さて、幻想郷に住まう魑魅魍魎の諸君。
光の世界から背を向け、かつての栄光を輝かせていた人妖諸君。今まで疑問に思っていたであろう事柄に答えてあげようじゃないか。
ずばりコレ。
『なぜ僕が幻想郷に来たのか?』
……咲ちゃん、そう「誰も聞いてねーよ」って態度をあからさまにされると悲しくなるんだけど。僕一応悟り妖怪だからね? 分かってるからね?
あーもう。心配してくれるのはみょんだけじゃないか!
なんて優しい娘! 全僕が泣いた。
僕は君達に『特に理由がない』と言ったよね?
あながち間違いじゃないのさ。この言葉は。
わざわざ理由をつけてまで動くことに何の意味があるのだろうか――とまでは思わないけど、本当に何の脈略もなく僕達は動くことが多い。咲ちゃんの言ってた『紅霧異変』や『春雪異変』を
話を戻そう。
僕が幻想郷に来たのは何となく行ってみたかったからって思いもあったけど、他にも理由がある。
……うん、ゆかりんの言う通り。僕や――ここにいない壊神が幻想郷まで足を運んだのは『夜刀神紫苑』という欠陥品のため。
なぜなのか? どうしてなのか?
答えは簡単だ。さっき言ったじゃないか。咲ちゃんに細切れにされかけたけど。
僕が幻想郷に来た理由。
それは。
夜刀神紫苑を殺すためだよ。
♦♦♦
先程の説明で貴様等も理解したであろう?
夜刀神紫苑という欠陥品に『恐怖心』という感情がないことを。
それでも魑魅魍魎蔓延る虚ろなる支配者の地を生き延びていた要因は『特異な能力』と『恐ろしいまでの戦術眼』だ。それなくして欠陥品が生き残れるはずもない。
街に住む人ならざる者達の大半は『神秘が各地に残っている』ゆえ、伝承が未だに顕在していることが多い。もちろん伝承には我々の致命的な弱点も残っている。奴はそのような『弱点』『欠点』とも呼べる部分を的確に突いて来る。なくても奴は
本当に化物みたいな男だ。
戦術眼と奴が持つ〔十の化身を操る程度の能力〕の相乗効果は洒落にならん。
ほう、そこの白黒は奴の能力を垣間見たか。
だが貴様は奴の能力を真に理解しておらぬと見える。
でなければ儂の『九頭竜未来の目的は夜刀神紫苑を殺すこと』という言葉に全力で反論せぬだろう。
……待てい、巫女。そこに座っとれ。
全く、大した力もなかろうに、好戦的な小娘だな。
奴の能力の本質。
幻想郷の賢者が紫苑の能力を〔全ての障害を打ち破る程度の能力〕と言った訳。
あの男の能力は
本当に厄介にも程がある。
奴の第十の化身『戦士』の黄金の剣。
あれは能力の無効化が付与された剣だが、紫苑の能力の本質に上乗せされて大抵の能力を無力化することができる。儂の〔創造する程度の能力〕や未来の〔全てを切り裂く程度の能力〕ですら例外ではない。
街の妖怪や神仏の持つ能力は絶対的なもの、概念に干渉するもの、次元を超えるもの――例を挙げるのならばキリがないが、紫苑はそれらを全て無効化する。暗闇の能力ですら一部とはいえ無効化したのだから、驚きを通り越して呆れるわ。
本当に人間にしておくのは惜しいほどの特異能力。
――しかし、貴様等は理解しているか?
あの男は自分が所有する神力以上の力を発揮する。
それを何の代償もなしに使えるはずがなかろう?
♦♦♦
あんなチート能力を代償も支払わずに使えるほど、世界は優しくもないし甘くもないよ。そうであって欲しいと願うのは個人の自由だけどね。
何かを得るには何かを犠牲にしなければならない。等価交換の法則だよ。
錬金術の基本だ。どっかのヴラドは過程をすっ飛ばすけど、それでも自分の妖力って代償を支払ってる。
そもそも人間って種族は貧弱だ。
霊っちや魔理りんみたいな例外はあるとみんなは思うかもしれないけど、それでも僕等にとっては一般人の域を出ないのさ。普通普通、平凡も平凡、街のキチガイ連中に比べれば軽いぜ~。
人間の想像やら進行が生み出した産物だろうと、どんだけ足掻こうが大妖怪や神様に敵うはずがないんだ。よほどの
だって考えても見なよ。
君達、全力出した神仏に素手で勝てると思うかい?
……いや、ゆかりん。霊っちなら勝てるって言われても。
博麗の巫女がどんな手札があるのか正確な情報を僕は持ってない。もしかして博麗霊夢が僕の想像をも超えるような切り札があるのかもしれない。紫苑だって涼しい顔で洒落にならないことを幾度となくやらかしてきた過去があるし。
今の外の世界は君たちが考えている以上に狂気じみてるのはゆかりんが一番知ってるでしょ。
じゃなきゃ君が紫苑のことを『師匠』とは呼ばない。
博麗霊夢が〔空を飛ぶ程度の能力〕が、あらゆるものに縛られないという概念的なものだとしても。
あらゆる攻撃から干渉されない意味での
紫苑が能力を無力化しよう。
僕が概念ごと切裂いてあげよう。
ヴラドが概念を喰らう生物を生み出そう。
壊神が概念ごとぶっ壊してあげよう。
詐欺師が彼女を根本的に欺こう。
要塞が彼女との根競べをしよう。
土御門の姐さんが彼女を引きずり出そう。
つまりは、そういうことさ。
神秘はより強い神秘に打ち消される。対抗手段なんていくらでもある。
たかが十数年しか生きてない少女の能力だ。天性の才能でカバーしようとも、平和ボケした彼女が勝てるとは思わないね。
……と、人間を批判してみたんだけども。
じゃあ、紫苑の能力は何なのかって話。
再度言うけど紫苑が限界を超えてまで能力を使うときに代償を支払ってる。
ゆかりんは知ってるよね? 知らなきゃおかしい。
何を犠牲にしてるのか。
もちろん――
――寿命さ。
♦♦♦
ここで奴が『恐怖心を持っていない』という問題と合わさって大変な事態が起こる。
当たり前だろうよ。恐怖心を持たないということは、死への恐怖がないことと繋がる。
端的に言うのならば。
紫苑は自分の寿命を犠牲にして能力を使うことに何の迷いもない。
あの男には生への執着が感じられん。
かと言って死にたがりというわけでもない。矛盾しておるだろう? 欠陥品なのだから矛盾してないほうがおかしいのだが。
幻想郷の住人相手ならば能力を過剰に使わずとも大抵のことは切り抜けよう。能力以外にも、紫苑には手札があるからの。幻想郷の賢者もやってくれたものだ。ナイスプレイじゃ。
街にこれ以上住んでいたのなら紫苑は数年とたたずに死んでいたであろうからのぅ。
誰に負けるでもなく。寿命という概念にな。
ん? どうした人形遣い。
奴がどれ程あと生きられるのか?
未来曰く。
5年も持たんじゃろう。
ふ、フランたん……!
だ、大丈夫じゃ! フランたんの婿候補を簡単に死なずわけがなかろう!
儂等だって奴を死なせるつもりはない。
あの男は存在するだけで愉快な生物だからのぅ。
吸血鬼は排他的な種族。
レミたんのように人間や他種族を傍に置いておくこと自体が非常に珍しいのだ。無論、昔の儂ならまだしも、今の儂にはレミたんに傍仕えの者に口を挟むつもりはないぞ。儂の孫娘が選んだのだ。尊重するのがカッコイイおじいちゃんというものだろう?
街に住まう吸血鬼は30000を超える。人間を食料と見る者もいれば、見下し蔑む者もいる。
儂もその一人だった。
だがな、幻想郷の少女達よ。
紫苑は数年間だけで儂等吸血鬼の信頼を得た稀有な男なのだ。
モーゼル――人間に偏見を持つ儂の臣下ですら、夜刀神紫苑という人間を認めたのだからな。つか自分の娘を嫁がせたいと進言してきたときには、吸血鬼の間で大混乱が起きたぐらいだ。あれビックリしたわ。
それほどまでに愉快な男。
早死にさせるのは惜しい。
……ふむ、ならどうするかと?
あの男を人間以外にすればよい。
♦♦♦
僕等……重奏メンバーは昔から計画していた。
深く考える必要はない。人間には耐えられない能力なら、人間以外……それこそ吸血鬼でも妖怪でも神様でも何でもいい。〔あらゆる障害を打ち破る程度の能力〕の神力消費に耐えられる種族になればいいだけの話さ。
そんなことできるのかって?
壊神がいい例だよ。
あれは元々人間だったけど、紆余曲折あって不老不死になった。ヴラドも吸血鬼にするなら寧ろウェルカムって言ってたしね。
ただ一つだけ問題があってね……。
紫苑がそれを良しとしないんだ。
なんでか分からないんだけど、紫苑は人間であることを辞めようとしないんだ。
うーん……違うな。
それを賭けに僕達は何度も殺し合ったけど、紫苑も全力で挑むもんだから、いたずらに寿命を減らすだけの結果になっちゃった。紫苑は重奏メンバーの手札を十分に理解してるから、黄金の剣の前だと意図も簡単に切り裂かれちゃう。僕達も対抗して本気を出そうものなら、街が崩壊しちゃう可能性さえあるしねぇ。
そうそう、話は変わるんだけどさ。
幽々っちから聞いたよ。みょんは僕に弟子入りしたいんだって?
ぶっちゃけ面倒だし他人に教えるのは苦手だから無理……って本当は言うつもりだったんだけど、条件付きならいいよ。みょんを弟子にしてあげる。
条件は話の最初に遡る。紫苑を殺せる程の力をつけて欲しいてこと。
咲ちゃん。待つんだ。待って。待って下さい。
そのナイフを僕は美味しく食べられる種族じゃないんだ。口に突っ込まないで。
言葉の綾だよ。別に紫苑を殺せっていうわけじゃない。
街での癖って言うのかな? 『死ね』だの『殺す』だの呼吸するように吐くからさ、過剰反応されることに慣れてないんだよね。ちょっとしたジョーク感覚なんだけど。
僕は思うわけですよ。あれを『殺してやる!』って気概じゃないと倒せないって。『やっちゃったぜ♪』感覚で倒せるのは暗闇だけで十分だ。
できないって?
諦めんなよっっっっ!!
熱くなれよっっっっ!!
ってのは冗談だとして。
大丈夫、みょんには紫苑に勝てる可能性がある。
♦♦♦
うむ、約束しよう。
博麗の巫女よ。紫苑に『弟子にしてくれ』と頼んだところで断られるのが関の山。
だから儂が口添えしてやる。
貴様なら儂等より勝つ見込みがあるだろう。
夜刀神紫苑の黄金の剣は相手の能力を
……まさか人間に儂等の計画を託す日が来るとは思わなかった。
あれほど蔑んできた下等生物に、な。
カカカッ、だからこそ面白いというもの。
自信がないか?
ふん、貧弱者が……と言いたいところだが無理もない。
切裂き魔から聞いたが、貴様等は西行妖という妖怪相手に殺し合う紫苑を見たのだろう? それが本気というわけでもないということも。
付け加えるならば、あれは勝利の軍神。
精神干渉は厄介じゃ。
確かに紫苑と真正面から戦えば、幻想郷の住人で勝てるものはいないだろうよ。
あれも真正面から真っ向勝負なんて柄ではない故。
誇り高き吸血鬼が小細工を弄するなど屈辱の極み。
だが……贅沢は言ってられぬ。
他の小娘等よ、貴様等にも協力してもらうぞ。
共に外道へ堕ちようではないか。
未来「というわけで本作のラスボスから一言どうぞ」
紫苑「マジかよ」
未来「だから作者の大好きな『主人公俺TUEEEEEEEEEE』ができないんだよね」
紫苑「それが原因でリメイクしたからな」
未来「あんまり強すぎると霊っちとみょんが困る」
紫苑「――まぁ、弱体化以外にも俺の設定が増えたけどな( ̄ー ̄)ニヤリ」
未来「ゑ?」