side真月
自称天才との試合が終わり、ハッチに戻った俺を簪が出迎えた。
簪「お疲れ様、凄かったよ」
真月「そりゃどうも。いやあギリギリだった〜!アイツが挑発に乗りやすいタイプで本当良かったぜ」
簪「それ抜きにしても凄かったよ?相手の顔に何発も弾丸を撃ち込むとか、並の射撃技術じゃあ出来ない」
真月「俺は人が嫌がる事を嬉々としてやるタイプだからな。試合でされて嫌な事は大体出来る」
簪「それは人としてどうなの……?」
少し引かれたが、まあ仕方が無いだろう。俺のクズさは慣れてもらうしかない。
真月「さて、次は織斑と一夏か。因縁の対決だな」
簪「……?二人は知り合いなの?」
真月「知り合いっつーか兄弟だな。一夏が弟」
簪「弟……?でも名字が……?」
真月「まあ、アレだ。色々と複雑な家庭なんだよ。織斑が神童って呼ばれてるのは知ってるな?」
簪「さっきまでの試合を見てると全然そんな感じはしないけど一応。でもそれが何か関係……あ」
気がついたらしいな、やっぱコイツ頭良いわ。
真月「なまじ出来る兄弟がいると、劣ってる奴は虐められるもんなのさ。俺はそういうのあまり好きじゃないけど」
簪「……ふぅん」
なんか急に不機嫌になったんだが、俺は何かコイツの地雷を踏むような事を言ってしまったのだろうか?
真月「つまり、この試合は一夏にとって、自分の過去と向き合う大事な一戦という訳だな」
簪「そうなんだ。なら一夏君には勝って欲しいね。それで、肝心の一夏君はまだ来ないの?」
真月「そういやまだだな。もう時間ギリギリなのに何やってんだアイツ」
ふと脳裏に控え室での一夏の様子を思い出した。携帯の待ち受けのハルトの写真を眺めながら荒い息を吐いていた一夏の姿を思い出し、なんとなく嫌な予感がした俺は控え室まで様子を見に行く事にした。
一夏「ハァ、ハァ、ハァ……!ハルトオオォォ……!」
駄目だった。コイツまだ写真見てやがった。
真月「いつまで写真見ながらニヤニヤしてんだボケが!もう試合始まんだよ!!」
一夏「ハッ……!?何だ零、もうそんな時間なのか?」
真月「自分が出る試合なんだからもう少し関心持てよ!?オラ、とっとと行くぞ!」
一夏「あ、ああ分かった」
無理矢理一夏を引き摺りながら、俺は胃薬の使用を本気で検討していた。
真耶「あ、天城君遅いですよ!もうすぐ試合始まりますから早く準備して下さい!」
一夏「はい!」
山田先生の声を受け、一夏はハッチから出撃した。
真耶「あれ!?天城君ISは!?」
一夏「アリーナで展開します!」
そう言ってハッチから跳躍する一夏を見て、俺はアイツも順調に人間辞めてきてるんだなぁという感想を抱いた。
side一夏
秋介「やあ、遅かったじゃないか出来損ない」
アリーナに出て早々そんな事を言ってくる元兄。まあ遅刻したのは事実だから反論は出来んがそれは酷くないか?
一夏「何だ、気づいていたのか」
秋介「不本意だけどお前とは兄弟だからね。最初の自己紹介の時に顔見ただけで分かったよ」
一夏「そうか、案外すぐにバレてたのか」
秋介「神童を舐めすぎだよお前。まあお前が生きてたのには驚いたけどね、一体どうやって今まで生きてこれたんだい?」
一夏「助けて貰ったんだよ、今の兄貴にな」
秋介「へえ、お前を助けるなんて、変わった奴もいたもんだな。それと聞きたいんだけど、何でIS展開してないのさ?まさかお前も黒咲とかいう奴と同じタイプのISなのかい?」
一夏「いや、これから展開するのさ!闇に輝く銀河よ!復讐の鬼神に宿りて、我がしもべとなれ!来い!俺の魂!
そう言ってISを展開すると、あの日、俺がカイト兄さんに助けられた時に見た光が俺を包み込み、俺の姿を龍に変えた。
そう、これが俺の専用機。カイト兄さんが使うギャラクシーアイズを元に束さんやクリスさん達が一から作った新たなギャラクシーアイズだ。
秋介「……ふぅん。随分と派手な展開の仕方だね。展開する前に口上まで言うなんて。でもいくら機体が強そうだからって、中身がお前なら怖くは無いね!」
一夏「いいや、俺が勝つね。何故なら俺には天使がついているからな!」
秋介「……何言ってるんだお前?暫く見ない内に頭でも打ったかい?」
一夏「ハッ!天使が何かって?ハルトに決まってるだろアホが」
秋介「いや知らねえよ!?誰だよハルトって!?僕の知らない人名使って勝手に盛り上がっといて知らない僕をアホ呼ばわりするんじゃねえよ!?」
一夏「何を言う!ハルトの可愛さは世界、いや宇宙共通だろうが!知らない訳無いだろ!」
秋介「知るか!暫く見ない間にお前に何があったんだよ!?」
一夏「はあ、ハルトの可愛さを理解出来ないなんて、お前は可哀想な奴だな」
秋介「五月蝿いわ!?さっきからお前と僕の間で言葉のドッチボールが起きてるだろ!?」
一夏「良いだろう!この試合に勝ってお前にもハルトの可愛さを理解させてやる!」
秋介「それ洗脳とかじゃないよな!?というか僕の話を聞けェ!?」
千冬『……準備は出来てるか?では試合開始!』
一夏「いくぜぇ!見ててくれハルトオオォォ!!」
秋介「だからいい加減ハルトが誰か教えろやボケェ!?」
こうして、俺の過去の因縁を断つ為の、負けられない戦いが始まった。
side真月
簪「……押されてるね、一夏君」
真月「ああ、押されてるな」
試合開始から二十分が経過、一夏は秋介に押されていた。
機体の性能面では遥かに優っている筈の一夏が何故一方的に押されているのか全く分からないが、一夏が秋介に攻撃をしようとする度に一瞬だけ動きが止まっているのが分かった。
真月「何でアイツ毎回動きを止めるんだ?」
簪「……零は分からないの?」
真月「あん?簪は分かるのか?」
簪「怖いんだよ」
真月「怖い?何がだよ?」
簪「織斑君だよ。一夏君は織斑君が怖いんだ」
真月「はあ?何でだよ、一夏は確実にあのクズを超えているんだぞ?」
一夏は確実に昔よりも強くなっている。カイトの所に居たんだ、アイツより弱い筈がない。それが何でアイツを恐れる必要があるんだ?
簪「……零には虐められっ子の気持ちが分からないんだね。虐めってさ、身体より心に深い傷をつけるんだ」
真月「それくらい知ってるっつの。それでも前より強くなったんだから怖いなんて思わないだろ?」
簪「心の傷は消えない。ましてや虐めていた張本人が相手なんだから、今一夏君が感じている恐怖は相当なものだと私は思う」
成る程、そういうものなのか。基本的にいたぶる側だからそういう考え方をした事が無かった。
真月「やけに詳しいな。虐められた経験あるのか?」
簪「……それ、本人に直接聞く?」
真月「……悪い、今のは完全に俺が悪かった」
簪「分かったならいい。でもどうするの?このままじゃ一夏君負けるよ?」
真月「……こういうのは本人が乗り越えなきゃいけないもんだが、それで負けましたってのもなぁ〜。仕方ない、軽く背中を押しますか」
そう言って俺はDパッドを使い、ある人物に電話をかけた。
真月「……もしもし?少し頼みがあるんだが……」
side一夏
秋介「ほらほらどうした!勝つんじゃなかったのか!」
一夏「くっ……!」
現在俺は元兄に押されている。何度攻撃しようとしても身体が上手く動かないのだ。
一夏(乗り越えたつもりだったんだがなぁ〜)
動かない原因ならとっくに分かっている。俺がアイツを恐れているからだ。昔アイツに痛めつけられた記憶が俺の動きを止める足枷になっている。
カイト兄さんに助けられて、ハルトと会って、新しい家族のもとで今まで暮らして来た。だから昔の事は乗り越えたつもりでいたのだが、身体はそうもいかなかったらしい。
一夏(ちくしょ〜、避ける事くらいしか出来ねえ!)
身体が言う事を聞かない以上、避け続けるしかない。だがそれも時間の問題、すぐに限界が来る。
どうにかしなければ、そう思っていた時に零からプライベートチャネルで通信が来た。
真月『よう、苦戦してるみたいだなあ一夏ぁ?』
一夏『零、苦戦してるって分かってるなら通信しないでくれるか?余計気が散るだろ』
プライベートチャネルはテレパシーの様に思った事を口に出さずに相手に伝える事が出来るので、元兄には通信しているのが気づかれないが、やはり邪魔くさい。
真月『そういうつれない事言うなよ、せっかく背中を押してやろうと思ったのによ〜』
一夏『それ、そのまま崖の底に真っ逆さまとか無いよな?』
真月『安心しろって、ある人からの応援のメッセージを届けてやろうと思っただけさ』
応援メッセージ?誰からだろう、箒か?
真月『お前が一番喜ぶ相手だから期待しとけよ?それじゃあハルト、頼むぜ?』
ハルトだと!?ハルトが俺に応援だと!?
ハルト『あ、うん。えっと……昔の事とか色々思い出して辛いだろうけど、頑張ってね?応援してるよ、一夏兄さん』
その言葉を聞いて、全身に震えが走った。震えは収まる事なく、むしろ少しづつ酷くなっている。
秋介「うん?なんだ震えてるのかい?まあ、僕相手なら仕方ないだろうけどね。ほらほら、怖いなら降参したらどうだい?」
震えが限界に達し、喉の奥から出そうになる叫びも抑え難くなってきた。
一夏「……ハ」
秋介「ハ?」
一夏「…………ハ」
秋介「さっきからどうしたのさ?降参したいならもっとはっきりと言わないと!」
元兄の言葉も聞こえない、心の奥底から湧き上がる衝動に耐え切れず、俺はその衝動に身を委ねた。
一夏「ハルトオオオォォォォォォ!!」
秋介「うわあっ!?いきなりどうしたのさ!?」
全身に力が漲ってくる!今なら誰にも負けはしない。
一夏「ハルトオォォォォォォ!ハルト!ハルトオォォォォォォ!!」
秋介「人の話を聞けぇ!?というか人語を話せよ!?」
元兄の言葉が遥か遠くから聞こえてくるかのように感じる、遅い、遅過ぎる。元兄の姿が止まって見える!
一夏「オオォォォォォォォォ!!ハルトォ!ハルトハルトハルトオォォォォォォ!!」
秋介「いい加減に、しろやこの野郎!!」
向かってくる元兄の持つ刀を掴み、反対側の拳で思いっきり殴りつける。バキッ!という音と共に刀はいとも容易くへし折れた。
秋介「ちょっ!?雪片へし折りやがった!?」
一夏「アアアアァァァァァ!!ハルト!ハルト!ハルトオォォォォォォ!!ハルトオオオォォォォォォ!!!」
秋介「うわああぁぁ!?来るな馬鹿野郎!?せめて人の言葉を使ってくれ!?」
何事かを叫びながら距離を取ろうとする元兄、逃しはしない、ハルトの応援に報いる為にも絶対に勝つ!
一夏「アアアアァァァァァ!!ハルトォ!!」
秋介「どわああぁぁ!?何だコレ、離せ、離せよ!?」
俺の腕から伸びた光の縄が元兄の足を掴む。フォトンアンカー、カイト兄さんが使っているものだ。
一夏「オオォォォォォォォォ!ハルトォォォォォォ!!」
アンカーを思いっきり引っ張り、元兄を振り回し、壁に叩きつける。
秋介「ゴフッ!?ガハッ!?グエッ!?」
元兄が弱ってきた所でトドメの一撃を決める為、機体にエネルギーを集中させていく。
秋介「オイ待て!?何かチャージしてないかお前!?分かった、負けだ!?僕の負けでいいからやめてくれ!?」
一夏「オオォォォォォォォォ!!ハルトオオオオォォォォォォ!!(訳:『殲滅の、サイファーストリーム!!』)」
秋介「どわああああぁぁぁぁぁ!?」
俺の放ったエネルギー砲により、元兄は爆散した。
真耶『え…ええと、白式、シールドエネルギーエンプティ、よって勝者、天城一夏君です……」
歓声は無かった。それでも俺の心はなんとも言い表し難い達成感で満たされていた。
ハルト……、お兄ちゃん勝ったよ……!
side真月
目の前で行われた大惨事を見て、簪から一言、
簪「ねえ、背中押すだけだったんだよね?」
真月「……ごめん、ブラコン舐めてたわ」
結論、ブラコンは皆頭おかしい
次回予告
本音「いやぁ〜てんてん凄かったね〜!皆固まってたよ!」
ミザエル「いやあれはドン引きしてただけだろう……。というか一夏のあだ名はてんてんなのか?」
「どんな結果になろうと構いません、これはわたくしの誇りをかけた決闘なのですから」
本音「ええ〜!?セッシーあんな状態でも戦う気なの!?ミザやん、怪我させないよう気をつけてね?」
ミザエル「ふん、少しは良い目になったようだな。ならばこちらも貴様のその姿に敬意を持って戦わなければなるまい!本気で行くぞ!」
次回、インフィニットバリアンズ
ep.22 クラス代表決定戦決着!青き雫と誇り高き銀河龍!
本音「ミザやん、セッシー、どっちもファイト〜!」