戦いの基本は格闘だ。魔法や道具に頼ってはいけない 作:imuka
ではどうぞ。
第一の課題の日、当日。
イーニアはいつもの時間に目覚め、いつもように運動をすませると朝食を取り、部屋に戻るとアリシスからもらった服を着る。
グリフィンドールを連想させる赤をベースに黄色や緑のラインが入ったフード付きのコート、パンツ、ソックス、重厚感あるブーツ、グローブを着ていく。髪を結びイヤリングを耳に付けるとイーニアは部屋を出た。
テントへ入るとハリー以外がそろっており、それぞれ不安そうな顔で椅子に座っていた。イーニアも自分の席に座り、待機する。それなりに緊張はしているがガチガチになるほどではない。ドラゴン対しては他の選手よりは熟知しているので対処できるであろう、そう考えていた。
そんなことを考えていると欠伸が出そうになり、口を開けていると、ハリーが少し慌ただしくテントに入ってきた。
「おはよう、ハリー。」
「おはよう、イーニア。」
「寝坊したの?」
「あー、うん。今日のこと考えてたら寝るの遅くなっちゃって。――ロンに叩き起こされた。」
そんなハリーに思わずクスっと笑う。顔色や調子を見る限り、他の選手よりずっとコンディションは良さそうだった。
「緊張してなさそうだね。」
「そうだね。クィディッチの初戦よりはしてないかな。ちゃんと自分で朝食食べたし。」
その言葉を聞き笑いが起きる。クラムやデラクールはなぜ笑っていられるのかと言わんばかりの顔でこちらを見ていた。そんな会話をしているとバグマンがテントに入って来る。
「もう全員集合したな。では、いよいよ第一の課題について聞かせる時がきた!!」
バグマンはそういうと紫の袋を出す。
「この袋には諸君が立ち向かうものの模型が入っている。模型の種類は様々だ。諸君はそれのいずれかを選び、そして―――選び取った模型のものを出し抜いて金の卵を取る。それが第一の課題だ!!」
デラクールから安堵の声が聞こえた気がしたがバグマンが呼んだのでイーニアが選ぶために袋に手を入れる。
「後でお話しがあるので逃げないでくださいね。」
イーニアが笑顔でそういうとバグマンは引き攣った顔をした。イーニアが中で動くモノを掴み手を上げるとスウェーデン・ショート‐スナウト種が手に収まっていた。
「スウェーデン・ショート‐スナウト種、4番か。」
その後、フラー、クラム、ハリーの順番で引いていき、クラム、デラクール、ハリー、イーニアの順番で競技を行うこととなる。バグマンは必要事項を伝えるとテントの外へ出ていく。
バグマンとリーの司会が聞こえてくると会場が盛り上がっているのもわかる。
ホイッスルが鳴り、クラムが出て行った。
歓声や悲鳴、実況が聞こえる中、イーニアは最終チェックに入る。ハリーも落ち着くように深呼吸をし、集中しているようだった。そう時間が経たないうちに次のホイッスルが鳴り、デラクールがテント出ていく。
「ずいぶんと盛り上がってるね。」
「みたいだね。――緊張してきたよ。」
「嘘。余裕そうな顔してるよ?」
「あはは、イーニアほどではないけどドラゴンはずっと触れてきたからかな。」
余裕のある笑いをしたハリー。そしてハリーの番が回ってくる。
「頑張って。」
「うん、イーニアも。」
ハリーはしっかりとした足取りでテントを出て行った。
実況がイーニアの耳に届く。少し苦戦しているようだったがハリーは持ち前の箒を手に入れ、ドラゴンを上手く出し抜いたようだった。
そして再びホイッスルが鳴り、ついにイーニアの番が回って来る。
イーニアが競技場へと出ると簡単な岩場ができていた。
『ホグワーツ生お待ちかね!!イーニア・シュツベルの登場だぁ!!――おっと!服装がグリフィンドールカラーだ!!この日のために用意したものなのかぁ!?』
リーの実況が聞こえ、とりあえずホグワーツ生が居る方に手を振っておく。正面を見るとすでにドラゴンがこちらを見ていた。イーニアはいつもの足取りでドラゴンの足元にある卵への元へと歩く。イーニアの歩く音だけが聞こえ、歓声もなにも上がらない静かな会場。
ホグワーツ生は皆、今回の競技内容を聞いた時に他の選手に同情した。ドラゴンとの対峙。どう考えてもドラゴンを飼っているイーニアが有利なのは明白だった。生徒のほとんどがイーニアは襲われることもなく、ただ卵を取るだけで終わると思っていた。
しかし、ドラゴンは会場の予想を裏切り、イーニアに襲い掛かってきた。あらかじめ身体強化をかけていたイーニアはバックステップでドラゴンの攻撃を避ける。途端に驚きの声が会場中を響かせた。
「やっぱうまくはいかないかぁ。」
イーニア自身も動かないドラゴンを見て、このまま取れるかな、などと思っていたがそう簡単にはいかず思わずため息が出る。
「ま、仕方ないよね。」
爪を躱し、接近する。しかし口から火を噴かれ、懐に潜り込むことはできなかった。できれば傷つけずに卵を取りたかったイーニアだったがこう元気では近づけないので斬撃魔法を飛ばす。しかし傷一つつけることができず眉を顰める。
「ああ、もう。―魔法いくつかかかってるのか。」
ドラゴンと距離を取るといくつも解析魔法を投げる。
「うわぁ、かけ過ぎでしょう、魔法。」
手元の解析結果を見てうんざりするイーニア。魔法の内容がイーニア対策で用意されたものであることが明白だった。興奮魔法、錯乱魔法、盾魔法、硬化魔法、身体強化魔法と、ここまでかけたらもはやドラゴンが相手である必要はどこにもないだろう。
「大方、錯乱魔法で全然違う姿に見えてるんだろうなー。」
突っ込んできたドラゴンの頭の上を飛び越え呟くイーニア。色々と固められすぎて何も効かない気がしたが一応試すために剣を生成するとドラゴンの目に向けて投擲する。しかし瞳に直撃したはずの剣は弾かれ地面に落ちた。
「目は生物の弱点でしょ。――どうしろって――わっととと。」
尻尾が頬を掠め驚く。イーニアは跳躍するとそのまま空を飛ぶ。ドラゴンは追いかけてくる様子はなく、卵からあまり離れようとしない。思わず舌打ちをする。卵を早く取らなければいけないこの競技で卵から離れないという行動は時間がかかってしまうことを意味している。
飛んだまま、こちらに来ないドラゴンを見つつ考えるイーニア。魔法はかなり複雑にかけられ、解くのには時間がかかってしまう。しかしこのまま正面から挑んでも打ち破るのは難しいだろう。
「こんなところで手の内を見せたくなかったんだけどなぁ。」
イーニアもドラゴンも動かず、静まり返った会場にイーニアの独り言が聞こえる。イーニアは杖を持った右手を自身の顔の前で構えるといくつも術式を展開し始め、唱える。
「
術式は次々と展開されていきイーニアの周りを覆い尽くしていく。それは美しく、誰もが見とれるものだった。詠唱が終わると展開された術式が杖に集まる。
「デクスティリスシャリング!!」
杖をドラゴンに向けたと思うとドラゴンの四方と頭上に魔法陣が出現する。
「吹き飛べ。」
イーニアの言葉に反応し、魔方陣がバチバチと音を立てたと思うと、魔法陣から光の柱が出現し、ビームのようにドラゴンを襲った。ドラゴンの叫び声と大きな爆発音と光に皆、俯き耳を塞ぐ。
音と光が止み、土煙が晴れるのを待つ会場。イーニアは土煙の中ドラゴンに近づき、気絶していることを確認すると卵を取る。風を起こし土煙を晴らすと卵を上に掲げ取ったことを示した。
『やりました!!!早い!!これは最速だ!!』
リーの実況と共に大歓声に包まれる会場。歓声を余所にイーニアは再びドラゴンに近づき様子を見る。盾魔法を壊したとき他の魔法も壊れたらしく何もかかっていなかった。活力の呪文をかけるとドラゴンは目を覚ます。
『おー!!??ドラゴンが起きたぁ!!??』
リーの言葉で会場がざわめいたがドラゴンはイーニアを襲うことはなく、顔をイーニアに近づける。
「こら、くすぐったいよ。――あいたた。毛が刺さる。」
「やっぱりイーニアはすごいな。」
「ああ、こいつの相手は俺たちでも手を焼くのに。」
顔を擦られているイーニアにロイとサーベイが近づいてくる。イーニアはドラゴンの頭を撫でてやるとロイたちの方を向く。
「誰なの?この子にあんなに魔法をかけたのは?」
「イゴール・カルカロフ。」
サーベイが答えたと同時に審査員席に座っているカルカロフを睨むイーニア。
「でも助かったよ。こいつは元々気性が激しいから、あいつが魔法を解かなかったらどうしようかと思ってたんだ。」
「――――元死喰い人だけあって実力は本物みたいだからね。」
少し忌々しく言うとイーニアはドラゴンの顔を触り、サーベイ達についていくように言うと採点が出るのを待つ。
クラウチ… 8点。
ダンブルドア… 10点。
マクシーム… 8点。
バグマン… 9点。
カルカロフ… 5点。
ハリー、クラムに並び1位。カルカロフの点数のつけ方に会場は不満の声が上がったがカルカロフは特に反応はしなかった。イーニアは多少不満を持ちつつも、公平な審査はされないと思ってはいたので特に口は出さなかった。
選手たちがバグマンに呼ばれ、テントの中へ戻っていく。
「さすがは代表に選ばれた選手たちだ。
――さて、では手短に話してしまおうか。第二の課題まで君達には十分な休みが与えられる。第二の課題が行われるのは2月24日の午前9時だ。そして、第二の課題のヒントは君達が獲得した金の卵だ。それが第二の課題が何であるか、必要な準備は何かを教えてくれる!質問はないな?では、解散!」
解散と同時にバグマンを捕まえようとしたイーニアだったがバグマンはすごい速さでその場から去り逃げられてしまった。
「チッ!!また逃げた!!」
いつもより荒い口調で言うイーニアにハリーが宥めながら2人は談話室へと向かった。
2人が談話室へと入るとやかましいくらいの歓迎を受ける。よく見ると他寮の人間もいた。賞賛の言葉を受けたり、質問されたり、親しい友人たちには叩かれたり、と前回よりさらに大騒ぎだった。またマクゴナガル先生に怒られるんじゃ、などとイーニアが考えていると生徒の1人が卵の中を見てみたいと言い出し、ハリーとイーニアは同時に開けることにした。
開けた瞬間、ガラスを引っ掻いたような音を何倍にもした音が談話室に響く。イーニアは反射的に消音魔法をかけ、閉じた。
「な、なんだ今のは。」
不快音が部屋に響き、テンションが下がりつつもジョージが聞く。しかしそれの答えを持っているものは居らず、その場は解散となった。
* * *
第二の課題の日が近づいている中、イーニアは卵について何も進んでいなかった。消音魔法をかけ、中身を見てもいまいち理解できず、魔法について解析しても何もわからず、そうなると音に意味があると思い、聞いてみたが、やはり理解できず、手詰まりだった。ハリーも同じらしく卵の前でうーん、と唸っている。
そんなまったく進展しない日々が続く中、マクゴナガルから12月25日、クリスマスの夜に魔法学校対抗試合伝統のダンスパーティーを開くことを聞く。しかも代表選手はパーティーの最初に踊るらしくパートナーを必ず見つけるように、と念を押された。
ダンスについてそれなりに心得があるイーニアは、それなりに心得があるであろうドラコを誘おうと声をかけようと思い、ドラコの元へと向かったらドラコは多くの女子に囲まれ、パートナーになってほしいと言い寄られていた。
「なるほど、あれがモテ期か。」
なんて口に出しつつイーニアは少し困り顔のドラコに声をかけず、そのままその場を後にした。そんな風にモテ期の友人を祝福していたら見事にパートナーを見つけそこね、パーティー前日になってしまう。
「困ったなー。代表選手同士で組めればハリーをパートナーに選ぶのに…。」
卵を指先でくるくる回しながら中庭でため息を吐くイーニア。卵をジーッと見ながら呆けていると後ろから声をかけられる。
「よう、イーニア。――悩み事か?」
指先の卵を手にキャッチしながら声の方へと振り向く。
「フレッド。――1人なんて珍しいね。」
「ん、というかよく俺だってわかったな。」
「顔を見ればわかるよ。」
フレッドは口笛を吹きながらイーニアの隣に座った。
「で、どうしたよ?」
「卵の謎が解けない、あとダンスパーティーの相手がいない。」
「お、じゃあ俺と踊るか?」
「本当?たすか―――え?本当?というかフレッドも相手いないの?」
驚いて勢いよくフレッドの方を見るイーニア。フレッドはそのイーニアの顔を見て、笑う。
「ははは、なんだその顔。そんなに意外だったか?」
「だって2人とも割と人気あるじゃん。てっきりもう相手いるのかと…。」
「違うことに呆けてたら残り物になっちまってな。」
笑いながら言うフレッドにつられて笑う。イーニアは立ち上がるとフレッドの前に立ち右手を出す。
「一緒に踊ってくださる?」
「ええ、喜んで。」
フレッドはイーニアの前で膝を付き手を取るとそこにキスした。2人は一連の動作が終わると笑いながら寮へと戻っていった。
課題の内容を悩みに悩み、ドラゴンと戦わせ、尚且つ高位魔法で撃退という形に収まりました。
詠唱はあるゲームのオマージュです。
【デクスティリスシャリング】は殺傷、非殺傷に変えることができる高位魔法です。高位魔法のため詠唱が必要です。
イメージ的にはス○ーライ○ブレイカーやコス○ノ○ァみたいな感じ。
今回は非殺傷で撃ったのでドラゴンが気絶しただけで済みました。
ドラコをパートナーにしようと思ったけど何故か女子に囲まれている姿が想像できたので断念し、フレッドを相手に選びました。
ロン?彼は別にいますよ(たぶん
今回のイーニアの格好のイメージを描いたはいいけれども下手過ぎて挿絵を入れるのをやめました。誰か書いてください←
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感想お待ちしています。