IS~人は過ちを繰り返す~   作:ロシアよ永遠に

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第2話『束一味との邂逅』

人は過ぎた科学を見れば、あたかもそれを魔法と錯覚する、とは言うが、まさしくその通りだと思った。行き成り空からミサイル(彼女曰く、ステルスニンジン型ロケットらしい)と共に降りてきた、天災こと篠ノ乃束に言うがままに案内され、気付けば彼女の秘密基地らしき場所に彼は立っていた。

 

「な、何を言っているかわからないと思うが、僕も何をされたのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

超スピードだとか、催眠術だとか、そんなチャチな物じゃあ断じてない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ…」

 

「ほらほら、早く着いて来なよ。折角束さんのラボに来たんだから。光栄に思って良いんだよ?有象無象のハズの君が、ここに足を踏み入れること自体奇跡なんだからさ。」

 

この篠ノ乃束、実を言うとコミュ障とか何とかを通り越して、自分の認めた人間以外を認識できないという、とても偏屈な人間である。一部の自身の友人どころか両親をも認識せず、認識すると言えば、友人たる織斑千冬とその弟の一夏、自身の妹たる箒、そして…

 

「お帰りなさいませ束様。」

 

「くーちゃぁぁぁん!!ただいまー!!!」

 

迎えに出て来たであろう、銀髪の少女を見掛けるや否や、瞬間移動もかくやと言わんばかりの速さで抱き付き、頬擦りし始めた。

クロエ・クロニクル

束が認識できると思われる最後の一人だ。一応、形式上は母娘という関係らしい。何故か目を閉じ、杖を突いている点を見るに、盲目なのだろうか?

 

「…束様。少々焦げ臭いのですが…。」

 

「あ~、もしかしたら撃墜されたときに、服がちょぉっと焦げちゃったかな?いやぁ、束さんとしたことが、失敗失敗~。テヘペロ♪」

 

「撃墜…!?もしや…そこにいる男が…?」

 

母たる束に危害を加えた男ともなれば、このクロエ・クロニクル。百万回生まれ変わっても恨み晴らすだろう、復讐系女子。向けられる敵意が痛々しい

 

『旦那様、事実とは言え、ある程度釈明をしないと、そこのお嬢様に噛み付かれますよ。』

 

「あ~、その、ミサイルと勘違いしてね。申し訳ないと言うか…。」

 

「な…よりにもよって…束様をミサイルと…!?」

 

カッと見開かれた目。その異質さに、彼は少々戸惑う。

白であるはずの部分が黒く、虹彩が金と言う、文字通り異色。それを目にして、彼は一瞬戸惑い、そんな彼を見たクロエは、ハッとなって目を閉じる。

 

「君は…」

 

「はぁいSTOP!女の子のプライベートに踏み込もうとするなんて、男としてどうかと思うZO☆」

 

『全くです。奥様が生きておられたら、異議ありが飛んできていたことでしょう。』

 

束の反感を買った

 

コズワースの反感を買った

 

「…所で今更だけど、そのヘンテコな機械は何なの?家に一度戻ったときに連れて来たけど。」

 

『ヘンテコとは心外な!私はMr.ハンディシリーズにして、旦那様に名付けられたコズワースというれっきとした名前があるのです。何処の馬の骨とも知らない駄兎には判らないでしょうが。』

 

「あっははは~、私の聞き間違いかなぁ?いま束さんをして駄兎なんて言う、戯れ言や寝言とも取れるような言葉が聞こえたんだけどぉ?」

 

『おや?聞こえませんでしたか?駄ラビット。兎の割に耳が遠いのですね。もしかして、もうヨボヨボなのですか?その姿は若作りのものだと?ふむ、データで貴女は2(ピー)歳だとか言われていますが、余程さば読んでいると見受けられますね?』

 

ブチィ!!

そんな聞こえてはならない音が周囲に響いた。

 

「クヒ…クヒヒヒ…!ねぇ……有象無象の君。このガラクタを文字通りガラクタにしても良い?良いよね?返事は聞いてない。」

 

『旦那様、本日のディナーは、クソ兎のソテーなど如何でしょう?肉の品質は保証しかねますが。』

 

最早一触即発。

今まさに血とオイルに塗れる決闘の火蓋が切って落とされようとしており、傍らで見ていたクロエもオドオドしている。

片やアームから火炎をいつでも吐けるように。

片や両手の指の関節にスパナやドライバーを挟んで、某奥州筆頭の六爪竜のように。

3つのセンサーアイと一対の眼が火花を散らす。

 

「落ち着くんだ。」

 

そんな一人と一機に、束にはライフルから発射した注射器を、コズワースにはメンテナンスパネルにPIPーBOYから伸ばしたプラグを、それぞれ()す。

するとどうしたことか。

先程の険悪な雰囲気は何処へやら…。

 

「セカイヘイワノタメニ、ガンバルデス。」

 

『ニクシミヲウムモノ、ニクシミヲソダテルおいるヲハキダシマス。』

 

「やれやれ、これで暫くは何とかなるか。」

 

「束様…!?」

 

「ドウシタデスカ?くろえサン。」

 

「っ!?」

 

何と言うことでしょう!あの世界屈指のマイペース屋な束が、自身をさん付けしています!普段のハイテンション振りが見事に抑えられ、淑女と見ても問題ないまでに変貌を遂げました!イギリス代表候補生も真っ青です。

対し、コズワースにおいては、血をオイルと言い換えるあたり、男のハッキングして書き換えた内容に匠の技とユニークさが光ります。

 

「束様が…束様が…」

 

「あの場で血みどろオイルみどろな戦いは勘弁して欲しかったからね。まぁ、三十分もすれば元に戻るさ。とりあえず、ゆっくり話せるところへ案内してくれないか?クロニクルさん。」

 

「…クロエで構いません…えっと……」

 

「あぁ、そうだね。名前を言ってなかったか。僕はネイト。こっちは僕の家で家事を手伝ってくれていたMr.ハンディタイプのコズワース。よろしく頼むよ、クロエさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?束さんは一体…?確か…有象無象のあんちくしょうと、鉄屑君をこのラボに連れて来たまでは覚えてるけど…」

 

束とクロエが共に睡眠を取る寝室にて、ベッドで寝かされていた束は飛び起きるや否や、眼を丸くする。確か秘密の侵入口にまで有象無象君(仮名)と鉄屑君を連れて来た。裏切られた時用に、入口の開封法を記憶できないよう、アレな薬をほんのり嗅がせて、いつの間にやらやってきた状態にもしている。おそらくあの時彼は所謂『ポルポル現象』を引き起こしていたのだろうが…。

 

「Dr.篠ノ乃。君は栄養状態が芳しくないみたいだね。その身長にしては、背負ったときの重みが余り感じられなかった。それでいきなり貧血なんか起こすんだ。」

 

「むっ…!女の子に体重に関してどうのこうの言うのはどうなのかな?」

 

「全くです。デリカシーが足りません。」

 

束の反感を買った。

 

クロエの反感を買った。

 

二人に睨まれる(一人はそうであろうという感じだが)等という、正直肩身の狭さを感じる中、貧血などという嘘のために体重という言葉を出してしまったことに後悔する。

ともあれ

これ以上の話の腰を折らないためにも、コズワースは格納庫らしき場所に放置している。

 

「んっん!とにかくDr.篠ノ乃。先程君は言ったね?『こんな腐った世界を壊す気があるか?』と。あれはどういう意味だ?」

 

「ん?そのまんまの意味だよ?こんな世界のシステムなんかぶっ壊したいんだけど…もしかして信用されてないかな~?」

 

「当然だろう?ISに妻と子を奪われて、その開発者で、しかも結果として女尊男卑という社会を生み出した貴女を信用しろ、と言うのはどだい無理な話だと思うが?」

 

身体の後ろで見えないが、ぎりっと拳を力強く握り混む。

あの日…

炎に包まれるサンクチュアリ。

逃げ惑う人々。

ISに命を絶たれる街人、そして最愛の妻。

そして連れ去られた幼い愛する息子。

全てが悪夢だった。

全てを奪い取られた。

それを生み出した元凶が目の前に居る。

 

「そう、だよね。まぁ…今の社会を生み出したのは、束さんだというのは否定できない、事実だよ。」

 

でも、と束は言葉を繋ぐ。

 

「元々私がISの開発したコンセプトって、君は知ってたりする?」

 

「…軍属時代に聞いたことはある。…確か宇宙進出の為、だったか?」

 

「そう。その為のIS。無限の成層圏、その先へ向かうためのマルチフォームスーツ。そう発表したよ。でも子供の絵空事だって一蹴されたよ。悔しかったなぁ…。認められないのが認められなくて。…でも、若気の至り、なのかな。それが原因で私は…『白騎士事件』を起こしたんだよ。」

 

日本を射程に収める二千発以上の軍事ミサイルがハッキング、発射され、それを白騎士と当時見た軍が名付けた謎の機体によって全てが撃ち落とされた事件。

なる程、つまりあれは…結果として自作自演だったと。そう言うことか。

 

「君は…、君は、自分がしたことを解っているのか!?下手をすれば、人が、街が、取り返しの付かない事になっていたんだぞ!」

 

「解ってる!解ってるよ!白騎士のことも踏まえて、もし失敗したら、とか、そう言ったことを微塵も思わせないほどに、自信過剰だったのは今になって自覚してる!でも…、私が産みだしたISを…皆に認めて欲しくって…皆に宇宙に目を向けて欲しくって…そう思って、ISの製作用のデータを世界に発表したのに…!世界の愚者共は、兵器としての有用性にしか目を向けなかった!誰も…宇宙へ目を向けてくれなかった…!」

 

気付けば泣いていた。

ISが認められなかったとき…ISが兵器として世界に蔓延したと解ったとき。それくらいしか泣いた記憶が余り無い。余り泣くことがなかった人間だと自覚はしていたが、一人の時や、友人たる千冬の前ではともかく、初対面の人間の前で泣くことなどなかった。

 

「私は、こんな女尊男卑の世界を望んでいなかった…。男も女も、老いも若いも、皆が宇宙という、無限のフロンティアに夢を馳せ、ISによって宇宙を駆けることを望める。そう思っていたのに…。」

 

もはや決壊したダムの水のように、止め処なく自身の思いが吐露されていく。幼い頃、友人達と夢見た、満天の星空が広がる果てしない宇宙。その為に産みだしたIS。それが歪んだ世界の基盤となっていようとは、当時望みもしなかった。

 

「…だから、世界を壊す、と?」

 

「…うん。その為に、君の力を借りたかった。…でも、ISに大切な物を奪われた君に束さんが頼むのは酷だね。…無理強いはしない。なんなら、さっきの場所に…」

 

「いや、協力しよう。」

 

思わず、束は眼を丸くする。

最近耳掃除していなかったからなぁ…と、耳の穴を小指でほじほじし…。

今何と…?

 

「今何と?」

 

どうやら思ったことを口にしていたようだ。

 

「協力しよう、そう言ったんだ。…もしかして、そのウサギの耳は飾りかな?」

 

「し、失礼な!これは箒ちゃんレーダープロトタイプなんだよ!これに耳なんて機能は飾りなんだよ!偉い人にはそれが解らないんだよ!」

 

「…兎にも角にも、君の世界を壊す、と言う思念に同意しよう、と言うことだ。」

 

「な、なんで?束さんをISを…」

 

「だからって、君が女尊男卑の為に開発したわけじゃないのは解っているよ。悪いのはISでも君でもない。女性にしか使えないという優位性で、世の女性全てが優遇されていると勘違いしている連中と、ISの用途を間違っている奴らだ。」

 

ネイトは言う。

ISが使えても、それだけでは偉いというわけではない。数の限られたIS。それを乗りこなすためには、倍率が恐ろしく高いIS学園に合格し、訓練を積んで、そのうえで優れた成績を残した者だけが使用できるのだ。いわば、努力を重ねた者だけがISを身に纏う事が出来る。

つまり優遇されるのは、ISの為にたゆまぬ努力をかさねた者であり、女性だからといって男性より優位性があるかと言えばそうではないのだ。最も、ISを持ったからと言って、偉ぶって良いわけではないのも確かではあるが。

そして、ISを兵器としか見ない各国の上層部もだ。アラスカ条約でISの兵器開発はしないやら云々締結しているにも関わらず、その実、高いテクノロジーを詰め込んで、如何に相手の力を奪い、如何に相手の上に立てるかを模索している愚者と思しき行為。もはや条約など、半ば形骸化しているようなものだ。

それだけに、世の全てが壊れている。いや、未だ辛うじて形を保っている、と言うものだ。ふとした拍子に世界は壊れ、下手をすればISによる戦争に加え、そこの漁夫の利を突いて、世の中の男性が決起して、全世界ありとあらゆる場所で紛争が引き起こされる。そして次に待つのが旧兵器による戦争。戦闘機や戦車。挙げ句は大量破壊兵器の使用。世界中に広がった戦争の火種は、その勢いを止めること無く、溜めに溜め込んだ力を出し尽くして、全てを焼き尽くすまで終わらないだろう。

最終的には…そう。核による全面戦争。大地の全てを焼き尽くし、汚染しても止まない兵器。それによって地球は焼かれる。徹底的に。

 

「だからこそ、それを止めなくてはならない。僕らは小さな力かも知れない。でもそれを止めることは諦めること。この世界を戦争で焼くなどと、人の過ちは起こしちゃいけないんだ。」

 

「ネイト様…」

 

ずっと黙っていたクロエも、彼の語りに思わず名を零す。

自身も、戦争の道具たる兵士として生み出されるはずだった存在(失敗作)だから。自身のような存在を生み出してはならないと。そう思うからこそ、ネイトの言葉に共感できてしまう。

 

「…まぁ、君の言う世界を壊す、と言うのは、女尊男卑の風潮と、ISという『兵器』を壊す、と言うことだろう?」

 

「…そこまで解っているなら話は早いね。」

 

「だったら、僕らは同志だ。共に戦おうDr.篠ノ乃。」

 

「束。」

 

「ん?」

 

「束って呼んでよ。同志なら、さ。」

 

「そうだな。少々他人行儀過ぎたか。よろしく頼むよ、束。」

 

ガシッと、見つめ合い、そして握手する二人。

さぁ…これからが本番だ。

 

 

 

 

束を喜ばせた。

 

クロエを喜ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう。もう少ししたら、世界を覆すイベントを起こすつもりなんだよね。」

 

「世界を覆す…」

 

「イベント…?」

 

そろって首をかしげるネイトとクロエ。そんな二人にドヤ顔でしてやったりと言わんばかりに、フッフッフ…と、束はあくどい笑みを浮かべる。

 

「それは…秘密だよ?くーちゃんにネーちゃん♪」

 

「ネーちゃん…?それはさすがに…」

 

「えー?可愛いと思うよ?束さんが愛称をつけるなんて、よっぽどのことがないと起こり得ないんだからさ?」

 

「断固として拒否するぞ!考え直してくれ!」

 

「じゃあ…ネイさん?」

 

「それは色々とマズいだろう?」

 

「文句が多いなぁ…だったら…」

 

こうして、時間は過ぎていく。

 

時は1月。

この一ヶ月後に、世界を揺るがすニュースが流れようなどと、束以外に知る由も無かった。




111パパのネイトという名前ですが、奥さんを主人公にした場合の、夫のデフォルトネームがネイトだったのでそうしました。

書いててコズワースが炎の代わりに毒を吐きすぎて困る。

因みに、束さんに撃ち込んだのは、『シリンジャー』の注射器です。

ネイトの一人称ですが、穏やかな口調なので、僕にしました。異論があればお願いします。

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