インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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小話〜黛薫子のインタビュー:海馬ミザエル〜

薫子「ミザエル君に質問です!好きな異性のタイプは何ですか!」
ミザエル「タキオンドラゴンだ!」
薫子「……えっと、それじゃあ好きな同性のタイプは?」
ミザエル「タキオンドラゴンだ!」
薫子「……結婚するならどんな人?」
ミザエル「タキオンドラゴンだ!」
秋介「人間で答えろやぁぁぁぁぁ!?」

ドルベ「……相変わらずだなミザエルは」
真月「……もう嫌この同僚」


ep.30 開幕 クラス対抗トーナメント!

side真月

 

 

 

あの後部屋に戻った時に簪に戻って来なかった理由を聞いてみたのだが、簪は何も言わずパソコンを操作しており結局教えてくれなかった。

 

そしてその日を境に、簪から笑顔が消えた。

 

理由は分からない。天音やねねにも聞いてみたが、それらしい手掛かりは掴めず、幼馴染の本音さえも分からないと言った。多分姉絡みの事なのだろうが、そういうデリケートな話題には部外者の俺は首を突っ込み難い。

 

そんなこんなで全く事態が解決出来ないまま、俺達はクラス対抗トーナメントの日を迎えた。

 

現在俺達はアリーナで試合を観戦している。今は三組と二組、鈴の試合だ。ちなみに黒咲はサボリだ。そもそもアリーナにすら来ていない。

 

鈴音『おらあぁぁぁ!!』

 

『きゃあっ!?』

 

女子が出して良いような声では無い雄叫びを上げながら鈴は突撃し、相手の機体を殴り飛ばした。更に吹き飛ばした相手にイグニッションブーストで接近して追撃を加え、完全に態勢を崩した相手にラッシュを食らわしていく。

 

本音「りんりん頑張れ〜!」

 

ミザエル「ふむ、あのドラゴンも中々にカッコイイな。まあ我がタキオンドラゴンには及ばないが」

 

璃緒「何でもかんでもタキオンドラゴンを比較対象にするのはどうかと思いますわよ?」

 

真月「つーか無茶苦茶な闘い方だなおい。ひたすら力でゴリ押してるだけじゃねぇか」

 

セシリア「それが鈴さんの基本的なバトルスタイルです。高い戦闘能力を活かしてひたすら攻撃し、相手に反撃する暇を与えない。近接戦に持ち込まれた時点で相手の敗北は決定していました」

 

真月「パワーを活かして強引に自分のペースに持ち込むって事か。シンプルだがそれ故に強い戦法だな。流石ジャックの弟子だ」

 

そうこうしている内に相手のシールドエネルギーが尽き、試合終了となった。

 

『ラファール、シールドエネルギーエンプティ。勝者、鳳鈴音』

 

鈴音『おっしゃあああぁぁぁ!!』

 

……だから鈴、その雄叫びは何とかした方が良いと友人の立場にある俺としては思うのだが。

 

 

 

side秋介

 

 

 

鈴音『おっしゃあああぁぁぁ!!』

 

控え室から試合を見ていた僕が抱いた感想はたった一つ。

 

秋介「勝てる気がしねぇ……」

 

零落白夜を超える圧倒的なパワー、イグニッションブーストを使わずとも白式をゆうに追い越せるスピード、更に火球を発射する事で遠距離にも対応しているときた。これにどう勝てと言うのか。こっちはブレード一本なんだぞこの野郎。

 

秋介「落ち着け、落ち着くんだ僕……!幸い鈴との試合の前に四組と五組の試合がある、その時間を使って何か策を思いつくんだ……!僕は神童だ、解決策の一つや二つ簡単に……!」

 

そうやって考えていると、控え室に誰かが入って来る気配を感じた。あのへっぽことよく一緒にいる四組の更識さんだ。どうやら次の試合の準備をしに来たようだ。自分の緊張を解く事も兼ねて、少し挨拶をする事にした。

 

秋介「やあ更識さん、調子はど……!?」

 

しかし僕はその言葉を最後まで言い切る事が出来なかった。声に反応して僕を見た更識さんの目が、恐ろしく冷たかったからだ。

 

秋介(な、何だこの冷たい目!?これ僕殺されたりしないよねぇ!?)

 

簪「……何?」

 

秋介「い、いや!?別に!?緊張してたからリフレッシュも兼ねて挨拶しただけだよ!?」

 

簪「……そう、今集中してるから話しかけないで欲しいんだけど」

 

秋介「は、はい!?」

 

恐ろしいくらい感情の篭ってない冷たい声でそう言うと、更識さんはこちらに背を向けてピッチの方へと向かって行った。

 

秋介「……こえぇ」

 

しばらくの間、僕は身体の震えが収まらなかった。

 

 

 

side真月

 

 

 

真月「お、簪が出て来たぞ!」

 

鈴の試合が終わってから十分が経過した頃、簪がISを纏って出て来た。残念ながら専用機は完成しなかった為訓練機での戦闘だが、まあ簪は強いから大丈夫だろう。

 

一夏「五組のクラス代表って確か日本の代表候補生の一人だよな、大丈夫なのか?」

 

ミザエル「五組のクラス代表は専用機を貰っていない。対して簪は未完成ではあるが専用機を与えられている。実力は確実に簪の方が上だろう」

 

璃緒「あら、そうとは限りませんわよ?簪はロシアの国家代表の妹、ただのご機嫌取りの為に専用機を与えられただけかもしれませんわよ?」

 

真月「……メラグ、冗談でもそれ以上アイツを馬鹿にする気ならブチ殺すぞ」

 

天音「僕も同意見だね。簪は努力して今の場所に立ってるんだ。それを簪の姉さんのおかげみたいに言うのは、少し気に入らないなぁ?」

 

璃緒「あら、私は彼女の努力によるものだと思っているわよ?ただ、この場にいる人間の大半はそうは思っていないみたいだけど」

 

そう言ってメラグはアリーナにいる他の生徒達の方へ目を向けた。メラグの言う通り大半の生徒が簪へ敵意の視線を向けており、同じクラスの奴らですら簪を応援する者はいない。

 

ミザエル「……この場にいる人間共にとって簪はヒールという訳か、吐き気がするな」

 

セシリア「少し前のわたくしだったら、あちら側にいたのでしょうか……」

 

本音「う〜、かんちゃん……」

 

天音「あはは、専用機を持っているという事実に嫉妬して簪を正当に評価しない屑達の事はどうでも良いよ。今は簪の試合に集中しよう?」

 

真月「そうだな。にしてもアイツ何か様子が……」

 

ねね「はい、いつもの簪ちゃんらしくないです……」

 

天音「簪、焦ってる?」

 

アイツが焦ってる?何に?確かに専用機は間に合わなかったがそれはもう仕方ない筈、一体何に焦るってんだ?

 

そうやって考えを巡らせていると、近くに座っていたティナがけらけらと笑いながら俺達に話しかけて来た。

 

ティナ「違うわよ、あれは殺気立ってんのよ」

 

一夏「殺気立ってる?一体何でさ?」

 

ティナ「そんなの知らないわよ。でも今の簪が殺気立ってるのは確かね。ありゃ負けるわ」

 

天音「へえ、やる前から負けるなんてどうして分かるんだい?」

 

ティナ「力み過ぎなのよ今の簪。あれじゃ本来の実力の半分も出せないわ」

 

それだけ言うとティナは簪の方を向き、それきり何も言わなくなった。

 

 

 

side簪

 

 

 

試合開始から十分が経過した今、私は劣勢に立たされていた。

 

『その程度なの?専用機を与えられたエリートが聞いて呆れるわね』

 

ISの回線を通じてそんな声が聞こえてくる。五月蝿い、気が散るから黙っていろ。

 

打鉄を私の動きとシンクロするように調整しながら相手の攻撃を回避する。遅い、これならあの自称神童の方がまだマシだ。

 

日本代表候補生の一人、新橋優香。女性権利団体の幹部である母親のコネで代表候補生の立場を手に入れた女、それが今私が闘っている相手。コネで入っただけなので実力は無い筈なのに、私はこの女に追い詰められていた。

 

優香『そんな実力で専用機を貰って恥ずかしく無いのかしら?貴女、他の人のチャンスを奪っているのよ?』

 

代表候補生になっただけで満足して、ただ威張りちらすだけで碌に訓練をしなかったお前には言われたくない。私の努力を知らない癖にべらべらと勝手な事を吐かすな。

 

優香『ああ、確かアンタの姉はロシアの国家代表だっけ。専用機を貰えたのはそのコネが有ったからか。良かったわね、有能な姉が居て』

 

その言葉を聞いた瞬間、全身から燃え上がる様な怒りが湧き上がってきた。

 

簪「……お姉ちゃんは関係ない!」

 

優香『関係ない訳無いでしょ?アンタがアンタの姉の事をどう思ってるかなんて興味ないけど、アンタがロシア代表の妹だという事は紛れも無い事実なのよ?』

 

簪「関係ないって言ってるでしょ!」

 

そう叫んだ瞬間左肩に強い衝撃を受け、私は大きく吹き飛んだ。どうやら新橋の放ったミサイルが命中したらしい。

 

優香『そんなのも避けられないの?だっさ、アンタもう代表候補生辞めたら?』

 

……五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い!辞めたくないから今闘っているんだ!

 

隙を縫って新橋に接近、手に持ったブレードで思い切り叩っ斬る。うまく入らなかったせいでダメージが少ないが、体勢を崩したので問題無い。

 

簪「はあっ!」

 

優香『っ!?しまった!?』

 

新橋が体勢を立て直す前に削り切る。動作が大振りとなるブレードを捨て、拳と脚で攻撃していく。

 

優香『がっ!?ぐっ!?がはっ!?』

 

殴る、蹴る、殴る、蹴る、殴る。周りから見れば今の私の姿はとてもカッコ悪く見えるだろう。だが見栄えなんて気にしてられない。どんな形でも勝てばいいのだから。

 

簪「これで……終わり!」

 

そう言って拳を振り上げてトドメの一撃を加えようとした瞬間、振り上げた右手がだらんと下がり、そのまま動かなくなった。

 

簪「……!?」

 

異常は右手だけに留まらなかった。左手、右脚、左脚、機体のあらゆる部位の感覚が無くなり、ピタリと動かなくなる。視界の補助をするハイパーセンサーにノイズが走り、視界が歪んでいく。

 

簪(機体の整備不良……!?このタイミングで……!?いや違う、これは……!)

 

これは事故じゃない、『悪意ある罠』だ。誰かが私の使う打鉄に細工をしたのだ。でも一体誰が!?

 

ふと視線を感じ、辺りを見渡す。視線を感じた方を注意深く探した私の目に映ったのは、私を見下し、嘲笑するあの女(織斑千冬)の姿だった。

 

簪「……っ!!」

 

その姿を見た瞬間、私は確信した。打鉄に細工をしたのはあの女だ。アイツが私を負けさせる為に仕組んだのだと。

 

簪(どこまで……!どこまで私の邪魔をするんだ織斑千冬!?そんなに私を代表候補生から蹴落としたいか!?そんなにあのヘタレを代表候補生にしたいのか!!)

 

心に怒りの炎が燃え滾る。今すぐにでもイグニッションブーストであの女に突撃し、血祭りにあげてやりたい衝動に駆られるが、機体が一切動かない現状ではそれも叶わない。

 

優香『ふ、ふふ、機体にトラブルが起きたらしいわね!ざまあないわ!』

 

攻撃から解放された新橋が笑いながらそう言ってきた。

 

優香『動けないならこっちの物よ、さっきはよくもやってくれたわね!』

 

新橋が身動きが取れなくなった私を地面に叩きつける。私が動けない事を良いことに新橋は私をひたすら痛めつけていく。

 

簪「がっ……!?あぁっ……!?」

 

優香『弱いくせに私に闘いを挑むからそうなるのよ!ほら立ちなさいよ!立って反撃してみなさいよ!ロシア代表の妹なんでしょ?専用機持ちなんでしょ?ほらほら!』

 

顔を蹴られる。激痛に呻く間も無く二発目が来る。視界に映る景色は色を失い、意識が朦朧としてくる。

 

優香『所詮アンタはタダの劣化品!優秀な姉の汚点でしかないのよ!』

 

その言葉と共に強い蹴りが私の顔に放たれ、打鉄のシールドエネルギーを削りきった。

 

簪「……畜生」

 

『打鉄、シールドエネルギーエンプティ。勝者、五組クラス代表新橋優香』

 

 

 

そのアナウンスと観客席の生徒達の嘲笑を聞きながら、私の視界は闇に包まれた。

 

 

 

side秋介

 

 

 

秋介「……うわぁ」

 

四組と五組の試合を見た感想はその一言だった。劣勢に立たされた簪さんがなんとか攻めに転じ、あと一歩の所で機体のトラブルにより敗北。ここまでならまあ仕方ないかなと思う。

 

だが問題はその後だろう。五組の新橋とやらは動けなくなった簪さんを地面に叩きつけ、罵声を浴びせながら顔や腹など装甲が無い部分を重点的に蹴りつけて痛めつけた。

 

ここまででもドン引きものなのだが、一番ドン引きしたのは試合終了後だ。機体の展開が解除され、意識を失って倒れていた簪さんを会場の女生徒達は心配する事も無く、あろうことか罵倒したのだ。確かに機体のトラブルでの敗北というのは少々間抜けな負け方ではあるが、それでも流石に酷過ぎるだろう。

 

秋介「女子って、こういう時は男子よりも怖いんだよなあ……」

 

いじめをやる時、男子なら暴力が殆どで、偶に持ち物を隠すくらいなのだが、女子の場合は違う。根も葉もない噂を流して評判を落としたり、嘘の証拠をでっち上げて濡れ衣を着せるなど、かなり陰湿なのだ。神童と謳われる僕でも、悪巧みで女子に勝てる気はしない。いや別にそれで勝つ気も無いんだが。

 

だが、今僕にとって一番問題なのは……

 

秋介「こんな気分悪い試合の後で闘わないといけないのかぁ。嫌だなぁ……」

 

何事にもムードというものがある。恋人とのキスならデートのクライマックス、ヒーローが必殺技を使って怪人を倒すのは番組終了五分から十分前位など、世の中のあらゆる事柄はそれ専用のムードとセットなのだ。それ故にこの気分の悪い試合で生まれたムードの中闘うのは中々にモチベーションが下がる。

 

秋介「まあ、考えても仕方ないか。さて、白式の最終確認でもしようか」

 

そう独り言のように呟き、僕はピッチへと向かった。

 

 

 

side簪

 

 

 

簪「っ……!」

 

顔の痛みで目を覚ます。どうやら私は意識を失っていたらしい。

 

簪「此処は……?」

 

辺りを見回す。自分はベッドの上に眠っていた、ならば此処は保健室か?

 

ティナ「あら、起きたのね」

 

簪「……ティナ?」

 

私の傍らにはティナが座っていた。どうやら私が起きるまで側にいてくれたらしい。でも、私と彼女はそこまで仲が良かっただろうか?

 

ティナ「顔、大丈夫?傷とかは付かないらしいけど」

 

無意識に顔を手で触れる。痛い、凄く痛い。

 

ティナ「此処はアリーナにある簡易的な医務室よ。大して怪我は無さそうだから校舎の医務室じゃなくても大丈夫でしょ?」

 

そう言えば、アリーナには訓練中に出た怪我人を治療する為の部屋が有るって聞いた事があるな。

 

簪「私、どれくらい寝てた?」

 

ティナ「大体二、三十分ね。そろそろ鈴と一組の織斑君の試合が始まる頃よ」

 

なんだ、そんなに時間は経ってないのか。意外に怪我が軽かった事に安堵した瞬間、目をそらしていた事実を思い出してしまった。

 

簪「…………けた」

 

ティナ「うん?」

 

簪「負けた、まけた、マケタ、負けた…………まけたマケタ負けたまけた負けたマケタ負けてしまったまけてしまったマケテシマッタ負けてしまった」

 

ティナ「……えぇ!?ちょ、ちょっと簪!?」

 

そうだ、私は負けてしまったのだ。絶対に負けちゃいけない試合に。勝たなきゃいけなかった試合に。

 

簪「勝たなきゃいけないのにたおさなきゃいけないのにツブサナキャイケナイノニ負けちゃいけなかったのにみかえさなきゃいけないのにツヨクナラナクチャイケナイノニ」

 

ティナ「……事情は『アイツ』から聞いていたけど、此処まで追い詰められてるなんてね。……予想以上に使えそうね、この子」

 

横でティナが何か言っているが聞こえない、きこえない、キキタクナイ。どうせ無様に負けた私をくすくすと嘲笑っているんだ。私を馬鹿にする言葉なんてもう聞きたくない聞きたくないキキタクナイ。

 

簪「力が欲しいちからがほしいチカラガホシイ彼奴らを見返せる力が欲しいおねえちゃんをこえるちからがほしいオリムラチフユヲタタキツブスチカラガホシイ」

 

必死に努力をした。同年代の子の何倍も努力した。けど無駄だった、無意味だった、無価値だった。そんなものでは力の一欠片でも手に入れる事が出来なかったのだ。

 

ティナ「ふーん、成る程ね、これはいけそう。ねえ簪、聞こえてる?」

 

簪「きかない聞こえないキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ」

 

ティナ「……そこまでの拒絶は流石に私も傷付くわよ。ほら!話を聞きなさい!力が欲しいんでしょ?」

 

簪「……チカラ?」

 

ティナ「ようやく反応してくれたわね。簪、貴女の事情は私の耳に入っているわ。代表候補生、辞めさせられるんでしょ?」

 

簪「…………」

 

ティナ「何故知っている、と言いたげな顔ね。別に大した事じゃないわ。『アイツ』、父さんが教えてくれたの。ウチの父親、情報通だから」

 

簪「……それが、何?私は負けた。もう代表候補生じゃない。もう何も無くなったのよ」

 

ティナ「そう、貴女はもう日本の代表候補生じゃない。だから簪、アメリカ(ウチ)に来ない?」

 

簪「アメリカ、に?」

 

それは、思いもしなかった提案だった。そんな事を提案された理由が、私には分からなかった。

 

ティナ「貴女の実力は本物、あんな威張るだけの雑魚とも、ただ剣を振るのが人より上手いだけのヘタレとも違う本物の実力者よ」

 

簪「実力者……」

 

実力者、そんな筈は無い。私は弱い、お姉ちゃんに追いつく事も、自分の居場所も守る事も出来ない弱者だ。

 

ティナ「それは違う、そう言いたげな顔をしているわね。それこそ違うわ。貴女は本物の実力者。ただ力が足りなかっただけよ」

 

簪「力が、足りなかった……」

 

ティナ「でもこれからは違う。アメリカ(私たち)なら貴女に力を与えてやる事が出来る。貴女を本物の力を理解しないやつら(馬鹿ども)から守ってあげる事が出来る。貴女を支えてあげる事が出来る。貴女を、救ってあげる事が出来る」

 

簪「私を、救う……」

 

ティナ「だから簪、私と一緒に行きましょう?大丈夫、私だけは貴女の味方よ?」

 

そう言って天使の様な微笑みを浮かべながら、ティナは私に手を差し伸べた。私は差し伸べられたその手をじっと見つめ、震える右手をゆっくりと近付け、手を取ろうとして……

 

真月『何かあったら遠慮なく言えよ?なんたって俺はお前の友達だからな』

 

簪「……っ!?」

 

不意に、口煩い彼の姿が頭に浮かんだ。身体が強張り、反射的に触れようとしていたティナの手をはたき落としてしまう。

 

ティナ「おっと!どうかしたの?」

 

簪「ごっ、ごめん!?わ、私……!」

 

彼の事が頭に浮かんだという事実になんだか急に恥ずかしくなってきた。身体が熱い、早くこの部屋から出たい。

 

簪「り、鈴の試合見てくる!?」

 

ティナ「ちょ!?ちょっと簪!?試合は此処でも中継で観れ……!?」

 

ティナが何かを言う前に、私は観客席へと走り出した。

 

 

 

ティナ「……惜しかったわね。もう少しで堕とせたのに」

 

彼女の呟きは、私には聞こえなかった。

 

 

 

side真月

 

 

 

薫子『皆さんお待たせしました!いよいよ本日のメインイベント!一組対二組の試合が始まります!実況は私、清く正しいIS学園新聞部部長の黛薫子、解説は皆のアイドルマヤやん先生でお送りいたします!』

 

『ワアアアァァァァァ!!』

 

摩耶『誰がアイドルですか!あとマヤやん言うのやめて下さい!』

 

そんな騒がしい放送と共に試合開始数分前のアナウンスが流される。おい、さっきまでこんな騒がしくなかっただろうが。

 

天音「……気に入らないな。さっきの簪の試合がまるで前座みたいな扱いじゃないか」

 

ミザエル「同感だ。おいメラグ、観客席に戦慄のタキオンスパイラルぶち込んでいいか?」

 

一夏「よっしゃ任せろ、俺のサイファーストリームで援護してやる」

 

セシリア「わたくしも協力しましょう。丁度アークライトカンパニーから受け取ったブルーアイズのテストをしたいと思っていましたの」

 

本音「私が許可する。撃て〜!」

 

璃緒「やめなさい。気持ちは分かるけどやめなさい」

 

天音の言葉に反応した過激派供をメラグが必死に抑えている。というかセシリア、お前そっち側だったの?

 

真月「まあマジな話で俺もイライラしてる。この場にいる全生徒に百万ポイント貯まるくらいイライラしてる」

 

ねね「ポイント制!?」

 

ちなみに五組のクラス代表は一千万ポイントだ。機会があればその内ブッ潰してやる。

 

璃緒「物騒な話はやめにして、試合観戦に専念したらどうなの?」

 

そう言ってメラグは正面を指差した。どうやら選手が入場するようだ。

 

薫子『赤コーナー!世界最初の男性操縦者にしてかの初代ブリュンヒルデ織斑千冬の弟!織斑秋介ぇ!!』

 

『ワアアアアァァァァァ!!』

 

歓声と共に白式を纏った織斑が現れる。歓声に気圧されたのか、少し引き気味だ。

 

薫子『続いて青コーナー!世界最強に今最も近い女にして中国期待の星!我らがクイーン!鳳鈴音の登場だぁ!!』

 

その瞬間、ステージ中央にホログラムで出来たトランプのクイーンが現れ、爆発と共に鈴がそれを突き破りながら現れた。

 

鈴音『クイーンは一人!このアタシよ!!』

 

『キャアアアァァァァァ!!』

 

『生クイーンよ生クイーン!』

 

『生きててよかった!』

 

『サイン下さい!』

 

『お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとう!今度帰るときは石以外のお土産持ってくるから!』

 

秋介『完全にアウェーだこれぇ!?』

 

自分の時の何十倍もの歓声に耳を抑えながら、織斑はそう叫んだ。それはそれとしておい最後、もうちょいマトモなもん用意してやれよ。

 

鈴音『皆ありがとう!今日も最高のエンターテイメントを見せてあげるわ!』

 

笑顔で手を振りながらそう言う鈴。凄いな、こんな騒音の中平気な顔してやがる。

 

秋介『エンターテイメントだって?鈴、君は僕を馬鹿にしてるのかな?』

 

鈴音『別に馬鹿にしてなんかないわよ。クイーンの試合は常にエンターテイメントでなくてはならない。その師匠の教えに従っているだけよ』

 

流石はジャックの弟子、アイツが普段言ってる事を一言一句違わず覚えてるのか。

 

秋介『神童である僕を前にそんな態度を取るなんて、随分と余裕だねえ鈴?負けて恥をかいてもしらないよ?』

 

鈴音『ハッ!私が負ける?あり得ないわね。だってアタシはクイーンだから!クイーンは応援してくれるファンの期待を絶対に裏切らないのよ!というか、逆にアンタが余裕無いんじゃないの?』

 

秋介『ハッ!余裕が無い?馬鹿言うなよ。こんな勝負、キャンディ舐めながらだって僕には出来る!』

 

そう言って何処からか取り出した棒付きキャンディを噛み砕く織斑。おい、どこぞのレジスタンスの虫歯予備軍みたいな事してんじゃねえよ。

 

鈴音『……噛み砕いてんじゃない。アンタホントに大丈夫なの?』

 

秋介『うっ五月蝿い!良いだろう!神童の実力を見せてやるよ!』

 

薫子『両者準備は万端みたいですね!それではいきましょう!試合開始ィィィィ!!』

 

黛のやかましい掛け声と共に、試合開始のブザーが鳴った。

 

秋介『うおおおお!野郎ぶっ殺してやるぁぁぁぁぁ!!』

 

どこぞのベネットのような雄叫びを上げながら織斑が鈴へと突っ込んでいく。

 

真月「……ん?」

 

ふと待機状態にしてあるシャイニングラビットにメッセージが入っているのを発見した俺は、そのメッセージを開いた。

 

『警告:アリーナ上空にナンバーズ反応を確認。此方に接近しています』

 

真月「なっ……!?」

 

開いたメッセージの内容に俺が驚愕したまさにその瞬間、凄まじい爆音と共にアリーナの隔壁が破壊され、巨大な何かが今まさに鈴に斬りかかろうとした織斑の真上に落ちてきた。

 

秋介『へ……?ふぎゃああああぁぁぁぁ!?』

 

『オオオオオオォォォォォォ!!』

 

織斑を押し潰して落下した「それ』は凍りつく俺達を見渡すと、天まで届くと錯覚させるような雄叫びを上げた。

 

 

 

ーーそれは身体中を酸で覆われた巨人。それは30の数字を持つ怪物。それは全てを破滅へと導くモノ。

 

破滅のアシッドゴーレムは、今高らかに咆哮した。

 

 




次回予告

凌牙「……はあ、やっと居なくなったなあの迷惑神。まじで疲れた。さて、気を取り直して次回予告といくか」
『オオオオォォォォ!!』
凌牙「……アシッドゴーレムか。正直こいつには良い思い出がねぇんだよなぁ。こいつが原因で俺一回病院送りにされたし」
カイト「実家に帰っただけだろう」
凌牙「だから病院を俺の実家って言うのやめろや!?」
「二人供!此処は僕が引き受けます!だから早く逃げて下さい!」
「ハッ!神童の僕が逃げる訳無いだろへっぽこ!踏んづけられた恨みを晴らしてやる!」
「生憎だけど、クイーンの辞書に『逃げる』なんて言葉載って無いの!」
凌牙「ベクターの奴、こんな時でも本性を隠し通す気か。話聞かない奴二人を抱えた状態でそれは不味くないか?」
カイト「三人で強敵に挑む……かつての俺達を思い出すな」
「ナンバーズ……!アイツを倒せば力が手に入る……!」
凌牙「ベクター、気にするべきは敵だけじゃねえ。味方の事も気にしないと、足元掬われるぞ」

次回、インフィニットバリアンズ
ep.31 アシッドゴーレムの強襲、水色少女の焦燥

カイト「次も見てくれよハルトオオオオォォォォ!!」
凌牙「予告のシメで禁断症状起こすな!?」

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