コードギアス ~遠き旅路の物語~   作:アチャコチャ

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 長らく空いてしまって、すみません。
 投稿、再開します。


PLAY:02

「はあ? 戻るぅ?」

「はい」

 上司であるロイドが上げた素っ頓狂な声に、スザクは生真面目に頷いてみせる。隣に視線をやれば、セシルも口に手を当てて、目を丸くしていた。

 驚きに固まる二人。そんな二人の状態に構わず、スザクは真剣な表情のまま頭を下げると、もう一度、懇願を口にした。

「お願いします! 僕を特区まで連れていって下さい!」

 

 

 時は少し遡る。

 ユーフェミアとスザクの願いの結実ともいえる行政特区日本。

 多くの人に望まれ、血を流すことなく平和な世界を創れると思い、奮走した彼等の願いは、憎しみに駆られた救うべき日本人の手によって、一歩も歩み出すことなく失敗に終わった。

 平和を喜ぶ人達が見たかった。手を取り合い、平等を謳うブリタニア人と日本人の姿が見たかった。

 しかし、二人が目の当たりにしたのは、お互いを蔑む二つの人種であり、憎しみと殺意と狂気に満ちた、望んでいたものとは、ほど遠い現実だった。

 

「…………………」

「ユフィ…………」

 窓際に立つユーフェミアの背中に、スザクは口の中で彼女の名前を呟いた。

 ダールトンの命に従い、特区からアヴァロンを使って政庁に戻ってきてから、ユーフェミアはずっと窓の外を見つめたまま動かない。

 租界の人工的な光に曇った夜空には、星明かりの一つも見えない。だが、ユーフェミアは一言も喋らずに、唯、その夜の空を見上げ続けていた。

 その背に何と声をかければいいのか。

 普段は使わない頭を必死に動かして、スザクはどう慰めるべきか考える。

 だが、どれだけ考えてもかける言葉が見つからない。

 悲しみに暮れる愛しい主を元気付けられない己の無力さに歯噛みしながら、スザクもまた、ユーフェミアの姿をずっと見つめたまま一言も喋らずに佇んでいた。

 

「―――スザク」

「っ、何? ユフィ」

 長らく思考の海に埋没していたスザクは、唐突にユーフェミアに名前を呼ばれたことに反応出来ず、慌てたように返事を返した。

「――――――!」

 そうして振り返ったユーフェミアの顔を見て、絶句してしまう。

 華が咲いたような少女だと、ずっと思っていた。

 優しさと慈愛で咲いた清らかな華のような少女だと。

 でも、今のユーフェミアをそう例えることは出来なかった。

 悲しみと、戸惑いと、後悔と。

 迷子になって、どうすればいいのか分からない小さな子供のような顔がそこにはあった。

「何が悪かったのかな……?」

 今にも泣き出しそうな声に、スザクの胸がギュッ、と締め付けられた。

「私、……何を間違ったのかな?」

「違う! 君は何も間違ってなんかいない!」

 たまらず、スザクは声を荒げて否定する。

「間違っているのは彼等の方だ! 手を差し伸べてくれた君を否定して、間違った方法で結果を求めた彼等の方が………ッ!」

「スザク…………」

 そう。何も間違ってなんかいない。

 正しい想いで、正しい方法で日本人達を救おうとしたのだ。

 それが否定されていいはずがない。

 こんな結果が許されていいはずがない。

 だって、正しい方法で得た結果が意味を為さないというなら――――

()は、何の為に……」

「スザク? どうしたの?」

 様子がおかしくなったスザクにユーフェミアが心配そうに声をかける。

 その声にスザクはハッ、とすると余計な考えを振り払うように首を振り、出来る限りの笑顔をユーフェミアに向けた。

「ッ……、とにかく、僕は君が間違っていたなんて思わない。ユフィは正しい事をしたんだ。だから、胸を張って?」

「………………うん」

 ただ、ひたすらにユーフェミアを肯定するスザクに、少女の顔にも微笑みが戻る。

 もっとも、何時もに比べれば、悲しげでぎこちない笑顔ではあったが。

「ユフィ?」

 再び、スザクに背を向けて、窓の外の夜空に向き直ったユーフェミアにスザクが声をかける。

 暫しの沈黙。それが過ぎ去った後、スザクに答えるようにユーフェミアも彼の名を呼んだ。

「スザク」

「何だい? ユフィ」

「……お願いがあるの」

 

 

「――で、そのお願いというのが」

「ユフィは僕に言いました。『日本人の皆さんを助けて』と」

 

『私には、もう何も出来ないかもしれないけど、スザクなら、まだ出来ることがあるかもしれないから』

 

 その言葉を思い出し、スザクは拳を固く握った。

「だから、お願いします。特区に引き返して下さい」

「行くのは構わないけどさぁ、行ってどうするっていうのぉ?」

「それは、……分かりません。行ってみないことには」

「スザク君……」

 セシルが心配そうな声を上げる。ロイドもそんなスザクの様子を眼鏡の奥の冷たい目で観察するように見ていた。

 二人の危惧はもっともだった。

 一見して、普通に見えるが今のスザクはどこか危うい。

 思いだけが先走っている。そんな印象を受けるのだ。

 いつもの無鉄砲とは違う、がむしゃらに何かを振り払おうというかのような。

 そんな雰囲気が今のスザクには漂っていた。

「スザク君、貴方やユーフェミア様の気持ちは分かるけど、今は少し休んだ方が良いんじゃないかしら? 今の貴方、とても大丈夫そうに見えないわ」

 見かねたセシルが、そう忠告するも、スザクは無言で首を横に振る。

「出来ません。こうしている間にも、傷付いていく日本人がいるかもしれないのに。それに黒の騎士団の事も放ってはおけません。……そう、間違っている彼等やゼロを止めないと、ユフィは…………」

「スザク君……」

「まあ、いいんじゃない?」

「ロイドさん!?」

 あっけらかんとしたロイドの発言を諌めるようにセシルがロイドの名前を呼ぶ。

「だぁ~って、ユーフェミア様のご命令ってことは、副総督直々のご命令ってことだし。僕達に待機命令は出ていないしぃ? コーネリア様も黒の騎士団との決戦に備えて、戦力をかき集めているみたいだし、邪魔にはならないでしょぉ?」

「それは………、ですが!」

「本人もやる気になってるんだし、ランスロットが必要になる状況もあるかもだからねぇ。行くだけ行ってみるのも、まあ、いいんじゃないのぉ?」

 いつもの笑顔を浮かべて肩を竦めてみせると、ロイドはスザクに向き直った。

「という訳だけど、いいんだね?」

「はい! ありがとうございます!」

 勢いよく頭を下げたスザクに、それを見ていたセシルも心配そうにしながらも仕方ないという風に息を吐いた。

「でもまぁ、一応、気を付けてねぇ?」

「え?」

 突然の、脈絡のないロイドの忠告に、スザクは首を傾げた。

「多分、これから向かうところは、君にとって――」

 

 

 ――――地獄だよ?

 

 

 

「ほれ、これが頼まれていたデータじゃ」

「感謝します。桐原公」

 桐原から頼まれていたデータが揃ったと連絡を受け取ったルルーシュはC.C.を伴って、桐原がいる特区会場内の施設の一室に赴いていた。

 差し出されたデータを受け取り、一つ礼を言うと、ルルーシュは凄まじい速度でデータに目を走らせていく。

「どうじゃ? 役に立ちそうかの?」

「ええ、十分です」

 答えながらも、ルルーシュは受け取ったデータを元に頭の中でより綿密な作戦を立てるべく、情報を処理し、様々な事柄を修正し、調整していく。

 暫く、そんなルルーシュの様子を眺めていた桐原だったが、不意に思い立ったかのように口を開いた。

「しかし、何だの」

「何か?」

「いや、なに。確かに儂はあの時、お主を認めた。蒔かれた種が芽を出したと思ったからじゃ。しかし、所詮、芽は芽。華を咲かせるのは、まだ先、と思っておったが、……お主、いつの間にこれ程の大輪を咲かせるに至った?」

 その発言にルルーシュはおや? という顔をして見せた後、面白そうに表情を弛めた。

「男子三日会わざれば――、というのは、この国でもよく使われていた言葉と記憶していましたが?」

 それに、違いない、と言いながら桐原は声を出して愉快とばかりに笑う。

「………ブリタニアに占領された時には、つまらん老後になりそうだと思ったものだが、……カカッ、中々どうして、まだまだ楽しめそうではないか」

「くれぐれも、過ぎた野心は抱かぬよう。私としても、貴方を手にかけるのは、少々偲びないので」

 暗にやり過ぎれば、容赦はしないと言うルルーシュの発言だったが、桐原は気にした様子も見せず愉しそうに笑うのだった。

 

「それで? 桐原から何を受け取ったんだ?」

 桐原とのやり取りが終わり、その場を後にすると、付き添っていたC.C.がルルーシュの手元を覗き込みながら、そう聞いてきた。

「この周辺の地形データと、サクラダイトの採掘場所。それと、特区で予定されていた事業の一覧だ」

「そんなものを何に使うつもりなんだ?」

 地形データはともかくとして、ほとんどが戦いに関係なさそうなデータにC.C.は首を傾げながら疑問を口にした。 

「お前……、さっきの俺の作戦を聞いていなかったのか?」

「ああ、どこぞの魔王にいたいけな魔女の心を弄ばれてな。とても話なんて、聞いていられる状態ではなかったんだ」

 呆れたように聞いてきたルルーシュに、C.C.は悪びれもせず、そんな事を宣う。

 誰が何だと? と思ったルルーシュだが、一応原因はこちらにあるので、思うだけに留める。

「……聞いていないんだったら、それでいい。どうせ、戦いが始まれば、すぐに分かることだ」

「そうか。なら、後の楽しみにしておくか」

「ああ。作戦が始まるまで大人しくしていろ」

 手元のデータに目を落としながら、あしらうように適当な返事をするルルーシュに、むっ、とC.C.が不機嫌そうな表情をする。

「酷い男だな。さっき、あれほど激しくお互いの永遠を誓い合ったというのに、興味がなくなれば、途端に扱いが雑になるときた」

「誤解を招くような言い方をするな」

「うん? それはつまり、誤解じゃないようにしろと言うことか?」

「都合の良い解釈をするな……!」

 にやにやと笑いながら身体を寄せてきたC.C.に、ルルーシュはまったく、と愚痴をこぼしながら軽く握った拳を少女の額に押し当てた。

「身体を休めていろと言っているんだ。戦いが始まれば、嫌でもお前には働いて貰うことになる。だから、今のうちに出来る限り休息をとっておけ」

 口には出さないが、ルルーシュはC.C.が『前回』の特区でのギアスの暴走を心配して、ここ最近寝付きが悪かったことに気付いていた。それに、ルルーシュが撃たれてから復活するまでの間、とても悲しみ、憔悴していたことも。

 表面上は元気に見えるが、身体は大分消耗しているだろう。

 だから、今のうちに少しでも休ませてやりたいというルルーシュなりの気遣いだった。

「…そういうことなら、仕方ないな。素直に大人しくしていてやろう」

 それに気付いたのか、C.C.がぎこちない態度で了承を示すと、そこに突然、第三者の声が響いた。

「ゼロ様!」

「ん?」

「神楽耶、様?」

 軽やかな声に、二人が振り返ると、ててっ、とこちらに駆けてくる神楽耶の姿があった。

「やっと、見つけました! ゼロ様!」

 小走りにルルーシュの元へやってくると、神楽耶は満面の笑みでルルーシュを見上げてくる。

「……神楽耶様、私に何かご用が?」

 どことなく覚えのある流れに、ルルーシュは少しばかり躊躇いを感じながらも、神楽耶に訊ねた。

 すると、何がそんなに嬉しいのか。輝かんばかりだった神楽耶の笑顔がますます眩しいものに変わる。

「いえ。ただ、これから妻になる身としましては、夫の活躍を少しでも近くで見たいと思いまして」

「………………」

「………………」

 ああ、やっぱり、とルルーシュとC.C.は思った。

 そんな二人の心中に気付かず、神楽耶は人差し指を愛らしく唇に付けると、んー、と小首を傾げた。

「……やっぱり、私、ゼロ様にお会いしていますよね? 枢木の所に居たのなら、当然といえば当然かもしれませんが……、変ですね? これ程の高貴な方ならお会いしていれば、忘れるはずはないのですが……、まあ、良いでしょう、今日この日に会えたことこそが大事なのですから! 改めまして、ゼロ様。皇神楽耶です。私、貴方のデビュー当時から、ずっとファンだったんですよ? …背、思っていたより、ずっと大きいですね。それに鼻筋も通って凛々しくていらっしゃる。私は、まだ背も顔付きも少々幼さが残っておりますが……、でも、大丈夫です! すぐに追い付きますから! あ、それとも、ゼロ様はこういう体型の方がお好きですか?」

「いえ、あの………」

 何時にも増して――この時間軸では初めてだが――絶好調な神楽耶に、さしものルルーシュも押され気味である。

 それでも、何とか気を取り直すとルルーシュは神楽耶に問いかけた。

「神楽耶様、貴女は今、妻と仰いましたが――」

「ええ! キョウト六家はゼロ様に協力すると約束しましたからね。ゼロ様には必要でしょう? 貴方の事を補える確かな家柄と立場を持った伴侶が」

「成程、確かにそれに関しては貴女の言う通りだ。その慧眼、お見逸れします」

「でしょう? ですから――」

「しかし、ゼロという存在は、その名が示す通り、何者にもなってはならないのです。あらゆる者の味方になり、あらゆる者の敵となる。貴女を妻とすれば、ゼロは日本の味方と思われてしまうでしょう。それは私の願うところではありません」

 『前回』であれば、確かに魅力的な提案だったが、今回は違う。

 今のルルーシュであれば、下手に後ろ楯を得なくても、実力で切り抜けていくことが出来る。

 今後のために、日本との友好は結んでおきたいが、だからといって、あまり踏み込み過ぎるのは良くない。

 あくまで、中立。どこにも属さない無色の力でなければならない。

 それが人々から求められるゼロの在り方だからだ。

「そうですか……」

 ルルーシュの意図を察したのか、神楽耶は少しばかり残念そうな顔をして、肩を落とした。

「分かりました。残念ですが、こちらとしましても、無理強いさせるつもりはありませんから」

 しおらしく神楽耶はそう言うが、しかし、すぐににこやかな表情を取り戻すと、ポン、と両手を合わせた。

「急いては事を仕損じると言いますからね。ここは、婚約者、ということでよろしいでしょうか?」

「は? いえ、ですから……」

「今は必要なくとも、これから先、私の立場や権力が必要になるときもありましょう? その時、婚約者という立場であれば、無理なくお力添え出来ると思いますが?」

 む、とルルーシュは唸った。

 確かに、婚約者であれば「懇意」というカタチに収めることは出来るし、神楽耶の言う通り、力が必要になった時、スムーズに事を運ぶことが出来るだろう。

「しかし………」

「ゼロ様」

 なおも渋るルルーシュの手を神楽耶は両手でギュッ、と握りしめた。

「ゼロ様、協力を約束したというのもありますが、それ以上に、私は貴方の力になりたいのです」

 幼い頃。

 国を奪われてから、神楽耶はずっと籠の中の鳥だった。

 皇の血を引く者。日本の象徴となりうる存在として、大事に囲われてきた。

 暗い、外の光が入らない場所に押し込められ、自分の意思一つ満足に通せない日々を送ることになったが、それでも神楽耶は不満一つ漏らさなかった。

 それは、信じたからだ。

 いつか、きっとこの国にもう一度、夜明けの光が差すと。

 国を奪われた当初、神楽耶はそう信じて疑わなかった。

 しかし、現実は幼い少女の願いをあっさりと踏みにじっていった。

 どれだけ待とうとも、聞こえてくるのは虐げられ、悲しみに暮れる愛する民の声だけ。

 祖国を取り戻せ、と叫び、抵抗を続ける人達の声は日増しに少なくなっていく。

 そうなっても、神楽耶の周りの大人達は、保身と益を得ることだけを考えて、自ら動こうとは全くしない。

 その在り方に何度も憤りを感じた。

 そして、それ以上に。

 何も出来ない無力な自分を恨んだ。

 もう、夜明けを見ることは叶わないかもしれない。

 籠の中、もう、空を羽ばたくことなく死んでいく鳥なのかもしれない、と神楽耶の心に諦めが過り始めた。

 その時だった。

 ゼロが現れたのは。

 その時の思いをどう現せばいいのか。神楽耶は言葉が見つからない。

 ただ、とても。

 とても、―――眩しかった。

 何にも臆することなく、唯一人、ブリタニアという大国に戦いを挑んだ存在に神楽耶は目を奪われた。

 それからずっと、神楽耶はゼロを求めてきた。ゼロを信じ、その姿を追い続けてきた。

 そして、先程。ついに直接まみえることが出来たゼロは神楽耶の想像以上で。

 その気高い想いに。その揺るがぬ存在感に。力溢れる自信に満ちた姿に。

 何より―――、

 

『夜明けの頃、この旗がこの国の首都にはためく光景をご覧に入れて差し上げましょう』

 

 その言葉に、神楽耶は心を奪われた。

 

「ですから、お願いします。微細な身なれど、どうか貴方様のお力にならせて下さい」

 内心の想いを吐露しながら、そう語る神楽耶の手に力が篭る。

 ルルーシュを見つめる、熱く潤んだ瞳からどれだけ神楽耶が本気なのかが見て取れた。

「はあ……………」

 神楽耶の想いにたじろぐルルーシュの隣で、そのやり取りを聞いていたC.C.が、これ見よがしに長いため息を吐いた。

 その健気な姿と、真摯な想いを聞いて、それでも無下に出来るほど、ルルーシュが女性に対して非情になれないということを、この魔女はよく分かっていたからだ。

(勝負あったな)

 そう思い、C.C.はやれやれと言わんばかりに首を振った。

 

 

「良かったなぁ? 可愛い婚約者が出来て」

 とりあえず、時間がないので、と婚約者問題を保留にし、ルルーシュに付いてこようとする神楽耶を押し留めた後、少し疲れた様子を見せているルルーシュに、隣を歩く魔女がどこか刺々しい声でそう言ってきた。

「ああ。神楽耶はやはり優秀だな。変わってないようで安心……、と言っていいかは分からないが」

「ああ、じゃないだろう、全く………」

「ん? 何か言ったか?」

 神楽耶の様子を思い出し、苦笑するルルーシュにC.C.が不満を漏らすも、小さい声だったためルルーシュの耳には届かなかった。

「何でもない。だが、あの様子なら神楽耶は大丈夫そうだな。『前回』のこともあるから、少し心配だったんだが……」

「前の時は仕方ない。神楽耶には立場があった。それを疎かにするような愚かな女ではない」

 最終的な目的はともかく。その手段として、世界征服を掲げ、ルルーシュが動きを見せていた以上、最高評議会議長である神楽耶が表立ってルルーシュを擁護をすれば、余計な混乱を生みかねなかったし、場合によっては日本の立場を悪くしかねなかった。

 それで済めばまだ良い方で、当時、ギアスの事から過剰にルルーシュに拒絶反応を見せていた黒の騎士団であれば、最悪、神楽耶を無理矢理、議長の座から引きずり降ろしかねなかった。

 神楽耶がその座に執着を示していたかは分からないが、発足して間もなく、内部のゴタゴタで議長が変わったとなれば、内外ともに、超合集国の脆さを露呈しかねない。

 神楽耶であれば、その辺りの事を考えた上で、公に徹したと考えられる事が出来た。

「まあ、憶測と希望的観測でしかないがな」

 そう言って曖昧な表情で笑うルルーシュだったが、C.C.はあながち間違いではないだろうと思った。

 ダモクレス決戦の時、カレンに敗れ、海に落ちたC.C.を捕らえにきた神楽耶はルルーシュの事を「あの方」と呼んだ。そして、ルルーシュがゼロだと知らなかったというC.C.の発言に声を固くしていた。

 その事から、神楽耶がルルーシュに悪感情を抱いていなかったことが伺い知れた。

 手酷い裏切りに遭い、捕らえられても神楽耶はどこかで信じていたのだろう。

 ルルーシュを、――――ゼロを。

「まったく……、『前回』といい、今回といい、純粋な女を誑かすのも程々にしておけよ」

「だから、誤解を招くような事を言うなと言っているだろう!」

 その事実に少しだけ、ムカ、としたC.C.の発言にルルーシュは心外だとばかりに大声で反論した。

「とにかく……、神楽耶の事は今は置いておけ。それと、お前もいい加減休んでおけ。いざというときに動けないなんて事になっては、俺が困る」

「そうさせてもらおう。……一つ、用を思い出したしな」

「? 何かあったのか?」

「大した事じゃない。すぐに済む事だから、気にするな」

 ひらひらと手を振り、ルルーシュの側を離れようとしたC.C.だったが、数歩も行かぬうちに足を止め、ルルーシュを振り返った。

「そうだ。マリアンヌから連絡があったら、どうする?」

「お前に任せる。好きにしろ。どうせ何も出来ん」

 微塵も興味がない、という感じのルルーシュの口調にC.C.も特に何も言わずに頷いた。

「じゃあ、また、後でな」

「ああ、大人しく休んでおけよ」

「お前こそ、目覚めたばかりなんだから無理するなよ」

 素直に、とは言い難いが、それでもお互いにそれぞれの事を気遣って見せると、最後に二人は似たような笑みを交わして、その場を後にするのだった。

 


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