虚物語   作:きりっぴ

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弐話

 

 

 

003

 

 

 

 

 休日のこの時間なのに人が少ない車両に揺られ続けてそろそろ小一時間ほどになるのだろうか。そろそろ目的の冬木市につきそうだ。

 あの後、野郎一人でプールに行くというのは忍びなかったので僕の持てる人脈というものを総動員して誰かを誘ってみたのだが結局一人も誘えなかった僕は後日、ミスタードーナツに連れていくというそれ相応の対価を約束して一人の幼女とプールに行く権利を得たのだった。

 

 ところで話は変わるがどうやら羽川に聞いたところ(藁をもつかむ思いで羽川や戦場ヶ原にも声をかけたのだがどうしても抜けられない用事というものがあるらしく断られてしまった)わくわくざぶーんのある冬木市というものはどうやら海に面している街らしい。僕は生まれてからこの方、一度も海というものを見たことがなかったのでプールに行く前に見に行くというものもいいだろう。お昼も近いことだしそのままご飯を海岸の食事処で食べてもよさそうだ。お昼頃からプールに行こうと思っていたのだがプールは別に午後から行っても大丈夫だろうし。この季節なら混んでいるということもなさそうだから少し到着が遅れても十分泳げると思うわけで、そこまで急ぐ目的でもないしそうと決まればまだ見ぬ海というものを見にいこう。

 

 「忍。プールへ行く前に少し海に行ってみたいんだが、いいか?」

 

 一応、確認しておこうと思って確認を求めてみたのだがどうだろう。もともと忍は海外から来た吸血鬼なのだし海というものは当然見たことがあるだろう。ひょっとすると海を見慣れているのかもしれない。

 

 「なんじゃお前さまよ。さっき言っておった泳ぎに行くというのはまさか海のことじゃったのか?」

 「いや、そういうのじゃないよ。ただ僕は海を見たことがないからいい機会だと思ってさ。それにそもそもこの季節に海を泳ぐ馬鹿はそうそういない」

 

 その馬鹿を悲観することに数人程知っている僕だったが。

 

 「なんじゃ、何か含みのある言い方じゃったが。まあいい、お前様は海を見たことがないと申すのか。呵々、道理で背が小さいままなのだろうよ」

 

 「僕の身長の低さは海を見たことがなかったからだったのか!?」

 

 ここで重大な真実が。なるほど、これはますます海へ行かなければいけないだろう。

 

 「もちろん嘘にきまっておろう、お前様の背が低いのは海を見たことがないからなんて理由のはずがないわ。それにその背の低さは生まれつきのものでこれからも一生その身長のままで生きていくんじゃ」

 「ですよねー」

 わかりきっていたことだがそんなことで僕の背の低さが変わるわけでもないのだろう。しかし気にしていることを抉ってくる幼女だ…

 「しかし妹より小さい兄とは…」

 「おい忍!それは本当のことだが言っていいことと悪いことがあるぞ!地味に来るものがあるんだからな」

 どうやらこの吸血鬼は僕をこの季節に海にダイブさせたいようだ。

 ダイブといえば吸血鬼というものは海、というか流水が駄目なんじゃなかったっけ。通常の吸血鬼の弱点というものはおおよそ弱点じゃないとまで言っていたことがあったが普通なら弱点とは言わないまでもなにかしらの恐怖心を抱いてもおかしくないだろうに。吸血鬼体質なだけの僕はさておき生粋な吸血鬼である忍は水というものを全く恐れていないようだ。なんせ僕と一緒にお風呂に入るぐらいだし。流石は鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼といわれただけあるのだろうか。

 そんな馬鹿話をしているうちに電車はどうやら目的の冬木市に着いたようだ。僕は電車を降りると海へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

004

 

 

 

 

 

 駅から忍と手をつなぎながら少し歩いていくと冬木市の港にはたどり着いたのだった。たどり着いたのだったがそこには対照的なおっさんが二人。それだけではなく他でもない二人のおっさんによって険悪な空間が誕生していた。

 

 「フ、再びフィィィィィィッシュ!!!素晴らしい戦果だ、入れ食い状態ではないか!ところで後ろの男、今日いったいどれくらいフィッシュしている?」

 「うるせえ!テメェのせいで当たるモンも当たらねえんだよ!気が散るから他へ行け!」

 「負け惜しみを。君らしくもないな、しかしそんな貧乏装備では確かに君の言う通り当たるモンも当たらないというものだろう。はっはっは。ん?もうフィッシュか?これは…でかい!でかいぞ!!!」

 

 

 ………初めて海を見るというのだから少しは感傷的になりたい僕なのだったがどうやらシリアスに突入するのはこのおっさん二人のせいで当分無理そうなのだった。

 

 「……なあお前様よ現代人というものはあのように釣りをするのか?」

 

 「……いや、海釣りなんて知らないけど違うことは確かだ」

 

 忍にも理解不能だったらしく珍しく固まっている。かく言う僕も常識というものが音を立てて崩れていくのをただ呆然とおっさん二人を見ながら理解していた。

 

 「だー!もう興が乗らねえ。魚はかからねえし気に食わねえ野郎はいるわ今日の俺はついてねえな」

 「笑わせるなランサー。釣れないのならば方法を変えればいいだろう。もっとも石器人であるお前にその古臭い方法にか思い浮かばないのだろうが。ん?こんなことを言っている間にもあたりが!21匹目フィィィィッシュ!!!」

 

 ヒャッホーとまるで子供のようにはしゃいでいる男がいる。とても声が掛けづらいのだがこれ以上知らない大人の姿を見るのは僕にはできないのだった。

 

 「すみません、えーっと…そこの赤いジャケットの方、すこしいいですか」

 

 よくみれば上下ともにどこぞの釣り雑誌に載っているプロのアングラーを思わせる高級そうなブランド物のジャケットにこれまた高級そうなブランド物のロッド、そしてリールは電動操作付のやはり高級品。しかし趣味にそれだけお金を使えるなんて普段は相当なお金持ちなのだろう。……その男の人が使っている釣り具になぜか僕は既視感を感じた。つい最近片づけたような…。しかもつい最近に。なぜだろうか。

 

 「む?なんだ、そこの君。先ほどからどうやらこちらを見ていたようだが。もしかして君も釣りに興味があるのかね?」

 「あ、いえ。そういうわけではなく今まで海を見たことがなくてせっかく海のあるこの町に来たんだから海を一目見ていこうかなと」

 「ほう。何もないようなこんな町によくきた。ゆっくり観光してくといいさ」

 「ありがとうございます。これからこの近くでご飯を食べた後わくわくざぶーんというプールで遊ぼうと思って親戚の子供を連れてきたんですよ」

 忍を一瞥。

 「む、わくわくざぶーんか。今日は臨時貸し切りで一般人は入れないと聞いたが」

 

 そうだったのか。臨時貸し切りで今日は入れないのか。なんという不運。

 

 「そうなんですか…」

 「いやなに、心配することはない。その貸し切りをしているのは私の知り合いだからすこし言えば入らせてくれるだろうよ」

 

 この人はどうやらプールを一日貸し切りするほどの大物と知り合いだったりするのか。やはりただの人物ではなさそうだ。

 

 「いえ、折角のお誘いですけどわざわざ貸し切りにするのも理由があるのでしょうしそんなことはできませんよ」

 「フ、そこまで気に病むことはないぞ。かく言う私も追い出されたのだ。こんなところでこんなシケた男と二人っきりで釣りをするというのも不服だったのだ。楽園に戻る口実が欲しかったところだし遠慮せずともいいさ」

 「そういっていただけるならぜひお願いします」

 

 こういうのを捨てる神あれば拾う神あるというのだろうか。すこしニュアンスが違う気もするが。それはともあれこの町を訪れた本初の目的が達成できそうだ。

 

 「そうと決まれば善は急げだ。そういえば名前を聞いていなかったな。私は…アーチャーとでも呼んでくれ」

 「あ、僕は阿良々木暦といいます。そして…」

 「自分で挨拶ぐらいできるわ。儂は忍野忍じゃ。我が主様が世話になるようじゃの、アーチャーといったか?よろしく頼むぞ」

 

 忍はそう時代を感じさせるしゃべり方でアーチャーさんに失礼なことを言う忍なのだった。だが、大人なアーチャーさんはそれに気にした様子はなくただニコニコとするのみだった。

 




はい。二話です。来週テストあるのに私は何をしているんでしょうか。

誤字脱字や矛盾点など気になる点などありましたらご指摘下さい。それでは。

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