side真月
それからの授業は散々なものだった。ミザエルのあの発言のせいで俺達は周りの奴等から睨まれるし、休み時間には他のクラスにまで話が伝わって陰口叩かれた。何故俺までこんな目に遭うんだ。やったのはミザエルだろうが。
そんな地獄のような時間を終え、ようやく放課後になった。一秒でも早く本社に戻ろうとした俺を、山田先生が引き止めた。
真耶「ああ、零君!ちょっと待って下さい!」
真月「はい?何か用ですか山田先生?」
真耶「はい!零君の部屋の鍵を渡そうと思いまして」
真月「あれ?一週間は自宅からの通学じゃ無かったんですか?」
真耶「その筈だったんですが、警護なんかの関係上、今日から寮で暮らす事になったんですよ。連絡が遅れてすいません、色々とバタバタしていたので……」
真月「その、部屋って個室なんですよね?」
真耶「いえ、相部屋です」
真月「勿論男子ですよね?」
真耶「すいません、女子です」
マジかよ、俺に安息の地は無いのか?ただでさえ間抜けの演技を続けてストレス溜まってるのに部屋でも素の自分を出せないとか拷問じゃねえか。
真月「分かりました、ありがとうございます!」
真耶「はい!……あの、試合、頑張って下さいね?」
……うん?なんでこの人に応援されるんだ?
真月「意外です、山田先生が僕達を応援してくれるなんて」
真耶「え?そうですか?」
真月「はい。山田先生も他の生徒達と同じで、僕達の事をあまり快く思っていないと思っていたので」
真耶「あれ?私そんな感じの態度を取ってましたか!?」
真月「いえいえ、そんな事は無いです。ただ今の時代、僕達を嫌ってそうな人は多いですから」
真耶「ああ、女尊男卑の事ですか。私はそういうの気にしてないですよ?私そういうのあまり好きでは無いので」
嘘は言ってない。大分頼りないがこの先生はいざという時信用できそうだ。
真耶「それに、私もオルコットさんの発言には怒ってるんです」
真月「怒ってる?日本への暴言にですか?」
真耶「そこもまあ気分が良いものでは無かったですがそこじゃないんです。私は、M&Wを紙屑とかゴミとか言った事が許せないんです」
真月「え?山田先生ってM&Wやってたんですか?」
真耶「はい、こう見えて私、昔は本気でプロデュエリスト目指してたんですよ?」
胸に手を当ててドヤ顔をする山田先生。普通ドヤ顔は殴りたくなるのだがこの人がやると無理に背伸びしてる子供みたいで笑いそうになる。
そういえばデュエルアカデミアを調べた時に山田という名前の女生徒のデータを見た気がする。デュエルアカデミアが廃止された後、女子生徒はそのままIS学園に入れられたらしいので、元デュエリストの山田先生が此処で教師をしていてもなんらおかしなことは無い。
真耶「残念ながら在学中にM&Wが廃止されてその夢は叶いませんでしたが、また再販されたと聞いてとても嬉しかったんです。嬉しさのあまり貯めていた貯金全部カードに回してしまいました」
そう言って恥ずかしそうに笑う山田先生を見て、俺はまた再販して良かったと思った。
真耶「そんな訳で、教師としての私はどちらかを応援するなんて事は出来ませんが、デュエリストとしての私は皆さんを応援してます。ISについて何か聞きたい事があったら気軽に相談して下さいね!」
真月「はい!ありがとうございます!」
そう言って部屋の鍵を貰い、俺は自室に向かった。
真月「へえ〜、此処が俺の部屋か」
山田先生と別れた後、自室に入った俺は拍子抜けした。
部屋に入った後、天井やベッドの下などを徹底的に調べたが、監視カメラや盗聴機の類は一切見当たらなかった。間抜けの演技のおかげか?
真月「まあ、見つからないならそれが一番だ」
盗聴機の類が無いのは確認したので、Dパッドを使って本社に連絡を取る事にした。
凌牙『……ベクターか?随分早い連絡だな』
真月「部屋に盗聴機も監視カメラも無かったからな。取り除く手間が無い分早くなった」
凌牙『そうか。学園生活はどうだ?』
真月「最悪だよ。初日からトラブル発生さ」
そう言って、俺はナッシュに今日の一件を報告した。
凌牙『……成る程。取り敢えずそのセシリアって奴はぶちのめせ、俺が許可する』
真月「物騒だなオイ」
凌牙『俺達の魂を馬鹿にされたんだ。これくらいでも軽いくらいだぜ。それと、一人目はどうだった?』
真月「ああ、あのクズの事か。どうも何も、昔と全然変わっちゃいねえよ。自分が一番だと思ってる所も、女好きな所もな。今日だってメラグの奴をいやらしい顔して見てたからな。まあメラグは確かに美人だから、仕方ないとは思うが」
凌牙『……バリアンの王として命令する。ソイツは絶対にブチ殺せ。ミザエルにもそう伝えろ』
真月「お、おう。分かった」
恐ろしく冷たい声でそう言ってきたので少しビビった。アイツシスコン過ぎねえか?というか、上の兄・姉は皆こんな感じなのか?
真月「それじゃ、何かあったらまた連絡する」
凌牙『良いか、絶対にブチ殺せよ?絶対だからな?』
そう言ったのを最後に通話は終わった。なんというか、ただ電話しただけなのにどっと疲れた。
???「……長話は終わった?」
真月「うおわぁ!?」
背後から突然聞こえてきた声に驚いて振り返ると、水色の髪で眼鏡をかけた少女がこちらを睨んでいた。
真月「えっと……どちらさん?」
先程までの会話を聞いていたみたいなので猫を被らずに問いかけると、少女はこう答えた。
???「私は一年四組の更識簪、貴方が私のルームメイト?」
真月「あ、ああ。此処がお前の部屋ならそうなるな。えっと、更識、だったっけ?」
簪「簪で良い。名字で呼ばれるのは好きじゃない。それじゃあこっちからも質問する。貴方が織斑秋介?」
そう言って簪は拳を振りかざしながら俺に聞いてきた。
真月「いや、違う。俺は真月零だ。アイツと一緒にすんじゃねえ」
簪「……そう。なら良い」
そう言って簪は振りかざした拳を下ろした。
真月「……オイ。何だ今の拳は?」
簪「貴方が織斑秋介だったら振り下ろされていた拳、ただそれだけ」
真月「返答次第では殴り飛ばしてたのかお前……」
簪「織斑秋介じゃないなら別に良い、気にしないで」
真月「分かった。それで俺はどっちのベッドを使えば良いんだ?」
簪「好きに選んで。残った方で寝る」
真月「そうかい。じゃあ奥の方で」
簪「分かった。……そう言えば、セシリア・オルコットと決闘するらしいね」
真月「何だ、知ってるのか」
簪「一組には知り合いがいるから。これは出来たらで良いんだけど、織斑秋介とセシリア・オルコットは叩きのめしてくれたら嬉しい」
真月「物騒なお願いだなオイ。織斑とは何か因縁が有るのは分かったが、セシリアもなのか?」
簪「M&Wをゴミ呼ばわりする奴は叩きのめされて当然。あとエリートぶった態度が気に入らない」
どうやら簪もデュエリストのようだ。意外に女性のデュエリスト多くないか?
真月「他のクラスの癖にやけに詳しいな。セシリアとは知り合いなのか?」
簪「私は日本の代表候補生、何回か交流した事がある」
真月「ふーん、専用機とか持っているのか?」
そう聞いた途端始めよりも強く睨みつけてきた。どうやら地雷を踏んだらしい。
簪「貴方には関係無い、と言いたい所だけど、調べれば分かる事だから話してあげる」
そう言って簪は専用機について話し始めた。
なんでも、簪の専用機は開発が途中で打ち切られ、再開の目処もたってないらしい。原因は秋介が見つかった事で、アイツの専用機に人員を回す為に中断させられたとの事。
真月「それはまた災難だったな。倉持、だったか?開発途中で放っぽり出すとか企業としてどうなの?」
簪「其処は別に良い。打ち切りの話を聞いた時に所長さんが謝罪してくれたから。それに打ち切りを推し進めたのは織斑千冬とその取り巻きだし」
真月「あの女本当碌な事しねぇな。で?専用機開発は打ち切りにされたんだろ?どうすんの?」
簪「倉持から機体は預かってるから、自分で作る」
真月「自分で作るって、プラモデルじゃねえんだぞ?」
簪「大丈夫。お姉ちゃんも一人で専用機開発したんだから、私だってやってみせる」
マジかよ、お姉ちゃん凄えな。
真月「お前の姉ちゃんも専用機持ちなのか。お前と同じ日本代表候補生なのか?」
簪「違う。お姉ちゃんはロシアの国家代表」
真月「……お前の姉ちゃんとお前って結構歳離れてるのか?」
簪「お姉ちゃんは私の一つ上」
凄いな、高校二年生の国家代表か。でも何でロシアなんだ?
簪「何でロシアなのか気になってるかもしれないけれど、私は良く知らないから本人から直接聞いて。この学園で生徒会長をしてるから」
心読まれた。そんなに分かりやすく顔に出ていただろうか?
真月「そうか。兎に角お前の姉ちゃんが凄いのは分かった。話は戻るが専用機の組み立てって大変だろ。やっぱ何人かのチームでやってんのか?」
簪「私一人」
真月「は?」
簪「私一人。機体の設計自体は完成してるから、後は武装の組み立てとプログラミングをやるだけ」
真月「いやそれ『だけ』で済むもんじゃねえだろ!?それ大丈夫なのか!?」
簪「大丈夫。さっきも言ったけど、お姉ちゃんはそれを成し遂げてる」
真月「いやそれ化け物だろ!?凄いなお前の姉ちゃん!?」
簪「うん、凄い。だから私も一人でやらなきゃいけないの。お姉ちゃんを越える為にも」
なんとなく、簪の姉が凄い奴と言う事は分かった。それと、簪がそれに劣等感を抱いている事も。
真月「まあお前がそれで良いなら良いんだけどよ。一応ルームメイトになったんだ。何か手伝える事が有ったら言ってくれよ?」
簪「分かった。手伝いは要らないけど覚えとく」
要らないのかよ。
真月「そんじゃ、俺はもう寝るが、電気消して良いか?」
簪「良いよ。まあ私は作業するからまだ寝ないけど」
真月「目ぇ悪くするぞ?」
簪「悪いから眼鏡をかけてるの」
そう言って簪はパソコンをカタカタと弄り始めた。
真月「あっそ。んじゃ、おやすみ」
簪「おやすみ」
改めて思い返すと、俺はこの一日で凄い濃い体験をしたと思う。金髪ドリルとの決闘騒ぎに巻き込まれ、なんか変わった少女がルームメイトになった。
だが、なんとか一日を終える事が出来た。願わくば、明日はもう少し平和な一日になって欲しい。
こうして、俺の学園生活初日はドタバタとしながらも無事に幕を閉じた。
番外編〜他の男子達の部屋事情〜
織斑秋介の場合
秋介「ふふ、此処が僕の部屋か。他の男子達が女子達と共同生活を強いられる中こんな良い部屋を一人で使えるなんて……やはり僕は選ばれた存在だね!」
天城一夏の場合
箒「ふむ。まさかお前がルームメイトとはな。久しぶりだな一夏、元気そうでなによりだ」
一夏「箒こそ、昔と変わらないようでなによりだ」
箒「しかし、以前と比べて随分筋肉がついて逞しくなったな一夏。『男子三日会わずんば刮目して見よ』とはよく言ったものだ」
一夏「三日どころじゃないけどな」
海馬ミザエルの場合
本音「あ〜ミザやんだ〜!」
ミザエル「……本音、だったか?そのミザやんとは私の事か?」
本音「うん!ミザエルだからミザやん!」
ミザエル「……そうか、それが呼びやすいなら別にそれでも構わない」
黒咲隼の場合
???「おかえりなさーい!ご飯にする?お風呂にする?それとも〜ワ・タ・シ?」
隼「………………」
???「ちょっと!こんな美少女が出迎えてあげたのよ!?照れるなり慌てるなりなんかリアクション取ってよ!?私が恥ずかしくなるじゃない!?あれ!?もしかしてそのまま寝ようとしてる!?待って待って!?無視しないで〜〜!?」
次回予告
一夏「面倒事に巻き込まれながらも、なんとか一日を乗り越えることができた零。しかし平穏はまだ遥か遠くにあった」
「生徒会長更識楯無、学園最強とは私の事よ!」
一夏「面倒な人に絡まれた零、彼の胃はそろそろ痛み始めてきた」
次回、インフィニットバリアンズ
ep.16 学園最強(笑)
一夏「ハルト恋しいよハルトオオォォォォォォ!!」
ハルト「入学初日から叫び出す兄さんはマジで嫌いだ……」