インフィニット・バリアンズ   作:BF・顔芸の真ゲス

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ep.17 対暗部用暗部更識家

side真月

 

 

 

朝から面倒な人と関わったからか、その日の授業はどっと疲れた。何だか入学してから面倒な事しか起きていない気がする。護衛のチョイスミスったか?

 

真耶「それでは皆さん、明日も元気で学校に来て下さいね!それでは日直の相川さん!挨拶お願いします!」

 

相川「はーい!気をつけー!礼!有難う御座いました!」

 

『有難う御座いました!!』

 

日直の挨拶でこの日の授業は全て終わり、待ちに待った放課後がやって来た。なんか、この瞬間の為だけに学校に通ってる気がしてきた。

 

本音「あ!れいれ〜い!ちょっと待ってね〜!」

 

真月「……?どうかしましたか本音さん?」

 

真っ直ぐ自室に帰ろうとした俺を、本音が呼び止めてきた。何だよ、今から帰ろうとしてたのに。

 

本音「う〜んとね、お嬢様がれいれいを呼んできてって言ってたの〜!」

 

ああ、そういえばあの残念生徒会長、『また放課後』的な事言ってたな。全く、面倒な事を。

 

真月「はい、何処に行けば良いんですか?」

 

本音「う〜んとね!生徒会室!」

 

ああ、残念生徒会長のアジトか。

 

真月「分かりました!それで、生徒会室って何処にあるんですか?」

 

本音「ふふふ、今回は特別に私が案内してあげるのだ〜!ささ、私についてきなさ〜い!」

 

真月「あ、ちょっと!?腕掴まないで下さい!?自分で歩きますから〜!?」

 

本音に腕を掴まれて強引に連れていかれながら、俺は今度は自分が連れて行かれる側になった事に笑ってしまいそうになった。

 

 

 

本音「お〜嬢様〜!れいれいを連れて来たよ〜!」

 

楯無「ご苦労様、本音。さて、生徒会室にようこそ。立ち話もなんだから、まあ座って頂戴」

 

本音に連れて来られた生徒会室は、この更識楯無という人物の人間性がよく出ている部屋だった。生徒会長の机に山積みとなった書類、コルクボード一帯に貼られた簪の写真、生徒会長の机以上に書類が積まれた書記の机、そのどれもが、この少女がダメ人間である証拠と化している。

 

真月「あの、この写真って……?」

 

楯無「見れば分かるでしょ?簪ちゃんの写真よ!あ、簪ちゃんには言わないでね?隠し撮りしたのもあるから」

 

平気な顔で隠し撮りって言ったよコイツ!

 

真月「その、何の御用でしょうか?僕何もしてない筈なんですけど……?」

 

楯無「そんなに警戒しないでよ〜!お姉さん悲しいな〜!今回は、貴方にちょっと聞きたい事が有ったのよ」

 

真月「聞きたい事、ですか?」

 

楯無「ええ、この学園に来るまでに、貴方が何をしていたのかをね」

 

……警戒しか出来ないわ。

 

真月「僕が何をしていたか?それ聞きたい程の事なんですか?」

 

楯無「勿論!だってアークライトカンパニーから来た生徒の中で、貴方と黒咲君だけ経歴がはっきりしてないんだもの」

 

ああ、そういえば黒咲は存在消されてたんだっけ。

 

真月「他の人の経歴は調べたんですか!?」

 

楯無「ええ、それが私の仕事だもの」

 

真月「仕事?生徒会長ってそんな事もやってるんですか?」

 

楯無「いいえ、これは私個人の仕事よ。あまり大きい声では言えないけど、私には裏の顔が有るのよ?」

 

話の雲行きが怪しくなってきた。楯無の表情には変化は無いが、逆にそれが怖い。

 

真月「裏の顔、ですか。一体どういう物なんです?」

 

楯無「そうね、真月君には特別に教えてあげる。私の裏の顔は対暗部用の暗部、まあ簡単に言えば忍者よ忍者」

 

真月「暗部と忍者は大分違うと思うのですが……。でも良いんですか簡単にそういう事言っちゃって?誰かに聞かれてたら不味いんじゃ……」

 

楯無「大丈夫よ。この部屋には防音加工が施されてるの。外からじゃ何があっても中の様子は分からないわ。そう、何があっても、ね?」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺はこの部屋から離れる為に勢いよく振り向き、扉まで走り出そうとした。しかし……

 

本音「えへへ〜、ここは通さないのだ〜!」

 

扉の前に本音が立ちふさがっていた。先程までと様子は変わらないが、微かに殺気が滲み出ており、その手に持った拳銃がその殺気が本物である事を告げている。

 

???「動かないで下さい」

 

自分の横から聞こえたその声の方に目を向けると、本音に似た少女が俺の首にナイフを当てていた。

 

真月「誰だお前、本音の姉ちゃんか?」

 

???「はい。生徒会書記を務めている布仏虚と言います。名前は『(うつろ)』と書いて『(うつほ)』と読みます」

 

真月「へえ、ご丁寧にどうも。でさ、このナイフ、離してくんないか?今ちょっとクシャミ出そうなんだ」

 

虚「我慢して下さい」

 

真月「ですよねー。それで?何を聞きたいんだ?」

 

楯無「あら、随分素直ね。お姉さん的にはポイント高いわ」

 

真月「この状況じゃあ大人しくするしかないだろ」

 

楯無「それもそうね。それじゃあ一つ目の質問、貴方達アークライトカンパニーの目的は何?」

 

真月「会見でⅤの奴が言ってただろ?女尊男卑の根絶だ」

 

楯無「Ⅴ……?クリストファー・アークライトの事かしら?それじゃあ二つ目、黒咲君の正体は?」

 

真月「レジスタンスのリーダー、今は俺の部下だかな。あいつの過去はあいつ自身に聞け。他人の口から話して良いものじゃ無い」

 

楯無「そう、ならいつか黒咲君から直接聞く事にするわ。それじゃあ最後の質問、貴方の目的は?」

 

真月「一夏の護衛、あいつを狙う悪意からあいつを守る事が俺の役目だ」

 

楯無「そう、どう虚ちゃん?嘘吐いてる?」

 

虚「嘘は言ってません。ただ、何か隠してる感じは有りますね」

 

楯無「ふーん。ま、嘘は吐いてないらしいし、これ以上聞く事も無いや。ただし!これだけは言っておくわ」

 

そう言って楯無は俺の方に顔を近づけて、恐ろしく冷たい表情で言った。

 

楯無「貴方が何を企もうが知った事ないわ。でもね、それでもし簪ちゃんに危害を加えたら……貴方を殺すわ」

 

それは朝簪に辛辣な事を言われ、膝から崩れ落ちていた威厳もクソも無い姿を見せていた残念な姉では無かった。ただ大切な物を守る為に全てを捧げる修羅の姿が俺の目の前にあった。

 

真月「……あいつに危害は加えない、俺の命に誓ってもいい。あいつはそこそこ気に入ってるんだ」

 

俺がそう言うと、先程までの殺気が一気に霧散し、朝のような笑顔の楯無がそこにはいた。

 

楯無「……そう。ねえ、一つお願いしても良い?」

 

真月「……何だ?」

 

楯無「何かあった時、簪ちゃんを守ってあげて」

 

真月「……テメェが守れよ。大切な妹なんだろ?」

 

楯無「勿論私も守るわ。でも、私はいつも一緒にはいられない。それに、私簪ちゃんに嫌われてるみたいだし」

 

そう言って寂しげに笑う楯無の姿を見て、俺は何故か腹が立っていた。

 

真月「嫌われてると思ってんなら仲直りしろよ。代わりの居ない大切な家族だろ?居なくなってからじゃ遅えんだぞ?」

 

そう言うと楯無は少し驚いたような顔をして、その後笑いだした。

 

真月「……何だよ。俺が家族とかなんとか言ってるのがそんなにおかしいか?」

 

楯無「いや、別におかしくなんか無いわよ?ただ、全く同じ事を昨日黒咲君にも言われたのよ」

 

真月「何だ、あいつがそんな事言ったのか」

 

楯無「ええ、最初は無視されてたから腹が立って、寝てる黒咲君に一方的に話をしてたの。まあどれも無視されたんだけど、簪ちゃんと仲悪いって話には反応して、『絶対に仲直りしろ。家族は何よりも大切な物だ。失ってから後悔しては遅いんだ』って言ってきたの」

 

その話を聞いて、俺は何とも言えない気持ちになった。黒咲は白騎士事件で両親を失い、その後政府に妹を奪われた。家族を失う事がどれ程辛いかを一番知っている人間と言えるだろう。そんなあいつが、どんな気持ちでこう言ったかは、部外者の俺には想像出来ない。

 

楯無「さっきの貴方の言葉に嘘は無かった。私は虚ちゃん程嘘を見抜く力がある訳では無いけど、貴方のその言葉は信頼に値すると判断したわ。だから貴方がこの学校、そして簪ちゃんに仇なす行為をしない限り、貴方の行動を黙認するわ」

 

真月「そりゃどうも。そうだ、一つ聞いていいか?」

 

楯無「ええ、構わないわ」

 

真月「七つの鍵って知ってるか?」

 

楯無「七つの鍵……いいえ、知らないわ。それがどうかしたの?」

 

真月「いや、知らないならいい。それじゃ、もう帰りたいんで、お二人さんは武器を下ろしてくんない?」

 

楯無「本音ちゃん、虚ちゃん、武器下ろして良いわよ」

 

虚「了解しました」

 

本音「は〜い!」

 

楯無の言葉で二人はようやく武器を下ろした。

 

真月「あんがとよ。後俺の本性は他言無用な」

 

楯無「別にばれても良いんじゃないの?」

 

真月「今の猫被った俺にはまだ利用価値があるんだよ」

 

楯無「利用価値って……、まるで自分を道具とでも思ってるみたいな言い方ね」

 

真月「使える物は何でも使うのが俺のモットーだ。当然自分も例外じゃあない」

 

楯無「そう、気をつけて帰ってね。学園の生徒達の中で貴方達を快く思ってない人は決して少なくないから」

 

真月「はいはい、気をつけますよっと」

 

楯無「じゃあ、また明日会いましょう」

 

本音「ま〜た明日〜!」

 

こうして、俺は無事生徒会室から脱出する事に成功した。

 

 

 

side楯無

 

 

 

虚「お嬢様、宜しかったのですか?」

 

楯無「……?何が?」

 

虚「真月君をあのまま行かせてしまった事ですよ。日本政府からの依頼では……」

 

楯無「『黒咲隼の素性調査と抹殺』、『男性が起動出来るISコアの製法の入手』の事?そこは適当に誤魔化しとけば大丈夫よ」

 

虚「しかし、それでは日本政府を敵に回す事に……」

 

楯無「虚ちゃん、私が一番大切なのは家族。父さんと簪ちゃん、後本音ちゃんと虚ちゃん達が無事なら、最悪家が潰れても構わない。ISコアについては手に入れたら世界のパワーバランスが確実に崩れるし、黒咲君についてはまだ謎が多い。だから現状は保留」

 

虚「……そうですか。それがお嬢様の考えならば、私はそれに従います」

 

楯無「そう、ありがとうね虚ちゃん」

 

虚「当然です。私は、貴女の従者なのですから」

 

 

 

side真月

 

 

 

自室に戻ると、簪が先に居た。

 

簪「……おかえり」

 

真月「ああ、ただいま。いやあ、疲れた疲れた」

 

簪「……何かあったの?」

 

真月「お前の姉ちゃんに色々問いただされてた。まさかこんな早くに本性ばれるとは思わなかったぜ」

 

簪「……そう、やっぱりお姉ちゃんは凄いや」

 

真月「凄いシスコンなのは確かだな」

 

そう言うと簪は意外そうな顔をした。

 

簪「驚いた。お姉ちゃんには嫌われてると思ってたから」

 

……驚いた、姉妹揃って同じ事を考えてやがる。

 

真月「いや嫌われてる訳ねえだろ。朝のあいつの態度見てれば好かれてるのは分かるだろうが」

 

簪「そう?私はそうは感じなかったけれど。まあ、仮に仲直りするなら私がお姉ちゃん越えてからかな」

 

やばい、この姉妹超面倒臭い。

 

真月「下らない意地張ってんじゃねえよ。近い内に仲直りしろ、いいな?」

 

簪「……貴方、私のお母さんかなにか?」

 

真月「どう見ても男だろ」

 

簪「いやそう言う意味じゃあ無いけど……。そうだ、零はISの操縦練習しないの?」

 

真月「アリーナが予約びっしりで使えないからやらない」

 

簪「清々しいくらいハッキリやらないって言ったね……。良ければ私が色々知識だけでも教えようか?私セシリアさんの機体の情報も持ってるし」

 

真月「一応一通り知識は頭に入ってるが、せっかくだから教えて貰うわ。ありがとな簪」

 

簪「気にしないで。最近専用機の開発しかしてないから息抜きが欲しかったの。その息抜きで零の助けになれたなら私も嬉しい」

 

真月「息抜きが人に勉強教える事ってのも中々凄いな。後あいつの機体の情報は別にいいや。多分初見でもなんとかなるし」

 

多分他の面子がギタギタにするし。

 

簪「そう。私の教え方は結構厳しい、覚悟してね?」

 

真月「おうよ、どんと来い!」

 

 

 

こうして、俺は試合当日までの時間を、簪とのIS授業に費やす事になった。

 

 

 

 

 

番外編〜それぞれの時間の過ごし方〜

 

 

 

織斑秋介の場合

 

 

 

秋介「さて、ネットにあったあの金髪ドリルの機体についての情報は大体集まった、後はISの操縦だけど、僕の専用機試合当日に来るんだよね。訓練機使ってもいいけど、実際に使うのは専用機だから、練習してもあまり意味無さそうかなぁ。ぶっつけ本番でいいや、暫くやってなかった剣道でもやっとこう」

 

 

 

海馬ミザエルの場合

 

 

 

ミザエル「本音、菓子を食い過ぎだ。もう少し数を抑えろ」

 

本音「む〜!ミザやんの意地悪〜!それで、ミザやんはISの練習とかしなくて良いの?」

 

ミザエル「問題無い、むしろ下手に練習して手の内を明かす方が危険だ」

 

本音「ほえ〜!ミザやんって結構慎重なんだね〜」

 

ミザエル「私はあの女と決闘すると宣言した。だからこそお互いが対等な立場で闘うべきだ。だから私はあの女の情報も調べん」

 

本音「 ふ〜ん。ミザやんは真面目だね〜!」

 

 

 

天城一夏の場合

 

 

 

箒「なあ一夏、本当にISの操縦は練習しなくて良いのか?」

 

一夏「一応本社で死ぬ程やったからな。俺は当日までセシリアのデータの収集に専念する」

 

箒「そうか、秋介の方はどうするのだ?」

 

一夏「そっちはもう調べた。アイツ多分慢心してるし、基本負けないと思うんだよな」

 

箒「それもそうだな。だからと言ってお前が慢心しては元も子もない、警戒は怠るなよ」

 

一夏「分かってるよ、ありがとな箒」

 

 

 

黒咲隼の場合

 

 

 

楯無「隼君、私が操縦については教えてあげようか?」

 

隼「必要無い、俺のISは大分特殊だからな。多分参考にならん」

 

楯無「そう、所で何でさっきからデッキを弄ってるの?」

 

隼「奴との戦いに備えているだけだ」

 

楯無「……?」

 

 

 

神代璃緒の場合

 

 

 

璃緒「さて、私としては代表なんかなりたくないから適当な所で負けたい所だけど、オルコットさんと織斑君には負けたくないわね。その二人のデータだけ集めとこうかしら」

 

 

 

セシリア・オルコットの場合

 

 

 

セシリア「さて、試合までまだかなりの猶予が残されていますが、何をしましょうか。わたくしの勝利は確定していますが、あの男、海馬ミザエルは完膚なきまでに叩きのめさなければいけません。恐らく彼は私のデータを調べているでしょうし、私は出来ない事を出来る様にしておきましょうか」

 

 

 

 

 

 




次回予告

ベクター「次回は少し特別だ。今までの人物の細かい情報についての説明会にしようと思う。丁度人も増えてきたしな、本編の続きを楽しみにしていた奴等には悪いが、まあしばし待ってくれ」

次回、インフィニットバリアンズ
人物紹介

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