大森林〜くさタイプヘイトの俺がくさタイプ一筋になった訳〜   作:ディア

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長かった……ようやくトバリ編終わりです。


第19草

「御迷惑をおかけしました。申し訳ございません」

 

 スモモが頭を下げ、非礼を詫びる。

 

「スモモさん、貴女が頭を下げる必要はございません。元々私がジム戦を中断させたのが事の原因ですし、貴女のお父様は貴女を思っての行動ですわ」

 

「そう言って頂きありがとうございますエリカさん。しかしそれだけでは私の気持ちが収まりません。どうかこのタマゴを受け取ってもらえませんか?」

 

 絵本じみた展開になってきたぞ。この話を絵本にしたらバカ売れしそうだ。

 

「そのタマゴは?」

 

「父のゴウカザルが持っていたタマゴです。本来であれば父に渡すのが筋なのですが主に父が御迷惑をおかけしたので、二度とこのようなことをさせない戒めとしてこのタマゴをエリカさんに献上します」

 

 絵本どころかまるで時代劇だな。

 

 

 

「ですが……」

 

「受け取ってくれお嬢さん」

 

 スモモ親父が起き上がり、そう一言告げエリカの方に向いた。

 

「儂は当初スモモが挑戦者達をなぎ倒して貰いたいと思ってゲームコーナーにある景品のわざマシンを取る為に必死でした。ジムの経費やスモモから貰うおこづかいを使ってでも取ろうとしていた」

 

「ジムの経費がやたら巨額だと思ったらお父さんが原因だったんですね!」

 

 ジムリーダーなんだから気づけよ! 経費がどんなに大切かわかっているのかこの脳筋娘は。

 

「……そのせいで育ち盛りなスモモに一日一食という過酷な生活をさせてしまう程に負担をかけてしまった。スモモの胸が小さいのも儂のせいだ」

 

 スモモの後ろにある『一日一食』と書かれたスローガンを見てスモモ親父がため息を吐く。胸云々はセクハラだろ。

 

「お父さん!」

 

 そしてスモモの腹の虫が怒鳴り声をあげ、ジム中を響かせる。

 

「うっ……これはその、あの……」

 

「スモモさん、後で奢りますから今日はたくさん食べて下さいね」

 

 エリカが哀れむように微笑み、スモモの肩に手を置く。

 

 

 

「でも私結構食べますよ?」

 

「大丈夫、そこのミカンさんも相当な大喰らいですから。一人が二人になったところで何も変わりありませんわ」

 

 そう言えばミカンも大食いなんだっけ。タマムシで納豆定食なんて頼んでいたから忘れていた。

 

「ちょっとエリカさん、私は大食いじゃないですよ!」

 

「コスモの前だからってぶりっ子しなくていいんですよ。前に私と戦った後の時のようにたっぷり食べて下さいね」

 

 エリカが悪どい笑みで、顔を腕で隠しているミカンとその隣に出来たディッシュタワーの写真を見せる。

 

「これは隣の人のお皿ですよ!」

 

「両隣は誰もいなかったのに?」

 

「と、とにかく私はそんなに食べられませんから! コスモも覚えておいて!」

 

「ちょっ、揺らさないで!」

 

 普通に揺らす程度なら問題ないが、ミカン──というかこの世界の住民──の力でやるとシャレにならん! ウイスキーをロックでジョッキイッキ飲みした後よりも揺れるんだから揺らすなぁぁぁっ! 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢さん。いろいろ話が逸れましたがそのタマゴを受け取って頂けないか。その方がこのタマゴから孵るポケモンの為にもなります」

 

「わかりましたわ。このタマゴを預からせて頂きます。このままでは受け取らないとコスモのジム戦を再開してくれそうもありませんし」

 

「ありがとうございます。これで心置きなくジム戦を観戦出来る……スモモ、頑張れ!」

 

「お父さん……!」

 

 何だろうな~このアウェイ感は。これでさっきのようにぶっとばしたら血も涙もない鬼というか、完全な悪役だ。

 

「それでは試合を再開します!」

 

 マジでどうしようか……

 

 

 

 

 

 

 

 その数分後、考えている間に指示を出し、ステータスの暴力でフシギバナが二頭連続で秒殺──秒殺じゃなく秒倒が正しい──した。

 

「流石、としか言いようがありませんね。お見事です。コボルバッチとわざマシンを受け取って下さい」

 

「この中身は?」

 

「このわざマシンの中身はドレインパンチです。この攻撃を当てると与えたダメージの半分だけ回復するんですよ。是非とも使って下さいね」

 

「ありがとうございます」

 

 ドレインパンチか……くさタイプで覚える奴も多数いるがその中でも特に思い出すのはキノガッサだ。

 

 キノガッサというとキノコのほうしを搭載させきあいパンチを入れるのが基本。ドレインパンチの方はサブウェポンになりがちだがこいつの恐ろしさはポイズンヒール型になるとよくわかる。前世の時にキノガッサがうざくてキノコのほうし封じにしんかのきせきヤルキモノをメンバーに入れてみたが惨敗。その原因がドレインパンチだ。ドレインパンチ&ポイズンヒールで回復され、ボコボコにされた思い出がある。そんなトラウマを抱えているせいでドレインパンチ=キノガッサと結び付くようになった。

 

「それではエリカさん、お世話になります」

 

「ええいきましょう。スモモのお父様も」

 

「いや儂は……」

 

「お父さん、こういうのは好意に甘えておこうよ。この思い出が戒めになるんですから」

 

「わかった……だがその前にコスモ君」

 

「なんでしょうか?」

 

「先ほどは申し訳なかった。いくら儂が正常でなかったとは言えあのような態度を取ってしまった。どうかこれで許して欲しい」

 

 スモモ親父が頭を下げるどころか土下座までして非礼を詫びる。

 

「スモモさんが代わりに謝っているからいいですよ。その代わりこれからはスモモさんに迷惑をかけないようにしてください」

 

「ありがとう、ありがとう……!」

 

 うへぇ、汚ねえ。おっさんが涙を流すなんて誰得だ? 

 

 

 

 

 

 

 

 店主がタイムウオッチを見ながらスモモのラーメンを食べる様子を見る。

 

「ご馳走さまでした!」

 

 そしてその瞬間、ストップがかかった。

 

「9分14秒! お見事でさあ」

 

 15分間のスモモが大食いチャレンジが成功。それを聞いた観衆が沸き上がる。ちなみに大食いチャレンジというのは一定の時間内までに食べ終われば無料というメニューのことだ。当然量も多い。

 

「やった!」

 

「スモモ、よくやった!」

 

 スモモとスモモ親父が互いに抱きつき、喜ぶ。エリカもそれを見て微笑むが……ミカンだけは例外だ。ミカンも大食いチャレンジに挑戦しようとしていた。いやさせられていた。

 

「エリカさん、流石に無理ですよ」

 

「完食出来なかったらミカンさんの奢りにしますわ。私に借金をしたら即ジョウトに帰って貰いますのでよろしくお願いいたします」

 

「な、何の権限があってそんなことを」

 

「もし拒否するならこの写真をポケモンリーグやジョウトの各ジムに送りますので」

 

 エリカが先ほどとは違う写真を見せると悪どい笑みを浮かべ脅す。しかし何の写真だ? そう思い手に取ろうとするとミカンがエリカから写真を奪ってビリビリに破いた後ゴミ箱に捨てた。

 

「これで恐れるものは何もないわ!」

 

「先ほどの写真はコピーですわ。本物はタマムシジムにありますのでご心配なく」

 

 再び写真、いや写真のコピーを出しミカンにそれを見せるとミカンが絶望し顔を伏せ、影を落とした。

 

「さあ、ミカンさん。ここでコスモに貴女の食事する姿を見られるのとあの写真が拡散されるのどちらか好きな方を選んで下さい」

 

 ……仕方ない。フォローしてやるか。

 

「ミカン、無理しなくていいよ。僕が食べるから」

 

「えっ?」

 

「コスモ、そんな事をすればボットちゃんの中に入ってもらいますわ」

 

 ボットちゃんってマスコットキャラにする予定の着ぐるみのことか。その中に入るってことはタマムシジムに所属しろってことか

 

「構いませんよ。ミカンが悲しむ顔を見るよりも僕がボットちゃんの中に入る方が苦痛じゃありませんから」

 

 どうせタマムシには帰らないんだし。何一つ問題……はあるか。エリカが俺を強引にでも連れ戻そうとして外堀を埋めていくだろう。そうなったら俺は従わざるを得ないのでエリカが届かない場所に逃げる。何が何でも逃げる。タマネギの時渡りの力を使ってでも逃げてやらぁっ! 

 

「僕は決してスモモさんみたいに大食いじゃない。だけど困っている女の子を助ける為なら大食いにだってなってやる」

 

 俺が覚悟を決め、店員を呼び出そうとするとミカンがそれを止めた。

 

「ミカン?」

 

「コスモが無理する必要はないわ。ようやく私も一皮剥けて、いわタイプからはがねタイプになったんだから」

 

「……つまり?」

 

「これまで私はくさタイプのエリカさんにやられっぱなしだった。それは私がいわタイプだったから……だけどはがねタイプになった今、エリカさんのくさタイプの攻撃を受けてもいまひとつ。並大抵のことじゃびくともしないわ」

 

 そう言ってミカンが大食いチャレンジを注文した後、大食いチャレンジのレコードが更新された。




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