とある一方通行な3兄弟と吸血鬼の民間警備会社   作:怠惰ご都合

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今回は会話シーンとなります。


千寿夏世

 蓮太郎は説明し終わってしばらくした後、拾い集めてきた枯れ木を焚火の中に放ると、火勢が息を吹き返し、狂喜したように石壁のあちこちにオレンジ色の光を散乱させる。

 ライが緊急キットで止血、消毒を終え包帯を巻くと、ガストレアウイルスの恩恵で傷の際性が始まっていた。蓮太郎は延珠との再生速度を比べると慎ましい事に気付いた。

 治療中の敵の接近を警戒して延珠を歩哨に立たせることにしたのだが、何が気に入らないのか延珠は不機嫌そうに唇をとがらせ「妾はそんな女認めないぞ!」とか「妾ならそんな傷三秒で治る!」と言い放ってトーチカの外に出て行き、ライだけはそんな延珠を見て笑っていた。

 彼女の名前は千寿夏世というらしく、蓮太郎は初めて会った時の『お腹すきました少女』の名前を今更知った自分に呆れていた。

 

 「なにやら、あなたの相棒をひどく怒らせてしまったようですね」

 

 「チッ、あいつなんで急に不機嫌になったんだよ。まさか反抗期か?」

 

 「理由は明白なんだけどね」

 

 「ええ」

 

 夏世は異様に落ち着き払った態度で言い、蓮太郎は延珠が出て行った方向を見て見当違いの事を言い出した為、ライと夏世があらゆる感情を放棄して、中に吐き出すような口調で言った。

 そして蓮太郎は、夏世に年齢に似つかわしくない落ち着きがあり、感情が読みにくいせいで、困惑していた。

 蓮太郎は夏世を見て防衛省で会った時はもっとユーモアのある少女だと思っていたのだが、「自分の勘違いだったのか」と不思議に思っていた。

 

 

 夏世は蓮太郎が凝視していた事に気付いた。

 

 「不思議ですか? 私のことが?」

 

 「別に、何でもねぇよ・・・」

 

 夏世は答えると目を閉じ、胸元に手を当てる。

 

 「お気になさらず。こういう扱いは慣れています。私も第一世代の『呪われた子どもたち』ですから。ただ、イルカの因子を体内に持っていて、通常のイニシエーターより知能指数(IQ)と記憶能力が高いだけです。ちなみにIQは二百十ほどあります。」

 

 「俺の二倍以上もあんのか?」

 

 「まあ、子供の内は知能テストの結果が少々オーバーですから」

 

 夏世の説明に蓮太郎はぎょっとして聞く。

 少女は幼いはずなのに謙遜して、蓮太郎は奇妙な敗北感に打ちのめされてしまった。

 

 

 「じゃあ頭脳派のお前が司令塔兼後衛で、将監が前衛なのか?珍しいスタイルだよな」

 

 蓮太郎は敗北感を悟られないように気をつけながら言った。

 

 「将監さんは脳みそまで筋肉でできている上に、堪え性が無いので後ろでバックアップなんてみみっちいことができないだけです。いまだに戦闘職のシェアを私に取られたのをひがんでますからね。考え方が旧態依然として困っています」

 

 「お前の持ってる銃、見せてくれないか」

 

 「嫌だと言ったら?」

 

 夏世は毒を吐いたため、蓮太郎は呆れたが、夏世の傍らに置かれた銃を見て聞くと、夏世は少し考えて聞き返してきた。

 

 「ああ、構わねぇぜ。お前が助けられた事に何も感じてないならそうすりゃいい」

 

 すると蓮太郎は悪戯っぽく笑いながら言った。

 夏世は観念したように鼻から息を吐いて銃を差し出す。

 

 「一つ学びました。見返りを求めて時点で善行は堕落します」

 

 「蓮太郎君は延珠ちゃんとお兄ちゃんを止めただけで、治療したのは私だった気がするのよね」

 

 夏世が呟き、会話を聞いていたライも夏世と言い合っているのだが、蓮太郎は聞こえないふりをしながら銃を検める。

 夏世の持っているサイレンサーの付いたフルオートショットガンは、装備拡張用の二〇ミリレイルに、合体装着(アドオン)タイプのグレネードランチャーユニット。どちらも司馬重工の二〇二七年モデルだ。

 連太郎はランチャーユニットを右にスリングアウトして薬室を覗くと顔をしかめ、夏世を見据える。

 

 「・・・・・どうして、森で爆発物を使った?これは四〇ミリ榴弾だろ?」

 

 あれのせいで蓮太郎達はステージⅣのガストレアに追われ、危うく死にかけたのだ。未踏領域での活動はいかなる場合も音を立てないことが鉄則とされる。ましてや蓮太郎ペアより遥かに序列が上のイニシエーターが知らなかったで済まされるはずがない。

 夏世は華奢な膝を抱えると炎を見つめて口を動かす。

 

 「私と将監さんは罠にかかりましてね。おかげで怪我をしたうえ、今は別行動中です」

 

 「罠?」

 

 「ええ、私たちが降りたのも深い森の中だったのですが、しばらく進んだところで森の奥から点滅するライトパターンが見えましてね。味方だと思って無警戒に近付いていったんですよ」

 

 蓮太郎が思わず聞き返すと、夏世は構わずと続けるが、ライは膝を抱えた手に力を込めて少女が小さくなっていることに気付いた。

 

 「もっと注意していれば、あんな薄青い鬼火みたいな色のライトなんて、誰も使っていないことぐらい分かったでしょうが」

 

 「・・・・それは、なんだったんだ?」

 

 蓮太郎が尋ねると、夏世はちらりとこちらを向くと、再び視線を戻す。

 

 「最初に感じたのは腐臭でした。者が腐ったような強烈な悪臭がして、ハエが大量にたかっているんです。そのガストレアは気持ち悪い花みたいなものがあちこちに咲いていて、尾部が発光していました。こっちを見ると、気持ち悪くぶるぶる震えて歓喜みたいなものを表したんです。色々なガストレアを見て来ましたが、あれには足が竦みました。殺されえると思って、とっさに榴弾を使ってしまいました。それから先は里見さんのご想像の通り、森のガストレアがすべて起きだしてしまい、追われているうちに、将監さんとはぐれてしまいました。腕を嚙まれたのはその時ですが、幸い、注入された体液はごく少量だったので大勢に影響はなさそうですが」

 

 「・・・・そいつは、おそらくだがホタルのガストレアだ」

 

 「ホタル?」

 

夏世は不思議そうに尋ねる。

 

 「ああ、ホタルは花粉や蜜を取って生きているけど、獰猛な肉食性のホタルもいるんだ。他のホタルの発光パターンをまねて、近寄ってきたホタルを捕食すんだよ。おそらく人間を捕食するために人間が近寄ってきそうな発光パターンを作りだした特殊進化型だろう。お前等はそれに引っかかっちまったわけだ。それを取り巻いていた植物はおそらくラン科のもので、カビや尿、腐肉みたいなにおいを出してハエや羽虫をおびき寄せて花粉を運んでもらう種があると聞いたことがある。多分、人間を誘い込むにおいを合成していたんだろう。珍しいな、植物種と混ざったガストレアだ。そこまで特殊進化した個体だとステージⅢってとこだろう」

 

 蓮太郎は自分が知っている知識を夏世に聞かせた。

 

 




IQが高いのは羨ましい・・・
次回、仮面男が登場。

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