瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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Z・ナメック星編・1

 

 

 

 

 

 

 

 

「フリーザ様、只今シャープ星より帰って参りました。少し手間取りましたが、3日間で奴等を降伏させました。」

 

時の流れとは早いもので、フリーザ様が惑星ベジータを滅ぼしてからもう約20年の月日が流れた。あの事件で元々少数民族だったサイヤ人はほとんど宇宙のチリと消えて残ったのはフリーザ様が意図的に残したベジータとその側近のナッパ、後はたまたま他の惑星を攻めていたので助かったラディッツだけということになっている。悟空が地球に向かい難を逃れたことは私しか知らない。

 

生き残った三人のサイヤ人には惑星ベジータは巨大隕石が衝突して滅んだと嘘をついた。聡明なベジータは自分達がいない間に巨大隕石が衝突、ベジータ王らがそれに対し何の対策もしなかったことに違和感を感じていた様だが、フリーザ様がサイヤ人を滅ぼす理由が思い浮かばなかったらしく深くは考えなかった。

 

さて、今その三人はすっかり大人に成長したベジータを筆頭に、フリーザ様の面前で跪いている。彼らは今、シャープ星という星の反乱を静めて帰って来た所だ。シャープ星はツフル人程ではないものの、そこそこ高い科学力を持つ星なのでサイヤ人が三人いても少し苦戦したようだ。少し力を入れすぎて大地を大きく削ってしまったらしいがまあ、許容範囲だ。

 

「……そうですか。あんな星に3日もね……。」

 

ベジータの報告にマシンに乗り、私が注ぐワインを飲むフリーザ様は目をそっと閉じてそう呟く。小さな声なのでその呟きは隣りにいる私にしか聞こえない。

 

片やフリーザ様の呟きが聞こえなかったナッパやラディッツなどは期待を隠しきれない顔でこちらを見ている。今回の仕事で何か褒美を賜えると思っているようだ。

 

「……なるほど、分かりました。下がってよろしいですよ。」

 

「なっ!?おいっ!ちょっと待てよ!!」

 

しかし、目を開けたフリーザ様の口から出たのは下がってよろしいという言葉のみ。褒美が何もないと分かったナッパがバッと立ち上がって抗議する。ナッパが立ち上がると同時にザーボンとドドリアがフリーザ様の前に立つ。

 

「俺達は体ボロボロにして帰って来たんだぞ!!それを……!!」

 

「……フン、ザーボンさん、あの星を征服するのに何日かかりますか?」

 

「はい、1日あれば充分かと。」

 

「そうでしょうね、あんなちっぽけな星程度…。ほほほほほ。」

 

激昂するナッパを尻目にフリーザ様はザーボンへ征服に必要な日数を尋ねる。ザーボンは笑いながら1日あれば充分と宣言した。その言葉にナッパは何も言えなくなってしまう。

 

だが実際ベジータ達の働きは本来は充分褒美に値するものである。シャープ星クラスの星をたった三人で、たった三日で征服したとなれば、他の兵士なら星レベルの褒美が与えられる程の活躍だ。そう、"他の兵士"ならば。

 

ではなぜベジータ達は褒美を与えられないのか。それはベジータ王がフリーザ軍にサイヤ人を登録する際、その能力を誇張表現し過ぎたことに原因がある。

 

様々な種族が戦闘員として働くフリーザ軍では、活躍の基準線なるものが種族ごとに決められている。戦闘向きの種族は高く、そうじゃない種族は低くといった具合にだ。そうしないとどうしても戦闘向きの種族のみが活躍してしまうからだ。

 

ではその基準線はどうやって決めるのか。それはフリーザ軍に登録する際にその種族のリーダーに書かせるアンケートを元に決められる。そのアンケートは種族の能力がどれくらいあるのかを調査するためのものだ。

 

そのアンケートをベジータ王はサイヤ人の力を知らしめるためか知らないが、かなりオーバーに記入したのだ。そのせいでサイヤ人が褒美を得るには死ぬ気で頑張らないといけなくなってしまった。ちなみに基準線は一度決めたら変更できない規則なのでベジータが変えようと思っても変えられない。

 

ちなみにナッパはベジータ王が誇張表現することを賛成していたエリート戦士の一人らしい。だから今目の前で拳を握りしめ、ぞんざいな扱いを受けていると怒りに燃える彼だが、実は自業自得だったりする。怒りたいのはとばっちりを受けているベジータとラディッツだろう。

 

「こっ……!!この野郎っ!!!」

 

何も言い返せなくなったナッパがフリーザ様目掛けて拳を振り上げ走り込んで来た。私は時を止めてワインボトルをワゴンの上に置き、ナッパの前に出る。

 

「やめろナッパっ!!!」

 

「っ!!」

 

「……………」

 

ベジータがナッパにそう叫ぶのと、私がナッパの顔の前に右手を広げるのはほぼ同時だった。ベジータの制止が後少し遅ければナッパは間違いなく私の攻撃を受けていただろう。

 

「……フリーザ様、失礼致します。」

 

「ほほほ、ええ、次の働きも期待していますよベジータ。」

 

「ベジータ王子、食堂に食事を用意しています。お口汚しですがよろしければどうぞ。」

 

「そうか、行くぞナッパ、ラディッツ。」

 

「……ちっ、ああ。」

 

「あいよ。」

 

ベジータはナッパとラディッツを連れ、食堂に向かって歩いていった。出会った当初はただのワガママお坊ちゃんだったベジータがしっかり二人をまとめているのを見ると成長したんだなぁと少し感動してしまう。

 

「フッ、やはりベジータの奴を残したのは正解だったようですね。」

 

「ほっほっほ、そうですね。二匹余計な猿が生き残ってしまいましたがその猿達も上手くまとめているようです。」

 

フリーザ様はそう言って不敵に笑う。実際ベジータはナッパとラディッツの二人をとても上手くまとめている。ベジータが二人に的確な指示をしているおかげでチームとしては非常によくできている。が、しかし、ベジータ達三人にはあまりにも力の差がありすぎる。ベジータの戦闘力は18000、それに対してナッパは4000程度、ラディッツに至っては1500しかない。あまりにも差があるため、ベジータは自分の力を充分に発揮できていない。ナッパとラディッツの力に見合った星を攻めなければいけないからだ。そのためベジータの力はある時からまったく進歩しなくなっていた。なまじ天才と称される才能がある分、フラストレーションが溜まるだろう。

 

にもかかわらずベジータは二人をしっかりまとめている。そこは本当に脱帽する所だ。プライドばかりに目がいったダメ親父とは大違いである。

 

「さて、咲夜さん、ザーボンさん、ドドリアさん、行きましょう。今日中に片付けなければいけない書類が溜まってますからね。」

 

「「「はっ!」」」

 

私達はフリーザ様に付き従って部屋を出る。宇宙を支配するフリーザ軍の仕事は実に多忙なのだ。

 

 

 

 

 


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