瀟洒な召し使い   作:グランド・オブ・ミル

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原作前、無印編・19

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォ……ドスゥン!

 

私は惑星べジータの飛行場の丸型宇宙船の着地ポイントに着陸した丸型宇宙船から出る。惑星フリーザではフリーザ様専用召し使いである私をたくさんの兵士がお出迎えしてくれるが、ここはサイヤ人の星惑星べジータ、お出迎えなどしてくれるわけがない。私としてはこの方が落ち着くので特に気にしない。私はスタスタと育児スペースの方へ向かう。

 

数分程すれ違うサイヤ人達に睨まれながら歩くとカプセルに入ったたくさんの赤ん坊のサイヤ人がいる育児スペースへと到着した。

 

「これはこれは咲夜様。」

 

「敬礼は結構ですよ。作業を続けて下さい。」

 

自動ドアを開けて中に入ると、赤ん坊サイヤ人をカプセルの中のメディカルマシーンの液体に浸け、そのカプセルの前のパネルをピコピコいじっていた老人の鳥型宇宙人が立ち上がって私に礼をした。老人は赤ん坊サイヤ人の潜在能力を調べているようだった。

 

「今年のサイヤ人は中々優秀ですよ。高い数値の者が非常に多い。」

 

「そうですか。」

 

私は老人と話ながら机の上に並べられた測定結果を流し見る。105、201、234、……と赤ん坊にしては高い数値が並び、誰もが将来はエリート戦士として活躍するであろう赤ん坊ばかりだ。サイヤ人が惑星べジータと共に滅ぶというのにこれ程将来有望な戦士が生まれるとは…何とも皮肉なことである。

 

「あ!おい!さくや!!」

 

私がサイヤ人の運命に苦笑していると、自動ドアがウィーンと開いて元気な声が聞こえてきた。振り向くと全身傷だらけで顔をボコボコに腫らしたラディッツが手を振っていた。

 

「ラディッツ!咲夜様に無礼であるぞ!!」

 

「構いませんよ。」

 

「さくや!きてくれ!おれのおとうとがうまれたんだ!!」

 

そう言ってラディッツは私の腕をぐいぐいと引っ張る。それより私は君のその傷を問いただしたいのだが。聞いてみると「やっとせんししょうにんしけんにごうかくしたんだ!」らしい。ラディッツは今日から一人前の戦士ということだ。

 

ラディッツに連れられ、私はとあるカプセルの前にやって来た。そこには寝癖のような特徴的な髪型をした一人のサイヤ人がすぅすぅと寝ていた。カプセルのプレートにはサイヤ人の言語で『カカロット』と刻まれている。間違いない。ドラゴンボールの主人公"孫悟空"だ。

 

「あぁ、その者は今年のサイヤ人の中で最も潜在能力が低くてですな。まあ、間違いなく下級戦士、どこか辺境の星へ送る予定です。」

 

老人は私に他のサイヤ人の結果を報告する時とは一転し、まるでゴミを捨てるかのようなもの言いでそう言った。赤ん坊とは敏感なもので老人の嫌みを感じ取ったのか、そのタイミングで悟空はびえぇぇぇんと泣き出してしまった。

 

「うっ!!こいつなきごえうるせぇんだよな!じゃあな!さくや!!おれ、さっそくしんりゃくにいってくる!!」

 

ラディッツは耳を塞ぎ、そう言って足早に育児スペースを後にした。私はそんなラディッツに「まず傷を治しなさい」と声をかけておいた。私はカプセルの開閉スイッチをポチッと押し、悟空を抱っこしてよしよしと揺らす。しばらくそうしていると悟空は泣き止み、きゃっきゃっと笑いながら私の顔へ手を伸ばした。私はその無邪気さに何だか胸が熱くなり、そっと悟空の額に唇を落とした。

 

「この子の打ち上げはいつですか?」

 

「ここにいるサイヤ人は全員3日後に打ち上げ予定です。」

 

「予定を変えさせてください。この子は今日打ち上げます。」

 

「はぁ、しかし、カカロットに見合う星はまだ……」

 

「私に候補があります。許可を頂けますか?」

 

「それでしたらどうぞ。」

 

私は老人に礼をして悟空を抱いたまま育児スペースから出た。これであの老人と会うこともない。あの老人には惑星べジータの破壊を伝えてないからだ。フリーザ様曰く、増えすぎた兵士を減らすいわゆるリストラらしい。

 

「おや、咲夜。」

 

私が育児スペースを出ると声をかけられた。見ると、そこにはセリパ、トーマ、トテッポ、パンブーキンの四人がいた。

 

「皆さん、カナッサ星での任務お疲れ様でした。連勤ですか?」

 

「ああ、今度は惑星ミートさ。今度も大した星じゃないそうだから1、2日もありゃ終わる。」

 

「バーダックは一体?」

 

「あいつはカナッサ星で不意打ちを喰らっちまってな。今治療中さ。」

 

「そうですか…。」

 

私は彼らと話ながら、これが彼らとの最後の会話になることに悲しみを抱き、顔を伏せた。胸元では悟空が心配そうな眼差しで私を見上げている。私は悟空の頭をそっと撫でて、意を決して顔を上げた。

 

「皆さん、いつもありがとうございます。」

 

「な、何だ?」

 

「どうしたんだい咲夜?いきなり。」

 

「ふふっ、いえ、言ってみたかっただけです。」

 

私が笑うとセリパが「変な咲夜」と言い、それにつられて皆で笑った。そしてしばらく談笑し、セリパ達は惑星ミートへと飛び去って行った。きっとセリパ達は気づいてないんだろうな。私があのタイミングでありがとうと言った意味。私はセリパ達がいたから、今日この日まで戦うことができた。暗いフリーザ軍の中で、セリパ達という仲間がいたから今日まで踏ん張ることができたんだ。セリパ達がいなかったら……私は今腕の中にいる悟空をこうやって優しく抱き締めることだってできなかった。

 

でも……ごめんなさい。私は……私が生きるために、あなた達を見殺しにしなければならない。あなた達に救われるだけ救われて、何も返せずに恩を仇で返してしまう。ごめんなさい…そして…ありがとう。

 

「?あぅ~」

 

「…ありがとう、悟空。」

 

「きゃっきゃっ!」

 

私の頬を伝う一滴だけの涙を悟空が優しく拭ってくれた。私がお礼を言うと悟空はまたも嬉しそうに笑った。

私は悟空を自分の乗ってきた丸型宇宙船に乗せた。普通下級戦士の赤ん坊の派遣にはボロボロの凡用丸型宇宙船が使われるが、それだと安全性が極めて低い。最悪星に着く前に宇宙船が大破して赤ん坊が死亡するケースもある。それに比べて私の宇宙船は丸型ではあるものの安全性、速度、安定性、強度まで精密に計算され造られた最新式である。まず安全に地球まで辿り着けるはずだ。悟空を乗せた後、私はピッピッと行き先を設定する。

 

行き先:太陽系第3惑星"地球"

 

座標:4032・緑・877惑星

 

設定完了、と。

私は設定を終え、ドアの開閉スイッチを押すとプシューと音をたててドアが閉まった。窓から中を覗くと悟空は笑い疲れたのかすでにくぅくぅと寝息を立てていた。そして数秒後、将来重い運命を背負うドラゴンボールの主人公は地球へ向けて飛び去っていった。私は宇宙船が飛び去った後もしばらく空に向かって手を振り続けていた。

 

 

 


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