IS~人は過ちを繰り返す~   作:ロシアよ永遠に

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第6話『始まるクラス代表決定戦』

ロンと簪が廊下に出た瞬間

何かが砕けるような音と共に、男の叫び声が廊下に木霊した。

そして目の前には廊下の壁に背を預けてへたれ込んでいる一夏。そして1025室の扉から突き出している木の棒…否、木刀。

廊下に出たロンと、そして簪はその光景に唖然としてしまった。

 

「…何やってるんだ一夏。」

 

「ロ、ロン!助けてくれぇ!」

 

もはや泣き入りそうな声でロンに縋り付く一夏。状況が読めないロンと簪は疑問に思い、揃って首を傾げる。

 

「とりあえず事情説明をしてくれないか?じゃないと、こうなった理由が飲み込めないんだけど。」

 

「あ、あぁ。実は…」

 

かくかくしかじか

かくかくうまうま

 

「なるほど、意気揚々と入室したは良いが、シャワーを浴びて出て来たバスタオル1枚の篠ノ乃箒と鉢合わせて、木刀によるその報復をかわして今に至る、と。」

 

「な、何で今ので分かるの?」

 

「とにかくロン!箒を説得してくれないか?アイツ、激おこ状態でさ、俺の言葉を聞かねぇんだよ。」

 

…確かに、いくら半裸を見られたとは言えど、その怒りで木刀で扉を貫くほどの腕だ。そんな物で殴打されれば、下手をすれば死んでしまうかも知れない。となれば、渦中の人物である一夏をけしかけるよりも、第三者による介入の方が冷静な判断を持たせられるだろう。

 

「…仕方ない。乗りかかった船だ。」

 

ここで放っておいても寝覚めが悪いのも確かだ。

そんな想いと溜息を吐き出して、ロンは意を決する。

 

「篠ノ乃箒。」

 

「な、なんだ?その声は…ロンか?」

 

「まぁ一夏の声でなければ俺しかいないだろう?…兎にも角にも、二人の問題だけならともかく、皆何事かと集まってきているぞ?」

 

これだけ大声で叫んでいれば、遠くの部屋ならばともかく近場の部屋ならば、否が応でも耳に入るだろう。そうなれば、野次馬根性丸出しで好奇心旺盛である女子生徒は、まるで砂糖に群がる蟻の如く、わらわらと集まってくる。

 

「何々?何が起こってるの?」

 

「なんでも、一夏君とロン君の中に嫉妬した篠ノ乃さんが激おこぷんぷん丸で、『一夏を殺して私も死ぬ!』状態らしいよ?」

 

「何その修羅場。」

 

素晴らしきかな女子の妄想力、そして謎の捏造力。

 

「ほ、箒ィ!このままじゃ、俺とロンの掛け算的な何かの本が世に出回っちまう!後生だから部屋に入れてくれえ!」

 

「一夏とロンの…掛け算…」

 

ぽわわん…

そんな効果音が一夏と箒の部屋の中から聞こえてくる。

嫌な予感がする…

 

「くばはっ!?」

 

訳のわからない声と共に、ドサリと部屋の中で倒れる音がする。何事かと皆が静観していると、ドアと床の隙間から、赤い液体が流れ出てきた。そして漂うのは…鉄の香り。

 

「箒!?箒ィ!?!?」

 

「ふ…ふふ…一夏ァ…!一向に構わんぞォ…!お前が攻めでも…受けでも……!」

 

「…ダメ、既に彼女は腐ってる…遅すぎたんだ。」

 

冷酷なまでに簪が下す箒の病状は、一夏を糸色望させるには充分だった。

 

「…状況はわからんが…ほっといても良いのか?」

 

「多分、興奮して鼻血が出ただけだと思うし。放っといても問題ないと思う。」

 

「そうか…一夏。とりあえず夕食に行こう。篠ノ乃箒に関しては…時間が経てば復活するだろう。」

 

「…そう、だな。」

 

未だ流れ広がる赤々とした液体を横目に、3人は野次馬の中を突っ切って食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、すまないな。なぜかいきなり鼻血が大量に出てしまってな。少し貧血気味で倒れていたみたいなんだ。」

 

食堂で注文したメニューの出来上がりを受け取った辺りで、鼻に大量のティッシュを詰めた箒が合流した。その顔色は、何処か血色が余りよくない。やはり大量の鼻血が原因だろう。

 

「それはそうと…なぜ私は気を失ったのだ?その理由がさっぱりなんだが…。」

 

「世の中には覚えていない方が幸せなこともあると思う…。それだけ。」

 

少し多めに盛られたかき揚げうどんを、可愛らしくつるつるとすすりながら、簪は箒に釘を刺す。

人は時として、肉体や精神に強い負担がかかった出来事を封印し、再発防止を促すことがあると言うが、箒の記憶のすっ飛び具合はまさにそれだろう。

 

「その…まぁ大事がなくてよかったよ箒。せっかくまた同じクラスで勉強出来るんだ。仲良くしようぜ。」

 

「そう、だな。うむ。そうするとしよう。」

 

そう言うと、箒は鯖味噌定食のメインの身を解し、口に運ぶ。

ちなみに後の2人、男子たる一夏とロンは、それぞれ唐揚げ定食と、ハンバーガーセットだ。

 

「そう言えば今更なんだが、ロンの隣の子って、ルームメイトか?」

 

「本当に今更だな。」

 

「なんだよ、箒だって今まで話題に出さなかっただろう?」

 

「それはそう、だが…」

 

「とりあえず紹介だけしておくか。彼女は更識簪。俺のルームメイトだ。」

 

「…よろしく。織斑一夏君と…篠ノ乃箒さん…だっけ?」

 

「俺のことは一夏って呼んでくれ。先生に千冬姉が居るからな。」

 

「私も箒でたのむ。」

 

「じゃあ…私も簪でお願い。上級生に…お姉ちゃんが居るから。」

 

「あぁ、宜しく頼むぜ、簪さん。」

 

「呼び捨てで良い。同い年なんだし、畏まられるのも、さん付けされるのも、何だかむず痒い。」

 

「お、おう。」

 

そのあとは…まぁ談笑しながら夕食をゆっくり平らげた訳だが、その途中でふと、簪がとある話題に手を出す。

 

「そう言えば…イギリスの代表候補生と決闘するって話を聞いたけど、本当なの?」

 

「あぁ。本当だぜ。」

 

「全く、昔からお前は頭に血が上りやすい質だったが、それは変わらんのだな。」

 

「だってさ、日本の文化が後進的だとかそんなことを言われて腹が立たねぇ訳ないだろ?俺を猿だとか言うのはともかくさ。」

 

「…日本の文化が…後進的…?」

 

セシリア氏の発言を話していると、ふと簪氏の眼鏡がギラリと光る。静かに、そして怒気を孕んだ声で呟いた。

 

「日本の特撮や…アニメ、ゲーム技術を…後進的と…、そう…。ふ、フフフ…ハハハ…!」

 

空気が、震えた気がした。それは、互いに気迫をぶつけ合う剣道を学んだ一夏や箒でさえも悪寒を覚えるほどのおぞましき物。食堂で夕食を食べていた生徒も、何事かとその箸を止めて四人の席に目を向ける。

 

「一夏…ロン…。」

 

「「は、はいぃ!!」」

 

思わず姿勢を正して畏まった返事をしてしまった二人。簪の気にでも当てられたのか、じわりじわりと嫌な汗が分泌されていく。

 

「クラス代表戦では敵だけど…クラス代表決定戦に勝つために…特訓するよ。」

 

「「はいぃ!!」」

 

有無は言わせぬ、是非も無し、と言葉に含まれた威圧感。もはや二人に拒否権は無い。

 

「ま、待ってくれ簪。」

 

と、そこに異議を唱えるのは、一夏と隣り合って座っていた箒。簪の気で若干声が震えているが、それでも今の簪に異を唱えるのにどれ程の胆力と勇気が要るか、それは想像を絶するだろう。

 

「す、済まないが、一夏の指導は…私にさせてはくれないか?」

 

「一夏の…?」

 

「う、うむ。私と一夏は幼馴染みだ。互いのことはある程度知り得ているし、気心の知れる人間が教えた方が捗ると思ったのだが…。」

 

「………。」

 

「ダメ、だろうか?」

 

箒としては、ほのかな恋心を寄せている一夏と長年離れ離れになって、何の因果か天災による陰謀か、このIS学園でようやく再会。同じ学舎で学ぶことが出来るようになった。それだけに今までの時間を埋めたいのだろう。唯でさえ、鈍ちんで、鈍感で、唐変木で、朴念仁で、アンポンタンな一夏だ。少しでもアタックチャンスを増やさねば、振り向かせるなど夢のまた夢だ。

 

「良いと思う。」

 

「そ、そうか!」

 

「うん。今思えば、私一人で二人も見れるほど器用じゃないし。一夏のこと、箒に任せてもいい?」

 

「あぁ!任せてくれ!」

 

「…なんか、俺の意志と関係無しにこれからのことが決まっていってるんだけど…。」

 

「「何か異論でも?」」

 

「な、何でも無いです。」

 

「そう言えば、簪は…」

 

「四組。だから本来敵だけど、イギリス代表候補生打倒には手を貸す…。日本のカルチャーを馬鹿にした英国女に、カルチャーショックを与えてやるの。ヤック・デカルチャーって。」

 

簪の中では既にイギリスは、歌などの文化を知らない、戦闘民族国家となっているようである。

聞けばセシリアと同じく、日本の代表候補生である簪に教えを請えるならば、ロンにとって此程頼もしい相手は居ない。

 

「やるからには勝つよ…!いい!?」

 

「い、イエスマム!」

 

ともあれ、やる気に満ちあふれた女子によって、男子生徒二人には過酷な1週間が幕を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、なんやかんやで1週間が過ぎた。

途中、なんやかんやがなんやかんやで、なんやかんやが済んで決闘当日。

件の二人と、それぞれ同室のルームメイト、そして一組担任と副担任が、ピットに集まっていた。

 

「なぁ箒。」

 

「なんだ?」

 

「俺、ISで模擬戦だって言ったよな?」

 

「うむ。」

 

「なのにこの1週間、ISのアの字も触ってないんだけど?」

 

「………。」

 

「視線逸らすな視線。」

 

「いや…一応アリーナの使用許可と、ISの貸し出し申請はしたのだ。」

 

箒曰く。

訓練機の貸出は、数が絶対的に少なく、それに比べると申請する生徒の数は多く。打鉄もラファールも、1週間は予約が一杯だったのだ。どこもかしこも、授業以外でISに触れたかったり、訓練をしたかったりする。それだけに、アリーナはともかく、訓練機の貸出は入学式より先に申請していた上級生が優先させられてしまい、結局借りれずに居た。そしてそれは彼だけに限られた話ではない。

 

「ごめん、ロン。実機を使った訓練が出来なかった。」

 

「いや、その代わりに論理的な操作法を簪から教わることが出来たから、後は感覚の問題だ。あとは慣れだと思うし、気にしなくても良い。」

 

ロンも同じ理由で借りることが出来なかった。それをフォローするために、簪による座学で知識面の補填を行った。

一夏は箒との剣道で感覚を

ロンは簪からの知識を

それぞれ培った。あとは実際にISへの搭乗する事でしか出来ないことばかりだろう。

そんな中、一夏に用意されるというISが、未だ届かないことが問題になり、真耶と千冬が、片や電話を掛け、片や苛立ちが表に出て来ている。

 

「もうすぐ予定時刻だというのに…!」

 

「向こうも、ISは既に出たと言っています。…この場合…ラーワンダー君が先に戦って貰うしかないかも知れません。」

 

「…了解です。」

 

「では…予めお前が希望していたラファールを…」

 

深緑のデフォルトカラーに染められたラファールが台車に乗せられて鎮座する。

相手は第三世代の専用機。

対してこちらは訓練用第二世代機。

到底勝ち目がない戦いだが、そうも言ってられない。

そう考え、彼の機に触れようとした瞬間、

 

「すいません、白兎宅急便です~。」

 

何とピットに、小包を抱えた宅配業者が入ってきたのだ。白と黒のボーダーのシャツに、真っ白の帽子。おあつらえ向きに、白いウサギのアップリケをしている。

 

「なんだ?ここは関係者以外、立ち入り禁止だぞ?」

 

「えっと。ロン・ラーワンダーさん宛てに速達の小包を預かっているんです。受付で伺ったところ、こちらに案内されましたので。」

 

「俺に、ですか?」

 

「はい。よろしければ、こちらにサインを…」

 

「…仕方ない。こちらも急いでいる。ラーワンダー。早いところサインをしてやれ。」

 

「…了解です。」

 

業者にペンを受け取ると、受け取り印の欄に、自身の苗字を書き入れる。それを確認した業者は、ニコリと営業スマイルを浮かべ、小包をロンに手渡した。

 

「確かにお届けしました。…そうそう、差出人から手紙をお預かりしていますので、こちらも合わせてお読み下さい。」

 

白の封筒にピンクのハートマークの便箋を渡すと、一礼してピットを後にする。残されたのは、小包を抱えて手紙を見つめるロンと、他五人。ハートマークの便箋ともなれば、如何に恋心に疎い一夏と言えど、その中身に大体の想像がついてしまう。

 

「ろ、ロン。もしかして、故郷に大切な人でも?」

 

「…だからといってこんな物を送ってくる間柄の人は居ないけどな。」

 

「時間が惜しい。ラーワンダー、早く開けろ。アリーナ使用時間は限られている。」

 

「了解です。」

 

丁寧に便箋を開き、綺麗に折りたたまれた手紙を広げていく。その中身が露わになっていくにつれ、皆の眼光が強くなってきている。恋愛に無関心に見える千冬ですら、横目でチラチラと手紙の中身を覗き見ようとしているほどだ。

 

「えっと…」

 

『小包の中身の取り扱い方』

 

「「「「「「………………。」」」」」」

 

期待していた内容とは全くかけ離れた物に、一同絶句する。もっと何かこう…青春の甘酸っぱいイベント的な物を期待していただけに、その落胆振りは顕著な物だった。

 

「なんか…期待はずれかも…」

 

「と、とにかく、小包を開けてみてはどうだ?手紙の中身はそれに関してのことだろう?」

 

「そ、そうだな。」

 

一応、皆より年上ではあるが、ロンとてラブレター的な物を期待していないと言えば嘘になる。だが、現に思わせぶりな内容ではあれど、自分への小包の中身が気にならないと言うのも嘘になる。

段ボールに梱包されたそれを床に置いて、丁寧に開いていく。

そして…中から出て来たもの。それは…

 

「…なんぞこれ?」

 

「…腕輪…にしては、変な画面が付いていますね?」

 

深緑のラファールと同じような色のそれに、一同全員がのぞき込む。

 

「えっと…『腕時計と同じ感じで左手に着用。』?」

 

緩衝材代わりのプチプチを外して、それを左手に着用する。ゴツイ見た目通りのズシッとくる重さが左腕に掛かってくる。

 

「これは…なかなか重いな。」

 

「次は…『自動で電源が入るので、待つべし。』だそうです。」

 

拾い上げた手紙を真耶が読んでいく。

その後には、真っ黒だった画面に、緑色のレトロ感漂うキャラクターが写し出される。

 

「…えらく古臭い物なのだな。…一体誰から…」

 

緩衝材として役目を終えたプチプチを潰しながら、箒は真耶の持つ手紙をのぞき込む。

その中身は…

 

『誰から差し出されたかは秘密だぜぃ☆箒ちゃん☆』

 

読んだ瞬間、パサリとプチプチを落としてしまう箒、そして真耶から手紙を取り上げて目を通す千冬。

 

「ま、まさかこれの差出人て…!」

 

「ラーワンダー!今すぐそれを外せ!」

 

だが時は既に遅く。

画面には

 

『パーソナルデータ、登録完了。コネクター接続。』

 

そう表示されていた。

 

「くそ!()()()め…!やってくれたな…!」

 

「ろ、ロン!大丈夫か?何ともないか!?」

 

千冬はぐしゃりと握り潰した手紙を床にたたきつけると、それを踏み潰した。

箒はと言えば、何か事情を知るのか、ロンの身体を心配し、付けられた腕輪と、そして彼の顔色を観察する。

 

「いや…何ともない。…一瞬チクリとしたくらいで、あとは何も…」

 

「…そうか。…なら良いが…。」

 

「なぁ千冬姉。これの差出人て…」

 

「あぁ。察しの通り、あの()鹿()からだ。」

 

音沙汰無い友人から、自身の教え子に贈られてきたわけもわからない腕輪。それを説明書通りに装着してしまい、彼女の企みのままになってしまったことに千冬は舌を打つ。だがこれが何なのかはともかく、異常が無いのならばラファールを装着して模擬戦を…

 

 

 

 

 

 

 

出来ればどれだけよかったか。

 

次は、付けられた腕輪から、眩いまでの光が発せられる。

それにはロンはもちろん、一夏や簪、箒や真耶、挙げ句千冬までもが目を覆い、その光を遮る。

 

「な、なんだこれは…!?」

 

「何も見えませ~ん!」

 

「私の目が…目がぁ…!」

 

「スゲぇな簪、こんな時にまでネタを仕込めるって…!」

 

「感心している場合か!?」

 

三者三様、否、五者五様の反応を見せる中、1番逐一冷静なのはロンだった。自身の腕に取り付けられたそれから溢れ出る光に微動だにせず、ただただ眼を細めてそれを見つめるだけ。肝が据わっている、と言えばそれまでだが、それだけでも充分すぎるほどだ。

 

「これ…は……!」

 

光が溢れる中、彼が見たのは、量子化された鋼鉄の鎧が目の前にその姿を現す光景だった。

 

やがて…

 

光が収まると共に、眩んだ眼が少しずつ元に戻っていく。

 

「…ふぅ…一体何だったんだ?」

 

「まだ眼がチカチカする…。」

 

網膜が焼かれたかのように一時的に視野が乱れるが、それもすぐに収まった。一体何事かと、皆が整理する中、ロンは一歩踏み出す。

そこにあるのは、黒金の鎧。

しかし、ISのようにシャープなデザインとはかけ離れたもの。

躯体の所々から伸びるパイプ。

頭部にはヘッドライト。

背後のバルブハンドル。

次世代の兵器…と言うよりも、一昔前のテクノロジーで造られた物にも見える。

 

「…現代よりも前のロストテクノロジーによる兵器…!これが…ガンダム・フレ…」

 

「いや、どう見ても違うだろ。」

 

「これは…IS、なのか?」

 

ロンの呟きに応じるかのように、ゴーグルに当たる部位に光が走る。意志でもあるのか、と言わんばかりに、恐らく背面に当たる部分。密封した空気を吐き出すかのように、プシュゥ…と装甲を展開する。

 

「乗り込め…と言うことなのか?」

 

「…どうやらその様だ。…ラーワンダー。あの馬鹿の作品だから…信用に値するかは分からん。だがお前はこのままこの機体でオルコットとやり合うか、それともラファールでか、好きな方を選べ。その選択に、私は一存しよう。」

 

「お、織斑先生!?そんな…得体の知れない機体を選択肢に入れるのは…!」

 

「分かっている。だが、あの馬鹿が何の考えもなく赤の他人にISを…機体を作るとも思えん。ならばそれに賭けるのも1つの選択だろう。そしてそれはラーワンダーに委ねる。」

 

「俺は…」

 

目の前のソレを見やる。

先程のゴーグルの光以来、何も動かない。

だがロンは何かを感じる。

この機体から…。

何と表現すれば良いかは分からない。

しかし、因縁にも似た何かを、ソレを感じるのは確かだ。

 

「俺は…!」

 

意を決し、歩んだ。背を開いたそれに身を投じ、フィット。

 

『搭乗者、確認。ハイパーセンサー、リンク。PIC(パッシブイナーシャルキャンセラー)アクティブ。シールドエネルギー、問題なし。フィッティングスタート。』

 

機械音声と共に、ロンは体に違和感を感じる。

自身の身体が…意識が、この黒金の鎧に馴染んでいく。

1つとなるような感覚。

試しに右手の平を、いつもの感覚で開いて閉じるようにしてみる。すると、鎧の手の平も同じように動くではないか。

 

『成る程、ハイパーセンサーの感覚は慣れないけど、こう言った動作ならやりやすいな。』

 

端から見ればフルスキンだ。全身すっぽりと覆ったそれは、ISと呼ぶべきか否か悩み所だ。だが不思議と、コイツならやれる。そう思える。

 

『PIPーBOYコネクト。VATSアシスト可能。』

 

だがここに来て、簪からの座学になかったはずの言葉が飛び出す。

PIPーBOY?

VATS?

 

「ラーワンダー。問題なければカタパルトに接続し出撃しろ。…大分時間を食ったからな。巻いていくぞ。」

 

『…了解。』

 

未だ頭の整理が追い付かないが、今はカタパルトから飛びだした先にいるセシリアとの戦いに赴く方が先だ。さっきの単語…システムについては、戦いの中で学ぶしかない。

機体射出用のカタパルトに接続すると同時に、眼前に信号機のような物がスライドして降りてくる。そしてそれは…カタパルト射出のカウントダウンを示すものだと容易に想像できた。

 

「頑張れよ!ロン!あいつに一泡吹かせてやろうぜ!」

 

「全力を尽くせよ。」

 

「ロン、頑張ってね。」

 

『…おう!』

 

友人達が、エールを送ってくれる。此程頼もしい物はあるだろうか?

未知のシステムによる不安が掛かっていた心中も、幾分か晴れやかになる。

信じてくれる一夏や箒。

知識を教えてくれた簪。

皆のためにも…

 

(無様を晒すわけには…行かない!)

 

『ロン・ラーワンダー君!発進どうぞ!』

 

『ロン・ラーワンダー!行きます!!』

 

拘束射出により、身体が後ろへ押しやられる感覚に耐えながら、ロンは飛翔、跳躍した。

 

 

1年1組クラス代表決定戦

ロン・ラーワンダー

VS

セシリア・オルコット

 




難産…そして駆け足感が否めない…申し訳ないです。

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