帝side
あのあとは夕方まで空をずっと、ゼフィ達と過ごした日常を思い出しながら見ていた。現在の時刻は……7時とでも言っておこうか。時間軸が人間界とかと違うからあんまわからん。そんなことを考える俺は、リーガルさん達と、リムジンのような車でメルトキオまで移動していた。もう文明の発達云々についてはツッコまない。一回一回ツッコんでたらキリがない。目的は、リーガルさんが旅の仲間達をメルトキオに呼び込んだので、俺達はそこまで移動している。
しかし気のせいだろうか、どこかで魔族の気配がするが、微弱なために正確な位置がわからない。
「皆さん、目的地に着きました。」
運転手さんはそう言って、運転席から車のドアを開けた。
リーガル「ああ、ありがとう。先に帰っていてくれ。今夜はここで宿をとろうと思う。」
「了解しました。それではまた後日。」
そして運転手さんとリムジン?は来た道を戻って帰って行った。
帝「リーガルさん、気になる事があるから少しこの草原の
先に行ってくる。」
リーガル「ああわかった。だが気を付けるんだぞ。なんと言っても今夜は“凶月”だからな。」
“凶月”、ふりがなを振って読むと、“まがつき”だ。凶月とは、この魔界における、気性の荒い魔に通ずる生物が活性化し、より凶暴になる夜の事。月は黄色の月と違い、赤黒く光っている。その赤黒い光が、気性の荒い魔に通ずる生物を凶暴にする。
帝「ああ、わかってる。皆はリーガルさんについて行ってくれ。俺も後から行く。」
そう言って先の草原へと走った。
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帝「おいおい、嘘だろ……!?」
俺がそこで見たのは……歪な形をした人型の何かが大量に群れ、手に武器を持ってこちらに進んで来ていた。目で見ても数え切れない。
ざっと10万……100万……いや、それ以上か……!?
そして歪な人型の何かの大群の最後尾を見た瞬間、俺の顔は憎悪に歪んだ。白い髪、少し頭からカーブを描きながら飛び出たアホ毛、服装は胸の上辺りから上が露出した服、そして首元には白いマフラー。その姿は間違いなく……
俺そのものだった。
あいつは……あいつは……!!!!
そして俺は弾丸のように駆けた。
帝「そこぉ……退きやがれェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!」
腰からリベレーターを抜き、目の前の人型を斬る!
そんな人型に目もくれず、次の人型を標的にする。
いつの間にか周りを囲まれていたが、一体一体を確実に斬り続ける!
帝「チィッ!洒落臭ェ!!!!」
横薙ぎに振るわれた武器を飛んで躱し、人型を蹴り、背後に迫っていた人型も蹴る!
『grarrrrrrrrr!!!!』
雄叫びをあげた人型は俺を囲むようにして飛びかかる!
帝「神滅刃・神威!千刃・千の刃〈桜吹雪・月下〉!!」
神威を即座に禁手化し、千刃奥義で周りの全てを斬る!
そして同じようにまた俺を取り囲み、飛びかかってきた。
帝「……ハァッ!」
神威を逆手に持ち、タイミングを計って飛び上がり、一体を蹴り、その勢いを利用してその場で回転して周りの人型を斬りつける!
帝「クッ!埒が開かねぇ!こうなったら一気に決めてやる!」
そして俺は後ろへ飛び退き、〈終の聖剣 理想郷〉と〈始りの聖剣 楽園〉を取り出し、闇のオーラと自身の魔力を混ぜた漆黒のオーラを両方に纏わせた。
帝「テンペスト・ブレイザー・ツイン・スロッシャァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
全員消し飛べと心で叫び2つの剣を振り下ろす!
帝「ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」
息を切らしながらも、何時も持ち歩いているポーチの中からこの魔界における回復アイテム、グミを食べる。
帝「ッ!?ゲホッゲホッ!!」
どうやら俺が食べたのはクジグミだったようで、しかもハズレ。なんというシリアスブレイカーだと思いながらも、少し熱くなった頭を冷やすのに丁度良かったのかもしれなかった。今度はしっかりと中身を確認し、スペシャルグミという、どういった原理かはわからないが、体力と魔力を一気に回復させるグミを食べた。
というよりなんでグミで体力とか魔力とか回復出来るわけだ?
そんなことバカみたいなことを考える程度には、思考能力に余裕が生まれ始めた。
?「ふははははははははは!驚いた。まさか我が人形が悉く消し炭にされるとは。それも、“我が奴隷”ごときに!」
帝「はっ!それ位テメェの玩具がポンコツだったってこったろ?
魔神王ヴェルフリート!!!!」
ヴェルフリート「これはこれは、よもやこんな雑魚にバレておったとはな。褒めてつかわすぞ?奴隷よ。」
魔神王ヴェルフリート。この魔界において最も絶対悪に近しき存在にして、俺に奴隷の証を刻み、ゼフィを、ルアンを、シエルを俺に殺させた屑野郎!!!!
帝「どうやって復活した!!大体お前は何千年も前に数億年の封印を施されていた筈だ!!!!」
ヴェルフリート「ふん、我の再臨を祝うのか?ならば教えてやろう。……封印を解いたのだよ。我が愛しの奴隷、貴様以外の奴隷共がな!」
リエル……あんのヤロッ!覚えとけよ……次会ったらあの巫山戯た顔面に1発ぶち込んでやるからな……!
ヴェルフリート「あぁ因みに、貴様の血を用いて復活した所為か、貴様の容姿と被ってしまってな。我は中途半端が嫌いなのだよ。だから貴様の魂を殺し、その体を我が頂こう!」
帝「んな変な理由でこっちくんじゃねぇッ!!??」
瞬間、ヴェルフリートが巻き起こした衝撃波に襲われ、体が宙に浮いた。
帝「傍迷惑だな本当に!」
そして俺は、今出せる限りの本気を出し、受身を取って着地する。
帝「こいつで……墜ちろ!」
自分の影を残像として一気に詰め寄り……
帝「ハァッ!」
両手の剣を一気に振り下ろす!
ヴェルフリート「ほう、雑魚にしては中々……?グッ!」
帝「なっ!?」
しかし、俺は幻影を見せていた。しかし、横薙ぎに振るった剣は、ヴェルフリートの皮膚によって弾かれた。
帝「ぅぐっ!?」
ヴェルフリート「今のは中々痛かったぞ。しかし残念だったな。我が皮膚は万物をも寄せ付けず、万物をも防ぐ。その程度の攻撃など痛い程度で済むのだよ。」
俺はヴェルフリートに首を掴まれ、宙吊りにされている。
ヴェルフリート「それでは、その体を頂くとしよう!さらば!我が愛しの奴隷よ!我のためにその体を捧げよ!」
ズブッ!
グザッ!
帝「ガァッ……ハッ……!!!」
ヴェルフリート「貴様……まさかあの一瞬にして……我が心臓と眼を突き刺すとは……!」
俺はヴェルフリートに手で心臓を貫かれ、俺は今まで微弱ながらもずっと溜めていた剣の魔力を一気に爆発させ、ヴェルフリートの眼と心臓を貫いた。
帝「幾ら……あん……たでも……少しばかりは……再び眠る必要が……あるだろ……。」
ヴェルフリート「……このままでは……体を乗り換えたとしても……死にかねぬな……貴様の言う通り……暫く眠りにつく……としようか……。」
ヴェルフリートはそう言って、黒い煙のようなものを出して消えた。
帝「ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハハハ……ごめん……皆……。俺ぁもう……ダメ……みたいだ……。」
そう言うと、バタンと勢いよく後ろに倒れた。
帝「……雪……か……。」
気がつくと、周りには雪が降っていた。
恐らく今はまだ冬かな……。
そんなことを考えながら、空を見上げていた。そもそも俺は雪が好きだ。暗い夜に降るほんの少しの粒が、月の光に照らされて白銀の光を宿す。そして地面や人肌に着けば解ける。たった一瞬であっても美しく輝き、地面や人肌に触れれば儚く散る。そんな雪が俺は好きだ。
帝「グボッ!……ハァッ……ハァッ……ハァッ……皆……俺がいなくても……ちゃんとやってけるかな……?」
口からは勢いよく血が噴き出し、口の中からは異常な程に血の味がする。それと同時に俺は走馬灯を見ていた。
帝「……いや、あいつらなら……上手く……やってけるだろう……。ごめん……リア……ス……美……優……もう……俺……長く……ねぇわ……。」
嗚呼、凄く寝たい。このまま寝てもいいだろうか……。
帝「ごめん……イッセー……お前……を……強く……してやれ……なかったよ……。頼りない……兄貴で……済まねぇ……な……。」
今まで頑張って来たんだから、別に……いいよな……?
帝「ごめんゼフィ……ルアン……シエル……お前……らの……仇……とれ……なかったよ……。」
もう俺は限界だった。もう我慢が利かなかった。
そして少しずつ……瞼を閉じる……。
帝「ごめん……皆……ちゃんと俺の……こと……言えなくて……。でも……ありがとう……こんなやつに……ついてきてくれて……こんなやつを……信じてくれて……本当に……ありがとう……。皆……俺……皆の……こと……」
段々と意識が遠のいて行く。そして、残った意識を集中させて、最後の言葉を放った。
帝「皆の……こと……」
大好きだよ
そして俺は、この世界から旅立った。
To be continued.