side真月
鈴音「はあ、はあ……ッ!アンタ、中々やるじゃない!」
隼「貴様も中々のものだ。貴様からは他の女共には無い鉄の意志と鋼の強さを感じる。俺も全力で相手をしよう!」
鈴音「当たり前でしょ!さあ、最終ラウンドの始まりよ!」
半壊したアリーナで暴れ回る黒咲と鈴を、俺は遠い目をしながら見つめていた。
真月「……何でこうなった」
二人が戦っている経緯は今から一時間前、放課後になった後まで遡る。
side隼
隼「……結局来てしまった」
ユート達に言われ、仕方なくこの学園に戻る事になった俺は、取り敢えず副担任の女を探し回っていた。
隼「全く、あいつらは乱暴過ぎる。ただ暴力を振るうという行為は三下のやる事だというのに……!」
そうやってブツブツと愚痴りながら進んでいくと、お目当の副担任を発見した。
隼「……おい」
真耶「うひゃあ!?……なんだ、黒咲君ですか。学園に戻ってきていたんですね」
隼「本社からの謹慎処分が解かれた。明日から学校に復帰するからあの女にも伝えておけ」
真耶「ああ、あの後姿を見ないと思ったらそんな事になってたんですか。分かりました、織斑先生には私から伝えておきますね。それでは黒咲君、また明日会いましょう!」
隼「……ああ」
笑顔でそう言ってきた副担任に俺はそう答えてその場を立ち去る。あの副担任は苦手だ。ああいうタイプの奴は本心からそう言っているから、無愛想に話している自分に罪悪感を感じてしまう。
隼「……部屋に戻るか」
副担任に報告もしたし、もうこれ以上やる事は無い。変に目立って面倒な奴らに絡まれるのも嫌なので部屋に戻ろうと歩き出した時、曲がり角から飛び出してきた奴とぶつかった。
鈴音「きゃあ!?急に飛び出して来るんじゃないわよ危ないじゃない!」
俺より二回り程小さいその女をぶつかった時に弾き飛ばしてしまったらしく、その女に睨まれた。
隼「……飛び出して来たのはお前だろう」
鈴音「なんですって!?……あれ?アンタもしかして黒咲隼?」
隼「もしかしなくても黒咲隼だ」
鈴音「やっぱりそうよね!へえ〜、映像と同じいかつい顔してるわね〜!あ、アタシは鳳鈴音。今日この学園に転入してきた中国代表候補生よ!」
成る程、代表候補生か。それならばこの中途半端な時期に転入してきたのにも納得がいく。それに鳳鈴音という名前には聞き覚えがある。
隼「鳳鈴音……、中国の絶対王者、だったか?」
鈴音「そう!クイーンとか世界最強でもいいわよ!それにしても以外ね。試合見た感じアンタ女を嫌いみたいだからアタシの事知らないと思ったんだけど」
隼「……敵の情報を集めるのは当然の事だ」
この女に限った話ではない。俺達レジスタンスはあらゆる国の国家代表とその専用機のデータを集めている。来るべき復讐を確実に成功させる為に、脅威となる存在について知るべきだからだ。
鈴音「敵、ねえ……。随分過激な言葉を使うのね。女に何か嫌な思い出でもあるの?」
隼「それをお前に話す義理があるのか?」
嫌な事を思い出したので八つ当たりのように冷たく返すと、鳳は少し驚いた顔をした後頭を下げた。
鈴音「ごめん、今のはアタシが無神経過ぎた。誰にだって思い出したくない過去の一つや二つあるわよね。それじゃなあ話は変わるけど、今からアタシと試合しない?」
隼「……戦闘データを取る気ならお断りだ」
ただでさえ俺はオルコットとの試合で怒りを抑える事が出来ずに暴走し、手の内を晒し過ぎたのだ。現段階でこれ以上俺の手の内を知られるのは不味い。
鈴音「いやいや、別にそんなつもりは無いわよ?単に試合を見てアンタと戦ってみたいと思っただけ、アンタのISは結構面白い奴だったからね」
鳳の言葉に嘘が無い事を確認し、一応の警戒を解く。どうやらこの女が国の指示で動いていないというのは正しいようだ。
隼「……その試合をやって何か俺にメリットがあるのか?」
鈴音「そうね〜、中国の絶対王者のサインとか?」
隼「要は貴様のサインだろう。別にいらん」
鈴音「そう、それは残念ね。じゃあ絶対王者と戦えるという栄誉とか?」
隼「それは俺の専用機の手の内を晒す事と釣り合う価値があるのか?」
鈴音「無いわね。……アンタ、挑まれた勝負から逃げるの?」
隼「……ッ!」
俺がメリットと思えるものが無いらしく、鳳は俺を挑発して勝負に持ち込む作戦に切り替えた。
隼「それは、挑発しているとみていいのか?」
鈴音「さあ、どうでしょうね?ただ、これにアンタが乗って試合をしてくれるならそれに越したことは無いんだけどなあ〜とは考えてるわね」
隼「生憎、その程度の挑発に乗る俺では……」
鈴音「え?逃げる?逃げちゃう〜?やーい、意気地なしやーい!アンタの一家デーベーソ!」
隼「上等だ表でろ貴様ぁ!?」
良いだろう。そっちがその気ならこちらも容赦しない。お望み通り全力で叩きのめしてやる!
鈴音「あんな子供の悪口みたいな挑発に乗ってくるってどういう事よ……?」
隼「それで、試合の内容はどうするんだ?」
まんまと挑発に乗り、鳳と試合をする事になった俺はアリーナへと来ていた。
鈴音「ちょっと待ってて、今訓練機借りてくるから」
隼「訓練機だと?専用機ではやらないのか?」
鈴音「面倒だけど、公式の試合以外で専用機をあまり使うなって上の人達に言われてんのよ。アンタもあまり手の内を明かしたくないなら訓練機の方が良いでしょ?」
隼「一理あるな。だが俺の分の訓練機は必要無い。打鉄のブレードだけ持って来てくれ」
鈴音「……?ブレードだけ持って来て何になるのよ?」
隼「ISには操縦者の動きを補助する機能があるだろう。肉体の補助だけで充分だ。それに……」
ISを纏ってしまうと、嫌でもあの地獄を思い出してしまう。
鈴音「それに、何よ?」
隼「いや、何でもない。さあ、早く訓練機を取ってこい」
鈴音「別に何でもないなら良いけど、ブレードだけで本当に大丈夫?」
隼「問題無いと言っているだろ。時間が勿体無いから早くしろ」
鈴音「……ホント態度悪いわねアンタ。友達出来ないわよ?」
隼「余計なお世話だ!」
昔ユートにも同じ事を言われた。全く、俺の何が悪いというんだ。
それから数分が経過し、ISを纏った鳳が俺にブレードを投げてきた。
鈴音「ほら、ブレード持ってきたわよ。アタシ飛ばない方が良い?」
隼「ハンデのつもりか?そんなもの必要無い」
鈴音「いやハンデとかじゃなくて、IS纏わないアンタじゃ飛べないでしょ?だったらアタシも地上で戦おうかと思ったんだけど」
隼「デュエリストを舐めるな、この程度の高さのアリーナなら跳躍で近づいて貴様に一撃を食らわせる事くらい容易く出来る」
鈴音「……零といい師匠といい、デュエリストには人外しかいないの?あとハンデ関係無しにアタシ飛ばないわ。よくよく考えたらアタシ接近型だから飛ぶ必要無かった」
隼「……なら何故提案した?」
鈴音「忘れてたのよ悪い!?さあ、とっとと行くわよ!」
隼「……おい、武器はどうした?」
鈴音「要らないわよ、アタシ素手の方が得意なの」
隼「そうか、なら良い。面倒だから早く終わらせる、行くぞ鳳何とか!」
鈴音「鈴音よ!」
隼「名字覚えておけば充分だろうが!はあッ!」
前方に跳躍して鳳との間合いを詰めて横薙ぎに一閃、それを鳳は身体を後ろに逸らして回避した。
鈴音「あっぶな!?ちょっと、今の避けなかったら首飛んでたわよ!?」
隼「避けたんだから別に良いだろう!せいッ!」
鈴音「そんな乱暴な……ッ!おわあっ!?」
反論する鳳の顔面に突きを食らわせようとしたが、最初の一撃と同じように難なく躱されてしまう。
隼「チッ……!反応速度が異常だな、絶対王者を名乗るだけの事はある」
鈴音「アンタねえ……!上等よ!そっちがその気ならこっちも好きにやらせて貰うわ!怪我しても文句言うんじゃあないわよ!」
隼「もとより怪我の危険など承知している!文句など言うつもりは無い!」
鈴音「良い度胸ね!やあッ!」
隼「……!?速いッ……ぐおおッ!?」
縦に叩き斬ろうとした刀を躱した鳳は一瞬で俺の背後に回って無防備な俺の背中に蹴りを浴びせた。展開していた俺のISによって威力は多少軽減されているが、超質量の物体がまともに衝突した為俺の背中に激痛が走った。
鈴音「まだまだぁ!!」
隼「ぐっ……!!」
蹴りのダメージで怯んだ俺の隙を見逃さず、鳳はラッシュを繰り出した。何とか避けているが、思いの外背中のダメージが大きく、身体が上手く動かせない。
鈴音「さっきの蹴り、大分効いてるみたいね!どうする?そろそろやめにする?」
隼「舐めるな……!俺はまだ闘える!」
鈴音「へえ、タフなのね。それじゃ遠慮なく行くわよ!」
隼「来い!叩きのめしてやる!」
鈴音「その根性は尊敬するわ!でも勝つのはアタシよ!はああッ!」
隼「ふッ!!」
鈴音「へっ!?きゃああぁぁ!?」
繰り出された拳を両手で掴み、背負い投げの要領で思いっきりアリーナの遮断シールドに叩きつける。頑丈な作りで出来ている遮断シールドに叩きつけられた事でシールドエネルギーが大幅に減り、機体にも傷がついた。
鈴音「いったぁ〜!顔面から衝突したわよ!?投げるにしても顔からぶつかるようにするのはやめなさいよ!?」
隼「顔を気にする余裕があるならまだ平気だな。どうする?まだやるか?」
鈴音「……当たり前よ、アタシを馬鹿にしてんの?」
隼「馬鹿になどしていない。いや、貴様など馬鹿にする価値も無い」
鈴音「……ああ?」
隼「貴様は俺に絶対に勝てない。ISなどという鉄屑に乗って、決闘紛いのお遊戯をして良い気になっている貴様等女では、本物の戦場に身を置いてきた俺には勝てない!」
そう、俺達レジスタンスとこいつ等では戦いに臨む覚悟が違う。あの悪魔の兵器をただのスポーツの道具としてしか見ていない奴等に、俺達は負けない。
鈴音「……黙って聞いてれば、好き勝手に言ってくれるじゃない。鉄屑?お遊戯?あの世界を碌に知りもしないでよくそんな事が言えるわね、アンタ」
隼「碌に知りもしない、か。そう思うならそう思っておけ。だが貴様の言う通り俺が貴様が生きてきた世界をよく知らなくても、あの鉄屑がどれだけ忌まわしい物かは俺が世界で一番よく知っている!」
鈴音「……アンタの過去に何があったかは知らない。でもね、だからといってISを鉄屑呼ばわりしていい訳じゃないし、アタシの今までの戦いをお遊戯だなんて言わせない。アンタのさっきの言葉、絶対に撤回させる!」
隼「面白い、やれるものならやってみろ!」
鈴音「言われなくともやってやるわよ!政府の奴等には無闇に使うなって言われてたけどもうどうでもいい!アタシの切り札を使わせてもらうわ!」
そう言うと同時に鳳は身に纏った訓練機を解除し待機状態に戻したそれを放り投げ、右拳を天に掲げた。
鈴音「王者の鼓動、今此処に列をなす!天地鳴動の力を見せてあげる!来なさい、アタシの魂!『レッド・デーモンズ・ドラゴン』!!」
掲げたその拳を炎が包み、それがやがて鳳の身体全体を包み込んだ。
隼「……ほう」
鳳の身体を包み込んだ炎が消えた時、そこには紅い龍の姿があった。
鈴音「さあ、ここからが本番!絶対王者の本気を見せてあげる!」
次回予告
秋介「鈴の専用機によって、黒咲と鈴の試合は第二ラウンドへと移行する。圧倒的なパワーを持つ鈴との戦いは、黒咲の心に火を点けた」
「ハハハハハ!こんなに心踊る戦いは久しぶりだ!」
「アタシもよ!さあ、思いっきり戦うわよ!」
秋介「ヒートアップしていく両者、崩壊するアリーナ。二人の暴走を止められる者は果たしているのだろうか」
次回、インフィニットバリアンズ
ep.26 隼と絶対王者 後編
秋介「というか鈴化け物過ぎるだろ!?僕こんな奴とクラス対抗戦で戦うの!?……修行した方が良いかな?」