とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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お久しぶりですと挨拶から入ります作者です。今回から夏世視点で進めていくつもりなのでよろしくお願いします(実は今までにもちょいちょいあったり、前回の後半辺りから夏世視点だったりします。決して忘れてた訳ではないですハイ)


あなた達に会いたくて

 「・・・・・どこまで行くつもりですか?」

 

 歩き続けていくうちにモノリスの外に出てしまった。このまま何処かに連れて行かれてしまうのかもしれない、そう思って行き先を聞いたのに。

 

 「期待してないって言ってなかったかしら?」

 

 返ってきたのは冷たい一言だった。

 

 「私達、心当たりないって言ったわよね。嫌なら途中で抜ければ良かったのに、それでも付いてきたのはアナタの意志でしょう?なら文句言わないでよ」

 

 「・・・・・性悪」

 

 「根暗」

 

 「あははっ、どっちもどっちだよねぇ。五十歩百歩っていう言葉が似合うと思うの」

 

 辺りは暗くなり、普段は遠目に見えるモノリスだけど、こうして近くまで来るとその大きさに驚かされる。しかしこのままでは本当にモノリスの外に・・・・・・・・ちょっと最後の人、なんて仰いました?もう一度、今度は目を見て繰り返してもらっていいですか、いいですよね?

 

 「・・・・・・お二人は、どうしてあそこにいたんですか?本来あそこは立ち入り禁止区域、用事でもなければ近寄ろうとはしませんよね?」

 

 さっきの一言は取り敢えずスルーしておいてあげます。でも後で絶対に説明してもらいますから。

 

 「ん〜、ストレス発散の為かなぁ」

 

 「ストレス発散・・・・・・・・散歩とかですか?」

 

 「まぁ、似たような感じかな。普段は近寄らない場所だから、偶には息抜きでもって・・・・・・・・・」

 

 「サンドバッグを探してたのよ。簡単には壊れないやつ」

 

 「ちょっと、それはどういう意味で・・・・・・」

 

 「あぁ〜もう。ねぇリフってば、さっきからやたらと人の話遮るよね!せっかく必死に誤魔化そうとしてるっていうのに、なんで無駄にするのさぁ!?」

 

 彼女たちの言う『サンドバッグ』が何を示しているのか解らない程、私は鈍くない。それを問い詰めようとしたらメイさんに遮られてしまいました。

 

 「どうせ今隠したところで、後々バレれば同じことでしょう?そうなったら余計に面倒なことになるに決まってんだから、だったらいっそのこと、先にバラした方が揉めなくて済むでしょ」

 

 「それは『後で揉めない』だけで、今から面倒になるって事じゃん!それが嫌だから誤魔化したかったのに、うぁ〜・・・・・もう台無しだよ!?」

 

 絶望したメイさんは落ち込んでいましたが、今はそれどころじゃありません。

 

 「なんで、そんなことしようとしたんですか!?」

 

 「でも失敗だったわよね、余計なお荷物拾っちゃうし何やるにしても口煩いし、自分の目的すらも他人任せだし」

 

 「・・・・・・・ホントに意地悪なんだね、もうここまで来たら同族嫌悪っていうやつだよ」

 

 「そんな筈ないっての!」

 

 「じゃあ素直に答えてあげなよ。ここまで焦らしておいてそのまま放置したら、キレられてそれこそ面倒になるって」

 

 「仕方ないわね・・・・・・言ったでしょストレス発散の為のサンドバッグを探してたって。そもそも私達、新人の調整相手になってあげてたの。最初っから押されっぱなしで、でも負けるのは嫌だったから普段はしないような協力までして、結局負けた。ずっとそれが嫌だったから、八つ当たりの相手を探してたのに、見つけたのは根暗なイニシエーター。で、それから後はアナタも知っての通り、大して仲良くもないのに一緒に行動してるって訳よ。どう、納得してくれたかしら?」

 

 「うんうん、やっぱりリフったら素直になればカワイイのに普段はツンツンしてばっかりだから面倒くさいの。偶にはギャップに振り回されてばかりなこっちの事も気遣って欲しいよ」

 

 「じゃあ今は何をしているんですか?」

 

 「さっきまで探してたのに見つからなかったサンドバッグ。モノリス付近で捕まったとしても、皆厄介事は御免だから見てみぬ振りしてくれて問題にならないの。わかったかしら根暗?」

 

 

 「どうして、こんなことを。やり方なら他にもいくらだってあるのに、なんでそれを選んだんですか!?」

 

 「・・・・・・」

 

 リフさんは答えてくれませんでした。さっきまでは嫌味を言いながらも答えてくれたのに、ただ静かに歩くだけでした。代わりに口を開いたのはさっきまで落ち込んでいたメイさん。まるでさっきまでのは演技だとそう言わんばかりの変わりようでした。

 

 「それしか知らないから、だよ!別に最初からこうなってた訳じゃないけど、拾われてから決まったことしか出来なくて、娯楽だって詳しくないし。保護してくれる人だって知らないから、逃げ出しても安全とはいかない。従うしか、生きていく方法を知らないの」

 

 私は何も言えませんでした。正式にイニシエーターとして生きてきて、ガストレアになりかけたところを救われて、姉弟(ふたり)と過ごしてきた。そんな、幸運を当たり前かのように享受してきた千寿夏世には、彼女たちを否定することなんて出来ませんでした。だって彼女たちが受けてきたそれは、ひょっとしたら私や、あの姉弟(ふたり)にもあり得た話でしたから。

 

 「満足してくれたかしら?もしそうなら暫く黙ってて。じゃないとせっかく見つけた獲物に逃げられるから」

 

 「あぁもう、またそうやって冷たくなるんだから。さっきまではあんなに饒舌だったのに、解りやすく説明してて優しいなぁって思ってたのになぁ。ごめんね、別に黙んなくていいから。せっかくの組み合わせなんだから静かになりすぎてもつまんない。楽しむためにももっとお話しよ。あっちなみにさっきのは『怪我しないように大人しくしててね』って意味だから」

 

 「・・・・・・・」

 

 「だから勝手に曲解しないでよ!」

 

 家族(ふたり)を探そうにも未だになんの手がかりも見つけられずにいる私は、彼女たちに同行するしか方法がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ・・・・・ちょっとメイその根暗よろしく!」

 

 「はいはい見つけたのね。わかったからいってらっしゃい」

 

 モノリスのあるエリアを超えて、それでも暫く歩き続けて開けたところに出た途端、リフさんは何かを目指して駆けて行きました。

 

 「ほらほら、抜けるなら今だよ。リフはああなったら暫く他のことなんて考えずに楽しむから、今なら気付かれずに済む。それでも不安なんだったら、私を気絶させていけばいいから」

 

 その一方で、メイさんが言い出したことも、私には信じられませんでした。

 

 「・・・・・・・・どうして」

 

 「自分だけで探したい、でも行動に移せない。それって見つけられる自信がないからでしょ?」

 

 「・・・・・・・」

 

 「探しに行きたいけど、見つからなかった時が怖いから動けない。何か言いたそうだね?」

 

 「なんであの時、私が心当たりがないか尋ねたときに『わからない』って答えたんですか?」

 

 「・・・・偶然でしょ」

 

 「知らないって言えば違和感を感じさせなくて済んだ筈なんです。でもアナタはわからないって答えた」

 

 「それも偶然」

 

 「確かにそうかもしれません。でもその答えは『心当たりがあり過ぎてどれを言ったらいいかわからない』っていう意味なんじゃないですか?」

 

 「仮にそうだったとしても立場上教えられないの、ごめんね」

 

 「でも、それなら・・・・・」

 

 「私からもいいかな?私達が身の上を話したときに黙ったのはどうして?」

 

 「・・・・・・それ、は」

 

 「私達が可哀想だとでも思った?ひょっとしたら自分がそうなってたかもしれないとか思ってくれた?それは同情なのかな?私達を下に見てるからなの?だとしたら辞めてよ、数えるほどしか会ってない相手に同情されるなんて、それこそ私達を惨めにさせる。早く行ってよ君がそんなやつだとは思わなかったよ」

 

 まるで全てを見透かされたようなそんな気分でした。

 

 「・・・・・・でも、1〜2回しか会ってない相手と一緒に行動してくれて、そんなどうしょうもない二人の事を知ろうと、話を聞いてくれたのは嬉しかったよ」

 

 メイさんは突然、ある方向を指差しました。その方向には森が、暗いだけの森が広がっていました。

 

 「この森を抜ければ最短距離で学園都市に戻れるよ」

 

 「それだと、リフさんに怒られるんじゃないですか?」

 

 「あっはははっ、ないない!」

 

 メイさんは楽しそうに笑って、リフさんのいる方を見ていました。

 

 「さっきも言ってたでしょ?怪我しないように大人しくしててって。曲解だって言い張ってたけどあれも半分は本当のコトなんだよ?素直に言えないだけ。それに私とリフは別に、あなたを連れて行けなんて言われた訳じゃないから、ここで別れたって誰も文句言わないし、怒られたりしないよ?」

 

 「・・・・・・・・」

 

 「ここまで言われてもまだ動かないんだ?仕方ないなぁ特別だよ。・・・・・・私達は確かにあの二人の後釜として存在してるけど、だからって比べられるのは気に入らない。私達はあの二人になりたい訳じゃない。駒として扱われるならそれでも構わないけど、それならちゃんとあの二人とは別の駒として扱って欲しいの。でも、そう思ってたら新人が来た。そいつがまた気に入らない奴で、見てるとイライラするから抜けてきた。ひょっとしたらその新人が使えないって事になれば私達も多少はマシになるかもしれないから手伝って欲しい。どうかな、これでもまだ動く気になれない?」

 

 口調は穏やかでしたけど、その目には怒りや憎しみが見えました。

 

 「そいつがいたのは、確か第19学区の廃ビル。今はもう移動してるかもだけどまだ学区を跨いだりはしてない筈なの」

 

 「確かに私を助けてくれたことには感謝していますが、だからといって協力するかは別問題だと思うんですけど」

 

 「それを言われたら困っちゃうなぁ。あ、でもその新人を倒したらアイツも君のことを知りたがるんじゃないかなぁ。あの木原って男」

 

 「尚更嫌ですね。それこそお断りです」

 

 「ホントかなぁ?」

 

 「・・・・・どういうことですか?」

 

 「あの木原は、何年か前にあの二人を担当してて、当の二人は行方がわからない。ねっ、無関係とは言えないでしょ!?それに気に入られたらアイツもテンション高くなって色々と口を滑らせるんじゃないかな」

 

 ひょっとしたら私を混乱させるための嘘かもしれない。油断させるための出任せかもしれない。ですが、一番可能性の高い話だということも事実。私は暗い森を目指して足を動かしました。

 

 「まったねー!」

 

 後ろの方から聞こえたメイさんの声はどこまでも楽しそうでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・っはぁ、楽しかった!あれ、あの根暗は?」

 

 「帰ったよ」

 

 「・・・・・あっそ」

 

 「怒ってないの?」

 

 「別にお仕事でもないし、ついてこられても鬱陶しいだけだから清々したわ」

 

 戻ってきたリフは、それはそれは大変満足しておりましたよ。さっきまでの態度が嘘みたいだよ。

 

 「言い合う相手がいなくて寂しいとかじゃないの?」

 

 「それこそ有り得ない話でしょ。まぁあの根暗が新人を倒してくれるってんなら褒めてあげなくもないかな」

 

 「あっそれね、さっきけしかけといた!」

 

 「・・・・・ホント変なときに有能よね、アンタ」

 

 「どっちもやられてくれた方が最終的に楽出来るじゃん!」

 

 「今の言葉、撤回するから」

 

 「なんでさぁー!?」

 

 「いつもはだらしないのに急に頼もしくなられると、どういう反応したらいいかわかんなくなるの。わかる?」

 

 「・・・・・・さっぱりわかんない」

 

 「もう少し察してくれると私の悩みも減ると思うんだけど、そこのところ考えてる?」

 

 「ところでさっき、また別のサンドバッグ見つけたんだけど行かない?」

 

 「・・・・・・・・・行く!」

 

 リフの聞き方って少しキツイからね。それを防ぐには口を開かせないのが一番だと思うの。そうすれば今回みたいに話題変えられるからね。

 

 「言っとくけど、さっきの質問また今度答えてもらうからね」

 

 ・・・・・・・まぁ都合良く忘れてくれたりはしないんだけどね。なんかそれっぽい答え用意しておくかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇跡的に無事に森を抜けて学園都市に戻ることが出来たけど、さっきのメイさんの言葉を信じていいんでしょうか。嘘をついてるかもしれない。ひょっとしたら木原って男が待ち構えてるかもしれない。・・・・・でもあの二人を探すためならそれくらいのことで止まるわけにはいかない。

 

 「・・・・・」

 

 第19学区のある方を見れば、遠くにビルがいくつか見える。あそこに見えるうちの何処かに二人がいる。そう思ったら足が動いてくれた。とはいえ確たる証拠なんて皆無だし、どうするべきか悩んでいると銃声が聞こえた。普段あの二人は銃声とは無縁だけど、もしかしたら手がかりがあるかもしれない。ビルを目指して走ると、少し離れたところに黒い車が数台停まっていた。息を潜めて木の陰に隠れると、白い軍服に身を包んだ男たちが駆け込んでいく。背丈も得物も異なる彼らだけど共通している点が一つ、誰もが嫌な笑みを浮かべているのである。

 怪我して欲しくないから自分から面倒事に巻き込まれに行かないで、とはレイさんの教えだけど、それはあの人にだけは言われたくない・・・・・・が、それはまぁ置いといて。仮に今の男たちがあの二人に危害を加えているかもしれないと思うと助けに行かないと。でもレイさんの言葉もその通りだし。悩んでいると一際大きい銃声が聞こえた。もう悩んでなんていられない。そう決断して飛び出した途端、夏世論は思わぬ人物とで会った。

 

 「・・・・・あなたは確か、レイさんとライさんが伊熊将監から引き継いだイニシエーターの、千寿夏世さんでしたね」

 

 「聖天子、様?」

 

 まるでその空間だけ純白に塗り潰されたような、この人とそれ以外には明確な境目があると錯覚してしまうぐらい、現在の状況とは似つかわしくない人が、そこにいた。

 

 「どうして、ここに?」

 

 「元々警護をお願いしていた方々がいたのですが、勝手に破棄されてしまいまして今日予定していた会談を中断せざるを得ない状況なんです」

 

 聖天子様は男たち乗っていたであろう車を見ながら、

 

 「会談の再開のために態々呼びに来た・・・・訳ではないですよね。聖天子様程の方なら会談場所から他の人を呼び出せばいいんですから。それをしないでここに来たってことは訳ありですか?」

 

 「その通りです。そこでお願いがあります、万が一に備えてボディーガードをお願いしてもいいでしょうか?」

 

 普段テレビ越しに何度も見る純白の姿だが、今目の前にいる彼女は何者も近寄らせない雰囲気を纏っていた。

 

 「聖天子様直々のお願いを断れる人なんて、この世に存在しないと思いますけど」

 

 「・・・・・・・実はそうでもないんですよ。知ってるだけでも5人ほどいるんですけど、そうですね、なんの偶然か夏世さんと私のどちらも知ってる方々でして」

 

 「あぁいますね絶滅危惧種な人達が。最早知り過ぎてるぐらいです」

 

 しかも不思議なのは、その人たちが互いに意気投合していることだ。本当に誰かに仕組まれてるんじゃないかと思えて仕方がない程だ。

 まぁでも、現在はそのうちの二人が行方不明だから心境としては複雑なんだが。悩んでいるとビルから銃声が聞こえてきた。

 

 「残念なことにあまり時間がありません。答えていただいていいでしょうか?」

 

 「わかりました、謹んでお受けいたします」

 

 レイさんライさんごめんなさい、見つけるのもう少しだけ待ってて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで今日はお一人なんですか?」

 

 「そうですね、今回は少し厄介な依頼を受けてまして負担を減らすために別れて動いてるんです」

 

 「・・・・そうですか」

 

 先程のような銃声は聞こえないが、その代わりに笑い声が聞こえてくる。周囲を警戒しながら進むが彼らは集まっているのか待ち伏せなどはない。ただ足音だけが響くが、次第に大きくなる笑い声によって掻き消されてしまう。

 

 「それにしても少々許容しかねる言葉が聞こえてくるんですけど、アレは警護する立場としてはどうなんですか?ちなみに私は似合わないと思うんですが」

 

 「お恥ずかしい限りですがその通りです。これを機会に色々と見直さなければ、聖居に関わる者全員の印象が悪くなってしまいますりからね。どうでしょう、立候補してくれますか?勿論あの二人も一緒に」

 

 「その場合あの白服の人たちよりはマシですが、命令違反と反省文の数が増えるので、多分現状とは別の意味で気苦労が絶えないと思いますよ」

 

 事実、あの二人―――主にレイさんだけですが―――が一七七支部にいる時は、大体お説教されてるか反省文書いてる。寧ろ、それこそが業務なのではないか、と考えてしまう程である。

 

 次第に笑い声が大きくなる。それは男たちがいる場所に近づいていることを意味している。

 

 「・・・・・ッ!?」

 

 そして足を踏み入れた瞬間、私は息を呑んでしまった。隣の聖天子様も同様だった。

 少女が倒れていた。胸や腹、それ以外にも黒い穴が空いていてどこからも鮮血が溢れていた。その近くでは蓮太郎さんが3人の男に取り押さえられていた。二人を見下ろしているのは若く線の細い男。その手には拳銃が握られており、少女を撃ったのは彼だという証拠に他ならない。

 

 「フィナーレだっ!」

 

 男が銃口を上げ、少女の眉間に照準を合わせた時、

 

 「―――そこまでですッ!」

 

 聖天子様の厳粛な一喝が白服の男たちを凍りつかせた。さっきまでとは打って変わって、威圧する眼光が、彼女が聖天子であることを示していた。

 

 「あなた達が独断専行したと聞いて、会談を中断させていただきました。私がここに来た理由あなた達なら理解できますね?」

 

 真っ青になる男たちを他所に、聖天子様は蓮太郎さんの方を向く。

 

 「里見さん、身勝手ではありますが今からあなたには力を、それに伴う責任を持っていただきます。東京エリア国家元首の特権によりIISOの辞令をスキップ、現在をもって里見蓮太郎の序列を千番から三百番に昇格させます。並びに機密情報へのアクセスキーレベルを五に、疑似階級はニ尉に昇格、あなたならこの意味がわかりますね?」

 

 「ああ」

 

 「今の状態ではまだ足りないでしょうが、これより先はご自身で」

 

 聖天子様が言い終わると蓮太郎さんは立ち上がり、拳銃を引き抜き、目の前に立ってある男へ3発撃った。男は叫び声を上げてへたり込むが蓮太郎さんは気にも留めず、周りの男たちを冷ややかに見る。

 

 「誰に、銃向けてんだよ。さっさと失せろ、そして二度とティナに近づくな。拒否すれば反逆罪だ、いいな?」

 

 男たちはへたり込んだ男を立ち上がらせ、足早に駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「夏世さん、ありがとうございました」

 

 聖天子様の雰囲気は元に戻っていた。まるでさっきの威圧が嘘かのような切り替えに、戸惑ってしまう。

 

 「何もしてないのにお礼を言われても、困ります」

 

 「そんなことはありませんよ、隣にいていただいただけでも心強かったですから」

 

 「・・・・・」

 

 「そんなに照れる程、嬉しかったのですか?」

 

 「照れてなんて、いません。普段通りです」

 

 「素直じゃないですね・・・・・・・さて、里見さん」

 

 「・・・・・」

 

 立ってはいるが、蓮太郎さんはボロボロだった。服は破れ全身傷だらけ。無事なところを探す方が難しいと思える程だった。

 

 「何があったのか大体察しがつきますが、後ほど詳しく説明していただいてよろしいですね?」

 

 「解ってるよ」

 

 「なら結構です。それでは」

 

 最後に聖天子様は微笑みを浮かべて去って行きました。後に残ったのはボロボロな状態で立っている蓮太郎さん、倒れたまま起き上がれない少女、見ていることしかできない私。

 

 「蓮太郎、さん」

 

 「夏世、悪いなこんな格好で。見ての通り立て込んでたもんでな。それでどうしたんだこんな時間に、あの二人が一緒じゃないなんて珍しいな?」

 

 ボロボロな状態でありながら、蓮太郎さんは穏やかでした。

 

 「訳があって別行動してるんです。心配しなくてもお二人ならいつも通りですよ」

 

 「・・・・そうか。でもいくらお前が優秀でも一人で行動ってのは少し心細くないか?あの二人らしくない考えだな」

 

 「追いかけてる相手がそれだけ厄介だってことです。蓮太郎さんも無事・・・・・とは言えないですよね、そちらの方は?」

 

 「悪いな、事情があって今は教えられない。ただ、また今度なら、教えてやれる」

 

 「そう、ですか。・・・・・私、用事思い出したので失礼しますね。すいません、お邪魔しました」

 

 「・・・・・・・ああ」

 

 ここにもお二人はいませんでした。外は暗く、他のビルも覆い隠してしまう程でした。明かりとなるのは輝く星と遠くの街灯のみ。ここにお二人がいなかったということは、近くのビルも同様でしょう。近ければ蓮太郎さんが、お二人が気づいているでしょうから。

 

 下校時間はとっくに過ぎている。イニシエーターとはいえ出歩いているところを誰かに見られたら後々面倒になってしまう。明日もお二人を探すならもう戻らなければいけない。

 

 「・・・・・久しぶりとはいえ、やはり一人は寂しいですね」

 

 かつて将監さんが亡くなった時にも味わった喪失感が再び襲ってくる。レイさんライさん、今どこにいるんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 




暫くは夏世視点で書いていくつもりでいます。作者としてもレイとライを見つけるまでは基本、夏世をメインで続けようと思ってます。えっ、具体的にはどのくらいかって?・・・・まぁ多分そんなに長くはかからないと思いますよ(適当)
それではまた次回。

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