東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】   作:十六夜やと

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帝王と主人公の過去編です。
ここに出てくる新しい名前などは覚えなくても問題はありません("´∀`)bグッ!


閑話 出会い

午後0時を過ぎた辺りか。

 

妖力を始めとする力が混じる空間の中。

近代的な摩天楼が聳え立ち、爆発音と怒号が混じり合う世界で、明かりが僅かばかりしか届かない街の片隅。

人気のない道路の道端に、三つの人影があった。

 

日本の旧式軍服を着た蒼髪の青年に、金髪の青年と朱髪の老人が頭を垂れている不思議な光景。

言葉で表すと異様な光景ではあるが、それを間近で見たものならば納得するだろう。威圧を常時放ち、立っているだけで他者を種族問わず屈服させる絶対的カリスマを纏う蒼髪の青年。

王者たる貫禄を金揃えた男は、頭を垂れる二人を見下ろす。

 

「申し上げます、王よ。犯人とおぼしき者達の巣を特定しました。すでに我の配下が周囲を包囲しております」

 

「――ご苦労」

 

老人の報告を一言で答える青年。

年上にかける態度ではないのは確かだが、それすらも当然と思わせる風格の前では蛇足な感想だろう。

この三人の中では青年が長寿なのだから。

 

朱色の老人は顔を上げようとするが、青年の琥珀色の瞳を直視して再び敬服して頭を下げた。

金髪の青年が発言の権利を求める。

 

「よろしいでしょうか、ヴラド公」

 

「許す」

 

「この街の守護者なる者達――街を統括する組織、独立治安維持部隊に協力を仰ぐ……というのはどうでしょう?」

 

「ほぅ、儂等では力不足だと?」

 

蒼髪の青年の放つ怒気に、失言だと悟った金髪の青年は早口で理由を説明した。

 

「忌まわしき犯行者は我等が同胞を殺害しました。相手は並大抵の妖怪ではありません。確固たる復讐のためにも。独立治安維持部隊と連携して効率的な――」

 

「誇り高き吸血鬼たる儂等の問題であるのに、雑種の集まりである独立治安維持部隊と連携だと? ゼクス、至高の種族たる儂等の名を貶める諫言は慎め」

 

「……はい」

 

蒼髪の青年は二人に背を向ける。

彼は夜空を見上げるが、曇っているため月が隠れており、ネオンの僅な明かりのみが三人を照らす。

その様子に満足し、蒼髪の青年は笑った。

 

「だが同胞にわざわざ被害を出すのも考えものだな。よろしい、ならば儂自らが戦地に赴こうではないか。それで貴様の憂いも消えるであろう?」

 

「王が直々に……?」

 

朱色の老人が破顔する。

その表情に己が崇める王が危険に飛び込む心配もなく、むしろ王の出陣に歓喜するような様子だった。それは金髪の青年も同じで、『王に危険が及ぶ』等という感情は一切なかった。

 

当然だろう。

彼等の崇め奉る王は最強なのだから――

 

「モーゼル、吸血鬼の威光を示さぬのは王の名折れ。現場へ案内するがいい」

 

「御意」

 

名を呼ばれた老人は頭を垂れながら王の発言を了承し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「案内してくれんの? そりゃ有難い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊張感のない声が人気のない道に響き渡った。

朱色の老人と金髪の青年は振り返る。

 

そこには黒いコートを身に纏う少年と少女が佇んでいた。

眠たげに欠伸をする黒髪の少年からは不思議なことに神力が感じられ、しかしながら戦闘慣れしているような雰囲気はなかった。両サイドのポケットに両手をつっこみながら堂々とした足取りで、先程社交的な声を出したのはこの男だろうと推測できる。

もう一方は街には不釣り合いの可憐な金髪の美少女だった。腰まである大きな三編みと、特徴的であるアホ毛を揺らし、少年の隣を追いかけるように歩いてくる。守ってあげたくなるようなボーッとした仏頂面の少女だが、それ以上に両手で運んでいる剣――彼女の身長の倍はある大きな剣に目を向けるはず。

 

そんな個性的な二人の出現に、二人の配下はそれぞれ王と少年少女の間に立ちはだかる。

少年はその反応を見て立ち止まり、少女も同じく立ち止まった。

 

「貴様っ、名を名乗れ!」

 

「夜刀神紫苑でーす。以後お見知りおきをっと」

 

「……アイリス・ワルフラーン」

 

老人の乱暴な問いに少年は微笑みながら、少女は安定の仏頂面で名乗る。

朱色の老人は王の御前であるのにふざける二人に腹を立てたが、金髪の青年は考え込むように二人の名を復唱する。

 

肝心の王はというと、路傍の石を見るように、珍妙な二人を横目で見る。

 

「その礼装、見たことがあるぞ。貴様は魔術師か?」

 

「いやいや、元魔術師ね。俺に魔道を極めるほどのセンスは持ち合わせていない。まあ、とりあえず正装として利用させてもらってるけど、俺は普通の人間さ」

 

「ふん、ただの猿か」

 

「人間=猿の図式を持ってる吸血鬼さすがだな。他種族をとことん見下すって噂は本当だったのか」

 

罵倒されたことに反論することもなく、黒髪の少年は苦笑いを浮かべながら大人の対応で返した。

しかし少女は違った。

 

「………」

 

「おいおい、剣構えて前に出るな」

 

「あの吸血鬼が隊長を侮辱したから」

 

「だからって喧嘩売るのは早計だろ。吸血鬼ってのは他人を見下さないと生きていけない可哀想な種族なんだから我慢しなくちゃダメだぞ」

 

「そっか」

 

少女の実力行使を止めながらも挑発する少年に、老人が首筋まで真っ赤にさせて激昂しようとするが、金髪の青年は思い出したように王へ向き直り報告した。

 

「王よ、彼等は独立治安維持部隊の精鋭です」

 

「話せ」

 

「夜刀神紫苑という名には聞き覚えがあります。独立治安維持部隊の特攻部隊……通称【使い捨て部隊】の部隊長にて、ここ数年間で一人の死者を出すことなく任務を遂行する人間。この街に存在する『絶対に敵対してはならない化け物』に名を連ねる男です」

 

「……ふむ」

 

「そこまで警戒されるようなことしてないんだけどなぁ」

 

金髪の青年の言葉に興味を持ったように少年を見定める蒼髪の青年に、黒髪の少年は肩をすくめて溜め息をつく。逆に少女は身長にそぐわない豊満な胸を張って誇らしげに仏頂面をする。

 

信じがたいが目の前にいる少年は化け物の一人。

朱色の老人は警戒体制をとる。

 

「こちらとしては犯人の情報持ってるそっちと情報交換、連携して犯人を撃破……ってのが理想なんだけど」

 

「我等に力を借りなければならないほど、この街の治安維持部隊は人材不足なのかね?」

 

皮肉混じりに老人は笑ったが、少年は苦笑いを浮かべるだけだった。

 

「面倒事は早めに片付けたいし。利用できるものは利用して楽したいじゃん? こっちは定時に帰りたいのに急遽呼び出しくらったんだ。寝たい」

 

「歴史のない誇りすら持たぬ雑種らしい考えだな」

 

「誇りで飯が食えるか」

 

相容れない考えに蒼髪の青年が少年を睨む。

ついでに少年の『誇りで飯が食えるか』の部分に激しく同意して首を縦に振る少女。

 

しかし、王は突如現れた二人(イレギュラー)に対応している場合ではないことをに気付く。同胞を殺した憎き仇を八つ裂きにする使命を思い出した。

蒼髪の青年は配下二人の前に立つと、双方に命じる。

 

「モーゼル、ゼクス。先に行くが良い」

 

「で、ですが――」

 

「ふん、この猿を疾くと始末した後、そちらに参る。それを同胞に伝えよ」

 

「「はっ」」

 

王の命は絶対。それが吸血鬼たる者の掟だ。

老人と青年は背に漆黒の翼を顕現させ、月輝く夜空へと羽ばたく。

 

そして蒼髪の青年が猿二人と始末しようと振り返ると、黒髪の少年は横目で少女を見ながら舞台を束ねる長のように指示を出していた。

 

「アイリス・ワルフラーン。現時点を以て独立治安維持部隊【第一部隊(ファースト)】の全指揮権を、部隊長・夜刀神紫苑の名において譲渡。吸血鬼二人(もくひょう)を追跡し【第三部隊(サード)】と合流してセカンドフェイズを開始せよ」

 

「断る」

 

指示を出していた。

 

「隊長は見てないと無茶をするって切裂き魔が言ってた。私もここに残る」

 

「いや、だから部隊動かせるの俺と副隊長のお前しか――」

 

「却下」

 

指示を出していた。

 

「大丈夫、参謀もいるから第一部隊は放置してもいい」

 

「どっちかの指揮権行使できる奴が現場にいないと――」

 

「嫌」

 

ジト目の少年と仏頂面の少女。

その様子を何とも言えない表情で観察する蒼髪の青年。ちなみに配下はすでに飛び立って目的地に行こうとしている。

 

二人は顔を合わせること数分、少年がボソッと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……明日の晩飯はすき焼き」

 

「復唱、アイリス・ワルフラーンは隊長・夜刀神紫苑からの命を受理。追跡後、第三部隊と合流し、セカンドフェイズに移行する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早口で復唱し、少女は大剣を引きずりながらビルの壁(・・・・)を蹴りあげて走り、蒼髪の吸血鬼の配下である二人の後を摩天楼の屋上を飛び移りながら追跡していった。壁を走っているときも大剣を引きずっていたため、少年の近くにあるビルに屋上まで続く亀裂の後が残っている。

それを見た少年は「……始末書面倒くさっ」と誰にも聞こえない声で呟いた。

 

溜息をつきながら、少年と青年は対峙した。

一陣の風が二人を撫で、軍服と黒コートが翻る。

 

 

 

片方は圧倒的カリスマを醸し出す吸血鬼の王。

片方はカリスマを受け流す自称普通の人間。

 

 

 

少年は琥珀色の瞳で睨みつけられながらも、苦笑いを浮かべながら世間話と洒落込む。

 

「そっちの部下は素直に命令を聞くようで羨ましいよ。こっちの第一部隊なんか一癖二癖あるような奇人変人の寄せ集めだから、一つ命令を飛ばすのに時間がかかる」

 

「雑種と儂の部下を一緒にするな。貴様等ほど無能ではない」

 

「……無能と言われるのは心外だな。あんなんでも仕事はちゃんとする良い奴等だぜ?」

 

部下を無能と言われたからなのか。

今まで何を言われようとも受け流していた少年が初めて……そう、初めて眉間に皺を寄せた。蒼髪の青年の発言を心の底から不快だと思ったように。

青年はこれが少年の怒りのトリガーなのだと悟る。

 

「つかマジで協力してくれない? こっちとら始末書やら報告書とか提出しないと怒られるから、勝手に身内だけで解決されると面倒なんだよ。この街に来るときに暗闇から説明されなかったか?」

 

「――余計なお世話、だと言っておこう」

 

 

 

殺気。

 

 

 

それが二人しかいない道路に流れた。

王が発する明確な殺意の塊。それは一般人でも分かるほどはっきりと認知できる強さであり、吐き気と眩暈を起こす程にどす黒い感情だった。

 

それでも少年は立っていた。

王は感心しつつも警告を促す。

 

 

 

「儂等の同胞が被害に会ったのだ。――人間風情が口を挟むな。これは儂ら吸血鬼の問題じゃ」

 

 

 

その発言を聞いた少年は――頭を抱えた。

堂々と警告している蒼髪の青年に、心底うんざりするように。

 

「誇り誇り誇り、あーもう! 吸血鬼ってこんな面倒な集団なのかよ! くっそ暗闇の野郎、これ知ってて俺に押し付けやがったな!? 次会ったら殺してやるっ!」

 

青年には分からなかったが、自分の上司に叫ぶように罵詈荘厳を吐く少年。

それが数分続き、ようやく収まったかと思うと――真顔で青年に向き直った。黒曜石の瞳に浮かべるは苛立ちと失望。

 

「ヴラド・ツェペシュ、一回しか言わないからよく聞けよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ただ歳重ねてるだけの蚊蜻蛉(・・・)風情が。周りの状況すら把握できない愚か共の集まりが。せいぜい無知のまま、孤高気取って悔いを残して死んで逝け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギリッと歯ぎしりの音が聞こえた。

それはどちらが音を出したのかは表記するまでもないだろう。

殺気が数倍強くなる。

 

「――言語を介する猿が、よほど死にたいらしいな?」

 

「へぇ、蚊蜻蛉風情に人間様が殺せるのか?」

 

少年は獰猛に笑った。

口が裂けるかと思われるほどに歪め、身体中から今まで感じられなかった神力の黄金の流れを身に纏う。それは人間が本来ならば持てるような量でもなく、蒼髪の青年が初めて目を見開きながら危機感を覚えるほどの力でもあった。

 

そして王も嗤う。

 

 

 

「かかかっ、久方ぶりに歯ごたえのある獲物か」

 

「はっ、狩られるのはお前だろ」

 

 

 

次の瞬間――混沌とした夜の街全体に地鳴りが響いた。

 

 

 

 




アイリス」「(-д-)zZZ」
ゼクス「隊長、仕事ですよ」
アイリス「( ゜д゜)ハッ!」
ゼクス「紫苑殿に任されたのですから、ちゃんと報告書を提出していただかないと――」
アイリス「(-д-)zZZ」
ゼクス「……紫苑殿、帰って来ませんかねぇ……」

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