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「「「とっくせんたいっ♪ とっくせんたいっ♪」」」
惑星フリーザのフリーザ様の城下町、そこにある大きめの居酒屋にて私達は騒いでいた。バータ達がマイクを持って気分よさげに歌い、私達女子組が手拍子でそれを盛り上げる。
「きゃ~! 皆さんお上手ですっ!」
「ふふん、当然だ。」
「ささ、お酒をどうぞ。」
歌が終わると女の子たちはすかさず彼らの杯に酒を注いだ。まさに合コンと言った雰囲気だ。女の子達は皆それぞれ狙っている特戦隊メンバーに寄り添って楽しんでいる。
「えへへ~♪」
「ちょっとレナ、少し離れてください。すみませんギニュー隊長。」
「いや、構わんさ。」
もちろんここは私もギニュー隊長にお酌をせねばならないのだが、赤い長髪の少女レナに引っ付かれてそれが上手くできなかった。寛大なギニュー隊長はそんな私の非礼を気にせずに自分の酒を豪快に飲んだ。
「ザーボンやドドリアから聞いたぞ。お前、相変わらず安定して軍トップクラスの成績をおさめているそうじゃないか。それはその子のおかげでもあるのだろう? なら今日くらい羽目を外しても構うまい。」
「それはそうですが………。」
このレナという少女は、赤い髪に白いシャツに黒のベストを着ていて、東方キャラの一人、紅魔館の大図書館の司書を務める「小悪魔」にそっくりだ。その見た目にそぐわず彼女は情報や事務作業などの仕事にめっぽう強かった。そんな彼女のサポートもあって私は他星への侵略はもちろん、配下の様々な星々から色々な取引を結ぶことに成功し、フリーザ軍がより強い組織になるために貢献できている。
「ふへへ~……♪ 咲夜さん………♪」
私は自分の腕に寄りかかり、いつの間にか寝てしまったレナの頭を撫でた。確かにギニュー隊長の言う通り、この子にもたまにはこんな日があってもいいかもしれない。すっかり和んだ空気でのんびりしていると、私は先日ギニュー隊長が通信機で言っていたことを思い出した。
「そういえば隊長、フリーザ様の招集命令の日にちっていつなんです?」
「明日だ。」
「…………え? お酒飲んでいいんですか? 私は体内のアルコールを速やかに分解できますが。」
「まあ本来は決して許されることではないが、我々とて二年ぶりの休息だ。寛大なフリーザ様ならば許して下さるだろう。」
「………そういえば一か月前、隊長たちが任務の帰り道にケーキバイキングに立ち寄って帰還が遅れた件、フリーザ様は大変お怒りでしたが…、大丈夫なんですね?」
「…………お前達ぃ!! 明日のことを忘れたかぁ!! フリーザ様に不快な思いをさせるわけにはいかん! 酒は程々にするんだぁ!!」
どうやら大丈夫ではないらしい。ギニュー隊長は慌てて隊員達からお酒を取り上げてぶーぶーと文句を言われていた。
▽
「…ギニュー特戦隊の皆さん、何ですかその有様は?」
そして合コンの次の日、私、ザーボン、ドドリア、そしてギニュー特戦隊の面々がフリーザ様の王室に整列していた。だが、あれから隊員達の押しに負け、結局朝まで飲み続けてしまったギニュー特戦隊は二日酔いでフラフラだった。その光景を見たフリーザ様の口元がピクピクと震える。心なしか、額に赤い怒りマークが浮かんでいるようにも見える。
「も、申し訳ありませんフリーザ様ぁ! このギニュー、やはり心を鬼にしてでも部下達を止めるべきでした!!」
そのフリーザ様の姿にギニュー隊長は床にひびを入れる程勢いよく土下座した。その床を直すのは私なんだからあまり無茶はしないでほしい。
「た、隊長……! すみません、俺達が調子に乗ったばっかりに…」
「うぅ~、隊長~。」
「いや! あろうことかフリーザ様にこのような醜態を晒してしまったのは間違いなく隊長である俺の責任! お前達、ここはせめてもの贖いとして俺達の最高のダンスを披露するのだ!!」
「「「おお~っ!!」」」
感極まった隊員達が泣きながらギニュー隊長と共に踊り始める。その姿にザーボンやドドリアは呆れてため息をつくが、私は自業自得とはいえ体調不良の中いつも以上のキレと結束力を見せるそのダンスに感動していた。
「ったく、こいつらはいつまで経っても……」
「ダンス…私にはただの千鳥足にしか見えんのだが……」
「素晴らしいですよ皆さん! 以前見た時よりレベルが格段に上がっています。」
「………咲夜、前から思っていたがお前のセンスはおかしいぜ。」
「………はぁ~、もういいです。何だか怒るのもバカバカしくなってしまいました。今回のことは不問にしてあげますから楽になさい!」
「「「はっ!!」」」
フリーザ様の一声でギニュー特戦隊は再びビシッと整列した。それを確認したフリーザ様はそれまでの空気を払拭するように「オホンッ!」と咳払いをした。
「では、全員揃った所で本題に入りましょうか。まずは、この音声を聞いてください。」
フリーザ様がスカウターのボタンを押すと、ここにいる全員の通信機に音声が流れ始めた。激しい轟音と爆発音が繰り返される。どうやらどこかの星で行われた戦闘の記録のようだ。
「フリーザ様、これは?」
「地球という辺境の惑星での戦闘記録です。咲夜さん、あなたの部下のレナさんの諜報チームが提出してくれたものですよ。」
「そうでしたか。」
「特別ボーナスを出すと伝えておいてください。」
「ありがとうございます。彼女も喜びます。」
フリーザ様の心遣いに私は深く礼をした。
「してフリーザ様、この記録が何だというのです?」
「重要なのは戦闘そのものではありません。皆さん、この音声を現時点から五分程飛ばしてください。」
ギニュー隊長の疑問にフリーザ様が答えた。私達はその指示通りに音声記録を飛ばす。すると過程が飛ばされ、勝負は決着の時だった。
『バカな……この俺が……こんな奴らに……』
「…………っ!」
そして聞こえてきた敗北したであろう者の声に、私は顔を伏せ、皆に分からないように表情をゆがめた。
そうか、ついにこの時が来たのか。
私はそんな気持ちでいっぱいだった。この記録は私の親友の息子であり、子供の頃から面倒を見てきたラディッツの死の知らせでもある。分かっていたことだけど、いざその瞬間になるとやっぱり悲しかった。
「この声は…ラディッツですか?」
「ええ、そうですザーボンさん。どうやらラディッツは、"カカロット"と呼ばれる生き残りのサイヤ人を仲間に引き入れようと地球を訪れ、その際、予想外の力を持つ原住民とそのカカロットに敗れたようなのです。」
ザーボンの確認にフリーザ様が頷く。しかし、皆はその戦闘自体に興味は無いようだった。なぜならフリーザ様が辺境で行われた戦闘に興味を示すはずがないと分かっているからだ。本質は別にある。それはここにいる全員が理解していた。
「では皆さん、この男の話をよく聞いてください」
『この星にはドラゴンボールという便利なものがある。そいつに願えばどんな望みも叶っちまうのさ。死人を生き返らせることだってな。』
通信機からは聞き馴染みのない声が聞こえてきた。私だけがその声の主がピッコロであることが分かった。悟空のライバルの一人、大昔に地球に逃れたナメック星人だ。
「ドラゴンボール…噂の願い玉のことですかい?」
通信の声を聞いたドドリアがフリーザ様に確認をとる。それにフリーザ様が頷いた。
「フリーザ様、もしや今回我らを召集したのは…」
「ええ、このドラゴンボールとやらについてです。もしこれが本当なら、私の長年の夢を叶えることができます。」
フリーザ様は興奮を抑えるようにギュッと拳を握る。
「しかしフリーザ様、願い玉は単なるお伽噺。正直、この音声データだけでは信憑性は……。」
ギニュー隊長の進言にフリーザ様は「ええ、もちろん」と頷きながら手を後ろに組む。
「そこは私もギニューさんと同じ意見です。軍を編成し、ドラゴンボールを奪いにいくにしても、実例を確認しておきたいものです。無駄足は御免ですからね。」
「そこで。」と、フリーザ様は私達に向き直す。
「レナさんがこの記録を詳しく解析してくれました。どうやらこの戦いで、ラディッツの他にカカロットも戦死したようです。この者は仲間からかなり信頼されているようで、近い内にドラゴンボールで蘇らせるつもりのようです。また、ドラゴンボールを求めてかベジータ達が地球に向かっています。」
「なるほど…では。」
「そうです、咲夜さん。しばらく地球の様子を見ます。もしドラゴンボールの効力が本物だと判断された場合、地球、もしくは願い玉の噂があるナメック星に向かいますよ。咲夜さん、地球の様子を観察できるように手配してくれませんか? 次は音声だけでなく、もっと詳細な情報が欲しいですからね。」
「畏まりました。」
「進展があったらまた連絡します。それまで通常業務に専念してください。」
「「「はっ!」」」
確実に物語の、時代の流れが迫っている。私は何となく肌でそう感じた。