戦いの基本は格闘だ。魔法や道具に頼ってはいけない   作:imuka

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炎のゴブレット編はこれにて終了です。


ではどうぞ。





王室特務と備える者たち

 

 ホグワーツは大騒ぎとなっていた。

 突然生徒たちが飛ばされてきて、怪我人や、片足だけあったりすれば、当然の騒ぎではある。

 

「大騒ぎね。」

 

 アリシスがため息を吐くと、イーニアたちを包んでいた炎を解く。ダンブルドアは4人の姿を確認するとすごい勢いで駆け寄ってくる。

 

「いったい――」

 

「お久しぶりです。ダンブルドア先生。イーニアの足ありません?」

 

 ダンブルドアの言葉を遮り、足の所在を聞く。ダンブルドアはマダム・ポンフリーに声をかけ足を持ってこさせる。

 アリシスは足を受け取るとイーニアに近寄る。

 

「綺麗に切れていてよかったわね。痛みは?」

 

「炎に包まれてから…治まってきてる。」

 

「あれは治癒と麻酔の効果あるから。――足を治すわ。激痛が走るから我慢してね。」

 

 イーニアは痛みが減った理由に納得しながら抱きしめ合ったままのハリーにそのまま体を委ね、目を瞑る。

 

「いくわよ。」

 

 止血に使っていたハリーの上着を取り、切断面を合わせる。すると青緑の光を放った。

 

「っーーー!」

 

 イーニアは声にならない悲鳴をあげ、握っていたハリーの手を強く握る。

やがて青緑の光が消え、アリシスが一息ついた。

 

「くっ付いたわよ。」

 

「まだ…痛い…。」

 

「そりゃそうよ。切れていた神経繋げたんだから。数日は絶対安静、一週間はリハビリね。――疲れたでしょう、肉体的にも、精神的にも。今は休みなさい。」

 

「う……ん…。」

 

 アリシスはイーニアの頭撫でるとそのまま眠りにつかせた。

 

 

* * *

 

 

 イーニアが目覚めたのはそれから2日後だった。

 お見舞いに来たハーマイオニーは大泣きで、他の皆も本当に無事でよかったと安堵の顔をしていた。

 

「そういえばセドリックたちは?!」

 

 イーニアが気になっていたことを口にするとロンが安心させるような口調で喋り出す。

 

「皆、あっちこっち怪我してたけど無事。一番重症だったのはセドリックだけど、そのセドリックは隣のベットに居る。」

 

カーテンを捲りるとクラスメイトたちと話しているセドリックが見えた。セドリックがイーニアの視線に気が付くと声をかけてきた。

 

「イーニア!!もう大丈夫なのかい?」

 

「うん。だいぶいいよ?セドリックは?」

 

「イーニアの応急手当のおかげで命拾いしたよ。一週間以上はベットの上だけどね。」

 

 笑いながら言うセドリックにイーニアはホッとしつつも、2日前の出来事を思い出し気分が悪くなる。

 顔色が悪くなったことに気が付いたハーマイオニーが皆に退出を促そうとした時、医務室の扉が開き、ダンブルドア、アリシス、アーガルドの3人が入ってくる。

 

「イーニア、調子はどう?」

 

「まずまずだよ、アリシス。」

 

「あら、貴女にしては珍しい返事ね。―――さて、話があるんだけど…。」

 

 アリシスが周りを見ながら言うと、退出しろと察したハリーたちが立ち上がる。

 

「待って。――アリシス、人払いしなきゃいけない話?」

 

「んー、まぁ、私は別にどちらでもいいと思うけど?」

 

 イーニアがハリーたちを止め、アリシスに聞くと、どちらもいいと返事をしつつ、ダンブルドアを見る。

 

「構わんじゃろう。」

 

「なら、できれば皆には居てほしい。」

 

 ダンブルドアがハリーたちが居ることを承諾するとイーニアは残ってくれるようお願いする。ハリーたちは顔を見合わせると立ち上がる前と同じように、イーニアの周りに座る。

 

「じゃ、まずは傷の話ね。――わき腹はほとんど治っているわ。足はちゃんと結合してるけど、後3日は動かしちゃ駄目よ。」

 

 イーニアは傷を撫でるように触りながら聞く。

 

「で、次に――先に彼を紹介するわね。アーガルド。」

 

「アーガルド・ヴァニシングだ。」

 

「もう少し、何かないの?―――彼は私の部下で――。」

 

「王室特務所属…でしょ?」

 

「…っ!」

 

 笑顔だったアリシスの顔が崩れる。困惑の顔をしながらアリシスはイーニアを見た。

 

「知って…たの?」

 

「知ってるよ。王室特務隊、第65代目隊長、リーナ・イスカルド―――本名、アリシス・コーランド。」

 

「…………いつから?」

 

「結構前から……かな。確証はなかったけど。」

 

 表情を曇らせたアリシスにイーニアは困りつつも励ます。

 

「そんな顔しないで、アリシスが忙しいのも、王室特務の特異性もわかってる。――それでも私のために、たくさん時間作ってくれてるの知ってるから。」

 

 イーニアがそういったもののアリシスの表情は暗いままだった。

 

「………アリシス、こっち来て。」

 

 イーニアは手招きをすると、もっと近づくように告げる。

 

「私のこと嫌い?」

 

「そんなわけないでしょう!!貴女のことが大好きよ!!」

 

 少し拗ねた表情をしながら言うとアリシスはすごい形相で否定した。そんなアリシスを見てイーニアは笑顔を向けるとアリシスに抱きつく。

 

「私もアリシスの事、大好きだよ。だからそんな顔しないで?お母さんとお父さんがそうだったように、アリシスが私を蔑にしていないのはよくわかってる。」

 

「でも私は貴女のために戦うことはないのよ?次、いつ、貴女が危険な目にあったときに護れる保証はない。」

 

「私に戦い方を、身の守り方を教えてくれるじゃない。たくさんの魔法と知恵を授けてくれてる。私の為を思ってでしょ?―――それに今回も、そして7年前のあの時(・・・・・・)も、私を護ってくれた。あの炎はアリシスだよね。」

 

「…っ!」

 

「いつもありがとう、アリシス。」

 

 イーニアがそう言うとアリシスはイーニアを少し強く抱きしめ、目元と肩に隠した。イーニアもそれに答えるように抱きしめ返し、ハリーたちはそれを微笑ましく見ていた。

 

 

 

 

 

「話の腰を折るようだけど、王室特務って何なんだ?」

 

 2人が離れた後、少し遠慮気味にジョージは手をあげ、イーニアたちに質問をする。

 

「王室直属部隊の事だよ。基本的には護衛で就いてて――。」

 

「私の許可なしでは部下たちは戦闘はできないし、王室の許可がなければ私も戦闘できない。ましてやこちらから攻撃することは絶対にない。」

 

 イーニアの言葉にアリシスが繋ぎ補足する。

 

「破れぬ誓いで王室の敵、もしくは自身の命の危険がない限りはかなり魔法の使用に制限がかけられているわ。」

 

「どうしてです?」

 

「部隊の人間のほとんどが化け物だからさ。」

 

 ハーマイオニーの質問にアーガルドが帽子を取り、愉しそうに言った。

 

「俺たちは常識では考えられないような奴らの集まりだ。強大な力を持ち、敵を滅ぼす化け物。」

 

「アーガルドみたいに血の気が多い奴らばかりでね。制約をかけないと、とんでもないことなるのよ。」

 

 愉しそうに笑っているアーガルドを横目に苦笑いするアリシスを見て、皆、少し同情する。

 

「話がだいぶずれたわね。――イーニア、私たちはまだ(・・)、今回の件には手を出すことができないわ。」

 

「うん。わかってる。」

 

 少し暗い表情で言うアリシスの言葉にイーニアは肯いたが、ハリーたちは驚いていた。

 

「どうして!?あいつが、ヴォルデモートが復活したんですよ!?イーニアだって…――!」

 

「さっき説明しただろう。小僧。

―――俺たちは存在は知られても、表舞台に立つことはない。ましてや、ただ(・・)の犯罪者に王室特務(俺たち)が動くことはない。俺たちが動くときは奴らが王室に攻めてきた時だけだ。」

 

 声を荒げたハリーにアリシスが答えに迷っているとアーガルドが横から口を挟む。しかしハリーは納得がいかずアーガルドに喰いつく。

 

「今回助けてくれたじゃないですか!!」

 

「今回はかなりの特例だ。2日前のためにアリシスがどれだけ準備していたと思っている。――事前準備をしていても俺の許可された行動時間は5分。アリシスは攻撃は禁止。そういう組織なんだ、王室特務(俺たち)は。」

 

「でも――。」

 

 まだ納得がいかず喰いつこうとしていたハリーをイーニアが腕を掴み、首を振る。

 

「いいの。――私の代わりに怒ってくれてありがとうね、ハリー。」

 

 イーニアがそういうとハリーは渋々引き下がった。それを見てアリシスが説明を続ける。

 

「まだ、とは言ったけど関われるかは正直わからないわ。――それに私たちはヴォルデモートが復活したことは証言できない。」

 

「いなかったことになってる?」

 

 アリシスが肯くと、そっかと短く返事をして納得する。そして引き継ぐようにダンブルドアが喋り出す。

 

「ハリーたちにはもう話したんじゃがヴォルデモート対抗すべく、昔の仲間、不死鳥の騎士団を再結成しようと思っておる。―――残念ながらファッジ…魔法省はヴォルデモートの復活を認めたくないようじゃ。」

 

 少し悲しそうな顔をするダンブルドアだったがすぐに表情を切り替えた。

 

「させないつもりじゃが、もしもの時は力を借りるねばならんかもしれん。その時は力を借してくれるかの?」

 

 イーニアは周りに居る1人1人の顔をしっかり見ていき、そして最後にダンブルドアに向き合った。

 

「もちろんです。」

 

 その返事にダンブルドアは満足そうに肯くと医務室を出て行った。

 

「イーニア・シュツベル。」

 

「なんですか、アーガルド・ヴァニシングさん?」

 

あの男(・・・)は恐らく生きている。十分に気を付けるんだな。」

 

 アーガルドはそういうと姿くらましをしてどこかへ行った。

 ホグワーツではできないとされる姿くらましを使った光景に皆驚いていたが、イーニアは少し表情を暗くしていた。

 

「イーニア、駄目なときはちゃんと逃げなさい。立ち向かうことも大切だけど、逃げることも大切よ。」

 

「……うん。」

 

 アリシスはイーニアの頬にキスをすると"行くわね"と告げ、アーガルドと同じように姿くらましでホグワーツから去った。

 

 

* * *

 

 

 学年度末、帰り支度をしていたイーニアにワールドカップの時の勝ち分より多めのお金が届いた。

 中にはバグマンからの手紙が入っており、謝罪とそして賭けに勝ったのでお金を渡す、と書いてあった。

"結局賭け事してるのね"

 ちゃんとお金を渡し、謝罪してきたことに少しは好感が持てたが、懲りずに賭け事をやっていることに呆れた。

 一応返事の手紙を書き、談話室へと降りるとお金が届いたことに喜んでいる双子と優勝金を分けていたハリーが居た。

 三大魔法学校対抗試合の結果は有耶無耶に終わり、優勝杯を触った2人で決めてくれ、とずいぶんと投げやりなことを言われたので同点優勝ということにした。

 ゆえに優勝金も半分なのだが、なぜか自分たちで半分にすることになり、ハリーがそれを請け負ってくれていた。

 

「はい、イーニア。半分に分けたよ。」

 

「ありがと。ごめんね、任せっきりで。」

 

「これくらいどうってことないよ。」

 

 イーニアは半分に分けられた優勝金の袋を受け取るとフレッドとジョージに近寄り渡す。

 

「はい、投資。」

 

「「「え?」」」

 

「え?」

 

 フレッドとジョージ、ハリーまでもが声を揃えて言ったのでイーニアも困惑気味に返す。

 

「ハリーと同じことするんだな。」

 

「ハリーも?」

 

 ジョージが受け取るのを確認しつつ、ハリーを見ると肯いていた。

 

「ま、じゃあ要件はハリーと大方同じだろう。承りましたよ。」

 

「面白いこと期待してる。――あ、一応何を作ったか報告頂戴ね。投資者だから。」

 

「「りょーかい。」」

 

 2人の返事に笑顔を返しながら、リハビリついでにクラムたちに顔を出すためハリーと共に談話室を後にした。

 クラムに会いに行くと深く謝罪され、操られていたのだから気にしなくていいと言ったが納得せず、クィディッチの試合に招待する、ということで落ち着かせた。

 その後、デラクールや他クラスの知り合いにも顔を出し、最後にドラコを探す。

 何故か入院中、顔を出さなかったドラコ。クラスメイトに聞いても見ていないという。

 疑問に思いつつも、ハグリッド、そしてノーバートに会いに行くとノーバートの隣にドラコが立っていた。

 

「あ、いたいた、ドラコ。」

 

「やっと来たか。」

 

「やっと?ドラコなんでお見舞いに――!?」

 

 突然、ドラコの姿が薄くなり目を見開く2人。

 

「時間がないから手短に話すぞ。

僕は今、ホグワーツを離れている。ダンブルドアには課外授業として許可は頂いた。ただ、父上のこともあって目立って行動はできない。

だから闇の帝王の復活を目の当たりにした君たちに直接会いに行くのはリスクがあると思って見舞いに行かなかった。代わりに伝言として、東洋で言う式神みたいなのをノーバートを触媒にして置き、今こうして説明をしてる。

――半年くらいを目途にホグワーツに戻るつもりだ。それまでは奴らの動向を探りつつ同士を集める。」

 

「「…………。」」

 

「そんな顔をしないでくれ。無理はしないし、ホグワーツに、皆が居る所へ帰る。そもそも課外授業の名目で外に出るからな、課外授業がある中、どこまでやれるかもわからん。」

 

「声も映像も届いてるんだ…。」

 

「ああ。だが、そうしたせいでそろそろ維持できなくなってきてるが…。」

 

「………ちゃんと―――ちゃんと帰ってくるんだよ?」

 

 イーニアが力を込めて言うとドラコは少し微笑みながら答えた。

 

「もちろんだ。イーニアにもハリーにも負けっぱなしだからな。戻ってきたら、ぎゃふんと言わせてやる。」

 

「……うん。」

 

「楽しみにしてる。」

 

「出発しているが、一応………――行ってきます。」

 

「「いってらっしゃい!」」

 

 2人が言うとドラコの姿が消える。

 寂しそうな、心配そうな顔をするイーニアにノーバートは頬摩りをする。ハリーも手を握り、ドラコなら大丈夫さ、と告げる。

 イーニアは顔を引き締めると。そうだね、と返事をするとノーバートとハグリッドに別れを告げると寮に戻り、荷物を持って汽車に乗った。

 

 

 

 

 

「私、屋敷しもべ妖精福祉振興協会を辞めたわ。」

 

 汽車が動きだし、呆然と外を見ているとハーマイオニーがそう告げた。

 ロンは知っていたらしく、特別反応しなかったがイーニアとハリーは少し驚いたように目を開いていた。

 驚いた顔をしているとロンがフレッドとジョージが説得にひと役買ってくれたことを教えてくれた。

 

「ところでハーマイオニー、それは?」

 

 ハリーが小瓶に入ったコガネムシを指さして言う。

 

「これ?――今回の私の成果ってところかしら。」

 

「「「???」」」

 

 3人はハーマイオニーの言葉がさっぱりだったが、フレッドとジョージが遊びに来たのでそれ以上は言及しなかった。

 その後、駅に着くまで楽しい時間を過ごしたイーニアたちは家へと帰宅し、4年生としての1年に幕を閉じた。

 

 

 

 




最初は死ぬ予定だったセドリックやクラムですが今回は生き残らせることにしました。
2人は今後もチラっと登場させようと思っています。


新キャラ、アーガルド・ヴァニシング
詳しい設定は【登場人物、魔法紹介】に記載しますが
身なりのイメージはH○LLS○NGの○ーカードを想像していただければいいと思います。
彼は今後、時々出たりすると思いますが戦闘はしません。アリシス含み、かなりのバランスブレイカ―なので(笑


ドラコの旅立ち!!
ヴォルデモート復活に当たり、彼の立場はいくつか候補があり
嫌々ながらもヴォルデモートに従う
全力で反抗
無理やり連れてかれる(人質
など色々あったのですが秘密裏に行動、という形にしました。
課外授業の有無に関してはオリジナルです。
彼の戦いは今後【外伝】というサブタイトルで合間に書く予定です。

アリシスの偽名、リーナ・イスカルドは名前をローマ字で書いたのを組み直したモノです。
ARISISU KO-RANDO

RI-NA ISUKARUDO


他の章と比べると長々と書いてしまいましたが炎のゴブレット編は終了です。
今までお付き合いいただきありがとうございます。
よろしければ次の章もお付き合いください。

誤字脱字などございましたら、遠慮なくご報告ください。
感想お待ちしています。


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