とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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決意

 「あの時は確かに怒ってたよ」

 

 お茶をみんなに配り終え、椅子に座ってレイは話しだした。

 

 「春上達に対する事もあるけど、大半は”木原"への憎しみだったんだよ」

 

 「憎しみ・・・・ですか?」

 

 それまで、静かに話を聞いていた佐天からの質問にレイは答える。

 

 「うん。佐天たちは知っているはずだよ。”木原”は犠牲を顧みず、必要とさえ思っている。何より、自分の孫にさえ実験を行うという人を」

 

 レイの言葉に、御坂はハッとした。

 

 「”木原幻生”ですね」

 

 「どうして、レイ先輩が”木原幻生”について知っているんですの?」

 

 白井も疑問に対して、レイは素直に答える。

 

 「知ってて当然だよ。俺と姉ちゃんの・・・・能力開発を行った人なんだから」

 

 レイの言葉にみんな、言葉を詰まらせてしまう。

 

 「普通なら感謝してるよ。だけど、能力が発現してから数日後に、姉ちゃんが記憶喪失になったんだよ」

 

 「理由は?」

 

 それまで黙って、自分の仕事をしていた藍羽がパソコンから目を離し尋ねて来た。

 

 「分からない。幸い、記憶喪失はすぐに治った。でも、姉ちゃんが又記憶喪失になるのかと思うと居ても立っても居られなかったから調べようとしたんだ」

 

 「どうだったのよ?」

 

 藍羽の質問に答えたのはライだった。

 

 「『ガストレア大戦』が起きたから調べられなかったのよ。当然、研究者たちは逃げたわ。私たちを置いてね」

 

 ライの一言で初春は顔を曇らせてしまう。

 そこで今度は、レイが言い出す。

 

 「でも、良かったんだよ。だって、美偉さんに会えたんだから」

 

 「どういうことなんですか?」

 

 夏世は固法に説明を求める。

 

 「あの時は、逃げ遅れた人がいないか巡回してたのよ。すると、泣き声が聞こえてきてね。声のするビルを視ると、子供が二人いたのよ。急いで助けたんだけど、泣かせちゃってね」

 

 夏世は子供が泣いてしまった理由が理解できなかった。

 そんな夏世の気持ちを察したレイは、説明を補足する。

 

 「あれは誰でも泣きますよ。外で大きな物音がしたと思ったら、大人たちが大慌てで出て行って、そんな時に知らない人が自分に駆け寄って来たんですから」

 

 その言葉を聞いていて、白井は悟った。故に聞いてみた。 

 

 「つまり、泣いたのはレイ先輩ですのね?」

 

 その瞬間、レイの目が不自然なくらい泳いだ。

 白井がそれを見逃すはずもなく、もう一度聞く。

 

 「泣いたんですね?」

 

 「・・・・・はい」

 

 そして、答えを言ってすぐに、レイは夏世に尋ねる。

 

 「幻滅したでしょ?」

 

 「いいえ、うれしいですよ」

 

 しかし、夏世は呆れてなどいなかった。それどころか、喜んでいた。

 

 「どうしてさ?」

 

 理由が分からず、レイは思わず聞いてしまった。

 

 「自分の知られたくない過去を人に話すというのは、勇気が必要なんです。「この人なら信用できる」って思えなければ駄目なんですから。だから、私はうれしいんです。レイさんに信用してもらえているんですから」

 

 夏世の言葉は、レイの心に響いた。

 目の前の少女たちは、こんな自分を大切に思ってくれているのだ。

 レイは恥ずかしかったが素直に感謝する。

 

 「夏世、皆、ありがとう」

 

 皆がそれぞれ返事をする中、夏世だけは頬を赤くしていた。

 だが、レイはそれに気づかず、話を続ける。

 

 「助けられた後は、しばらく泣いてた。だけど、美偉さんは僕が泣き止むまで待っていてくれた」

 

 固法の行動は、白井達を感心させた。

 

 「当然、憧れた。この人いたいな風紀委員(ジャッジメント)になりたいって思った。だから、学園都市統括理事長に頼み込んで、能力開発を引受けてもらったんだ」

 

 その瞬間、御坂は驚きを隠せなかった。

 目の前にいる学生が、学園都市の統括理事長と接点を持っている事を理解してしまったから。

 レイは気付いていないようで話を続けている。

 

 「それから二年経過して、やっと、能力を制御できるようになったから、いそいで風紀委員(ジャッジメント)になった」

 

 突然、レイが溜め息をついた。

 さっきまで、あれほど嬉しそうに話をしていたというのに。

 佐天は理由を聞かずにはいられなかった。

 

 「どうしたんですか?」

 

 ライが代わりに答えを出す。 

 

 「固法さん、私たちの事を忘れていたのよ」

 

 答えを聞いた途端、固法を見る白井達の眼差しは、尊敬から残念なものを見る目へと変わっていた。

 固法は急いで弁明する。

 

 「仕方ないでしょ!助けた時は泣いていた小学五年生に、身長を越された上に、「守らせてほしい」なんて言われたのよ!」

 

 しかし、夏世はそれでも問い詰める。

 

 「でも忘れていたんですよね?」

 

 「うう・・・・」

 

 夏世の一言により、固法が小さく見えてしまうのは言うまでもない。

 

 「思い出してもらえたのはいつなんですか?」

 

 初春が知りたかった事を尋ねると、レイはすぐに答えてくれた。

 

 「それから三年後、去年に起きたある事件の時だよ。白井、第七学区で強盗事件が起きたのは知ってる?」

 

 問いかけられた白井は慌てず、答える。

 

 「勿論ですわ。犯人が『絶対等速(イコールスピード)』を使って防犯シャッターを破った時のことですから」

 

 「うん。巡回中に女の子の泣き声が聞こえてきたから行って、事情を聞くと、犯人が人質を取って立てこもってたんだよ。浅葱に中の様子を調べてもらって、突入しようとしたんだ。だけど、先を越されちゃって」

 

 佐天はレイの言葉が気になり、理由を尋ねる。

 

 「誰にですか?」

 

 「どっかの誰かさんが撃った『超電磁砲(レールガン)』に。その後、犯人を呼んでおいた警備員(アンチスキル)に引き渡して、怪我人の保護を開始した。足を骨折している女の子がいたし、背中に金属片が刺さった人もいた。ってどうしたの?」

 

 レイの質問は、怪我人の容体を話している中で、急に顔を赤くした 白井・初春・御坂・固法によるものだ。

 

 「足を骨折してましたの」

 

 「シャッターの前で泣いてました」

 

 「背中に金属片が刺さってたわ」

 

 「『超電磁砲(レールガン)』撃ったのあたしです」

 

 四人がそれぞれ、説明すると、レイは笑ってしまった。

 

 「美偉さんは分かっていたけど、他は知らなかったなあ~。さあ、昔の話は終わり。そうだ!御坂と佐天、悪いんだけど、ちょっといいかな?」

 

 レイは話を終えると、二人を呼びだし、返事が聞こえると廊下に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうかしたんですか?」

 

 自分が呼び出された理由を知るために佐天は尋ねた。

 

 「佐天はさ、まだ能力に憧れてる?」

 

 レイの問いに、佐天は戸惑ってしまう。

 

 「正直に話してくれればいいんだ。別に責めてるわけじゃないから」

 

 「はい」

 

 佐天の答えにレイは頷き、佐天の耳元で話す。

 

 「・・・・・能力者になれるかもしれない」

 

 「本当ですかッ!?」

 

 佐天は、大声こそ上げなかったが、勢いよくレイに向き直る。

 

 「・・・う、うん。あとごめん、ちょっと近い」

 

 佐天を落ち着かせようと、レイは言い聞かせる。

 

 「す、すいません」

 

 レイの言葉にハッとして、佐天は視線を戻す。

 

 「詳しい事は今度、言わせてもらうね。他の人には内緒だよ~」

 

 「はい!ありがとうございます!」

 

 佐天は嬉しそうに支部へ戻って行った。

 

 「何を話してたんですか?」

 

 「秘密~」

 

 御坂は佐天が嬉しそうにしている理由が知りたかったが、断られてしまった。

 そして、自分が呼ばれた理由を尋ねた。

 

 「あたしはどうして呼ばれたんですか?」

 

 「最近、過去の自分の行動で後悔してない?」

 

 「どうしてッ!?」

 

 御坂はレイの言葉に驚きを隠せなかった。

 だが、レイは続ける。

 

 「今は詳しい事は言えないけど、これだけは言っておくね。実験はまだ続いてる。ただ、僕たちはそれを止めたい」

 

 それだけ言うとレイは支部に戻って行った。

 御坂にはレイが何を抱えているのか理解できず、ただその場に立っていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 その日の夜、御坂は研究所潰しを再開した。

 

 

 

 

 




次回はあの四人組を登場させるつもりです。

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