とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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久しぶりの投稿ですね。
気づけば前回から半年経っていて、申し訳ないとは思っています。(反省しているとは言っていない)


板挟みと決断と

 男の話を強引に聞き終えて去った後で、少年は歩きながら考えていた。

 無論、あの二人の関係に関してだった。

 一方からは協力を強いられ、もう一方からは相談を受けた。

 姉の口振りでは、強力しなければ許されない気がするし、男の話では、悩みのハードルが予想よりも高い気がする。

  

 ある程度の覚悟はしていたが、まさかである。

 男の話から想像する姉の反応は、僕にとっては未確認の何物でもないのである。

 その反応は予想の斜め上をいっていた。

 もはや、『チョロ過ぎて不安になるレベル』である。

 ほぼ全ての出来事が科学で証明出来るこの時代に、そんな純粋すぎる程の絶滅危惧種が・・・・・

 いたわ、思いっきり。

 知ってるわ、はっきりと。

 心当たりありまくりだわ。

 それどころか、さっきまで目の前でパフェ食べてたわ。

 

 というか誰だそんな心綺麗な子。

 僕、今までほとんど一緒に過ごしてきたけど、一度として見たことないんだが。

 あと、一度としてそんな風に優しくされたことないんだけど。

 この差は一体何なのか。

 聞くに聞けない自分がもどかしいところだが、今の段階ではこの板挟みをどうやって切り抜けるかが優先事項である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれ、ここって・・・・」

 

 打開策を考えながら歩いていると、見覚えのない部屋が目に入る。

 

 電気はついてない上に、窓の一つも存在しない。

 真っ暗な空間には椅子が2つあるだけだった。

 いや、目を凝らすと自分より年下の少年、少女が一人ずつ、それぞれの椅子に座っていた。

 

 「あのぅ・・・・」

 

 ガタッ、と椅子が揺れる音が聞こえる。

 

 「ひっ!?・・・・・・ごめん、なさい。今から・・・・ですか?」

 

 それと同時に悲鳴が聞こえる。

 

 「?」

 

 「・・・・ひょっとして、違うんです・・・・か?」

 

 「えっとぉ・・・・・」

 

 どうしてここにいるの?

 そう聞こうとした時だった。

 

 「やっと見つけた!」

 

 声のする方を向くと、小走りで寄ってくる姉の姿が見えた。

 

 「まったく、何やってんのよ。っていうか早く来なさいよね」

 

 「・・・・いやいや、先に行っちゃったの姉ちゃんじゃん。僕は、置いてかれた立場な訳だから、責めるのはむしろ僕だと思うんだけど」

 

 「大体、なんでここにいるのよ。私達のいる部屋から一番遠いし、方向だって正反対だし」

 

 「・・・・・なんとなく、歩いてたら着いちゃった」

 

 反論するも聞いてくれない・・・・コレ自体はいつも通りだから、こっちも下手に反抗しようとするのではなく、会話を続ける事で、ストレスを和らげる方向に切り替える。

 

 「そう。なら、この子たちは?」

 

 「今まさに聞こうとしてたところだよ。あ〜でも丁度いいから姉ちゃんに頼もうかな」

 

 「は、なんでそうなるのよ?私はアンタを探しに来ただけで他には用事なんて・・・・」

 

 「まぁまぁ、そんなに冷たいこと言わないでよ。探し終わったんだし、他にやることもないんでしょ。なら全然大丈夫じゃん」

 

 

 「ふぬぬぅ・・・」

 

 ということで今回は僕の勝ち。

 いつもなら“関係ない”で逃げられるところだが、今日はどうやら調子が悪いみたい。

 ・・・何か言いたそうな雰囲気はあるけど、それは無視で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、あなた達は?」

 

 文句を言いつつも、なんだかんだで頼まれてくれる姉でした。

 

 「えっと・・・・・」

 

 「・・・・その」

 

 二人が口を開いた瞬間、突如として放送アナウンスが響き渡った。

 

 『突然ではありますが、“C”及び“D”は直ちに管理棟に来るように』

 

 それだけだった。

 たったそれだけの内容なのに、今まさに目の前で話し始めようとしていた二人が、口を閉ざしてしまった。

 

 「ちょっと、何よ今の?」

 

 「さぁ?っていうか管理棟って何処さ」

 

 ふと、目の前の二人が椅子から立ち上がった。

 

 「あなた達、どうかしたの?」

 

 「・・・・・・行かなきゃ」

 

 「早く・・・行かないと」

 

 ライの質問に答えることなく、ただそれだけを言い残して、二人は、部屋から出て行ってしまった。

 

 「・・・・ホントに何なのよ」

 

 「姉ちゃんが怖くて逃げ出したんじゃない?」

 

 「そんな訳ないでしょ!」

 

 「なら、直接見に行くしかないよねぇ」

 

 せっかく話せそうな雰囲気だったのに、あんなアナウンスの一つで邪魔されて“またの機会に”で済ませる程、僕は賢くない。

 ・・・・となれば後は簡単。

 

 「あ、ちょっと!」

 

 呼び止める姉の声を背にして、僕はこっそり二人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・勝手に、行くんじゃないわよ」

 

 「まぁまぁ、姉ちゃんだって気になるから付いて来てんじゃん?」

 

 「アンタが勝手に行くから付いて来たの!」

 

 「もう来ちゃったから諦めなって〜」

 

 自分より年下の二人が入って行ったのは責任者の部屋だった。

 扉が閉まったのを確認して、静かに部屋の前まで向かう。

 

 「・・・・・聞こえる?」

 

 「う〜ん、全然だね」

 

 耳を扉に着けてみても、中の音は全く聞こえない。

 そのことを姉に伝える。

 

 「どうしようか、諦め・・・・・」

 

 「何よ今更?せっかくここまで来といて、“やっぱり引き返そうか”とか言い出さないでしょうね?」

 

 「・・・・・・」

 

 「まぁ、外から聞こえないっていうなら・・・・・直で見聞きすれば良いって事よ」

 

 「・・・・・ずるいなぁ」

 

 「そこは賢いって言いなさいよ」

 

 そして二人は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識体となった二人は扉をすり抜け、中の様子を見聞きする。

 中には、スーツを着た見知らぬ大人たちが10人、そして、今まで何度か顔を合わせた程度の“責任者”。

 彼だけが、白衣に身を包んでいた。

 彼らは互いに向き合う形で席に座っていた。

 そして中心には、力無く横たわっている、さっきの子たち。

 

 『この者たちの処遇を如何とするか、それを今ここで決めようと思う。また当然だが、本会議において当人たちの意見は無関係とする。異論のある者は挙手を』

 

 『異論なし』

 

 『同じく』

 

 『同じく』

 

 『結構。それでは、会議を始めよう』

 

 何が起きているのか、理解できない中で、会議は進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・姉ちゃん」

 

 一旦、意識を体に戻し、隣で起きた姉に話しかける。

 

 「何よ」

 

 「詳しい事はわかんないけど、あの子たちを助けたい」

 

 「・・・・・」

 

 「姉ちゃん」

 

 「・・・・・・中を視たでしょう危険よ」

 

 「姉ちゃん!」

 

 「見知らぬ大人が10人、“白衣の人”が一人、あの子たちは意識無いように視えたし、囲まれてた」

 

 「・・・でも」

 

 「何より、私たちの能力自体、戦闘向きとは言わない」

 

 「・・・・で・・も」

 

 「正直言って、無理ね。見なかったことにして帰るのが一番安全よ」

 

 「・・・・」

 

 確かに、わざわざ危険を冒してまで挑む事ではないのだろう。

 このまま帰るのが安全だってのはわかる・・・・けど。

 

 「でも、それは私たち“だけ”での話。協力してくれる大人がいれば、話は変わってくる」

 

 「姉ちゃん!」

 

 その言葉に、思わず姉の顔を見る。

 

 「あくまでも、協力してくれる大人が“いれば”の話。誰もいなければ残念だけど、諦める他にないわ」

 

 「・・・・・・でも協力してくれる人なんて・・・」

 

 「いるじゃない」

 

 いない、そう言おうとした途端、姉の言葉に遮られた。

 

 「たった一人、私たちと繋がりのある“大人”が」

 

 姉の顔は、自信に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・という訳だから、手伝って?」

 

 向かった相手は“例の男”。

 2年の付き合いがあり、多少の事では動じなくなっていた彼だったが、今回ばかりは違った。

 見るからに余裕のない表情。

 姉の頼み方にも問題があるだろうが、それはこの際置いておこう。

 読み取れるのは、困惑と葛藤。

 それもそのはず、幾ら非人道的な話とはいえ、所詮は子供の言葉。

 仮に本当だったとしても上司に歯向かえば、研究者としてこの先を生きていく事は難しくなるだろう。

 

 「・・・条件がある」

 

 「・・・・」

 

 「俺の作戦に従って動いてもらう。これが聞けないなら協力しない」

 

 「構わないわ。いいわね、レイ?」

 

 「うん!」




追想に関しては、次回で終わる予定です。
そして追想が終わったら、次は何の話にしようか。
これはまだ未定ですが、待っていて頂けたらと思っています。
それでは、また次回。

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