴーレムの唸り声以外の音が存在しないこの空間に良く響いた。脳が現実を理解し、自らに迫る危機に恐怖したが故に漏れたその声は、その生徒の身体中に恐怖を蔓延させ、その生徒の周りの人間に恐怖を伝染させていく。

 

そして遂に、アリーナ全体に恐怖が広がった。

 

『きゃあああぁぁぁぁ!?』

 

『何よアレ!?何なのよ!?』

 

『誰か!?誰かぁ!?』

 

アリーナにいた生徒全員がパニック状態に陥り、他者を押し退け、踏みつけ、突き飛ばしながら我先に出口へと向かっていく。

 

ミザエル「おい落ち着け貴様ら!」

 

璃緒「そんな慌てたって混雑するだけよ!」

 

ミザエルとメラグが止めようとするが、迫り来るアシッドゴーレムに対する恐怖で殆どの生徒が正常な判断力を失っており、誰も二人の言葉に耳を貸す者はいない。

 

一夏「まずいぞ零!あのデカブツそろそろ此処に来る!」

 

その言葉にはっとしてアシッドゴーレムの方を見ると、こちらに向かって拳を振り上げる最中だった。

 

真月「やべぇ!?ミザエル、タキオンでこいつぶっ飛ばせるか!?」

 

ミザエル「馬鹿か貴様!ここでタキオンドラゴンを使えばアリーナの遮断フィールドまで破壊してしまうだろうが!大量の人間が密集しているここでやったら大惨事だぞ!」

 

一夏「ですよね〜!璃緒さん、氷使って遮断フィールドの強度上げる事って可能か?」

 

璃緒「やっても良いけれど、貴方もこの場にいる生徒達もみんな凍っちゃうわよ?」

 

一夏「やっぱ無しの方向で!」

 

セシリア「コントをやっている場合ですか!?攻撃が来ますわよ!」

 

セシリアの言う通り、アシッドゴーレムは今まさに拳を振り下ろそうとする所だ。やばい、めっちゃやばい。

 

真月「全員、ISを展開して衝撃に備えろ!来るぞ!」

 

後ろにいる生徒達を守る為にISを展開し、アシッドゴーレムの攻撃を最小限に抑えようとした瞬間、織斑と鈴が同時にアシッドゴーレムに攻撃した。

 

鈴音『アタシを無視するなんていい度胸じゃない!』

 

秋介『よくも踏んづけやがったなこのデカブツ!』

 

右側から鈴の拳、左側から織斑の刀がアシッドゴーレムに振り下ろされるが、アシッドゴーレムの身体に触れる前にバリアに阻まれ停止した。

 

秋介『何ィ!?』

 

鈴音『チッ……!意外と硬い……!』

 

攻撃が阻まれるのと同時に鈴達は後ろに跳躍し距離を開けた。ダメージを与える事は出来なかったが鈴達の攻撃によりアシッドゴーレムの興味は観客席の生徒達から鈴達に移ったらしく、アシッドゴーレムはくるりと反転し鈴達に襲いかかった。

 

真月「チャンスだ!一夏、メラグ、ミザエル!周りの生徒の避難を頼む!天音とねねはミザエル達に続け!」

 

一夏「任せろ!」

 

ミザエル「了解した!行くぞ本音!」

 

本音「う、うん!」

 

天音「行くよねね!」

 

ねね「ま、待って……腰が抜けて動けない……」

 

璃緒「私が背負いますわ!さあ早く!」

 

俺の指示に従ってミザエル達は素早く行動を開始する。

 

セシリア「あの、わたくしは何をすれば?」

 

真月「テメェは待機!なにが起きても絶対にアレと闘おうとするなよ!」

 

新しい専用機を使った初戦闘が命を懸けた実戦だなんて笑えない。それにセシリアの専用機の件をまだ学校に伝えてないからセシリアが戦闘したら織斑千冬あたりが五月蝿く言ってくるだろう。

 

セシリア「は、はい!零さんはどうしますの?」

 

真月「俺は鈴達に加勢する!いいか、絶対闘うなよ、絶対だからな!」

 

そうキツく釘を刺し、俺はシャイニングラビットを展開、ゲートを開ける要領で遮断フィールドを通り抜けて加勢に向かった。

 

 

 

side鈴音

 

 

 

アタシと秋介は現在、アリーナに乱入した正体不明のISと交戦していた。まあこちらの攻撃の全てがやたら硬いバリアに阻まれているので実際は相手の攻撃を避け続けるだけだけど。

 

秋介『くっそ!どうすんだよこれ!』

 

鈴音「文句言ってる暇があるなら動け!こいつが観客席に行ったら大惨事よ!」

 

秋介『分かってるけどさぁ!?このままじゃジリ貧だって話だよ!』

 

鈴音「知ってるわよそんな事!それよりアンタ!管制室とは連絡ついたの?」

 

秋介『もうちょいで出来る!……山田先生!織斑です!』

 

麻耶『ーー織斑君大丈夫ですか!?怪我とかしてませんか!?鈴さんは如何ですか!?』

 

秋介『僕も鈴も、今の所は大丈夫です!でも流石に僕達だけじゃ無理があるので教師部隊を援軍として送ってくれませんか!』

 

麻耶『すいません無理です!』

 

秋介『即答!?というか何でですか!?』

 

麻耶『この前鈴さんと黒咲君が暴れた時の損傷が酷くて戦闘に参加出来ない機体が多数有るんです!さらに現在、ここアリーナだけでなく学園の本校舎も所属不明の機体の襲撃を受けています!機体が無事な教師部隊はそっちの対応で手一杯なんです!』

 

秋介『えええぇぇぇ!?本校舎にも来たんですかぁ!?』

 

麻耶『はい、その為援軍を送るのは現状不可能です!二人共、何とか耐えて下さい!』

 

そう言って山田先生は通信を切った。どうやら教師部隊の援軍は見込めないらしい。アタシより弱い奴らの助けなんて最初からアテにしていなかったけれど、まさかこの前アタシと黒咲が起こした騒動のツケが回ってくるとは思わなかった。

 

秋介『………終わったー!?もう終わりだー!?』

 

鈴音「早々に諦めてんじゃないわよ!アンタ神童じゃなかったの!」

 

秋介『僕は勝てない闘いはしない主義なんだよ!?それなのにこの状況じゃ闘うしかないじゃんか!?神童の僕には分かる!あのデカブツは僕達より強いんだよ!』

 

最悪だ。こんな時に秋介がヘタレた。ただでさえ有効な手が見つかってないのにこのヘタレまで抱えて闘わなきゃいけないなんて。

 

鈴音「くっそ……!せめてこのヘタレの面倒見てくれる奴さえ居れば……!」

 

そう考えていたまさにその時、目の前のデカブツが爆発と共に吹き飛んだ。

 

秋介『うおっ!?何だ!?』

 

真月『鈴さん!織斑君!お待たせしました!真月零、良かれと思って助太刀に参りました!』

 

鈴音「零!?アンタどうやって此処に!?」

 

どうやらあのデカブツを吹き飛ばしたのは零らしい。だが零は一体どうやって此処に来たのだろう。此処と観客席は遮断フィールドによって分断されているし、見た感じ遮断フィールドは壊されていないのだが。

 

秋介『……よりによってお前かよへっぽこ!?他にも強い奴いただろ!?海馬とか黒咲とかブラコンとかさぁ!?』

 

真月『他の皆は観客の避難誘導をしてます!黒咲君はそもそもサボりだからアリーナに居ません!』

 

秋介『アイツマジで何してんの!?』

 

真月『居ない人の事は置いといて!こいつは僕が足止めするので、二人共避難して下さい!』

 

鈴音「はあぁ!?アンタ何言ってんのよ!?」

 

秋介『神童の僕が勝てない相手にお前一人で勝てる訳無いだろ!?』

 

真月『あれはナンバーズです!対処する手段の無い二人が闘っても危険なだけです!』

 

ナンバーズ……聞いた事がある。確か篠ノ之博士が作った467のISとは別の、製作者不明のISだったか。中国に居た時にそれの所有権について国のお偉いさんが他の国と揉めていた事があった。

 

秋介『ナンバーズ……確か海馬の専用機もそんな名前が付いてたよな。おいへっぽこ、そのナンバーズってのについて僕達に詳しく教えろよ。アレが何か分かれば対処法が見つかるかもしれないだろ?』

 

真月『僕が知ってる事で良ければ。まず、ナンバーズには他のナンバーズ以外の攻撃を防ぐナンバーズ・ウォールと呼ばれるエネルギーバリアが有ります。その為ナンバーズにはナンバーズでしか対抗出来ません』

 

鈴音「成る程……それでアタシ達の攻撃が防がれた訳ね。あれ?じゃあアンタさっきどうやってあのデカブツに攻撃したの?アンタもナンバーズ持ちなの?」

 

真月『いえ、僕はナンバーズを持ってません。僕達アークライトカンパニーは仕事でよくナンバーズと闘うので、機体にナンバーズ・ウォールを無効化して攻撃出来る特殊なコーティングをしているんです』

 

鈴音「……仕事でよくナンバーズと闘うって、アンタらの会社一体何やってんのよ?」

 

真月『それは企業秘密です。それよりも早く避難して下さい!今の話を聞いたなら分かるでしょう!現状この場でアレに対抗出来るのは僕だけです!それに僕のISは火力が低いのでそう長くは足止め出来ません!』

 

鈴音「はあ?何言ってんのよ零、アタシは逃げる気なんてさらさらないわよ?」

 

秋介『僕もだ。あんなデカブツお前みたいなへっぽこ一人に任せられるか』

 

真月「ええぇ!?ちょっと二人共!?ちゃんと僕の話聞いてました!?」

 

勿論聞いていた。だが此処で逃げるアタシじゃない。なんたってアタシは……

 

鈴音「アタシはクイーンよ!クイーンの辞書に、『撤退』の二文字は存在しないわ!」

 

アタシはクイーン、絶対王者だ。絶対王者であるアタシが敵を前にして逃げるなんて事有ってはいけない。それをしたら、アタシは師匠に出会う前のアタシに逆戻りだ。

 

秋介『僕は神童だ!あのデカブツに僕を踏んづけた事を後悔させるまで逃げてたまるか!……それに、お前の話を聞いて一つ策を思い付いたからな』

 

その策とやらに余程自信があるのか、秋介は先程のヘタレた状態からいつもの腹立たしいドヤ顔になっていた。

 

鈴音「……どんな策?」

 

秋介『それを言う前に、へっぽこに一つ確認する。あのデカブツが使ってるナンバーズ・ウォールってのはシールドバリアの強化版って認識で良いんだな?』

 

真月『は、はい。でもそれがどうかしたんですか?』

 

秋介『良し!これでこの策が通用すると確信した!勝ったぞへっぽこ、この闘い、僕達の勝利だ!』

 

鈴音「浮かれる前にその策ってのを教えなさいよこのヘタレナルシスト!」

 

秋介『誰がナルシストだ誰が!?……まあいい、僕の完璧な策を教えてやるよ。作戦は簡単、へっぽこがあのデカブツを弱らせて、僕が零落白夜で一気に決める!あのデカブツが使うバリアがシールドバリアの強化版なら、僕の零落白夜で大ダメージを与える事が可能な筈さ』

 

……確かに納得は出来るが、それは策とは言わないと思うのはアタシだけなのだろうか?

 

真月『……それは策では無いと思うんですが?』

 

秋介『お前一人闘わせるよりマシだろうが!』

 

真月『僕としては一人の方が気楽で良いんですが。まあ良いです。悪くはないですから、その策に乗ります。でも織斑君、鈴さんはにどの様な役割が有るんですか?』

 

秋介『うっ!?り、鈴はほら、アレだ、応援役、的な?』

 

鈴音「何も考えてなかったんかい!」

 

偶に思うのだが、こいつは本当に天才なのだろうか?

 

鈴音「勿論アタシも戦闘に参加するわよ。アタシのレッドデーモンズにだってアレに有効な攻撃があるもの」

 

そう、アタシのレッドデーモンズだってあのデカブツに対抗する方法が有る。レッドデーモンズのワンオフアビリティの『アブソリュート・パワーフォース』は、超火力で相手のシールドバリアを破壊して機体に直接ダメージを与える『バリア破壊攻撃』だ。しかもヘタレナルシストの零落白夜と違い破壊されたバリアはエネルギーの補給をしない限り再生しない。つまり破壊された箇所はその戦闘の間無防備になり、簡単にダメージを与える事が出来るのだ。

 

真月『……駄目って言っても聞かないんですよね?』

 

鈴音「勿論!」

 

真月『……はあ、分かりました。二人共、絶対に生き残りましょう!』

 

鈴音「有ったり前よ!」

 

秋介『……それ、俗に言う死亡フラグなんじゃ……?』

 

此処に、アタシ達三人による共同戦線が生まれた。

 

 

 

sideミザエル

 

 

 

生徒の避難は思った以上に難航している。その理由は簡単、アリーナの扉が開かないのだ。

 

『何で開かないのよ!?』

 

『出して!?出してよぉ!?』

 

『ヘルプ!?ヘルプミー!?』

 

『アンタ実は結構余裕あるでしょ!?』

 

扉付近はさながら満員電車の中の様に混み合っており、扉のそばに近づく事すら困難な状況にあった。

 

ミザエル「クソッ!これではラチがあかん!おい貴様ら!今から扉を吹き飛ばすからとっととそこを退け!」

 

タキオンドラゴンを展開しながらそう言うと、扉付近に居た生徒達は青い顔をしながら距離を開けた。

 

ミザエル「よし!本音、危ないから離れてろ」

 

本音「は〜い!」

 

ミザエル「よし、良い子だ」

 

本音「えへへ〜!褒めて褒めて〜!」

 

そう言って頭を撫でてやると、本音はだらしない顔をしながら私から離れた。

 

『……海馬君と布仏さんって付き合ってるのかな?』

 

『いや、あれはどっちかというと……』

 

『……親子、よね』

 

ミザエル「全員離れたな!行くぞタキオンドラゴン!戦慄の、タキオンスパイラルッ!!」

 

次の瞬間、扉が激しい光に包まれ、扉が塵一つ残さず消滅する。流石タキオンドラゴン、素晴らしい威力だ。

 

ミザエル「扉は消し飛ばした!さっさと逃げろ!」

 

『ちょっ!?ちょっと待ちなさいよ!?』

 

『私達について来てくれないの!?』

 

『出た先にもアレみたいなのが居たらどうするのよ!?』

 

ミザエル「アリーナではまだ零や鈴達が闘っているのだ!こんな所で油を売っている暇など有りはしない!」

 

『そんな!?』

 

『真月君達は専用機を持ってるんだから良いじゃない!』

 

『私達には身を守る手段も無いのよ!?』

 

ミザエル「チッ……!」

 

確かにこいつらの言葉にも一理ある。誰も守ってくれる人間が居ない状態でこの非常事態の中避難させるのは危険過ぎる。

 

ミザエル「……ああ分かった!貴様らが無事避難出来るまでは護衛してやる!急いでるからとっとと動け!」

 

済まないベクター、まだ暫くは助けに行けん。

 

 

 

side一夏

 

 

 

一夏「あのデカブツが来たら俺と璃緒さんで迎撃するから、皆は落ち着いて避難してくれ!」

 

俺と璃緒さんはアリーナのミザエルさんが向かった扉を開けとは別の、もう一つの扉を破壊して、生徒の避難を行なっていた。

 

璃緒「皆さん、慌てなくても出口は逃げませんから、落ち着いて移動しなさい!」

 

『は、はい!』

 

『二人共、ありがとう!』

 

一夏「礼は後で良いから早く!後がつっかえてる!」

 

『う、うん!』

 

避難自体は順調に進んでいるのだが、数が多いのでかなり時間がかかっている。

 

一夏「はあ、まだ避難終わらないのかよ。早く零に加勢しなきゃヤバいってのに」

 

璃緒「焦っても何も良い事は無いわ。今は私達に出来る事を精一杯やりましょう」

 

天音「あはは、ごめんね二人共。私が皆に指示出来る立場なら良かったんだけど、生憎専用機も無い身分でね」

 

ねね「すみません……。あと璃緒さん、そろそろ下ろしてもらっても良いですか?」

 

璃緒「ああ、ごめんなさい。もう大丈夫なの?」

 

ねね「はい、ご迷惑をおかけしました。……その、一つ聞きたい事が」

 

璃緒さんに下ろして貰ったねねさんは、周りをキョロキョロと見回しながら不安そうな顔でこう尋ねた。

 

ねね「簪ちゃん、大丈夫でしょうか?」

 

璃緒「簪さん……?医務室に居る筈だから、もう避難していると思うけれど、それがどうかしたの?」

 

ねね「いえ、それなら別に良いんですけど……。簪ちゃん、最近ずっと様子がおかしかったから……。ちょっと嫌な予感がするんです」

 

一夏「考え過ぎだろ。ネガティブな想像ばっかしてたら気が滅入っちまうぞ?」

 

ねね「そう、ですよね……。すみません、少し動揺してるみたいです」

 

確かに、最近の簪さんはちょっと変だった。だがこの観客席に居ないのなら問題無いだろう。

 

一夏「ほら、ねねさんも早く避難して!零の足止めもながくは持たないだろうから!」

 

ねね「は、はい!」

 

そう言っておれはねねさんを送り出した。まだまだ生徒は沢山残っている。零の所に行くにはもう少し時間がかかりそうだ。

 

……この時、ねねさんが感じた予感を信じて簪さんを探していれば、あんな事にはならなかったのだろう。

 

此処での判断を、俺は後に後悔する事になる。

 

 

 

side簪

 

 

 

簪「アレが、ナンバーズ……!」

 

私がティナと別れて観客席にやって来た直後、アリーナの遮断フィールドを突き破って巨人が現れた。身体に30という数字が刻まれていたので、アレがミザエル君の機体と同じナンバーズだと直ぐに気がついた。

 

今、あのナンバーズと闘っているののは零と鈴と織斑の三人。いくら零が強いといってもたった三人ではすぐに限界が来るだろう。

 

簪「助けないと……!」

 

そう思って動こうとした瞬間ーー

 

 

 

ーー今の貴女に何が出来るの?

 

 

 

簪「……!?」

 

声がした、気がした。頭の中に響いたその声は、零を助けようとした私の身体をその場に縛り付け動けなくした。

 

 

 

ーー専用機も未完成、実力も無い。そんな貴女が行って何になるの?

 

 

 

簪「…………さい」

 

声は頭を離れない。それどころかどんどんと大きくなっていく。

 

 

 

ーー認めなさい。貴女は弱い、あの場に居る誰よりも弱い役立たず。

 

 

 

簪「………るさい」

 

声が大きくなるにつれ、その声が誰のものか分かってきた。それはとても強い人で、私が憧れていた人の声だった。

 

 

 

ーー貴女が行ったって邪魔になるだけよ。だから……

 

 

 

簪「五月蝿いって言ってるでしょ!?」

 

次に来る言葉が分かる、分かってしまう。だから言わないで。その言葉はもう聞きたく無い、聞きたく無いんだ。

 

 

 

ーー貴女は一生『無能』のままでいなさいな。

 

 

 

プチン、と何かが切れた音がした。

 

 

 

side真月

 

 

 

放たれる拳を紙一重で躱し、顔に銃弾を叩き込む。怯んだ瞬間に跳躍し距離を取ってまた銃弾を叩き込む。ただひたすらその作業を繰り返した。

 

『オオオオォォォォ!!』

 

我を忘れて突撃してくる。この時のコイツは自分が受けるダメージを度外視している為さっきまでの戦法は通じないがーー

 

鈴音『おらぁ!!』

 

秋介『せいっ!』

 

『オオオォォォ!?』

 

がら空きになった両側面から織斑と鈴が一撃を加える。両側からの強い衝撃にその巨体が大きく揺れ、バランスを崩して倒れる。

 

真月「今です!」

 

鈴音『どおりゃああぁぁ!!』

 

秋介『はああぁぁぁ!!』

 

バランスを崩した機体に総攻撃をかけ、その体力を大きく削っていく。

 

鈴音『何だ、仕組みが分かれば大した事無いじゃない!』

 

秋介『これもしかして海馬達無しでも行けるんじゃないかい!?』

 

真月「調子に乗るのは勝ってからにして下さい!ほら、二人共離れて!そろそろコイツが態勢を立て直します!」

 

鈴音『了解!』

 

秋介『分かってるっつの!』

 

俺の合図と共に二人が離れ、再び俺が銃撃を開始する。銃撃のダメージ自体は二人の攻撃よりも低いが、コイツの視線を釘付けにするにはうってつけだ。

 

秋介『おいへっぽこ!コイツのシールドエネルギーはあとどれくらいだ!』

 

真月「あと半分くらいです!」

 

秋介『まだそんなにあんのかよ!体力だけは無駄にあるなこのデカブツ!』

 

鈴音『ヘタレナルシスト!あんたシールドエネルギーあとどれくらいよ!』

 

秋介『もう1割切った!零落白夜一発で尽きる!』

 

鈴音『こっちも残りエネルギーが心許ないから一旦下がってエネルギーを補給するわよ!零、ちょっとの間一人でアイツの相手を頼めるかしら?』

 

真月「任せて下さい!」

 

元々一人で相手するつもりだったのだ、二人が減った所で大した問題は無い。俺はこのまま適当に相手して、ミザエル達の到着まで時間を稼げれば良いのだ。

 

秋介『悪いへっぽこ!……いいか、これは逃げたんじゃあ無い。神童だからこそ己の引き際をわきまえるんだ。つまり、これは戦略的撤退だ!』

 

鈴音『うだうだ言ってないでとっとと戻るわよ!』

 

秋介『分かってるよ!だけど神童である僕がエネルギー量を言い訳に逃げたなんてこのへっぽこが勘違いしない様にしっかりと言っておかないとだね……』

 

鈴音『とっとと戻れこのヘタレナルシストが!一々言い訳が長いのよアンタ!』

 

秋介『ヒイッ!?すんませんでしたぁぁぁぁ!?』

 

鈴のお叱りを受けて脱兎の如くピッチに駆けていく秋介。お前ホントに神童って称号持ってんのか?

 

真月「……ホント、騒がしい奴らだ。さて、俺は俺の役割を果たすとするか!」

 

『オオオオォォォォ!!』

 

突進を避けてがら空きの背中に銃弾をブチ込む。残弾数はもうそんなに多くないが、時間稼ぎをするだけなら問題無い。あとどれくらいでミザエル達が来るかは分からないが、それまでの間戦線を維持するのは簡単だ。

 

真月「……さあ、良からぬ事を始めようか。ミザエル達が来るまで、一緒に楽しもうぜ!」

 

ライフルを構えて挑発するようにそう言った次の瞬間、物凄い爆発音と共に背後の遮断フィールドが砕け散った。

 

真月「……っ!?何だ!?」

 

簪『あああああぁぁぁぁ!?』

 

前方にアシッドゴーレムが居る事も忘れて勢い良く背後を見ると、破壊されたフィールドからISを纏った簪が絶叫と共に飛び出した。

 

真月「簪!?何で此処に!?」

 

簪『五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!?そんな目で、そんな目で私を見ないで!?』

 

こちらの声は簪には聞こえていないらしく、何かに怯えたような表情をした簪はそう叫びながらアシッドゴーレムに突っ込んで言った。

 

真月「おい待て簪!そいつに近寄るな!?」

 

簪『違う違う違う!?私は役立たずなんかじゃない!?私は出来損ないなんかじゃない!?私は、『無能』なんかじゃない!?』

 

半狂乱の簪はアシッドゴーレムに次々とミサイルを発射していく。鈴の攻撃によってアシッドゴーレムのナンバーズウォールはほぼ破壊されている為ナンバーズではない簪の機体の攻撃も通るのだが、威力が低い。あれではただヤツを刺激するだけだ。

 

真月「逃げろ簪!お前の手に負える相手じゃない!」

 

簪『やめてよ!?私をそんな目で見ないでよ!?私だって頑張ってるんだよ!?なんで私を否定するの!?なんで誰も認めてくれないの!?』

 

今まで溜め込んできた感情が爆発し、泣き喚きながら攻撃する簪の姿に心が切り裂かれるような痛みを感じる。あいつはこんなになるまで自分の感情を殺して今まで生きてきたのか。

 

真月「……!簪ぃ!」

 

脚部のブースターをフル稼働させ、暴れる簪に後ろから抱きついて抑える。加減無しの力にシャイニングラビットが悲鳴を上げるが、そんな事気にしてる暇は無い。

 

真月「落ち着けよ簪!誰もお前を責めてなんかない!誰もお前を否定なんてしてない!」

 

簪『嘘を言わないでよ!?皆私を馬鹿にするんだ!あなただってそうなんでしょ!?』

 

真月「馬鹿になんてしねぇよ!!俺はお前の事を強い奴だって認めてる!だから落ち着け!」

 

暴れる簪を抑えるのに限界を感じつつあるが、バリアンの身体能力をフルに活用して必死に押さえつける。

 

簪『あああぁぁぁ……あ?れ、い?何で、此処に?どうして私、ISを起動して……』

 

真月「馬鹿野郎が、漸く正気に戻りやがったな。事情は後で話すからお前は取り敢えず避難を……!?簪!」

 

簪『一体何が……きゃあ!?』

 

『グオオオオオオオオォォォォォォォォ!!』

 

気が付けば、アシッドゴーレムは俺達の目の前まで接近し、拳を振り上げていた。俺は目の前に迫り来るアシッドゴーレムの拳から簪を守る為に簪を横に大きく突き飛ばし、防御態勢を取る。物凄い質量が衝突すると同時に身体が大きく吹き飛び、アリーナの壁に激突する。

 

真月「がっ…………!?」

 

簪『あ、ああ……!零ぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 

全身の骨が砕け散る音と共に、俺の視界は赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

アリト「今回の予告担当は俺と!」
ギラグ「俺と!」
ドルベ「私だ!」
『グオオオオォォォォ!!』
「ぐっ……がああああぁぁぁぁ!?」
アリト「ベクター!?大丈夫なのかこれ!?俺達が助けに行った方が良いんじゃないか!?」
ドルベ「無理だ!予告担当の私達と違って本編の私達はこの襲撃を知らない!ベクターを助けに行く事は出来ない!」
ギラグ「クソッ!!仲間が苦しんでるのに、何一つしてやれないのかよ!?」
「闘えないんなら引っ込んでなさい!役立たず一人抱えて闘える余裕なんて無いのよ!」
「チクショウ!最近僕損な役回りばっかだなおい!?」
アリト「……いや、まだ希望はある!アリーナにはまだベクターの仲間達がいる!まだ負けてねえ!」
ギラグ「そうだ!ちょい頼りない奴もいるが、役に立つのには変わりない!きっとなんとかなる筈だ!」
「諦めんなよ真月!かっとビングだ!」
ドルベ「この声……まさか!?」

次回、インフィニットバリアンズ

ep.32 絶対絶命 遠く離れた友との絆

アリト「次回も絶対見てくれよな!」

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