side真月
目を覚ますと真っ白な場所に居た。上も下も白い、眼前に佇む不気味な扉だけが色を持つ、そんな空間だった。
真月「此処は……夢、だよな?」
こんな状況夢以外あり得ないのだが、たまに見る自分の過去の亡霊達の声は聞こえない。この夢の正体をなんとか探ろうと色々考えを巡らせていたら、目の前の不気味な扉が少し開いた。
真月「……お?なんか隙間が……!?」
僅かに開いた隙間から、恐ろしく巨大な何かがこちらへと手を伸ばしていた。
『出せ……!我等を此処から出せ……!』
長年良からぬ事をやっていた俺の勘が隙間から覗く何かをかつてない脅威だと告げている。駄目だ、此処に居てはいけない。早く、早く離れなければ。
だが、その場を離れようとする意志に反して、身体はまるで金縛りにでもあったかのように動かない。
『解け……!我等を封じる忌々しい七つの鍵の封印を今すぐに解け……!』
俺が動こうと必死にもがいている間にも、声の主は近づいて来る。
『魂を差し出せ……!我等の糧となる魂を捧げよ……!』
今になって気がついたが、どうやら声の主は三人居るらしい。まあ、今響いてくるこの声の主を三人と数えていいものか迷うが。
『生贄を……!生贄を捧げよ!!」
真月「っ!?ぐあぁ!?」
扉が勢いよく開き、そこから青い巨碗が飛び出して俺の身体を握り締めた。骨が軋む音がして、身体中が悲鳴を上げているのが分かる。
『生贄を……!我等■■■復活の為の生贄を!!」
真月「があっ……!?糞……離しやがれ……!」
俺を締めつける力は段々と強くなり、意識が朦朧としてきた。
『神に踊らされた愚かな罪人よ……、その魂を我等に捧げよ!!』
その言葉を耳にしたと同時に俺を締めつける腕の力は更に強くなり、俺は扉の中に引き摺り込まれた。
薄れゆく意識の中、俺は闇の中で咆哮を上げる三体の化け物の姿を見た。
真月「ああぁぁぁ!?」
自分の悲鳴で目を覚ます。すぐさま身体を確認し、自分の身体が無事である事を確認した。
真月「はあ、はあ、はあっ……!一体何だったんだアレは……!」
分からない、あの夢に関しては全く分からない。いつも見る悪夢には俺が殺してきた人間しか居なかった。俺の記憶にはあんな門も、あんな化け物も存在しない。
簪「……大丈夫?酷い顔してるけど……」
ふと声のした方に目を向けると、簪が心配したような顔でこちらを見つめていた。
真月「あ、ああ気にしないでくれ。少し悪い夢を見ていただけだ」
簪「そう。貴方がそう言うならそれで良いんだけど」
真月「ああ、起こしちまったか?」
簪「ううん、今から寝ようと思ってたから」
簪の言葉を聞いて時計を見ると、時計の針は午前5時を指していた。
真月「……夜更かしにも程があるだろ」
簪「大丈夫、その分休み時間に寝るから」
真月「そう言う問題じゃねえだろ……」
寝る時間を削ってまで作業の時間を取る簪には呆れてしまうが、これが続けばいずれ限界がくる。そうならない為にもその内ちゃんと寝かせなければ。
真月「つーか5時かあ……。今から二度寝しても大して変わらねーよなあ……」
簪「そう?寝る時間は一秒でも多い方が良いと思うけど」
真月「そう思ってんなら徹夜なんてすんなよ……」
簪「出来るだけ早く完成させたいから」
真月「そうかい。さて、二度寝する気も起きねーし、デッキでも弄るか」
その言葉を聞いた途端、簪の目がキラキラと輝き始めた。
簪「……貴方デュエリストだったの?」
真月「まあそうだな。とゆうか、アークライトカンパニーから来た奴らは皆デュエリストだぞ?」
簪「……そう。ちょっと待ってて」
そう言うと簪は部屋の電気を点けてカバンをゴソゴソと漁りはじめた。
簪「……ねえ、デュエルしてよ」
真月「いや何でだよ、とっとと寝ろよ」
簪「眠気は吹っ飛んだ。最近デュエル出来てなくて退屈だったの。本音とは何回もやってるし、かと言って私の周りで他にやってる人居なかったし」
真月「本音?ああ、あの袖がダボダボの奴か。一組の知り合いってアイツの事か」
簪「そう。さあ、デュエルしてよ。私の六武衆の力を思い知らせてあげる」
真月「やる事は確定なのかよ。まあ良い、俺のセイクリッドの力を思い知らせてやる!」
簪・真月『デュエル!!』
こうして、俺達は時間が許す限りデュエルをし続けた。
簪「馬鹿な……、私の六武衆が負けるなんて……」
真月「いや俺もかなり危なかったけどな。プレアデスで戻した師範がまた来るのには驚いた」
簪「アレは貴方のプレイミス。……しかし、強いんだねエクシーズモンスターって」
簪はかなり強かった。俺が勝てたのは簪がエクシーズモンスターやシンクロモンスターを持ってなかったからだ。
M&Wを再販する際、名前を変えた他に新しい召喚法としてエクシーズ召喚とシンクロ召喚を追加した。これにより今まで融合しかなかったM&Wは俺達の世界のデュエルにかなり近い姿になった。
真月「お前はシンクロとかエクシーズとか持ってなかったのか?確か六武衆にもシンクロモンスターとかエクシーズモンスターとか居た気がするが」
俺はそれらのカードについてあまり詳しくは無いが、そのカードを使ったデッキと対戦したギラグによると、展開力がハンパないらしい。アイツ対戦後暫くの間『門怖い』とかうわ言のように言っていたが、そんなに怖かったのか?
簪「何……だと……!?そんな、新規が来てるなんて知ってたら貯金全部費やしてでも手に入れたのに……」
そう言ってガクリと膝をついた簪。俺らの世界の奴らも勿論だが、こっちの世界のデュエリストもカード収集に力を入れてるな。
真月「まあ、適当な日にでも買えばいいだろ。そら、そろそろ食堂が開く時間だ。着替えてさっさと行こうぜ」
簪「分かった。着替えるからちょっと待ってて」
そうして、俺達は一緒に食堂へと向かった。
本音「あ〜!かんちゃんとれいれいだ〜!」
食堂に着いた時、本音が俺達に話しかけてきた。とゆうか、れいれいって俺の事なのか?
簪「本音、そのかんちゃんって言うのやめてって言ったよね?」
本音「え〜!だってかんちゃんはかんちゃんでしょ〜?そうだ!かんちゃん、れいれい!一緒に食べよ!」
真月「それは良いですね!行きましょう簪さん!良かれと思って僕が席までご案内します!」
そう言って俺は二人を連れて席まで歩いていった。それはそれとして簪、『誰だお前』って目で俺を見るな。
まだ食堂が開いたばかりだったからか、席は案外楽に確保する事ができた。食券を買い、食堂のおばちゃんから料理を受け取った後、俺達はワイワイと話しながらそれを食べていた。
真月「へえ〜!本音さんのルームメイトはミザエル君なんですか〜!」
本音「うん!でもミザやん酷いんだよ!私が一緒に食べよ〜って言ったのに一人でさっさと行っちゃうんだもん」
そう言ってプク〜っと頰を膨らませる本音。それも面白いのだが、ミザやんと呼ばれているミザエルの姿を想像して笑いそうになった。
ちなみにそのミザエルはと言うと、食堂のど真ん中の席に黒咲と座っている。
「アイツがアークライトカンパニーの……」
「私達女に喧嘩を売った身の程知らず……!」
「一緒にいる奴は一組の子を殴ろうとしたみたいよ?」
「最低!なんでそんな奴がこの学園にいるの?」
やはりミザエル達は良く思われてないらしく、そこかしこから陰口が聞こえてくる。
隼「……五月蝿いな、カードにしても良いか?」
ミザエル「やめておけ、所詮は面と向かって悪口を言う事も出来ん腰抜け共だ。反応するだけ無駄だ」
わざと周りが聞こえるように大きい声で話して、ニヤリと笑うミザエル。なんで自分から敵作ってんのアイツ。
本音「ミザや〜ん!一緒に食べよ〜!」
段々と険悪なムードになりつつあるのを無視して、本音がミザエルに話しかけた。アイツ勇気あり過ぎだろ。
ミザエル「……本音か。私はもう食べ終わる、私は良いから零達と食べろ」
本音「え〜!だったら私のパン分けてあげるから〜!一緒に食べようよ〜!くろっちも一緒にさ〜!」
ミザエル「……はあ、勝手にしろ」
隼「そのくろっちとは俺の事か!?」
本音「うん!黒咲だからくろっち!可愛いでしょ〜!」
隼「別に可愛さなど求めては無いのだが……」
マイペースな本音の言動に戸惑いを見せる黒咲、あのミザエルや黒咲相手に物怖じひとつしないなんて、本音はなかなかに凄い奴なのかもしれない。
本音「はい!ミザやんの分のパン!くろっちにもパンあげるね!」
ミザエル「……頂いておく」
隼「……結局食べる事になってしまった」
渡されたパンを頬張るミザエル、なんか疲れた様子で目の前に置かれたクロワッサンを見つめる隼。なんか、黒咲がクロワッサン食べるのが何故か共食いに感じるのは俺だけなのか?
簪「……本音、何で私の方にもパンがあるの?」
本音「最近かんちゃん碌にごはん食べて無いでしょ〜?ごはんは沢山食べないと!」
簪「……分かった、貰っとく」
そう言ってパンを齧りはじめた簪。お前食事もちゃんと取って無かったのかよ。
本音「はい!れいれいにもあげる〜!」
真月「え?僕にもですか?」
本音「うん!昨日はお話出来なかったから、お近づきの印に〜!」
真月「は、はあ。それはどうも。でも良いんですか?本音さん自分が食べる分が大分減ってますけど」
本音「私はその分お菓子を食べるから大丈夫なのだ〜!」
そう言って胸を張る本音。いや飯の代わりがお菓子は駄目だろ、 虫歯になるぞ。
ミザエル「……太るぞ?」
本音「む〜!女の子にそういう事言っちゃ駄目なんだよミザやん!でも大丈夫!私は太らないから!仮に太るとしてもその脂肪は胸に行くから大丈夫なのだ〜!」
そう言ってまた胸を張る本音。そう言えばコイツ結構胸デカイな。
簪「……チッ!」
おい簪、女の子が舌打ちなんてするなよ。
ミザエル「……本音、その発言は敵を作る。あまり言わない方がいい」
さっきまで敵作りまくってたお前が言うな。
本音「……?まあ良いや!ところで〜?れいれいはかんちゃんのルームメイトなんだよね!仲良くなった?」
いきなり話がガラッと変わったなオイ。
真月「仲良くなったかは分かりませんが、仲良くなりたいとは思ってます」
本音「なるほど〜!れいれい、かんちゃんと仲良くしてあげてね!」
真月「はい!勿論です!」
取り敢えず思っていた事をそのまま伝えた。今の所一夏達以外で唯一学園内で素の状態で話が出来る相手だからな。出来るなら仲良くしたい。おい簪、だから『誰お前?』って顔するなよ。
本音「あ、そうそうかんちゃん、お嬢様が寂しがってたよ?そろそろ仲直りしてあげたら?」
簪「……それは嫌だ。仲直りしたいならお姉ちゃんが直接言いにくるべき」
本音がその話をした途端に不機嫌になった簪。どうやら簪は姉ちゃんとは仲がよろしくないらしい。
隼「……そのお姉ちゃんとは楯無の事か?」
簪「……?お姉ちゃんを知ってるの?」
隼「俺のルームメイトだった。何と言うか面倒臭そうな女だった」
簪「面倒臭い?お姉ちゃんが?」
隼の言葉に首を傾げる簪。とゆうか隼、お前先輩がルームメイトなのかよ。
隼「ああ、俺が部屋に入った時、裸エプロン姿で……」
簪「何それ詳しく」
楯無「わー、わー!?黒咲君ストップ!?それ以上は駄目だから!?後私裸じゃないわよ!?ちゃんと水着着てたもん!?」
隼が簪の姉ちゃんについて話そうとした途端、簪に似た少女が凄い勢いで話を遮った。
簪「……お姉ちゃん?」
楯無「簪ちゃん!?違う、これは違うのよ!?別に私変態なんかじゃないのよ!?誤解しないでね!?」
ジト目で姉を見つめる簪を見て慌てふためく少女。恐らくコイツが簪の姉なのだろうが、話に聞いていた完璧超人な感じがしない。むしろ残念な感じがする。
楯無「もう!黒咲君のせいで私が変態だって誤解される所だったじゃない!?」
隼「事実を言ったまでだ。後間違いなくお前は変態だ」
楯無「酷い!?お姉さんショック!?……ゴホン!初めまして、私がこの学園の生徒会長更識楯無、学園最強とは私の事よ!」
そう言ってカッコよくポーズを決めた楯無。ポーズはカッコいいが直前の会話で台無しだ。
簪「……へえ、じゃあ織斑先生にも勝てるんだ。凄いねお姉ちゃん」
楯無「うええ!?織斑先生は流石に無理よ簪ちゃん!?」
簪「ふーん、じゃあ『学園最強(笑)』だね!」
楯無「グハァ!?」
もの凄い良い笑顔で辛辣な言葉を投げかけられて崩れ落ちる楯無。もう威厳もなにも無いなコレ。
簪「なんか馬鹿らしくなってきた。零、私先行くね」
楯無「あっ、ちょっと簪ちゃん!?待って!?」
呼び止める楯無の声を無視して簪はさっさと言ってしまった。なんか可哀想になってきたぞコイツ。
楯無「うう……。簪ちゃんにいじめられた……」
黒咲「自業自得だろう。それに会話出来ただけ良いだろ」
楯無「まあそうだけどさぁ……。今まで積み上げてきた姉の威厳というものがあるのよ私には!」
ミザエル「随分と崩れやすい威厳なのだな」
楯無「グハァ!?」
また崩れ落ちた。ミザエル、分かってても言ってやるなよ。
黒咲「それで?俺に何の用だ?」
楯無「貴方が余計な事言おうとしてたから止めに来ただけよ!?まあ無駄だったけど!?」
若干涙目でそう言ってくる楯無。コイツが生徒会長で良いんだろうか?
楯無「まあ、用が無いと言えば嘘になるけど、そろそろ朝のホームルームが始まるし、それは放課後で良いわ。あまり嬉しくない会い方だったけど自己紹介は出来たし。じゃあ私も授業があるからまた放課後ね!」
そう言って走り去っていく楯無。オイ、廊下走んなよ。
学園生活二日目、いきなりキャラが濃い人と顔見知りになってしまった。
次回予告
箒「朝っぱらから濃い人と知り合って疲れてきた零。しかし放課後、彼は彼女の裏の顔を見る事になる」
「簪ちゃんに危害を加えるような事したら……殺すわよ?」
箒「朝とのギャップに困惑する零、彼の日常に恐らく平穏は無い」
次回、インフィニットバリアンズ
ep.17 対暗部用暗部更識家
一夏「ちなみに箒、朝はいなかったけど何してたんだ?」
箒「ああ、グラウンドを軽く百周していた」
一夏「それ軽くねぇよ!?」