瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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 咲夜さんのような従者系主人公を描いていると、誰かのために全力を尽くせる人生も素晴らしいなと、そんなことを考えてしまいます。

 それはそうと今回から少し番外編みたいな話を挟みます。


エピソード・オブ・ラディッツー1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはあの世、宇宙中すべての死者の魂が集まる場所である。生き物は死ぬと魂のみの状態でここを訪れ、生前の行いから天国行きか地獄行きか審判を下される。辺りは見渡す限りの黄色い雲の絨毯であり、唯一確認できる大仰な建物の入り口からは数えられない程の魂が行列を作っている。

 

「うぃ~…」

 

「こら! そこの魂さん! 列を乱さないで!」

 

 酒瓶を持ち、顔を真っ赤に染め上げた犬の獣人型の宇宙人が千鳥足で列から離れ、道の真ん中に寝転んだ。それを見た行列整理担当の小柄な鬼がメガホンで獣人に注意する。注意された獣人は、あいあい、と曖昧な返事をして列に戻った。この獣人の男は酔い過ぎて道路に飛び出して車にひかれて死んだのだが、死んでも反省していないらしい。

 

ドンッ

 

「あ~いや、ごめんなさいよ~。」

 

 列に戻るときも千鳥足な男はその際に誰かにぶつかった。衝撃でどてっと尻もちをついた男はぶつかった相手を見上げながら平謝りをする。

 

「…………」

 

「ひ、ひゃあぁぁっ!!」

 

 そして相手の顔や服装、極めつけに腰に巻いてあった茶色い尻尾を見て悲鳴を上げた。ぶつかった相手は宇宙でも悪名高きサイヤ人の戦士、ラディッツだったからだ。男の悲鳴を聞いた他の魂たちもラディッツの顔を見て恐れおののき、彼から距離を取る。それによって大きく列が乱れ、さっきの鬼が駆けつけてきた。

 

「はいはい皆さん落ち着いて。この人が生前どんな人だったか知りませんけど、今は肉体を失って全然怖くありませんから。」

 

 こういう事態に慣れているのか、その鬼はあっという間に騒動を解決した。こちらをチラチラ見ながら整列し直す魂達を見てラディッツは不機嫌そうにチッと舌打ちをした。

 

 地球で悟空とピッコロに負け、戦死したラディッツもあの世へやって来ていた。遠い昔に咲夜が地球に飛ばしたという弟カカロットを、ベジータ、ナッパ、自分の3人で構成される部隊に加えようと地球に来たラディッツだが、蓋を開けてみれば二人がかりとはいえ格下の見下していた奴らに無様に殺され、魂のみになって何もできずに分かりきった審判を待つしかないという現状。ラディッツは今最高に機嫌が悪かった。

 

「ちょいとちょいと、お兄さん。」

 

「…………何だ。」

 

 そんな時、ちょうど自分の後ろに並んでいたワニ型宇宙人の老人が話しかけてきた。憂さ晴らしに気功波でバラバラにしてやりたい気分だが、今やそれすらできない自分の情けなさにため息をつきながら返事をする。

 

「あんた随分怖がられてるね。何をやらかしたんだい?」

 

「………………戦士として、誇りのために戦ってきた。ただそれだけだ。」

 

 老人の質問に、ラディッツは長考した後にそう答えた。老人は満足したのか、「ふぇっふぇっふぇっ、そうかそうか。」とケタケタ笑いながら離れた。一方ラディッツは老人に答えた自分の答えに、本当にそうだっただろうかと自問を始めていた。思えばベジータ達と一緒に行動するようになってから、侵略、侵略、侵略、の連続でこうやって自分を冷静に見つめ直す機会はなかった。順番が回ってくるまでの暇つぶしにラディッツは己の人生を振り返り始めた。

 

 自分の幼少期は、偉大な親父、バーダックの背中をひたすら追いかけていたと思う。いや、その目標は今でも変わらない。

 下級戦士の生まれである自分は生まれてすぐ辺境の星へ飛ばされた。もうその星の名は忘れたが、とにかく星の制圧を済ませて母星に帰還した時、親父の大きな背中に憧れた。下級戦士でありながら、エリート戦士に引け劣らない強さで一線で戦い続ける父の姿に、サイヤ人の誇りというものを子供ながら感じ取った。

 

 そこからの自分は、1日でも早く親父のような戦士になろうと必死だった。下級戦士が一人前の戦士になるために突破しなければならない壁である戦士承認試験、それを越えるために凄まじい特訓を繰り返した。当時新たにフリーザ軍の幹部に就任した咲夜が、休日の度に惑星ベジータにやって来ては自分達サイヤ人のガキに訓練をつけた。本人は、フリーザ軍の未来のために優秀な戦士の育成に手間は惜しまない、と言って、ご立派な忠誠心だと内心呆れたが、咲夜は戦闘力はやたら高かったので大いに利用させてもらった。休日になると自分と、親父にそっくりな同い年のサイヤ人と共に朝から晩まで咲夜に殴りかかっていったもんだ。

 

 そうしてしばらく時間が経ち、ようやく試験に合格した。一緒に訓練していたサイヤ人はいつの間にかいなくなっていたが、俺はようやく戦士として一人前になった。その事がとにかく嬉しかった俺は咲夜へ手短に報告し、カカロットの顔を一目見てすぐに侵略に飛び立った。結果は惨敗。いくら一人前の戦士になったとはいえ、試験の傷も癒さずに出発し、しかも気が大きくなっていた俺は自分のレベルを遥かに超えた星を攻めた。たまたまその星の怪獣のような化け物共を相手に、トレーニングと称した暇つぶしをしていたベジータとその側近ナッパに助けられて一命をとりとめたんだ。

 

 そのすぐ後、俺は惑星ベジータが巨大隕石の衝突で滅んだという事実をベジータ達から聞かされた。親父も、ベジータの親父であるベジータ王も、カカロットも、サイヤ人が今まで築き上げてきたものがなくなったと聞いて、俺は頭が真っ白になった。まあ、カカロットは後に咲夜から辺境の惑星に飛ばしたので無事という話を聞いたが。

 

 そうしてフリーザ軍に戻った俺は、ベジータが組織した生き残ったサイヤ人だけの遊撃部隊に属することになった。ただそれは形だけで、まだ戦闘力が完成していなかった俺は戦力外の補欠扱いだった。基本ベジータとナッパだけが仕事をこなし、俺は再び咲夜の下で自分を鍛える日々だった。「弱虫ラディッツ」というあだ名はこの頃からベジータ達が呼び始めた蔑称だった気がする。

 

「……誇りか。」

 

 ラディッツは自分の左手を見つめ、握る。果たして自分は、サイヤ人として誇りある人生を送ってきただろうか。あの頃父の背中から感じたものと同じものを、自分は背負ってこれただろうか。制圧した星の数、撃墜した敵のスコアは決して悪くない。むしろ下級戦士として上出来だと自分でも思う。

 

 だけど、何か足らない気がする。あの時見た父に自分を重ねるには何かが足りない、満たされない。一体何だというのだ。親父にあって、俺にないもの。

 

 そこまで考えたラディッツの脳裏に、ある星を咲夜と共に攻めた日のことがよみがえった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ! くっ!」

 

「頑張ってくださいラディッツ。あと50回です。」

 

 惑星ベジータが滅んで早5年、未だベジータ達に戦力として見てもらえないラディッツはトレーニングルームで今日も咲夜と訓練をしていた。今日の訓練は両手足に重りを付けての筋トレという初歩的なもの。とはいえ、これは咲夜がラディッツの適性や成長速度、健康状態などを観察して組んだトレーニングメニューなので、ラディッツが自己流でやるものより遥かに効率がいい。この5年で徐々にではあるが、ラディッツは着実に戦闘力を伸ばしていた。

 

 20分程経つとラディッツは重り付き腕立て伏せ100回を終え、両手足の重りをごとりと外す。ラディッツは今年で12歳になったが、見た目は5年前とほとんど変わっていない。ある程度の年齢までは子供の姿で油断させるというサイヤ人の特性のためだ。筋トレを終えたラディッツは大の字に寝転び、ゼーゼーと息を荒くする。

 

「今日の訓練はここまでです。」

 

「ゼェ…まだだ…ハァ…さくや……おれはまだやれる…ぞ…」

 

「ダメです。訓練はただ自分を追い込めばいいというものではありません。休息もしっかり取らなければ成長を阻害してしまいます。」

 

 そう言って咲夜はラディッツが回復するのを待った。ここ最近のラディッツは焦っている。それは咲夜も感じ取っていた。憧れの父の背中に追いつきたいのに一向に伸びない自身の力。そのギャップに悩んでいるのだ。辺境の星から惑星ベジータに帰還した時の戦闘力が310、この5年で必死に訓練した結果532。客観的に見れば充分に成長していると言える。だがラディッツはバーダックの息子として、生き残りのサイヤ人仲間であるベジータ達に相手にもされない今の状況が我慢ならないらしく、必要以上に自分を痛めつけようとする。

 

「…ラディッツ、何度も言うように貴方は大器晩成型なんです。ベジータ王子のように早熟ではなく、じっくり時間をかけて成長していくタイプなんです。今はもどかしいかもしれませんが、そんなに焦らなくてもいいんですよ。」

 

「…………」

 

 咲夜のアドバイスにラディッツは答えない。そう言われても自分では実感がわかないのだろう。無言で立ち上がり、壁にかけてあったタオルで汗を拭いて水筒の水を飲むとそれらを咲夜へ投げ渡した。咲夜はそれを受け取ると小さな手提げ型のカゴに入れる。さながら部活のマネージャーのようだ。

 

「では行きましょうかラディッツ。そろそろ昼食の時間です。」

 

「…………ふんっ。」

 

 トレーニングルームを後にした二人はタオルと水筒を一旦咲夜の部屋に置き、食堂へ向かう。そこに間が悪いことに任務終わりのベジータとナッパが前から歩いてきた。二人の姿を見たラディッツは気まずそうに顔を反らす。

 

「くくくっ、ごくろうなことだなラディッツ。きょうもさくやさんといっしょにとっくんか?」

 

「まったく情けない奴だぜ! サイヤ人がツフル人に戦いを教わるなんてよ!」

 

「っ!」

 

 ベジータとナッパの言葉にラディッツは悔しそうに唇をかむ。彼らからしてみれば5年も訓練して未だに戦闘力が完成しないのはありえないことらしい。ベジータはともかくとして、戦闘力で優劣が決まるサイヤ人の価値観に染まりきったナッパはガハハッと遠慮なしにラディッツをいびる。

 

 この辺りの価値観も、ベジータ王の世代が残した負の遺産なのだろうなと、咲夜はこの光景を見て感じた。種族が繁栄していくためにはベジータやラディッツのような次の世代が成長する必要があり、そのためには彼らが育ちやすい環境を作らなくてはならない。

 だが現状はどうだ。生まれた時の数値でランク付けをしてしまったがために、子供達が自分の限界を決めてしまっている。たまたま数値が高かった者が低かった者を笑い、それが双方の成長性をなくしてしまっている。結果出来上がったのはナッパのように、信念もなくただ暴れるだけの戦士が牛耳る社会。さらには驕りも激しく、ベジータ王のように力量差も分からず反乱を起こす。これではフリーザ様もサル野郎と嫌うわけだ。咲夜はため息をつく。

 

 そんなこと知ったことかとベジータとナッパは去っていった。ナッパの高笑いが廊下に響く。咲夜がラディッツの頭をくしゃりと撫でるとラディッツは廊下の壁をドンッと殴った。余程悔しいのか目尻に涙が溜まっている。

 

 咲夜が見るにラディッツの潜在能力は決して低くない。悟空と同じくバーダックの息子なのだ。むしろ高い方である。その高い素質を遺憾なく伸ばすことができるように、この5年間は下地を整える訓練をしてきた。一見地味に見えた筋トレなどの基礎訓練もすべてはそのためである。後は実戦に繰り出し、きっかけがあればラディッツの戦闘力は開花する。

 

ピピピ……

 

 その時、咲夜のイヤリング型通信機が鳴った。出てみるとザーボンからの連絡だった。

 

『咲夜、今空いているか?』

 

「ザーボン様、どうかされましたか?」

 

『少し話したいことがある。至急会議室まで来てくれ。』

 

「了解しました。ラディッツ、私は会議室に行ってきます。先に食堂に行っていてください。」

 

「………ああ、わかった。」

 

 咲夜はラディッツと別れ、会議室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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