とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社 作:怠惰ご都合
・・・・描写が下手で申し訳ありません。
目覚めて一番最初に感じたのは、右手に伝わる温もりだった。
首を動かすと両手で強く握ったまま寝ている夏世。
よく見れば病衣を着ている。
天井も今まで何度も見てきたから知っている。
どうやら病院ににいるようだ、と冷静に分析していると夏世がもぞもぞと動き出す。
「・・ぅ・・・ん・・・・?」
「や、夏世」
「おはよう・・・・ござい・・ま・・す?」
「うん、おはよ~」
「・・・・って全然『おはよ~』じゃないですよ!」
笑って挨拶をするもなぜか怒られてしまう。
「・・・・なに大声出してるの?ここは病院なんだから静かにね」
呆れながらライが入ってくる。
「あ、姉ちゃんもおはよ~」
「・・・・失礼したわね。どうぞごゆっくり」
今入ってきたにも関わらず、こちらを見るやすぐに出て行ってしまった。
「?」
全く状況をも見込めない為頭上に?を浮かべていると、夏世が慌てて手を放す。
僕はゆっくりと口を開く。
「・・・・・・・どうして、あんな事をしたの?」
「以前、レイさんに命を救われたように、私も行動しただけです」
俯きながらも夏世は答えてくれる。
「・・・・そっか。でも僕なんかの為に命を張らないで、もっと大事な・・・」
「そんな淋しい事言わないで下さい!」
突然言葉を遮られた。
横を向くと、夏世は涙を流していた。
「・・・夏世」
「だって貴方は、私にとって・・・・・大事な人、だから」
気恥ずかしそうにまた俯いてしまう。
最後の方はよく聞き取れなかったけど、聞き直しても怒られそうだからやめた。
「ありがとう」
そう一言告げると夏世は嬉しそうに顔を上げる。
「でも、夏世には姉ちゃんだっている。一七七支部の皆だっているし、蓮太郎たちだっているんだ。他にも夏世の事を大切に想ってる人がいる。・・・・だから、もう一人じゃないって事を忘れないで?」
しかし、言い終えると今度は微妙な顔をしている。
何か変だったのかな、と考えていると夏世の言葉が聞こえる。
「・・・・・わかりました」
少しぶっきらぼうに言っているように聞こえるが気のせいだろう。
「じゃあ、今度は私が聞きます」
「・・・・・うん」
「あの時はなんで庇ってくれたんですか?・・・・一歩間違えば死んでたのに」
「・・・・」
正直に言っていいものか困ってしまう。
暫く沈黙した後に口を開く。
「・・・・・だから」
「・・・え?」
「夏世は僕の、大切な・・・・・パートナーだから」
物凄く恥ずかしい。
顔が熱を帯びているのもわかってる。
それでも、伝えられた事にほっとしてる。
「まったく、素直じゃないですね」
彼女は、嬉しいのか呆れてるのか判らないをしている。
「今はそれで納得してあげます!」
それでも、どこか満足そうに笑っていた。
窓から夕日が差し込むと同時に、夏世が尋ねてきた。
「・・・・変だと思わないんですか?」
「何が?」
「だって、『呪われた子どもたち』が自分の横で、同じ空間で笑ってるんですよ!?」
「周りがどうかは知らないけど、僕は構わないよ?」
「どう・・・・して?」
夏世は不思議そうに聞いてくる。
「いくら『呪われた子どもたち』が体内にガストレアウイルスを有してるとはいえ、彼女たちは人間だよ。さっきの夏世みたいに泣いたり笑ったりする」
「なんで・・・・そんな風に考えれるんですか?」
「僕たちが住んでる場所は確かにモノリスに囲まれた東京エリアだけどね。それと同時に、能力者がいる学園都市でもあるし、魔族特区でもあるんだよ。何が起こったって不思議じゃないでしょ?」
「・・・・」
夏世は黙ってしまった。
「後さ、僕は今の生活が好きなんだ。兄ちゃんと姉ちゃんがいて、古城たちや一七七支部の皆がいて、夏世がいる。そんな皆と毎日を楽しく過ごしていけるなら、それだけで十分だよ」
恥ずかしいけど事実だ。
だから、笑って夏世の方を向くと、彼女は泣きながら笑っていた。
「ごめんなさ・・・・・ッ!もうすぐ・・・・終わ・・・ますからッ!」
夏世の言葉は嗚咽によって途切れ途切れになっている。
しかし、彼女の涙は止まらない。
まるで、今まで我慢していた分を出し切ろうとするかのように。
僕はそっと、彼女を抱きしめる。
「放して・・・・くださ・・いッ!もう・・・いいです・・・からッ!」
夏世は抜けようとするけど僕は放さず、そっと右手で彼女の頭を撫でる。
「自分に正直になっていいんだ。泣きたいときは泣けばいい。困ったら誰かに頼ればいい。それが・・・・人間なんだから」
夏世も僕を抱きしめる。
温かさを感じながら、僕は彼女の涙が収まるのを静かに待ち続けた。
やっと、少女の涙は止まった。
外も暗くなり、もうすぐ面談時間も終わろうとしている。
だが、残念なことに撫でる手を止めさせてもらえない。
今もすっぽりと包まれている少女が許してくれないからだった。
「夏世、邪魔して悪いけどそろそろ帰るわよ」
ライの声を聞いて、夏世がベットから離れる。
「もう二、三日は検査の為に入院だってさ。この際だからしっかりと休みなさいよ?」
「ありがと~」
二人を見送るとレイは・・・・・・散策することにした。
元より黙って入院していられるほど大人しい性格ではない。
何より、監視のない今がチャンスなのだ。
これを逃すわけにはいかなかった。
「・・・・どこ行こうかな~」
勢いよく病室を出てはみたものの、行くあてが無かった。
院内をぶらついてる事、数分。
扉に『特別室』と書かれた部屋を見つける。
おもしろそうだと扉を横にスライドした途端、
「どォして俺がコイツと一緒なんだよ?」
「上条さんだって嫌でせうよ!何が悲しくて学園都市第一位と同じ部屋で寝泊まりしなきゃいけないんだーっ!」
よく知る声を耳にした。
何も見なかった事にして扉を閉めようかと思ったが、もはや顔馴染みとなっているカエル顔の医者を発見した為、諦めて中に入っていく。
「や、二人とも元気そうだね~」
声をかけるが聞こえていないようだった。
「レイ君、ようやく目覚めたんだね?」
そんな中で、カエル顔の医者が声をかけてくる。
「また迷惑をかけたね、
「・・・・丁度いい。話をしたいから部屋を移すんだね?ここだと、違う意味で頭が痛くなるんだね?」
「・・・・・・アハハ。そうですね」
苦笑しながら、部屋を出る。
二人は向き合う形で座る。
「まず、君の傷はあまり深くなかったし、それ以外にも深刻な箇所はなかった。加えて、君が庇った彼女にも特に怪我とかは無かったようだ」
「そう・・・ですか」
ほっとした。
夏世が傷ついていたらどうしようと内心焦っていた。
「・・・・・さて、次は君の能力について話そう」
「・・・はい」
「君の能力は
「・・・・・」
「それだけを聞けば確かに強力だ。・・・・でも一度受けた衝撃は必ず君にダメージを与えているんだね」
「・・・そう、ですね」
「特に
それは解っていた事だ。
能力を使うたびに身体が悲鳴を上げているのは、今までに何度も感じた。
内臓が傷つくことや、骨折だってあっただろう。
使っちゃいけないのは知っている。
それでも、使わなければいけなかったんだ。
「・・・・いくら治療できるからって、自分から進んで怪我を増やすのはお勧めしないんだね」
「ありがとう、ございます」
「僕からの話は終わりだ。何か質問があれば答えるんだね?」
「じゃあ、一つだけ。あの二人が一緒の部屋にいる理由について」
「・・・・簡単さ。彼等がまとまっていた方が止めるのが楽なんだね」
なんともシンプルな答えだった。
確かに、抑えるなら二人同時の方が効率がいいだろう。
・・・・・・止める手段は判らないけど。
最後に頭を下げて、僕は部屋を出た。
『今日、夏世ちゃんに何かしなかった?』
もうすぐ寝ようとした時、脳内に姉の声が響く。
何かあったのだろうか。
そう思って聞いてみた。
「突然どうしたの~?」
『家に帰ってからおかしかったのよ。急に顔を紅くしたり笑いだしたり。心当たりはないかしら?』
むしろ心当たりしかない気がする。
逆に、ないと言える理由が存在しないのだ。
「・・・・・・う~ん、別に」
「本当に何もしてない?今の間がすごく気になるんだけど?」
・・・・・何故かこんな時に限ってライはやたらと鋭い。
どう答えても看破される気がする。
かと言って答えないのも怪しまれる。
だから、適当に答えることにする。
「特には何もしてないよ~」
『・・・・まぁ、いいわ。退院したら”しっかり”聞かせてもらうから』
最初からバレていたようだ。
まぁ、あの場で原因らしい原因は僕しかいないだろうが。
知ってて聞くあたり、性格が悪い。
『何か言ったかしら?』
穏やかで、それでいてしっかりと響く声が返ってくる。
見透かされているような気がして冷や汗をかいてしまう。
「・・・何でもないよ~」
『そ。明日も行くからね』
どうやら当分は安心できないらしい。
一先ず、明日を迎える為にも大人しく睡眠をとることにしたレイなのだった。
次の日の夕食後、レイは大部屋へと来ていた。
「・・・・つまりオマエらは、周囲の奴らを頼らず、自分たちで抱え込もうとしてたってわけかァ?」
「・・・・・うん。でもさ、兄ちゃんにだけは言われたくないな~」
今回の経緯を話し合っている中で、レイは理解する。
結局のところ、自分たちは揃って自分勝手なのだ。
家族を気遣い、自分だけが苦しめばいいと。
「そういえば、当麻さ~」
この重くなった雰囲気を少しでも変えようとレイは話を振る。
「なんだよ?」
「なんで夏休みに二回も入院してんの~?」
「そ、それはだな」
当麻の視線が気まずそうに逸れていく。
「・・・・・・当麻、困ってる人を見過ごせないのは美点だけどさ~、当の本人が怪我したって意味ないんだよ?それで困る人だっているんだからさ」
「そう、だな」
当麻と話し終えると、レイは廊下に出る。
再び、診察室へと向かう為に。
「いきなり呼び出して悪かったんだね」
「・・・いえ」
診察室ではカエル顔の医者が待っていた。
「そう警戒しないでほしいんだね。・・・・・実は、実験の副作用について新たに判明した事があるんだね。ただ、残念なことにいすべてを解析できたわけじゃないんだね」
「・・・・・」
静かに椅子に座った。
「さて、自分の身体を出入りするのは、まぁ良しとしよう。だが、自分以外の身体に出入りするのは控えたほうがいいんだね。万が一、元に戻れなかったり、君以外の人に何かあってからでは困るんだね」
それは以前から相談していた事だ。
僕と姉は、能力開発の段階で幽体離脱ができるようになった。
そしてそれは、他者の身体に乗り移るといったものだった。
その理由を知る為に、僕たちは分析を頼んだのだ。
「もう一つ・・・・と言ってもこれは僕の推測だ。忘れてくれても構わない。・・・・・君たち二人のデータを基に”木原幻生”の実験に巻き込まれた人物がいるかもしれない。身の回りには注意してくれ」
「ありがとうございます」
一言告げて、僕は診察室を後にした。
「『私の実験に犠牲はいない』か」
自身の病室の戻ったレイは一人呟いた。
それはかつて木原幻生が口にした言葉。
確かに彼の実験に犠牲の伴う失敗は無いのだろう。
公には”ない”事になっているのだから。
実験には土台となるものが必要なのをレイは知っている。
当時の施設にも、”土台となったもの”が多数いたのを、今でも覚えてる。
「・・・・・・・狸め」
最後に一言残し、レイは目を閉じたのだった。
次回でレイは退院となります。
展開が速くてすみませんがご了承ください。
それではまた!