インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.20 クラス代表決定戦!地を跳ね回る白兎

side真月

 

 

 

胃が痛い。

 

 

 

黒咲がセシリア戦でやらかしたせいでアリーナは大破、整備の為試合は一時間遅らせてやる事になった。

 

更に試合後にあの女が教師部隊率いて黒咲から専用機を取り上げようと迫って来た。俺達は必死にそれについて対応して取り上げを防いだ。事前に専用機の取り上げをしないという約束を楯無を通して学園長としておいたのが功を奏した。

 

あの金髪ドリルは試合後すぐに医務室に運び込まれ、現在治療中だ。専用機である青き雫は大破、ビット六機も修復不可能なくらい破壊されたらしい。

 

そして今一番腹が立つ事が、肝心の黒咲が今この場にいない事だ。あいつは本社の方に強制送還されたと本社のスコール達から報告を受けたのだが、こんだけ迷惑かけといてそもそもの原因がいないというのがめっちゃムカつく。

 

真月「人選ミスったかな……」

 

ミザエル「自分で選んだのだからそう言う事言うな。まあ、黒咲がやり過ぎたのは事実だ。奴の憎しみを甘く見ていたのが悔やまれるな」

 

真月「まあ、あいつが女を憎んでるのは知ってたからな。こうなるのも当然か」

 

璃緒「遊矢君とかいたでしょうに、何故彼なの?」

 

真月「テメェらはキレた遊矢見た事無いからそんな事言えるんだよ!あいつがキレた時マジでヤバいからな……」

 

ミザエル「貴様がそう言うとは、かなりヤバいらしいな。それとベクター、次は貴様の試合だ。そろそろ準備した方が良いのではないか?」

 

そう言われて時計を見ると、試合時間はもう目前に迫っていた。相手はあの自称天才、どうやら金髪ドリルは棄権扱いらしい。まあ、当然だろうな。

 

真月「へいへい、じゃあ頑張ってくるとしますか」

 

ミザエル「手を抜くのは別に良いが、下らない醜態を晒すような羽目になるなよ」

 

璃緒「そうね。貴方調子に乗ると変な所でミスするから。私とドルベとデュエルした時みたいに」

 

真月「五月蝿えよ!?」

 

応援とは言いがたいものを受け取りながら、俺はハッチに向かった。

 

 

 

簪「あ、遅かったね零」

 

ハッチには簪がいた。何で居るのコイツ?

 

真月「何の用だ?部外者は立ち入り禁止だってあの鬼教師が言ってたけど」

 

簪「零の応援をしに来たの。山田先生が特別に許可してくれたから普通に入れた」

 

成る程、応援か。あまりされた事無いから分からなかった。

 

真月「そりゃどうも。そういやさっきの試合見たのか?トラウマもんの大惨事が起こってたけど」

 

簪「見た。確かに少し恐いと感じたけれど、それ以上に凄いと思った」

 

真月「凄い?何がだ?」

 

簪「あの強さ。絶対絶命のピンチをものともせずに逆転してみせたあの強さは、とても羨ましいと思った。私も……あんな風になれるかな?」

 

そう言った簪の目は、とても危うい感じがした。

 

真月「やめとけ。あれは欲しがっちゃいけない力だ」

 

簪「どうして?強さを……、力を欲しがったら何でいけないの?」

 

真月「別に強くなりたいと思う分には構わねえよ。ただあの力は、手に入れない方が幸せってだけだ」

 

そう、あれは居場所を失い、大切な仲間達を失うという絶望を味わったからこそ手に入れる事が出来た、限りなくどす黒い憎悪(カオス)の力だ。あれを簪が手に入れると言う事は、簪も同じ絶望を味わうと言う事、俺はそんなものを見たくはない。

 

簪「……?まあ良いや。試合、頑張ってね」

 

真月「ハハッ!適当にやって負ける気でいたが、そうやって応援されちまったんなら勝つしかねえな!!」

 

黒咲の事で胃を痛めていて、自称天才との戦いに正直闘志が湧いてこなかったのだが、今負けられない理由が出来てしまった。

 

真月「さあ、行くぜ『シャイニングラビット』!」

 

そう言って俺はISを展開した。

 

シャイニングラビット、俺がかつて『真月零』として遊馬と一緒にいた頃に使っていたカードだ。

 

赤い執事服に赤い帽子、『不思議の国のアリス』に出てくる『時計ウサギ』を彷彿とさせるその姿は、昔使っていたカードと全く同じものだった。

 

真耶『あ!真月君、準備よろしくお願いします!』

 

真月「はい!真月零、出撃しま〜ッす!!」

 

そう言って俺は勢いよくハッチを飛び出した。

 

簪「……やっぱり気持ち悪く感じる」

 

オイ簪、普段とのギャップに違和感を感じるのは分かるがそんな言い方されると流石に傷つくぞ。

 

 

 

秋介「やあへっぽこ、待ちくたびれたよ」

 

開口一番にそう言ってくる自称天才に湧き出す殺意を必死に押さえつけながら、俺は返事をした。

 

真月「へっぽこって……、いきなり酷いですね」

 

秋介「だってそうだろ?昔からドジばかりで周りに迷惑かけまくってたじゃないか。そんな君がテストパイロットになれるなんて、随分と人員が不足した企業なんだね」

 

いきなりご挨拶だなオイ。現状猫被ってた方が都合が良いからこのまま戦うが、いつかボコボコにしてやるから覚悟しろよ。

 

真月「……確かに僕はいつもドジばかりするへっぽこです。でも、今日まで必死に練習して此処にいます。それを君のような何の努力もしない人間に、誰かを虐める事でしか自分の強さを証明出来ないような最低な人間に馬鹿にされたくない!」

 

秋介「なっ!?テメェ!?」

 

真月「君には絶対に負けない!行くぞシャイニングラビット!」

 

秋介「調子乗ってんじゃねえよ屑が!叩き潰してやる!」

 

こうして、絶対に負けられない戦いが幕を開けた。

 

 

 

秋介「ハハッ!威勢よく飛び出した癖にその様かよ!テメェ本当へっぽこだな!」

 

真月「まだまだ!僕は諦めてませんよ!」

 

試合から十分が経過、俺は現在押されていた。

 

理由は単純、機体性能の違いだ。俺のシャイニングラビットは機動力に特化しており、その為脚部以外の装甲が薄い、更に言えばコイツはサポート型の機体であり、コイツの機体と違って決め手になる攻撃が無い。しかもコイツの切り札である零落白夜はシールドバリアを無効化して機体に直接ダメージを与える超攻撃型の単一能力、装甲の薄いこの機体が食らったら最悪俺の身体まで真っ二つにされてしまう。

 

つまり俺はコイツの零落白夜を一撃も食らわずにコイツを倒す必要があるのだ。全く、難易度の高い戦いだ。

 

真月(それでも、勝たなきゃカッコ悪いよなあ!!)

 

あんだけ偉そうに啖呵切ったんだ、勝たなきゃ笑い物だ。

 

例え機体の性能で負けていても、俺には今まで散々良からぬ事を考えてきた頭脳がある。力で負けるなら、それを知で補うまでだ。

 

真月(考えろ……!今取れる策で最上のものは何だ……!)

 

シャイニングラビットの装備は三つ、IS用のサバイバルナイフとハンドガン、後はグレネードだ。

 

どれも決め手に欠けている、これらを上手く使って奴のシールドエネルギーを削りきる為には……!

 

真月(一つ、思いついた)

 

かなりリスクが高い策だが、現状これが一番勝機がある。

 

真月(まずは零落白夜を使わせないと……!)

 

零落白夜は白式自身のエネルギーを使って発動する。その為奴は確実に決められる時しか零落白夜を発動しない。そこで俺はワザとミスをしたフリをして、奴の前で大きく隙を作った。

 

真月「ああっ!?」

 

秋介「馬鹿が!隙だらけなんだよ!零落白夜ぁぁ!!」

 

まんまと釣られた自称天才が零落白夜を使って俺にトドメを刺そうとする、その瞬間に俺はシャイニングラビットの脚部のブースターを稼働し、大きく後ろに跳躍する。

 

秋介「何ぃ!?」

 

咄嗟の事で判断が遅れた自称天才、隙だらけのその身体にハンドガンを何発も撃ち込んでいく。

 

秋介「うおおぉぉ!?舐めるなぁ!」

 

格下だと思い込んでいた俺に傷を負わされた事に激昂した自称天才が零落白夜を解除せずに俺に突っ込んで来る。

 

これが俺の今出来る最善の策、怒らせて冷静な判断力を失わせる事で零落白夜を連発させ、自滅を誘うというものだ。

 

勿論これはリスクが高い。乱発される零落白夜の中の一発でも食らったらアウトだし、途中で冷静さを取り戻して俺の策を見破られてもアウトだ。その為適度にコイツを挑発する必要がある。

 

真月「どうです!僕だって結構やるでしょう?ほらほら、ちゃんと狙って!良かれと思って隙だらけですよ!」

 

秋介「糞があぁぁ!屑が調子乗ってんじゃねえぞ!!」

 

その点に関しては心配は無かった。今まで磨いてきた煽りスキルが役に立っているので、コイツが冷静になる事は無いだろう。

 

後は相手の攻撃を一つ一つ丁寧に躱していくだけだ。幸い冷静さを失ったコイツの太刀筋は単純で、いつものコイツと比べて見ていられないようなモノだったので、躱すのは容易だった。

 

攻撃を躱しながら白式のエネルギー残量を確認した所、後一発分が限度だと分かった。このままコイツにその一発を撃たせて自滅させても良いが、それじゃあ少しカッコつかない。

 

そこで、トドメは俺自身で刺す事にした。脚部のブースターを使って距離を取り、ハンドガンを使って自称天才の顔面を的確に狙っていく。

 

秋介「がっ!?ぐっ!?」

 

装甲によって守られていない顔面に正確に攻撃を当てる事で、操縦者を守る絶対防御を強制的に発動、シールドエネルギーをより多く減少させていく。

 

トドメとしてグレネードを放り投げ、ボロボロの自称天才の目の前で起爆、シールドエネルギーを削り切った。

 

秋介「どわあああぁぁ!?」

 

酷く間抜けな悲鳴をあげて、自称天才は爆発した。

 

真耶『白式、シールドエネルギーエンプティ、よって勝者は真月零君です!』

 

湧き上がる歓声を耳にしながら、俺はハッチへと戻った。

 

 

 

sideセシリア

 

 

 

セシリア「うっ……!此処は?」

 

目を覚ました時にまず目に映ったのは、見知らぬ天井だった。全身が痛い、何故でしたっけ?確かわたくしはアリーナで戦って……!?

 

セシリア「うっ…!?」

 

そうだ、思い出した。あの男、黒咲隼に、わたくしは完膚なきまでに叩き潰されたのだ。

 

自分の身体を確認する、包帯でぐるぐる巻きにされており、自分が酷い怪我を負ったのだろうという事を容易に想像出来る。

 

セシリア「そう……、わたくしは負けたのですね……」

 

無様な敗北だった。自分の強さに慢心し、相手を見下して、そして叩き潰された。

 

専用機である青き雫は大破し、イギリスの誇るBT兵器であるティアーズも全滅、最悪の結果だ。

 

セシリア「わたくし……、愚かでしたわね」

 

そもそも初日から自分は間違っていたのだ。あの男、海馬ミザエルが言ったように自分の立場を理解せずに不用意な発言をしてクラスを、いや日本を敵に回しかけた。自分はイギリスの代表候補生であると自慢しておきながら、自分が一番その立場を分かっていなかったのだ。

 

代表候補生としてあるまじき行為を行い、試合も全て黒星、挙げ句の果てにイギリスが誇る第三世代機を大破させてしまった。これは決して許されない行いだ。

 

恐らく自分は重い処罰を下される、最悪家を取り潰されるだろう。

 

セシリア「情けないですわね。守るべき物を自分で壊そうとしていたんですもの」

 

本当に愚かな行いをした。見下され、蔑まれるべきは自分の方だったのだ。

 

セシリア「それでも……」

 

それでもまだ自分にはやるべき事が有る。

 

例え全てを失っても、これだけは無しにしてはならない。

 

真耶「あ!オルコットさん目が覚めたんですね!」

 

セシリア「山田先生……。ええ、目が覚めました」

 

真耶「本当に良かったです!それでオルコットさんが倒れてからの事なんですけど……」

 

セシリア「山田先生、クラス代表決定戦はどうなりましたか?」

 

真耶「まだ続いてます。次は織斑君と天城君の試合で……」

 

セシリア「そうですか……。青き雫の修理状況はどうですか?」

 

真耶「全然終わってません。機体の方は何とか動かせますが、ライフルとビットは修理が難しいくらい壊されていて……」

 

そうか、仕方が無いだろう。それでも、まだ自分には武器が残っている。苦手だからと全く使わなかったあの武器が残っているのだ。

 

セシリア「……山田先生、ミザエルさんと織斑さんとの試合に出させて下さい」

 

真耶「ほええ!?だだだ駄目ですよ!?機体は何とか動かせるくらいだし、ビットもライフルも全滅!何よりオルコットさん自身の身体が持ちません!?」

 

セシリア「それでも、わたくしは出なければなりません。わたくしはあの二人に決闘を申し込みました。イギリス人の、いやわたくし自身の誇りの為にも、この決闘から逃げてはいけないのです」

 

ここで怪我を理由に決闘から逃げてしまったら、自分が自分でなくなってしまう。例えどんな結果になろうとも、この決闘には出なければならない。

 

真耶「ううぅ、誇りとか、そんな言葉使うのズルいですよぅ……。分かりました。ただし!危険だと判断したらすぐに試合を中断しますからね!」

 

セシリア「はい、有り難う御座います山田先生」

 

目の前で唸る先生に深く頭を下げ、私は専用機が置かれているであろう整備室へと歩きだした。




次回予告

秋介「ふふふ、遂に僕が予告に参戦さ!天才の僕は、予告だって完璧にこなしてみせるさ!」
「俺は絶対に負けない!何てったって、俺には天使がついているんだからな!」
秋介「いきなり何口走ってるのさ出来損ない、暫く見ない内に頭をやられたのかい?まあ良い、昔みたいにボコボコにしてやるよ!」
次回、インフィニットバリアンズ
ep.21 クラス代表決定戦!暴走するブラコン
「ハルトオオォォ、ハルトハルトオオォォ!!」
秋介「うわあぁ!?人語を話せよマジで!?」

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