IS~人は過ちを繰り返す~   作:ロシアよ永遠に

1 / 8
思い付きで書いてしまった。
あれこれ設定変更してたらエラいことに…

あ、V.A.T.S.については、独自解釈入ってます。


第1話『この壊れかけの世界で』

IS(インフィニット・ストラトス)

希代の天才にして天災『篠ノ乃束』が宇宙進出を目的として開発したマルチフォームスーツである。10年前、世界各国のミサイルが日本へと発射された。それを白いISが全て撃破という、とんでもない事件。そして、ミサイルを撃墜したそれを拿捕すべく出撃した自衛隊をもことごとくあしらってみせる。後に白騎士事件と呼ばれるこの一件と、露呈したその白騎士の高すぎる性能は、既存の兵器を凌駕し、皮肉なことにそれらは開発者の本意と裏腹に兵器としての進化を続けていた。

だが、そんな兵器にも欠点はある。

女性にしか動かせない、と言うところだ。

兵器のトップとして世間に知られるIS。それを動かせるのが女性のみともなれば、一部の女性が掲げ始めた女尊男卑の風潮。それは瞬く間にISの性能と同じくして広がり、世界の歪みと化していた。

 

「…また男性が逮捕された、か。」

 

アメリカのとある荒野。その一角にポツリと存在する街『サンクチュアリ・ヒルズ』。決して大きな街ではない、しかし彼にとっては我が家の存在する場所。今にも崩れそうな家屋の中で、ニュースペーパーに視線を走らせていた。

目に留まった記事。ここより南にあるボストンの街にあるウルトラスーパーマーケットで女性に痴漢を働いたと言う物だ。

端から見れば逮捕された男には同情の余地はないものだろう。しかし、今の世界の風潮を鑑みるならば、真偽は書面通りかと言えばそうとは言いきれない。女尊男卑の立場。その風潮に感化された女性、彼女がそれを利用した冤罪である可能性もあるのだ。そうだとも言い切れないが、そうでないとも言い切れないのもまた事実だった。

 

『旦那様。』

 

男性の声を模したマシンボイスが廃屋に響いた。白く、しかし所々錆びれている機械が浮遊していた。三つのカメラアイと、それと同数のマシンアーム。ごうごうとスラスターを噴かせてホバリングしている。

 

『そろそろお仕事の時間です。』

 

「ん?もうそんな時間か。」

 

男性は、ニュースペーパーをたたんで、カウンターテーブルの上におくと、機械―コズワース―が淹れてくれたコーヒーを口に運ぶ。程良く冷めていたため、難なくぐいっと飲み干す。

 

「ん?いつもと少し風味が違うな。」

 

『中々珍しい豆が手に入りまして、少々ブレンドにアレンジを加えてみました。お気に召したのでしたら、配合比率を登録しておきますが?』

 

「頼むよ。これは中々寝起きに嬉しい味わいだ。」

 

『畏まりました。』

 

空になったコップをコズワースが下げるのを横目に、男性は家に並び立つ車庫へと足を運ぶ。家の屋根と一体化しただけのシンプルな車庫だ。そこに駐車されたトラック。何処にでもある、有り触れたものだが、その荷台にぼろぼろのカバーを掛けてあるのが一際目を惹く。余程大きいのか、カバーがテントのようにピンと張っている。

 

「じゃ、行こうか。」

 

誰に言うともなく、その荷台にあるカバーをぽんぽんと叩くと、運転席にゆったりと乗り込む。キーを回すと、エンジンが掛かる。しかし、内部が劣化しているのか、エンジンのタービン音がカタカタと煩い。

 

「やれやれ。そろそろ買い換え時かな?」

 

独りごちながら、マイホームの車庫よりフュージョン・コアによって稼働する小型原子炉搭載のトラックを発進させる。

 

「それじゃ、今日もお仕事といこうか。」

 

サイドのガラス越しに映すのは凄惨な戦闘跡を物語る瓦礫の山、山、山だ。彼にとって見慣れた風景ではある。だが、見慣れたとは言えども、そこから何も感じないわけではない。

 

「IS…!」

 

先のように、あらゆる現行兵器を凌駕するそれの名を、忌々しげに口にした。

妻子を奪った憎き兵器。

開発者の意図とは別に、兵器として世界に知れ渡り、その特性から生み出される女尊男卑の世界の風潮。

あぁ、そうだった。

かつて核という、膨大なエネルギーを生み出す技術を得た人類は、その莫大さを利用して爆弾と化した。開発者の意図は分からない。しかし、兵器を目的として生み出したのでは無いと思いたい物だ。もしそうならば、核とISはよく似ているものだ。開発者の意図とは裏腹に、兵器としての利便性に目を付け、その力を振るう。

そう。

人というのは、圧倒的且つ高性能で利便性に優れたものを兵器に転用する事が得意なようだ。それが人の性なのか、あるいは…。

そんな人類に呆れたからか、篠ノ乃博士は行方をくらましたのかも知れない。

 

「全く…、人は過ちを繰り返す、か…。」

 

このサンクチュアリ・ヒルズは、女尊男卑に煽られることもなく、平和に暮らしていた。そのはずだった。だが、女性主義者共のISにより、街は焼き払われ、妻は殺され、息子は攫われた。

なぜ息子が攫われたかは判らない。だが、あの女性主義者共の口にした言葉は今でも脳裏と耳に焼き付いたままだ。

 

『今の世は、女が至上で、男は家畜なんだよ!!それを理解しない奴らは世界に必要ない!!』

 

そう言って、老若男女問わず、その圧倒的な火力で街を焼き払った。逃げ惑う人には、大口径のアサルトライフルで笑いながら蜂の巣にし、命をこう人には、敢えて殺さず、手と足を順に一本ずつ吹き飛ばし、ジワリジワリと苦しませながら死に追いやった。

そう…世界に染まらないから、という大義名分も甚だしいものでもなく、奴らは『遊んでいた』のだ。

結果として…自身は瓦礫に埋もれていたので、ハイパーセンサーと呼ばれる超高性能のセンサーを以てして、奴らは助からないと判断したのだろう。そのまま撤収していった。確かに生身では動かせないほどの瓦礫に埋もれていたが、コズワースが撤去してくれたお陰で、彼は一命を取り留めた。コズワースの存在は、奴らにとっては予想外だったのだろう。

…そして、なくなった街の人々を弔った後、彼は一つの決断をする。

 

 

 

 

 

 

数㎞走ったボストンの郊外にトラックを停めた。先のISの襲撃による物なのだろう。寂れ果てたバーへと辿り着いた。

寂れ果てた、と言うならは、まだ被害の少なさが物語れるだろう。未だ建物は原形は留めているし、壊れているのもショーウィンドゥくらいな物だからだ。

男は、普通に考えれば近寄りがたいその店舗のドアを躊躇いなく開け放つ。一週間に一度は、『今回の仕事で使用する物』の整備のために訪れる。しかし、彼の出入り以外はないからか、開け放たれた際の空気の循環によって、健康にヨロシクなさそうなハウスダストが舞い散る。毎度のことではあるし、予めマスクとゴーグルを着用していたために、特に支障は無い。そして掃除をする気も無い。と、言うのも、『目的はこの場所ではない』からだ。

 

「んっ…!!」

 

奥にある、恐らくは使用していたときは、バーの雰囲気を盛り上げていたのであろうジュークボックスを、一息と共に壁と並行にスライドさせる。若干重々しいそれを動かすのには、普通の人では数人掛かるであろう物ではあるが、生憎と彼は従軍経験があるし、普段からトレーニングを欠かさないのもあってか、余り苦も無く動かせた。

ジュークボックス一台分横に動かすと、その下から現れたのは薄暗い地下へと続く階段だった。

廃墟の中に隠し通路。

元々、このバーは武器の密輸に使用されていたらしく、当然マスターがここを離れる際に銃火器を持ち出していたが、この意外性のあるようでベタな隠し通路は、自身の倉庫として活用するには有り難い物だった。

左手に付けられた小型端末から、懐中電灯さながらの光が発せられる。この端末は、とある企業が開発したPIPーBOYと呼ばれる携帯端末で、所有者の神経に繋げることにより、バイタルや周辺情報、更には忌々しいISの武器格納の技術である量子化を可能とし、携帯物品を制限内ならば重量を感じさせることなく持ち運べる優れものだ。だが、生産数は極々僅かで、軍役時代の知人のツテで譲り受けたにすぎない。なんでも、その企業が試作品を数台生み出した地点で、女性主義者共の団体による圧力で会社は倒産。理由は、PIPーBOYの性能を危険視し、発展と量産をされる前に芽を摘んだ、と言う物だというのがまことしやかに囁かれていたが、真実か否かは判らない。だが、有り得ない話でもないだろうが…。

確かに、空を縦横無尽に駆けるISにも搭載されている量子格納技術を搭載された携帯端末が存在すれば、携行火器を多量に持ち歩ける。つまり、一歩兵がロケットランチャーやガトリング、ライフルなど、あらゆる戦場や状況に対応する様になる。無論、補給も出来るし、戦場においてこれだけのアドバンテージを持たせられるのは大きい。それだけに、ISを自分達の力の象徴と思っているヤツら(女性主義者共)は、ISに対抗できる可能性が無きにしもあらずともあるPIPーBOYを断つのは、ある意味至極当然かも知れない。

 

閑話休題

 

まぁそんなこんなで、稀少なPIPーBOYを得た彼は、下ってきた階段が終わりを迎え、一戸建てのリビングほどの広さの一室に辿り着いた。壁に備え付けられたスイッチを見つけると、迷うことなくオンにする。すると、蛍光灯の淡い光が一室を照らし出す。暗い階段を下りてきたので、若干眩しさに目が眩むが、徐々に目が慣れてくれば、見慣れた部屋が目に入る。そこは、上の部屋とは違った意味で散々としていた。床や、壁に備え付けられた棚には、スパナやレンチなど工具が散らばり、使用されて余った金属の端材をそこらかしこに広げられていた。

 

「…この仕事が終わったら、少し整理しようか。」

 

技術の発展、と言うのは何も良いことばかりでは無い。コズワースという、家事手伝いロボットが一部普及してしまったばかりに、人間その物が掃除する、と言うことに対して億劫になってしまったのだ。

自分達がせずとも、ロボットがやってくれる。

そんな固定概念が出来てしまったのだろう。

女尊男卑主義者共の主張もそうだが、これもこれで問題だ。

自身の生活能力の無さに呆れてか、頭を掻きながらも、奥に鎮座するそれに近付いていく。

 

「さぁ、そろそろ仕事だ。」

 

二メートルほどの人型が、黄色いフレームのクラフトのステーションに吊されて佇んでいる。それに語りかけるようにポンと、その冷たく堅牢な装甲に触れる。だからといえど答えるわけではない。しかしこれからの仕事で共に行く相棒なのだ。別に損はない。ソイツの背後に回ると、その傍らで稼働していたマシンから、空き缶サイズのフュージョンコア。それを抜き取る。人型の動力のような物だ。充電すべき物が無くなったマシンは、安全のためにその稼働を停止させる。そしてそれを、人型の背中、それに付けられたハンドルのような物の真ん中にぶち込む。…よし、これで稼働準備できた。

 

「行くとしよう。」

 

フュージョンコアを中心にした、バルブハンドルのようなそれをしっかりと握り、力強く、ほんの少し回転させる。

すると、背やヘルメット部はせり上がり、腕部と脚部、それぞれその装甲が開け放たれ、男を受け入れるように中を露出させた。

最早慣れたものだ。躊躇いもなくそれに乗り込むと、減圧の音と共に装甲が閉じられ、まさしく彼は人型のそれと一体化する。

視界には、フュージョンコアの残りエネルギー、各部装甲の損傷具合、APというオ特殊機動の為の瞬間エネルギー、デジタルコンパスなど、戦闘に必要な情報の羅列がずらりと並ぶ。

 

「各部位問題なし。うん、ボディの新装備も、実に馴染んでいるな。」

 

何せ今回は全世界の最強兵器を銘打っているのだ。これぐらいのものを装着しなければ、ある程度覆すことは出来ないだろう。

何せ纏っているのは、旧世代…と言っても、ISが現れるまでの歩兵の地力、それを一気に押し上げていた『パワーアーマー』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風潮というものは、かくもウイルスの如く迅速且つ広範囲に蔓延する。

各国に程度の差はあれど、その女尊男卑と言うものはどの国にもあり、街その物が染まらないなどというのはサンクチュアリヒルズなど、国に指折り数えるほど有るかどうかも怪しい。それ故に、世界に染まらない者ども、と言う名目で女性主義者共に淘汰され、村や町はその姿を物言わぬ屍と瓦礫へと姿を変えさせられる。

もはや、大義名分を持っているなどと勘違いした連中の大規模なテロであり、虐殺と破壊だ。

それ故に、その女性主義者共の襲撃から逃れた奴らや、冤罪を掛けられ命からがら逃げてきた男、女尊男卑の世界に愛する者を殺された女達がこぞって集い、レジスタンスを組織して、ゲリラ戦を仕掛けていると言うのは日常茶飯事だった。

 

「GO!GO!!GO!!!」

 

廃れた服に、気休め程度の防弾装備で、男達は前方にあるキャンプを目指す。

ボストンから数十㎞離れた所にある荒野で、反女尊男卑の中隊がアメリカ軍のIS、そのテストを兼ねての軍事演習を狙って襲撃してきたのだ。市街地に程近い場所での軍事演習と言う理由については、やはり民衆の目の前でISを披露し、改めてIS及び女性の確固たる力を見せしめ、女には自信を、男には惨めさを自覚させる、と言うのが上層部の女性士官の考えだそうだ。

だが、迫撃砲の援護の中、敵歩兵を蹴散らし、キャンプへ雪崩れ込まんとする。

テストISとは言え、その1機だけでも出て来れば、かなりの損失を受けるだろう。下手をすれば殲滅させられる。しかもテスト機ともなれば護衛のISも数機いるだろう。それだけに迅速且つ確実に制圧してISを破壊し、あわよくば奪取する。それが今回の任務だ。

元々、それほどレジスタンスには資金がない。各々の持ち寄りと、軍の補給車両を襲って入手した武器のみ。それ故に一種の賭のようなものだ。これが成功すれば、各国にいるレジスタンスを鼓舞できるし、何よりもISに勝利したという最高のアドバンテージと自信を得られる。

普通ならばテスト機が奪われた時用に自壊装置を組み込むものだろうが、ISの性能に絶対の自信を持つ連中にはそんなものをつけるなど杞憂だろう、と言うのが皆の意見だった。

 

「女性兵!!俺達が突破口を開く!!何としてもISを奪え!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

「安心しろ!俺達が守って…がぁっ!?」

 

「マリオーっ!?」

 

「畜生!!テメェらよくも!!うぉぉぉぉっ!!!」

 

もはや特攻染みた作戦。しかし、これは女尊男卑への反攻の狼煙だ。男だから、女だから、そんな腐った固定概念を盾に権力を振り回す奴等への復讐。

 

「これが…俺達の…貴様らに淘汰された者達の…!!!」

 

『淘汰されたなら、犬みたいに大人しく私達女性の下に傅いていれば良い物を…』

 

『これだから男は低脳なのよね!』

 

レジスタンスに戦慄が走った。

機械を通して出ている声。

拡声器ではない、もっと澄み渡ったもの。

そして…

 

聞きたくない飛翔音。

 

一対の翼を広げたかのように、ネイビーブルーのそれは、戦場の空へ舞い降りた。

 

『全く、こんな雑魚共を片付けられないなんて、男は肉の壁にもならないのね。』

 

『まぁ?私達と違って、幾らでも替えが効くからねぇ。』

 

『それでもまぁ、たいした装備もなくここを責めてくるその蛮勇に免じて、ISで駆逐してやるから、光栄に思いなさい?』

 

IS…

テスト機の護衛に着いていた奴らが動き出した。

ネイビーブルーに染められたIS…ラファール・リヴァイヴ、それが3機。

その内の1機が、対歩兵用IS武装である200mmバズーカ『ジャスティス』を展開し、レジスタンスの最前線へと構える。だが…

 

「お、おい貴様ら!その位置だと、私達まで巻き込まれ…」

 

『うっさい。敵と一緒に死ねるなら本望でしょ?これがジャパニーズ・バンザイ・アタック?』

 

『それ、何かちがくない?』

 

『まぁ、男なんていくら死んでも大して気にならないし?』

 

『キャハハハ!!』

 

「キ、貴様ら…!!」

 

最早遊び感覚だ。笑いながら、遊びながら、まるで子供が無邪気に蟻塚を壊すように。味方をも巻き込んで敵を殺す。そんな奴等を護るために…!アメリカ軍の護衛の男性兵は、その目に憤怒の炎を滾らせる。

 

『何?その目…文句有るの?』

 

『じゃあ?これであんたも殺す名分が出来たね?どう報告しようか?』

 

『アイツがレジスタンスと繫がっていた…とかで良いんじゃない?』

 

『それ採用!!』

 

『…まぁそんなわけだから?肉片になりなさいな。』

 

ラファールの指が、バズーカの引き金に掛かる。

その口許は、ここから遠く、見えなくても解る。

 

嗤っている…!

 

もはや奴らに人間としての感情を求めるなど絶望的だ。女という立場に染まりきった、ISの力に酔ったただの傀儡。

 

『バーイ♪』

 

別れの言葉を継げ、引き金を引かんとした時だった。

 

『…っ!?ロックオンマーカー?』

 

ハイパーセンサーが探知したのは赤外線によるロックオン。

バシュウ!!と噴射音と共に、バズーカを構えるIS操者に、一発のミサイル弾が差し迫る。

慌てて上昇しようと、ISに思考を送るが、時は既に遅く、直撃し爆発。

 

『キャアアアッ!?』

 

シールドバリアが発動し、爆発による振動で機体が大きく揺れる。慌てて体勢を立て直そうとするが、

 

バシュウ!!

バシュウ!!

バシュウ!!

 

続けざまに3発。

ロケット噴射しながら緩い弧を描き、迫る。

 

『嘘…!?嘘嘘嘘ぉぉぉぉっ!?』

 

シールドバリアがエネルギー枯渇によって絶対防御まで発生し、四肢が、非固定のウイングが、胸部装甲が爆ぜる。絶対防御によって、最低限搭乗者の命『を』守るという、その文字通りに、女性の頭と胴、そしてコアが収められている中枢だけを残し、赤い雨と、肉の焼け焦げる匂いを周囲にまき散らしながら墜落した。

 

『なっ…!!』

 

『マリアが…!?マリア-!!!』

 

『畜生!!一体誰が…!!』

 

ハイパーセンサーが捉える。

その姿を。

フルスキン(全身装甲)の、近代的な鎧を纏ったそれは、一昔前のSF映画にでも出て来そうなもの。

黒いカメラアイのようなゴーグルや、身体の各所に露出したパイプ。

ISのようなスマートな物ではなく、鈍重で、いかにも遅そうな外見だ。

 

『データ照合……!?10年以上前の軍で使用されていたTー51パワーアーマー?』

 

「間に合ってくれたか…傭兵。」

 

『済まない、遅くなった。』

 

パワーアーマーからの通信は、ISほど高度な物ではない。さすがにかなり古い物なので、その声はくぐもってはいる物だが、それでも十分通信には支障はない。

 

「いや、構わんよ。今の所…被害は少ない方だ。」

 

骨董品(アンティーク)風情がISを…マリアを…!!アイツが…アイツがぁぁぁ!!』

 

憎しみを込めて激昂する。最早その顔は憎しみで変容し、内面と同じく醜く歪んでいる。

無論、最強の現行兵器と謳われるIS、それと共に同僚を墜とされたことで、彼女は何も見えていない。

 

『死ねぇぇぇぇ!!!』

 

『それはこちらの台詞だ。…もっとも、情報を聞き出したあとに、だが。』

 

『あぁぁぁぁっ!!!』

 

最早獣の雄叫び。咆哮を周囲にオープンチャンネルでばらまきながら、アサルトライフルを構える。その口径は、歩兵が扱う物よりも一回り大きく、生身の人間に撃ち込めば、為す術も無く肉塊となって散るだろう。

だが…

 

ガシャリ…

 

と、重厚そうな音と共に、先程一人撃墜した四連装赤外線追尾式ミサイルランチャーを破棄し、それをPIPーBOYから実体化させる。

長いバレルが6本。パワーアーマーのアシストを以てしてもそれは重く、生身で持ち運ぶには相応の筋力が要る。しかし、その威力、連射性能共に折り紙付きだ。

 

レーザーガトリング

 

パワーアーマーの動力源であるフュージョンコアを用いることで、レーザーガンを雨のように撃ち込むことが出来る。しかし、今回フュージョンコアは一つだけしか持ち運べず、ガトリングの本体からケーブルでパワーアーマーのフュージョンコアへと接続し、エネルギー供給を行っている。稼働時間は少なくなるが致し方ない。

 

『さっきみたいな不意打ちならいざ知らず…生身の狙いで…ISに当てられるかよ!』

 

『…V.A.T.S.発動』

 

瞬間、パワーアーマーの男、その感覚が鋭利に、そして研ぎ澄まされる。音速を超えた機動力を誇るIS。その動きが、いや、世界が緩慢に動いている。

PIPーBOYに搭載されたターゲット補助機能『Voltーtec Assisted Targeting System』。

神経接続を行っているのは、それを通して視覚、聴覚など、あらゆる感覚と情報を脳とPIPーBOYで処理し、一時的に超人的な情報処理能力を得られる。世界が緩慢に感じるのは、その福次効果に過ぎない。敵との距離、手持ちの武器、自身と相手のバイタリティーデータ、気候、その他もろもろのデータを加味して、敵のISに命中率が表示される。

 

《…75%…IS相手に上々、かな。》

 

そして引き絞られるトリガーと共に、高熱のレーザーガトリングが、2機のIS。その装甲を焼きこがし、操者の伸びきった鼻は、その翼と共に折れ、地に墜ちることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結局、ショーンの情報はない、か。』

 

ガション、ガションと、パワーアーマーで歩行しながら、彼は自身の秘密基地へと帰還する。正直、フュージョンコアの残りエネルギーが乏しく、いざという時に残しておく為に、省エネでこうして徒歩で帰っているのだ。

あれからレジスタンスと演習場を制圧した。ISが墜とされた、と言うこともあるが、先程の自身らを巻き込むのも辞さない操者の姿勢に、歩兵や士官は愛想を尽かして投降したため、あっさりと制圧できた。そして、撃墜した女性操者から、女性主義者に誘拐された息子のショーンの情報を聞き出そうと尋問した。しかし、

 

『私は知らないぃぃ!!何も知らないのぉぉ!!だからお願い助けてえぇぇぇ!!』

 

などと、戦闘時の強気な姿勢は何処へやら、及び腰となっていた。最も、四肢を破壊しているので腰を及ばすことは出来ないが。

彼には、奴等が嘘をついていると言う疑いは持たなかった。不利な状況に立たされてあそこまで取り乱して命乞いをするなどと、完全な女性主義者の連中と違って、女尊男卑の風潮に乗って上っ面で強気に出ていただけなのだろう。完全な女性主義者ならば、男の軍門に降ったり、男に負けたなどという事を認めずに自害したりするだろう。

 

『だが、レジスタンスはISを入手できた。となればこれからの戦い、優位性を以て臨める。…それに便乗していけば、ショーンの情報も…』

 

今後の方針を固めよう、そう考えたときだ。

 

『未確認飛行物体…接近!?』

 

PIPーBOYから、敵性とは判らないが、高速接近してくる機影を捉えたのだ。

 

『あれか…!』

 

見上げれば、高速で…目測でしかないが、人よりも巨大な何かが自身を目掛けて落下してきている。

…もしやミサイルか?

ISを撃退した自身の始末をするために、ミサイルを?

直撃すれば、いくらパワーアーマーを纏っているとは言え、ただでは済まないだろう。

となれば、対処は一つ。

 

『V.A.T.S.』

 

再び神経を研ぎ澄ませ、自身に迫るそれに、レーザーガトリングの雨を降らせた。上空に向かって撃つから、降らせたと言うのは不適切かも知れないが、当たれば蜂の巣であろうそれは、落下してくるそれにいとも容易く数多の風穴を開け、爆散させた。

フュージョンコアのエネルギーを残しておいて正解だったと、自身の判断を自画自賛する。

しかし…

 

爆散し、朦々と発した爆煙から、何かが飛びだしてくる。

IS…?

にしては小さい…?

よく見れば高速で回転している?

そしてそれは降下…と言うよりも、落下し、

 

「はいっ!!10点10点10点10点10点!!おぉっと!束選手満点だよ~!!」

 

見事なまでに体操選手の如くYの字に着地した。

その際、落下の衝撃と風圧で、彼女の奇抜なエプロンドレス、そのスカートがフワリと舞い上がり、真っ白な下着が見えたのは黙っておこう。

 

『キミは?』

 

「私?私は篠ノ乃束だよ~?ぶいぶい!!」

 

なんというか…奇抜なファッションだ。

先述のエプロンドレスもそうだが、ヘアバンド代わりにつけられている…機械のウサ耳が何とも言えない。彼女の幼げな顔付きと相俟って似合ってない、とは言えないのだが…。

 

「ほうほう…キミだね?旧式のパワーアーマーで、ISを3機も撃ち落としたのは…へぇ~?ほうほう…?」

 

まるで嘗め回すかのように自身の…いや、パワーアーマーを見てるこの少女?女性?に対して、嫌な汗が背を伝う。あれだけの高高度からの着地をしても怪我一つない様子で、一体何者なのかという……ん?篠ノ乃束?タバネ=シノノノ?

 

『まさか君が…ISを開発したって言う…?』

 

「お、ようやく気付いた?もう少し早く気付くと思ったけどなぁ、束さんも地に墜ちたのかなぁ?」

 

『そ、それは済まない。』

 

「嘘だよん!まぁそれはそれとして…」

 

にこやかにしていた彼女の垂れ目、それが真剣な物へと変わるのが目ではなく、肌が先に感じた。彼女の纏う…気配、それその物が別の物へと変わったからだ。

 

「キミ、こんな腐りきった世界、壊す気ある?」

 

彼女のその言葉がその時彼は理解できなかった。

しかし今思えば、それは彼女の願いだったのだろう。

篠ノ乃 束。

IS開発者である彼女と、後に世界の破壊者の一翼と呼ばれる彼のファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




評価、感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。