とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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久しぶりの投稿です。
実はこんな期間に投稿していることに自分が一番驚いております。(でも2ヶ月・・・・これで驚く自分って一体)
最近、珍しく投稿に乗り気です(つまり次は期間が空くというわけですねわかります)


君のために生きると決めた

 その後、一人、また一人と男が悲鳴を上げては消えていく。

 喰われる者、糸に巻きつけられ、振り回される者、踏まれる者。

 過程は様々だが、男たちは必ず消えていった(・・・・・・)

 

 残された僕たちは、ただ震えながら座り込む事しか出来なかった。

 

 なんだろう、この気持ちは。

 ただの置き去り(チャイルドエラー)が、研究所で大人たちに好き勝手に実験されて。

 人を助けようとすれば、捕まりそうになって。

 果ては、蜘蛛に喰われる。

 自分の意志とかなくて、終始振り回されるだけ。

 

 「こんな終わり方・・・・嫌だなぁ」

 

 「同感・・・・よ」

 

 どうせ終わるなら、一緒に・・・・。

 お互いに、そう考えて笑った時だった。

 

 「ちょっと・・・・待ったぁぁぁっ!!」

 

 アイツの、2年間気まぐれで会話しただけの、あの男の声が響いた。 

 

 「まぁぁだ、諦めるには早いぃぃだろうがぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・」

 

 「・・・・・はぁ?」

 

 「まだ、諦めるんじゃあなぁぁぁいっ!」

 

 何故かハイテンションだった。

 この惨状に対して、あまりにも不釣り合いな位に。

 突然のハイテンションにここまで読んでくれてる方々も呆れ・・・・・ゴホン、震えが止まっていた。

 

 「なんで、あんなにテンション高いのよ、アイツ?」

 

 「・・・現実逃避かな」

 

 「現実逃避でテンション上がるとか、私ちょっと・・・・・ついて行けない」 

 

 「同感」

 

 「なぁんか引かれてる気がするが、それはともかぁく!今は助かることだけを考えるんだぁっ!?」

 

 癖が強すぎるでしょ。

 いやもうホントに、誰だよ。

 

 「とぉにかく!ここは任せてくれ。時間を稼いで見せるさ!」

 

 任せるというか、正直不安しかない・・・・って言いたいことろだけど、

 

 「まぁ、“任せてくれ”って言ってるんだから、いいんじゃないかしら?多分だけど、アレ・・・・アイツなりの激励よ」

 

 姉ちゃんもこう言ってる事だし。 

 ホントに癖が強いな。

 それでも、そのお陰で大蜘蛛はアイツに向き直り、ゆっくりと近づいていく。

 

 「ほらほらぁ、そこの蜘蛛ぉ!さっさとこっちに来いって!余所見すんじゃないぞぉ!」

 

 さっさと離れろ。振り返るな・・・・・・そう言ってるようにも聞こえたのは気の所為ではないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よ・・・っと」

 

 「・・・・ん!」

 

 大蜘蛛が食堂から出て行ったのを確認して、僕たちは大蜘蛛が空けた穴から外に出る。

 

 2年ぶりに見上げた空は・・・・・清々しい程の青空だった。

 

 そんな時だった。

 バタンッ、と人が倒れる音が背後から聞こえた。

 

 「何転んでるのさ姉ちゃん、まだ安心するには早い・・・・・よ?」

 

 驚かせるために違いない・・・・そう思いながら振り返ると姉ちゃんは倒れていた。

 

 「ちょっと、どうしたのさ?早く立ってよ、ほら!せっかく外に出れたんじゃん!?ほら、立ってって!」

 

 いくら呼びかけても答えは返ってこなかった。

 周囲を見渡しても、時間帯によるものか人の姿はない。

 

 「どうしたら・・・・・。戻る訳にも行かないし、知り合いもいないし・・・・でもひょっとしてあそこなら」

 

 一箇所だけ、心当たりがある。

 初めて見つけてから結構な期間が経過しているから、今はもうないかもしれないが、こんなところで慌てふためくよりはマシかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 向かったのは、研究所の横のポツンと建っている、既に封鎖されている倉庫。

 幸いなことに、鍵は空いており、すんなり中に入れた。

 これからどうするか、そんな事を考えていると・・・

 

 「いやぁ、それにしても○○さんも思い切りますね。自分と考えの合わない人たち消すためだけに、ガストレアおびき寄せるとか」

 

 「人聞きの悪い事言わないで欲しいなぁ。偶然が重なっただけだってのに。偶然研究に使うために入れたガストレアが、偶然食堂に集まってた人たちを襲って、その時襲われたのが、偶然日頃意見が衝突してる人たちなだけだって。それだけだよ」

 

 扉越しに、そんな会話が聞こえてきた。

 顔は見えないが、2年間聞いたその声は覚えている。

 今、扉の向こう側で話しているのは、あの男に違いない。

 

 「しかし、君もお喋りだね。こんな所で話す内容じゃあないでしょ。ちょっとは気をつけてくれよ」

 

 「いやいや、何回か来てますけど滅多に人来ないですって。むしろ『俺しか知らない』ってレベルじゃないですかね」

 

 「気をつけるに越したことはないからね。もしバレたりしたら、“偶然”が起きる・・・なんて事もあるからね」

 

 「驚かさんで下さいよ、恐いっすねぇ・・・・・っと、じゃあ俺はそろそろ行きますね」

 

 「あぁ、またな」

 

 足音が遠のいていく。

 もういいだろう・・・そう安心した途端だった。

 

 「みーっけ」

 

 ガラッと扉が開かれるのと同時に男が入ってきた。

 

 「・・・・ぁ」

 

 あまりにも急で、反応出来なかった。

 

 「脱出したんじゃなかったの?」

 

 「そうなんだけど、やむを得ない事があって。・・・・・・・ホントに仕方ない状況だったんだよ」

 

 横になっている姉ちゃんと慌てる僕を見た男は、すぐに状況を把握したようだった。

 

 「なるほど~、まぁ大丈夫だと思うよ。正直なところ、今までにも全く同じことがあったからさ」

 

 「・・・初耳なんだけど」

 

 「君、いなかったし、本人も自覚なかったし」

 

 「そういう問題じゃないと思うんだけど!?」

 

 「・・・・ん」

 

 「姉ちゃん!?」

 

 「ほらね」

 

 どうやらホントらしい。

 

 「・・・・・」

 

 「良かったぁ〜。もうハラハラさせないでよ!」

 

 「・・・・ぐぅっ!?えっとその、これは?」

 

 安心のあまり、抱きついてしまった。

 

 「感動はわかるけど、離してあげなよ。戸惑ってるでしょう」

 

 「っ!?ゴメン、忘れて今すぐ」

 

 「家族思いでいいじゃん」

 

 男にそう言われた事で、恥ずかしさが増してきた。

 それを見て、男が余計に笑い出す・・・・そんな時だった。

 

 「えっと、どちら様・・・ですか?」

 

 たったその一言で、空気が一変した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・な、何言ってるの、なんでそんな事を言うのさ」

 

 「『なんで』と言われても、本当にわからないですし、なんなら、自分の名前も知らないですし」

 

 「ねぇ、一応聞くけど。今までにもこんな事あった?」

 

 「・・・・まさか。前例があればとっくに伝えてる」

 

 嘘であって欲しかった。

 『冗談だっての』・・・・そう言ってまた普段通りに接して欲しかった。

 でも、その望みは叶わないのだろうか。

 

 「・・・・落ち着きなよ」

 

 「無理でしょ。無理に決まってんじゃん。これで落ち着ける訳ないだろ!?」

 

 「・・・・・えっと」

 

 目を覚ましたばかりの少女は、戸惑っているようだった。

 

 「まずは君が落ち着かなければ、彼女だって何もわからないままじゃないか」

 

 「・・・ッ!」

 

 「外で話そうか。・・・・あぁ、君はもう少し休んでいた方がいいよ」

 

 「・・・・うん」

 

 そして僕は、男に従って外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今から話すのはあくまでも“仮説”だ。確証があるわけじゃない。いいかな?」

 

 「・・・うん」

 

 「憑依先の子の意識と、俺達の知る彼女の意識が融けて、新たな人格が生まれた。生まれたばかりだから、記憶とか全くないって事にも納得できる」

 

 「・・・・・」

 

 「勿論、前例が・・・と言うよりも君たちの実験自体、この研究所だけで極秘裏に行われていた訳だから、情報は全くと言っていいほど“ない”」

 

 「・・・・」

 

 「だから、少し時間をくれないか?その間に探って、調べて、考えるから」

 

 「・・・わかった。そもそも行きたい場所とか、そういうの全然ないからね」

 

 「ありがとう、ほんの数日間だけ頼んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し終えて二人が小屋に戻ると・・・・

 

 「ちょっとアンタ、聞きたいこと山ほどあるんだからね。ちゃんと全部話しなさいよ・・・・・ってなんでこの人もいるのよ?」

 

 姉の記憶は戻っていた。

 

 「・・・・どうするよ」

 

 「と、とにかく落ち着いて。やることは変わらないから、な?」

 

 「いやまずはアンタが落ち着けよ」

 

 珍しく慌てる男を尻目に、姉ちゃんに話しかける。

 

 「えっと、さっきのこと覚えてる?」

 

 「何言ってるの?さっきも何も、私たった今起きたばかりなんですけど?」

 

 「目が覚める前の事って覚えてる?」

 

 「えぇ勿論。確か外に出た途端に、頭が痛くなって、気づいたらここで寝てた」

 

 「・・・・・・と、とりあえず暫くはここで隠れててくれないか、俺も色々と考えてみるから」

 

 「・・・う、うん」

 

 「いいかい、絶対に慌てるんじゃないぞ、落ち着いて、な!」

 

 「いやだから、アンタが落ち着けって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男が出ていったあと。

 

 「どういうことが、説明してよね」

 

 「お腹痛くなって、トイレ行って今戻って来ました」

 

 「・・・・正直に話すのが身のためよ」

 

 「・・・・・突然姉ちゃんが倒れたから、慌ててここに来た。すぐに見つかるかもしれないし、他に逃げ込むところなんて思いつかなかったから」

 

 最初は、誤魔化そうと思っていたが、それじゃ怒られる。それなら素直に打ち明けよう。そう思っての事だった。

 

 「バカね。足手まといになるんなら、置いていけば良かったじゃない。そうすればアンタだけでも逃げれたでしょうに」

 

 「なんで、そんな事言うのさ。置いていける訳、ないじゃん。たった二人の姉弟、なんだから」

 

 「・・・今となっては全く他人の体に憑依してんだから、そんなの関係ないじゃないの」

 

 「それでも、意識自体が変わった訳じゃない。違う体に移ったからって、一緒に過ごした2年間がなくなった訳じゃない。だから見捨てていい理由になんて、ならない」

 

 解ってる。

 あの時、自分だけ逃げれば助かった。

 こんな所に態々、戻ってくる必要なんてなかったんだから。

 姉ちゃんはそう言いたいんだろう。

 逆の立場なら、多分同じことを言っていただろう。

 でも・・・・・

 

 「僕は、姉ちゃんと一緒に逃げ出して、どこかで食べて遊んで、変わらない毎日に“暇だ〜”って言えるくらいの日々を送りたいと思ったから」

 

 だから一緒に逃げ出したかったんだ。

 

 「・・・・・ホントにバカね。そんな事のために戻ってくるアンタと、それを態々聞いた私も」

 

 全くだ。

 

 「お互いに、苦労が絶えないね」

 

 「ホントよ。でもアンタがそれを言うんじゃないっての」

 

 気づけば、笑っていた。

 姉ちゃんも釣られて笑い出す。

 そんなこんなで、小さな窓から見える外では、すでに夕方になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「とりあえず、暫くはここで匿ってやる。飯とかその辺も用意しよう」

 

 あれから少しして、男がビニール袋一杯に、食べ物や飲み物を持ってきてくれた。

 

 「まぁ暫くって言っても、原因がわかるまでの間だからせいぜい長くて一ヶ月位だろうけどな」

 

 「お世話になりま〜す」

 

 「・・・・宜しく」

 

 二人の挨拶を聞いて、男はポツリとこぼした。

 

 「何か、始めて顔合わせした時と似てるな」

 

 偶然か、二人の言葉は2年前のあの時と似ていた。

 喜ぶべきか、悲しむべきなのか判断できないけど何故だろう。『悪くない』とそう感じていた。 

 

 「うわ、ちょっと聞いた〜姉ちゃん?僕達にあの頃に戻れって」

 

 「は、戻るも何も私達、そもそも最初から変わってませんけど。失礼するわね」

 

 「寧ろ、あの頃よりも酷くなってないか?なんていうかこう、当たりが強いっていうか」

 

 「ちょっと姉ちゃん!先に取らないでよ!?それ僕も狙ってたのにさ」

 

 「何言ってんの、早いもの勝ちに決まってんでしょ。それにこういうときは、怪我人である姉が優先って相場が決まってんのよ!」

 

 「それ言われると何も言えなくなるからやめてマジで。つかその相場、絶対今決めたでしょ!?」

 

 「無視して勝手に袋の中身漁らないでくれないかな!?」

 

 困惑する男を他所に、争奪戦を始める二人。

 あの頃とは姿も年も違うのに、懐かしいと感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日書類整理をしていた時のこと。

 以前、封鎖された倉庫の前で、一緒に話していたあの男がまた寄ってきた。

 

 「そういやぁ聞きました○○さん、この前逃げ出したCとDの捜索、打ち切ったらしいっすよ!そんでもって嘘つき(ライ)ゼロ(レイ)の意識もないんだとか」

 

 「・・・・・そうかぁ」

 

 「あれ、返事の割にあんま落ち込んでないっすね?」

 

 「まぁ、もう3週間位は経つからな。ある程度の想定はしてたさ」

 

 「あぁそうか、確か○○さんが初めて指揮してたんですもんね。そりゃあ知ってますよね」

 

 「・・・・書類整理しながらする会話じゃないだろ」

 

 「まま、そう冷たいことは言わんで下さいよ。自分らは研究者で、ココは研究所。いつも同じ光景ってと来れば、そりゃあ話す内容も似通ってくるってもんっすよ」

 

 「・・・口が減らん奴だな。で、今日の昼は何が食いたいって?」

 

 そこでひとまず手を止めて時計を見る。

 時刻はとっくに12時を超えていた。

 

 「流石ぁ!話がわかる上司がいて俺は幸せですなぁ。丁度さっきから腹が減って仕方なくて」

 

 「調子がいいやつ。最初からそのつもりで来たんだろうに」

 

 そう言って、作業を一旦やめ食堂に向かって足を動かすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いっやぁ、奢ってもらう飯は美味いっすよ。ホント感謝してまっす」

 

 「・・・・それで、ホントは何が望みなの?ただご馳走になるために来たんじゃないでしょ?」

 

 「へへ、疑り深いんすね」

 

 男は持っていた箸を置いてニヤニヤと笑っている。

 

 「・・・・実は俺、見ちゃったんですよぉ。○○さんがあの二人を匿ってるの」

 

 「・・・ふぅん?おかしな事を言うじゃないか。君はさっき自分で言ってたじゃないか。捜索は打ち切られたし、嘘つき(ライ)ゼロ(レイ)の意識はないって。それを一体どうやって匿うって言うんだい?」

 

 「しらばっくれないで下さいよ。連中の能力は俺だって知ってるんすよ。どうせ能力でCとDに憑依して、んで皆が忘れた頃に脱出させようとしてるんでしょ?」

 「・・・・・」

 

 「だんまりって事は当たり・・・・っすよね!」

 

 「・・・もう一回聞こう。何が望み?」

 

 「ヘヘ、場所を変えましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからソイツは例の倉庫付近まで歩いた。

 

 「前に言いましたよね、ココは俺たちしか知らないって。それに、証拠も揃ってる。これでもう言い逃れはできませんね」

 

 「・・・・・」

 

 「話は簡単。今やってる実験を俺に変わって下さいよ」

 

 「・・・・要は結果が欲しいって、そういうことかな?」

 

 「そうっす!自分で1から考えて、予算とかメンドイ事も考えるとか、正直ダルいんす」

 

 「だから、それらが既に決まっている今の実験を掠め取るって?」

 

 「イエスイエス!それに連中の能力はそこらの実験体よりも珍しいケースでしょ!?そんな実験成功させりゃあ、リターンもデカいはず」

 

 こいつ、そこまでして。

 でも、ここまで見破られては言い逃れは出来ない。

 

 「・・・・わかった」

 

 「うっし!さぁ聞いたかお前ら!?お前らを好きにしていいってよ!」

 

 そうして男は満面の笑みで倉庫の扉を勢いよく開けた。

 

 「・・・・・あぇ?」

 

 しかし、倉庫にはあの二人の姿はなく、代わりにいたのは・・・・・・いつかの大蜘蛛だった。

 

 「ッ・・・・・!?」

 

 最初こそ戸惑っていた男も状況を理解し、慌てて扉を閉めた。

 

 「・・・・どうしたんだい?好きにしていいって言ったじゃん。なんで閉めたの?」

 

 俺は静かに男に歩み寄った。

 

 「っ!?ふざけんな!“どうした?”はこっちの台詞だ!アンタ、何しようと・・・・」

 

 「・・・・前にも、言っただろう?“君もお喋りだね、気をつけてくれ”って?」

 

 「そ・・・・いや、なん!?」

 

 「いやいや怖いなぁ。こんな時に“偶然”が起きるなんて。寧ろツイてるのかな?」

 

 更に近づくと男はドサッとへたり込んでしまった。

 構わず、更に近づき、男が必死に閉じていた扉を開けた。

 中では先程の大蜘蛛が今か今かと餌を待ち構えていた。

 

 「ほら、お待ちかねだよ?」

 

 そのまま男を倉庫の中に押し込もうとする。

 

 「ひっ!?やっ、止めてくれっ!?い、嫌だっ!?俺はまだっ!?」

 

 抵抗する男を無視して、腕に力を込める。

 

 「良かったじゃん。君の望みは叶うよ。だってこれは“俺の”実験だからね。確かその権利は先程、君に譲渡したばかり。つまり君の実験ということになるからねぇ」

 

 「く、来るなぁ!?こっち来んなってぇ!?」

 

 既に男は話を聞いていなかった。

 目の前の大蜘蛛を遠ざけることに必死だから。

 

 「おめでとう、これで君は俺より先を進める。じゃあね」

 

 そう言って、俺は扉を閉めた。

 

 「それに君、さっきも言ってたじゃないか。腹が減って仕方ないって。良かったね、これで空腹に悩まされる事は“もう”ないよ。羨ましいなぁ」

 

 その時、あちこちから煙が上がり、悲鳴が聞こえた。

 しかも、一つどころではなく、それは複数からであった。

 あの二人はそろそろ、何処かに辿り着いた頃だろう。

 叶うなら、互いに無事に再開できることを。

 それだけ願うと、俺は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「時間がない、今日中にこの施設を出ろ」

 

 「・・・・ふぇ?」

 

 「ん・・・・何よいきなり」

 

 遡ること数時間前。

 

「・・・・ふぇ?」

 

 「ん・・・・何よいきなり」

 

 遡ること数時間前。

 まだ太陽も昇っていない時間。

 俺は倉庫に行って、寝ている二人を起こすとそう伝えた。

 

 「理由は後回し・・・・って言っても、まぁ納得してくんないよな」

 

 「ふあぁ・・・・・わかってるぅ」

 

 「くあぁ・・・流石」

 

 「君たちがここにいることがバレた。そんでもって、憑依していることも、だ。それをアイツはココではっきりさせようするだろう。しかし、君たちがいなければ、空回りということになる。だから、そういうことだ」

 

 「・・・わかった」

 

 「お世話になりました・・・っと」

 

 「おん?やけに素直じゃん。てっきり駄々こねるとばかり」

 

 「そりゃあ・・・」

 

 「・・・・ここで大人しく従っとけば後々恩を売れるってね」

 

 く、くだらな・・・・いやなんて年相応な。

 こっちのわがままを聞いてもらうんだ。

 これぐらいでどうこう言ってる場合じゃない。

 

 「ふふ、そっか。・・・・・じゃ、早いうちに出るんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男が出ていって暫くした頃。

 

 「・・・・で、どうするよ姉ちゃん」

 

 「何が・・・ってのは野暮ね。まぁ大人しく従うことにするしかないんじゃない?あの人が珍しくシリアスな雰囲気出してたからね」

 

 「・・・・ん。まぁそのつもりで、いつでも出れるように準備は済んでるからねぇ」

 

 「・・・流石ぁ。でも少しイラつくわね、その用意周到っぷり」

 

 「あれ、姉ちゃん?ひょっとして準備済んでなかったりするの〜?」

 

 「な訳ないっての。私だってとっくに済んでるわよ」

 

 「・・・・つまんな」

 

 「オイ今、なんて言った」

 

 「別に〜?ほら行こ姉ちゃん、善は急げだよ」

 

 二人は直ぐに倉庫を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし、これで脱出・・・・っと!」

 

 「そうね、なんか複雑ね。寂しいような嬉しいような」

 

 「ま、これで晴れて自由だし、どこ行こっか・・・・ぇ?」

 

 「ちょっと・・・何急に止まって・・・は?」

 

 研究所から出て、これからどこに行こうか。

 そう、考えていた時だった。

 遠目に、大きな虫が見える。

 一体何が、そう思っていると。

 あちこちから沢山の悲鳴が聞こえた。

 と同時に、近くのビルが崩れてこれまた何が原型になったのかわからない生き物が現れた。

 

 「・・・・はぇ?」

 

 ソレは赤く滴る何かを引きずって一歩、また一歩近寄ってくる。

 

 脚が震え、体が言うことを聞かない。

 これは、いやこれが恐怖。

 

 「・・・逃げよう、レイ」

 

 「うん・・・で、でも」

 

 脚が、動かないまま。

 そしてソレはゆっくりと鎌を振り上げ、僕の体に狙いを定める。

 

 「・・・・レイ!?」

 

 「ぐあぁっ!?」

 

 幸いにも、姉ちゃんが横からぶつかってくれたおかげで、鎌は外れた。

 さっきまで立っていたところには大きな穴が空いていて、僕達は、倒れたまま、動けずにいた。

 ソレは再び鎌を振り上げた。

 心なしか、ソレは動けず怯える僕らを見て笑っているように思えた。

 

 「さっきの言葉、訂正よ」

 

 「・・・姉ちゃん」

 

 「この覚悟は、準備してなかったかな」

 

 「・・・・ごめんね」

 

 無常にも、鎌はゆっくりと振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛みはなく、苦しさも感じなかった。

 どうなったのか、確認しようと目を開けると。

 

 「ッたくよォ?偶々通りかかッてみたら、ンだこのデカいの」

 

 自分とそう年が変わらないであろう白髪の少年があの大鎌を止めていた。

 

 「・・・アァ、面倒くせェ。なんだってこの俺がこンな事」

 

 「・・・・」

 

 「ぁ・・・・一方通行(アクセラレータ)?」

 

 声が出ない僕と、白髪の少年の名を呼ぶ姉ちゃん。

 

 「ンだよ、まだ生きてたンかよ。アァ面倒くせェ。コイツラも・・・チッ、それも面倒くせェな。こいつ潰したらさっさと行くかぁ。オイさっさとそこから消えろ、動きづれェ」

 

 白髪の少年はダルそうにそう告げると、触れてもいないはずの大鎌を捻じり切った。

 

 「・・・・・・う、ん」

 

 「行こ・・・・レイ」

 

 グギュアアアッとあの化け物の悲鳴を背に、僕らは静かにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




回想は次回辺りまで続けるつもりです。
もう暫くお付き合い下さい。
ちなみにこれ以降、下書き用意しておりません(お手上げ)
・・・・つまり、古城、当麻、蓮太郎の何処かに話を入れるということになります・・・ふえぇ(困惑)

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