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哲也が鉄次郎を見送ったと同時刻。
哲也がいる田舎よりも遥かに遠い、山の奥の洞窟。ソレはゆっくりと目覚めた。
「クヒ、ヒヒヒヒ、ヒャハハハハハハ!!」
そして溢れ出す邪悪な陰の気。その密度は尋常ではなかった。霊的現象に抵抗が無い人間ならば、即死に繋がる死の瘴気。
それにとどまらずその地域に存在していた成仏できていない霊、妖怪たちが根こそぎ吸われた。
「そうかぁ、そうかぁぁ!目覚めたか、廻り廻ったなぁぁ!!」
ソレは嬉しそうに、そしてありったけの憎悪の念を溜めこむ。
「今度こそ喰ってやる。儂に生き恥を晒したあの人間!喰ってやる、喰ってやるぞ、ヒャハハハハハハ!!」
白い顔、金色の体毛、そして九本の尾。
ソレは狐の妖怪、
名を、第五等級廃神【
過去にインド、中国、そして日本の三国を崩壊に導いた廃神。
今、長い眠りから目覚めた瞬間だった。
◇
そこには地獄が溢れていた。何せ廃神が、それも別格中の別格である第五等級廃神なのだ。
この結果は何ら不思議ではない。これでもまだマシな方である。
神祇省がその異常すぎる陰の気を確認し、現場へと急行した。その異常度からかなりの修練を積んだ陰陽師を四人も送り出した。
だが結果はこの通り。一瞬のうちに一人が頭を喰われ、二人は生きながら精を吸い尽くされ即死、最後の一人はその異常な濃度の陰の気に当てられ精神が破壊された。
そう、廃神と認定された者たちはことごとく皆化物である。
一番最弱であるとされている第一が人の身で浄化できるのが手一杯なのだ。それが第五までいくとなると、最早成す術が無いのである。
「ヒヒヒ、よい腹ごしらえとなった。それでは人界に降りてみるかのう」
そして九尾は精神が破壊された一人の陰陽師に近づいていく。
九尾は自分の額と陰陽師の額を重ねる。
次の瞬間、九尾と陰陽師の精神が入れ替わった。
「ほぉ、神祇省か。いかにも人間が考えそうなもんよ。元号は【平成】。こんぴゅーた、か。面白そうだのう」
入れ替わった九尾は一人でブツブツと呟く。
今は引き継ぎ先の知識を確認している最中である。
「さて」
入れ替わった九尾は目の前の入れ物にトドメを刺す。
「神祇省とやらにワシの死骸をくれてやろうか。クヒ、ヒヒヒ、ヒャハハハハハ!!」
今ここに廃神が人界へと降りる。最早この日本が崩壊するのも時間の問題となった。
そして九尾と哲也が出会うのはもう少し先の話である。