とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

18 / 46
年が明けました。
今年もよろしくお願いします


それぞれの思惑

 午後四時十分。

 里見蓮太郎と蛭子影胤の対峙を高度八百メートルから静かに見降ろす電子の目があった。

 東京エリア第一区の作戦本部、日本国家安全保障会議(JNSC)では、偵察飛行している無人機(UAV)に備わった各種データ伝送技術が、ほぼリアルタイムで会議室のモニターに表示されている。

 作戦本部は死のような静けさが降りていた。

 長机に腰掛けた内閣官房長官や防衛大臣が気まずげにちらちらとお互いの顔を盗み見ている。

 つい先程、十四組と一人、二十九人もの民警の社員が総出で蛭子影胤に挑みかかって返り討ちにされた映像を見たばかりだ。

 現在、六人の人間が対峙し、静かに戦闘の開始を待っている映像が上空から俯瞰して映っている。

 長机の上座についたJNSC議長、聖天子は溜息をついた。

 

 「現在、付近に他の民警ペアは?」

 

 「は、一番近くにいるペアでも、到着に一時間以上かかるかと」

 

 ブルドック顔の防衛大臣は、困り果てたようにハンカチを顔の当てながら答えた。

 聖天子は副議長の天童菊之丞を見ると、菊之丞は巌のような相貌で一つ、頷きを返してきた。

 

 「聖天子様、ご決断を」

 

 周りに言われ、聖天子は黙考の後、椅子から立ち上がる。

 

 「では・・・」

 

 言おうとした時、ふと、会議室の外に立たせた護衛官(SP)が動揺して声を荒げているのが聞こえた。

 いきなりシチュエーションルームの扉が開け放たれ、数人の人間が殴りこんでくる。 聖天子は先頭にいる少女と少年を見て一瞬反応が遅れた。

 

 「何事ですか!」

 

 聖天子が叫び、会議室の中がにわかに色めき立つ中、先頭に言う黒紙の少女、天童民間警備会社社長、天童木更は肩で風を切りながら、部屋の中を横切ると居並ぶ面々に一枚のぺラ紙を突き付ける。

 木更が取りだした一枚の紙にはサークルが引かれており、サークル外側に寄せ書きのように直筆の名前と判が押してある。

聖天子は覗きこんで思わず息を飲んだ。傘連判だった。古い昔、百姓一揆の固い団結を約束すると同時に、首謀者を隠すために円状にしたものだ。

 周囲の視線はごく自然に、その無数の名前のうちの一人、防衛大臣に向けられる。他の高官は青い顔で防衛大臣の周囲から後ずさりして行った。

 

 

 「ご機嫌麗しゅう轡田大臣」

 

 「こ、これは何の冗談だ!」

 

 木更が芝居がかったように挨拶するが、当の防衛大臣は声を荒げることしかできなかった。

 「あなたの部下がこんな面白いものを持っていましてね。連判状に書かれている通り。あなたが蛭子影胤の背後で暗躍した依頼人ということです。それをマスコミ各社にリークしようとしたのもあなたです」

 

 「そ、そんな馬鹿な・・・」

 

 絶句している男を見て、木更は顎に手を当ててわざとらしく首をかしげる。

 

 「直筆で傘連判なんて、随分古風な事をなさるんですね。おかげでこの計画に荷担した人間が一斉検挙できそうで手間が省けましたが」

 

 聖天子は目を細める。これ以上黙って聞いているわけにはいかないのだ。

 

 「この会議室内は国防を担うべく置かれた超法的な場所です。土足で踏み込まれるのは困ります」

 

 「そ、そうだ。貴様は所詮薄汚い民警の犬にすぎぬ。どこからそんなものを手に入れたかは知らんがとっとと失せろ!」

 

 聖天子の尻馬に乗って大臣が吼えたてる。

 

 「聖天子、君の言うことは確かに正しい。しかし私はこの事実を知って、一刻も早く知らせねばとその二人をそこに向かわせた。君もスパイを排除せねば落ち着いて議事を進められないのだろう?」

 

 突然声が聞こえてきた。

 音源をたどると、木更と共に入って来た少年、レイが持っている携帯電話からだった。

 声の主はこの会議に参加していない、アレイスターだろう。

 

 聖天子が菊之丞に合図を送ると、菊之丞は冷ややかに防衛大臣を見た。

 

 「連れていけ」

 

 「そ、そんな・・・・。天童閣下ぁッ。私はッ、私はああああああッ!」

 

 護衛官が両脇を抱えると、哀願し泣きわめく大臣を外に引きずっていく。

 

 「では、私もこれにて失礼します」

 

  「天童社長、そうはいかないでしょ~。僕だけ置いてかれるのはね~」

 

 木更は踵を返そうとするが、同伴してきたレイに止められる。

 

 「どういう事?」

 

 「すみませんが、この作戦が無事に終了するまで、あなたをこの建物からだすわけには参りません。この部屋に軟禁させてもらいます」

 

 「そういうことなら仕方ありませんね」

 

 

 「木更よ・・・・よくもここに顔をだせたな」

 

 怒気を露わにしかけた菊之丞に、木更は泰然と微笑んだ。

 

 「ご機嫌麗しゅう、天童閣下。お久しぶりですね」

 

 「地獄より舞い戻ってきたか、復讐鬼よ」

 

 「私は枕元で這いまわるゴキブリを駆除しにきただけです。ここに居合わせたのは偶然にすぎません。気の回し過ぎではございませんか?」

 

 「よくもそんな戯言を・・・」

 

 菊之丞と木更が言い合っている中、木更の瞳が冷たい輝きを放ちながら細めらる。

 

 「すべての『天童』は死ななければなりません、天童閣下」

 

 

 「き、貴様・・・・」

 

 とても祖父と孫の会話には聞こえなかった。ある程度木更と菊之丞の関係を知っているだけに、聖天子も生きた心地がせず、レイも苦笑いをしていた。

 

 「二人ともその辺で。天童社長、あなたもモニターを見たならある程度現状は把握しておいでのはず。意見を聞いておきたいのですが、よろしいですか?」

 

  聖天子は二人の言い合いを止めて木更に聞いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前四時十五分。

 生ぬるい風が蓮太郎の肌を撫でて行く。

 鼻孔には強い潮のにおい。寄せては返すさざ波の音がコンクリの岸壁に当たり砕けていく。月光が水面を銀鱗の如く照らすが、水底はあまりにも暗くて見通せない。

 潮のにおいに混ざる血のにおい。あたりは死体の山。そして教会の頭上には二匹の修羅が立っている。

 蓮太郎は、当たりに広がる血の海を眺め、低く押し殺した声で問う。

 

 「これを全部、貴様等が?」

 

 「教会を血で汚したくなくてね。もう私たちができることはすべて終えた。ステージⅤガストレアはじき訪れるだろう。あとは時を待つだけさ」

 

 「・・・・・ケースは教会の中か?それといま中に入って準備とやらをぶちこわせば、ステージⅤ召還を止められんのか?」

 

 「不可能だろうね。なぜなら、私たちが立ちはだかっている」

 

 「じゃあ、ぶっ倒す」

 

 影胤は肩をすくめて笑う。

 

 「私は世界を滅ぼす者。誰にも私を止めるとはできない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・天童社長、里見ペアの勝率はいかほどと見ますか?」

 

 聖天子の言葉を聞いた木更は感情を交えない冷たい瞳で顎に手を当てた。

 

 「三十%ほどかと。私の期待を加味して良いのなら、勝ちます、絶対に」

 

 官房長官は小馬鹿にしたように腹を揺すった。

 

 「天童社長、自分の抱えている社員の強さを信じたい気持ちはわからないでもないがね、二十九人もの民警がたったいま殺されたばかりだ。それに相手は『新人類創造計画』の生き残りなんだぞ、勝ち目など一%もない」

 

 「十年前、里見君が天童の家に引き取られてすぐの頃、私の家にガストレアが侵入して、私の父と母を食い殺しました。私はその時のストレスで、持病の糖尿病が悪化、腎臓の機能がほぼ停止しています。その時、里見連太郎は私を庇って、右手、右足、左目をガストレアに奪われました。瀕死の彼が運び込まれたのはセクション二十二。執刀医は室戸菫医師」

 

 「室戸菫!?まさか彼は!?」

 

 頃合いだろうと思い、聖天子は隣を見遣る。

 

 「菊之丞さん、みなさんに彼等のスペック表をお配りしてください」

 

 

 

 

 

 

 影胤は教会から飛び降りる。

 

 「わかっているのかい里見くん?序列元百三十四位のこの私に挑むということの意味を」

 

 「・・・・安心しろ、正しく理解してんよ影胤。二度の敗北、見方は全滅、援護は来ない。ああ、願ってもない状況だクソヤロウ!!戦闘開始ッ、これより貴様を排除するッ!」

 

 蓮太郎はネクタイを緩めながら告げる。

 

 影胤は斥力フィールドを発生させるが、連太郎は構わず『百載無窮の構え』を取る。

 

 「天童式戦闘術一の型三番ッ、『轆轤鹿伏鬼』ッ」

 

 足に仕込んだカートリッジ推進力により爆速された連太郎の拳が、迫り来る圧殺の壁に捻り込まれ貫通。インパクト面が爆発し、双方が靴跡を引きながら吹き飛ばされる。

 

 「マキシマムペインを破ったのか・・・・・ッ?」

 

 吹き飛ばされた時、影胤は見た。蓮太郎の右腕が、右足が、左目がバラ二ウムに変化している事を。

 

 「バラ二ウムの義肢、だと・・・・?里見くん、まさか君も?」

 

 「俺も名乗るぞ影胤。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』里見蓮太郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターを見ていた官房長官が金切り声をあげながら椅子から立ち上がる。髪をぐしゃぐしゃと掻きながら狼狽と恐怖を露にした。

 

 「もう一人いたのか?ガストレア戦争が生んだ人間兵器が・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・フィールドがダメージを殺しきれなかった? ・・・・・・・クク、ハハハ、フハハハハハッ」

 

 影胤は爪先立ちで一回転しながら両手を広げた。

 

 「楽しいッ、楽しいよ里見くん!私は痛いッ、私は生きているッ。素晴らしきかな人生!ハレルゥゥゥゥヤァァァァ!」

 

 小比奈が視界から消えたかと思うと、蓮太郎と延珠の間に出現。耳元で悲鳴。

 

 「パパをいじめるなあああああッ!」

 

 小比奈はその場で小太刀を両手に持ったまま舞うように一回転。十メートルの距離をゼロにする踏み込みと斬撃が神速で振るわれたことを除けばデタラメともいえる剣技。

 打ち合わされる剣戟音。驚愕の表情を浮かべたのは、果たして小比奈だった。

 右の刀を延珠の靴の裏が、左の刀を蓮太郎の義手が防御して止めていた。

 蓮太郎の義眼の知覚増幅デバイスが敵の位置、移動速度から予測移動方向を演算したのだ。

 鍔迫り合いながら蓮太郎は自由になる左手でホルスターからXDをドロウ。

 だが、小比奈が駒のように回ることで銃弾は小太刀に防がれてしまう。

 延珠の蹴り技も影胤の二丁拳銃によって防がれる。

 

 「哭けソドミーッ、唄えゴスペルッ」

 

 回転ノコギリのような爆音をまき散らしながら影胤の二丁拳銃が火を噴くが延珠はなんとか回避する。

 

 

 蓮太郎はXDを撃ち、どうにかして小比奈から逃れようとするがそうはいかない。

 その時、どこからか鉄柱が飛んできて、一瞬だけ小比奈の視線が鉄柱に向いたのを蓮太郎の義眼が見過ごすはずもなく、客船の屋上で延珠と合流することができた。

 鉄柱が飛んできた方向を見るとそこにはライとアクセラレータが立っていた。

 

 

 「君は『学園都市第一位』のアクセラレータだろう。どうして君が里見くんと同行しているんだ?」

 

 「あァ、俺はアレイスターの奴に監視役をやれッて言われてンだ。だからとりあえず里見を援護してンだ。」

 

 「なるほど。ではそちらの少女は?」

 

 「あたしは知りたいことがあって」

 

 「ほう?」

 

 「あなたの斥力フィールドには”ある人物”が関係してるかもしれないと思ったから」

 

 「”ある人物”?」

 

 「ええ、でもそれはまた後で。今度はこっちが聞いてもいいかしら?」

 

 「いいとも」

 

 「どうしてこの戦いを起こしたの?あたしはあなたとは初対面だからそれしか分からなくてね。聞いておきたいのよ」

 

 「逆に聞きたいね。なぜ私の邪魔をするッ!我々新人類創造計画は殺す為に造られた。モノリスが崩壊し、ガストレア戦争が再開すれば我々はその存在意義を証明される。憎しみは消えない。戦争は終わらない。私たちは必要とされるッ。わからないか里見くん?ガストレア戦争が継続している世界こそが我々新人類創造計画の兵士にとっての勝利なのだよ」

 

 「まさか貴様ッ!その為だけに・・・?」

 

 「だとしたらなんだというんだッ。人類が絶滅することなど些細な問題にすぎない。我々は戦っていなければ誰も必要としてくれない。さあ戦争を!もっと闘争をッ!これは私の私による私のための戦争だ。誰にも邪魔はさせない」

 

 「おびただしい量の血をすすっておいて、まだ殺戮を求めんのかッ?」

 

 「これは壮大な実験なのだよ!私に易々と殺されるような人間はどのみち私の理想郷の中では生き残れなどしない。君のイニシエーターが『呪われた子供たち』だと露見した時の周りの反応はどうだった?祝福されたか?鳴りやまぬ歓声に心を洗われたか?歓喜のうちに胸を抱き留められたか?そんなことはあり得ない。私は選ばれた。小比奈も選ばれた。君たちも選ばれた。君ならば私の思想が理解できるはずだ。さあ里見蓮太郎、君の欲するすべてを与えてやる。私と共に来い!」

 

 「ザケンじゃねぇよクソ野郎ッ!貴様の語る未来ッ、断じて許容できねえ!」

 

 延珠は影胤の銃口が蓮太郎に向いている事に気付いて、突っ込む。

 だが、延珠に気付いていた影胤は斥力フィールドを発生させ、延珠を弾くと引き金を引く。

 当然、連太郎は延珠を守る為、影胤と延珠の間に入るとバラ二ウムで出来ている右手と右足で防ぐが、誘い込まれたことに気付く。

 

 「従えないのなら、死ねえええええッ!」

 

 影胤の拳は蓮太郎の腹部を捉え、その威力は蓮太郎を喀血させるまでに至った

 

 

 倒れ落ちた延珠が見た物は血が流れ出る腹を押さえ、うずくまる蓮太郎の姿だった。

 

 「そ、ん・・・・な・・・・」

 

 蓮太郎は膝を崩す。首を巡らせ、両手で口元を覆う延珠を見てから、次いで冷めた瞳でこちらを見降ろす蛭子影胤に、縋るように手を伸ばす。影胤は胸の前で十字を切った。

 

 「君の、負けだ」

 

 自分が死が迫っている事を悟った蓮太郎の耳に言葉が響いた。

 

 「蓮太郎ッ、妾を一人にしないでくれえッ」

 

 その言葉を聞き、少女を一人にしないと決意した蓮太郎はAGV試験約薬を胸ポケットから取り出した。

 

 菫の言葉がよみがえり、二十%という超高確率でガストレアとなる覚悟を決め、自分の腹に五本全部を突き刺した。

 

 「グッ、ああああああああああッッッ!」

 

 蓮太郎は天に向かって絶叫しながら立ち上がる。下に溜まった血で滑りそうになり何歩かたたらを踏む。視界が上下に激しくゆがみ、しこたま酔っぱらったみたいな遠近感の崩壊した世界。だが斃すべき死神の姿はまだ見える。

 

 「賭けにッ、勝ったぞッ」

 

 「里見くん、君は一体・・・」

 

 影胤からの疑問を聞きながら、天童式戦闘術『水天一碧の構え』を取る。

 直後に地を蹴る。足から炸裂音が鳴り響き、空薬莢がイジェクト。脚部可動型スラスターを後方に向け推進力を足の裏から噴射。すかさず飛び出してきた小比奈が渾身の力で刃を振り降ろしてくるが、連太郎は右腕で応じる。

 超バラ二ウムの拳は小太刀をへし折ると、小比奈を紙くずのように吹き飛ばす。甲板をバウンドし操舵室の壁を砕きながら室内の計器類に激突、小比奈は脳震盪を引き起こしたらしく、壁に縫われたまま気絶。

 立ち止まらず、脚部に撃発し、吹き飛ばされるような衝撃とともに再加速。影胤が斥力フィールドで防ごうとするが止まらない。

 

 「天童式戦闘術一の型十五番ッ、『雲嶺琵湖鯉鮒』ッ」

 

 フィールドを破り、そのまま影胤にアッパーを喰らわせる。

 耳を聾するほどの破裂音と共に超音速で振るわれたアッパーが影胤の身体を上空十メートルに打ち上げる。連太郎は跳躍し、スラスターの角度を後方に変え撃発.影胤と同じ高度まで跳躍し、頂上で身体を半回転、頭を下にしながら脚部の残り薬莢をまとめて激発させる。

 

 影胤は諦めたように小さくしゃがれた声を出した。

 

 「そうか・・・・私は君に、負けた、のか・・・」

 

 「『隠禅・哭汀』ッ!」

 

 仮面目がけて右足を振り降ろす。

 仮面にひびが入り、そのまま影胤が海に沈んだことを確認する。

 

 「そんな・・・パパァ、パパァァァ」

 

 声のしたほうに首を巡らせると、船から身を乗り出して海に手を伸ばし、絶望の表情を浮かべている小比奈がいた。

 延珠が複雑そうに連太郎を見上げた。蓮太郎は小さく首を振る。

 

 「彼女はもう敵じゃない」

 

 その時、胸ポケットが震え、無味乾燥な電子音が響く。

 

 『見てたわ、里見くん』

 

 「約束しただろう」

 

 『ええ。でもね里見くん、悪いニュースを伝えなきゃいけないわ』

 

 「悪いニュース?」

 

 『落ち着いて聞いてね。ステージⅤのガストレアが姿を現したの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「全部、終わりなのか?」

 

 『まだ終わらせない!私の作戦、聖天子様からお許しを頂いたわ。答えは君から見て南東方向にある』

 

 「『天の梯子』?」

 

 ガストレア大戦末期の遺物。完成はしたが、ついに一度の試運転もないまま陣地放棄を余儀なくされ、敗戦の日を見守ることになった超巨大兵士器。

 またの名を線形超電磁投射装置。直径八百ミリ以下の金属飛翔体を亜音速まで加速して撃ちだすことの出来る、レールガンモジュール。

 

 『あなたたち二人が目標地点一番近いわ。時間が無いの、君がやるのよ、里見くん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話で言われたことをアクセラレータの伝える。

 

 「アクセラレータ、俺達は『天の梯子』を使う。そっちはどうする?」

 

 「ああ、少し待って」

 

 その時、ライの携帯電話が電子音を響かせる。電話に出ると、その声はライのよく知る声だった。

 

 『ライ、アクセラレータ、君達は彼等と別れてくれ』

 

 「今のアレイスターの言葉は聞こえたかしら?」

 

 「ああ、了解した。行くぞ延珠!」

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎と延珠が走っていった後、ライはいまだ通話中のアレイスターに質問した。

 

 「当然、理由は聞かせてれるんでしょうね?」

 

 『ふむ、そうだな。蛭子影胤に好奇心が湧いてね』

 

 「好奇心ねえ。まあ、いいわ。私も知りたいことがあるし」

 

 『そうか、では頼むぞ』

 

 「わかったわ。ああ、それともう一つ」

 

 『?』

 

 「レイに代わってもらえるかしら?」

 

 『ああ、いいとも』

 

 アクセラレータにはライがなにか考えついたように見えた。

 

 「なにを企んでやがる?」

 

 しかし、ライはぬらりくらりとかわす。

 

 「うん?別に何も」

 

 再び電話から声が聞こえてくるが、それはアレイスターではなく、レイのものだった。

 

 『姉ちゃ~ん、呼んだ~?』

 

 「遅いわよ」

 

 『ごめ~ん。で、何?』

 

 「説明はしなくても理解してるんでしょ?『ここ』に来てくれない?」

 

 『今すぐ?』

 

 「今すぐ!」

 

 『は~い』

 

 通話が終了し、すぐにライの意識は沈んだ。

 

 「到着しました~。レイで~す」

 

 ライの意識が沈んだ後、ライの口から今は『ここ』に居ないはずのレイの言葉が出てきたことがアクセラレータを驚かせた。

 

 「あァ?オマエ、今どうやって来た?」

 

 「まあまあ、それはそのうち説明するからさ。で?どうしたらいいのさ姉ちゃん?」

 

 すると今度はライの口調になる。

 

 「今から蛭子影胤と蛭子小比奈を回収するのよ。回収した後は蓮太郎君が失敗しないように見てること。勿論、ばれないようにね」

 

 「失敗したらどォすんだ?」

 

 アクセラレータは尋ねる。

 

 「その時は、能力を使って当たらなかった弾を撃ち込むのよ、兄さんとレイでね」

 

 「ッたくよォ。まあ、いいや。お前等はあのガキを下ろしてこい。俺は今からアイツを回収してくる」

 

 「は~い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイは小比奈を、アクセラレータは影胤を回収して合流した。

 

 「君達は何故、我々を助けた?」

 

 「聞きたいことがあるから」

 

 「先程も言っていたな。それは?」

 

 「”木原幻生”」

 

 「!?」

 

 「知っているのね。まあ、いいわ。『学園都市』に戻ってから聞かせてもらうから」

 

 「いいだろう。小比奈、彼らに従おう」

 

 「うん、パパァ!」

 

 小比奈は返事をして、泣いて父親に抱きつく。

 やはり彼女も子供なのだ。イニシエータと言えど十歳児に変わりはない。

 そのことを改めて思い知ったライなのだった。




レイ、ライの能力についての説明は巨大ガストレアを倒し、レンとライが一七七支部に戻ってから説明しようと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。