とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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ちゃんと前回から約一ヶ月間隔で投稿できました。お久しぶりですねと挨拶から入りますは、何を隠そう作者です。
・・・・・・・はい、嘘つきましたスンマセン。ホントは4週間間隔で投稿するつもりが1日延びてました。つまり、筆?が乗らなかったから前回の後書きで言ったような、こっそり云々は存在しなかったのですエッヘン(何だコイツ)
さぁ、というわけで前回の続きです!(どういう訳だよ)


霧がかった君と、虚ろな存在

 「しょっと、と!いっやぁ、楽しかった!ねぇ、姉ちゃん!?あれ、どうしたの?」

 

 「うゥ・・・・な、なんでもないわよウン。でも帰りはちょっと速度落としてくれるとありがたいかな」

 

 未だ興奮冷めぬレイと、げんなりしているライ。どうやら着地の衝撃すらもライには響くようだ。

 

 「キツイならおんぶしてあげようか?」

 

 「・・・・・大丈夫よ。一応自分で歩けるから」

 

 そんなやり取りをしながら歩くこと数分。

 今まさに建物に入ろうとする白衣の男を見つけた。

 バレないように近づこうとしたが、それより先に気づかれてしまった。僕らの姿を認識した男は、あの時と変わらず信用できない笑みを浮かべて寄ってきた。

 

 「あれ、どうしたの二人とも。ひょっとしてふと思い出した俺のことを心配して戻ってきてくれたの?いやぁ嬉しいなぁ、感動して泣いちゃうかも。・・・・あ、お菓子いる?」

 

 「それはない」

 

 「自惚れてんじゃないわよ」

 

 まるでいつかのような会話を、懐かしいと感じてしまったのは悔しいが、否めない。現に、僕らの悩みを解決できるであろう知り合いはコイツしかいないのだから。

 

 「なーんだ残念。じゃあお菓子はまた今度。・・・・それで、どうしたんだい?俺はてっきり君たちはもう戻ってこないと思ってたんだ。そんな君たちが戻ってくるって事は、つまり何か困ってるんだろう?」

 

 「悔しいけど、その通りだよ。もう僕たちは、アンタ以外に頼れる人を知らない。だから来たんだ」

 

 「ふぅん。内容は?」

 

 「また、あの時みたいに姉ちゃんの記憶が消えた。つまりアンタの仮説を再び実証されたんだ。時間からすれば僅かだったし、すぐに元に戻ったけど、これからもいつ起こるかわからないアレに怯えて過ごすのは嫌だから。解決したくて、ここに来たんだ」

 

 「それは、元の体に戻りたいって、そういうことだよね?」

 

 「・・・・・うん」

 

 やっぱりコイツは、僕の言いたいことをすぐに汲み取ってくれる。

 

 「でも、そうだなあ。せっかく君たちが戻ってきてくれた訳だし、手伝ってあげたいんだけど、かといってそれだと俺の実験には何も得になることはないしなぁ。・・・・あ、じゃあさ、元の体に戻るのは許可するからさ、その代わりにちょっとだけ実験に協力してよ。この学園都市において木原を頼るのは、つまりそういうことだよ。頼まれたら見返りを、依頼されたら報酬を欲するよ。対価としてね」

 

 やっぱりそうか。ここに来ると決めたときから見返りを求められる事は想定していた。でも、いざ直面すると戸惑ってしまう自分がいる。

 

 「それは・・・・・卑怯だ」

 

 「いいの、レイ。こんなやつの取引に応じる必要なんてないの。こんなのでもコイツは『木原』。こっちの望みを叶えてくれる可能性なんて皆無よ」

 

 「こんなの、だなんて酷いなぁ。確かにこの学園都市において『木原』といえば、“胡散臭い・頼らない・信じない”の三拍子を何倍にも濃縮したような存在であることは認めるけどね。俺は寧ろ、君たちに感謝される事しかしてこなかったと思うんだけど?まぁ安心してよ。他の木原の人たちみたいに『命を差し出せ』なんて言うつもりはこれっぽっちもないからさ。僕は実験体を無闇矢鱈と失うのは嫌だからね」

 

 「・・・・・聞こえはいいけど、それは意味があるなら失ってもいいって、そう言ってるのと同じじゃない」

 

 「そうだねぇ。でも、だから(・・・)?俺は別に今すぐ君たちに元の体に戻って欲しい訳でもないし、戻らないとしても、君たちの体からデータは取れるから、どっちでもいいんだよ。だから君たちも今すぐに引き返してもいいんだぞ?その方が、君たちにとってもいいと思うよ。まぁ、いつまた起こるかもわからないライ君の『上書き』に怯えながら過ごすことにはなるけどね」

 

 姉ちゃんは、『木原』と関わって苦しまないように、“もういい”と言ってくれるけど、それだともっと酷いことになるかもしれない。ひょっとしたら、次また姉ちゃんが倒れたく時には、もう目覚めないかもしれない。そう考えると、やっぱりこの方法しかないと思うんだ。

 

 「・・・僕らは、何を手伝えばいい?」

 

 「レイ!?」

 

 「いいんだよ姉ちゃん。姉ちゃんがこれ以上同じ目に遭わなくなるっていうなら、僕はどうなったっていい」

 

 「レイ・・・・・」

 

 「いやぁ、手伝ってくれるのか!それは良かった!丁度やってみたい案があってね。何、君たちに負荷がかかる事はないよ。寧ろ、今まで通り“憑依”してもらいたいだけだから。さぁ着いてきて」

 

 男は早口で言い終えると、建物の中に入っていく。促されるまま、僕たちもそれに続いて建物に、かつて逃げ出した研究所に再び足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 男に促されるまま研究所に入ると、当時と変わらず一面白い壁に囲まれていた。そのまま階段を降りたり廊下を曲がったりしていると周りの景色はあの時と同じ、見慣れた水槽がいくつも並んでいる。

 

 「ライ君の能力、どうしてメモライズ(・・・)って言うんだと思う?普通はメモラーとかメモリーのはずなのに」

 

 「どういう意味だ」

 

 僕たち3人以外に人の姿は見当たらず、かと言って全く人気がないという雰囲気でもない。だが、それでも身構えずにはいられない。

 

 「確かにmemoriseは覚える・記憶するという意味だけど、それでもライズはrise、正確には『上がる・高まる』という意味なのさ。つまり、記憶の上書きっていうことになるね。だから、彼女が記憶を失うのは、別の体に憑依するという事をトリガーに今までの記憶に上書きしてしまうからなのさ」

 

 「でも、僕には起きてないじゃないか」

 

 「そもそもの能力が違うだろう?それに、レイ君の能力は外界と自分の体とで発生している。けどさ、ライ君の能力は脳から外界に対して起きているんだよ。となると、能力を使うことでより負荷がかかっているのはライ君の方だ。つまりそれだけ、上書きが起こりやすいということでもある訳さ。簡単だろ?」

 

 「憑依を止めれば、元の体に戻れば、これ以上起きなくなるのか?」

 

 「理論上はそうなるね。ただ、あの時も言ったように、君たちの実験に関しては前例や情報がそもそも存在しない訳だから、戻ったとしても何かが起きるかもしれない」

 

 「だったらあの子達は、リフとメイとかいうあの二人はどうなんだ?彼らだって僕らと同じように憑依しているじゃないか」

 

 「確かにあの二人も憑依できる例だね。でも、彼らはそれだけだよ。憑依先の「呪われた子どもたち」の力を使えるだけで、戻れる保証はない。君たちみたいに憑依先の体で能力を使える訳でもないし。そもそもの話、幽体離脱自体は意図的に起こせるんだよ・・・・まぁ方法自体に関しては、決して褒められたものではないけどね」

 

 そして僕と姉ちゃんは、いつかのように水槽に入ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やぁやぁ、どうかな数年ぶりの水槽は?」

 

 『・・・・窮屈な事極まりないわよ』

 

 『懐かしいって思えた時点で負けた気分だから、悔しいから教えません〜』

 

 「あっはっは、懐かしいねぇこの空気。まるであの頃に戻ったみたいで嬉しいよ!」

 

 主成分のよくわからない薬品に浸かりながら、水槽越しに会話する男の表情は、まるであの時のまま。純粋に実験を愉しんでいる。

 

 「とはいっても、未だに実験用の器は用意できてないんだよね。リフとメイが調達してくれることになってるんだけど。遅いなぁ」

 

 『じゃあまさか、それまでずっとこのままでいろとでも言うつもり?』

 

 『巫山戯ないでよね、まともにやらないってんなら私にも考えがあるわ』

 

 「・・・・例えば?」

 

 『アンタに憑依して、アンタの記憶、意識、未来・・・全てという全てを奪ってやる』

 

 「おやおや、怖いなぁ!?でも正直なところ、それはオススメしないよ?」

 

 姉ちゃんに睨まれようと、それでもコイツは笑みを崩さない。まるで、今この状況そのものを心の底から愉しんでいるような、そんな表情だ。

 

 『どういう、意味よ?』

 

 「簡単な話だよ。君たちが憑依した先でも元の身体同様に記憶があって動かせて、生活できるのは、“その記憶がインストール されている”からだよ」

 

 『・・・・』

 

 「もっと簡単に説明するとね、完全記憶(パーフェクトメモライザー)吸力放増(アプリターンドレイナー)、君たち二人の記憶や思い出が事前に学習装置(テスタメント)でインストールされているという前提条件をクリアしている身体でないと、憑依したとしてもそれは二人(君たち)とは言えない、別人になる訳なんだよ。だってそうだろう?憑依先の体に君たち自身の記憶がなければ、憑依が成功したとしても記憶喪失していることと何も変わりはないんだから」

 

 『つまり、アンタは私達の記憶は持ってないから、憑依したとしても無駄だって、そういうことなのね?』

 

 「その通り!」

 

 『面倒くさ〜い』

 

 『使えないのね』

 

 「・・・・君たち、本っっっ当に辛辣に育ったね!?」

 

 『それで?』

 

 「・・・・・その中でずっと待ってるなんて窮屈でしょ?だからせめてあの二人が戻ってくるまでの間だったら、意識体でその辺を自由に飛んでていいよ。二人が戻ってきたら花火でも打ち上げて合図してあげるから。なぁに今は夏休み中だからね、花火が上がったことぐらい、怪しまれないだろうよ」

 

 どうやら姉の対応に反応するのに疲れたようで、男は諦めたようにそう提案する。

 

 「じゃあ起動するから後で感想聞かせてね。あ、精神体だけになったらほんの少し幼児退行起こすからよろしく。心配しなくても実験までの間の記憶も、実験中の記憶も、後でちゃんと学習装置(テスタメント)でインストールしておくから安心してね。・・・・っと、大事なことを伝え忘れてた。戻ってきたらその辺に器を一つ座らせてあるから、二人とも入ってくれればいいから。そのまま実験に移る訳だからね」

 

 男が装置のスイッチを入れ、僕らは意識を身体から離す。

 あぁ、全てがこの男の思惑通りだと思うと嫌だなぁ・・・・・そう考えながらレイは目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び目を開くと、隣ではよく見知った彼女が浮いていた。意識体になったことで若干透けているようにも見えるが、それは自分も同じこと。特に不思議な感じはしない。ちなみに意識体だけになった間は、周囲の誰にも認知されることはない。

 その上、意識体となった方、つまり僕と彼女は水槽の外、施設の外、学園都市の中を自由に見聞きすることができる。

 しかその代償にそれぞれの存在を認識できるのはお互いしかいない。

 今見えている光景はシンプルだった。

 まずは水槽の外で堂々と立っているこの男。

 次に無機質な白い空間に水槽が2つ。

 水槽の中では今までの数年間、自分と姉が器として使っていた体が培養液に包まれていた。

 

 (ったく、アンタときたらなんでこう、自分のことをいつでも二の次にできるのよ。どうして私のことばかり優先するのよ。普段は自分勝手なんだから、こういう時ぐらい偶には自分の事を優先して・・・・)

 

 隣から姉の呆れた声が聞こえてくる。

 

 (うぅ、ホントにゴメンってライちゃん。でもこうでもしないとライちゃん助けられなかった訳だし)

 

 (だいたいレイ君は私のことばかり気にしすぎなのよ。そもそもの話、私達なんてもともと置き去り(チャイルドエラー)っていうのが共通点なだけで、血縁関係とかそういうのじゃないのに。なんでそんなに気にかけてくれるのよ)

 

 お互いの呼び方が普段とは違うのは、さっきアイツが言った通り、精神体が肉体から離れたために若干幼児退行しているからだと思われる。

 まるで初めて憑依実験を行ったときのような、そんな感覚に襲われる。

 

 (ほらほら、とにかく折角の自由なんだし、夜の学園都市を飛び回ろうよ。なんだったら、普段は行けないモノリスの外側を探索してみるのもいいかも)

 

 (はいはい、それはいいけど・・・・・まずは夏世ちゃんを見に行かないとでしょ?結局なんの説明もしないで出てきちゃったんだから、心配でしょ?)

 

 (は〜い!)

 

 そのまま地上を目指すと既に外は明るく、時間帯にして昼近くになっていた。

 

 (夜の学園都市が、なんですって?)

 

 (あっはは〜、さぁなんのことだろうね〜)

 

 とにかく、最初はライちゃんが言ってたように普段、自分たちが生活している学生寮を窓から覗いてみる。

 当然だが姉弟の肉体は水槽の中、意識体は器から離れている訳だから、生活しているような雰囲気は感じられない。肌を通して感じる感覚や雰囲気といった感覚は実体がなければ感じられないからだ。

 だけど、夏世がいないとは思わなかった。特に理由があるわけではないが、直感がそう言っているのだ。

 ・・・・・しかし、今回に関してそれが外れた。

 

 (夏世ちゃん、どこにもいないわよ?)

 

 (あれ〜?どっかに探しに行ったとかかな〜?)

 

 そのままふわりと窓から離れて周囲を、彼女の行きそうな場所を覗いてみる。そして、見つけた。

 少し遠目の操車場から夏世が歩いてどこかに向かっている。

 あの方向は一七七支部だろう。横で自分と同じようにふわふわと浮いているライに知らせ、そのまま後を追う。

 後を追うこと十分と少し、やはり思った通り彼女は一七七支部ヘ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・そう、やっぱりいなかったのね」

 

 「はい」

 

 固法さんは静かに呟いた。

 朝、私が目を覚ましたときには既にお二人は部屋にいなかった。学校にでも行ったのだろうか?それにしては早すぎた。例え学校に行ったとしてもまだ門は空いていない時間帯だった。

 一体どこへ?そう思ったとき、突然、お二人の言葉が脳内に蘇る。

 

 『夏世、心配しないで』

 

 『夏世ちゃん、必ず帰ってくるから』

 

 しかし私はこの言葉を聞いた覚えがない。そうなると、この言葉は私が寝ている間にお二人に言われたのだろう。

 今までで、お二人が私に対して嘘をついたことは一度もない。それを知っているからほんの少し安心したが、ではどこへ行ったのだろう?

 探さなければ。・・・・・でも、私一人でこの街を探すのに、どれ位の時間を必要とするのだろう。

 夕方近くまで探したが二人はどこにもいなかった。だから、真っ先に一七七支部(ここ)を頼った。いや、頼れるところがここしかなかった。それに、ひょっとしたらいるかもなんて淡い期待を抱いたというのもあったが、その予想は外れた。事態を知った3人は、最初こそ驚いていたが、捜索を手伝ってくれることに。

 固法さんは支部から指示を、初春さんはデータベースからお二人の情報を、白井さんは人通りの多いところを、私はお二人と関係のある場所を探すことにした。

 

 「駄目です固法先輩!二人のデータなんですが、いくら探しても数年前に起こった原因不明の事故により行方不明としか出てきません!」

 

 「・・・白井さんはっ!?」

 

 『こちらも駄目ですわね。情報にあった関連施設はとっくの昔に閉鎖、研究者も行方をくらませているようで、手がかりらしき物は何も見当たりませんの』

 

 「そもそもの話、行方不明の二人が風紀委員になるなんて不可能なのよ!だって風紀委員になるには統括理事会の許可と、身辺調査、監視下での訓練だってパスしないといけないのよ!?“実は存在しませんでした”なんて、冗談で済ませられる筈ないでしょう!?」

 

 固法さんは必死にそう言ってくれるけど、現にお二人は『行方不明』。朝からずっと探してきたがどこにも見当たらなかったのだ。 

 

 「・・・・・お二人とも、一体どこにいるんですか?」

 

 いつも普通にあると思っていた、既に私の生活に欠かせないと思っていたお二人(家族)の声が、今は聞こえない。私の心を賑やかにしてくれるお二人は、身近にいない。今は夏で、学校は夏休み。世間はあらゆるイベントで賑やかだけど、私の心は寂しいまま。

 

 「一人ぼっちにしないって・・・・・言ってくれたのに」

 

 なんの手がかりも見つからないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓から見える夏世の顔は、決してさせたくないと思っていた表情だった。

 

 (ごめんね夏世、ホントは嘘ついた)

 

 (いつ帰れるかなんて、正直なところ私達にもわからないの。でもこれだけは信じて)

 

 『いつも、傍にいる。いつだって君の味方で居続ける』

 

 今はこうして夏世の様子を見守ることしか出来ない自分が情けない。

 

 (レイ君ったら本っ当に情けないわね。自分から約束しておいて勝手に反故にするなんて)

 

 (・・・・・・うん)

 

 (あ〜情けない情けない。・・・・・・情けなさ過ぎて放っておけないじゃないの。全くしょうがないわねぇ。実験上姉弟になってしまったから、仕方ないから(・・・・)アンタが夏世ちゃんに見放されたとしても、私だけは味方でいてあげるわよ)

 

 (・・・・ありがとう、(ライ)ちゃん)

 

 なんだかんだ言いながらも結局は優しいのが彼女だ。例えどんなに苦しい思いをしようと、どんなに追い詰められることになろうと、いつも味方してくれる。・・・・だから、彼女のために行動したいと思ってしまう。

 

 (ほら、満足したでしょうから、そろそろ戻るわよ?)

 

 (・・・・・)

 

 (それとも、学校でも覗きに行くかしら?)

 

 (それは、那月ちゃんにバレそうだから遠慮しとく)

 

 (まぁ、でしょうね。那月ちゃんだったら、意識体だろうとあの鎖で縛る位、涼しい顔して済ませそうだし)

 

 見た目は幼・・・・・・可愛らしい我らが担任は、同時に魔族に恐れられる国家攻魔官でもある。というか寧ろそっちが本職らしいのだが、あまりそうは見えないのが現実だ。だってそうだろう?この暑い季節にゴスロリドレスを着込んで、ところ構わず扇子で生徒を叩くような人だ。ま〜、小学生がイタズラしているようにしか見えないよね。

 

 (後で報告してあげようかしら?)

 

 (待ってヤメテ!?ホントに縛り上げられそうになるから!?正直どこに跳ばさ(転移させら)れるかわからな過ぎて怖いから!!)

 

 (冗談だから、そんなに必死にならなくても解ってるって。じゃあ、さっさと行くわよ)

 

 まぁ隠そうとしたところで、あの人勘が鋭いからすぐにバレそうだけどね。古城なんて、いつもそうだし。

 そんなことを考えながら研究所に戻ろうとする彼女の後に続く。夏休みも後数日で終わる。結局、夏世に思い出を作ってあげられないまま、終わらせてしまう。

 

 (学校まで一緒させるのも駄目だろうし。いやでも那月ちゃんと小萌先生がいるからひょっとしたら・・・・そもそもあの二人だって成人?して教師として働いている訳だからそこに混ざってもらうのも。第一、玄関から一歩でも外に出れば、そこは魔族とか超能力者とか・・・あと変なのがいるだろうし)

 

 (いつまでも悩んでんじゃないわよ。こっちにまで聞こえてくるんだから、少しは配慮してよね)

 

 そうだった。意識体になったらお互いの思考が聞こえるんだった。普段は意識しないと出来ないけど、この状態になったら波長が合うとかで何を考えてるか筒抜けになるんだった。

 

 (着いたからさっさと入りましょうよ。いつまでも漂ってる訳にもいかないでしょ)

 

 どうやら色々と考えてる間に戻ってきたようだ。ライちゃんと共に研究所に入っていくと、アイツとこの前の二人と、後はさっきまではいなかった一人がいる。恐らくアレが実験に使われる器なのだろう。ということはアレに憑依しろということなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「たっだいまー。メイが相手の心を壊すのに時間かけちゃってさぁ、遅れたー」

 

 「ちょっと!そもそもリフが相手を仕留めるのに、自分一人で好き勝手に愉しんでたのが原因じゃないの!私のせいにしないでよ!・・・・・っと、あら?これはどういう状況かしら?」

 

 あの姉弟が水槽内で目を閉じてから30分位が経った頃。仕事を頼んでいた二人が帰ってきた。

 

 「元の体に戻りたいって言うから、それを許可する代わりにちょこっと実験に参加してもらったのさ」

 

 「うーわ、また出たよ。相手の弱みにつけこんで、無理矢理選ばせる性格の悪さ。どうせ今回も脅したりとかして、他の選択肢潰したんでしょ?あー陰湿過ぎてヤダヤダ」

 

 「ほんとほんと。しかも自分は悪いと思ってないから、質が悪いっての。全くいつになったら自覚してくれるのかしら?」

 

 「辛辣だなぁ・・・・・・・で、器は?」

 

 「ちゃんと用意してきたよ。ったく、五体満足なんて注文さえなければすぐに用意できたのに」

 

 「そのせいで、いつもよりも余計に時間がかかっちゃったじゃないの」

 

 ドサッと雑に置かれたソレの瞳は、既になんの光も灯していなかった。生きているのかすら、注意して確認しなければわからなくなっているが、だからこそ実験の器には丁度良かった。

 

 「そう文句ばっかり言わないでよ。五体満足でないと、ちゃんとした記録がとれないんだから」

 

 すぐにソレの体勢を直し、壁に寄りかからせる。

 

 「おっ、おはよ・・・・って言っても昼過ぎてるけどね」

 

 ソレはゆっくりと目を覚まし立ち上がる。立ち上がり、両手を握ったり開いたりしている。

 

 「やぁどうかな気分は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「最低/最悪」

 

 ぼんやりと暗闇に浮かんでいるようなそんな感じ。自分の他にもう一人、知ってるはず(・・・・・・)の女の子がいる。

 

 「体は重いし/目の前の男はうるさいし」

 

 「苦しいし/動きにくいし」

 

 「今すぐ駆け出したいけど/やることあるし」

 

 『はっきり言って面倒くさい』

 

 ビシッと何かに亀裂が入る音がした。

 なんだろう、音の出処について考えようとしたとき、目の前に立つこの男が再び話しかけてきた。

 

 「おやおや随分と非協力的になってしまったんだね?そんなんだと、きっと千寿夏世は悲しむよ?今よりずっと」

 

 「そもそも夏世って誰だっけ?/違う、夏世は家族」

 

 「そうだ、夏世は家族/でもどうして?」

 

 『大切な名前なのに、はっきり思い出せない』

 

 ビシッ、今度ははっきりとヒビが入る音が聞こえる。

 “千寿夏世”という名前を、知ってる自分と知らない自分がいる・・・・気がする。

 

 「まぁ・・・・どうでもいいか。それにしてもやっぱり想像通りだったね。元から意識の存在する体には、外部からの意識は1つしか入らないしどっちかが融けて消えるけど、最初から空っぽな器なら意識体は2つ入るし、どっちも消えない」

 

 「夏世って何?/知ってるけど・・・・わからない、夏世は大切な何か」

 

 バキッと何かが割れる音が聞こえる。

 姿は浮かぶけど、その顔に霧がかかっている。どこかで会った気がする。何かを話した気がする。一緒にいたような気がする。でも、わからない(・・・・・)のに、寂しいと感じるのはなんでだろう。

 意識が混濁する。もう一人の自分(見知った筈の彼女)と、自分が混ざり合うような、ドロドロに融けて消えてしまうようなそんな感じさえする。

 

 自分がわからない。暑い暑いと愚痴りながらパーカーを着込んだ彼は誰だろう。常に不幸だと言い張るツンツン頭のアイツは誰だろう。体の半分近くを機械に換えてまで戦うことを選んだあの男は誰だろう。色素の薄い髪に赤い瞳の、いつもの缶コーヒーを飲んで気怠げに歩くあの人は誰だっけ?そして、いつも自分と彼女の間で笑う、普段は大人びていて聡いのに偶に揶揄いたくなる程幼く見える君はダレダッタ?

 

 「うんうん、いい感じに融けてんね!じゃあそろそろ次のステップに進もうか。そうだなぁ、折角だしこの二人と戦ってみてくれないかな?どのくらい動けるのかみてみたいな!」

 

 「・・・・ヤぁダよぉ。だってボクたち今さっき戻ってきたばっかだよ?なんで帰ってきて早々にごっこ遊びに付き合わされないといけないのさぁ」

 

 「私もリフに賛成よ。大体何度アンタの仕事を押し付けられてきたと思ってんの?知ってるかしら、アンタから仕事を押し付けられる回数、最近になって凄い増えたのよ?それも報酬に相応しくない位の数よ」

 

 二人は備え付けのソファに深く座りながら反対の意を述べる。そのまま時間と共に、まるで夏場に溶けるアイスのようにダラケていく。

 

 「まぁまぁ、君たちだってストレス発散になるだろうし、こっちもデータが取れる。コレ(・・)の調整にもなる。いい事だらけじゃないか!!」

 

 「ボクたちを労るつもりなら、まずは話しかけないで欲しいんだけどね」

 

 「いい事だらけとか体の言っても、全部『アンタにとって』でしょうに」

 

 「・・・・・・うーん、じゃあそうだなぁ。このチェックが終わったら街でもモノリスの外でも好き勝手に遊んできていいからさ。ねっ、お願い‼情報規制もある程度だったらしておいてあげるから、普段よりも愉しめると思うんだ!!」

 

 「・・・・ホントに?」

 

 「嘘ついたら承知しないわよ?」

 

 二人が微かに顔を上げる。その様子を確認した男は更に餌をぶら下げていく。

 

 「普段は嘘ついてるかもだけど、今回は本当だよ。勿論、魔族で遊んだとしても攻魔官の方に圧力かけて、ある程度は手を出させないようにするし、そこら辺の民警だろうと同じさ。超能力者たちは・・・・・まぁ今回は、無駄に怪しまれたくないから手出しできないけど。それ以外だったら好きに愉しんできていいからさ。ねっ!!」

 

 「ほら早くしてよね!」

 

 「一度やるって言い切ったなら、さっさと準備しなさいよね!ったく、いつまでもチンタラしてないで、ほら早く歩きなさいよ!!」

 

 「・・・・・・欲望に忠実だね、相変わらず」

 

 「素直だって言ってくれないかな?」

 

 「純粋なのよ、ドス黒いアナタと違って」

 

 「ハイハイ、じゃあほら君たちもついてきて?」

 

 「うん/わかった」

 

 そして僕ら(私たち)は連れられるまま足を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も割とシリアス目?だったような、そうでないような気がします。(疑問形なのは自身がないからですね。つまりそういうことです)
なんか最近アレですね。主人公たちのテンションの上下幅が行ったり来たりしてて忙しいですね。一体何がどうなったからなのでしょうね(遠い目)
それではまた次回。

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