東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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レミリアの現代入り回です。
東方キャラほとんど出番なし&オリキャラ複数出てきます。


50話 吸血鬼の古戦場(中)

 

 

 

「――はい? レミリア・スカーレットを幻想郷の外へ?」

 

 

 

 師匠の家のリビングで洗濯物を畳んでいると、窓から入ってきたヴラド公が出会い頭に私に相談してきた。師匠は朝から博麗神社に赴いており、現在は私が留守を任されている。

 ヴラド公はソファーに深く腰掛け、足を組ながら尊大な口調で宣う。

 

「明後日に街で闇マがあってな、是非ともレミリアを参加させたいのだ。何、数日の間だ。別に構わんだろう?」

 

 と心底嬉しそうに語るヴラド公であったが、私は苦い顔をする事しかできなかった。

 レミリア・スカーレットを始めとする紅魔館の住人――いや、幻想郷の住人は現世から忘れられた存在だ。この幻想郷に足を踏み入れている時点で、外の世界に戻ることは許されなくなっている。そんなことをしたら存在そのものが消えてしまうだろう。

 虚ろなる支配者の地(ホロウ・ドミニオン)がギリギリのラインだろうが、それでも存在が希薄なレミリアを送るには……。

 

 私の表情で難しいことが理解できたのだろう。

 こんなところで発揮しなくても良さそうなカリスマを漂わせたヴラド公は、懐から封筒を取り出しながら薄く笑う。

 

「貴様ならばレミリアを外に出すための小細工など容易かろう? それ相応の対価は支払うぞ?」

 

「……大変申し訳ございませんが、レミリア・スカーレットを幻想郷の外へと誘うには時間と術式が必要なんです。それを明後日までに用意するとなど不可能ですわ」

 

 不休不眠なら何とか……いや、それでも藍や師匠にも頼まないと時間が足りない。

 彼が『闇マ』を楽しみにしていることは悟り妖怪でなくても分かることだが、今回ばかりは遅すぎた。私は嘆息しながら洗濯物を畳む続きを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに紫苑の水着姿の写真があるじゃろ?」

 

「死力を尽くしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「ここが――おじいさまの住んでいた街」

 

 幻想郷の博麗神社から現代入り――いや、現実と幻想の境目たる地に降り立った私は、目の前に広がる光景に目を奪われた。とは言ってもホテルのロビーに降り立った訳だから、その内装に驚いているわけだが。

 ギリシャ風と夜刀神の家のテレビで見た現代風を混ぜ合わせたような画期的なデザインの内装。紅魔館にも引けをとらない豪華な雰囲気に呑まれている私を他所に、おじいさまは堂々とした足取りで受付まで歩く。それに慌てて着いて行く。

 

 受付の人物はギリシャ彫刻の像に肉体を与えたかのような男。ふさふさの顎髭が特徴的で、盛り上がった筋肉の上に燕尾服を着ているものだから思わず笑いそうになる。

 そのような私の心境など露知らず、おじいさまは口元に笑みを浮かべながら声をかけた。

 

「久方ぶりだな――ポセイドンよ」

 

「先日ご予約のヴラド様ですね、1007号室の鍵をどうぞ。――久方とは言っても、我らにとっては刹那の時間だろう? 紫苑の餓鬼から聞いたときは驚いたが、ワラキアの小僧も元気そうじゃねぇか」

 

 前半は咲夜も顔負けの流暢な対応で、後半は目を見張るほど親しく話しかけた大男。おじいさまを『小僧』呼ばわりすることに怒りすら感じず、むしろ名前だけで嫌な予感(・・・・)がする。

 私の混乱など知ったことかと、二人は親しげに言葉を交わしていた。

 

「ふん、貴様も相変わらずと言ったところか。儂を小僧呼ばわりなどと……ケルトや北欧の連中に言われるよりは幾分かマシだが」

 

「あの連中はプライドだけは高いからなぁ。我等ギリシャ勢よりフランクにやるにゃあ些か経歴が引っ張ってんだろうよ。もちっとお前さんぐらいに柔らかくなりゃいいのにさ」

 

「柔らかくなってなどいないわ。儂等吸血鬼は己が心理を見つけただけのこと。1007号室と言ったが、奴は来ているのか?」

 

「おう、先に1006号室で待機してるぜ。まさか同胞に自分の復活を隠してるなんてな……サプライズみたいなもんか? どちらにせよお前さんの同人誌、楽しみにしてるわ」

 

「刮目せよ――あぁ、そうだった」

 

 急に後ろで唖然としていた私を両手で抱えたおじいさまは、大男に私を紹介した。

 大男は「ほぅ?」と興味深そうに顔色を変える。

 

「儂の孫娘のレミリア・スカーレットだ。マジ天使じゃろ?」

 

「天使じゃなくて吸血鬼だろ……? 可愛らしい嬢ちゃんに違いはねぇけど」

 

「え、あの」

 

 目の前の大男は豪快に笑った後、私に向かって親指を突き立てながらウィンクする。

 

 

 

 

 

「始めましてだな、レミリア嬢ちゃん。我はポセイドン。ギリシャの海洋全域の守護神にして泉の守護神、あのゼウスの兄貴だ。エノシガイオスって名前もあるけど、ポセイドンって名前の方が知名度高いらしいぜ?」

 

 

 

 

 

 本物だったー!?

 おじいさまの対応から薄々感づいていたけど、とんでもない大物に最初から出くわしてしまった。神仏妖魔の街とおじいさまは言っていたけれど、まさかオリュンポス十二神の一柱と出くわすなんて思いにもよらなかった。

 これが『現世から忘れ去られていない神秘』……つまり現世でも色褪せることなく語り継がれた神秘が、この街に集っているということだったのか。

 

 しかし新たな疑問が発生する。

 私が尋ねるのを躊躇っていると、相手がそれを察してくれたらしく顎髭を撫でながら豪快に笑う。

 

「『どうして海の神がホテルの経営なんぞやってる?』って面だな。いいぜいいぜ、誰だって我の姿を見れば自然と疑問に思うってもんさ。経緯を話すにはちと長くなるから割愛するが、簡単に言うとだな――」

 

 海の神は遠くを見る。

 そこに何が写っているのか、私には到底分からない。

 

 

 

 

 

「――これが我の天職だったってコトだ」

 

 

 

 

 

 マジで分からない。

 

「少なくともギリシャの連中は神話(これまで)に囚われることなく好き勝手に生きてる。それこそ我が街一の高級ホテルを経営してたり、ハデスの兄貴がバーガー屋の店長してたりな。ゼウスなんざ女の尻追いかけるの止めて二次元に没頭してるし」

 

 もはや言葉にすら出来ない。私が今どのような顔をしているのか、カリスマのある表情をしていないのは確かだろう。

 慣れているおじいさまは「奴等も相変わらずじゃのぅ……」と呟いている。

 

「じ、自由なのね……」

 

「おうよ、神話の流れに囚われるなんて我々(かみがみ)らしくねぇ! 自由! まったく素晴らしいじゃねぇか!」

 

 と声高々に叫んだ後、声を潜めるポセイドン。

 

「……アテナの奴は自由過ぎるがよ」

 

「……あれは、まぁ、何考えてるのか分からん奴じゃからの」

 

 この自由な神を以てして「ヤバい」と言わしめるアテナは何をやらかしたのか知りたくもなったが、二人とも詳しくは教えてくれなかった。その様子を見て、私も怖くなり追求を止めることにした。

 夜刀神曰く、街の連中は皆等しく狂っていると聞いたし、関わるのは考えものだと心の中で思う。

 

 ポセイドンとも別れ、私とおじいさまは鍵に書かれた番号の部屋に向かうために『えれべーたー』と呼ばれる乗り物に乗る。

 奇妙な浮遊感に驚いたり、私の反応におじいさまがニコニコ微笑んでいたりと、ちょっとしたことが私にとって新鮮な体験となる。いつかフランにも味合わせたい。

 

 1007と書かれた部屋に入ろうとするが、それを祖父に止められる。

 彼の視線は隣の部屋にあった。

 

「まずは奴に一声かけてやろう」

 

「奴……?」

 

「儂等の護衛兼売り子と言ったところか。この時期になると他サークルに取られて、売り子の確保が難しくなるものだが、今回は紫苑が手配してくれたのだ」

 

 おじいさまの趣味に夜刀神は頑張り過ぎじゃなかろうか。原稿の手伝いに印刷の手配、術式製作に加えて人員確保。その仕事ぶりはどこか洗練されたものだったから、前々からおじいさまの趣味(こういうこと)に駆り出されてたのかもしれない。

 夜刀神の働きに祖父の代わりに感謝している私を他所に、おじいさまは1006号室の扉をノックして返事を待たずに開ける。

 これが相手が女性だったらマズいんじゃ? おじいさまなら気配だけで性別を察知できそうだが。

 

 ずかずかと中に入っていく祖父についていくと、ベッドの上に腰掛けて武器の手入れをしている茶髪の青年の姿があった。青年は琥珀の目を丸くしてこちらを見上げている。……身長的に私と視点は同じだけど。

 ひょろっとした身体をしているが、夜刀神のように一般人に見えるわけでなく、どちらかと言えば九頭竜に近い印象を受ける。つまり――どこか油断ならない雰囲気を醸し出しているのだ。九頭竜や魂魄妖夢の同類で、何らかの『武』に精通しているのだろう。

 そして、その答えは彼が白い布で磨いている(げき)が物語っている。

 

 戟は、古くから中国に存在する武器で()(ぼう)の機能を備えたもので、素人が扱うには癖のある武器でもある。それを私でも分かるくらい使い込まれているので、彼が相当の手練れであることは想像に難くない。

 彼の戟は長戟にしては3メートル弱と短め。

 ただ、私の知っている刃の色――銀色の鋼ではなく、深紅と黒の刃が好奇心を刺激する。血の色に似ているからか、私も槍を使うからなのか。

 

「ヴ、ヴラド公ッスか!? 久しぶりッス!」

 

「相も変わらず棒を振り回しているのか、槍使いよ。確かに貴様は儂の売り子を前にもしたことがあったか」

 

「槍じゃなくて戟ッスよ!? いや~、隊長殿の頼みとあっては断れなかったッス。あの人には一生懸けても返せない恩があるッスから。……ところで後ろのお子さんは誰ッスか?」

 

 テンションが新聞記者の天狗に似ている青年は、物珍しげに戟を見ていた私に気づいたらしい。戟を立てながらニコニコ笑う。

 

「私はレミリア・スカーレット。ヴラドおじいさまの孫よ」

 

「あー、ヴラド公の身内ッスか。俺は独立治安維持部隊第一部隊(ファースト)先鋒所属の山田太郎ッス。この戟の刃は緋緋色金(ヒヒイロカネ)製だから紅いッスよ」

 

 山田は自己紹介をした後、自分が知りたかったことを教えてくれた。さらっと神話上の貴金属が出てきたから、それなりの地位の者なのかと疑ったが、聞いてみると「ただの妖怪崩れッスよ~」と否定された。

 戟を壁に立て掛けながら、親しげに説明してくれる。

 

「ぶっちゃけ第一部隊って命懸けの仕事だから給料高いんッス。だから貯金で背伸びしたというか……まぁ、他に金の使い道がなかったッスからね」

 

「そ、そうなの……あなた何の妖怪?」

 

「鴉天狗ッス!」

 

 あぁ、だからバ鴉と同じ雰囲気なのか。もしかして鴉天狗という種族は皆、こんな独特なテンションなのか?

 射名丸文や山田のような鴉天狗が沢山いるところを想像して眉を潜めてしまうが、ふとあることに気づいて山田に尋ねる。

 

「あら? でも翼が」

 

 

 

「もがれたッス」

 

 

 

 さらっと重いことを暴露された。

 

「はははっ、そんな顔しないで欲しいッス。紫苑隊長の引き入れた第一部隊の大半は訳ありの連中の寄せ集めッスから、俺は全然気にしてないッスよ。翼のない天狗の面汚しに第一部隊以外の居場所なんてないッス」

 

「一族から忌避される者、戦闘以外に特化している者や混血を引き入れ精鋭に育て上げた部隊。それが紫苑が率いていた第一部隊だ。同じような境遇の寄せ集め故、団結は固いし紫苑への忠誠も高い」

 

 一部の奴等なんて狂信の領域ッスよ?と笑い飛ばす山田の話を聞きながら、夜刀神は幻想郷のどの住人とでも親しげだったことを思い出す。フランのことを怖がらずに接してくれたことへの背景には、彼が率いていたという第一部隊も関係していたのではと推測する。

 おじいさまの補足も、彼の『紫苑隊長』と幻想入りした今でも慕っているのだから間違いではないだろう。

 

 吸血鬼の王は戟使いと情報を交わし、王は労いの言葉をかける。

 それに山田太郎は敬礼して意を示した。

 

「このような忙しい時期に、よくぞ儂の元に馳せ参じた。明日の活躍期待しているぞ」

 

「全身全霊、頑張るッス!」

 

 王と家臣のような神々しい光景。

 まさか漫画売る契約の話とは誰も思えないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイリス隊長にも声かけようと思ったんスけどね~」

 

「それ洒落にならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイリスって誰だろうか。

 

 

 

 




紫苑「一か月ぶりかな? お久しぶりでーす」
霊夢「リアル忙しくて更新できず申し訳ございませんでしたm(__)m これからは少しずつ更新していく予定」
紫苑「さて、話は変わるがうちの部隊の余談」
霊夢「あんまり触れてないわよね、それ」
紫苑「これから閑話なんかで増やす予定なんだが……実はアテナはうちの部隊に入ってたりする」
霊夢「ゑ?」
紫苑「どんな形で登場するのやら( ̄▽ ̄)」

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