コードギアス ~遠き旅路の物語~   作:アチャコチャ

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 あの日から。

 

 色々なことがありながら、それでも、もう一度ルルーシュと歩むと決めたあの夜からしばらく。

 ルルーシュがあの結末に至らないように、あの悲しい選択をしないようにしようと密かに決意したC.C.だったが――。

 

「よし、これでチーズ君にまた一歩近付いたぞ」

 特別何かすることもなく、前と変わらない日常を送っていた。

 ペタリ、と応募用紙に複数枚貼られたシールを愛しげに撫でながら、C.C.はゴロリとベッドにその身体を転がした。

 しどけなく横たわるその姿は、彼女特有の雰囲気もあって色を感じさせなくもないが、姿だけは妙齢の女性のその周りにあるピザの空箱のせいで、むしろ残念な空気が漂っている。

 しかし、その彼女の姿にいつもなら色々と小言を言うこの部屋の持ち主であるルルーシュは今はいない。

 数日前、この地に着任したコーネリアの挑発に乗り、サイタマゲットーの方に向かったのだ。

 過去の展開になぞらえるなら、このあとルルーシュはコーネリアに追い詰められ、ピンチとなるためそれを助けなくてはならない。

 だが、逆に言えば今C.C.に出来ることはそれしかなかった。

 一緒の部屋にいるとはいえ、今のルルーシュとC.C.の距離は遠い。いや、なまじ同じ空間にいる分C.C.に対するルルーシュの警戒心は強い。

 お互いに弱味を握りあう共犯者同士ということで一緒にいることを許されているだけで、ルルーシュの言動の端々に拒絶の意が窺える。

 以前は別段気にすることはなかったが、今は少々居心地が悪い。

 そして、そんなルルーシュから信頼を勝ち取ることがC.C.の目下の課題だった。

「んー…」

 もぞりと身体を動かして、頭に敷いていた枕を抱える。

 ずっと抱いていたお気に入りの人形が今は手元にないため、その代わりだ。

 あの人形よりもボリュームも肌触りも劣るが、何もないよりかは幾分気持ちが和らぐ。

 ふぅ、と一つ息を吐いたC.C.の頭にはルルーシュのことが思い浮かんだ。

 あの夜から、何度も思い、考えていること。

 ルルーシュを死なせない方法。

 らしくもなく頭を使い、色々な可能性を考えた。

 だが、共犯者である男のように微々に精査できるほど面倒くさい頭脳を持ち合わせていないC.C.には、何度考えたところで、結局のところ、ルルーシュが明確に引き返せないラインを越えないようにするという解答しか出すことが出来なかった。

 そのために、必ず回避しなくてはならない事象が二つ。

 特区虐殺とラグナレクの接続。

 前者は、ギアスの因果により多くの日本人と異母妹ユーフェミアがその命を散らした。

 背負わされた希望と背負わせた罪。

 親友との完全なる訣別。

 この出来事は、ルルーシュを完全に後戻りが出来ない運命へ誘った。

 後者は、単純に止めなければならない。

 母マリアンヌの真の姿と、シャルル達のもはや妄執に成り果てた理想。

 それ自体ルルーシュの心を苦しめるものではあるが、この計画は阻止しなければ、世界がどうなるか分からない。

 そして、それを実行するために必要なのが……。

「ちっ」

 巡りめぐって、最初に戻ってきた思考に思わず舌打ちが出た。

 そう、この二つをどうにかするには、とにかくルルーシュに信用してもらわなくては話にならないのだ。

 特区虐殺、―ひいてはギアスの暴走を回避するにはルルーシュがギアスを乱用しないようにするしかない。

 だから、C.C.は出来るだけ早くルルーシュにギアスの危険性を教えて、何か違和感があったらすぐに自分に教えるように言わなければならなかった。

 だが、今現在のC.C.が何を言ったとしてもルルーシュがどれだけそれを信じて受け入れてくれるか分からない。

 何しろ、ルルーシュにその危険なギアスを与えたのは他でもないC.C.なのだ。

 危険だと分かっていて、何故ギアスを与えたのか問われても本当のことを言うことができない以上、余計な不信感を持たれるだけだし、言ったとしても目的が目的である以上、その時点で関係が終わる可能性も十分にある。

 そして、ラグナレクの接続。

 マリアンヌのこともある以上、本来なら話さずに済めばそれが一番なのだろうが、ラグナレクの接続を止めるには、ルルーシュの『達成人』に至るまで高められたギアスを使う方法しかC.C.には思いつかなかった。

 そのためにはルルーシュがギアスを多用し、その力を高める必要がある。

 しかし、ギアスを使い過ぎれば暴走を早め、特区虐殺の引き金を引きかねない。

 堂々巡りである。

 つまり、C.C.はルルーシュに自分の言葉を信じてもらってギアスの暴走に気を付けてもらいながらラグナレクの接続を阻止するためにギアスの力を高めて貰わないとならないのだ。

 難しい。

 特にラグナレクの接続に関しては話すタイミングを間違えたらアウトだ。

 なぜならマリアンヌのことはルルーシュに話しても、信じてもらえるとはC.C.には思えなかったからだ。

 ルルーシュはマリアンヌを盲信しているから、かつてのように直接その目でマリアンヌの狂気を見ない限り、決してC.C.の、―例え前回のC.C.であったとしてもその言葉を信じはしないだろう。

 よしんば、信じて貰えたとしても。そのあとのルルーシュを抑えられるかどうか。

 普段は冷静沈着、冷酷といっても良いような側面を覗かせるルルーシュだが、内面は情に篤く、そして、とてつもない激情家だ。

 真実を知れば、かつて嚮団を潰した時のように、その激情のままに敵陣に飛び込んでいくだろう。

 そうなれば、詰みだ。

 シャルル、V.V.。更には、マリアンヌとナイトオブワン、ヴァルトシュタイン。

 最悪、敵陣のど真ん中でこの4人を相手に、C.C.は自身のコードとルルーシュを守らなくてはならないという状況に追い込まれるからだ。

 それを避けるためにも、ルルーシュにC.C.が完全に自分の味方だと理解してもらわないとならない。少なくとも、ちゃんとC.C.の意見に耳を傾けて冷静さを取り戻す程度には。

「……まったく」

 頭が痛い。

 あのルルーシュ相手にそこまでの信頼関係を構築できた人物など、C.C.が知る限り唯一人だけ。

 

 枢木スザク。

 

 初めから特別枠にいたナナリーと違い、まっさらな状態からあそこまでの信頼をルルーシュから勝ち取った唯一人の人物。

 それと同じものをC.C.は求められているのだ。それも、自身の願い、皇帝の元協力者、協力の意思はないとはいえ、今もマリアンヌと通じていることなど、ルルーシュに関してマイナスにしかならない裏事情を抱えた状態で。

 ……無理である。不可能だ。

 それは、もはや、たった一人で巨大な帝国に戦いを挑み勝利するくらいに不可能―、いや、それならできる奴を知っているというか、そのうえ世界まで手に入れた奴がいるから簡単なことに思えてしまう。

 ――だからこれは、そう、どこぞのシスコンが妹のことを考えずに生きていく並に不可能だ――――!

「おのれ、ルルーシュ……!」

 この数日で、何度も繰り返し呟いたセリフが口から漏れる。

 別にルルーシュが悪いわけではない。

 しかし、C.C.にとってはルルーシュを救うために頑張ろうとしているのに、そのルルーシュがラスボスの如く立ち塞がっているように感じるのだ。

 この嘘つき、頑固者、唐変木、童貞。この私がピザを我慢までしているんだから、もっと優しくしろ。

 心の中でぶつぶつとルルーシュに文句を言うC.C.。

 代わり映えのない日常ではあったが、C.C.はC.C.でルルーシュの信用を得る努力をしていた。

 『前回』は一日三食+間食夜食の計五食をピザLサイズで頼んでいたりしていたC.C.は、今回は一日三食だけにし、さらにピザのサイズもMサイズに抑えていた。

 ピザ女と呼ばれる程にピザを愛するC.C.にとっては、二食も断食するのはまさに断腸の思い。

 ここまでやっているんだから、ルルーシュの中で私の好感度はうなぎ登りだろう、とC.C.は半ば本気で思っていたりする。

 だが、そんなC.C.にとっては涙ぐましい努力も『前回』という比較対象をルルーシュが知っていれば多少なりとも効果はあっただろうが、それを知らない以上効果がないのだということをC.C.はわかっておらず――。

 後日、それに気付いたC.C.の断食分を補う悪逆皇帝ならぬ悪逆ピザな暴食ぶりに、気分を悪くしたルルーシュの好感度が人知れず下がることを彼女はまだ知らない。

 

「ん…、そろそろか」

 考え事を止めて、ベッドから身を起こす。

 時間を確認すれば、ルルーシュが部屋を出てから結構な時間が経っていた。

 作戦が開始される時間からしても、そろそろ後を追わないと助けに入れないかもしれない。

 そう考えたC.C.は、隠してあるゼロの衣装を取り出そうとベッドから降りた。

 その時、ふとデスクに目がいった。

 そこに置いてあるのは先程ルルーシュを止めるために使用した銃だった。

 そのことを思い出してC.C.の顔色が僅かに変わる。

 

 ――俺はお前に会うまで、ずっと……

 

 必要と判断したから。

 もしくは、心の奥底でかつての面影を見たいと思ったからか。

 前回と同じ状況で、ルルーシュは何も違えることのない答えを返してきた。

(やはりルルーシュは、ルルーシュなんだな)

 そのやり取りのなかでC.C.はそう再認識して、心の中で苦笑した。

 例え記憶があろうとなかろうと。

 何度やり直そうとも、きっとルルーシュという男の、その在り方が変わることはないだろう。

 己が望む明日のために戦う生き方を選ぶ。

 それは、きっと往々にして長く生きられるような、そんな道ではないだろう。

 今、こうしてC.C.が頑張ったとしても、結局行き着く先はそう変わらないかもしれない。

 そういう道を歩いている男だから。

 それでも……。

「本当に、我ながら甘くなったものだ」

 呆れを孕んだ笑みを浮かべ、C.C.はそう呟く。

 かつてのC.C.を知るものなら、今の自分を見てどう思うか。

 そんなことを考えてしまう。

 心の内はどうあれ、自らの願いのために冷酷な魔女として振る舞ってきた自分が、無駄かもしれないとわかっているのに、ルルーシュというたった一人の人間のために行動しているのだから。

 変わったのだろうとC.C.は思う。

 いつから、こうなったのかは分からないが、悪くはないと思っている。

「だから、私も変えてやる」

 自分を変えた男を、今度は自分が。

 今より、ほんの少しだけでもいいから、自分の『明日』を考えられるように――。

 それくらいの我儘は許されるべきだ。

 そう考えるC.C.の笑みだけは、かつてと変わらない魔女としての側面を覗かせていた。

「さて、とりあえず、今はまだ未熟な魔王様を助けに行くとするか」

 厳重に隠してあるゼロの衣装の入ったケースを引っ張り出す。

 複雑な手順の、手動での解錠と電子的な解錠を行いロックを外す。

 そして、中に入っているケースに長い暗証番号を三つ打ち込んで、ようやく目的のものが取り出せる。

 神経質で几帳面なルルーシュらしいと思うが、ここまでされると、逆に中身に興味を持たれるんじゃないかとC.C.は思った。

 そんな親しみを感じられる苦笑を浮かべながら、ケースを開いたC.C.は――。

「な……」

 中身が空なのに気付き、その笑みを凍りつかせた。




 みっしょん
 虐殺特区までにルルーシュをデレさせろ!
 ルルーシュ有効属性 くるくる、ふわふわ、妹
 C.C.所有属性 ツン、クー、ピザ

 どないせいっちゅうねん(汗

 都合50話かけて深めた絆を半分の期間でクリアしろとか無理ゲーな要求をするラスボス、ルルーシュ。
 おかしい、二周目なのに楽にならない。
 ルルーシュさん、あなた勝手に難易度変えてません?

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