戦いの基本は格闘だ。魔法や道具に頼ってはいけない   作:imuka

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回を重ねるごとに長くなっている気がします。


ではどうぞ。


不死鳥の騎士団
騎士団と密談 おまけ付き


 

 

 

 

 夏休みの1週間が過ぎ、イーニアは傷跡の無い右足の調子を確かめながら体を動かしていた。

 少し感じていたズレの様なモノは無くなり、完全復帰したと言える。お昼の時間が近くなり、運動を終えるとシャワーを浴び、献立を考えながらリビングに向かうとソファーにアーガルドが座っていた。

 

「よう、嬢ちゃん。」

 

「………なんで居るんです?……というか不法侵入ですよ。」

 

「細かいことは気にするな、老けるぞ。――今日は休暇なんだが、いつも空いている奴が仕事だからな。アリシスに許可を取り、暇つぶしに来たというわけさ。」

 

「……なんで許可するかな…。」

 

 イーニアが盛大にため息を吐くと、アーガルドはクククっ…とだけ笑う。

 

「ここに来ても暇つぶしができるとは思えませんけどね。」

 

 エプロンを付け、お昼の準備をしようとキッチンへと足を運ぶとアーガルドもソファーから立ち上がりついてくる。

 

「そうでもないさ。――ああ、俺の分も頼む。」

 

「は?…………何が出ても残さず食べてくださいね。」

 

 イーニアは呆れた顔をしつつ調理を始める。アーガルドはイーニアが調理をしている間、後ろから様子を見ながら"手際がいいな"とか"もう少し濃い味の方が好みだ"とか口を出していた。

 そんなことをしつつも料理が完成し、テーブルに並べ食事を始める。イーニアもアーガルドも特に会話は無く食事をしたが、食べ終わったアーガルドが"美味しかった、ごちそうさま"と呟くと、イーニアも"お粗末さま"とだけ返し食器を片づけた。

 

 

「で、どうするつもりなんです?」

 

 食休みを終え、ひと段落ついたイーニアがアーガルドに話しかける。

 

「ん?特に考えてはいないが……そうだな。――稽古でもつけてやろう。」

 

「稽古って言ってもどうするんです?制限がかかっているでしょう?」

 

「俺は何もしないさ。ただ受けるだけだ。それについて感想や意見を言うから改善しろ。たしかアリシスが新しい魔法書を渡していたはずだ。」

 

「魔法書っていうか原稿用紙に走り書きで書かれたあれ、ね。」

 

「1冊や2冊に収まらないくらいの内容が書いてあったはずだ。――全部読んだか?」

 

「一応。まだ全然試してないですけど。」

 

「それで構わん。では、やるとしよう。」

 

「やるって言ってもちゃんと準備してからじゃないと――きゃっ!?」

 

 イーニアはアーガルドに手を引かれ、突然できた穴に連れて行かれた。

 中は白い、何もない空間だった。

 

「これが俺の、許可なしに使える唯一の魔法だ。この空間でなら好きなだけ暴れても問題ない。」

 

 少し呆れつつも足元をぺたぺたしながらイーニアは体を伸ばす。

 

「はぁー…。魔法以外も使いますけどいいですよね?」

 

「もちろんだ。――殺す気で来い!!」

 

イーニアは右手で印を結び、空へ掲げると呪文を唱えた。

 

 

* * *

 

 

 アーガルドが訪れてから1週間が経ち、イーニアは3日前を振り返っていた。

 1日しか居ないと思っていたアーガルドは4日も滞在し、最終日には戻ることを拒否。結果、知らせを受けたアリシスとその部下たちが無理やり連れて帰るという大騒ぎだった。

 

「変な人たちだったなぁ…。」

 

 アーガルドは化け物、と称したがイーニアは変態の集まりのようにも見えた。恐らく部隊の中でまともな人間を選んだのだろう。

 しかし彼らの実力はただ横から見ていたイーニアにもよくわかるものだった。次元が違う。化け物と呼ばれても何らおかしくはない実力の持ち主たち。彼らがアーガルドを連れて帰るためにアーガルドと小競合いをしたときは、彼らのその圧に当てられて気を失いかけた。

 

 自信の未熟さを痛感しながら、魔法の練習に取り組んでいるとイーニアの元に一通の手紙が届いた。

 手紙はダンブルドアからで、アリシスに連絡を取りこちらに来てほしい、と言う内容だった。イーニアは手紙を読み終わると展開していた術式を閉じ、リビングに置いてある電話機に近付く。

 アリシスに電話をかけようと受話器を上げようとした時、電話機が音が鳴り始めた。

 

「もしもし。」

 

「手紙届いた?」

 

「今さっき、それでかけようとしてたところ。」

 

「えーっとね。ダンブルドア先生から連絡があって、イーニアを騎士団に入れたいって。

――私はイーニアの判断に任せるって返したわ。あとは貴女が決めなさい。入る気があるならシリウスの家へ。」

 

「わかった。今日明日くらい?」

 

「そうね。今日明日中に。」

 

「はい。」

 

「イーニア。私は騎士団に入っても問題ないと思っているわ。実力も含めてね。

――独自に動かれるより知っている大人たちと行動してもらった方が私としても少し気が楽だしね。」

 

「うん。」

 

「…………イーニアの才能は両親を超えるものよ。それに直接ではないにしろ私が教えている。自信をもっていいわ。貴女は素晴らしい魔女よ。」

 

 電話越しではあるもののアリシスに褒められ、少し照れるイーニア。

 

「今回はよく喋るね?」

 

「寂しいこというじゃない。」

 

 照れ隠しでイーニアが言うとアリシスは少し落ち込んだ口調で返した。

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、あんまり持ち上げられると、少し、恥ずかしい。」

 

 そんなことを言うと電話先でクスっと笑う声が聞こえる。

 

「イーニア。身内贔屓もあるけど思っていることは本当よ。だから自信を持ちなさい。」

 

「はい。」

 

「そして、強い意志を持って事に当たりなさい。感情に溺れれば判断が鈍るといことを忘れては駄目よ。」

 

 

 

 電話を切るとイーニアは準備を始める。

 シャワーを浴び、着替えや教科書、アリシスからもらった魔法書などを片手持ちのトランクに次々と入れていき、今回は戦いがあること前提なので魔法道具など下準備をしっかりとしていく。

 一通りの準備を終え"これぐらいでいいだろう"そう結論付けた時にはもう遅い時間だった。イーニアは遅い時間に行くのは少し気が引けたが、できる限り早く来るようにとのことだったのでトランクを左手に、右手に杖を構えシリウスの家へ向かうことにした。

 

 

 イーニアの記憶にある、家具などが置かれないであろうはずの部屋の隅に姿現しをすると、部屋では会議が行われていた。

 

「イーニア、よく来てくれた。」

 

 部屋に居たほとんどの大人たちが1人で姿現しをしてきたことに驚いている中、ダンブルドアがイーニアの姿を確認すると微笑みながら近づいてくる。

 

「遅い時間にすみません。」

 

「よいよい。――では、イーニアも入れて話の続きをしようかの。」

 

「ダンブルドア!!本当にこの子も騎士団に入れるのですか!?まだ未成年なんですよ!?」

 

 モリーが立ち上がり、興奮しながら言う。

 

「結成の時にも話したと思うが、彼女は並の魔女ではない。実力は先ほどの単独で姿現ししたことを踏まえれば明白じゃ。仮に参加させなくとも知らなくていいことを知られてしまうじゃろう。」

 

「そうだ。なぜ君は未成年にも関わらず普通に魔法を使っている?」

 

「えーっと…。」

 

「彼女の研究の成果じゃよ。」

 

 シリウスの質問にイーニアは少し困った顔をしているとダンブルドアが助け舟を出し、内心ホッとするイーニア。研究成果というのはあながち間違いではないのだが。

 

「――そして何より、彼女ほどの実力者を野放しにしておけるほど我々に余裕はない。」

 

 ダンブルドアのその一言で皆、下を向く。状況が厳しいことは皆、重々わかっていたがモリーを含め、まだ納得していないメンバーがいた。

 

「そうじゃの…――。セルブス、イーニアに開心術をかけてみてくれるかの。」

 

「わかりました。」

 

 ダンブルドアの言葉に皆が驚く中、それまで黙っていたスネイプが立ち上がり、イーニアの前まで行く。

 

「覚悟はいいか、シュツベル。」

 

「いつでも。」

 

レジリメンス(開心)!!」

 

 イーニアは軽く深呼吸すると目を瞑る。そしてすぐに目を開く。

 

フィニート(終われ)。」

 

 バチンッ!と大きな音が鳴り、スネイプの呪文が強制的に終わる。

 

「なるほど、そうするか。」

 

スネイプは呪文を消されたこと少し驚いたが何をしたかを理解すると納得したように薄く笑った。

 

「セルブス、いったい何が…。」

 

リーマスがスネイプに説明を求めると、スネイプは何も言わずイーニアを見たので、イーニアは内心ため息を吐きながら説明を始めた。

 

「開心術は使えば何でも簡単に見える、という簡単な呪文ではありません。魔法の使えない人間でも拒む強い意志があればその侵入を拒むことができます。言ってしまえば心の隙を突く術です。

 閉心術は意志とは別に隙をなくす術。様は補強です。しかし、長時間にわたって開心術をかけられれば疲労が、閉心術の力や拒む力にも影響します。

 ですから私は最初から意図的に隙を作り、それを突いた瞬間に弾きました。」

 

「つまり?」

 

「攻めてくる場所と時間、そして状態がわかっていれば対処はできる。――そういうことです。」

 

レジリメンス(開心)。」

 

「―っ!?」

 

「……………………。いきなりのことにも対処できようだな。」

 

 話の途中で開心術を使われ、驚いたもののイーニアはしっかりと閉心術を使い、スネイプの開心術を防いだ。スネイプがその事を告げると、その場に居た大人たちは納得せざるを得なく、静かに席に着く。

 

「内容を話す前にイーニア。わしは君に謝ねればならん。」

 

「謝る?何をです?」

 

イーニアは椅子に手をかけながらダンブルドアに聞いた。

 

「夏休み前に話した内容は覚えているかの?」

 

「はい、騎士団を再結成するとか何とか。」

 

「うむ。その時にできる限り、君を含む未成年の魔法使いには関わらせない、とも。

――しかし先も言った通り、わしらには余裕はない。」

 

「なんだ、そんなことですか。――保護者(アリシス)が許可出してるんですから問題ないです。私もあいつらには用があります。こうして関わらなければ独自に動いていたかもしれません。」

 

「申し訳ない。」

 

 ダンブルドアが頭を下げると他の大人たちも頭を下げる。その光景にイーニアは焦りながら皆の頭を上げさせた。

 

「では、ハリーの護送について、引き続き話そう。」

 

 皆が頭を上げたところでダンブルドアが中断していた話を始めた。イーニアもムーディの隣の席に座る。

 

「会うのは初めてですよね?ムーディ先生?」

 

「ああ、先生ではないがな。」

 

「お元気そうで何よりです。だいぶ衰弱していたって聞いていたので。」

 

 クラウチ・ジュニアが成りすましていたムーディ本人は教授の部屋のトランクの中に監禁されていたのをダンブルドアが見つけた。イーニアは2日間、目を覚まさなかったので本人に会うのは初めてである。

 しかしハリーから衰弱した状態で見つかったと話を聞いていたので心配していたが問題は無いようだった。

 

「移動手段は箒と思っておるんじゃが、何かあるかの?」

 

「なぜ箒なんです?」

 

「煙突飛行ネットワークは現在、魔法省に監視されておる。姿現しなどは魔法の痕跡を辿られてしまう。ゆえに箒じゃ。」

 

「………箒を使うのは構わないんですが、騎士団メンバーでどれくらい箒を使わずに飛べますか?」

 

「わしとセルブス、あとはシリウスも飛べかの?」

 

「一応。もう長い間飛んでないからカンを取り戻す必要はある。」

 

「正直言って、それでは箒での護送は危ないと思います。飛べないとなるとやられなくても道具を壊されたら護衛として意味をなさなくなります。ましてや皆、ハリーみたいな動きできますか?」

 

「だが、そうなるとどうやって迎えに行く?」

 

「………召喚呪文を使います。」

 

「「「召喚呪文?」」」

 

 ダンブルドアとムーディ以外の大人たちは皆、首を傾げた。

 

「なるほど。あれなら手間はかかるが姿現しと違い呼ばれる側には魔法の痕跡は残らないな。」

 

「念には念を入れて2つ程、経由すればいいと思います。1つは我が家を使ってもらって構わないです。」

 

「となると、もう1つは適当な家にするかの。」

 

「ちょ、ちょっとまってくれ!3人だけ理解して話を進めないでくれ!!」

 

 他の人間を置いて話を進める3人に、思わずシリウスが止める。

 

「なんだ、お前たち。召喚呪文も知らないのか?」

 

「あれはもう使われない古い呪文です。知らなくて当然でしょう。」

 

「最年少のお前が知ってるじゃないか。」

 

 ムーディの言葉に少し苦笑いしながら、イーニアはシリウスたちに説明を始める。

 

「召喚呪文っていうのは、そのまんま召喚する呪文です。昔はそれで悪魔とかを召喚しようとしてたみたいですけど成功したっていう記述は世界中探してもどこにもありません。近年じゃ使われませんが200年くらい前には罪人を呼び出すのに使ってたみたいです。

 これ、召喚された側には魔法の痕跡が残らないんですが――今じゃ使われない構築式とか書かなきゃいけないから手間がかかるんです。」

 

 イーニアの説明に大人たちが納得する。

 

「それを使ってここにハリーを来させると?」

 

「うん。――ダンブルドア校長、ダーズリー家、適当な家の2か所からハリー護送という名目で囮をしましょう。移動方法は箒で。」

 

「いいじゃろう。他に意見はあるかの?――無いようならその手筈でいこう。イーニアは召喚呪文の準備はお願いしてもよいかの?」

 

「はい。もちろんです。」

 

「召喚呪文を使うのは…適当な家でアラスター、イーニアの家でわしが、そしてここでイーニアがで良いかの?」

 

「私は自宅でいいです。家にも魔法かかってますから、何かあっても対処できます。それに私が自宅に居ることは不自然なことは何もないです。」

 

「君の家に誰も置かなくてもいいかの?」

 

「そしたら不自然になるじゃないですか。それに家に施されている魔法の事を考えると居られると迷惑です。」

 

「わかった……。」

 

 会議はそれを最後に終了した。

 イーニアはハーマイオニーたちが寝ている部屋に案内され、荷物を置くと寝間着に着替え早々と寝た。

 

 

 翌日、誰よりも早く起きたイーニアは準備のために自宅に戻ると置き手紙を残し、自宅に戻った。戻るとすぐにチョークを引っ張り出し、床に構築式を書いていく。

 大人2人は入れるサイズの大きな円を描き、その中に必要な式を書いていく。式そのものは1時間足らずで書き上げ、一度シリウス宅に戻る。

 戻るとリビングでコーヒーを飲んでいたリーマスを捕まえる。

 

「召喚呪文のテストを行いたいから手伝ってほしいんだけど、今いい?」

 

「もう作ってきたのかい?――もちろんいいよ。僕はなにをすればいい?」

 

「ここに居てくれて大丈夫だよ。ただ突然飛ぶから気を付けてね。」

 

 イーニアはそういうとリーマスの手を一度取り、マーキングを付ける。そうして再び自宅へと戻ると、魔方陣の前で杖を構えた。

 

インウォカーティオー(召喚)!!」

 

 イーニアが唱えると魔方陣が光を放ち始める。ぎゅるん!と音が鳴るとそこにはコーヒーをもったままのリーマスが現れた。

 

「よし!―リーマス、どこも具合悪くない?」

 

「ああ、問題ないが、これはこれで変な感じのするものだな。」

 

「魔法ってかなり物理法則を無視するものだからね。それはばっかりはどうしようもないよ。」

 

 イーニアはそういうとリーマスの手を取りシリウス宅に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

―――本編にはまったく関係ない茶番―――

 

 駄々を捏ねるあーがるど

 

 

 

 

「帰るわよ、アーガルド。」

 

「断る。」

 

「何を言って…っ!」

 

「お愉しみはこれからだというのになぜ帰なればならない?」

 

「お前は私の姪になにをするつもり?」

 

「稽古をつけているだけだ。――この4日で素晴らしい成長を遂げたぞ。俺にはそれを見届ける義務が…――。」

 

「そんなもんあるかっ!!お前らアーガルドを…――っ!」

 

「イーニアちゃんって言うんだ。お姉さんとイケナイことしない?」

 

「イケナイこと?」

 

「いや、それより俺とイイことをしよう」

 

「あの人の姪ってだけあって並の15歳ではないな。」

 

「スタイルいいし、若い!!私のところ来ない?」

 

「何をやってるんだ!!お前たちは!!」

 

「「誘惑。」」「観察。」

 

「いいからアーガルドを…っ!」

 

「まぁ落ち着け、アリシス。考えて見ろ、嬢ちゃんが実力を付けて、ウチに就職させれば一緒に居られるぞ?そのために俺が修業を…。」

 

「な…ン…だ…――。」

 

「隊長、誘惑に負けかけてますよ。」

 

「――――っ!!…………私です。はい、はい。許可をいただきたく……。はい。――――喜びなさい、お前たち。アーガルドを捕獲するのに限り、攻撃許可が下りたわ。捕まえろ。」

 

「っ!?なぜ許可が下りた!?アリシス!!」

 

「許可が下りたなら仕方ない。全力で捕まえに行きますよ。」

 

「覚悟を、アーガルド。」

 

「捕まえた後、私の好きにしていぃ?」

 

「拘束術式解除。」

 

「くっ……―――。いいだろう、ひよっこ共。素手のみで相手してやる。」

 

 

 

 

 





魔法についてはいつも通り独自解釈でございます。




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