コードギアス ~遠き旅路の物語~   作:アチャコチャ

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 よ、よろしいんでしょうか?このような小説にここまでの評価を頂いて……。
 ハイ、根が小心者ゆえ正直ビビりまくりです。
 でも、やっぱり嬉しいです。ホントにありがとうございます!


Re:09

 パン、と乾いた音が響いた。

 

 その音に、ビクッと身体を震わせ、シャーリーは手に掛けようとしていた銃を落とした。

 我に返り、自分が今何をしようとしていたかを振り返って動悸が激しくなる。

 ぐっ、という呻き声に顔を上げれば、褐色の女性軍人の身体がぐらりと傾く姿が目に入った。

 

 黒の騎士団の関係者かも知れない者がいるから協力して欲しい。

 ヴィレッタ・ヌゥと名乗る女性軍人にシャーリーがそう声を掛けられたのは、あのコンサートの夜から数日後のことだった。

 学生の中に黒の騎士団に関係している可能性のある者がいるから、その人物の行動を監視して、怪しい動きをしたら連絡して欲しいと言われたのだ。

 初めは断ろうと思った。

 黒の騎士団の戦いに父が巻き込まれたシャーリーは、出来ることなら関わり合いになりたくなかった。

 でも、その生徒の写真を見て、それが今一番自分の心を占めている男の子だと分かると、気が付いたときには協力を了承していた。

 半ば衝動的だったとはいえ、どうしてそうしようと思ったのか。シャーリーは自分自信に問い掛ける。

 大切な人が悪事に加担していないことを証明したかったから?

 それとも、もし道を踏み外すような行いをしているなら正してあげたいから?

 それとも、ただ信じたいから?

 多くの答えがシャーリーの中で渦巻く。

 そして、それらの全てにシャーリーは違うと首を振った。

 ただ知りたかった。

 自分が好きになった人のことを少しでも。誰よりも。

 

『これ以上踏み込むな』

 あの雨の夜、彼から告げられた明確な拒絶。

 いつも見てきた好きな人の言葉だから分かる、分かってしまう、そこに籠められた言葉の重さが。

 その夜は涙が止まらなかった。……否、今だって止まっていない。

 どれだけ涙を流しても収まらない。悲しみの遣り処が、行き場を失ったこの胸の想いが、シャーリーの中で決して消えようとしない。

 どうしていいのか、分からなかった。

 そんな時、機会が降って湧いた。自分の知らないルルーシュの一面を垣間見られるかもしれない機会が。

 

『俺は君が思っているような人間じゃない』

 

 なら、もし。

 それを知ったら?

 

 自分が知らないルルーシュを知って、自分が思っているようなルルーシュじゃない一面も、きちんと受け入れられたら?

 

 ルルーシュは。

 

 ――――自分を見てくれるだろうか。

 

 そんな甘い囁きが、シャーリーの中で鎌首をもたげた。

 

 

 パン、パンと銃声が続く。

 誰かの上げた怒鳴り声とコンクリートの地面を固い靴底が叩く音が聞こえる。

 それらはシャーリーの目の前で行われていることなのに、シャーリーは何が起こっているのか理解出来なかった。あまりに日常からかけ離された状況に、シャーリーの思考がついてこられなくなったのだ。

 数瞬後、ざぶん、と何かが水の中に落ちる音が聞こえてきて。

 それを最後に騒音は治まった。

「ちっ、逃げられたか。…出来れば止めを刺しておきたかったんだが」

 まあ、仮面の下は見られていないだろうから大丈夫だろう、と何か物騒なことを言っている女性の声が聞こえた。

 そこで、ようやくシャーリーの思考が再起動し、目の前の情報を処理し始めた。

 

 自分がルルーシュの行動を連絡した女性軍人はいなくなっていた。

 代わりにいたのは、自分と年の変わらない夜の暗闇でも映えるライトグリーンの髪の女の子だった。

 何故か拘束服を着ている少女の出で立ちにシャーリーは最初は戸惑いを感じたが、その手に平然と黒く光る凶器を携えているのが目に入ると、小さく悲鳴を上げた。

 

 一方、少女の恐怖の対象になっているC.C.はというと、そんな少女がそこにいることなど気付いていないと言いたげに、シャーリーに一瞥もくれることなく、あらぬ方向へ歩いていく。

 シャーリーもそんなC.C.にただ怯えた表情を見せていただけだったが、その向かう先が何処であるかに気付くとその表情を変えた。

 激しい攻撃に倒れたナイトメア。そのコックピットブロックから半ば投げ出され、気を失っている人物、――ゼロ。

 その仮面の下の顔をシャーリーは見た。見てしまった。

 暗がりの中にあっても見間違えることはないその顔を。……ルルーシュを。

 

「あ……」

 目の前の光景にシャーリーの口から思わず声が漏れた。

 傷つき気を失っているルルーシュの側にしゃがみこんだC.C.が、その容態を確認するためにルルーシュの顔にそっと触れていた。

「…命に別状は無いな。まったく、あれほど言ったのにコイツは……」

 呆れたような口調だが、ルルーシュに触れた手は優しい。

 一目で分かる、ルルーシュを包みこむようなC.C.の親しげな空気。その距離感。

 それを見てシャーリーの胸がざわついた。

「あ、あの……っ」

 じりじりと燻るような感情に突き動かされて、シャーリーはルルーシュの方へ歩を進める。

 そんなシャーリーを銃口と共に向けられた鋭い瞳が射抜いた。

「それ以上近づくな」

 有無を言わせないその言葉と銃口に、シャーリーが足を止める。

 先程までの空気は霧散し、代わりに息苦しい程に重く冷たい空気がシャーリーとC.C.の間に流れた。

 聞きたいことが山程ある。知りたいことで心が氾濫しそうだ。

 でもそんなシャーリーの想いの全てを、C.C.が無言で切り捨てていく。

 二人の間に沈黙だけが漂う。それを破ったのはC.C.だった。

「運が良かったな」

「え?」

「本来なら、とうに殺していたが、お前がいなくなると煩い奴がいるからな」

 チャ、と軽い音を立てながらC.C.は銃を下ろした。

「見逃してやる。ここで見たことは忘れて、とっととここから消えろ。ただし――」

 二度目はないと思え。

 底冷えする魔女の声音で念を押すと、C.C.はもう用はないというかのようにシャーリーから視線を外した。

「ま、待って!」

 思わずかけてしまった声に反応して、C.C.が鬱陶しそうに振り返る。その表情にうっ、と僅かに怯むもシャーリーはなけなしの勇気を振り絞ってC.C.に問いかけた。

「あ、あなた、誰なの? ルルとどういう関係?」

「貴様が知る必要はない」

 にべもないC.C.の言葉に、シャーリーの頬が、かっ、と朱に染まった。

「か、勝手に決めつけないでよ!! ねぇ! そこにいるのルルなんでしょ!? どういうこと!? ルルがゼ――」

 空気を引き絞る音が耳を掠めていった。

 波風に浚われてシャーリーの鮮やかな橙の髪が数本、はらりと宙を舞う。

「二度目はないと言ったはずだぞ」

 いつの間にか再び向けられていた銃口に、シャーリーは先程の音の正体を理解した。

(撃たれた……!)

 その事実に怒りと興奮で熱くなった頭が一気に冷えていく。

 自分に触れようとする死の気配にシャーリーの身体が小刻みに震えた。

「これが最後の警告だ」

 そんなシャーリーに追い打ちをかけるが如く、銃を下ろさないままC.C.が告げる。

「失せろ」

 明確な拒絶が叩き付けられた。

 お前は関係ない。お前は必要ない。お前は邪魔だ。

 とても高い壁が目の前を覆い隠すかのように立ち塞がっているのをシャーリーは見た気がした。

 それを越えたい。越えていきたいと強く思う。

 だけど、それを越える術をシャーリーはまだ知らない。

「――――――っ」

 しばらく俯き、口唇を震わしていたシャーリーだったが、抑えてきたものが堪えられなくなったかのようにバッ、と身を翻すと勢いよくその場を離れて行った。

「っ、……ひっ、く、…………ぅ、ぇ」

 手の甲で押さえた口元から嗚咽が漏れ続ける。

 涙も、もうずっと止まらない。

 

 知りたいと思った。知っても平気だよって言えると思った。

 そんな恋心が知った現実は。

 まるで立ち入ることが許されない遠い世界だった。

 

 

 

「酷い顔………」

 自室の鏡台に映る自分の顔にシャーリーは、ぽつりとそんな感想を溢した。

 目元は赤を通り越して黒こけており、唇もカサカサだ。触れた頬も普段はある瑞々しい手触りがまったくない。

 恋する乙女どころか、年頃の女の子にあるまじき顔だった。

 

 あれから数日。

 シャーリーは学校を休んだ。

 布団を被り、ただ泣いていた。

 ルームメイトやミレイが心配して色々気遣ってくれていたが、父親のことと勘違いしていたのか最終的には早く元気になってね、と言葉を残してシャーリーの好きにさせてくれたのが有り難かった。

 あれから数日経って、ようやく感情が一応の落ち着きを見せたシャーリーが学校に行こうと決意したのが、つい先頃。

 もう放課後になっていたので明日からでもいいかも、と思ったが色々心配かけたことから、少しでも早い方がいいと考え、部活にだけ行くことにした。

 生徒会には、まだ行けない。まだ、ルルーシュの顔をまともに見られる自信がシャーリーにはなかった。

 寮から部活棟への道をとぼとぼと歩く。

 その脳裏に思い出されるのは、あの時の光景。

 傷付いたルルーシュとそれに寄り添うC.C.の姿。

 ずきん、と胸が痛む。涙も滲んできた。

 ずっ、と鼻を鳴らしながらシャーリーは泣きそうになるのを堪えた。

 知る必要がない、と言われた。それは裏を返せば何かあると言っているのも同義な訳で。

 そこにあんな光景を見せつけられれば、シャーリーでなくとも邪推しよう。

(あの二人は、きっと……)

「変な勘違いしないでくれるかなぁ。C.C.がルルーシュなんかとそんな関係になるわけないだろ。あれはC.C.の優しささ」

 不意に聞こえてきた声にシャーリーの心臓が跳ねる。

 口に出していたのかと思いながら、慌てて振り返ると知らない男がそこに立っていた。

 白衣を思わせる服装と視線を完全に遮る黒いバイザー。ファッションなのか、大きなヘッドフォンをつけていた。

 完全に知らない、怪しさを漂わせる男にシャーリーが警戒心を覚える。

 しかし、男はそんなシャーリーの様子に気遣う素振りも見せず、両手を顔の横まで持ち上げると手を鳴らし始めた。

 

 パン パン パン

 

 どこか人を馬鹿にするようなリズムに不快感を覚えた。

 関わらないほうがいい、と思ったシャーリーは適当に言い訳をして、その場を離れようとしたがそれより早く男が口を開いた。

「酷い男だよねぇ、ルルは。人の大切な人を横取りしようとしたり、自分を好いてくれている女の父親を瀕死にしたりさぁ」

 それに、シャーリーの心臓は先程とは比べものにならないほど大きく跳ねた。

 男の発言はまるでルルーシュの正体を知っているかのようだったからだ。

 そんなシャーリーの動揺に気付いているのか、男の口がニヤリと笑みを作る。

「でも、君も酷いよねぇ。父親が生死の境を彷徨っているというのに、考えることといえば父親を半殺しにした男のことばかり。ま、泥棒猫なルルには丁度良い相手かもしれないけど? 残念だったねぇ、せっかく都合よくキス出来るところだったのに出来なくて」

 まるで泥だった。

 どろどろと、身体に纏わり付いてくる泥のように男の言葉がシャーリーの頭から離れない。

 男が笑い声を上げる。その顔に道化のように笑みを貼り付けて男がシャーリーの心に泥を落としていく。

「でもさぁ、君、間違えてるよ」

 道化が囁く。

「知れば、自分を見てくれるかもしれないだって? そんな甘い考えじゃルルは振り向いてくれないよ?」

 土足で踏み入り、泥をばら蒔く。

「だって、そうだろう? 君が知らないルルのことを知っている奴なんて沢山いるんだから。君がそれを知ったところで、ルルにとってはその他大勢が一人増えたくらいにしか感じないさ」

 その言葉が耳につく。どこか虚ろな瞳のシャーリーに男はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた。

「だからさぁ、特別にならないと」

「……特別?」

 その言葉にボンヤリとシャーリーは言葉を返した。

「そうさ、ルルは間違ってることをしてるだろう? なんせ、人殺しをしてるんだ。でも、誰もそれを指摘してあげない。だから、君が気付かせてあげるんだ。そうすれば……」

「……特別になれる?」

 ルルは、私を。私だけを見てくれる?

 そんな思いがシャーリーの中に生まれる。

「そうさ。最初は辛いかもしれない。でも、すぐに君が正しいって気付いて、感謝して、君だけを見てくれるようになる」

 だからさぁ。

 そう言って、男が懐から何かを取り出した。

 黒光りするそれを、シャーリーは最近見た気がするな、と何処か遠いことのように思いながら受け取る。

「これを使って、ルルを――」

 殺しちゃいなよ。

 道化が囁く。ばら蒔いた泥が少女の気持ちを、心を塗り固めようとして―――――、

 

「そこまでだ、マオ」

 

 魔女の一言に払われた。




 C.C.とシャーリーの初邂逅になりました。
 ルルーシュに一番近い少女と一番近くにいたい少女。
 初戦は圧倒的正妻?力でC.C.が勝利?
 ちょっとシャーリー苛めすぎちゃったかなと思ったけど、住んでる世界が違い過ぎるから、まあ、しょうがないかと。

 そして、マオ登場。
 いや、ホント書きにくいです、この人。
 こういうタイプは読むのも書くのも苦手だなーとつくづく思いました。

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