零児「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!?」
ダニエル「うわあああああぁぁぁぁ!?」
ブルーノ「ああああぁぁぁぁぁぁ!?」
『あああああぁぁぁぁぁぁ!?』
真月「……何だこの地獄絵図」
ドルベ「新ルールにデッキを殺された者達の叫びだ」
真月「……これは酷い」
亮「はははは!聞いたか真月!次の主人公は『サイバー族』とかいう新種族を使うらしいぞ!次の時代は我がサイバー流が貰った!」
真月「『サイバース族』だこのバカイザー!」
亮「何だとぉ!?」
side真月
真月「織斑君のクラス代表就任パーティー?」
鷹月「そう!もうすぐクラス対抗トーナメントがあるから、その前にやっておこうと思ってクラスの皆で話し合って決めたの!」
セシリアの専用機を決めてから二日程経った今日、放課後の教室でクラスメイトの鷹月がそう言ってきた。おい、その話し合い俺参加出来て無いんだけど。
真月「それは構いませんが、何で今頃なんですか?織斑君がクラス代表になってから結構日が経ってますが」
鷹月「いや、それはその、単純に忘れてたと言いますか、つい最近ふと思い出したと言いますか、他のクラスは大体やってるからやらないと可哀想かなって思ったと言いますか……」
俺がそう言うと、鷹月は気まずそうにそう答えた。どうやらクラスメイトに忘れられるくらい存在感が無いらしい。本当に哀れだな織斑。
真月「……成る程、事情は分かりました。何か僕に手伝える事は有りますか?料理なら出来ますよ?」
鷹月「料理は食堂のトメさんに頼んでおいたから大丈夫。真月君には誰か他のクラスの子とかを招待して貰ってもいいかな?真月君四組の子とかと仲良いでしょ?」
真月「他のクラスの子をですか?」
鷹月「うん、人数が多い方が楽しいでしょ?それと、出来ればでいいから黒咲君にも来て貰えるように言ってくれないかな?」
真月「黒咲さんをですか?」
意外だな、黒咲はあまりいい感情を抱かれてないからハブられるものと思っていた。
鷹月「うん。確かに黒咲君はちょっと怖い所が有るし、あまりいい印象無いけど、同じクラスメイトなんだから出来れば仲良くしたいの」
おお、こんな良い子も居たのか。良かったな黒咲、お前ぼっちから脱出出来そうだぞ。
真月「分かりました。来るかは分かりませんが、一応伝えておきます。それで、パーティーはいつやるんですか?」
鷹月「今日!」
真月「……え?」
鷹月「今日の夕方よ!」
真月「急ですね!?」
鷹月「準備自体は前からやってたから大丈夫よ。それじゃあ私は食堂でパーティーの準備をしなきゃいけないから、真月君お願いね!」
真月「はい!良かれと思ってお任せ下さい!」
鷹月「それ若干使い方間違ってる気が……まあ良いや。それじゃあまた夕方!」
そう言い残して鷹月は去っていった。そういえば、俺が「良かれと思って」を正しい使い方で使った事あまり無い気がするな。
簪「クラス代表就任パーティー?別に良いけど」
鷹月と別れた後、整備室にいる簪に誘いをかけた。織斑の奴を嫌ってるから来てくれるか分からなかったが、良い返事を貰った。
真月「意外だな。織斑の奴を祝うパーティーだから参加したがらないと思ったぜ」
簪「一発入れてやったからもうチャラ。実際に開発凍結を推し進めたのは姉の方だし、直接関わってないならもう恨む理由は無い。あとパーティーに参加すれば食費が浮く」
真月「絶対そっちが理由だろ……」
簪「新パックの発売も近いし、節約出来るに越した事は無い。天音とねねも誘っていい?」
真月「構わねえよ。んじゃ、俺は鈴を誘いに行くから、また夕方にな。作業、頑張れよ」
簪「……うん。ありがとう零」
笑顔でそう言った簪と別れ、俺は鈴の居る部屋へと向かった。
鈴音「マジで!?行く行く!」
鈴の奴もノリノリで了承した。こいつは昔からパーティーとかの賑やかなイベント好きだからな。
ティナ「ちょっと鈴、アンタ謹慎中なの忘れたの?行ったらまた叱られるわよ」
鈴音「大丈夫大丈夫!叱られたくらいでどうにかなる程アタシのメンタルは脆くないわ!」
ティナ「そういう問題じゃ無いっての……はあ、謹慎期間が長くなってクラス対抗戦出れなくなっても良いの?」
鈴音「そん時はティナが出れば良いじゃん。アンタはアタシが来るまでクラス代表だったんだから」
パーティーに参加しようとした鈴を諌めたティナに、鈴はそう言った。無責任な言葉ではあるが、ティナもアメリカの代表候補生だ。鈴の代わりに出ても問題無く活躍出来るだろう。というか、ティナが元々クラス代表だったのか。
ティナ「そういうのが面倒臭いからアンタにクラス代表譲ったのにアンタの代わりに出る訳無いでしょうが!」
鈴音「え〜良いじゃん別に〜!アンタアメリカの代表候補生の中じゃ結構強い部類なんだからイケるって〜!」
ティナ「だ〜か〜ら〜!こういう行事面倒だからやりたくないの!折角仕事だらけのダルい本国から抜け出してIS学園でダラダラ出来ると思ったのに、二組の奴ら私が代表候補生ってだけで面倒事押しつけやがって!マジふざけんなよコンチクショー!」
俺や鈴の目を気にせずにそう叫んだティナ。どうやら相当ストレスが溜まっていたらしい。というかこいつ面倒臭がりにも程があるだろ、何で代表候補生になったんだ。
鈴音「まあまあ、アタシが変わってあげたんだから良いじゃん!」
ティナ「そのアンタが早々に問題起こしたから困ってんのよコッチは!下手したらまた私がクラス代表に逆戻りするかもしれないじゃない!」
鈴音「強い子と戦えるなら良いじゃん」
ティナ「だから別に私は戦いたい訳じゃ……はあ、もう疲れた。好きにすれば?私もう寝るし」
鈴音「え〜ティナも一緒に行きましょうよ〜!それにまだ四時過ぎよ?いくらなんでも早過ぎない?」
ティナ「ちょっと昼寝するだけよ。それに私は賑やかなの嫌いなの。行くなら一人で行ってきなさい」
そう言うとティナはベッドにゴロンと寝転んで、スヤスヤと寝息を立て始めた。
鈴音「あー……これは当分起きないわね。零、悪いけどティナは無理みたい」
真月「みたいだな。まあ本人が行きたがらないなら仕方ないだろ」
鈴音「そうね。じゃあ零、アタシは夕方行くから!美味い料理期待してるわよ?」
真月「メシ作るのはトメさんだっての……じゃあな」
鈴音「うん!また夕方にね!」
そう言って鈴と別れ、俺は一番の問すす題児の下に向かった。……かなり不安なんだが。
隼「誰が行くか!」
……ですよねー、知ってた。黒咲にパーティーの話しを持ちかけると、案の定黒咲は拒絶の意思を見せた。
真月「そう言うなよ黒咲。最悪顔だけでも出しときゃいいんだ。メシは食わなくても良いし」
隼「何故俺があの馬鹿を祝わなければならんのだ!ギャンギャン騒ぎたいだけなら俺抜きで勝手にやってろ!」
織斑を馬鹿呼ばわりして拒絶しまくる黒咲。おい黒咲、学力だけならあの馬鹿のがお前より上だからな?
楯無「あら、良いじゃない。行ってくれば?」
隼「行かないと言ってるだろ楯無!第一、俺は今謹慎期間中だ!外に出たら罰が増える!」
楯無「その辺はお姉さんが何とかしてあげるから、行って来なさいよ。偶にはカップ麺以外の物を食べたら?」
隼「断る!何が仕込まれてるか分かったものじゃない!」
真月「安心しろって。仮に毒が仕込まれててもデュエリストの生存本能でどうにか出来るから」
隼「それは貴様らだけだ人外供!俺は人間だ!毒を盛られたら普通に死ぬ!」
いやお前の身体能力も大概化け物だと思うんだが。どうやら何があっても黒咲は行く気が無いらしい。仕方ない、奥の手を使うか。
真月「ああもしもし?俺だ、真月だ。実はカクカクシカジカという訳でな……」
隼「……おい、誰と電話してる貴様」
真月「ふむふむ、分かった。黒咲、お前に代わって欲しいとさ」
隼「俺と?一体誰だ?」
真月「良いから代われ」
渋々俺からDパッドを受け取り、隼は電話に出た。
隼「……もしもし」
ユート『隼、お前何してるんだ?』
隼「……!?ユ、ユートォ!?」
電話の相手がユートだと分かった途端目に見えて慌て出す黒咲。気持ちは分かるがお前ユート苦手過ぎだろ。
ユート『学校に戻って早々騒ぎを起こして謹慎……お前は一体どれだけの人に迷惑を掛ければ気が済むんだ?」
隼「い、いやそれはだな……」
ユート『しかも折角クラスメイトが誘ってくれたのにその厚意を踏み躙るような真似を……』
隼「仕方がないだろう!誰が敵か分からないこの状況で呑気にパーティーになど参加出来るか!俺はこの学園に遊びに来た訳じゃないんだぞ!」
ユート『黙れ!そうやっていつも周りに余計な壁を作っているからお前はいつまで経っても友達が増えないんだ!お前はIS学園でもボッチを貫く気か!』
隼「誰がボッチだ誰が!!俺は友達が少ないんじゃない、友と呼ぶに値する奴が少ないだけだ!」
ユート『それをボッチだと言っているんだ!いいか、絶対にパーティーに参加しろよ!もししなかったら腹パンだからな!』
隼「ぐっ……!分かった!行けばいいんだろ行けば!」
ユート『そうだ。お前にとっては久しぶりの学校生活なんだ、思いっきり楽しめ隼』
それだけ言い残して、ユートとの通話は終了した。
真月「良し、これで黒咲も参加だな」
隼「覚えてろよ貴様……!」
楯無「まあまあ、そんなに怒らないの。真月君、私も参加してもいいかしら?」
真月「こいつ誘ってお前を誘わない訳無いだろ」
楯無「やった!私の方でも知り合いに声掛けとくわ。あ、あと黒咲君!」
隼「…なんだ?」
楯無「コレ、没収ね」
そう言うと楯無は黒咲の腕に着いていたデュエルディスクを外し、自分の腕に付けた。
楯無「あら、中々重いのねコレ」
隼「なっ!?返せ貴様!」
楯無「だめよ〜!あんな騒ぎ起こしたんですもの、危ないから没収しなきゃ」
隼「巫山戯るな!早く返せ!」
楯無「それに、これは黒咲君の為でもあるのよ?」
隼「何だと?」
楯無「織斑先生とその派閥の教師達が今回の騒ぎの罰として貴方からコレを奪おうって学園長に提案してたのよ。勿論学園長は却下したけど、最悪実力行使に移るかもしれないわ。なら、私が預かってた方が良いでしょ?」
成る程、確かにそうだ。あいつら教師陣に奪われたら最悪返ってこない可能性もある。それなら信用出来るこいつが預かった方がマシだ。
隼「……分かった、ディスクは預ける。だがデッキは返せ、それは俺の魂だ」
楯無「あら、随分と聞き分けが良いわね」
隼「お前の説明は正しい。あいつらに没収されるくらいな
らお前に預ける。それに、俺はお前を信用している」
楯無「……そうストレートに言われるとなんか照れるわね。ほら、デッキよ」
隼「確かに受け取った。……パーティーには参加してやるからとっとと失せろ」
真月「はいはい、そんじゃまた夕方な。ちゃんと来いよ」
楯無「はいは〜い、また夕方ね〜」
隼「……ふん」
こうして、一番の問題児も無事に参加させる事に成功した俺は、部屋に戻って夕方まで時間を潰した。
『織斑君、クラス代表就任おめでとう!』
秋介「……はい?」
夕方、食堂に集まっていた一組の女子達にそう言われ、織斑は目を丸くしながら間抜けな声を出した。
鷹月「おっしゃー!宴じゃー!」
相川「誰かー!?料理運ぶの手伝ってー!?」
本音「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
鏡「本音ちゃん!?皆の分無くなるから自重して!?」
ミザエル「本音!肉ばかり食わないでちゃんと野菜も食え!あと行儀悪いからもう少し落ち着いて食え!あとちゃんと噛め!」
秋介「……なぁにこれぇ?」
一夏「お前のクラス代表就任を祝うパーティーだが?」
秋介「なら僕にも教えろよ!?事情も分からないままに食堂に連れてかれてクラッカーの一斉砲火を浴びて、目の前で馬鹿騒ぎをされた僕の気持ちが分かるか!?」
一夏「分からんし興味も無い」
秋介「ざっくり言うなあオイ!?つーか何で今更僕のクラス代表就任パーティーなんかやってんのさ!?もう大分日が経っただろ!?」
一夏「パーティーを企画したクラスの女子曰く、『織斑君がクラス代表に就任したのをふと思い出して、そういえばやってなかったなと思ったからやる事にした』だそうだ」
秋介「忘れられてたんじゃねぇか!?ああそうだよ!どうせ僕なんて消去法で選ばれた代表ですよ畜生!?」
一夏「落ち着けよ。切れてばかりいたら将来ハゲるぜ?」
秋介「うるせぇよ!?ああぁぁぁ!こうなったらヤケだ!明日メシが食えなくなるくらい沢山食ってやる!」
そう言って料理の所へと駆け出していく織斑。今の現状が続くと本当に将来ハゲそうで若干哀れに思う。
璃緒「ふふ、楽しそうねベクター」
真月「……人前でその名前を呼ぶな。それにまだ料理に口をつけてすらいねぇよ」
璃緒「あら、私にはとても楽しそうに見えたわよ。貴方遊馬達といた時からこういう賑やかな事が好きだったでしょう?」
真月「……否定できねえ。それより何の用だ?ただ声を掛けに来た訳じゃねえだろ」
璃緒「ただ声を掛けに来ただけよ?まあ確かにそれだけで貴方の所に来た訳では無いけど」
真月「……本社から何か知らせでもあったのか」
璃緒「束からNo.39についての報告があったわ」
真月「……見つかったのか?」
世界に散らばったナンバーズの中には当然遊馬が使っていたホープも存在する。束と合流して以来、俺たちは数多くのナンバーズを回収したが、ホープだけはどうやっても見つからなかった。
璃緒「いいえ、見つからなかったわ。というより、見つける事が出来なかったと言った方が良いわね」
真月「……どういう意味だ?」
璃緒「No.39はどこにも『存在しない』という事が分かったの」
真月「……!?そりゃどういう事だ!?」
璃緒「分からないわ。他のナンバーズは束の力で存在が確認出来たけど、ホープは確認出来なかった。束はこの結果をホープが存在しない為と判断したわ」
真月「おいおいマジかよ……誰かに寄生している可能性は無いのか?確か誰かが所有しているナンバーズは束には感知出来なかった筈だろ」
璃緒「確かに所有者が居るナンバーズを束は感知出来ないわ。でも感知出来ないのは所在だけ、そのナンバーズがこの世界に存在する事は知る事が出来るわ」
真月「……つまり存在すら感知出来なかったのか。はあ、マジで何処にあるんだアレ」
璃緒「まあ見つからないものをいつまでも気にしていても仕方ないわ。今はパーティーを楽しみましょう?ほら、貴方のお友達が来ているわよ?」
メラグが指さした場所には簪と鈴が居た。よく見ると天音とねねも後ろに居る、あいつらは簪に誘われたらしい。
真月「おお、来たかお前ら」
鈴音「当たり前じゃない!パーティーよパーティー!参加しない訳無いじゃない!」
簪「鈴の言う通り。食費が浮く事を考えれば参加しない理由は無い」
真月「……お前ららしいな。ねねと天音も来てくれたのか。まあ、楽しんでいってくれ」
ねね「う、うん……」
天音「言われずともそうするさ。それで、君達のクラスの男子が一人少ないように感じるけど、残る一人は何処?」
真月「……黒咲の事か。あいつなら……ほれ、あそこだ」
そう言って俺は食堂の隅で一人黙々とカップ麺をすする黒咲を指差した。
天音「……何やってんのアレ?」
真月「お前ら女子と一緒に食事するなんて絶対に嫌なんだとさ」
天音「女が嫌いなのはこの前の試合で分かってたけど、まさかここまでとは……」
簪「アレ、自分でやってて悲しくならないのかな?」
鈴音「な〜にあいつ、そんなくっだらない理由で一人で食べてんの?しょうがないわね、アタシが誘って来るわ」
そう言って鈴は黒咲の元に駆け出して行った。
隼『な、何をする鈴!離せ!』
鈴音『良いからこっち来なさい!こういうイベントで一人寂しく食事をするのは損よ損!ほら、カップ麺以外にも美味しい物は沢山有るんだから!』
隼『こんな奴らが用意した物など食えるか!毒でも仕込まれていたら如何する!』
鈴音『んなもん一々気にしてたら何も食えないでしょうが!ほら!とっとと来る!』
隼『ぐおおぉぉぉ!はーなーせー!!』
此処まで聞こえるような大声で口論しながら、鈴は黒咲を引きずって来た。黒咲、頼むからそんな場の空気を悪くするような事を大声で言うな。
鈴音「はい!連れて来たわよ!」
隼「……俺は絶対に食べんぞ」
鈴音「アンタまだそんな事言ってんの?いいから食いなさいったら!」
そう言って鈴はおでんの煮卵を黒咲の口に突っ込んだ。おい鈴、それはガチの拷問だぞ。
隼「ムグッ!?……〜〜〜!?!?」
黒咲が物凄い顔をしながらのたうち回っている。やばい、超写真撮りたい。
天音「うわぁ……」
ねね「流石にこれはちょっと……」
簪「……むごい」
鈴音「あはは、どう隼?食堂のトメさんが心を込めて作ったおでんよ。美味しいでしょ?」
隼「殺す気か!?」
なんとか卵を食べ終わった隼は、顔を真っ赤にして鈴に怒鳴った。うん、今回の件に関してはお前は怒っていい。
鈴音「でも、毒なんて入ってなかったでしょ?」
隼「確かに入ってなかったが、これはそれ以前の問題だろうが!?熱々の卵を人の口に突っ込む馬鹿が居るか!?」
真月「それには全面的に同意する。けどな黒咲、周りに壁を作っているお前にも悪い所は有るんだぜ?」
確かにコイツの過去を考えればこの態度は仕方がないかもしれない。だがコイツがこの態度を取り続けて周りの女子達との関係が取り返しのつかない段階になってしまった場合、迷惑するのはコイツ一人じゃないのだ。
隼「……分かっている。楯無にも同じ事を言われたからな。だが理屈では理解していても俺の心がそれを受け入れない」
鈴音「はぁ〜、アンタってメンドくさいやつね。ま、こういうのは時間が解決してくれる物だし、今すぐどうにかする必要は無いわね。ハイこのお話はおしまい!ごはんタイムにしましょう!隼、アタシと大食いで対決しない?」
隼「だから食べる気は無いとさっきから……分かった、その提案に乗ってやるからその煮卵を俺の口に突っ込もうとするのやめろ頼むから」
鈴音「オーケイ!それじゃあゴー!」
隼「あ、待ていきなりスタートするのは卑怯だぞ貴様!」
鈴の元気な掛け声と共に二人は一直線に料理の方に向かって走り出した。
『おおっ!黒咲君とクイーンのフードファイトが始まったぞ!』
『どっちが勝つか賭けようぜー!』
『私はクイーンに食券三枚!』
『私は黒咲君にジュース一本!』
『甘いな!私は引き分けにパフェ一つだ!』
本音『私が勝つにハンバーグ定食!もぐもぐ』
『なん………だと……!』
『そんな賭け方があったとは……!」
『本音、恐ろしい子……!』
秋介『もうこれ僕の就任祝うパーティーでもなんでもなくなってるだろ!?』
箒『ならば私は黒咲に花京院の魂を賭ける!』
秋介『お前もか箒ィ!?もう無理だ!?誰かツッコミ役来てくれ頼むから!』
……もう嫌だこのクラス。
大食い対決は思いの外熱い闘いになり、僅か一皿の差で鈴が本音に勝って優勝した。因みに黒咲はビリだ。
鈴音「クイーンは一人!このアタシよ!!」
隼「ぐおおぉぉぉ……!食い過ぎた……!」
本音「もうおなかいっぱ〜い!おやすみ〜」
ミザエル「待て本音こんな所で寝るな!?」
本音「すぴ〜、すぴ〜」
ミザエル「……遅かったか。仕方ない、本音を部屋に送って来る」
満腹になり寝てしまった本音を背中に乗せ、ミザエルは食堂を出て行った。
璃緒「……もうすっかり保護者ね」
真月「同い年のガキの保護者とは、あいつも大変だな」
簪「……私の幼馴染がすいません」
真月「俺たちに言っても意味ないだろ。それにしても黒咲大丈夫か?かなり苦しそうだが」
隼「大丈夫に見えるのか……!」
真月「見えないな。で、どうだったメシは?」
隼「……美味かった。昔家族で食った料理を思い出した」
鈴音「ほら、美味しかったじゃない!ゴハンっていうのはね、皆で食べた方が何倍も美味しいのよ」
隼「……そうだな」
少しだけ笑いながら黒咲はそう言った。少しずつではあるが、黒咲の心にも変化が起きているみたいだな。
楯無「あら、それじゃあ明日からお姉さんの料理も食べてくれるかしら?」
そう言って楯無が黒咲に近づいて来た。そういえばコイツも来るとか言ってたな。
隼「……楯無か、随分と来るのが遅かったな。もう料理は殆どのこって無いぞ」
楯無「貴方達のパーティー参加についての手続きが思いの外時間が掛かったのよ。織斑先生が色々と五月蝿くて」
隼「……面倒を掛けたな」
楯無「別にこれ位どうってこと無いわよ。それで黒咲君、お姉さんの料理は食べてくれるの?」
隼「……今日は無理だ」
楯無「食べ過ぎで動けない貴方に追い打ちをかける気は無いわよ!?」
隼「……一週間、待ってくれ。ちょうどそれくらいでカップ麺の在庫が切れる」
楯無「それただカップ麺が無いから仕方なく食べてるだけじゃない!?……はあ、まあそれで良いわ。それはもう置いといて……」
黒咲との会話に疲れたらしい楯無はため息をつき、俺達の方を向いた。正確には簪の方だ。
楯無「え、えっと〜……簪ちゃん、料理も残り少ないけど、良かったら一緒に食べ「あ、電話だ。零、私ちょっと抜けるね」ってガン無視ィ!?」
気まずそうな顔をしながらも楯無は簪に話しかけようとしたが、それをガン無視して簪は食堂を出て行き、後には真っ白になって崩れ落ちた楯無だけが残された。
天音「……私は今心からお姉さんを哀れに思ってるよ」
ねね「……その、元気出して下さい」
楯無「やめろォ!?その哀れみが更に私のメンタルを抉っていくからやめろォ!?」
真月「お前、実は超余裕だろ」
楯無「勿論よ!簪ちゃんに無視されたのなんか今に始まった事じゃないし。あれ、なんか自分で言ってて涙が……」
……見てるこっちが辛くなってきた。だれかなんとかしてくれマジで。
???「どぉ〜もぉ〜!IS学園新聞部部長の黛薫子です!噂の男子生徒達にインタビューを……あれ、何やってんのたっちゃん?」
若干重たくなっていた場の空気をぶち壊すように食堂にやってきた眼鏡を掛けた女は、崩れ落ちた楯無を見て不思議そうにそう言った。
楯無「ああ、気にしないで薫子ちゃん……、別に大した事じゃないから……」
薫子「ふ〜ん、じゃあ良いや。さて気を取り直して、男子生徒達にインタビューを……よし先ずは君だ!」
そう言って黛と名乗った女は一直線に一夏の所に向かい、マイクを一夏に向けた。
薫子「天城一夏君だね?少しインタビュー良いかな?」
一夏「……?まあ、別に良いですけど」
薫子「ありがとう!それじゃあ先ず一つ目の質問!好きな女性のタイプは?」
一夏「好きな同性はハルトです」
お前は何を言っているんだ。
薫子「……えっと、つまり、どういう事?」
一夏「好きな同性はハル「だああぁぁもう!?ちょっと黙ってろお前ェ!?」……何だよ織斑」
秋介「テメェが誤解を招くような言い方するからだろうが!?……ああ、すみません先輩。ハルトっていうのはコイツの弟の名前で……」
薫子「ああ、ブラコンってやつね。それで、好きな女性のタイプは何なの?」
一夏「好みのタイプの女性なら……年上のお姉さんですね。胸がデカくてスタイルが良かったら尚良し」
秋介「随分具体的だなオイ!?」
織斑の言う通り随分と具体的だ。あいつの周りでそんな感じの女性なんて……ドロワか。そういや一夏は一時期ハートランドに滞在した事があったんだったな。
薫子「ふむふむ、年上のお姉さんがタイプっと。なるほどね、それじゃあ二つ目の質問!趣味は何ですか?」
一夏「料理と裁縫ですね。マフラーくらいなら作れます」
薫子「ほ〜う、意外に家庭的。取材に協力してくれてありがとうね。お次は君だ!」
そう言って黛は織斑を指差した。
薫子「織斑君はクラス代表になったんだよね。何か意気込みとかは無いかな?」
秋介「えっと……推薦してくれた皆の期待に応えられるよう頑張ります!」
薫子「え〜何か地味〜。何か面白い事言ってよ〜!」
秋介「すいません、ちょっと思いつきませんでした」
薫子「まあ良いや。何か適当に捏造しとけば良いし。それじゃあ織斑君にも質問!好きな女性のタイプは?」
秋介「今さらっとエゲツないこと言っただろ!?……好きなタイプ、ですか。取り敢えず……家事が出来る人が良いですね」
何処か遠い目をしながら織斑はそう言った。
薫子「ほうほう、家庭的な子がタイプなのね。それじゃあ二つ目の質問!今度のクラス対抗トーナメント、あの中国のクイーン鳳選手が出場しますが、勝てる見込みはありますか?」
秋介「当然!僕は神童ですから、誰が相手でも勝ってみせますよ!(勝てる訳無いだろ!?碌に練習出来てない人間がプロに勝てたら奇跡だっての!?)」
黛の質問に自信満々に答える織斑だが、内心焦りまくっているのが言葉の端々から感じ取れた。
薫子「おお!流石はブリュンヒルデ織斑千冬さんの弟!凄い自信ですね!」
秋介「…………」
薫子「織斑君?どうかした?」
秋介「……いえ、何でもないです」
そう言われて織斑は一瞬だけ嫌そうな表情になったが、すぐにいつものムカつくニヤケ顔に戻った。
薫子「そうですか、じゃあ次はそこで倒れてる君!」
そう言って黛は床で倒れている黒咲の方へマイクを向けた。
隼「ぐっ……!俺か……?」
薫子「黒咲君だったね?好きな女性のタイプは?」
隼「瑠……いや、特に好きなタイプなどは無い」
オイ今何を言おうとしたこのシスコン野郎。
薫子「ちぇっ!つまんないなぁ、それじゃあ趣味は?」
隼「M&Wだ。……今はデュエルモンスターズという名前に変わったがな」
薫子「おっ!良い趣味してるね〜!好きな種族は?」
隼「鳥獣族だ。中々優秀なサポートが多いからな」
薫子「ふむふむ、じゃあアイドルカードは?」
隼「アイドルカードだと?」
薫子「そう!別にコンボを組める訳じゃないけど、イラストが可愛いからついデッキに入れちゃうカード!君にも覚えが有るんじゃない?」
隼「そ、そんなもの入れた事は無い!」
薫子「お?怪しいなぁ〜?ちょっとデッキ見せてね!」
隼「あっ!?おい返せ貴様!?」
ニヤニヤしながら黒咲からデッキを奪い、中のカードを物色し始めた黛。黒咲、入ってないならそんなに必死にならなくてもいいだろ。
薫子「あった!『お注射天使リリー』、成る程成る程、黒咲君はナース服がお好みか」
隼「違う!?ブレードバーナーファルコンの効果を使う為のライフ調整要員として入れてるだけだ!?」
ユートに電話を代わった時以上に動揺している黒咲。これは後でからかう為の良いネタになるな。
薫子「はっはっは、中々のネタをゲット出来たわ!ミザエル君はいないみたいだから後日にするとして、ラストは真月君、君だ!」
真月「僕ですか?任せて下さい!どんな質問にも良かれと思って答えてみせますよ!」
薫子「おお、元気だね!それじゃあ君にも質問!好きな女性のタイプは?」
真月「そうですね、優しい女性が良いですね」
薫子「優しい女性がタイプっと。ありがとうね。最後に写真撮りたいから、男子の皆で集まって!」
黛の指示に従い、俺達は織斑を中心にして並んだ。
薫子「はいは〜いもうちょい皆横にずれてね〜。黒咲君顔怖いから笑って笑って〜!はい、今から写真撮るからね!イチたすイチは〜?」
『に〜!!』
結局その場に居た女子が全員入ってきて、凄い窮屈な写真になった。
薫子「あはは、随分窮屈そうな写真になっちゃったなぁ。取り敢えず、この場に居なかったミザエル君は写真にする時に右端に個人写真を撮ってくっつけとけば良いかな」
秋介「欠席者扱いかよ!?」
薫子「あはは、ナイスツッコミ!それじゃあ私は編集作業に入るからこれで帰るね。さらば!」
そう言って黛は食堂から走り去って行った。嵐の様に訪れて嵐の様に去って行ったなあの女。
隼「くそっ……!この屈辱は絶対に忘れんぞ……!」
天音「あはは、良いじゃん別に。リリー可愛いから入れても仕方ない事だと思うよ?」
隼「だから別にイラスト目当てで入れていた訳では無いと言っているだろうが!」
天音「はいはい、分かってるよ。それより簪遅いなぁ。どんだけ長い電話なんだろ?」
天音の言う通り、簪が出て行ってからもう20分は経過している。簪の性格から考えてここまで長い電話はしないはずだが、何かあったのだろうか。
真月「ま、その内戻ってくるだろ。それまで残った料理でも食べてようぜ」
天音「……それもそうだね。ねねは何が食べたい?」
ねね「え、えっと……そこのサラダかな」
天音「分かった。取ってくるよ」
鈴音「よーし!第2ラウンド開始よ!」
隼「まだ食うのか貴様は!?」
簪が遅いのは気にかかったが、何かあったかは本人に直接聞けば良いだろう。そう考え、俺達は残りの料理に手を伸ばした。
結局、簪は最後までパーティーに戻って来なかった。
side簪
簪「…………え?」
篝火『もう1度言うわ。簪さん、貴女は代表候補生を辞めさせられるかもしれない』
電話が来ていたので食堂を出た私に倉持の所長である篝火さんが告げたその言葉は、到底受け入れる事が出来ないものだった。
簪「どうしてですか!?私は何もやってません!?辞めさせられるような事は一切……」
篝火『何もやってないから、だそうよ』
簪「……どういう……事ですか?」
篝火『代表候補生として相応しい功績を貴女は残していないから。政府の奴等はそう言っていたわ。専用機持ちでありながら一切活躍をしていない貴女には、代表候補生をやる資格なんて無いとね』
簪「それは……!」
それは余りにも理不尽過ぎる。専用機の開発を凍結されるようにしたのは政府の方じゃないか。
篝火『……ごめんなさい。私の方もなんとかしようとしたけれど、覆せなかった』
篝火さんは悪くない。私の専用機開発が凍結された時に謝っていたのも、私に開発途中だった機体を預けてくれたのも篝火さんだ。
簪「……何で急にそんな事になったんですか?」
篝火『彼女、織斑千冬が織斑秋介を日本の代表候補生にするよう働きかけたからよ。現在日本の代表候補生には空きが無いから織斑秋介は入れない筈なんだけど、彼女がそれなら誰かを辞めさせれば良いって言ったからこうなったの』
簪「織斑千冬……!」
また、あの女。身体中が怒りで熱くなるのを感じる。打鉄弐式の開発を凍結させただけでなく、私から代表候補生という肩書きまで奪おうとするのか。
簪「……辞めさせられるのは確定では無いんですよね。どうすれば辞めなくて済みますか?」
篝火『私にはこの事態を止める事は出来なかった。でも救済措置を用意する事は出来たわ。次のクラス対抗トーナメント、ここで良い成績を残せれば、今回の件は回避出来る。これが貴女にとってのラストチャンスよ』
簪「クラス対抗トーナメント……!」
無理だ。今回のトーナメントには鈴が出る。機体も完成していない今の私じゃ太刀打ち出来ない。
簪「倉持から何人かこっちに人を派遣出来ますか?」
篝火『ごめんなさい、ウチの開発スタッフの殆どが白式の方に回されて、派遣出来る状態では無いわ』
簪「そうですか……」
終わった。意地を曲げて開発スタッフを回して貰って、急ピッチで機体を開発しようとしたがそれも出来ない。トーナメントには訓練機で出るしかない。
篝火『力になれなくて、本当にごめんない』
簪「篝火さんのせいじゃないです。……打鉄弐式の開発を急ぎたいので、これで」
そう言って私は通話を切った。
簪「……どうすれば良いの?」
目の前が真っ暗になったような感覚だ。このままじゃ、私は全てを失ってしまう。姉に追いつくために必死になって努力したのも全部無駄になってしまう。
簪「……力が欲しい」
この状況を打破出来る力が欲しい。
お姉ちゃんを追い越せるだけの力が欲しい。
馬鹿にしてきた奴等を見返せるだけの力が欲しい。
あの女を叩き潰す為の力が欲しい。
簪「力さえ……あれば……!」
心に、暗い炎が灯ったような気がした。
次回予告
ドン『遂に始まるクラス対抗トーナメント、どんなカオスが待っているのか、我も楽しみだ』
「所詮、アンタなんか姉の劣化品なのよ!」
「力さえ、力さえあれば……!」
ドン『ふむ、あの小娘は中々に深い闇を秘めているな。カオスに堕ちるまで後ひと押し、といった所か』
「クイーンは一人、このアタシよ!」
「神童の実力を見せてやるよコンチキショー!」
ドン『ハハハハハ!此方は中々に面白い結果になりそうだ!精々我を楽しませてくれよ?』
『アリーナ上空に熱源反応を感知、此方に接近してきます』
ドン『……ほう、成る程な。喜べベクター、貴様に最初の試練が訪れるぞ』
次回、インフィニットバリアンズ
ep.30 開幕 クラス対抗トーナメント!
ドン『是非、次も見てくれ』
凌牙「なに俺の予告乗っ取ってんだテメェ!良い加減にあの世に帰れ!』