戦いの基本は格闘だ。魔法や道具に頼ってはいけない   作:imuka

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長文になりました。あと結構おかしいかもしれません。ご指摘ください。


ではどうぞ。


私の笑顔と蜘蛛が嫌いな理由

「あ、そっち川だ―――。」

 

「きゃーー!!」

 

「だから言ったのに!!」

 

「えへへ。びしょびしょになっちゃった。」

 

「相変わらず不注意なんだから。」

 

「ごめんごめん。――でも家に1人でいるより楽しいでしょ?」

 

「――うん。――ぁりがと。」

 

「ふふ。いい笑顔。――どういたしまして。」

 

 イーニアは少女に照れくさそうにお礼を言った。

 

 

―――――――――――

 

 

 

 朝、いつも通り早めに起きたイーニアは昨日より体調が良かったので運動するため外に出る。空を見上げると、はるか上空に黒い点が見えた。恐らく吸魂鬼だ。そもそもなぜ、吸魂鬼がホグワーツにいるのか。

 ダンブルドアはあえてその話題に触れなかったが原因は一つ。

 アズカバンの要塞監獄の囚人中、最も凶悪といわれるシリウス・ブラックがアズカバンを脱走した。そしてハリーを狙っているらしい。吸魂鬼の配置はハリーを守るため、と言うわけなのだがこれでは安全なホグワーツとは言えないだろう。

 今回の対応に少し不満を覚えつつ、イーニアはノーバートに会いに向かった。ハグリッドの話だと、ここ数か月でさらに成長したので外に小屋を作ってそこにいるとの話だった。

 ハグリッドの小屋に着くと夏休み前にはなかった小屋ができており、ノーバートが顔を出していた。

 

「ノーバート!」

 

 イーニアが声をかけるとノーバートは起き上がり飛びついてきた。

 ノーバートは前あった時の、大きめの小型犬サイズから大きめの大型犬サイズに成長していたのでイーニアは思わず避けた。抱き留めてもらえると思っていたのか地面に墜落するノーバート。

 

「ごめんね。もう飛びついて来られたら受け止めきれないや。」

 

 少し落ち込んだような顔をするノーバートを撫でるイーニア。身体強化魔法を使えば受け止められるかもしれないが、並ぶとイーニアより大きくなっている。

 イーニアは女性らしい個所は成長したが身長はあまり伸びなかった。少し負けた気持ちになるイーニア。眉間にしわを寄せ、不貞腐れつつもノーバートと遊び、寮へと戻った。

 

 

―――――――――――

 

 

「ノーバート、私より大きくなってるの。」

 

 朝食をハリーたちと食べているイーニアが突然言う。ハリーたちは突然の話題に思考が止まったが、いち早く思考を戻したロンは背中に乗れるのもすぐだな、と喜んでいたり、ハリーも早くに会いに行きたいと楽しみにしていた。イーニアは、ノーバートが自分より成長していることを愚痴として言いたかったのだが見事に話題が逸れてしまい、頬を膨らませハーマイオニーがそれを慰めていた。

 

 授業が始まると古代ルーン文字学に行ったはずのハーマイオニーが占い学にいた。イーニアが時間割を覗いたら全科目を取ろうとしていることに気が付く。話を聞くと逆転時計という道具をマクゴナガルから渡されたらしい。なんでも全科目取りたい人のために貸し出していて時間を巻き戻すことができるらしい。過去に戻るというかなり大規模な魔法に少し疑問を抱いたイーニアだったがハーマイオニーに無理しないようにと告げるとハリーたちには秘密にするように言われた。

 占い学でハリーがグリムに取り付いてるなどと言われたりイーニアは困難が待ち受けてると言われたりしていると、占い学は曖昧なもので馬鹿馬鹿しいとハーマイオニーは怒っていた。

 

 次の授業はスリザリンと合同の魔法生物飼育学。ハグリッドがどのような授業を行うのかとても気になっていたイーニア。小屋の前に行くとせっかくだからノーバートも連れてくることを進められ、連れて森に入っていく。

 皆、一度はノーバートを見ているが頻繁に会いに来ているわけではないので大きくなっていることに驚いていた。ノーバートも皆に触られることを嫌がらなかったのでイーニアはそのままにしていた。そして奥に進むとノーバートより大きなペガサスとは違う羽のついた馬のような生物がハグリッドの隣にいた。

 

「こいつはヒッポグリフちゅー生き物だ。名前はバックビーク。どうだ、美しかろう?

――先に注意しておくが、こいつらはとても誇り高く怒りっぽい。決して侮辱しちゃいかんぞ。」

 

 ハグリッドがそう説明すると触ってみたいかと聞いてきた。皆、後ろに下がったがノーバートとじゃれていたイーニアは皆が下がったことに気が付かず、1人取り残される。ハグリッドはイーニアを指名し、前にでた。

 

「バックビークはノーバートより大きいけど、ドラゴンのほうが危険なはずなのになんで皆嫌がるかなぁ。」

 

 イーニアがため息をつきながらそんなことを言うとハグリッドは苦笑いしていた。

 

「そこくらいでいい。お辞儀を―――。」

 

 近づいたイーニアに止まるように言った後、お辞儀をするように指示するとイーニアがお辞儀をする前にのバックビークがお辞儀をした。思わずハグリッドを見る。

 

「これ、どういうこと?」

 

「ノーバートの時といい、お前さんには動物に何か思わせるものがあるみてぇだな。興奮しているわけじゃないから近づいてもいいぞ。」

 

 ハグリッドが不思議なこともあるもんだと肯いているのを横目にイーニアはバックビークに近づき、触る。撫でられるとバックビークは気持ちよさそうに目を細め、擦り寄ってくる。その後、背中に乗せてもらい大空を飛んだ。

 戻ってくるとノーバートが少し拗ねている感じだったので"もう少し大きくなったら乗せね"と言うと機嫌を戻した。イーニアがすんなりと物事を進めたので皆のバックビークへの距離が近づく。順番にお辞儀をし、触ったり乗せてもらったりする。

 気が緩み、皆楽しそうな顔をしている。それが気に食わなかったのかスリザリン生の数人がどかどかとバックビークに近づいた。イーニアの耳に誰かの制止する声が届く。振り返るとバックビークが前足を上げ、襲い掛かろうとしていた。

 

コールイン・エクス(座標交換)!!」

 

 イーニアは咄嗟に自分とスリザリンの生徒たちの位置が入れ替え、バックビークの前に出る。振り上げられた前足を躱し、落ち着くようにバックビークに近づくと興奮が収まっていなく腕を噛まれるイーニア。直前に身体強化と硬化魔法をかけたので深く入ってはいないが鈍い痛みが襲う。

 

「うぐぅ…――。」

 

 痛みを我慢しつつ噛まれている右腕を見たイーニアは一瞬、別の光景が写った。もっと深く食われている…そこまで思考がいったとこで、ノーバートがバックビークに体当たりして、思考が止まる。

 体当たりされたバックビークは怯み、落ち着きを取り戻したようだった。それを確認するとノーバートはイーニアに近づく。ハグリッドたちも近づき怪我の心配をした。腕からは血が垂れていた。

 

「イーニア!!大丈夫!!?」

 

 いち早く近づいたハーマイオニーが怪我を見る。

 

「―――――あ、うん。見た目よりはひどくないと思うよ。ちゃんと防御したし。」

 

「大丈夫って…貴女、顔真っ青よ。」

 

 皆に心配されつつも、いつもより反応が薄いイーニア。"医務室行くね"と告げるとハグリッドが授業をやめ、一緒に向かった。

 

 

「すまねぇ。バックビークが…。」

 

「――ハグリッドのせいじゃないよ。彼らがいけないの。事前に注意はしてあったし、他の皆はそれを守ってたんだから。」

 

 そう言いつつも表情の薄いイーニアに少しハグリッドは困っていた。治療してもらい、ほぼ傷が塞がったので、そのまま次の授業へイーニアは向かった。

 

 

 選択授業を一つ挟み、闇の魔術に対する防衛術の授業。さっきとは違い、いつも通りの顔をしているイーニアにハリーたちは安堵した。

 

「みんな、教科書をしまってくれ。杖があればいい。」

 

 教室に入ったそうそうそんなことを言うルーピン。机を端に寄せ洋服タンスを一つ持ってくる。中には何か入っているらしくガタガタと揺れていた。

 

「みんな、初めまして。リーマス・ルーピンだ。今年度から闇の魔術に対する防衛術を担当させてもらう。

――今日はいきなりだが実習をすることにしよう。この中にはまね妖怪、ボガートがいる。特徴を言える人は?」

 

 ハーマイオニーが素早く手を上げ指名される。

 

「形態模写妖怪です。私たちが一番怖いと思うものに姿を変えることが出来ます。」

 

「すばらしい。

――だから、この中にいるボガートはまだ何の姿にもなっていない。しかしここから出せば、たちまち近くにいる人間の恐怖とするものへ姿を変える。

ボガートの対処法は二つ。一つは多人数でいること。これは誰の恐怖を読み取っていいかわからず、ぐちゃぐちゃになってしまう。そしてもう一つがボガートを退散させる呪文、リディクラス、ばかばかしい、だ。笑いの力で退散できる。では、言ってみよう。――リディクラス(ばかばかしい)!!」

 

「「「「「リディクラス(ばかばかしい)!!」」」」」

 

「いいね。でもそれだけじゃ駄目なんだ。恐怖を笑いに変えられるようにしなければいけない。――ネビルおいで。」

 

 ルーピンはネビルを呼ぶと一番怖いものは何かと聞く。するとネビルはスネイプ先生と答え、教室が笑いに包まれる。

 

「スネイプ先生か。――ネビル、君はおばあさんと一緒に暮らしていたね。」

 

「え、はい。でもおばあちゃんに変身されるのも嫌です。」

 

「そういう意味じゃないよ、ネビル。」

 

 ルーピンは微笑むとネビルに耳打ちをすると洋服タンスの前まで送り出した。タンスの扉が開き、セブルス・スネイプが登場する。低くねっとりとした声を出しながら歩いてくるスネイプにネビルは杖を振った。

 

リ、リディクラス(ばかばかしい)!」

 

 するとスネイプは緑色のドレスにハゲタカのついた帽子、手には大きな赤いハンドバッグをもった格好になった。教室中が爆笑の渦に飲まれる。

 

「はははは!!―――いいね!最高だ!!――よーし!一列に並んで!!」

 

 ルーピンはレコードで音楽を流し始める。一列に並ぶと皆、次々と面白いものに変えていく。

 そしてイーニアの番。イーニアは恐らく蜘蛛が出てくるのだろうと覚悟していた。

しかし蜘蛛に変化せず、大きなローブを着た顔の見えない男に変わった。吸魂鬼ではない。男はバスケットボールサイズの繭を懐から出す。

 

 繭が割れ、そこから蜘蛛がたくさん出てくる。イーニアは杖を左から右に思いっきり振った。

 

トルナ(断ち切れ)!!」

 

 男や蜘蛛は霧散し消えていく。震える手を下し、後ろを振り向くとハリーたちが動かない。イーニアが疑問思った瞬間、後ろでべっちゃという音が聞こえる。振り向くとルーピンが胴から切れて落ちていた。顔を戻すとハリーたちも次々と崩れ落ちていく。そして中から蜘蛛が出てき、イーニアに一直線で向かってくる。追い詰められ、イーニアは教室の壁に背中を当てるとそのまま座り込んでしまう。

 

「い、いや。こないで…。」

 

 それに対し蜘蛛たちは反応するわけもなくどんどんと近寄ってくる。魔法を使って追い払おうとするが魔法が出ず、手が空振る。気が付くと右腕に自分の手のひらと同じサイズの蜘蛛が乗っており噛みついてきた。さらにパニックを起こす。次々と蜘蛛が群がりイーニアのあちこちを食べ始める。

 

「ごめんな  。食べ、な、いで!!い、や!!やめ、て!!い あああああああああ――――――――――。」

 

 蜘蛛の顔の部分には覚えのある人の顔があった。

 

 

 

 

 イーニアが気が付くと医務室のベットに寝かされていた。右腕や体のあちこちを触るが異常はない。"夢――?"と考えているとルーピンがカーテンを開け、顔を覗かせた。

 

「ああ、よかった目が覚めたんだね。」

 

「先生、私どうなったんですか?」

 

「倒れたんだ、君は。ボガートがフードの被った男に変わった直後にね。」

 

「………そう…ですか。」

 

「本当にすまない。君みたいに心的外傷(トラウマ)を抱えている子のことを考えていなかった。」

 

 頭を下げるルーピンに少し目を細めながら聞く。

 

「先生は、私の、…事件のことを知ってるんですか?」

 

「事件のことは知ってる。――ただそれは世間で知っているレベルの話であって君が被害者だということも知らなかった。」

 

「………なら先生に非はありません。知らなかったなら仕方ないです。次からは気をつけてもらえれば。」

 

 知っていると言われ、少し体が動いたイーニアだったが表情は変えずにそう告げた。

 

 次の日、普通に授業に出たイーニアは授業中に魔法が使えないことに気が付く。どんなに簡単なものでも唱えることができず、マクゴナガルに相談すると倒れた後で精神的に疲れて使えないのでは、と言っていた。一時的なものなので先生方には話をしておくのでゆっくり休むように言われた。皆、魔法が使えないイーニアを心配したが、大丈夫、と笑顔で返した。

 

 

* * *

 

 

 そのまま、イーニアが魔法を使えるようになることはなく、ハロウィンの日。

 アリシスからホグズミード村に行く許可貰っていたが体調が悪いので参加しないことをマクゴナガルに告げた。実際、体調は悪くはない。むしろ健康そのもの。少し食事の量は減っているが、運動はいつも通り行ってるし睡眠もちゃんと取っている。ただ、魔法が使えない。いくら今まで通りに取り繕っても、今まで通りにできてないのはイーニアはよくわかっていた。寮には戻らず、ノーバートに会いに行き、そのまま連れて散歩する。湖近くまで来るとベンチに座り足を抱えると、膝に顔を埋める。

 

 足音が聞こえ、顔を上げるとそこにはドラコを先頭にハリー、ロン、ハーマイオニーがいた。驚いたイーニアは声が裏返る。

 

「み、皆どうしたの?ホグズミードは?」

 

「ぼくも含め、君が心配で来たんだ。」

 

 真面目な顔で言うドラコに一生懸命笑顔を作り答えるイーニア。

 

「し、心配って大丈夫って言ってるじゃない。」

 

「作り笑いしてるやつが大丈夫なもんか。」

 

「ッ!!!」

 

 指摘され顔を再び膝に埋める。ハーマイオニーが近づき隣に座ると抱きしめながら囁いてくる。

 

「ねぇ、イーニア。1年生の時、トイレで泣いてた私に貴女はこう言ってくれたわ。

痛みが分かってあげられるわけじゃないけど、でも1人は余計に悲しくなるし、お腹が空くともっとつらくなるんだよ。

――私は痛みや悲しみを取ってあげられるわけじゃないけどこれ以上増やすことを防ぐお手伝いはできるんじゃないかな?って

私じゃその手伝いはできないかしら?」

 

 ハーマイオニーが抱きしめていたイーニアの体が震える。

 

「私じゃだめなら他の人でもいいわ。ハリーもドラコもロンも、皆、貴女を心配している。」

 

「そうだよ。フレッドとジョージなんて悪いことしたんじゃないかって心配でうろうろしてた。」

 

「ドラコもこっちチラチラ見てたよね。」

 

「ハリー!ぼくのことはどうでも――。」

 

 ロンが少し笑った風に言うとハリーもそれに続き、自分の内容だったドラコが慌てる。

 

「――悲しみや痛みを増やさない手伝いはできない?」

 

 ハーマイオニーがもう一度言うとイーニアは顔を埋めたまま、首を横に振った。

 ハリーはハーマイオニーの反対側に座り、ロンとドラコはノーバートと共に地面に座った。何も言わずただイーニアのそばにいる。ぽつぽつとイーニアは語りだした。

 

「両親を亡くして、大人たちには大丈夫っていったけれど、両親の死から時間が経つにつれて私は塞ぎ込む時間が多くなってた。アリシスは多く居ても一週間に3、4日。いないときは1日しかいなかったから余計に増えた。そのせいか近所にいた友達とも疎遠になっちゃってね。運動以外では外に出てない日々が続いてた。

 そんなのが1ヶ月続いてたある日に、3歳年上のお姉さんが私を外に連れ出したの。名前はナイ。ずっと家に居たらカビが生えるって言って。もちろんその人とは遊んだことはあったけど、そこまで親しかったかって言われるとわからない。なんで私を連れだしたのかわからないけど塞ぎ込んでた私を外に出してくれた。

天然で足元がいつもお留守で、年上なのに私より頭が悪くて。でも私に笑顔をくれた、笑い方を思い出させてくれた大切な人。」

 

 一呼吸置くイーニア。ハリーたちは何も言わない。

 

「マグルの人だったんだけど、私の面倒を見てくれて、泊りにも行かせてもらった。笑顔が増えたって、アリシスも言ってくれて、私も塞ぎ込む時間が減った。

 でも、そう長くは続かなかった。3か月した頃、その日もナイの家に泊りに行ってた。目が覚めると蜘蛛の糸で体が縛られていて、いつも見ていた家は蜘蛛の糸だらけになっていて見る影もなかった。蜘蛛がそこらじゅうにいて私を監視してた。隣にはナイが居て大丈夫、大丈夫ってずっと励ましてくれてた。

 男が部屋に入ってきたのは目が覚めて、そう時間が経たないうちだった。フードをかぶって顔が見えない男は大中小様々なサイズの蜘蛛を連れていた。後ろには蜘蛛たちが何かを食べているようで何かが動いていた。

 私たちはこんなことをする理由と解放してほしいことを訴えたけど反応は何もなかった。男は何もしないでじっと私たちを見てた。目的はわからないけど今すぐ何かをしてくるって気配じゃなかったから私たちに少し余裕ができた。私はその時から魔法を使えたから魔法で糸切って逃げようって考えてた。

 でも……でも、ナイが両親はどうしているかって、無事かって聞いたら………男は…蜘蛛に何か言う…と蜘蛛がナイの両親を運んできたの。もう…人間としての…形もなくて…頭を見れは何とかわかる…状態まで食われてた。」

 

 イーニアは呼吸が荒くなり汗を大量にかきはじめる。顔面蒼白で異常な状態だったがハリーやハーマイオニーが手を握ると握り返した。

 

「ナイも私もパニック、を起こして、騒ぎ出…したんだけど男はそれに対して何もしなかった。

 でもナイの両親の身体が食べつくされるとナイを縛っていた蜘蛛の糸を切って、部屋の真ん中、に倒した。そ…こか…らは、一瞬だ…った。そこ…いた蜘蛛が、ナイの身体を、たべ、つくし、て、ナイ…叫び声が、響いて、私…何もできなくて。」

 

 そこまで語るとイーニアは顔を埋めてしまった。ハーマイオニーが再び抱きしめる。抱きしめ返すようにイーニアもハーマイオニーの背中に手を回す。そしてそのまま続きを語り始めた。

 

「ナイの身体が、食べつくされて、…次は私の番って、蜘蛛の糸を、切られて…―――右手を食べられた。全部じゃ、ないけど。治せる、だったけど、体が食べられたあの時の、感じ…が。」

 

 忘れていない、そう言うつもりだったのだろう。想像を絶する内容に皆、唾を呑み込んだ。

 

「でも、イーニアは逃げ切ったんだよね?」

 

「…食べられたときに頭が真っ白、になって覚えてない、けど、たぶん魔法を使ったんだと思う。わかってるのは火に包まれつつも火傷もしてない、私が見つかったってこと。」

 

 イーニアが顔を上げる。あまり顔色は良くない。

 

「あの時の、恐怖で、今私は魔法が使えない。使おうとすると、使えなかったあの時を思い出して手が震える。使わなきゃあの時助からなかったのに、今の私は何もできない。」

 

 別の何かにも怯えているようなそんな顔をするイーニアにハーマイオニーは顔を近づけて言った。

 

「…イーニア。私は別に貴女がすごい魔女だから友達やってるわけじゃないのよ?――私はイーニア・シュツベルって人間が好きだから友達なの。」

 

 その言葉にハリーたちも肯く。

 

「確かに貴女はすばらしい魔女よ。学年1位の私が保証するわ。

――でもね。頑張らなくてもいいの。イーニアが馬鹿になったって魔法使えなくたって友達よ?もちろん間違ったところは正すけどね。」

 

ボロボロっと涙を零しはじめた。

 

「事件のこと、とてもつらいわ。今でもそれに苦しんで、悩んでる。きっとイーニアは自分のせいで、助けられなかった自分を恨んでるって思ってるのね。

 でもそんなことないと私は思う。貴女から語られるナイはとても温かい感じがしたしイーニアの笑顔をくれたのはナイなのでしょう?そんな温かい人間は恨むなんてことをしないわよ。むしろ心配してるんじゃないかしら。今のイーニアが心から笑ってないって。」

 

 強く強くハーマイオニーを抱きしめる。ハーマイオニーにそれに返し、ハリーやロン、ドラコも抱きつき、お団子状態になってしまったが強く強く抱きしめた。

 

「イーニアの笑顔、すごく好きだよ。見ると心があったかくなるんだ。――強くなくたって大丈夫。何かあったら僕らが守るよ。イーニアがそうしてくれたように。」

 

「そうだよ。ぼくらだっていつまでも女の子に守られているようじゃ不甲斐無いからね!」

 

「イーニア、もっと頼れ。」

 

 ぐちゃぐちゃだが手だけはしっかり5人で握った。ドラコがハーマイオニーに"照れないでしっかり握って!"などと言われたりしながら、イーニアは少し前に進めた気がした。

 

 

 

 




長文お疲れ様です。

今回はイーニアの蜘蛛嫌いの理由を書きました。
襲われた蜘蛛は怖いし嫌いだけど、それ以上に友人を失ったのがつらい。
そんなイーニアを描写したつもりです。


今回、恐怖で魔法が使えなくなったのに、アラゴグの時にはなぜ魔法が使えたか、ですが、蜘蛛はトラウマを刺激するキーの一つでしかなく、本当に恐れているのはその時の記憶だからです。そのためボガートも記憶を再現するため男に変身しました。


ちなみにイーニアはまだ魔法は使えません。


コールイン・エクス
空間魔法。モノや人の場所を入れ替えることができる。

クリンゴ
硬化魔法。対象を固くする魔法。

トルナ
斬撃を飛ばす魔法。縦や横に杖を振った形で斬撃が飛ぶ。




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