IS~人は過ちを繰り返す~   作:ロシアよ永遠に

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中々に難産でした。間が空いてしまい、申し訳ないです。


第8話『次の戦いに向けて』

「なるほど、いい戦い振りだったね。」

 

アリーナのクラス代表決定戦の1幕。双眼鏡でそれを遠巻きに見ていた男が言葉を漏らした。ウサギのアップリケがあしらわれた白と黒とのボーダーを身に纏い、深く白い帽子を被った彼は紛うことなくロンにPIPーBOY…いや、ISを届けた宅配者だ。

 

『そりゃこの私があの高慢ちきな英国金髪のISに合わせてセッティングしたからね。負ける方がおかしいよ。』

 

耳に付けられたインカム越しに、自信に満ちた女性の声が響く。

レーザー主体のセシリアのブルーティアーズに対して、耐熱加工であるプリズムコーティングを施しておいた。それによる恩恵で、レーザーによるダメージを極端に軽減して、優位に立てていたのだ。だが、それを差し引いたにしても、綺麗な被ダメージは初撃のヘッドショットのみ。あとは掠ることはあれどもクリーンヒットはない。これも元のパワーアーマーに付与されていたカスタムである『オーバードライブ・サーボ』を更に改良したものだ。元々これは走行時、蹴り出す際に脚部の足底から圧縮したエネルギーを解放することで、ダッシュの速度を底上げするものだった。それによって生身とは比べものにならない程に走行速度を上昇させることが出来たのだが、それによる弊害でパワーアーマーの動力がオーバーヒートしやすくなってしまうのが難点だった。そこで、脚部を更なるカスタマイズを施した結果、ローラーダッシュによる走破能力に加え、上昇した熱を脚部の膨ら脛に当たる部位から、噴射して排熱することにより、速度を更に上昇させることに成功したのだ。結果として、オーバーヒートするまでの時間をかなり延ばすことに成功はしたが、ある程度脚部の肥大化は避けられない結果となったのだが。

 

「全く、僕がせこせことカスタマイズをしていた物を、軽々と上回る魔改造をしてしまうものだから恐れ入るよ。」

 

『ふふん。束さんの頭脳に恐れ入ったかい?ネイ君。』

 

ネイ君と呼ばれた彼…ネイトは、双眼鏡から目を離し、インカム越しにエヘンと胸を張る天災()に苦笑する。

 

『まぁ、ネイ君のパワーアーマーの方にもフィードバックしているから、ある意味一石二鳥なんだよね。何というか、拡張性がありすぎて改造しがいがあるんだよ。昔のパワーアーマーと言っても侮れないね!』

 

「その辺りは有り難いものだよ。おかげで各地のレジスタンスへの支援の介入も楽になってきた。ありがとう束。」

 

『おっ?おっ?いいねいいね!もっと束さんを褒めても良いんだよ?』

 

「ちょっと、いいですか?」

 

背後からいきなりの第三者の声。その問い掛けに、束は口を閉じ、ネイトは振り返る。

そこには…セシリアのブルー・ティアーズより薄い青、そして同じく薄い装甲のISを纏った水色の跳ね髪の少女が、手に持っているガトリングガンを内蔵した槍を突き付けていた。

 

「ここはIS学園の敷地内です。第三者がこのような場所に何の用ですか?見た所、運送会社の方のようですが?」

 

「いや、僕は白ウサギ運送の者でね。ここの男子生徒に届け物をしてその帰りなんだよ。」

 

「へぇ……それはお勤めご苦労様です。」

 

ニコリと、極上とも思える笑みを浮かべた少女は、これに納得して槍を下げる…………かと思いきや、ガトリングガンをいつでも撃てるように、トリガーへと指を添える。

 

「でもおかしいですね?白ウサギ運送なんていう運送会社、ウチの情報網には存在し得ません。そもそも第三者を、今最も命が狙われやすい男子生徒に近寄らせるでしょうか?」

 

「………。」

 

不敵な笑みを浮かべる少女に、ネイトの目が鋭くなる。

もしかしたら…この子は…『裏の世界』の人間かも知れない。そんな予感が過ぎる。

 

「そして、IS学園に正式に入るためには、正面ゲートで身分証明書を提出して、それをデータと照らし合わさなければなりません。ですが今日に至っては、郵便物はともかく、宅配便の業者が来た、と言う履歴は残されていないんです。つまり……

 

 

 

貴方の来訪、そしてこの場にいる過程その物が、正規の物ではない可能性が示唆できますね。…詳しいお話しを聞かせて貰っても?」

 

「断る…と言ったら?」

 

顔をバレないように帽子を目深に被り、しかし少女の動きを見逃さないように睨みを利かせる。そしてそれは相手の方も同じく、不穏な動きを見逃さぬようぬな目を光らせていた。

 

「不本意では有りますが、実力行使…と言うことになります。」

 

「そうか。なら仕方ない。」

 

言うや否や、ネイトの身体が一瞬ぶれて電流が走ったかと思えば、見る見るうちに透き通っていき、その向こうにある景色を写し出していく。

 

「これは…ステルス!?…でもハイパーセンサーで…!!」

 

『無駄だよ。』

 

彼の姿を追おうとする少女に、無意味なことはするなと言わんばかりに、目の前のディスプレイには紫色の長い髪をし、ウサ耳のカチューシャをした女性が現れる。それは…少女もよく知る、おそらくは世界で一番捜索されている人物。

 

「なっ……あ、あなたは…篠ノ乃博士!?」

 

『そっ、束さんだよ~?悪いんだけどさ、彼は束さんの協力者なんだ。だから捕まえたりするのは止めてくんないかな?ま、捕まえようにも、束さんお手製のハイパーセンサーに引っ掛からないステルスBOY君のお陰で無理だろうけど。』

 

「し、しかし!IS学園に侵入となんの関係が…」

 

『うるさいなぁ。』

 

ぞくり、と少女の背をなぞるかのような、底冷えした冷たい声が、モニター越しに聞こえた。目の前に映る篠ノ乃束、その声に変わりない。しかしその声色は、先程までの人を食ったかのような物ではなく、眼だけで軽く人の気を失わせることが出来るかのような、そんな極寒の物だった。

 

『束さんが彼を捕まえないでって言ってんだから、キミはそれをOKすれば良いの。…別に実害はなかったんだ。寧ろ、いっ君ともう一人の男の子…ロン君?だっけ?その子にプラスはあってもマイナスはないんだよ?別にそれならいいじゃん。』

 

だがとある元世界最強の女性教師からすればこう言うだろう。

『アイツに気に入られたのなら、お前も災難だな。』

と、寧ろマイナスに捉えられるだろうが。

 

『ま、そんなわけだからさ。別に彼を見逃したからといって、悪いことはないよ。…寧ろ、これからの世界に必要なことなんだから。』

 

「必要な…こと?」

 

『そうだよ~』

 

含みのある言い方に、反復して尋ねてしまうが、其程までに引っ掛かる物言いなのは変わりない。

そして、その興味を惹くことを成した束は、先程の冷気の籠もった眼と声から一転。元の彼女に戻る。

 

『まぁキミの実家…【対暗部用暗部】…だっけ?ソレについてもプラスになる。…こんな世界を、壊すために、ね。』

 

「世界を、壊す…?」

 

『ま、そう言うことで、更識家にもちょっとした情報が近々入るからさ。楽しみにしてなよ。…たっちゃん。いや、かたちゃんと言った方が良いかな?』

 

最後にバイビー!と真面目な通信だったの疑いそうになるような別れの挨拶を皮切りに、プツリと通信が切れた。

…なんだろう。

さっきの宅配便の人と対峙したときよりも、束と話した時の方がどっと疲れた気がする…。

 

「…でも、さっきのステルス少年?だかなんだかを使って、学園のセキュリティを突破したのは間違いないわね。…ホントに…奇天烈な発明をされる人だわ。」

 

はぁ…と溜息一つに、後ろを振り返るも誰も居ない。しかし、まだそう遠くはない所を移動中の宅配便の彼…彼を追わないにしても、その素性については知っておく必要があると思った。

顔が見えなくても、ある程度の情報はある。

声紋や体格…そして左手にあった妙な籠手のような物。

 

「虚ちゃん。」

 

『なんでしょう?お嬢様。』

 

束と変わって、次に映し出されたのは、よく知る少女。眼鏡を掛け、正に真面目という代名詞が相応しいまでの一つ年上で幼馴染み兼自身の従者兼友人。

 

「今から送る画像データと音声データ、それらを照らし合わせて適合者を割り出してくれないかしら?」

 

『…と、言いますと?』

 

「篠ノ乃博士の関係者よ。」

 

『…っ!わかりました。私を含め、更識家の諜報部にも依頼をしておきます。』

 

「お願いね。」

 

プツリと再び切れた通信。ここにきて、ようやくISを解除し…空を見やる。

突き抜けんばかりの晴天に、ぽつりぽつりと浮かぶ雲。

何のことはない。晴れた大空。

しかし少女…更識楯無の目には…天災の前触れ…そんな風にも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、放出しまくったジャンクをPIPーBOYの量子格納に放り運んでから(実際ゴミを袋に入れようとすれば、かなりの量になりかねないので)後日ゴミ集積所に持っていこうと心に決めたのは、既に夕食の時間になっていた。

疲労困憊に加え、身体に染みついたゴミ臭い匂いを落とすべく、アリーナに備え付けられた簡易シャワーを浴びることにした。着用していたISスーツはPIPーBOYにこれまた量子格納し、シャワーを浴びたら制服に着替える。ただそれだけの行程。備え付けの備品であるボディーソープで身体を隅々まで洗い、石鹸の匂いで誤魔化して…。それによってサッパリはしたが、念入りに洗ったので余計に疲れが襲ってきた。

 

「う……これはさすがに…夕食を食べる元気はない、かな…。」

 

さすがに身体に染みついたモノは消えたにしても、ゴミの匂いを嗅いでいたこと自体は事実で、鼻腔の奥に染みついている。それを脳が鮮明に記憶しているため、今の地点で夕食を摂ろうとする気にはなれず、また食欲が戻るまで待っていては、夕食時間が終わってしまうので、自販機でカロリーメ○トを買っておこうと考えつつ制服に袖を通して、未だ乾ききらぬ短い金髪をタオルで拭きながら廊下に出た時、

 

「よっ!お疲れロン。」

 

向かいの壁に背を預けて待っていた一夏が、何の気なく手を上げて挨拶してきた。

 

「もしかして、待っていたのかい?」

 

「まぁな。夕食、まだだろ?食いに行こうぜ。」

 

「済まない一夏。疲労困憊とゴミを扱ったので…正直食欲が湧かないんだ。」

 

本当に申し訳ない思いからか、自然と声のトーンも下がってしまう。

折角待っていたのに、と思ってしまうかも知れない。だが、一夏は顔をゆがめることもなく、ロンの肩を叩いた。

 

「まぁ後片付けしてたんだ。仕方ねぇよ。…じゃあ俺は食堂に行くけど、ロンはどうするんだ?」

 

「自販機か何かで携帯食を買って、食べれるときに食べれるようにするよ。」

 

「そうか…、じゃあ明日の朝は一緒に食おうぜ。正直、食堂で男一人は辛いからな。」

 

「あぁ。約束するよ。」

 

とりあえずアリーナから食堂、もしくは寮に向かうまでは共通のルートのため、途中まで連れ立っていくことにした。

結局、アリーナの片付けで時間を追われ、セシリアとロン、二人の一戦のみで今日の試合は終わることとなってしまい、翌日の放課後に残りを持ち越すこととなった。

残る試合は2試合。ロンと一夏、そして一夏とセシリアとの組み合わせである。

 

「でもまぁ…国家代表候補生に勝っちまうなんてな。本当に搭乗時間少なかったのかと疑ってしまうぞ?」

 

「事実だよ。男性操縦者を探して政府の奴等がやってきて…その時にチェックと、一通りの動きとか、そういったテスト以外は動かしてない。…正味、1時間か2時間しか触ってないかな。」

 

「…てことは、入学前の試験官との試合もしてないのか?」

 

「何分、急だったからな。そんなのもあったのか?」

 

「まぁな。…だとしたら余計にスゲぇな。」

 

一夏も、箒や千冬、真耶と共にハンガー近くのモニターで試合を観戦していていたが、2人の…いや、年端も変わらぬ人間がこうして戦うことが出来ていたことに目を奪われていた。過去に千冬が、モンド・グロッソにおいて、決勝進出まで駒を進めたとき、現地でその戦いを観てはいた。しかし、姉の人外振りは既知だったので、頑張れという応援以外の思いは浮かばずにいた。

だが初心者にも関わらず、国家代表候補生であるセシリアと戦い、そして勝利を収めた彼の戦いは、一夏にとっては同じ男として素直に賞賛できる物であり、加えて友人として誇らしくも思えた。

 

「明日は…ロンかセシリア、どっちが先になるかわかんねぇけど、どっちにしても試合では本気でやろうぜ。」

 

「当たり前だろう?…お互い、手加減無しだ。」

 

そして…目の前の男と戦って、勝ちたい。

護られてばかりの自分が嫌だった。いつも強い姉の影に護られて、育って、そして『2年前に自分が姉の栄光に泥を塗った』事が許せずにいた。でも今はISと言う守れる力を手に入れた。これがあれば、今まで自分を護り、育ててくれた千冬を護れる。その力のためにも、一夏は今目の前の強者と戦って…自分の強さを知りたかった。

 

「悪いけど…勝ちに行かせて貰うからな!」

 

「その言葉、そっくり返すさ。」

 

力強く、コツンと合わせた拳は宣戦布告。

絶対に勝って…自分の力を試す。それだけを思って。

 


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