夢の中では毒が抜けてしまうそうな。
「起きなさい、ねぇ、起きて」
「・・・んんぅ」
「・・・ねぇ、早く起きなさい。遅刻しちゃうわよ?」
「・・・あと5分」
「ねぇ、お願いよ・・・早くあなたの顔が見たいの・・・、起きて・・・?」
「・・・ん?冬夏・・・?」
「そうよ・・・あなたの、冬夏よ・・・。ねぇ、起きて?いつもみたいに、抱きしめて?」
「いやいや、抱き締めさせてくれたこと1、2回しかないんですけど・・・いや、ていうか、え?どうしたの?」
「あぁ、こっち見てくれたぁ・・・!おはよう、あなた。今日も愛してるわ・・・!」
冬夏が抱きついてきた。・・・いや、え?本当に冬夏さんですか?
「い、いやいや、え、なに?ドッキリ?寝起きドッキリなの?」
「おはよう、あなた。今日もいい天気よ・・・!ああ、朝からこんなにたくさん、あなたの匂いがして・・・幸せぇ・・・!」
「いや、誰?マジで誰?怖いんだけど、なにこれ?夢か、そうか夢だな!冬夏がこんなに可愛くなっちゃうわけないもんな!あはははは!あれ!?ほっぺ抓ったら痛い!」
「・・・むー、あなた、私の言うこと、聞いてないでしょ。ふん、もういいもん。拗ねてやるんだから・・・」
むぎゅーっとお腹に顔を埋めてくる冬夏。いや、嬉しいんだけどね?なんか見返りを求められそうで怖いんだけど?とんでもないしっぺ返しがきそうなんだけど?
「むぅ~、私が抱きしめてるんだから、あなたも抱きしめ返すのが普通でしょー!この愚図~!」
ち、違うッ!なんか違うッ!冬夏の毒舌はもっとこう、氷柱で頭をぶん殴るみたいなかんじなんだ!こんな、砂糖水をぶっかけられるみたいな、なんか、こう、違うんだッ!
「あっ、えへへ・・・あなたの体温を、感じるわ・・・ねぇ、お願い、頭も撫でてぇ・・・?」
「あ、はいはい撫でればいいのね」
「んぅ~~!好きぃ、大好きよ・・・!」
「と、冬夏。どうしたんだ、体調、悪い?なんか変なものとか食べちゃったか?」
「・・・もう、あなたは、いつもそうなんだから」
「い、いつもそう・・・?なにが?」
「いつもいつも、私の心配ばっかり!すこしは自分のこと、考えなさいよね!あなたが無防備だから、ほかの子に奪われちゃったらって、私、心配で・・・心配でぇ・・・!」
こんどは泣きだした・・・!?
「は、はいはい、冬夏。俺ちゃんと、冬夏のこと大好きだから、大丈夫・・・だよ?」
「・・・ほんと?・・・それなら、もっと、強く・・・抱きしめて?」
ッ!?やばい!上目遣いで、なんか体温高いし顔赤いしエロいし可愛いし、破壊力がッ!
「・・・って、おい、冬夏。お前熱ない?」
「ねつぅ?ないわよ~」
「・・・ちょっと失礼」
ぺた、と額に触れてみる。うーん、熱い!
それから10時間後。俺は冬夏を家まで送って寝かしつけてから、学校に行って、また冬夏の部屋に戻ってきた。
「冬夏、入るぞー」
「・・・」
寝てた。熱が気になるところだ。起こさないようにそっと近づいて、ほっぺたに手をつけてみた。
「・・・熱は、ちょっとは引いたのかな・・・?」
「・・・」
・・・あれ?なんかほっぺが赤くなってる?
「・・・冬夏、起きてる?」
「・・・すー、すー・・・」
「いや、取ってつけたような寝息すんなよ、絶対起きてんだろ」
「・・・すー、すー・・・」
ほ~う。あくまでシラを切るつもりか。いいだろう。
「さーて、冬夏のパンツ2枚くらい貰ってくか。たしかここの箪笥だったような・・・」
「やめなさい変態。通報するわよ」
あ、起きてた。
「なんだよ、やっぱ起きてるじゃねぇか」
「今起きたのよ。下着泥棒の気配を感じたわ。まったく、眠ってる女性の部屋に勝手に入るなんて、とんだ犯罪者ね。通報されてもおかしくない立場だと自覚しなさい、この変態」
そうそう、こんな感じ!小石を詰めた雪玉を急所に投げ込んでくる感じ!
「そんだけ毒吐けるなら、多少は良くなったんだな」
「・・・まぁ、多少は楽になったわ。ありがとう。でもそれとあなた・・・いえ、変態が下着を盗もうとした罪は関係ないわよ。しっかりと償ってもらうから」
・・・コイツ、これみよがしにぶち込んできやがるな・・・今日は俺が上だということを知らしめてやる・・・
「・・・『ねぇ、お願いよ・・・早くあなたの顔見せて・・・?』」
「ッ!?」
ビクッと冬夏の体が跳ねた。顔が赤みを増していく。
「『あなたも抱きしめ返してぇ~』とか言ってたの、誰だっけなぁ・・・?」
「・・・くっ」
「『他の子に奪われちゃったらって思うと・・・』とかご心配なさっていたのは、どこの冬夏さんだったけなぁ~!?」
「・・・・・・」
「頬赤らめて抱きついてきて可愛い~く甘えてきた冬夏ちゃんは素直で可愛かったのにな~、面倒見てあげた恩人に、こんなに毒吐くような悪い子じゃなかったのになぁ~!!」
あー!楽しい!ふふふ、冬夏のやつ黙りこくってやがる!完全に勝った!17年間で初勝利を飾ってやったぜ!
「・・・・・・う」
「はーっはっは!え?なんだって冬夏ちゃーん!?おっきい声でお願いします!」
「・・・・・・ぃじゃない・・・」
「はーっ・・・は、は・・・え?」
冬夏の顔を覗きこむと、まさかのガチ泣きだった。
「頭も体もふわふわしてたから、夢だと思ってたのよぉ!悪い!?私が素直に甘えたら、気持ち悪いとかどうせ思ってるんでしょ!このバカ!ばかばかばか、愚図!死んじゃえ!」
「ちょ、痛い痛い!」
冬夏がついにキレた!?初めて見るぞこんなになってるコイツ!?
「わ、わかったから、ごめんな冬夏!気持ち悪いとか思うわけないだろ!めちゃくちゃ可愛かったから!」
「うそうそうそ!あんな私・・・あ、ありえないの!忘れなさい!今すぐ!お願い忘れてぇ!」
「わ、わかったから、1回落ち着けって・・・!」
むぎゅーっと強く抱きしめる、抱きしめるというか拘束する。
「からかってわるかったって・・・でも、本当に可愛かったぞ?まぁ、ちょっと落ち着かねぇのは確かだけど・・・偶にはお前がしたいこと、全部言ってくれる方が俺は嬉しいから」
「・・・もう二度とあんなこと、しないわよ。・・・顔みたくないから、もっと強く抱きしめなさい、この愚図・・・」
絶賛今してるところの冬夏さんだった。意外と冬夏が打たれ弱いことが発覚した1日だった。
休日なので甘さマシマシでお送りしました。